今回は中々面白いのが出来たと思ってるのでぜひお楽しみに!
───ルカside
ペトラとオルオを抱えたまま、俺は何とか巨大樹の森を抜けた。
ガスの残量はほとんど底をつきかけていたが、どうにか本隊と合流することができた。
俺の姿に気づいた兵士たちがすぐ駆け寄ってくる。
そいつらに二人を預けると、俺は息を整える暇もなくエルヴィンの元へ向かった。
エルヴィンは近くの兵士と何か話していたが、俺に気づくとそいつへ短く指示を出して下がらせた。
「団長……今いいか?」
「ルカか……ああ、良いだろう」
俺はそのままエルヴィンの前まで歩み寄る。
まだ胸の奥では戦闘の熱が燻っていたが、今伝えるべきことは明確だった。
「それで、どうしたんだ?」
「女型の能力について、新しい報告だ」
エルヴィンの片眉がわずかに上がる。
「ほう……聞かせてもらおうか」
「ああ……」
俺は短く息を吐いてから、女型と戦って気づいたことを順に話し始めた。
「まず、あいつは複数箇所を損傷していても、任意で一箇所だけ異常な速さで再生できる」
エルヴィンは黙って聞いている。
俺は続けた。
「その代わり、そっちを優先してる間は、他の部位の再生が完全に止まる。実際に見た。右脚を急速に再生した時、肩や腕の再生は止まってた」
俺の言葉に、エルヴィンの目がわずかに鋭くなる。
「なるほど……優先再生、というわけか」
「ああ。全部を均等に治してるわけじゃない。意識して一箇所に集中させてる。だから再生が速い代わりに、他が止まる」
そこまで言って、俺はエルヴィンをまっすぐ見た。
「つまり、あいつは自分の身体の使い方を理解してる。エレンと同じ、巨人化できる人間だからこそできる芸当だと思う」
言い切ると、エルヴィンは小さく頷いた。
その表情には驚きよりも、確信が一つ増えた時の静かな重みがあった。
「ありがとう。ルカ……これで我々はまた一歩、前に踏み出せた」
「そりゃ、伝えたかいがあったな」
俺は素っ気なくそう返して、その場を離れようとした。
だが――ふと、あの時のことが頭をよぎる。
足を止め、もう一度だけ振り返った。
「なぁ、エルヴィン」
エルヴィンは黙って俺を見る。
「お前は何であの時、俺を行かせてくれたんだ? リヴァイに命令までして」
あの時、エルヴィンの命令がなければ、リヴァイはあそこまで素直にガスと刃の交換に応じなかったはずだ。
俺が何を考えていたのか。何をしようとしていたのか。
こいつは、どこまで読んでいた?
するとエルヴィンは、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。
「君が私と同じ考えだと思ったからだ」
静かな声だった。
「女型の本体が生きており、エレンを狙っている……とね。だから君は、リヴァイに頼んでまで急いでいたのだろう?」
俺は一瞬、言葉を失った。
やっぱり、この男には見抜かれていたらしい。
「……そうか」
小さく息を吐く。
「全部お見通しってわけか」
だが、不思議と悪い気はしなかった。
むしろ――少しだけ、肩の力が抜ける。
「あんたのその命令で、俺は悔いのない選択ができた」
俺はそう言って、真っ直ぐにエルヴィンを見た。
「……礼を言う」
それだけ言い残し、俺は今度こそその場を後にした。
エルヴィンと別れたあと、俺はペトラとオルオの様子を見に向かった。
だが、その道中――嫌でも目に入る。
荷台に次々と積まれていく、調査兵団の死者たち。
動かなくなった腕。血に濡れたマント。見慣れた“翼の紋章”が、泥と血で汚れている。
俺は思わず小さく舌打ちした。
「チッ……あのクソ女型」
胸の奥がまたざらつく。
少し苛立ちを抱えたまま、二人が寝かされている荷台へとたどり着いた。
ペトラはすでに目を覚ましていた。
俺に気づくと、小さく手招きしてくる。
「起きたのか」
「うん、ついさっきね……でも、オルオが」
そう言われて視線を向ける。
オルオはまだ眠って――いや、気を失っているだけか。
失った片足には包帯が巻かれ、額には大量の汗が浮いている。時折、小さく呻き声まで漏れていた。
片足を失ったんだ。
痛みが消えるはずもない。
俺は荷台の縁に手をかけ、しばらく無言でそいつを見下ろした。
「……生きてるだけマシだ」
口から出たのは、そんな言葉だった。
慰めにもなりゃしないが、今はそれしか言えない。
ペトラは少しだけ目を伏せる。
「うん……そうだね」
その返事は静かだった。
けど、どこか強がっているようにも聞こえた。
しばらく互いに黙ったまま、荷台の上のオルオを見ていた。
時折漏れる呻き声と、遠くで聞こえる兵士たちの声だけが耳に入る。
やがて、ペトラがぽつりと口を開いた。
「……ルカ、ごめんね」
「……は?」
思わず眉をひそめる。
ペトラは俺から少し目を逸らしながら、どこか落ち込んだように続けた。
「足を引っ張っちゃって。全然……先輩らしくなかったよね」
その声は小さかった。
いつもの明るさが薄れていて、聞いているこっちまで妙な気分になる。
俺は呆れたように息を吐いた。
「何謝ってんだ……今回は相手が悪すぎた……」
ペトラが少しだけ目を瞬かせる。
俺はそのまま続けた。
「あいつ以外の巨人なら、あの連携で仕留められてただろうよ」
その言葉に、ペトラはゆっくり顔を上げた。
少しして、ふっと笑う。
「……もしかして、慰めてくれてるの?」
「事実を言っただけだ……」
俺は肩をすくめる。
「いつまでも辛気臭ぇ顔されても嫌だからな」
ペトラはその返しに、小さく目を細めた。
そして、何を思ったのか、手を伸ばしてきて――俺の頭を撫で始める。
「ホント、ルカって素直じゃないよね……」
「……だから、慰めたつもりじゃねぇし、弟扱いもやめろ」
そう言いながらも、ペトラはまるで聞いていないみたいに手を止めない。
むしろ、さっきより笑顔になっている。
「はいはい」
「……はぁ、もう好きにしろ」
投げやりにそう言って、俺は結局そのままにした。
強く手を払いのけることもできたはずなのに、それをしない自分に気づく。
……心地いい、とまでは認めたくない。
けど、嫌じゃないのは事実だった。
そのことに、自分でもよく分からない敗北感を覚えて、俺は小さく舌打ちした。
「チッ……」
そんな俺を見て、ペトラはまた少しだけ笑った。
俺たちがそんなふうにしていると、不意にオルオの身体がぴくりと動いた。
「ッ!……ここは」
まだ意識ははっきりしていないらしいが、どうやら目は覚めたようだ。
ペトラも俺の頭から手を離し、すぐにオルオの方へ身を乗り出した。
「ッ! お目覚めのようね……オルオ」
「……ペトラか。それに新兵まで……ここは?」
「誰が新兵だ……ここは荷台の上だ。今は壁内に戻ってる道中だ」
そう言うと、オルオはしばらくぼんやりと天井代わりの空を見ていた。
だが次の瞬間、何かを思い出したのか、顔を歪めて身体を起こそうとする。
「ッ……エルドは!? 女型はどうした――」
「動くな、バカ」
俺は肩を押さえて無理やり寝かせた。
するとオルオは舌打ちしながら俺を睨む。
「てめぇ……何しやがる」
「今のお前が暴れたら傷口が開くだろうが」
ペトラも困ったように眉を下げる。
「オルオ……落ち着いて。まだ安静にしてないとダメ」
それでもオルオは納得いかない顔で、荒い息を吐きながら視線を下へ落とした。
そして、自分の左足の先がないことに気づく。
「……ッ」
その一瞬、表情が固まった。
だが、叫びもしない。ただ、唇を強く噛み締めている。
俺はその顔を見ながら、短く言った。
「命があるだけマシだ」
「……偉そうに言ってんじゃねぇ」
吐き捨てるように返してくる。
けど、その声にはいつもの張りがなかった。
「でも、そうね……ルカがいなかったら、オルオも私も今ここにはいなかった」
ペトラが静かに言うと、オルオは少しだけ目を見開いた。
それから、俺の方へ視線を向ける。
「……お前が?」
「ああ。ついでに言っとくと、その足を潰されたのはお前がボケっとしてたからだ。俺のせいじゃねぇ」
「んだと……!?」
オルオが顔を赤くして怒鳴りかける。
その反応を見て、逆に少し安心した。これだけ言い返す元気があるなら、まだ平気だ。
ペトラは呆れたようにため息をつきながらも、どこか安堵した顔をしていた。
「もう……2人とも起きたばっかりで喧嘩しないの」
「喧嘩じゃねぇ、教育だ」
「誰がされる側だコラ……!」
オルオがそう言い返したところで、痛みがぶり返したのか顔をしかめて再び荷台に沈み込む。
沈み込んだオルオに、ペトラが少し身を乗り出して言った。
「オルオ、ちゃんとルカにお礼言わなきゃ。命の恩人なんだから」
「ッ! お礼だと!? 何でこの俺様が新兵なんかに……」
オルオはあからさまに嫌そうな顔をする。
だが――
「……オルオ?」
ペトラが、やけに冷たい声で名前を呼んだ。
その一言に、荷台の空気がぴたりと固まる。
あまりの冷たさに、俺は思わず身構えかけた。
(……今のはちょっと怖ぇな)
オルオもそれは感じたらしい。顔を引きつらせ、しばらく黙ったあとで、盛大に舌打ちした。
「……チッ……今、生きてるのはお前のおかげだ……そこだけ感謝してやる。……だが、お前を認めたわけじゃないからな! 勘違いすんなよ! 分かったか新兵!」
とりあえず形だけは礼を言ってきた、という感じだった。
それにペトラは呆れたようにため息をつく。
「全く……素直に“助けてくれてありがとう”って言えばいいのに……」
それから、今度は俺の方を見て、柔らかく微笑んだ。
「ルカ、ごめんね? 私からもお礼を言わせて。オルオを助けてくれてありがとう」
そんなふうに正面から感謝の言葉を向けられたのは、たぶん初めてだった。
どう返せばいいのか分からなくなって、思わず目を逸らす。
「……ああ」
口から出たのは、それだけだった。
我ながら愛想がない。
だが、その反応が何か面白かったのか、ペトラはくすっと笑うと、また手を伸ばしてきて――俺の頭を撫で始めた。
「ふふ、ルカ照れてるの? 可愛い」
「別に照れてなんてない……戸惑っただけだ」
苦し紛れにそう返すが、ペトラは「はいはい」とでも言いたげに、まるで気にせず撫で続けてくる。
もう反論するのも面倒になって、俺は半分諦めてされるがままになった。
すると――
「てめぇ! 新兵!! ペトラに何撫でられてんだ! 羨ましい!」
オルオが指を差しながら叫んできた。
「……は?」
思わず低い声が出る。
何を言い出すのかと思えば。
「お前、足潰れて寝てるくせに元気だな」
「元気じゃねぇ! だがそれとこれとは話が別だ!!」
「別でも何でもねぇだろ……」
俺が呆れて言うと、オルオは悔しそうに歯を食いしばったまま、まだ俺を睨んでいる。
俺は、まだこっちを睨み続けているオルオを見て、小さく鼻を鳴らした。
「……だったら代わるか?」
そう言ってやると、さっきまで悔しそうに歯を食いしばっていたオルオの表情が一変した。
目を見開き、あからさまに輝かせている。
(……そんなに代わりたいのかよ)
呆れながらも、まあこれで静かになるならいいかと思って動こうとした――が。
「交代はだめ」
ぴしゃり、とペトラに止められた。
俺が振り向くと、ペトラは平然とした顔で俺の頭を撫でたまま続ける。
「私が撫でたいのは、オルオじゃなくてルカなんだから」
「……は?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
思考が止まる。
オルオの方はというと――
「なっ……!? な、ななな……何だとォォォ!?」
今度は完全に絶叫していた。
足を失っているくせに、妙に元気だ。
俺はペトラの手とオルオの顔を見比べながら、ただ一つだけ思った。
(……面倒くせぇ)
けど、その割に頭から伝わる温もりを払いのける気にもなれなくて、余計に居心地が悪かった。
オルオはというと、まだ信じられないものでも見るような目でこっちを指差している。
「て、てめぇ新兵……! 何でそんな当然みてぇな顔してやがる!!」
「してねぇよ……」
「してる!! 俺には見える!! ペトラに撫でられて調子に乗ってる顔が!!」
「幻覚だろ、それは」
俺が即座に返すと、ペトラは肩を震わせて笑い始めた。
その笑い声を聞いて、オルオはますます不満そうに顔をしかめる。
その時、不意にリヴァイとエレンのことを思い出した。
……ついでに、土産の“女型の本体”も気になる。
(行ってみるか……)
そう思い、俺はペトラの手をそっと頭から離した。
「エレンとリヴァイに会ってくる。ペトラはそこの嫉妬野郎の面倒見てやれ。じゃあな」
そう言い残して、俺は荷台から飛び降りた。
背後ではすぐに、
「誰が嫉妬野郎だコラァ!!」
とオルオの怒鳴り声が飛んでくるが、聞こえないふりをする。
俺はそのまま歩き出した。
season1も、後数話で終わりそうなので頑張ります!
ヒロインは誰がいい?
-
クリスタ(ヒストリア)
-
アニ
-
ペトラ