影なき刃   作:洟魔

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今回は少し短いです

後、お気に入り登録者数が500人を超えましたのでseason1が終わった後に閑話をあげたいと思います


壁外調査④

 

 ───ルカside

 

 俺はそのまま女型へ向かって跳び上がった。

 風を裂きながら距離を詰めつつ、低く声を投げる。

 

「おい、一度捕まったやつが随分とはしゃぎやがって……あまり調子に乗るなよ?」

 

 その言葉に反応したのか、女型がすぐさま左のストレートを放ってくる。

 速い。だが、見えている。

 

 俺は身体をひねってその拳を紙一重で躱し、すれ違いざまに逆刃で左腕へ斬撃を叩き込んだ。

 肩口から肘、肘から前腕へ。

 連続で肉を削ぎ、筋を断ち、蒸気を上げさせる。

 

「ッ――!」

 

 女型の左腕が力を失い、そのままだらりと垂れ下がる。

 

 止まらない。

 俺はすぐにワイヤーを撃ち直して上へ抜け、そのまま反転。

 落下の勢いをそのまま乗せて、今度は右肩へ刃を走らせた。

 

 肩から腕へ、一直線。

 肉を裂き、筋肉を削ぎ、骨に沿って抉るように切り刻む。

 

 女型が大きくよろめく。

 これで両腕は使い物にならない。

 

 俺は一瞬だけ周囲を見渡し、オルオの姿を捉えた。

 

「オルオ! ボケっとしてんじゃねぇ! カウント5で目だ! 合わせろ!」

 

「……ッ! クソ生意気なッ……合わせてやるよ!」

 

 上等だ。

 俺は一度距離を取る。

 女型の呼吸、肩の揺れ、残った片目の動き、再生の速度――全部を見ながら、頭の中で秒を刻む。

 

(……1、2、3、4――)

 

 5。

 

 その瞬間、俺は女型の顔面へ一直線に飛び込んだ。

 刃を捻り込み、片目を潰す。

 

 ほぼ同時に、反対側から飛び込んだオルオの刃も、もう片方の目を切り裂いていた。

 

 女型が絶叫する。

 視界は奪った。

 

 俺はそのまま下へ回り込み、膝裏へと潜る。

 両足の腱へ、左右ほぼ同時に斬撃を入れた。

 

 肉が裂け、筋が切れ、巨体が揺れる。

 支えを失った女型はその場で膝をつき、ついに機動力を失った。

 

(これで動けねぇ)

 

 うなじも狙える位置だ。

 だが――あの硬質化がある以上、闇雲に斬っても刃を無駄にするだけだ。

 今はここで退くべきだ。体勢を立て直して――

 

 そう判断して後ろへ下がろうとした、その時だった。

 

「おい新兵! 見とけよ、この俺様が女型を仕留めるところを!」

 

 オルオがそう叫びながら、うなじを狙って飛び込んでいく。

 

「待て、オルオ――!」

 

 言い切るより早く、あいつの身体は女型の背後へと差しかかっていた。

 

「チッ……」

 

 俺は舌打ちしながら、すぐにオルオの元へ向かう。

 だが――間に合わない。

 

 オルオはそのまま刃をうなじへ叩きつけ、切り裂こうとした。

 ……が。

 

 パリィィィィィン!! 

 

 甲高い音が森に響き渡る。

 例の水晶に覆われたうなじには切り傷ひとつ付かず、代わりにオルオの刃が粉々に砕け散った。

 

「ッ! なんで……刃が通らねぇ」

 

 オルオが呆然と目を見開く。

 その一瞬が致命的だった。

 

「早くそこから離れろ!」

 

 俺は叫ぶ。

 だが、遅い。

 

 さっきまで動けなかったはずの女型が、まだ使えないはずの左腕を無理やり持ち上げ――

 オルオのいるうなじめがけて、拳を振り下ろした。

 

「――ッ!!」

 

 俺はガスを限界まで吹かし、一気に飛び込む。

 オルオの腕を掴み、強引に軌道を変えて引き剥がす。

 

 間に合え――! 

 

 そう思ったが、わずかに遅かった。

 

 拳の直撃は避けられた。

 だが、完全には逃がしきれない。

 

 鈍い音とともに、オルオの左足――膝から下が、女型の拳に巻き込まれて潰れた。

 

「――〜〜〜〜ッ!!」

 

 オルオの絶叫が森に響いた。

 

「クソッ! ……」

 

 悪態をつきながら、俺は女型から一気に距離を取った。

 引っ張ってきたオルオを確認すると、痛覚の限界を超えたのか、すでに気を失っている。

 

(……最悪だ)

 

 視線を女型へ戻す。

 さっき無理やり動かした左腕は、もう動いている。

 だが、それ以外の部位はまだ蒸気を上げたまま――再生の途中だ。

 

(何で左腕だけ、こんなに再生が早ぇ……?)

 

 違和感が胸に引っかかる。

 観察しながら答えを探ろうとした、その時――

 

 遅れてエレンが飛び込んできた。

 

 顔を怒りで歪め、目はもう完全に理性を失いかけている。

 そして、ためらいなく手を口元へ運んだ。

 

「エレン! やめ――」

 

 止めるために声を張り上げる。

 だが、それより早く――

 

「こいつを……殺すッ!!」

 

 エレンは自分の手を噛み切った。

 

 次の瞬間、雷鳴のような轟音と蒸気が森を裂く。

 光の中心から、巨人となったエレンが現れた。

 

「おおおおおおおおおお!!!!」

 

 雄叫びを上げながら、エレンはそのまま一直線に女型へ突っ込んでいく。

 

「あの、バカッ……!」

 

 思わず吐き捨てる。

 胸の奥が一気に冷えた。

 

「お前が捕まったら全部が台無しなんだぞッ……クソ!」

 

 叫びながら、俺はオルオを木の根元へ引きずって寄せる。

 今はこいつを安全圏に置くしかない。

 その間にも、巨人化したエレンと女型が激突しようとしていた。

 

(チッ……こうなったら、やれるだけやるか)

 

 俺は舌打ちし、刃を握り直した。

 最悪の形だが――それでも、エレンを奪わせるわけにはいかない。

 

 その間にも巨人化したエレンが、座り込んだ女型に殴りかかっる――その瞬間

 女型の右脚の傷が、目に見えて急速に再生する。

 

 次の瞬間、女型はその脚で地面を蹴り――後ろへ飛び上がることで、エレンの拳を回避した。

 避けられたエレンは勢いを殺しきれず、そのまま大樹へと突っ込む。

 

 轟音。

 木の幹が大きく揺れ、葉が一斉に舞った。

 

「今の再生……そういう事か」

 

 俺は目を細めた。

 女型の右脚の再生速度が跳ね上がった、その瞬間――他の部位の再生が止まっていた。

 

 左腕も、肩周りも、さっきまで蒸気を上げていた部分がぴたりと変化を止めている。

 

「1箇所を優先すれば普通より早く再生するって事か……そしてその間、他の部位の再生は止まる」

 

 口に出しながら、頭の中で情報を繋げていく。

 あの硬質化、再生の偏り、そしてこの判断速度。

 

「エレンと同じ、巨人化できる人間だからこそできる芸当ってわけか」

 

 同じ巨人化能力者でも、エレンとは違う。

 肉体の使い方を“理解してる”。

 

 厄介極まりないが、逆に言えば隙はある。

 どこか一つを優先させれば、他は止まる。

 完全無欠じゃない。

 

 幸い、さっき俺が刻んだ傷もまだ再生しきっていない。

 このまま俺がエレンの補佐に回れば、少なくとも戦況はこっちに傾けられる。

 

 だが――

 

 俺は一瞬だけ装備に目を落とした。

 ガスはもう半分以下。

 刃も残り二対しかない。

 

(……心許ねぇな)

 

 この状態で巨人相手の戦闘補佐に入るのは、正直賭けに近い。

 中途半端に飛び込めば、エレンの足を引っ張るだけになる可能性もある。

 

 それに――

 

 俺は視線をずらし、樹の根元に倒れているペトラとオルオを見た。

 ペトラは気絶している。オルオも意識がない。

 この二人は、今は完全に無防備だ。

 

(ここは壁外だ……)

 

 女型の影響で、今この場には他の巨人はいない。

 だが、それがいつまで続く? 

 さっきみたいに、またどこから巨人が集まってくるか分からない。

 そんな状況でこの二人が襲われたら――助けた意味がない。

 

 俺が迷っている間にも、前方ではエレンと女型の戦いが続いていた。

 殴打音。木が折れる音。巨人の咆哮。

 その音が徐々に遠ざかっていく。

 

(チッ……離れていきやがる)

 

 追えば、エレンを助けられるかもしれない。

 残れば、ペトラとオルオは守れる。

 どっちも中途半端じゃ駄目だ。

 

 俺は奥歯を噛みしめた。

 

(どうする……?)

 

 そう考えていると、頭上の枝がわずかに揺れた。

 次の瞬間、ひとつの影が音もなく降り立つ。

 

「おい」

 

 声のした方へ振り向く。

 そこにいたのは、リヴァイだった。

 

「リヴァイか……」

 

「状況はどうなっていやがる」

 

 短く問われ、俺も簡潔に答えた。

 グンタとエルドが殺されたこと。

 ペトラとオルオは助けられたが気絶していること。

 そして、エレンが巨人化し、女型を追って森の奥で戦っていること。

 必要なことだけを、順に。

 

「そうか……」

 

 リヴァイはそれだけ言うと、俺の肩に手を置いた。

 その手はいつも通り軽いのに、妙に重く感じた。

 

「……良くやった。あの時、お前が一足先に駆けつけたおかげで今の現実がある……あいつらを助けた事についても礼を言う……ありがとう」

 

「……ああ」

 

 礼を言われた瞬間、胸の奥が少し熱くなる。

 認められた、なんて言うとガキみてぇだが……実際、少し嬉しかった。

 けど、今はそれに浸ってる場合じゃない。

 

 俺は気持ちを切り替え、口を開く。

 

「リヴァイ……俺はあの2人を連れて調査兵団の本隊に合流する。お前はエレンを頼む」

 

「分かった……2人を頼む」

 

「ああ、任せろ。土産は女型の本体を希望しとく」

 

 そう言うと、リヴァイがほんのわずかに口元を緩めた。

 

「ふっ、良いだろう。期待して待ってろ」

 

 その一言を残して、リヴァイはすぐにエレンの方角へと飛んでいく。

 迷いのない軌道。あいつが行くなら、エレンの方は何とかなるだろう。

 

 俺はペトラとオルオの元へ向かおうとして――途中で足を止めた。

 

 視線の先には、エルドがいる。

 

 身体は噛みちぎられ、瞳はもう何も映していない。

 さっきまであんなに冷静に指示を飛ばしていた男が、今はただそこに横たわっているだけだった。

 

 俺はゆっくりと近づく。

 そして、伸ばした手でエルドのまぶたを閉じた。

 

 次に、胸元の“翼の紋章”へ目を向ける。

 懐からナイフを取り出し、それを切り取ると、自分の懐へしまった。

 

「……お前の生きた証は、俺が持っていく。だから眠れ」

 

 小さくそう言い残し、俺は背を向けた

 

 俺は改めてペトラとオルオを見る。

 二人ともぐったりしているが、呼吸はある。

 まだ終わってない。なら、運ぶ。

 

 ペトラを片側に、オルオをもう片側に抱え直し、立体機動装置を起動する。

 さすがに二人分の重みはきつい。ガスも残り少ない。

 だからこそ、無理はしない。

 

「……ゆっくりでいい。生きて戻りゃ、それでいい」

 

 誰に言うでもなく呟いて、俺は木の幹へワイヤーを撃ち込んだ。

 勢いを抑えながら、一歩ずつ、一枝ずつ、本隊のいる方へ進んでいく。

 

 背後では、まだ遠くで巨人同士のぶつかり合う音が響いていた。

 エレンと女型。

 そして、そこへ向かったリヴァイ。

 

(任せたぞ)

 

 胸の内でそう呟きながら、俺は二人を抱えて巨大樹の森を抜けていった。

ヒロインは誰がいい?

  • クリスタ(ヒストリア)
  • アニ
  • ペトラ
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