リビルドワールド もしもアキラに双子が居たら 作:バグキャラ
2人がエレナとサラの家で目を覚ましてから数日後。クズスハラ街遺跡でリュックに詰めた遺物を背負い、重い足取りで都市へと戻っていた。
「お、重い……」
「これで何往復目だ……?」
『まだ3往復目よ。最低でもあと2往復はするからね』
2人の歩みは定期的に止まっており、息を整えながら再度脚を運ぶという行為を繰り返していた。
「流石に量が多すぎない?さっきも十分遺物を運んだと思うけど」
「つ、次の往復に回そうアルファ。流石に重すぎる……」
『駄目よアキラ。そんなことをすれば更に往復回数が増えるわ』
ヨロヨロと身体を揺らしながらも一歩ずつ脚を踏みしめる2人のリュックに座るアルファは実際の重量はないが視覚的な部分から、その重量を増すかのようであった。
「こんなに遺物を運んでどうするのアルファさん」
「もしかしてあそこに隠した遺物全部を持っていくのか……?」
『勿論よ。だから最低でもあと2往復は必要よ』
「そ、そうか……」
「……あと2往復か」
2人が運んでいた遺物は、以前の訓練を兼ねた遺跡探索兼遺物収集で集めていたものだった。
クズスハラ街遺跡の浅くも深くもない場所に位置する崩落したビルを更に下に向かった場所にある地下室に貯めていた遺物の量はかなりの量であり、以前にシズカの店で購入したリュックサックを埋めるほどに詰めた後に都市の近くに持ち運んでいる。
「で、でもこれだけ運べば十分お金になるんじゃないの?」
「あぁ。500……いや600万オーラムは行くだろ」
『えぇ、確かに今まで運んだ遺物を売ったときの額はそれぐらい……いえ、もっとするかもしれないわね』
「お?ならもういいんじゃ……」
「今までは桁違いの額じゃないか」
『残念だけど、その程度の額じゃ2人の装備を揃えるなんて到底無理ね。それこそモンスターの群れに襲われでもしたら今度こそ死にかねないから早急に良い装備を整える必要があるの』
「うそでしょ」
「500万オーラムで足りないのか?」
『それに今まで運んだ遺物は以前に買取に出した遺物並みの価値はないわ。だから量で補うしかないわね』
「質より量ってわけね」
『本当ならこんなに往復することすら避けたいところよ。出来ることなら一回の往復だけで済ませたかったわ』
「ゴメン流石にそれは無理」
「いくらなんでも無理がありすぎるだろ」
『いいえ、可能よ。それこそこれから買う装備があればね』
「本当に何を買うつもりなんだよ……」
「銃とかじゃないよね?」
「まぁ、それは遺物を売ってからのお楽しみだな」
「だね」
なんとか会話を続けることで遺物の重量を誤魔化しながら2人は都市へと向かった。
「こ、これで最後かぁー」
「ようやくだ……」
『これを都市に持ち帰ったら早速金に変えましょう』
遺物の隠し場所であった地下室を空っぽにした2人は、ぎこちないながらも慣れた足取りで都市へと向かっていた。
「とりあえずカツラギに持っていくか……一度に売ったほうがいいか?」
「……どうしよ?変に勘繰られるのもアレだけど、かといって小出しで売ってたら時間が掛かり出そうだし……」
『なら早く売ってしまいましょう。装備はできるかぎり早いほうがいいからね』
「わかった」
「まぁ、前から貯めてた遺物を全部持ってきたって言えばいっか。事実だし」
そんな話をしながら既に5往復目となる道を2人が進んでいると、突如としてアルファが口にした。
『アキラ、ソラ。向こうのほうに人かいるわ』
「ん?」
「……人?別のハンターとか?」
そんな言葉に2人は双眼鏡を取り出してアルファが指を指した場所へと視線を向けた。
「……あー……なんか見覚えがあるような……」
「誰だっけ?」
『シェリルの拠点で喧嘩を売ってきた子どもね。アキラが殴り飛ばしたでしょ?』
「……確かにあんな感じの顔だった気がする」
「ほっぺにもなんか貼ってるし」
モンスターに襲わているその子どもは振り向きざまに銃を向けながら必死に応戦していた。
「あんな装備でここまで来るなんてな」
「無謀すぎる……って言えないのば僕たちなんだよねー。初めて遺跡に来た時も似たような装備だったし」
『そうね。アキラとソラが私と出会った時とそっくり』
「まぁ、そのおかげでアルファに出会えたんだ。無謀の価値はあったと思ってる」
双眼鏡でその少年、エリオの様子を眺めながら気ままに会話をする2人は話を続ける。
「確かにね。あの子と僕たちの違いはアルファさんに出会えなかったことくらいか」
「何かが違えば、あいつと俺たちの立場は逆だっただろうな」
「そうだね……あれは僕たちだ」
双眼鏡を覗き込む2人の表情が真面目なものへと変化する。
2人は不意にエリオの姿にあの時の自分を重ね、想像した。アルファと出会わなければ、いずれ遺跡の中でモンスターと遭遇してろくな抵抗も出来ずに殺されていた可能性を。
アキラとソラ。2人はエリオと同じ境遇であったときのことを思い出し、苦笑した。
互いに顔を見合せ、笑うように銃を構えた。
『あら、助けるの?』
意外な行動にアルファが口を開く。
「まぁね」
「これも何かの縁だ。シェリル同様にあいつを助けて俺たちの幸運の足しにしてやろう」
「ちょうど人手も欲しかったし、こき使ってあげよう」
銃の上部に取り付けられた標準器越しに狙いを定め、2人は引き金に指を掛けた。
スラム街の子どもにしては賞賛に値する健脚と体力で生き延びていたエリオはとうとう脚を持つらせてしまい、先程から置きかけられていたモンスターに追いつかれてしまった。
獣のような容姿とその姿をたらしめる大きな牙と口から垂れる涎が尻餅をついたエリオへと挿しかかろうとした直後、2発の飛来した弾丸によって頭部が撃ち抜かれたことで事なきを得た。
「た、助かった……?助かった…助かったんだ!」
「────そうそう、君は助かったんだよ。僕たちのおかげでね」
「────!?」
状況が理解できずとも、自身の命が助かったということだけを理解したエリオは目尻に涙を浮かべてそう口々に叫ぶが、その本人に掛けられた言葉によって再度、混乱の最中へと陥った。
声の届いた方へエリオが顔を向けると、そこには肩にAAHを掛けたソラと無言で手招きをするアキラの姿が目に映った。
「ほら、なにか言うことは?」
「……えっ?あ、はい。ありがとうございました……」
「ふふっ、いいでしょう。なら、少し手を貸してもらおうかな。君の名前は?」
「あ、え…エリオっていいます」
「よし、エリオ君。僕たちは初対面じゃないよね?ちょーと手伝って貰いたいんだけど、いいよね?」
荒れた息を整えながらもアキラとソラの下へ駆け寄ったエリオはどこか気まずそうな様子で2人の顔を見る。
つい先日、徒党の後ろ盾に殴りかかったというエリオの記憶に新しい出来事に冷や汗をダラダラを垂らしていたが、2人の顔色はそれほどというには悪くなく、むしろ笑顔といっていいくらいであった。
徒党に集まったスラムの子ども達の目の前で自己紹介した双子の片方の人物。ソラは笑顔でエリオへと問いかけた。
拒否権はない。
「お、重い……」
エリオがゆっくりとした足取りで目の前を歩くアキラとソラの後を追っていた。
顔は苦痛に満ちた表情で、同時に辛そうな声も上げている。
「それでもまだ少ないほうだ」
「ほら、早く行くよ」
2人から背負わている遺物の入ったリュックの重さによって生まれた苦痛からこぼした言葉にアキラとソラが反応し、急かすように声を掛けた。
エリオの通る道先にはモンスターの死体が複数確認でき、そのどれもが的確に頭部を撃ち抜かれているのが見て取れた。
「(アキラとソラはこの荷物を背負ってモンスターと戦っていたのか……それも楽々と。道理でシベア達を皆殺しにできるわけだ)」
道中、奇襲に近い形でモンスターに遭遇したが2人は焦ることなく相手の急所を狙って撃破している。
「(随分バカな真似をしちまったなぁ……)」
2人の強さを目の当たりにするエリオは内心でため息を吐きながら、肩から下がりつつあったリュックを背負いなおした。
そんな様子を見ながらアキラとソラは念話で会話をしていた。
『んー……なんかモンスター多くない?』
『確かにな。今までも何度かここに来てるはずなのに、ここまで接敵するのはおかしい気がする』
遺物収集の訓練も兼ねて何度かここへ脚を運んでいる2人は、その経験から得た感触を口にした。
『ほら、こんなモンスターとか初めて見たよ。ナニコレ、ウェポンドッグと鳥が混ざったような……』
『気味が悪いな』
遺物の重量から解放されたアキラとソラは、アルファのサポートもあって調子よく戦えており、また今までは気づかなかったことに意識を割けるようになったことで些細な変化にも気づけていた。
そして2人の言葉にアルファもまた訝しむような表情を浮かべる。
『確かに2人が初めて戦ったモンスターね。前にカツラギ達を襲ったモンスターの群れの一部がこの辺りに定着したのかもね』
『このモンスターって強いのか?』
『強さの基準で行ったらウェポンドッグとあまり変わりないわ』
『ん?なら無視してもいいんじゃないのか?』
『アキラ、重要なのはこのモンスターの強さじゃなくてなんでこのモンスターがここにいるのかだよ』
『……?何が違うんだ?』
『多分だけど、今まで僕たちが遺物収集の練習にしてた遺跡が別物になっちゃうかもってこと』
『……どういうことだ?』
『ほら、今まで見ないモンスターが居るってことは、このモンスターの他にも初めて見るモンスターもいるかもしれないってことでしょ?もしかしたらアルファさんに出会った時に居た透明な機械のモンスターもいるかもしれないってこと』
『……あの……光学迷彩のやつか』
『僕の妄想だけどね。でもカツラギは最前線ってところから来てたわけだし、もしかしたら最前線から似たようにモンスターもついてきてるかもしれないなーって』
『……実際はどうなんだアルファ?ソラの考えていることは合っているのか?』
『半々ってところね』
ソラの危惧に不安を覚えたアキラがアルファに問いかけた。
『東部のモンスターは基本的に決まった場所から移動することは少ないわ。特に遺跡に生息しているモンスターはよほどのことがない限りはそこから出ることは無いし、突発的な生息の変化もないの。それにソラがいったこの前の光学迷彩持ちのモンスターは決まった警備ルートにそって移動する種類だから基本的には持ち場を離れないと断言するわ』
『な、なんだ。やっぱりソラの考えすぎだって』
『これが半々の間違っている理由ね。もう半分のあっている方はソラの言った通りよ。カツラギが連れてきたモンスターの群れは遺跡内に生息するモンスターの分布を変えるには十分すぎる理由になるわ。それこそ普段見ないはずのモンスターの一部がこの辺りに定着して生態系が大幅に変わった可能性もあるの。その影響であの光学迷彩持ちのモンスターの警備ルートが変わってこの辺りにも出没する可能性もね』
『……まじかよ』
『可能性は高い方?それとも僕の考えすぎ?』
『現にこうして見慣れないモンスターが2人の前に出てきているわけだしね。可能性は低くないとだけ答えておくわ』
『アルファさんでも断言はできないんだ?』
『一日に2回もモンスターの群れに襲われる2人の運を考慮するとなると、私の計算も絶対とは言い切れないのよ。ゴメンなさいね?』
『はいはい、こちらこそ運が無くてわるうございましたね』
『今の俺たちの実力じゃアルファのサポートがあっても生き残れないか?』
『そうね。今の2人じゃ私のサポートを満足に受けられる状態じゃないから、それを最低限に受けられる装備を整えたいの』
『その為のこの遺物の量か』
『もしかすると、遺跡の難易度の変化でこれだけの遺物の量は今の2人ではもう2度と手に入らないかもしれないわ。貯めていてよかったわね』
『全くだよ。早く帰ろう』
『早く金と装備に変えよう。あと風呂付きの部屋に』
『そうね。早く装備を整えてしまいましょう』
アキラとソラは気を引き締めて先を急いだ。勿論、移動速度の上昇によってエリオへの負担は大きくなったが、文句を言えるような立場ではなく黙って2人の後に続いていった。
都市まで戻ったアキラとソラはそのまま直接カツラギの移動店舗であるトレーラーへと向かった。エリオもまた酷使していた脚が限界を迎えていたが、最後の力を振り絞って付いていく。
「おーい、カツラギー。居るー?」
近くまで寄ったアキラとソラが運転席に向けて手を振った。すると、いつものように店番をしていたカツラギが2人に気付いた。
「ん?アキラにソラじゃないか。それに今回は女連れじゃなくて男連れとはな、今日は客としてきたんだろうな?」
「一応は……客なのかな?こっちは荷物運びだから気にしないで」
「今回は客だ。遺物の買い取りの方だけどな」
「お、遺物の買い取りか。いいぞ、なんであれ客なら大歓迎だ。それで遺物はこいつが背負っているリュックでいいのか?」
やっとの思いで遺物を運んできたエリオはトレーラーの前に遺物の詰まったリュックを二つ卸して息も絶え絶えにしながら地面に腰を下ろした。
その降ろされたリュックサックの中身を見て機嫌良さそうに笑った。
「結構多そうだな。裏手に回りな」
カツラギの言葉通り、アキラとソラはエリオの降ろしたリュックサックをそれぞれ一つずつ取り、カツラギの後に移動した。
「とりあえず並べていくね。大きさとかで分けた方がいい?」
以前まで遺物の買い取りはスラム街よりの下位区画の買い取り所で行っていた2人は、その時の経験からある程度の仕分けをしたほうがいいのだろうかと思い出し、カツラギへと問いかけた。
「いや、仕分けはこっちでやろう。こっちも単純な種類で売っているわけじゃないからな。色々と伝手ごとに仕分けの基準があるんだ」
「あ、そう?ならとりあえず出すね」
その言葉にアキラとソラは適当に並べようとしたが、すぐにアルファから回復薬は残しておくようにと注意を受けた。
『リュックから出さないように気を付けなさい』
『見せるだけでもマズい?』
『念の為よ。どうしても売ってほしいとか言われたら面倒でしょう?』
『値段次第では1個くらいはいいんじゃないか?』
『その1個で死なずに済むかもしれないの。死にたくはないでしょ?』
『あぁ、死にたくないな。了解だ』
手に取って出そうとしていた回復薬を逆にリュックの底の方へと押し込み、別の遺物から取り出しては並べ始めた。
カツラギは目の前に並べられていく遺物の量を見てほくそ笑んでいた。
「(どこで手に入れたかは知らねぇが、結構の量じゃねぇか)」
このアキラとソラというハンターは金になる。そう判断したカツラギは今後もいい付き合いをして置こうと内心で置き留めながら並べられられた遺物の査定を始めた。
カツラギは遺物の査定を終えて、買取額を算出して笑顔を浮かべた。
「終わった?」
「あぁ、今ちょうど終わったところだ」
カツラギの様子を見ていたソラは、些細な変化に気づいてカツラギに声を掛けた。
ソラの観察力に僅かな驚きこそあれど、特に気にすることもなくアキラとソラに向き合った。
「そうだな。これだけの遺物だ……これなら全部で……500万オーラムでどうだ?」
「…………」
「…………」
カツラギの表情は実に誠実で、そして商売人の誠意にあふれていた。しかしその誠意には支払う必要もない授業料が含まれており、そしてそれはアキラとソラにしっかりと見抜かれていた。
「……よし!アキラ、これ全部ノジマさんに持っていこ!*1」
「あぁソラ。悪いなカツラギ、この遺物は全部ハンターオフィスの買取所に持っていく」
「ハンターランクも上がるし、車とか借りれないか聞いてみる?」
流れるように並べられた遺物をリュックサックへと戻そうと手に掛けた時に、カツラギが慌て出した。
「待て待て待て待て!そこは値段交渉をしようじゃないか、いきなり切り上げるな!」
「そういうのは商人同士でやってくれ。遺物の買取の度に交渉するなんて面倒なんだ」
「僕たちは商人じゃなくてハンターだからね。一発で決めて欲しいかな」
次でダメならハンターオフィスの買取所に持っていく。そう聞こえたカツラギは2人の態度から交渉用のブラフではないことを悟り、慌てて値段を釣り上げた。
「……わかった。700万オーラム!これでどうだ!」
「900万オーラム」
「いやいや、これだけの量だが流石にそれは出しすぎだ。750万、どうだ?」
最初の金額から200万オーラムも上がったことにアキラは驚いたが、ソラがカツラギからアキラの表情を隠すように目の前に出ると、すかさず値段を引き上げにかかった。
「なら800万オーラム。こっちもこれが下限」
「……わかった。800万オーラムだ、その代わり俺の店でなにか買っていけ」
「交渉成立だね。カツラギの店で何を取り扱ってるかまだ知らないし、とりあえず先にお金から良い?」
「了解だ。支払いはどうする?現金か振込か。こっちとしては現物も大歓迎だ」
「んー……現金で。その方が都合が良い場合もあってね」
そうしてチラリとエリオの方へと視線を向けたソラにカツラギもまた意図を読み取った。
「(……なるほどな、シェリル達の援助用なら現金が良いのは確かだな)」
カツラギは買い取った遺物をダリスに指示を出してトレーラーの中へと運びこんでいく。
その様子をアキラとソラが見ながら念話で会話を弾ませていた。
『500万オーラムから300万も引き上がるのか……』
『事前にアルファさんから最低額が700万オーラムって聞いてなかった500万で売ってたかもね』
『危ないところだったわね。それとアキラ。ソラが咄嗟に庇ってくれたからよかったけど、思い切り顔に出てたわよ?』
『……悪かったって』
目の前の遺物が運びだされていく様子を見ながら、更に2人と1人にしか聞こえない会話を続ける。
『この遺物はどうなるんだろうな』
『一応800万オーラムで売れたけど、多分カツラギの色んな伝手でそれ以上の価格で売られるんじゃない?』
『そうなのか?』
『そうね。ソラの言う通り、かなり割増で売られるはずよ』
『800万オーラムの割増って……買い手はいるのか?』
『そこはカツラギの経営努力次第ね。鑑定内容から品質だの保証だの、なんだかんだの理由を付ければ買い手は十分に居るわ』
『へぇー……僕たちもやれば出来るのか?』
『難しいわね。カツラギの行いはあくまでも長年の付き合いと信用によって成り立ってるものだから、見ず知らずの子どものハンターが持ち込んだ遺物はどれだけ品質や保証があったとしても買い手が現れるとは限らないの』
『ありゃ、それは残念』
『まぁ、そこはカツラギの好きにさせたらいいさ。こっちとしても文句ない額を手に入れたんだ』
そう話しながらトレーラーの中へと収められた遺物を最後まで見届けた2人の下にカツラギがやってきた。
「待たせたな、これが代金だ。現金の方が便利なんだろうが振込の方が色々と楽なんだ」
「まぁ考えとくよ」
スラム街暮らしだったアキラとソラには口座なんてものはなく、現金でのやり取りが基本だった。そのため、今後の大金の取り扱いの一歩としてハンターオフィスで口座を作っておかなくてはいけない。
そう考える2人の目の前に出されたのは子どもの片手でギリギリ持てるかどうかの量の札束であった。計800万オーラム。それは、疲労困憊で休んでいたエリオに大きな動揺をもたらしたが、一方のアキラとソラは特に驚くような様子は見せずにリュックにしまったりら
この程度の額は2人にとっては驚くような額でもなんでもない。そう考えたエリオだったが、その予想に反してアキラとソラは内心でため息をついていた。
『……はぁ。このお金全部が装備代になるのか……』
『先行投資ってことで考えれば……いや、無理か』
『この後にも隠した遺物を売るのだから、今のうちに大金に慣れておきなさい』
手にした大金をすぐに使い切る予定に落ち込みながらも2人はカツラギのトレーラーから去ろうとしてカツラギから声を掛けられた。
「ん?なんだ、もう帰るのか。さっきも言ったが何か買っていけよ」
「それはこれから考えるよ。あれだけの荷物を抱えてきたんだし、疲れてるんだ」
「また明日来るよ」
「そうか、ならいいぞ。明日もここにいる予定だ」
「じゃあねー」
そういってトレーラーを後にしようとしたところでエリオのように気が付いた。
「ん?用は済んだから帰って良いぞ」
「エリオも手伝ってくれてありがとね……あ、そうだ。はい、これ」
「……えっ?」
複雑な表情で2人を見ていたエリオの様子にアキラは帰るように催促した後、ソラがバッグの中から財布を取り出して紙幣を3枚取り出してエリオに差し出した。
「3万オーラム。遺跡からここまでの運び賃ってことで」
「わざわざ渡す必要はないんじゃないか?命を助けてやったんだから、それで十分だろ」
「僕も最初はそう思ってたけど、エリオが居てくれたおかげで僕たちは楽に道中のモンスターを倒せたんだし、これくらいはいいかなって」
「そうか?」
「うん。それにもし僕たちがエリオと逆の立場なら嫌だし……僕は出来る限り
「……そうだな。エリオ、助かった。そいつは運び賃として受け取れ」
ソラの言葉に納得したアキラはこれで貸し借りは無しだという意味も含んだ言葉を残して背を向けた。
「それじゃそういうことで。じゃあね」
ソラもまた3万オーラムを茫然とするエリオの手を取って乗せると、そのままアキラの後を追った。
その様子を見たエリオは我に返り、慌てて声をあげた。
「ま、待ってくれ!」
「「……ん?」」
シェリルの徒党から追い出されたエリオは、なんとか復帰するために手段や方法を模索したところなのだ。これ以上の機会は2度と訪れない。そう感じ取ったエリオは賭けに出た。
「この運び賃は……い……要らない!その代わりにシェリルに話をしてくれないか!?この前のことで徒党を追い出されてもう死にそうなんだ!頼む、助けてくれ!」
ソラから渡されたばかりの3万オーラムと頭を地面に置いて頼み込むエリオの様子に2人はあっけにとられた。
「……えっと……」
「その3万オーラムで徒党に入れてくれとでも頼んだらどうだ?スラム街の子どもにとって3万オーラムは大金だろ」
「いや、俺はアキラさんとソラさんを怒らせたってことで、シェリルに良く思われてないんだ。だからこの3万オーラムを渡しても入れてくれないかもしれない……お願いだ!命を助けてもらったけど、徒党に戻れないならすぐに死んでしまう!」
アキラとソラは顔を見合わせて考え込んだ。その様子にエリオは機嫌を損ねてしまったのではと思った。ここで失敗すればもう2度と徒党への復帰も、そしてスラム街の路地裏での生活もできないと確信していた。
だから上手くいってくれ、そう祈りながら再度頭を地面へとこすりつけた。
そんな様子に2人は考えを巡らせていた。
『……アキラ、僕ってこの子にキレてたっけ?』
『いや、あの時は演技だろ。シェリルを手伝うっていう示しとして』
『どちらかというとシベアって男の話を聞いていた時の方が怒っていたと思うわ』
『だよね?……まぁ、3万オーラムはいらないって言うくらいなら手伝う?』
『まぁ、ソラの好きにしたらいいさ』
『おっけー』
アルファも加えた念話にて結論を出したソラは頭を下げるエリオの目の前にしゃがんで3万オーラムを拾った。
「わかった、運び賃の代わりってことだね。僕たちは何をすればいいのかな?」
「……えっ?い、いいのか!?」
「まぁ、運び賃の代わりだからね。それで、なにをすればいいの?」
もったいぶってソラの気を変えたくない。エリオは自分を再度シェリルの徒党に入れてくれるように口を聞いて欲しいと頼みこんだ。
「よし、それじゃあ今からシェリルのところに行こっか。アキラはどうする?先に部屋に戻っておく?」
「いや、ソラの決めたことだ。最後まで付き合う」
「分かった。ほら、もう日も暮れてきてるし早くいくよ」
そう言ってソラが立ち上げると、アキラと共にシェリルの拠点の方へと歩いて行った。その後を追うようにエリオもまたすぐに立ち上がって2人の後を追った。
その様子をカツラギは興味深く見ていた。よく手懐けていると感心した様子で。
元シベア現シェリルの徒党の拠点の前に付いたアキラとソラ、そしてエリオはとりあえずシェリルに連絡を取ることにした。
「えっと……シェリルの連絡先はー……」
「……え、エリオ!?」
そう言いながらポチポチと情報端末を扱うソラとそれを横から見るアキラ、そしてどこか落ち着かない様子のエリオに対して声を掛けるものがいた。
「あ、アリシア!」
「ん、どうした。知り合いか?」
拠点から出てきた人物、アリシアがちょうど3人を見つけて駆け寄ってきたのだ。
「あ、ちょうどいいや。えっと……アリシア?っていうのかな。ちょっとシェリルに用事があるから呼んできてくれる?」
「……え、あ……えっと……」
「頼むアリシア。なんとか徒党に戻れないかシェリルと交渉したいんだ……」
「わ、わかったわ……一体何があったの?」
「まぁ、それも含めて僕からシェリルに話すよ。とりあえず呼んでくれるかな」
「わ、わかりました……」
そういってソラに言われ拠点の中に戻っていくアリシアを見送った後、興味本位でソラが訪ねた。
「そういえば徒党って何してるの?スリとか?」
「確かにな。そういえば収入なんてそれぐらいしかなさそうだが……」
スラム街は安全に目をつむれば配給の食事や雨水などで飲み食いに困ることは意外にも少ない。だが、それ以上を求めるにはどうしてもお金が必要となる。
「えっと………鉄くず拾いとか、縄張りの掃除をやったりしてます。鉄くずは纏まった量があれば業者に渡したらちょっとしたお金になるんで……」
「へぇー、そうなんだ……初耳だね。縄張りの掃除ってのは?スラム街の掃除って言ったら死体とかありそうだけど」
「そ、そういった死体の掃除のついでに所持品を剥いで徒党の備品にするんです。徒党の縄張りの管理はその徒党が請け負うのが普通みたいです」
「なるほどな。なら、シベアってやつらを殺した後も死体が放置されていたのはその掃除するやつ自体が死体になったからか*3」
「まぁ僕たちが殺したんだけどね」
「あいつらが先に手を出したんだ。自業自得だろ」
「まぁね。あ、となるとシベアたちの死体って君たちが片づけたの?」
「えっと……自分は仕事を貰う前に徒党から追い出されたので、そのあたりはちょっと……」
「あ、そういえばそうだったね」
「そんなこともあったな」
そんな話をしていると、拠点の中からシェリルを連れたアリシアが戻ってきた。どこか表情のこわばったシェリルに2人は疑問を浮かべながらもシェリルに話をする。
「呼んでくれてありがとねアリシア。シェリルも久しぶり、ちょっと話がしたいけど、時間は大丈夫?」
「いらっしゃいませソラ、アキラ。はい、時間なら空いているので大丈夫ですが……えっと……もしかしてエリオが何かしましたか?」
アキラとソラの表情を伺い、不機嫌そうには見えないことに安堵しながらもエリオに視線を向けて一瞥するように視線を2人に戻した。
「いや、別にエリオから何かされたわけじゃなくてね。エリオはこの徒党から追い出されたんでしょ?」
「はい。以前にアキラとソラに向かって殴り掛かったので、そのケジメとして追い出しました」
「あー、そうなんだ。まぁ気にしてないからいいよ。それでちょっと頼みがあるんだけど、エリオをもう1度シェリルの徒党に入れてくれない?」
ソラの言葉にシェリルが意外そうな表情を浮かべ、アキラを見た。
「ソラがそう言うのなら私は構いませんが……その、良いんですか?」
「ん、俺か?あぁ、良いぞ。こいつにはちょっと仕事を手伝ってもらったからな」
アキラとソラの頼みを断るという選択肢はない。どんな頼み事でも請け負うつもりのシェリルはこの程度など些事として受け入れた。
「分かりました。そういうことでしたら」
その言葉を聞いたエリオは安堵の息を吐いて、シェリルを呼んだアリシアは嬉しそうに笑った。
「それじゃエリオ。3万オーラム分の報酬はこれでいいかな」
「さっ、3万オーラム!?」
「だ、大丈夫です。その、ありがとうございました」
3万オーラムという単語に驚いたシェリルと頭を下げて礼をいうエリオ。それを見た2人は拠点を後にしようとした。
「それじゃ、僕たちはこれで」
「じゃあな……あ、そうだ。エリオ、シェリルに余計なことを話すな。シェリル、エリオに余計なことを聞くな。いいな?」
「わ、わかった」
「分かりました」
それを言い残したアキラとソラはそのまま拠点から帰っていった。
アキラとソラが去った後、愛想よい微笑みを変えてエリオに問いただした。
「それで、何があったの?」
そう聞かれたエリオはアキラとソラとの経緯を話そうとして、口を止めた。
余計なことを話すな。そう言い残されたアキラの言葉を脳裏に浮かべて慎重に口を開いた。
「……色々あって、アキラとソラに命を助けてもらった。そしたら仕事を頼まれて……その報酬でシェリルの徒党に戻して欲しいの頼んだ。それだけだ」
「それだけって……一体何があったのか……それにさっきソラが言った3万オーラムってのも」
「頼む!アキラの言った余計なことが何かが分からないんだ!無理やり口を割らされたらシェリルも何されるか分からないだろ!?」
怯えた表情のエリオにシェリルは驚いた。アキラに殴り掛かったときとは大違いの慌てっぷりだからだ。
「なら、これだけは聞かせて。アキラとソラはもう怒ってないのね?」
「……多分、大丈夫だと思う。俺が殴りかかったことすら忘れかけてたみたいだし、死んでほしかったら見殺しにするはずだ」
「そう、ならいいわ。なら早速仕事を割り振るわ。まずは────」
アキラとの言う余計な事とはなんなのか。
あれだけの遺物の量を集めたことなのか。
カツラギとの交渉でその遺物が800万オーラムで取引されたことなのか。
報酬として3万オーラムを渡されたが、金を受け取らずにシェリルに口利きを頼んだことなのか。
それとも、遺物を運ぶ道中でアキラとソラが見せた脅威的な索敵、狙撃能力なのか。
それらを判断しきれないエリオは僅かな幸運を握り締めて、湧き出る興味に蓋をした。
誰にも絶対に離さないという意志を込めて。