リビルドワールド もしもアキラに双子が居たら 作:バグキャラ
『助かったわ』
そうアルファの指し示す荒野には榴弾の雨が降り注いでおり、カツラギ一行を追っていたモンスターの群れを纏めて吹き飛ばしていた。
「……すごいな……」
「……あれだけやって無理だった群れが一瞬で……」
アキラとソラの視線の先にはエレナの運転するジープが荒野を駆けており、その隣でサラが擲弾銃と対物銃をそれぞれ片手に持ってモンスターの群れへと向けていた。
「エレナ!予定の場所とはだいぶ違うけど、救出対象はあれでいいのよね!」
「あってるわサラ!そのまま蹴散らして!」
「了解!弾薬費用は依頼者持ち、派手にやりましょうか!」
アルファのサポートもあってか、ジープの上で行われている会話は2人の耳に入っていたが、そんなことに気を配れるような状態ではなかった。
「…………すごいね」
「…………あぁ」
2人の持つAAH突撃銃とは比較にならないほどの威力と射程、連射力を誇る銃器は瞬く間にモンスターの群れを殲滅し、荒野を血と肉で覆われた海へと変えた。
「助けていただいてありがとうございました」
「はい、エレナさんとサラが居なければあのまま死んでいたので……。おかげで死なずに助かりました」
ひとまずモンスターの群れをやり過ごした一行はトレーラーに集まっていた。ダリス*1はトレーラーの上で荒野の警戒に当たり、カツラギは緊急依頼についてエレナと話し、サラは肩を貸しあう2人と会話をしていた。
「いいのよ、これも緊急依頼の内だから気にしないで。アキラたちが頑張っていたおかげで、予想よりも随分モンスターの数が減っていたから」
「……そうなんですか?」
「……ちなみにエレナさんとサラさんの予想ではどの程度の規模だったんですか?」
「ん?そうね……私たちが来た時には既に1/3以上は減っていたと思うわ」
「……1/3ですか……」
「あれだけやってまだ半分も倒せてなかったのか……」
「あら、凄いことよ?機銃があったとはいえ、突撃銃を3丁だけでモンスターの群れをあれだけ倒したんだから。そのおかげで私たちも楽に片付けられたからね」
「……そ、そうですか……」
「……でも緊急依頼だったんですよね……」
エレナとサラが援護に来てくれたおかげで2人の命は助かった。だが、この後に請求される緊急依頼の費用を請求されると考えると、先程追加で服用した回復薬の鎮痛成分が効いているはずなのに生まれる頭痛にアキラとソラは魘されていた。
『……どうしようアキラ。一応僕たちも緊急依頼で助けられたんだから、多分お金とか請求されるよね……』
『……そうだよな……。よくわからないけど、凄そうな武器でモンスターを蹴散らしていたんだ。弾薬費とか考えると何十万……いや、何百万オーラム請求されてもおかしくないよな』
そんなことを目の前にいるサラに聞こえないように念話で話すアキラとソラの様子にサラが話を続ける。
「でもアキラとソラが居たのはちょっと驚いたわ。モンスターの群れに巻き込まれるなんてね」
「……そうですね。クズスハラ街遺跡で遺物収集をしてたんですけど、カツラギ達が連れてきたモンスターの群れに巻き込まれまして……」
「まぁ、僕たちは運がないので……今度お守りでも買おうかなと」
「運か……確かにそうね。ハンター稼業なら運も大事だと思うわ……それにお守りなら……ほら、私も持っているのよ?」
そう言って身に付ける防護服の前ファスナーを開けると、ペンダントを取り出した。
「この前シズカの店で死にかけたって話をしたでしょ?その時に偶然私たちを助けてくれた人がいて、その人が残していったものを加工したものなの」
「「…………」」
2人に見せるように取り出したペンダントは、以前2人がエレナとサラを助けた時に渡した銃弾を加工したものだった。
「……あー、銃弾ですか。ハンターらしくて良いですね」
「はい。銃弾のペンダント……よく似合ってます」
「あの時の慢心と幸運はこうしていつでも思い出せるようにしたのよ。2人もそのような事があれば忘れずにね?」
目の前に現れた谷間にアキラは顔を赤く染めたが、ソラはどことなく表情が暗かった。
『よかったわね2人とも。あの時の行いがアキラとソラの命を救ったのよ』
『……まぁ、うれしいけど……』
『……そうだね……助けて良かったよ』
『美人の谷間も見れたことなんだしね。でも触るつもりがないなら、私の胸で十分だと思うけど?』
『……ちょっと黙ってろ』
『……うん』
そんな話をする中で、突如としてトレーラーの中にエレナの声が響いた。
「金が無い?ふざけているのかしら?」
「い、いやいや───ふざけているつもりは一切ない!」
「こっちも高い弾薬を注ぎ込んで助けたのよ?それもトレーラーに被害を負わせることなく!」
「わかってる!そっちを騙そうなんてつもりは全くない!信じてくれ!」
緊急依頼の報酬について話していた内容が、サラと2人の耳に入ってきた。
「見てくれ、この装備の量を!これだけの量を売り捌けばどれだけの大金になるか!」
「売り手は見つかっているの?」
「い、いや……まだだがすぐに見つける!だから少しだけ待ってくれ!」
そのような力強い説得をするカツラギをよそに、サラはとある武器を見つけた。
「エレナ!見てこれ!」
「これって……ラグナロック!?うそ、実物よね!」
「ネットで見たことがあるくらいだけど、こんなところで実物が見れるなんて……」
「対滅弾頭対応のやつよね!一発1億オーラムで所持するのすら制限が掛かる東部屈指のロマン武器……!」
「あぁ、今回の目玉商品だからな。これを仕入れるために最前線まで赴いて……」
そう顎に手をあてて解説するカツラギを前に、エレナとサラは笑顔を浮かべた。
「……待て、一体何を考えている!?」
その様子に気づいたカツラギもまた慌てるように口を開いた。
「……サラならギリギリ装備できるかしら?」
「勿論。身体拡張だけじゃ厳しいと思うけど、上から専用の強化服を着れば行けると思うわ」
「ま、待て待て待て待て待て!無理だ、それだけはダメだ!いくらなんでも報酬額との差がありすぎるだろう!?無理を言わないでくれ!」
「でも、お金はないんでしょ?なら、物納にしてもらうしかないんじゃなかしら?」
「ぐぬぬぬ…………」
商売人として活動してきたカツラギはエレナの主張が全うな物だと理解しているために口を噤んだ。そして何かを閃いたのか、近くで話を聞いていたアキラとソラにアイコンタクトで助けを求めるが、アキラは気まずそうに顔を背け、ソラはぐったりとした様子でカツラギの意図が伝わっていなかった。
「緊急依頼の支払いが終わるまで私たちを護衛として雇うこと。その分の護衛代は勿論報酬として上乗せされる。そして約束の日時までに報酬が支払われない場合は、このラグラロックの所有権は私たちになる────以上で契約成立ね!」
「……わかった……」
エレナの声の抑揚とは対照にか細い声で項垂れるカツラギの様子をアキラは傍から見ていた。
『……なんというか、交渉ってのは大変なんだな』
『それはそうよ。それとさっきからソラの調子が悪いみたいだけど、大丈夫?』
『……ん……ちょっとね。回復薬があんまり聞いてないみたいで……』
『大丈夫か?追加で回復薬を────』
そうソラを気遣おうとアキラが顔色を窺った直後、ソラがトレーラーの地面へと倒れ伏した。
「ソラ!?」
「………………」
「ソラ!?おい、ソラ!だいじょ────」
そうアキラが倒れたソラを起こそうと屈んた時、アキラもまた視界がぼやけてソラと同様にトレーラーの床へと倒れた。
「(な、なにが起きた?身体が動かない────いや、それよりもソラが…………!?)」
視界がぼやけていく中でソラの様子を見ると、その先には瞳を開けたまま倒れ伏すソラの顔があった。
「(くそっ!なんで身体が動かない……っ!ソラ!起きろ、ソラ!アルファ!ソラに何が起こった!?)」
カツラギと話を付けたエレナとサラが2人の事態に慌てて近寄ってくるが、アキラの視界にはソラしか映っていなかった。
「(アルファ!聞こえるかアルファ!ソラが起きない!何が起こった!)」
念話とも思考とも呼べない声を上げ続けるアキラにアルファはやさしく声を掛けた。
『大丈夫よアキラ、ソラは少しだけ疲れたのよ。アキラもまずは休みなさい』
「(疲れた?いや、それだけならこんな倒れ方なんて────)」
するはずがない。そう言葉を続けようとしたところでアキラの意識が途絶えた。
白い空間の中にアキラとはいた。
「……………?」
思考が上手くまとまらない中でアキラは辺りを見回す。
「(……どこだここは……ソラはどこだ……?)」
果てしなく遠い空間に1人取り残されたアキラは辺りを見回すと、ふと見慣れた人物を見つけた。
「(……アルファ?)」
アキラとソラをサポートする存在は、無機質な表情で白い空間の果てを見つめて言葉を紡いでいた。
『 』
「(……何を言っているんだ?)」
いつの日か見た無機質なアルファは意味もなくただ、言葉を紡ぐだけでありアキラは疑問を浮かべていた。
そして唱える言葉が499回と呼んだところで、突如として白い空間が崩壊を始めた。
『試行499回目および499’回目。実行中、未到達。経緯確認中、以上』
「(……終わった?)」
その言葉を最後に、白い空間は黒いノイズのような者に覆われてアキラの意識もまた途絶えた。
「…………」
アキラは見覚えのないベッドの上で目を覚ました。見慣れない天井と寝慣れない布団は寝起き直後のアキラの判断を鈍らせるには十分であり、それを認識した直後跳ね上がるようにして上半身を起こした。
「……そら!」
慌てて自分の半身を探すアキラは首を振って部屋の中を見回すと、自身の枕元に座る女性の姿が目に入った。
『おはようアキラ。よく眠れたかしら?』
「あ、アルファ……?いや、それよりもソラ!ソラはどこだ!?」
念話に意識が向かない中ではっきりと声を口に出しながらその枕元の美女に問いかけると、アルファは口に手を当てながらアキラの腰元を指した。
『声が口から出ているわよアキラ。ソラはそこだから安心しなさい』
「……ソラ…!」
「…………」
そうしてアルファの指先をたどり、自身のかぶっていた毛布をめくるとそこには、アキラの腰に抱き着くようにして眠るソラの姿があった。
「ソラ!大丈夫かソラ!」
「…………ん……」
『まだ寝かせておきなさいアキラ。ソラはとても疲れているのよ』
「……そ、そうか………」
アルファの言葉通り、ソラを起こすのはやめて、寝ていた部屋の様子を観察するように見回した。
「……ここは……どこだ?」
アキラとソラが泊まっていた部屋ではないことは確かだ。別のホテルの部屋かとも思ったが、どこか生活感があるこの部屋に疑問を抱きながら、次は自身の状態について把握する。
戦闘で身体に付着した荒野の土やモンスターの血は綺麗に拭き取れらており、服もシズカからもらった防護服から真っ白なシャツに変わっていた。
それはソラも同様であり、2人してベッドで眠っていることに疑問を抱かざるを得なかった。
その時、部屋の奥から1人の人物が歩いてきた。
「おはようアキラ。目を覚ましたのね」
「……!?」
突如としてやってきた人物に驚いたアキラは腰にしがみつくソラを抱き寄せてベッドの端へと逃げ込んだ。
「驚かせてしまったかしら?ここは安全だから安心して」
『少しは落ち着きなさいアキラ。彼女の言う通りここは安全だから、気絶する前のことを自分で思い出してみなさい』
「……あ、そうか。俺とソラはトレーラーの中で倒れて……」
「思い出したかしら?アキラとソラの服は洗濯してここに置いてあるわ」
そうしてベッドの近くにあるテーブルの上に手を置いたサラは、アキラの体調を慮る。
「すいません、着替えるので少し時間を……」
そういって抱き寄せたソラを丁寧に寝かし、覚束ない足取りで布団の上から立ち上がる。安全な環境に居るはずが落ち着けないという感覚と、サラを前にした緊張で上手く身体を動かせず、服を着ることすら手間取っていた。
「フフッ……アキラ。手伝った方がいいかしら?」
「だ、大丈夫です!」
「ずっと寝たきりだったんだから、無理をしちゃだめよ?」
今までアキラはソラ以外に気遣われることがなかったが故に、サラの言葉はさらにアキラの心に戸惑いを届けると同時にモタつきを加速させた。
その様子を楽しそうにみるアルファに反応しないように気を配りながら出来る限り手早く着替えを済ませた。
「……その、サラさん。今の状況を教えて貰ってもいいですか?」
「勿論。立ったままじゃ何だからこっちに座って」
そうしてベッドに腰掛けるサラの目の前に立つアキラの手を引くと、そのまま自身の隣へと座らせた。
「ソラはまだ寝ているみたいだけ、どうする?起きるまで待った方がいい?」
「あ……いえ、大丈夫です。ソラへの説明は起きた時に自分がしますので」
「そう?なら話すけど───始めに言っておくと、アキラとソラがカツラギのトレーラーで倒れてから3日経ったわ」
「み、3日もですか?」
「2人が倒れた後に急いで私が都市の下位区画の病院に連れて行って状態を見て貰ったの。エレナはちょっと事情があってカツラギと行動していたからね」
「病院────あの、費用とかは……」
「その話はあとでするわね?アキラとソラが倒れた原因は回復薬の過剰摂取による副作用だそうよ。一度で大量に使うと過剰摂取したナノマシンが全身に回って昏倒することがあるの。だから回復薬の使用を抑えて安静にしていれば大丈夫だと言われたわ」
診察で医者から言われたことをそのまま伝えるサラにアキラは真剣な眼差しで聞いていた。
「怪我は治っていたし、呼吸も脈拍も安定していたからその後に私たちの家まで運んだの」
「……その、ソラの状態は……」
「ソラもアキラと一緒よ。でも、ソラの方が状態的には酷かったみたい。回復薬の過剰摂取に加えて極度の疲労で全身が麻痺したような状態だったのよ」
「えっ!?ソラは───」
「安心して、ソラも安静にしていればいずれ目を覚ますわ。回復薬には疲労の回復や軽減する効果もある種類があるんだけど、それを超えた疲労がソラの身体の
「……そうなんですか……」
「そう。ソラもそうだけど、アキラも十分酷い状態だったから結果的に3日間も眠り続けたのよ。過剰摂取したナノマシンが落ち着くのは時間を置くことしかないからね」
そうして話を終えたサラにアキラが丁寧に頭を下げた。
「俺とソラの命を助けてもらって、その後の面倒も見ていただいて……本当にありがとうございました」
「良いのよ、私たちは気にしてないからアキラも気にしないで」
アキラは向けられた気遣いを嬉しく思いながらも、その浮かべる表情はどこか暗いものだった。
「……えっと、その……一応俺とソラはカツラギの緊急依頼で助けてもらったんですよね?それにさっき教えてもらった病院の診察代もそうですけど……それらの費用の支払いについて相談がありまして……」
アキラとソラが気絶する前にトレーラーで話していたことを思い出して口に出した。
2人の目にはトレーラーに乗ったエレナとサラに蹴散らされるモンスターの群れが焼き付いていた。武器には詳しくないアキラでもあの光景は理解できる。自分たちの持つAAHよりも確実に高い銃器で膨大な弾薬を使ったことによる費用が掛かっているということが。
「カツラギとエレナさんが話していたことを思い出したんですが、高い弾薬費を使ったと聞きまして……病院の診察代もそうですし……助けてもらった身では言いずらいんですけど、その……俺とソラには全然お金が無くて……払えるのであれば払うつもりですけど……」
アキラはたどたどしい言葉でサラにその意志を伝えた。払う意志はある、金があればすぐさま渡したい。それは今もなおベッドで横になるソラも同じ気持ちだと断言した。だが、無い袖はどうやっても振れないものだ。
「近いうちにお金が入る予定もなくて……」
そうして顔を俯けるアキラ。だがその様子を笑って過ぎたことのようにサラが口を開いた。
「さっきも言ったけど、気にしたくていいわ。私とエレナが勝手にやっとことだし、アキラとソラに緊急依頼の代金も病院の診察代も請求するつもりは無いから」
「……いいんですか?……いや、でもそれは……いや……うーん……」
つい先日に一端のハンターとして認められた手前、助けてもらった報酬すら払えないという状況はアキラを苦悩した状況に立たせた。ソラが起きているのであれば助けを求めれたのかもしれない。アルファとの契約時にもアキラには考えが巡らなかったことをソラは提案し、質問し、答えを得た。
だが、肝心のソラは疲労によって眠ったままである為、頼ることはできない。変にアルファに頼ったとしても、それはそれで不自然だと思い何とか自分1人で改善策を見つけようと思考を巡らせるが、上手くいかず言葉が詰まってしまった。
そんな表情を見たサラが表情を真面目なものに変えてアキラに提案した。
「……それならアキラ。アキラとソラが報酬のことについて気にするのなら、一つ。報酬の代わりに聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?もちろん答えたくない、もしくは分からないのであればそれでいいの」
「……?はい。そんなことであれば何でも……」
とある質問に答えるだけ。それだけ緊急依頼の報酬と病院の診察代の代わりになるのであればとアキラは顔を上げたが、その真剣な表情のサラをみて僅かにたじろいだ。
サラは覚悟を決めたのか。言葉にするのを僅かにたじろいでいたが、意を決して口を開いた。
「クズスハラ街遺跡で私とエレナを助けてくれたのは、アキラとソラよね?」
「────」
サラの言葉にアキラは固まり、口を半開きにした。
アキラはサラの言葉に身を硬直させた。真剣な眼差しを向けられる中でアキラは必死に思考を巡らせる。
「(なんでバレた……?どうする……誤魔化せるか?そうだ、アルファに……いや、アルファのおかげで出来たことだから、助言を貰ったらその存在がバレて……)」
アルファのことは話せない。*2旧領域接続者の自覚がないアキラはそのことについて説明したとしても信じて貰えるとは思ってもいないし、話すつもりは無い。
以前にアルファと依頼のことについて話した際にも他のハンターに話を持ち掛ければいいと言ったが、アルファを認識できる人物が貴重であるということを聞いており、そのことから稀にその貴重な人物が自身とソラであり、たまたま2人の幸運を使い切って出会った。
その程度の認識のアキラだが、それでもアルファから依頼を受けている最中であるため、その依頼のことを他人に吹聴するつもりは一切なく、脅されたとしても口を割ることは無いと決めていた。それは一端のハンターとして契約を重んじるという意味でもあれば、何かを自分とソラで決めたことであれば命を懸けてもやり抜くという義理固さでもあった。
そのため、アルファのことを話さず、ソラに頼れない状況でどうやって誤魔化そうかと考えていたところにサラが続けるように口を開く。
「アキラにも色んな事情があると思う……勿論ソラにもね。この前シズカの店で知り合った程度の中だから私たちのことを信用できないってのはあると思うの」
狼狽えるアキラの様子にサラは自分たちの不信に原因があると考え、真剣な態度でアキラに望んだ。
「アキラとソラに余計な詮索はしない。あの時に私たちを助けてくれたのがアキラとソラなのかが知りたい、それだけなの。助けた理由も手段も事情も聴かないし、だれかに話すつもりは全くない」
「…………」
アキラのうつむいた視線と拒絶ともいえるような沈黙にサラは表情を僅かに悲しいものへと変化させた。
「どうしても話したくないのであれば、私も諦める。二度とアキラに聞かないし、掘り返すようなことは絶対にしない。……だからもう一度だけ聞かせて────クズスハラ街遺跡でハンターたちに襲われていた私とエレナを助けてくれたのはアキラとソラよね?」
その言葉は懇願に近く、それでいて確信をもったものだった。その様子にアキラは観念する。命の恩人がここまで必死になって訪ねているのに、自分の価値のない意地を張り続けるのは違うと思ったのだ。
「……はい、そうです。俺とソラがあの時、サラさんとエレナさんを……た……助け……ました」
「……その……黙っていてすみません。……俺とソラにも色々事情がありまして……」
「いいのよ。さっき言った通り、深くは聞かない」
隣に座るアキラの手を取り、両手で包みながら言葉を続けた。
「エレナを助けてくれて……私を助けてくれて、本当にありがとう」
「…………」
「……やっとお礼が言えたわ……ゴメンね。無理やり聞き出したような結果になってしまって……命の恩人にお礼を言えないまま過ごすのはどうしても辛かったの」
どこかズキリと痛みを感じるアキラはサラの申し訳なさそうな表情に急いで言葉を返す。
「っいえいえ、気にしないでください。俺とソラも命を助けてくれて貰いましたので……お互い運がよかった。それだけでいいじゃないですか」
「そう?……そうね、アキラがそう言うのであればそういうことにしましょうか」
どこか思うところがあるのか、アキラは表情を硬くしたままサラに伝えると、サラもまたそういうことだとして微笑みを返した。
直後、アキラとサラの会話にベットのほうからもう一つの声が加わった。
「……ん……うーん……あれ、ここは……あきら?」
「……!ソラっ!」
むくりとベッドから身体を起こして辺りを見回すソラにアキラが近寄った。
「大丈夫かソラ!」
「……んぁ?……アキラ?ここは……」
「おはようソラ。身体の調子はどうかしら?」
3日間も寝ていたために、ソラの思考はまとまっておらず、なんとか状況を把握しようとするが、どこか眠そうな表情であった。
「……すまん、ソラ。クズスハラ街遺跡のこと……サラさんに言ってしまった……」
「……んぇ?……クズスハラ……?なんの……」
「そうね、まずはアキラもソラも無事に目を覚ましたことを喜びましょう。そしてソラ、クズスハラ街遺跡で私とエレナを助けてくれてありがとう」
「…………?」
見慣れない場所で眠っていたこと。アキラとサラが一緒にいること。クズスハラ街遺跡の一件のこと。それらを一度に伝えられたソラは上手く思考がまとまらず、ただ茫然としていた。
「さて、お腹すいたでしょ?食事を用意してくるから待っててね。ソラもまずはゆっくりしてなさい」
「え、あ……ありがとうございます!」
「……?ありがとうございます……?」
そうして寝室から出ていくサラを見送り、アキラとソラはそのままベッドに腰掛けるようにしていた。
「……大丈夫かソラ?もう少し寝ておくか?」
「………んー……」
『おはようソラ。身体の調子は大丈夫?』
「……ん、大丈夫。まだ頭がぼーっとするけど……えっと……ここは……」
『アキラ、説明してあげて』
「わかった……ソラ。あの後に何が起こったか覚えてるか?」
「んー……トレーラーの中でアキラと話してて……それから……あれ?」
「……そうか、記憶は大丈夫そうだな。あの時ソラは回復薬の使い過ぎで倒れたって聞いたんだ」
「……使い過ぎ?」
「あぁ、モンスターの群れに襲われる前に飲んだ回復薬とトレーラーで迎撃する前に飲んだ回復薬。迎撃中に飲んだ回復薬に、エレナさん達が助けてくれたあとに飲んだ回復薬……今思えば流石に使い過ぎだな」
アキラの説明にソラは時間を掛けながら3日前のことを思い出していき、自体の把握を務めた。
「…あー…確かに。今思えばそうだね」
「その後にカツラギのトレーラーで俺とソラは倒れて、サラさんが病院に連れていってくれたんだ。そこで診察をして、回復薬の使い過ぎと疲労で倒れてるだけだからゆっくり休ませろってことでサラさんとエレナさんの家に連れられてきたみたいなんだ」
「なんか……色々お世話になっちゃったね」
「まぁな。その後に緊急依頼と病院の診察代の費用の話になったんだが……」
「…………いくらになった?100万オーラム?それとも200万オーラム?……もしくはもっと……」
「いや、サラさんとエレナさんはお金を請求するつもりは無いらしい」
「!───それは」
まさかの言葉にソラは声を失う。
「勿論俺も反論した。けど、私たちが勝手にやったことって言われて、それに俺たちも金は持ってなかったからな」
「……んー……」
アキラの話を聞きながらも、どこか納得のいかないようなソラの表情にアキラは続ける。
「……その後だ。心残りになるのなら報酬で1つ教えて欲しいって言われて───」
「……話しちゃった?」
「……話した。……やっぱり黙っていたほうが良かったか?」
「……いや、僕が寝てた時の話だしアキラが決めたことならいいよ。それにシズカさんには既にバレてたんだし時間の問題だったもしれないから……知られるならせめて僕たちから直接伝えたほうが良かったと思う」
「……そうか。ありがとう」
「どーいたしまして。まぁ、大きい借りが出来ちゃったね」
「……そうだな……」
「…………やっぱり、思うところはあるんでしょ?」
「……あぁ……」
サラが出ていったことでアキラとソラの2人きり+アルファのいる部屋になったことで、アキラは内心を吐露していた。
「…………礼を言われて辛いって経験は初めてだ」
「……まぁ、そうだね」
アキラとソラは、エレナとサラを助ける為にハンターを殺したのではない。ハンターたちを殺すためにエレナとサラを助けたのだ。
彼女たちが想像する順序とは真逆の順序を持っていた。その為、彼女たちに礼を言われるつもりもないのだが、窮地に追い詰められ絶体絶命だったところを助けてもらっただけではなく礼まで言われた。
その出来事がアキラの心に深く突き刺さり、それによって生まれた感情がソラにも共振するかのように伝わっていた。
『なら、次はちゃんと助けてあげなさい』
2人そろって俯いていたところにアルファが声を掛けた。
「…………」
「……そうだね」
『2人にとってエレナとサラは大きな借りが出来たんでしょ?なら、いつか返しなさい。すぐには無理でもいつか機会が来ると思うわ』
「……あぁ」
「……まぁ、機会があればね」
『そうしたらアキラとソラも相殺できたと思えるようになって、気が晴れるはずよ。2人の気も楽になるしエレナとサラも助かる───私はそれで問題ないと思うわ』
「……なら、その為にも強くならないとな」
「エレナさんとサラさんを助けるためにもね……でも、そうなるとあのモンスターの群れを蹴散らせるくらいには強くならないといけないのかー」
『ひとまずの目標ができたわね』
そうして話を締めくくったところにサラが部屋へと入ってきた。
「おまたせ2人とも。食事の用意ができたからいらっしゃい」
「……あ、すいません。何から何まで」
「ありがとうございます、ごちそうになります」
そうして2人は寝室を出ていった。