勇者が感覚遮断触手穴に落ち、脱出しようとするお話です。
頭空っぽにして見れるギャグ短編です。
エロくないです。

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勇者様が感覚遮断触手穴で堕ちたようです

 現在、勇者こと僕――オリオティス・ルフランは、人生でも指折りに数えられる窮地に陥っていた。

 

 正直なところ、文字に起こすのも躊躇われるほど悲惨な状況だが、もっと悲惨なのは|男()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――さぁ、これを見に来てくれたむっつりスケベどもよ。残念だったな! 現場は笑える状況じゃねぇけど!

 

「さ、これどうしようか」

 

 努めて平静を装った声を出すものの、心の中では焦りと絶望が綯い交ぜになってぐるぐる回っている。

 

 思えば事の始まりは些細だった。森の奥で、不自然にぽっかりと口を開けた直径一メートルほどの穴を見つけただけのこと。

 

 だが、その場にいたうちのポンコツ魔術師、ヴィリアは、なぜかその危険な穴を、あろうことか、全く気づかずにそのまま足を踏み出そうとしたのだ。

 

 もちろん僕は勇者候補。容姿端麗、次代を担う英雄、神に選ばれし者。その名に恥じぬよう、仲間を庇った。庇ったのだが――。

 

「オリオティス……本当にすまない」

「い、いや、いいさ。な、なぁヴィリア……これ僕、どうなっちゃうの?」

 

 問いかけた相手――ヴィリアは、不安げな顔で僕を見下ろしている。怒るなんてできるはずもない。

 

 この魔術師には、今まで幾度となく助けられてきた。仲間として、信頼もしている。そのくらいのことはと、思っていた矢先。

 

「媚薬を塗られ、精気という精気を全て根こそぎ奪い取られ、んで、なんやかんやあってドロドロになって死にます」

「うっわ! 超怖ええええええええぇぇぇぇぇぇ!」

 

 なんやかんやの部分を掘り下げて聞く勇気は一切なかった。

 

 というか、絶対に聞きたくない! 嫌でもロクでもない光景が想像できてしまう。

 

「転移魔法! 転移魔法は!?」

「魔素切れですね」

「クソ! 使えねぇ!」

 

 ポンコツヴィリアが心外そうな顔をするが、気にしている場合ではない。

 

 僕の貞操と命が懸かっているのだ。ていうか、貞操と命が同時に関わる場面てなんだ?

 

「安心してくださいオリオティス。そのうちノクトルかレーベルが帰ってきます。魔素を少し分けて貰えば転移魔法を使えるはずです」

 

 そう言って、彼女は親指をグッと立ててみせた。安心できねぇ……。

 

 と、そのときだった。地面を踏みしめる軽やかな足音が、森の奥から近づいてきた。

 

 そこには、黒衣を纏った少女がいた。魔王討伐メンバーの一人のノクトルだ。

 

 あぁ! ようやく感覚遮断触手穴から脱出できる!

 

「ふぅ、マジンが現れて魔素を全部使ってしまったわ」

「即落ち二コマ!」

 

 絶望に絶望が拍車をかける。

 

「……な、なにやってるの?」

 

 僕を変なものを見る目で睨む黒衣の少女――ノクトル。

 

「あぁ、これは――」

「マモノを使っての自慰中です。しかも私に見てほしいらしく、その特殊性癖に付き合――」

 

 ――スパァンッ!

 

 言葉よりも先に、僕の右手が動いた。手のひらでヴィリアの頭をぴしゃりと叩く。

 

「お前なに言ってんの!? そんな特殊性癖を僕は持っていないぞ!?」

 

 ノクトルはそんな僕達のやり取りをしばらく眺め、やがて深々とため息をついた。

 

「はぁ……今のやり取りで大体理解したわ。ヴィリアが何かやらかしたのね?」

 

 僕とヴィリアは、同時に小さく頷く。

 

 ノクトルは話をすぐに理解してくれて助かるなぁ……現状は何も変わっていないけど。

 

「とりあえず、力ずくで抜いてみましょうか」

 

 ノクトルが僕の目と鼻の先に来る。

 

 いつもは僕が上から見下ろす位置にいる彼女が、いまは真逆、見下ろされる立場。妙に新鮮だった。

 

 視線を逸らすと、チョコンと座るヴィリアが視界に映った。

 

 あいつ、僕が助けたんだよな? なんか、おかしくない?

 

「さぁ、引き抜――」

 

 ノクトルが腕を伸ばしかけた、その瞬間、地に這う虫と格闘していたヴィリアが顔を上げ、呑気に口を開いた。

 

 ――あいつ……何やってんの?

 

「そのまま引き抜くとオリオティスの〇ん〇んが全員の視界に入ってしまいますよー」

「お前要らないことばっかり言うんじゃねぇ!」

 

 服が消化されている可能性を提示しやがった。俺も考えないようにしてたのに。

 

 ピクリ、とノクトルの手が止まった。

 

「お、お前、まさか」

「し、仕方ないじゃない! 男の人の、その、そ、その! ち〇ち〇何て見たこともないのよ!?」

「いますぐ、俺の命とどっちが大事か比べろ! すぐ理解できるから!」

 

 僕の絶叫を受けて、ノクトルは深く悩んだように瞳を伏せる。何度も何度も逡巡し、その果てにようやく、僕を助ける決意をしたらしい。

 

 ち〇ち〇を見てしまうのと、僕の命が同程度なのは、一度棚上げにしておこう。

 

 そして、僕の両手を掴み、抜こうとし始めるノクトル。だが、

 

「ぬ、抜けないわね……っ」

 

 ノクトルが僕の体に引きちぎれそうなほど力を加えるが、一向にびくともしない体。

 

 たらりと、僕の額に汗が流れる。

 

「こ、これ本格的にまずいかもしれませんね」

 

 あ、あれ? これ、もしかして本当にまずいやつじゃないの?

 

 え、これ死因が感覚遮断触手穴とかになるのか? 

 

 せめて魔王関連じゃなきゃ絶対いやだよ?

 

「死因は……特殊性癖、とでも記されるのでしょうか」

「笑えねぇよ!? てか特殊性癖持っていないって言ってるだろ!」

 

 どうやら同じことを考えていたヴィリア。

 

 短い沈黙のあと、ヴィリアが恐る恐る口を開いた。

 

「回復魔法で……もしかしたら」

 

 もしかしたらじゃん。死ぬじゃん。ドロドロになったのをどうやって回復させる気だよ。

 

 ていうかそれ以前に――

 

「雨は……どうするんだ」

 僕は上空を見つめ呟く。そう――雨だ。

 

 この世界には魔王の影響で雨が永遠のごとく降っている。

 

 ただの雨ならよいのだが、問題はその雨に触れると魔素が暴走し……要約すると、長時間浴びていると死ぬ。

 

「……オリオティス、ごめんなさい。本当に……」

 

 なぜか、ノクトルが先に謝った。

 

 いやいや、これヴィリアの落ち度じゃない? どう考えても。

 

「いいさ。この世界には不運な死が毎秒の如く訪れている。それが偶々僕に降りかかっただけさ……」

 

 死因が感覚遮断触手穴というのは少し、いやかなり不服だが!

 

 でも、実際そうなのだ。

 

 この終わりに向かう世界では死が満ち満ちている。

 

 それに勇者だけが当てはまらないなんて、ありえないだろう?

 

「僕の死因は……わかっているね?」

 

 ヴィリアとノクトルを見つめ、そう呟く僕。

 

 ヴィリアが無邪気に親指を立て、「任せてください」と言わんばかりに頷いた。

 

 ……本当にわかってるよなこいつ? 

 

 死因に感覚遮断触手穴だの特殊性癖など書くなって意味だからな?

 

「……本当にごめんなさい」

 

 ノクトルが謝罪を口にする。

 

「何を謝ってるんだ。君が謝ることなんて、何一つないさ」

 

 心からの言葉、だが、それはノクトルには届かなかった。

 

「あなたに助けられてばっかりなのに……私はあなたに何もしてあげられなかった」

「そんなことを気にしていたのか……僕は好意で君を助けただけさ。何も気にしなくていい」

 

 ノクトルから瞳から涙がこぼれ落ちる。

 

「ごめんなさい……」

 

 やはり、僕の言葉は彼女に届かないらしい。

 

 その時、ヴィリアがノクトルに近づき、そっと耳元で何かを囁いた。

 

「な、なにを言って……そんなことをしてもオリオティスは……」

「いえ、絶対した方がいいです。ノクトルのためにも、オリオティスのためにも」

「オリオティスのためにはならな――」

「いえ、絶対になります。だから早くオリオティスが溶ける前に!」

 

 なんか最後怖いこと言っていたな! ていうかこれ、もう僕の〇ん〇んは触手プレイを受けているのか!?

 

「そ、そのオリオティス……」

「ど、どうしたんだ? 僕は今、貞操の瀬戸際でね」

 

 体を必死に捩じり、どうにか貞操の危機を遅らせようと抗っていた。

 

「私は……後悔をしたくないから、自分のエゴでこれを言うわ」

 

 ノクトルが一歩、僕に近づいてくる。

 

 その言葉は、誰かのためではなく、自分のために吐き出された決意の言葉。

 

「その、私は――」

 

 

「オリオティス――あなたのことが好きです」

 

 

 脳天に雷が落ちたような衝撃が走った。足が浮足立ち、足の感覚無いけど。

 

 脳裏に溢れる興奮、そして、開きっぱなしの自分の口元に気づく。

 

 その告白に、僕は、喉から声を絞り出した。

 

 

「絶対今言うことじゃなくない?」

 

 

 バゴンッ!

 

 頭に衝撃が走る。反射的に振り返ると、ヴィリアが杖で僕の頭を殴っていた。ていうか、また殴ろうとしている!

 

「待て待て待て! 確かに僕が悪かったのは理解できるが、僕の言い分も全くもってその通りだろう!?」

 

 こんな状況で告白する奴は、この世に一人もいない! いや、目の前にいるんだけどさ。

 

 ノクトルは顔を真っ赤に染め、羞恥に歪んだ表情のまま涙をこぼしている。

 

 今にも爆発しそうなほどの感情を、必死に押し殺しているように見えた。

 

「す、すまん。わざとじゃないんだ!」

「謝罪ではなく、ノクトルに答えを聞かせてあげてください」

 

 ヴィリアが杖を構えたまま言う。お前がその答えを焦らせてる原因だと言いたかったが、これ以上変なことを言えば確実に殴られる。

 

 正直、僕は恋人がいない。現在にも過去にも。

 

 恋人が欲しいと思ったことが無い、恋という感情を理解していない。

 

 だから、彼女に対するこの気持ちが何なのか、それを理解していない。

 

 彼女を見ると可愛いと思う、微笑ましく思う、守りたくなる、だがそれが、恋という感情なのかは知らない。妹にも、そのような感情を向けていた気がする。

 

 これは、親愛なのだろうかと頭を悩ませ、悩みの果てに、先ほどのノクトルの表情を思いだす。

 

 顔を赤くし、涙を漏らしながら、僕に告白する姿。

 

 それを見た僕は、心臓を揺らした。それを思いだした僕は、理解し、僕はこれを口にする――

 

 

「……僕も君のことが好きだ」

 

 

 その瞬間、ノクトルの涙腺が決壊した。

 

 先ほどの悲壮に満ちた泣き顔ではなく、喜と涙が混じったような表情、複雑で、しかしどこまでも愛おしい表情だった。

 

 頬を伝う涙は途切れることなく溢れ、笑顔に崩れ、また涙に戻る。その繰り返しに、僕は胸を打たれ、もう一度彼女に惚れ直していた。

 

「ありがとう……ごめんね。オリオティス」

 

 小さく洩らされた謝罪。なぜ彼女が謝るのか、一瞬わからなかった。

 だがすぐに、答えがわかる。

 

 あぁ、そうだったな。僕、感覚遮断触手穴に落ちて死ぬ間際だったな。忘れてたよ! クソが!

 

「……気にしなくていいさ。君が気に病むと僕も辛い」

 

 僕は力を振り絞り、彼女へ額を寄せる。ノクトルもコクリと頷き、涙で潤む目を閉じて顔を近づけてきた。

 

 赤く腫れた瞼が、今にも溶けてしまいそうなほど儚くて、そんな姿に、自然と笑みが零れる。

 

「ノクトル」

「オリオティス」

 

 互いの名を呼び合う声は震え、掠れていた。

 

 ダサい最後だったが、もしこの世界でこんな瞬間を迎えられるのなら――僕は間違いなく世界一の幸せ者だ。

 

 唇と唇が、ゆっくりと重なる。

 

 刹那が永遠に変わったかのように、甘く、甘く、ただ甘い時間が流れ――そして静かに終わりを迎えた。

 

 ……現実は残酷だ。

 

 きっと、僕の下半身は、文字には描写できないほど酷いことになっている。

 

 彼女に情けない姿だけは見せたくなかった。

 

 だから僕は、視線を落とし、地に突き刺さる片手剣へと目を向け――

 

 

「おーーーーーい 今帰ってきたぞぉぉ!」

 

 

 唐突に割り込む大声。

 

 振り向けば、そこには巨人族のレーベル。僕が率いる魔王討伐メンバーの一人だ。

 

 ――完全に存在を忘れていた。

 

 その横で、ヴィリアがこちらを見て、にやりと悪戯っぽい笑みを浮かべる。その意図を瞬時に悟り、僕は必死に叫んだ。

 

「今すぐ魔素を奪い取れヴィリアァァァァァァァァァ!!!」

 

 僕の声は空間に響き渡り、空気を震わせる。

 

 外を見上げれば、灰色の空に永遠のごとく降り続く雨。魔王の呪いによって歪められたこの雨は、触れれば魔素を狂わせ、やがて命を奪う。

 

 勇者である限り、自分のことを考える余裕など一片も与えられなかった。

 

 ――だからこそ、ヴィリアは策を弄したのだ。

 

 僕とノクトルを無理矢理くっつけるために。

 

 策の内容が酷すぎる気がするけれども。

 

「あー……ノクトル?」

 

 彼女は肩を震わせ、耳まで真っ赤に染めていた。その横顔を見ただけで、胸の奥から熱が溢れだして止まらない。

 

「どうも僕、まだ生きられるらしい」

「そ、そうみたいね……その――」

 

「「今後とも……よろしく」」

 

 ――僕は、感覚遮断触手穴で、彼女と恋に堕ちた。


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