リビルドワールド もしもアキラに双子が居たら 作:バグキャラ
夜の闇に覆われた荒野の中をカツラギの運転するトレーラーは大きな砂煙を立てながら進んでいた。
「確かにな。今回の商品の仕入れが大変だったってのは認めざるを得ねぇな。なぁダリス!」
「そうだな。俺たちはここからずっと東……統企連の支配地の東端付近。いわゆる現代の最前線って言われる場所で商品を仕入れてきたんだ」
「未踏領域との境目の地域での活動は大変だったぜ」
「……最前線……カッコいい……」
『アキラ、ソラ。統企連ってのは分かる?』
『それぐらいは分かる。統治企業連盟の略称だろ?』
『クガマヤマ都市みたいな統治企業を纏める組織だったでしょ?この前の勉強でやったところだよね』
『覚えているようで何よりだわ』
車を走らせるカツラギと索敵をするダリスとの会話に2人は加わりながら、話を弾ませていた。
「その最前線ってのは文字通り、戦争みたいな戦いが起こってる場所でな。あまりに過酷な環境のせいで一向に調査が進まない未踏地域と統企連の支配区域との境目をこういうんだが───」
「あの辺は高ランクハンターだらけなんだ。俺たちやお前たちが銃を持つ感覚で戦車を持つような一流ハンターばかり……なんならその戦車を素手で殴り飛ばすようなヤツもいるらしい」
「せ、戦車!?」
「しかもそれを素手で殴り飛ばすって……」
「お前たちがいずれ成り上がって車を買うように、最前線のやつらもまた普段から当たり前のように戦車を買ったり、もしくはより高性能な物に買い替えるようなやつらだ」
「未踏領域ってのは山のようにデカいモンスターが平然と闊歩するような地域だからな。そいつらを狩るハンターもまた巨大な兵器を扱うのは当たり前って話なんだろうな」
「……へぇー……そんな場所からカツラギとダリスは行って帰ってきたのか」
「よく生きてたね」
「ハハハッ!大変な道のりだったがな。だが、それもあと少しだ」
「比喩表現でもなんでもなくマジの化け物と呼べるハンターが活動する場所で高性能な装備品を仕入れて一儲けしようって訳だったんだが、途中でモンスターの群れにつかまっちまってな。お前たちが居なければどうなっていたことやら」
「装備品……というより商品の仕入れも自分たちでしないといけないんだ?」
「商売ってのは大変だな」
「商人もハンターも本質はそう変わらん。お前たちハンターが命を賭けて遺跡に潜り、遺物を持って帰ってきて金に換えるように、俺たち商人もまた命を賭けて商品を仕入れる為に遺物を買い取って、それをさらに高く売る」
ハンドルを力強く握るカツラギは語った。
「成り上がる手段はそれぞれだがな。俺は商売でいってお前たちはハンターでいく、それだけだ」
「まぁそうだね」
「カツラギが銃を持って遺跡に向かうのは似合わないだろうな」
「ガハハハッ!そうだろう?今はこのトレーラーで商売をしているが、今回仕入れた商品で儲けて、それを足掛かりにするんだ」
カツラギの体型を見てイジるアキラとソラにカツラギもまた大きな笑い声を上げながら応じた。
「いずれは統治企業、そしてその次は五大企業に加わってやるさ」
「五大企業か……夢があるな」
「なんだっけ……坂下……多津森……千葉……月定……とかのやつだよね?」*1
「あぁ、それだ。特に坂下は最前線で活躍するハンターたちと多くの契約を結んでいると聞く」
「そんな企業に加わるのも夢じゃねえぞ?俺はそれだけの商談を成立させて商品を仕入れたんだ!俺は賭けに勝った!いずれ統治企業になった際には坂氏重工のオーラムように企業通貨を発行してやる。通貨名はカツラギだ!」
「わーお、自分の名前を通貨名って恥ずかしくないの?」
「何を言う?これこそ誇らしいことはないだろう!」
「……まぁ、そこは人それぞれだろうな」
「だからな。この積み荷はその第一歩なんだ。だからお前たち2人には結構真面目に感謝してるんだぜ?」
「あ、そう?なら今回のやつは貸しってことにしといてよ」
「そうだな。そんなに商売上手なら、俺たちのハンター稼業に役に立ちそうだ」
「おいおい、値引きは勘弁してくれよ?」
「装備は一応クガマヤマ都市の下位区画のお店で買ってるけど、もし安かったらカツラギのところで買ってあげるよ」
「買うのは弾薬ばっかりだけどな」
「ハンターなんてもんは
「なら僕たちが死なないような商品でも仕入れておいてよ」
「例えば回復薬とか」
「安心しろ。装備品もそうだが、俺の店では雑貨も取り扱っている。必要になったら言ってくれ」
「値引きを期待してるよ」
『アキラ、ソラ。今すぐ窓から双眼鏡で後ろを確認して』
『……アルファ?』
『何かあった?』
『説明するより見たほうが早いわ』
真剣な眼差しで2人を見据えるアルファの姿にアキラとソラもまた荷物から双眼鏡を取り出して席から立った。
「カツラギー、ちょっと窓あけるね」
「ん?どうした、初めての車で酔ったか?」
「いや、ちょっと気になってね……」
そのままトレーラーに付けられた頑丈な扉の窓を開けて、後ろを覗き込むようにして身を乗り出した。
「………………」
「……え、どうしたのアキラ。なにが見えたの?」
「…………」
何も言わずに双眼鏡をソラに渡して場所を入れ替わるようにしたアキラの行動を不審に思いながらもソラはアキラと同じようにトレーラーの後方に視界を向けた。
「………………え」
『アルファ、これだけ答えてくれ。俺とソラの見間違いではないのか』
『残念ながらね』
『そうか……』
アキラとソラをサポートする人物へと確認の言葉を掛けたが、返ってきた言葉は芳しくなかった。
「……カツラギ。遺跡のモンスターの群れはあんた達が連れてきたんだろ?」
「……!……バレていたか。いや、ただあれはだな……」
「いや、そんなことはどうでもいいんだよ。誰が連れてきたとか今は関係ない……カツラギを追っていたモンスターの群れは一部だったの?」
「……ダリス!トレーラーの索敵機器を最大まで広げろ!小粒のモンスターは無視だ!」
「!そこまですると見逃したモンスターにぶつかる可能性が────」
「いいからやれ!6時の方向に70℃で索敵範囲を縮めろ!」
カツラギの言葉にダリスもまた索敵機器を指示された通りに設定を変更した。直後、索敵機器から甲高い大きな音───警告音が鳴り始めた。
「忙しいところ悪いんだけどさ、まずは質問に答えて欲しいかな」
「あぁ、あんた達が連れてきたモンスターの群れはあとどれだけ残っているんだ……」
ソラが覗き込む視界の先には、双眼鏡の視界に広がる荒野を覆いつくさんばかりのモンスターが埋め尽くすようにしてトレーラーを追いかけていた。
「……馬鹿な!先頭集団以外は振り切ったはずだ!」
「まさかずっとあそこから追ってきていたのか!?カツラギ、このまま都市まで走れば間に合うか!?」
「無理だ、速度が速すぎる……!これ以上進むと、後ろの群れを俺たちが連れてきたと判断されて、モンスターの群れを都市の防衛隊にトレーラーごと木っ端みじんにされる……!」
「逃げ回るにもエネルギーが足りないか……」
「碌な補給も出来ていねぇからな……クソっ!」
握ったハンドルを強くたたくカツラギにアキラとソラが提案した。
「もう一度遺跡に戻るのは?」
「あぁ、俺とソラはここ最近クズスハラ街遺跡ばっかりに潜っていたからな。中の構造はある程度把握してるから、俺たちが遺跡の中を案内する」
「トレーラーを捨てることになるけど、モンスターの群れをやり過ごせる確率は高いと───」
「ダメだ!」
2人の提案にカツラギは酷く難色を示した。
「…………殺したモンスターの血臭やらが後ろのモンスターを連れてきた可能性がある。それに遺跡奥部の強力なモンスターまで呼び寄せていたら、トレーラーの機銃無しではまず勝てない……」
「…………」
「…………」
カツラギの説明に2人は瞳を薄め、その背中を凝視した。
『アルファさん、カツラギは嘘をついてると思う?』
『トレーラーを捨てたくないってごまかしが含まれているのは確かね。でも説明した内容に嘘はないし、トレーラーの機銃を捨てるのも避けたいわ』
「……はぁ……ここで迎え撃つしかないのか……」
「まじかぁ…………あ、そうだ!カツラギが仕入れてきた武器を使おうよ!最前線で使われてる強い装備なんでしょ?」
「……銃器類は特殊な弾薬が必要でそれはこのトレーラーには載っていない……。なにより銃器自体も強化服前提の装備ばかりだ。生身で撃ったところで引き金すら碌に引けない……クソッ!」
「……まじか…………まじかぁ……」
「うだってもしょうがない。カツラギ、迎撃の準備だ」
「あぁ、モンスターの群れに追いつかれるまであと数分もない。近くの岩場に移動する」
項垂れるソラとアキラの言葉にカツラギもまたハンドルを切って、進路を変えた。
『オーライ、オーライ。会話は聞こえるか?アキラ、ソラ』
「問題ないよー。こんな感じでやり取りもできるなんて買ってよかった情報端末」
「ハンターの必需品と言われるだけはあるな。予備も欲しくなる」
『もちろん俺の店で取り扱っているぞ?生きていたら後で格安で売ってやろう』
「その言葉、忘れないでよ?」
「俺とソラも足掻けるうちは死ぬつもりはないからな」
『それは俺とダリスもだ。作戦の概要はこうだ───今、トレーラーの配置が終わった。岩場を背にして機銃をメインでモンスターの群れを迎撃する。後ろからの奇襲はないだろうが、万が一があるから警戒してくれ』
「らじゃー」
「分かった」
『この作戦はトレーラーの機銃が要だ。アキラとソラ、ダリスの援護が必須になる』
カツラギの言葉に耳を傾けながらアキラとソラもまた迎撃準備に取り組んでいた。
「とりあえずシズカさんのお店で買った弾は全部マガジンに入れれたね」
「多めに弾を買っておいてよかった……いや、良くねぇよ。なんで遺物がちょっと高く売れただけでモンスターの群れに襲われなきゃいけないんだ」
『運が悪いとしか言いようがないわね』
「お守りでも買った方がいいのかな」
「生きて帰れたら探してみるか」
胡坐を組んで銃の用意をする2人は、もう間もなく襲い来るであろうモンスターの群れがやってくる荒野へと視線を向けた。
『それと追加で回復薬を服用しておきなさい。容器から取り出して口に入れる暇はないと思うわ』
「分かった……あと回復薬の中身も出しておくか。激痛なんだよね?」
「安心しろソラ。死ぬよりマシくらいだ」
「こわぁー……そうだ、アルファさん。今のうちに聞いておきたいんだけど、僕たちに勝ち目ってある?」
「……そうだな。覚悟担当としては聞ける時に聞いておきたい」
『勝率はあるわよ。私も2人をサポートするから頑張りなさい』
「勝率はある……ね。なら、頑張るしかないか」
「少なくとも0じゃない。なら、やれるとこまでやってやるか」
『アキラとソラが私と出会う為に支払った幸運以上に世話を焼いてあげるから、2人も諦めちゃだめよ?』
「そうだな。なら、しっかりと世話を焼いてくれ」
「焼き加減はサクサクになるくらいでお願いするよ」
銃と弾と回復薬、そして覚悟の用意が出来た2人は立ち上がった。
『もちろんよ。私のサポートはアキラの意志と覚悟を前提にしてるのだからね?焼き具合はウェルダンでいいかしら?』
「頑張れーアキラ」
「お前も頑張るんだよソラ」
「……ごめんウェルダンって何?」
「モンスター、既に射程圏内だ」
「遠距離持ちのモンスターは俺とカツラギであらかた潰した。遺跡奥部から釣られてきた強靭なモンスターを一撃で殺す為に限界まで引き付けるぞ」
通信越しに聞こえるカツラギとダリスの声を右から左へと聞き流しながら、アルファの言葉に耳を傾ける。
『日は落ちたけど、私のサポートで視界の拡張をしているから昼間と変わりないはずよ。ソラは3割、アキラは5割のミスを想定した上で指示を出すわ』
『…………』
『…………』
落ち着いて息を整える2人にアルファは言葉を続ける。
『ミスの想定した指示だけど、ミスをしていい訳ではないからね?ミスをする分だけ状況は悪化するから、とにかくモンスターの急所を確実に狙いなさい』
「…………
「…………いつでもいいよアキラ。
『攻撃開始まであと5秒』
わずかな霧が立ち込める荒野の先に無数の光が迫ってくる。
『4』
もはや足音なのかもわからない轟音の発生源がすぐそこまで来ていた。
『3』
2人の拡張された視界にモンスターの位置を捉えるマークが表示された。
『2』
アキラとソラは銃を構えた。撃破優先順位の高いモンスターにその銃口を定める。
『1』
カツラギのトレーラーからライトが点灯された。照らし出す先は目の前の荒野。暗闇から姿を現したのはモンスターの群れであった。
「喰らえ!」
カツラギの言葉と同時に引かれた引き金が、その機構によって咥えられた銃弾を吐き出し始めた。
モンスターの足音とも引けを取らない射撃音が辺りに響き渡る。
「……流石に多すぎない!?あと硬い!」
「遺跡で戦ったヤツらより速くて硬いな……!AAHじゃキツイか!」
『銃器の改造も強装弾も使っていないからね。的確に弱点部位へと当てるしかないわ』
「機銃の弾薬ならまだまだあるぞ!こうなったら根競べだ!」
岩場の上に構えるアキラとソラの下に向かおうとするモンスターの群れへと銃弾をまき散らす。
「反動が……ちょっとキツいっ……!」
「訓練じゃ……ここまで……撃つことはないからな!」
『アキラ、再装填よ。ソラはハンドガンも使って』
「……今のところはなんとか、持ちこたえれるか……な」
「ソラ、こっちのリロードは終わった!」
「りょう……かい!」
既に何回かリロードを行った2人の足元には空のマガジンと薬莢が散らばっていた。
慣れたようにAAHの側面に付けられたリリースボタンを押して弾を打ち尽くしたマガジンを排出する。マガジンの自重で落ちるようにして外れたマガジンを足元に落とすと、新しいマガジンを装填してコッキングレバーを引いて薬室に弾を送り込む。
アルファの指示通り、拡張された視界に表示される撃破優先モンスターの弱点部位へと弾を打ち込んでいく。
「…………狙わなくても弾は当たるけど、仕留め損なう!」
「くそっ、反動で身体が痺れてきた……!」
『なるべく弱点部位を狙わないと撃破に追いつかないわ、しっかり狙いなさい!』
訓練の成果もあってかマガジン2~3つ分までの射撃はアルファの指示通りに動けていた2人だが、それも射撃とリロードを繰り返すごとに動きがブレていった。
「(弾薬は持つのかな、どんどん減っていく…………マズイ、アキラの方にモンスターが偏ってる!)」
「(アルファの指示は完璧のハズなのに指示の半分も動けてない!)」
ソラはなんとかアルファの指示通りの動きについていき、万が一のアキラのフォローに入れるように気を配れているが、アキラは喰らい付くので精一杯だった。
アキラとソラが構える崖を駆け上がるモンスターたちにソラが右腕にAAHを構えたまま、左手でARH自動拳銃を構えて撃破と牽制を兼ねた銃撃を行う。
「……ぐぬぬ……腕が逝きそう……」
『追加で回復薬を服用しなさいソラ。気休め程度だけど、痛みが和らぐわ』
「りょうか……アキラ!左!」
「……!」
素早く回復薬を服用しようと銃撃の手を緩めたところでソラが声をあげた。
銃弾を撃ち込んだはずのモンスターが頭部の半分を失いながらもアキラを目掛けて飛び掛かっていた。
「…………!」
突如、アキラの視界が大きく歪んだ。
いつの日かの訓練で起こった状況。自身の上を飛び掛かるモンスター、その光景をアキラは思い出していた。
脳裏に浮かぶのはソラが念話で送ったウェポンドッグの画像である。違う方向へと構えたAAHでは間に合わず、回避をしようとしたところで気づいた。
「…こ…………つか………て!」
「………………」
驚くソラが声をあげているが、アキラの世界が遅れる中ではなんと言っているのは聞き取れなかった。だが、何をしてほしいのかだけは理解できた。
アキラの手元に向けて投げられたARH自動拳銃を遅く流れる世界の中、左手で掴みとり、遅い掛かるモンスターの口内に向けて構えた。
「…………!」
頭部を半分失ったモンスターの口内に突っ込むようにして構え放った弾丸は、モンスターの下顎から残った頭部の半分を弾き飛ばした。
「…………ぐ…っ!」
頭部を失ったモンスターの身体はアキラの全身へと重くのしかかり、疲労したアキラを押しつぶそうとするが、回復薬を服用したソラが横から蹴り飛ばしたことでなんとか避けられた。
「大丈夫アキラ!?」
「援護する!アキラ、立てるか!」
「ごめんダリス!アキラが厳しいかも!」
「……いや、まだ戦え……る」
ふらふらと立ち上がり、AAHを構えて引き金を引くアキラの腰を後ろから抱くようにしてソラが支えると、同じく引き金を引いて銃撃を始めた。
だが、その銃撃は覚束ないものであり、アキラ自身の視界もまた強く歪んでおりモンスターを狙うどころか真っすぐ立つことすら怪しかった。
「……すまんソラ。頭痛が酷い……それとめまいが」
「なら回復薬!僕がなんとかするから使って!」
そうしてアキラのAAHを奪うようしてもう片方の手に構えると、アキラを後ろに下げさせた。
『アルファさん!指示をお願い!』
『しっかりと構えて撃ちなさいソラ。アキラは回復薬を飲んで拳銃で援護よ』
指示とも言えないようなアルファの言葉だったが、それとは裏腹にソラの視界には表示される無数のマークが見えていた。
それらに向けてソラは両手に持ったAAHの銃口を構えた。両手から伝わる反動によってブレそうになる銃口を必死に抑える。
ソラもまた世界の進みが遅くなるような状況に遭遇していた。ダリスの援護射撃で撃ちだされた銃弾の弾道や、モンスターの一挙手一投足を目で追って最も近い場所にいるモンスターに銃弾を撃ち出し、的確に弱点部位へと命中させていく。
「(……あ、ヤバいコレ。頭痛が……)」
最小限の動きで狙いを定め、吐き出した銃弾がモンスターを撃破するとすぐさま別のモンスターへと標準を定める。
一発一発が貴重な弾薬であり攻撃手段である。遅れる世界の中で無駄撃ちを極限まで無くして効率よくモンスターを撃破していた。
両手に構える銃の反動と遅れる視界がソラの身体を傷つけていき、服用した回復薬で直されるような感覚を繰り返していく様子はソラの意識を刈り取ろうとするが、ソラ自身が歯を食いしばって耐えていた。
構えるAAHの弾が切れたらすぐさまリロードを行う。両手は塞がっているが、まだ脚が残っている。
空中を上下に回転するマガジンは、今のソラの視界にとっては止まっているも同然である。マガジンが上を向いた瞬間にAAHを振り下ろし、マガジンを差し込んだ。流れるように
もう片方の銃も同じようにマガジンを再装填すると、引き金を引いて荒野を埋め尽くすモンスターの群れに向けた。反動や頭痛の痛みに意識を割く余裕は今のソラにはない。むしろ銃を放り出してアキラに回復薬を飲ませたいところだが、そんなことをすれば目の前のモンスターの群れがどうなるかは容易に想像できるため、持ち場を離れることができなかった。
マガジンを空にしたら、すぐさま同じように新しいマガジンへと再装填する。そしたら再度、銃口をモンスターの群れに向けて引き金を引く。既に服用した回復薬の鎮痛効果は消えている。追加で服用したいが、迫りくるモンスターを前にできない状態であった。
次のリロードのタイミングで服用するか。そのような思考を始めた直後、ソラの視界が白く染まった。
『……そ………ら……ソラ!しっかりしなさい!』
「……う……あ?」
立ったまま意識を失っていた中でアルファの言葉にソラは意識を取り戻した。両手に構えて引き金を引き続けていたAAHの銃口からは硝煙のみが溢れており、銃弾は撃ち出されてない。
「……そ、そうだ。回復薬……いや、まずはリロードを……」
そういって新しくマガジンを装填しようと地面を見下ろしたところで気づいた。
「……あ、あれ……?」
ソラの足元に赤いシミがついていた。
「……血……?」
ソラの鼻から赤い血が垂れており、ソラの足元に斑点をつくっていた。
「……いや、それよりも新しいマガジンを……あれ、無い。え、じゃあこっちに……ない。……もしかして……弾切れ?」
気づけばソラ以外の銃の音も消えており、聞こえるのはモンスターの足音だけであった。
「……機銃の弾が尽きた……」
「……悪い。こっちも弾切れだ……」
トレーラーの機銃を構えるカツラギも別の場所の岩場で構えるダリスも同じ言葉を零した。
「……終わりか……」
「……あれだけやってここまで……」
回復薬の鎮痛効果をもってしてもいまだ酷い顔色のアキラが膝を落としたソラの横で腰を落とした。
「……ゴメン、アキラ。無理だった……」
「………ここまでやったんだ。上出来だろ」
アキラもARH自動拳銃を覚束ない手で荒野に向けて引き金を引くが、カチッと乾いた音と共にスライドが後退して動かなくなった。
「こいつも弾切れか……」
歯向かう手段が残っているのであれば2人もまだ立ち上がったが、その手段が残ってない以上は、潔かった。
『終わったわね』
「…………そうだな……」
「…………いやいや、モンスターの群れ相手にここまで粘れたんだよ。アルファさんの依頼を達成できなかったのは申し訳なかったと思ってるけどね」
「……それもそうだな。悪かったわアルファ、どうやら俺たちの運は本当にアルファと出会うだけで使い切ったみたいだ」
迫りくるモンスターの群れを前に、アキラとソラは肩を寄せ合って口にしていた。その様子にアルファは笑いながら答えた。
『違うわアキラ、ソラ。助かったのよ』
「「……え?」」
2人の後ろに立って指を向けるアルファを姿を辿ると直後、モンスターで埋め尽くされた荒野に複数の閃光が降り注ぎ、大爆発を引き起こした。
「……え……え!?」
「な、なにが起こった!?」
憂鬱な空気を浮かべていた2人の元に届いたのはモンスターの牙や爪ではなく、爆発によって発生した閃光と爆風であった。
「ま、まさか最後の最後に敵の増援!?」
「俺たちを殺すためだけの増援か……豪勢だな」
『いいや、敵ではないわ。味方よ』
そうして目を開けることすら難しい状況の中でアルファは2人の拡張された視界にマークを一つ追加した。
「……あれは……車?」
「……だれか乗ってる……」
拡張された視界の先、爆炎で覆われた荒野から姿を現したのは荒野仕様のジープに乗った2人の女性ハンターであった。
『あの時に助けてよかったわね?』
そのジープには運転手を務めるエレナその隣で大きな榴弾と対物ライフルを構えるサラの姿がった。