影なき刃   作:洟魔

4 / 20


アンケート回答ありがとうございます!!
合計約50人程投票された時に1番多かったものを採用させて頂きます!!(現在35名ほど)


適正検査

 

翌朝。

訓練場に集められた俺たち新兵は、木の柱を中心に張り巡らされたロープを見上げていた。

 

「まずは貴様らの適性を見る! 腰の両側のベルトにロープを繋げ! 宙にぶら下がり、全身でバランスを取れ! できねぇ奴は巨人の囮にもならん! 開拓地に移ってもらう!」

 

キース教官の怒声が空気を震わせる。

 

ロープに吊り上げられた新兵たちは、次々に体を揺らしながらも必死に体勢を保っていた。

派手に地面へ叩きつけられるような奴はいない。皆、ぎりぎりのところで踏みとどまり、時間が経つごとに汗と歯ぎしりが響いた。

 

(……こんなので落ちる奴いるのか?)

 

それでも、誰もが危うい均衡に必死で縋りついている。

バランスを取っている、というよりは転げ落ちないように耐えている――そういう印象だ。

 

俺の番が来た。

 

「次! ルカ・クロイツ!」

 

名を呼ばれ、腰にロープを繋がれる。

合図と同時に体が宙に浮く。

 

瞬間、重心の揺れが全身を襲った。だが、恐怖はなかった。

地下街の崩れかけた梁や濡れた鉄骨の上で、俺は何度も体を支え、走り抜けてきた。

あの時と比べれば、吊られる程度は遊び同然だ。

 

腹の奥で揺れを殺し、背中で支点を整える。

わずかに身体をひねれば――すぐに静止。

 

俺は柱の下で、宙づりのまま微動だにしなかった。

 

しばし沈黙。

見ていた新兵たちが小さくざわめく。

周囲と比べて、あまりにも揺れが少なすぎる。

 

「……問題なし」

キース教官は一言だけ残し、次へ進んだ。

 

その後、列の中から呼ばれたのはミカサ・アッカーマン。

彼女もまた、俺と同じようにほとんど揺れずに宙に浮かび、淡々と静止したままだった。

その光景に新兵たちのざわめきが大きくなる。

 

(……なるほど。あれが“天性”ってやつか)

 

俺は無表情のまま目を細める。

結局、この検査で浮き彫りになるのは“素質”だ。

俺やあの女みたいな一握りと、それ以外の凡人との差。

 

訓練は続き、皆がどうにか課題をこなしていった。

脱落者は出なかった。だが――俺の目には、限界ぎりぎりで耐える凡人の群れと、揺るぎないわずかな存在、その差があまりに鮮明に映っていた。

 

 

俺の検査が終わり、列の後ろにいるとクリスタとユミルが近寄ってきた。

 

「ルカ、さっき全然揺れてなかったよね。まるで体が装置に馴染んでるみたいだった」

クリスタが小さく笑って言う。その声音には純粋な尊敬が滲んでいた。

 

ユミルは腕を組み、俺と遠くにいるミカサを交互に見やって鼻を鳴らす。

「ちっ……お前とあの東洋女は別格だな。他の奴らは必死に耐えてたのに、ピクリとも揺れねぇ。正直、気味が悪いくらいだ」

 

2人が俺に向かって話しかけていると──

 

「何をやってるエレン・イェーガー!! 上体を起こせ!!」

 

教官の怒声が飛んだ。

見ると、エレンは腰を支点にぐるりと回転し、上下逆さまの状態でぶら下がっていた。

本人も状況が掴めていないらしく、顔を真っ赤にしたまま茫然と宙を漂っている。

 

「ぶははは! なんだよあいつ、へったくそだな!」

ユミルが腹を抱えて笑い出す。

 

「ちょ、ちょっとユミル! 笑っちゃだめだよ!」

慌てた声で制したのはクリスタだ。

 

けれど、ユミルの他にも肩を震わせて笑っている奴や、唇を噛んで堪えている奴が何人もいた。

 

俺は無言で見ていたが違和感を感じていた。

(……やっぱりおかしいな。素質以前の問題だ。装置か装着の仕方に不具合があるんじゃないのか?)

 

結局、この日の訓練でエレンが課題をクリアすることはなかった。

 

----

その日の夕方。

 

「ルカ、だったよな! すげぇうまいって聞いたぞ! なんかコツとか無いか!?」

包帯を巻いた頭を抱えながら、エレンが俺に詰め寄る。

 

俺は淡々と返す。

「……コツ?強いて言うなら、前後に体重をかけ過ぎないこと、くらいだ」

 

「それが上手くいかねぇんだよ……あ”ー、どうすれば!」

エレンは頭を抱えて唸り、アルミンは不安そうに眉を寄せる。

 

俺は肩をすくめた。

「あの黒髪の女……ミカサって言ったか? そいつには聞いたのか?」

 

「ミカサにはもう教えてもらったんだよ……それでも無理だった!」

苛立ちと焦りをにじませた声が返る。

 

「なら俺に出来ることはねぇな。あの女で駄目なら、俺が口で説明したところで変わらん」

冷たく言い捨てると、エレンが悔しそうに唇を噛んだ。

 

ちょうどその時、ライナーとベルトルトが現れる。

「お前ら、何をしてる?」

 

エレンが飛びつくように声を上げた。

「ライナー! ベルトルト! お前らすげぇ上手かっただろ! なぁ、なんかコツとかねぇのか!?」

 

ライナーは少し困ったように笑みを浮かべて答える。

「すまんが、ぶら下がるのにコツがいるとは思えん。期待するような助言は出来そうにないな」

 

「そうか……」

エレンは俯き、肩を落とす。

 

すかさずアルミンが言葉をかけた。

「大丈夫だよ、エレン。明日にかけるしかないんだ」

 

その様子を見て、俺はふと口を開いた。

「……おそらく、昨日のお前の装備に不備があったんだろ。動きが少し変だった」

 

エレンがはっと顔を上げる。

「不備……?」

 

「まあ、気にするな」

それだけ言い残し、俺はその場を離れた。

 

(……助けたわけじゃない。あいつがここで潰れたら、使える駒が減るだけだ。俺にとって何の得にもならねぇ。

結局これは……俺自身のためだ)

 

そう心の中で吐き捨てながら、足を速めた。

 

----

翌日。

エレンの再挑戦が始まった。

 

周囲の新兵たちが固唾を飲んで見守る中、エレンの身体がゆっくりと吊り上げられ、一定の高さで止まる。

必死に体勢を整え、揺れながらもどうにかバランスを保っていた。

 

(……昨日とは違うな)

俺は腕を組みながら、わずかに目を細める。

 

だが――それも束の間だった。

 

「ぐっ……く、うわぁっ!」

 

体重が後ろへと傾き、エレンの体がぐるりと回転。

あっという間に頭が下に向き、逆さまに吊られてしまう。

 

「降ろせ」

 

低い声でキース教官が命じる。

装置が緩み、エレンは地面に膝をついた。顔色は青白く、歯を食いしばっている。

 

「俺はっ……!」

 

悔しげに唸るエレンを一瞥し、キースは補助に付いていたトーマスへ視線を送った。

 

「ワグナー。イェーガーとベルトを交換しろ」

 

「は?……はっ!」

 

指示の意図を掴みきれないまま、トーマスとエレンはベルトを交換する。

そして再び試験が始まると――今度はエレンの身体は安定して静止していた。

 

「装備の欠陥だ。……ここが壊れるなど聞いたことがないが、新たに整備項目に加える必要があるな」

 

「と、ということは……!」

 

「合格だ。訓練に励め」

 

その言葉を聞いた瞬間、エレンは腕を突き上げて喜びを爆発させた。

周囲からも歓声が上がる。

 

(……潰れなかったか。まぁ、あの程度で終わるようなら“駒”としても失格だ)

心の中でそう呟き、俺は群衆から一歩引いてエレンを眺めた。

 

ルカの卒業順位は何位がいい?

  • 堂々の首席
  • ミカサと僅差で2位
  • 同率1位
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。