リビルドワールド もしもアキラに双子が居たら   作:バグキャラ

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脅迫

「全部で900万オーラムってところだな」

 

「…………」

 

「…………全部で?」

 

「そうだ。ちゃんと俺の持っている伝手や売り手を考慮した上での額だ。文句は言わせないぞ」

 

 トレーラーの中でアキラとソラが持ってきた遺物を前にしてカツラギは鑑定額を言った。

 

 その量は前日にエリオに運ばせた遺物の量の3倍以上の量だが、鑑定価格としてはさほど差はなく、それはアキラとソラの表情を僅かに曇らせた。

 

「納得いかないならハンターオフィスにでも持っていけばいい。ハンターランクの上昇分も合わせて買い取り額は減るだろうがな」

 

「……むぅ……」

 

「……いや、その額でいい」

 

 嘘をつくような素ぶりもなく、しっかりと買い取り額を提示された2人は顔を見合わせたのちにしぶしぶといった様子で了承した。

 

「まぁ、そんな顔をするなって。これでも高値を付けたほうだ。むしろ傷ありのものも出来る限りの相場で買い取ったつもりだぞ?」

 

「……まぁ、それならいいけどさぁ」

 

「これだけの遺物の価値が昨日の遺物と同じくらいだと言われたら誰だって落ち込む」

 

「まぁ、そうだな。それで、支払いはどうする?昨日と同じように現金でいいか?」

 

「いや、口座があるからそっちに振り込んで」

 

「なんだ、持ってたのか?それなら昨日も振込で良かったじゃないか」

 

「こっちだって色々あるんだよ。はい、これがハンター証」

 

 先程、カツラギのトレーラーの中で買い物をしたときと同様に口座と紐づいたハンター証を取り出したソラは、目の前のカツラギに提示する。カツラギもまた情報端末を取り出してソラのハンター証を読み取ると、問題なく口座に900万オーラムが入金された。

 

「終わったぞ。これで昨日と合わせて1700万オーラムの売り上げってわけだ。これからもよろしく頼むぜ?」

 

「まぁ、今後次第ってことで……あ、そうだ」

 

 ハンター証を受け取ったソラが思い出したかのようにリュックに手を伸ばすと、そのまま使い慣れた容器を取り出してカツラギに見せた。

 

「これなんだけどさ。カツラギは知ってる?」

 

「───旧世界製の回復薬じゃないか。どこで手に入れた……いや、その前に売るのか?」

 

 回復薬の容器を見せた瞬間、確かに目の色が変わったカツラギの様子をソラはしっかりと見ており、わずかに眼を薄く伸ばした。

 

「空だよ、空。この前遺跡の中で()()1()()()()手に入れたんだけど、その後にアキラと一緒に死にかけてね。その時に全部使っちゃった」

 

「なんだよ、空か」

 

 わざとらしく目の前で容器を振るソラにカツラギはわざとらしくため息をついて、鑑定を終えたばかりの遺物を専用の収納に仕舞い始めた。その様子をソラは背後から見ながらも話を続ける。

 

「いやー、その時のことなんだけどさ。脚を怪我していもう歩けないんじゃないかってくらい痛い思いをしたんだけど、これを使ったらもう全然!少し経ったらすぐに歩けるようになってね。その後に使った後に貴重品だったんじゃないかなーって」

 

 空箱のラベルを見ながらカツラギに偽と事実の状況を混ぜるようにして話すソラに、カツラギは興味なさそうにして作業をする。

 

「また見つけた時用に空箱も取ってるんだけど、中々見つからないもんだね」

 

「そりゃそうだ。旧世界製の回復薬なんてもんは貴重も貴重だ。また見つけたらすぐに売りに来いよ?」

 

「見つけたらね?でも、そこまでして欲しいってことは、結構高くついたりする?」

 

「そりゃあな。買い取り価格で言えばさっきの遺物の買い取り額に桁が一個増えるくらいだ」

 

「……まじ?回復薬って消耗品でしょ?」

 

 最低でもこの回復薬1つに100万オーラム以上の値が付くことに驚いたアキラとソラ。

 

「ハンターなら誰しも自分の命に高値を付けるもんだ。高価だろうが買って助かる額の消耗品なら誰だって買う」

 

「まぁ、そうだね。じゃあ僕たちはもう行くよ」

 

「またな」

 

「あぁ、また遺物を集めたら持ってこい。そしてうちで買っていけ」

 

「お金があったらねー」

 

 そんな会話をしながら2人はカツラギのトレーラーを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カツラギのトレーラーから宿屋に戻った2人は口座の残高を見ながらため息をついていた。

 

「……はぁ」

 

「もう3回目のため息だよアキラ」

 

「しょうがないだろ?折角の大金がこれからの装備代に消えるんだ。ため息だってつきたくなる」

 

「お金ならまた稼げばいいよ。……お、強化服ってこんな感じなんだ」

 

 アキラは作ったばかりの口座を情報端末で見ていたが、ソラはネットでこれから買う強化服という商品について調べていた。

 

「へぇー……強化服にはエネルギーパックってのが必要みたいだけど……これまた中々のお値段」

 

『銃弾以外にも消耗品に予算を割く必要が出てくるから、その点も考慮しての選択が大事ね』

 

「……むぅ……」

 

「俺たちが見てもどれが良いのか分からないな」

 

「……どうする?適当に選んで失敗するくらいならシズカさんにでも聞いてみる?」

 

「……あそこに強化服なんて置いてたか?」

 

「いや、とりあえず弾薬の補充も兼ねての相談だよ。もし在庫が無くても注文とかできるなら、その方がいいし」

 

「まぁ、そうだな。変に店を選んで吹っ掛けられても嫌だ」

 

「ひとまずお店に言ってみよっか」

 

 情報端末を仕舞い、リュックを背負ったソラに続くようにしてアキラも立ち上がって宿屋を後にする。

 

「予算は僕とアキラで計1500万オーラムってところか」

 

『残りの額は再起用にとっておきましょう』

 

「AAHとアルファさんが居れば何とかなるもんね」

 

 

 

 

 

 

 アキラとソラはシズカの店を訪れていた。

 

 店内に客はおらず、店主は暇そうに頬杖をついて店の壁に付けられたテレビを眺めていたが、アキラとソラに気が付くとすぐに姿勢を正して愛想よく笑った。

 

「いらっしゃい2人とも。今日も弾薬の補充かしら?」

 

「あー、それもあるんですけど。今日は装備のことで相談がありまして」

 

「あら、AAH突撃銃とARH自動拳銃を買ってから随分立ったけどようやく新しい装備を買ってくれる気になったのね?」

 

「売り上げに貢献できなくてすみません」

 

「初めて買った銃の使い勝手が良くてですね」

 

「私の店も弾薬だけの売り上げだと厳しくてね?2人の売り上げ額に期待させてもらうわ」

 

 揶揄うように微笑むシズカに2人は申し訳なさそうにしながらも、装備についての相談を始めた。

 

「……強化服かー。まぁ、私のお店でも扱っていない訳じゃないのだけどね。どちらかと言えば銃火器だったり、他の消耗品や雑貨がメインだから、実物を置いていないの」

 

 アキラとソラから新たな装備、強化服に関する相談を受けたシズカは唸るようにしつつも丁寧に話を始めた。

 

「展示品も飾っていないから実物を見てでの判断だったり、使用感を確かめることが出来ないし、それに注文してメーカーから取り寄せて……みたいな流れになるから時間もかかるかもしれないわよ?」

 

「へぇー……そうなんですね」

 

「でも俺たちは強化服の専門店の場所すら知りませんし、子どもだからってことで店に入れてくれるかもわからないので、シズカさんにお願いしてもいいですか?」

 

 シズカの店で強化服を注文することによるデメリットを本人から直接教えられた2人は、特に迷うようなこともなく頼んだ。

 

「僕たちは強化服の知識なんてネットで知ったぐらいしか分かりませんし、なんなら店員に流されるままで買ったら失敗しそうで……」

 

「前にサラさんから装備品のことはシズカさんに聞けば大丈夫だと教えてもらったので、迷惑じゃなければお願いできないかと」

 

「そうね。そこまで言われたら断れないわね。わかったわ、私の勘でよければ相談に乗らせてもらうわ。それで、予算はどれくらいなの?」

 

 知り合い繋がりとは言え、自身に相談してくれることを喜びならもまずは大事な部分を聞いたシズカに2人は何気なく答えた。

 

「2人で1500万オーラムです」

 

「もう少しだけ出せますけど、何かあったときの為のお金なのでこの額を目安にお願いします」

 

 予想外の予算を聞いたシズカは僅かに驚いたような表情を浮かべた後、少し責めるような視線を2人に向けた。

 

「……そのお金の出どころは?遺物を売ったの?1500万オーラムなんて額は、相当の遺物を集めるか、もしくは───」

 

 そこまで口にしたところで口を閉ざした。シズカの瞳に映ったのは慌てて言い訳を考えるようなアキラと、そしてその隣で警戒するような雰囲気を出し始めたソラだった。

 

「……このお金は僕とアキラが長い間、死ぬ気で集め続けた遺物を売ったときのお金です。誰かから奪ったりしたお金じゃありません。僕とアキラの口座の入金履歴にも遺物買い取りとして同じ額が振込がされています」

 

 シズカの持ち前の洞察力と勘によってあっさりと予算の出所を把握したシズカだったが、それに警戒したソラが無意識的にアキラを庇えるように身体を近づけ、視線をシズカにぶつけた。

 

 それに気づいたシズカもまたすぐに訂正する。

 

「ごめんなさいソラ、そういう意味じゃないの。変な誤解をさせてしまったかもしれないから言い直すわ。このお金は2人が頑張って稼いだ額だというのは分かる。でも、それはかなり危険な場所にいって、そして長い時間を掛けて活動する必要があるわ。少し前に死にかけたのに、また無理をしたのかもって心配したの」

 

 その説明を受けたソラは警戒を解き、申し訳なさそう謝った。

 

「す、すみません。その……シズカさんは心配してくれたのに」

 

「いいえ、私も聞き方が悪かったわ。2人が頑張ってお金を稼いできたことは分かる。でも無理はしてほしくないの。お金を稼いで良い装備を買いたいのは分かるけど、それで無茶をして命を落とすような真似はしないで」

 

「……分かりました」

 

「お気遣い、ありがとうございます」

 

 シズカの視線は厳しいものだが、それと同時に2人の身を案じる意志が込められていた。

 

 アキラとソラはお互いを除いて誰かに心配されることに慣れていない。特に打算なく心配される場合は、その反応が顕著に表れた。

 

 スラム街で生まれ、スラム街で育った2人は常に相手を疑うようにして生きてきた。

 

 あからさまな疑いを浮かべるアキラとは対照に、柔らくどこか慣れ親しみやすさやその物腰を感じるソラのそれも表面上のものだけであり、常に相手の感情や所作を観察して警戒し、疑っていた。

 

 それ故の生き方をしてきた2人にとってシズカの配慮は、どこか申し訳ない感情や居心地の悪さが混じったものになっていた。

 

「よし、それじゃあ2人の欲しい強化服の要望とかを聞きましょうか。よほどのこだわりが無ければ同じメーカーで買った方がいいと思うわ。2着の注文だから少しだけ割引が聞くかもしれないわよ?」

 

「そのあたりはシズカさんに任せます」

 

「そのあたりも全然知らないので、プロにお願いしますよ」

 

「よし、任されたわ。性能の要望はあるかしら?言うだけなら只だから、とにかく好きに言ってみてちょうだい」

 

 そうしてシズカはアキラとソラが望む強化服の性能についてまとめ上げて言った。

 

 長時間安定して使用できる強化服が欲しい。

 

 強化服に使用するエネルギーパックも安価で燃費が良いもの。超人的と言われるほどの身体能力を得るよりは、恒常的に身体能力を上げる製品がいい。

 

 巨大な銃を扱えるようになるような製品よりも、現時点で使用しているAAH突撃銃やARH自動拳銃などの個人兵装を扱える程度の物がいい。

 

 着脱衣が簡単で、メンテナンスも比較的容易なもの。

 

 そして強化服の制御端末が情報収集機器等や情報端末と連携が出来る製品がいいとのことだった。

 

 その要望を聞いたシズカは難しい表情を浮かべた。

 

 前半部分の要望は強化服を購入する者が望む一般的な性能であるが、最後の方の制御端末に関する要望については専門的なものが多かった。その部分をシズカは不思議そうに尋ねた。

 

「確かに強化服にも色々な種類があって、機械式の強化服でも制御措置がついていない製品もあるわ。強化服の制御装置が売りの読み取り式の商品もあれば、追従式って言っていって初めて強化服を買う人が扱う商品もあるの。2人は強化服全体の性能が制御装置よりの製品が欲しいってことだけど……どこでそんな話を聞いてきたの?ネットにあるような話だったらあまりお勧めはしないのだけれど」

 

「……いや、僕たちも詳しい話を聞いたわけじゃなくて……ただそういうのが良いって話を偶々耳にしたぐらいです」

 

「何か、変でしたか?」

 

「いいえ、もしろ驚いたのよ。強化服でも専門的な部分をこだわるハンターは多いわ。それに、初めての強化服なんだから、多くの人から意見を求めるのも大事よ。今みたいにね?」

 

 シズカがアキラとソラの様子を確認してそう話した。明確な知識や拘こだわりがある訳ではなく、どこかで誰かから聞いた話を少し鵜呑みにしているように感じたからだ。

 

 おそらく、どこかのハンターが強化服について話していたのを聞いていた。ハンターが自慢した内容を参考にして今回強化服を買う際の要望にそれを付け加えてみた───その程度だろうと。

 

 アキラとソラがアルファから伝えられた内容をそのままシズカに伝えた時の内容からシズカは自身の勘を基にかなり近い推測をすると、それで納得してそれ以上深くは聞かなかった。

 

「……よし、わかったわ。それじゃあこの内容にある製品を私の方から勝手に選ぶけど、本当にそれでいいのよね?あとでやっぱり無理だとなってもキャンセルは難しいけど」

 

「はい、それでお願いします」

 

「支払いについてもだけど、私のお店から他の問屋を通す以上、全額前金が前提になるわ。もしくは時間が掛かるけど私が商品を選んだ後に2人に連絡して、詳細な情報などを把握してから最終的な注文ってこともできるのだけど……」

 

「んー……ちなみに今すぐ支払えば、その分だけ早くなったりってしますか?」

 

「まぁ、それはね。即金ってのは信用的な意味でもかなり強くて、数か月後の1000万、2000万よりも1秒後の100万オーラムの方が大事だったりするの。交渉において即断即決を迫ってくるのは詐欺だけど、逆にこっちから即金、それも全額を前払いで出すとなると強い切り札になるわ。支払いの確実性といった点でね」

 

「それなら今すぐ支払います。口座もあるので、今後の買い物などもここから引き落としでお願いします」

 

 そういって今度はアキラがハンター証を取り出した。

 

「……本当にいいのね?私が変な商品を選んだりとかしたらどうするの?」

 

「その時はその時です。俺たちの命の恩人が信用している人にお金を預けて、そして商品が届いて満足できなかったら、それは自分たちの責任なので。運が悪かったとしておきます」

 

「あら、それは私の腕が悪いようにも聞こえるわね?」

 

「それだけ信用しているってことでお願いします」

 

 アキラとソラは可能な限り信用できる店を、自分たちが出来る限り信用するようにしていた。それで無理だったら諦めるしかない。そんな様子にシズカも応じた。

 

「そこまで言われたら仕方ないわね。わかったわ、良い商品を持ってくるから任しておきなさい」

 

 アキラの差し出したハンター証を受け取り、カウンターに置かれた端末にかざした。支払い額1500万オーラムが一度に引き落とされ、2人の口座が寂しいものへと変わった。

 

「これで支払い処理は済んだわ。口座持ちのハンターになったかたといって油断していると、あっという間に借金生活になるのだから気を付けてね?」

 

 ハンター生活において弾薬費や治療費が嵩んで失敗するハンターは多い。依頼を受けて失敗したとなれば、違約金や賠償金も発生する為、預金には余裕を持っておくのが常識だった。

 

 その忠告に2人はしっかりと頷いた。

 

「分かりました」

 

「もしもの為にこれからまた稼いでいきますよ」

 

「無理はダメよ?それじゃあ、強化服の採寸をするからこっちに来て」

 

 店のカウンターの裏側へ続く扉を開いたシズカの後を追った2人。店頭で販売している弾薬の在庫や他の雑貨などが積まれており、興味深そうに見渡していた。

 

「はい、しっかり採寸するから、下着以外を脱いで」

 

 言われた通りに衣服を脱いだアキラとソラの身体をシズカは手持ちのスキャナーで隅々まで読み取っていく。

 

「結構本格的にやるんですね」

 

「これでもまだまだ簡易的よ?測定に誤差が出るといけないからあんまり動かないでね」

 

「ちなみに本格的にやるとなるとどんな感じになるんですか?」

 

「そうね……専門店にもよるけど、測定用の衣服に着替えてから更に大型の測定器に入って全身を隈なく調べるのよ。単純な体格や姿勢は勿論、内臓や筋肉の配置に神経の通ってる場所まで。なんなら使っている回復薬の残留ナノマシンや身体拡張者のナノマシンの配置まで。本当に特注の強化服を用意するときはもっと調べるんだけどね」

 

 そんな話をしながら2人の身体にスキャナーの光を走らせるシズカの表情は暗かった。

 

 アキラとソラの身体は傷だらけだからだ。大小など様々な大きさの古傷が目に見えて確認でき、その中でもアキラのえぐれたような腹部や太腿の弾痕、ソラの背中の切られたような傷に腕の裂け傷は目立っていた。

 

『そういえばこんな傷もあったねー』

 

『アルファと出会う前のことだったか』

 

『そうそう、スラム街にモンスターが沢山入ってきたときのやつだよ。ウェポンドッグのウェポン抜きみたいなモンスターにガブっていかれたやつ。アキラの怪我は……あの2人組のハンターの時のやつだ』

 

『俺が先走ってやらかしたやつだよ』

 

 そんな軽い雰囲気でお互いの身体の傷を指差すようにする様子をシズカは手を止めて見ていた。

 

 これらの怪我を負う状況がアキラとソラの不運であり、その状況から生還できたのがアキラの幸運(アルファのおかげ)だ。もしも、不運が幸運側にわずかでも偏れば、とっくの前にアキラとソラは死んでいたであろう。

 

 今後もアキラとソラがハンター稼業を続ける以上は、似たような傷が増えていく。しかし、それは幸運によるものだろう。2人の不運が幸運側に偏るようなことがないことをシズカはただ祈ることしかできなかった。

 

「……ん、シズカさん?」

 

「あ、終わりました?」

 

「……えぇ。これで採寸は終わりよ、もう服を着て大丈夫よ」

 

 作業の途中で手を止めたかの様子のシズカを不思議に思った2人は声を掛けたが、シズカはすぐに気を取り直して普段のほほ笑みを浮かべた。

 

 いそいそとシズカに譲ってもらった防護服を着直しながら今後の流れについての確認を行う。

 

「これから私が2人の強化服を選んで、さっき取った身体データを送って、企業の方でサイズを調製してもらって、そしたら企業が商品をこっちに送って……といった流れになるわ。強化服が届くのは早くて1週間、おそくても1か月くらいね。店に届いたらすぐ2人に連絡するから早く取りにきて頂戴ね」

 

「分かりました。色々と相談に乗ってくれてありがとうございました」

 

「シズカさんに相談して良かったです」

「良いのよ。アキラとソラが強化服を装備すれば、このお店でもっと重くて高い装備を進められるようになるのだから。先行投資として考えるのであれば安いものだわ」

 

「まぁ、新しい武器を進められるぐらいの常連になれるように頑張ります」

 

「気長に待っててください」

 

「期待しているわよ」

 

 そうしてカウンターの裏から出てきた2人は、そのままシズカの店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必要な買い物も終え、本日の予定が終了した2人は宿の部屋に戻ると、今後の予定をアルファに尋ねていた。

 

「射撃訓練とかはしないのか?」

 

「それと遺物収集。お金も結構使ったからまた稼ぎに行きたいところだけど……」

 

『注文した強化服が届くまでは宿に籠っていましょう。2人の基礎的な学力はついてきたし、座学や東部の一般的なハンター稼業についての情報収集でもしましょうか』

 

「強化服が届くまでって……もしかして1か月も部屋に?」

 

「そうしたら金が足りなくなるだろ?」

 

『えぇ、だから宿屋を変えましょう。宿泊費を切り詰めれば1か月は持つと思うわ』

「……宿泊費を下げるのか」

 

「お風呂付きの部屋がまた遠のくね」

 

「……もう一回くらい遺跡に行ってもいいんじゃないか?」

 

 宿泊費を下げれば当然宿泊する部屋の質も下がる。ソラの言った通り風呂付の部屋など論外であり、アキラはそれを嫌がって再度遺物収集を提案した。が、その要望はアルファによってバッサリと切り捨てられた。

 

『駄目よ。言ったでしょう?私はアキラとソラの不運を過少評価していたの。2人の強化服が届くまでは都市の外に出さないつもりよ』

 

「えー……」

 

「まぁ、勉強は大事だよ。うん」

 

 2人の識字能力はアルファと出会う前と比べて格段に上昇しており、今朝のカツラギのトレーラーでの買い物時も勉強のおかげで問題なく値札や商品の名前を認識することが出来ていた。

 

『さて、強化服が届くまで時間が空いたけど、時間は有効活用するわよ。ノートを開いて』

 

「……はぁ……」

 

「まぁ強化服が届くまでの我慢だよ、我慢」

 

 宿の壁に黒板を表示したアルファを見た2人は使い慣れてきたリュックサックからノートと筆記用具を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強化服の注文を終えてから約2週間。アキラとソラは勉強付け日々を送っていた。アルファの宣言通りに宿泊している部屋から一歩も外へ出ることは無く、風呂のない狭く安い部屋で勉強を続けていた。

 

 アキラは日々の入浴欲は備え付けの簡易的なシャワーでごまかしており、毎日を小さな机の上にノートを開いている。

 

 ソラは部屋の布団の上に寝転がり、情報端末を操作しながらネットの海に散らばるハンター向けの商品の情報を集めていた。

 

 ソラの基礎的な学習レベルはアキラに大きさな差をつけており、四則演算について一般的な学習を終えた者と遜色ないほどにはマスターしたと言えるものだった。

 

 それ故、ソラは一足先に勉強を抜けて今後のハンター稼業に役立つ情報を集めていた。

 

「……お、これとか良さそう。情報収集機器だって。センバエレクトロニクス製*1……センバって五大企業の千葉か」

 

「…………んー……」

 

「アキラの勉強具合はどんな感じ?」

 

『基礎的な部分については及第点ってところね。ただ応用になると途端に躓くわ』

 

「…………」

 

「まぁ、そこは繰り返しやって覚えていくしかないよ。アルファさんの教え方はすごく分かりやすいし……あれ?」

 

 勉強に四苦八苦するアキラを励ますソラは突如として情報端末にシェリルから通話要求が届いたことを確認した。

 

「アキラ―。なんかシェリルから連絡が来たんだけど」

 

「シェリル?なんの用だ?」

 

「さぁ?とりあえず出るね……はいはーい、ソラだけど。どうしたの?」

 

 特に考えることなく通話要求を受け取ったソラが情報端末をスピーカーの状態にすると、焦りと緊張が滲んだ声が聞こえてきた。

 

「シェリルです。お忙しいところ申し訳ございません。今から拠点の方に御足労いただけないでしょうか?」

 

「ん、シェリルの徒党にか?」

 

「実は他の徒党の人間がどうしてもアキラと会って話がしたいと言っていて……」

 

「シェリルが徒党のボスだから、僕たちは関係ないでしょ───って思ったけど、子どもだらけの徒党だし後ろ盾みたいな存在がいるか確認したい感じか」

 

「ご理解、ありがとうございます。私の方でも断ったのですが、来ないならアキラとソラの居る宿に押し掛けるとまで言いだして……」

 

「……面倒だな」

 

「だね。とりあえず僕がそっちにいくから、適当に話の内容でも聞いてて」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

「……俺もいく。こっちもちょうどダレてきたところなんだ」

 

「物騒な気分転換だねー」

 

 そんな話をしながら情報端末を仕舞うと当たり前のようにAAH突撃銃を手に取り、ARH自動拳銃の入ったホルスターを身に付ける。そしてソラの後を追うようにアキラも立ち上がり防護服を羽織った。

 

『強化服が届くまでの間は外出を控えて欲しいのだけれどね』

 

「だからって籠って面倒なのが来たら嫌だろ」

 

「変に問題起こされて宿屋からお金を請求されたらたまったもんじゃないよ」

 

 アキラとソラは遺跡へ向かう時と同様に準備を済ませてからシェリルの拠点へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェリルはアキラとソラへの連絡を終えて、なんとか拠点へとやってきたワタバという男と他の者一行から要件を聞こうとしていたが、小馬鹿にするだけで要件を離すことは無く、ただ睨みつけることだけしかできていなかった。

 

 そこにアキラとソラがやってきた。徒党のメンバーが慌てて2人を避けて道をつくる様子にシェリルも気づいたが、面倒そうな表情を浮かべていた為にこちらから近寄ることは無かった。

 

 アキラとソラもまた場の雰囲気から面倒事だと理解しており、周りの注目を集めながらシェリルの側まで歩いてきた。

 

「それで、話って?」

 

「…………」

 

 アキラがシェリルへと要件を聞き、そしてソラは面倒そうに口を閉ざしたまま手を防護服のポケットに手を入れていた。

 

「それが……」

 

「ふん、簡単な話だ。この拠点も含めて縄張りを俺らに明け渡せ」

 

「ふ、ふざけないで!そんな要求を飲むわけないでしょう!?」

 

「てめぇには聞いてねぇんだよ!黙ってろ!」

 

 ワタバという男が高圧的な様子でアキラへ要件を伝えると、すかさずシェリルが口を挟んだが怒鳴り返されたことで口を閉ざした。

 

「で、どうなんだ。寄こすんだよな?」

 

「いや、シェリルがダメだって答えてるだろ。耳ついてんのか?」

 

「……あ?」

 

 ワタバの恫喝でたじろぐシェリルとは反対にアキラは平然とした態度で答えたことに虚を突かれた。

 

「ここの徒党のボスはシェリルだ、俺たちに聞くな。お前がシェリルに話しておけば俺たちがわざわざここに来る必要はなかったんだ。面倒を掛けるな」

 

「話は終わった?なら僕たちは帰るから」

 

「っアキラ……!」

 

 要件は済んだと言わんばかりの様子の2人にシェリルが声を掛けたが、それ以上に圧を含んだワタバの声が2人を引き留めた。

 

「おまえら、調子に乗るなよ?俺が所属しているシジマさんの徒党はこんなガキだらけの徒党とは違うんだ。断ってタダで済むと思っているのか?」

 

「……?」

 

「え?それ僕たちに言ったの?」

 

「他にだれが居るんだよ。お前たちのことを何も知らないとでも思っているな?」

 

「へぇー、じゃあ何を知ってるか聞きたいところだね」

 

「脅しじゃなければ言ってみろよ」

 

「はっ。宿なんかは簡単に調べられたぜ?随分と安い宿に泊まっているんだな」

 

「……ふーん」

 

『アルファ』

 

『場所が悪いわ。壁側に移動して。ソラ、いつでも動けるようにね』

 

 さりげなく脚を運びながら拠点の大広間に背を預けたアキラは腕を組んで話を続けた。

 

「それで、断ったから俺たちの宿を襲撃する気か?」

 

「バカだねー、ハンター向けの宿のそんなの自殺行為でしょ。まぁ自殺願望者なら止めないから勝手に死んでいいよ」

 

「それだけじゃねぇ!お前らが良く行く店だって調べがついているだ。カツラギっていうトレーラー持ちの男と、もう1つ、カートリッ───」

 

 狼狽える様子の無い下卑(げび)た笑みを浮かべて2人の通う見せの名前を口にしようとした瞬間、アキラの意識が切り替わり、そして部屋に銃声が響いた。

 

 ワタバという男がアキラの放った対モンスター用の銃弾を胸で受け止め、その着弾の衝撃で部屋の壁まで飛ばされていた。

 

 顔には驚きの表情が浮かび上がっており、その表情が変化することなくズルズルと背中を擦りながら倒れて前方に崩れ落ちた。

 

 全員の不意を突いた銃撃は、ワタバの連れの男たちを動揺させる。辺りに飛び散ったワタバの血や肉片、内臓の状態が男の絶命を証明していた。

 

「チィッ!」

 

 数瞬の間を置いて我に返った1人の男が反撃しようと銃を抜いたが、その直後に銃の把握(グリップ)とその握る手を男の後ろから撃ち抜かれた。

 

「がぁ……!?」

 

「動くな。死にたいなら別だけど」

 

 銃の部品と男の指が辺りに散らばるのを見て、残りの者たちがすぐに後ろを振り向こうとしたが、後頭部にゴリッと中々しい鉄の感触を感じて動きを止めた。

 

 両手に銃を握って男たちに突き付けているのはソラであり、アキラがワタバという男を撃ち殺した直後に動き、背後を取っていた。

 

「銃を捨てろ。3秒あげる」

 

 銃に手を伸ばそうとして動きを止めていた男たちはいつの間に背後を取られていたことを理解する。

 

 ソラに手を撃たれた男は激痛による苦悶の表情と声を上げながら傷口を抑えてもがき、そしてようやく大広間に集まっていた徒党の子ども達の悲鳴が響き始めた。

 

 訳も分からず部屋を見渡す者。部屋の隅に逃げる者。逃げ出そうとする者。交渉の場が突如殺し合いの場へと変貌したことを理解した者たちが行動を始めようと動き出した。

 

 が、それもアキラがAAHの銃口を上げて1発、銃声を鳴らしたことで静まり返った。

 

「煩い、静かにしていろ」

 

 殺意を込めた瞳を持った表情のアキラにアルファが訪ねた。

 

『アキラ。殺す必要はあったの?』

 

 アキラははっきりと答える。

 

『あった』

 

『ソラも?』

 

『アキラを脅した時点でいつか殺すのは決めてたから』

 

 2人に視界にしか映らないアルファは、呆れと諦めの混ざったため息を吐いた後、気持ちを切り替えるかのように表情に微笑みを浮かべた。

 

『……そう、それなら仕方ないわね。終わったと思って気を抜かないでね?』

 

『わかっている』

 

 アルファ自身はアキラとソラが人を何人殺そうが特に気にすることは無い。だが、無意味な殺しで状況を悪化させ、アルファの依頼遂行を遅らせるようなことは控えて貰いたいと考えている。

 

 2人は面倒ごとを嫌い、ここへ来る前も面倒事だと思っていたはずなのに、更に面倒ごとを進んで増やしているように見えた。自分たちの面倒ごとは不運から来ていると考えているのに、その不運を招く要素を自分たちから増やしている。

 

 だが、その行動は2人の中では矛盾していない。アキラとソラの中にある何らかの基準が、アルファにとって不可解な行動を肯定しているのだ。

 

 ソラにとっての基準がアキラなのは、2人と出会ってから観察を始めたアルファは理解できている。だが、アキラの基準は不可解のままだ。ソラと同様にアキラの基準にもソラが含まれているのは確かだが、それ以外にも基準があるとアルファは考えている。

 

 今回の行動も、アキラから始まっている。ソラだけここに赴いていれば特に何事もなく宿へ戻っていただろう。だが、アキラが同行を望み、そしてここへきてワタバの言動がアキラの基準を超えた結果がこれであった。

 

 アルファの目的を達成する為にはこの基準の把握は不可欠であるため、今後もアキラとソラの観察を続ける重要性の高さを判断した。

 

 後ろから銃を突きつけられた男たちは、カチリと引き金の音が耳に届いたことで慌てて銃を手放した。きっと自分たちの後ろに銃を構える者は躊躇なく撃つだろうと理解したからだった。

 

 アキラが銃を撃ったことによって辺りが静まり返っており、ワタバを撃ち殺したアキラと、他の者たちに銃を突きつけるソラを怯えた目で見ている。

 

 男たちも銃を手放し、手を頭の後ろにして無力化を表している。そんな男たちの前にアキラが近寄ってくる。

 

「それで、お前らはシジマってやつの徒党の一員なのか?」

 

「そ、そうだ。撃つな、撃つなよ?後ろの奴にも言ってくれ!」

 

「それはお前たち次第だな、シジマの拠点とやらに案内してくれ。シェリル、行くぞ」

 

「……えぇっ!?」

 

 事態を把握しきれずに固まっていたシェリルもアキラから声を掛けられたことで我に返り、そして悲鳴のような声をあげた。

 

 

 

*1
原作でアキラがエレナから譲ってもらった情報収集機器

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