リヴァイに着いてこいと言われ俺は調査兵団本部へと立ち寄ることになった。地下街の湿った石畳しか知らなかった俺にとって、その建物はやけに整然として見えた。だが、眩しさに気圧されるようなことはなかった。――俺に必要なのは、生き延びる場所だけだ。
扉を開けると、中には金髪碧眼の男が待っていた。椅子に腰かけ、こちらを静かに見据えている。背筋の伸びた姿勢は威圧的ですらあった。
「……エルヴィン」
リヴァイが短く呼びかける。
「君が例の少年か」
穏やかな声が返る。
俺は無言で頷いた。視線を逸らさずに男の目を見返す。地下街で生き延びるために覚えた癖だ。目を逸らせば舐められ、奪われる。
「名前は?」
「……ルカ・クロイツ」
「歳は?」
「十二」
エルヴィンは少しだけ目を細め、机の上の書類に視線を落とした。リヴァイが報告していたのだろう。俺の年齢、素性、そして立体機動装置を扱えることも。
「立体機動を盗んで練習していたそうだな。独学で、しかも憲兵団を撒いたと」
「……だから何だ」
思わず口に出していた。賞賛でも非難でも、他人の評価には興味がない。
だがエルヴィンは表情を崩さなかった。むしろ微かに口元が緩んだように見えた。
「生きるために力を使う。それは当然だ。しかし――その力を、より大きな目的のために使う気はないか?」
「大きな目的……?」
「我々調査兵団は、壁の外を目指している。巨人の恐怖に閉じ込められた人類を解放するために」
俺は黙った。巨人、人類、解放――そんな大仰な言葉には何の実感も湧かない。俺が欲しいのはただ、生き延びるための術だ。
「……興味は?」と、エルヴィンが重ねて問う。
俺はほんの一瞬だけ、リヴァイを見た。無表情で立つその背中が、地下街の誰よりも強く、冷たく、そして自由に見えた。
「……壁の外を見てみたい」
エルヴィンの目がわずかに光を増した。
「それで十分だ。君には訓練兵団に入る機会を与えよう。その上で選ぶといい。どこで戦うかを」
「ふん、上出来だろ。拾った甲斐があった」
リヴァイが口の端をわずかに上げた。
その言葉が、なぜか俺の胸に強く残った。
───
団長室を出ると、廊下には静寂が落ちていた。
リヴァイは歩調を緩めずに前を行く。俺は半歩後ろをついて歩いた。
「……お前、俺に似てるな」
突然の言葉に思わず足を止める。
リヴァイは振り返らないまま、淡々と続けた。
「目つきも、考え方も、全部が生き延びるために研ぎ澄まされてやがる。……地下に長く居りゃそうなる」
「……地下の出か」
俺が問うと、リヴァイはわずかに横目だけをよこした。
「ああ。そこから出てきた。だから分かる。あそこで生きるってのは、常に誰かの喉笛に牙を立てる準備をしてるってことだ」
その言葉に、俺の胸が妙にざわついた。リヴァイは俺の過去を見透かしている。そう思った。
「……だったら、どうして調査兵団なんかに? あんたほどの腕があれば、もっと楽に生きられるだろ」
リヴァイは短く鼻で笑った。
「楽? 壁の中で腐って死ぬのが楽か? ……外に出なきゃ、何も変わらねぇ」
「……」
「それに、あいつには妙な力がある。言葉ひとつで人を動かす。……俺はそれを確かめてみたかった」
リヴァイの声には、珍しく人間臭さが混じっていた。
俺は黙ってその背中を見つめる。冷酷で、無駄がなく、それでいてどこか俺と同じ孤独を背負っているように見えた。
「……お前もいずれ選ぶことになる。地下で牙を剥き続けるか、外に出るか」
リヴァイがそう言った時、ようやく振り返り、俺の目を真正面から捉えた。
「どっちを選ぼうが勝手だ。ただし――生き残れ。それが一番の正義だ」
その言葉は、地下で生き延びるために牙を研いできた俺に、妙にしっくりきた。
俺は小さくうなずいた。
――この男と同じように、俺も外を目指す。
そう心に決めた瞬間だった。
ルカの卒業順位は何位がいい?
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堂々の首席
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ミカサと僅差で2位
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同率1位