リビルドワールド もしもアキラに双子が居たら 作:バグキャラ
『もう出てきて大丈夫よ。他のウェポンドックは去ったわ』
瓦礫の山の上で浮遊する女性はそう言ってビルの中に隠れる2人の少年へと視線を向けた。
「……大丈夫か?」
「うーん…………確かに鳴き声はしないし、銃声も聞こえない……かな」
ひょっこりと顔を出したアキラの頭の上に同じように頭を出したソラ。2人は辺りをキョロキョロと見渡しながら隠した身体を表す。
「…………」
「…………」
何か考え事をしているのだろうか、アキラとソラは口を閉ざして2人の目の前に浮かぶ女性へと視線を向ける。
『なにかしら?気になることでもあった?』
「さっきからずっと気になりっぱなしだよ」
「……拡張現実。さっき思い出したんだが、アルファって旧世界の幽霊って呼ばれる存在なのか?」
『あら、私のことはあなた達の間でそう呼ばれてるのかしら?』
「ただの噂だよ、噂。でも、確かにアルファさんは幽霊っぽいし、そう呼ばれてるのも納得」
「だな。でも実際は旧世界の拡張現実だったってオチか」
「案外間違いではないんじゃない?旧世界の存在ってことはあってるんだし」
「……それもそうか」
『さて、そんな2人に質問よ。これからどうする?このまま探索を続ける──それとも帰る?』
「「続ける」」
『息ピッタリね。理由を聞いてもいいかしら』
「そうだな。俺たちは覚悟を持って遺跡に来たんだ。手ぶらで帰る選択肢はない」
「僕も同じかな。というよりは、命賭けてモンスターと戦ったのに、成果がお金にならないモンスターの死体だけってのは無いよね」
『でも、そのおかげで私のサポートがどれだけ凄いかがわかったでしょ?』
「命の大切さも同時に知れたよ」
「走馬灯も見たしな」
『死なないなら安いものよ』
「うーん、流石は旧世界の存在。僕たちと全く感性が違うや」
『そこは私の方から合わせるよう努力はするわ。────話は戻るけど、遺物探索を続けるんでしょ?探すなら更に遺跡の奥へと進む必要はあるけど』
「ま、ここまで来たら行くよ。走馬灯分の代金を回収しないとね」
「だな」
『わかったわ。2人の安全は私の指示に従ってくれれば保証できるわ。じゃあついてきて」
そうして残り残弾数を確認した2人は銃を腰に仕舞って頷くと、アルファの指示の下、遺跡の奥地へと進んだ。
『隠れて』
「「……!」」
半分荒野と化した遺跡内を進む2人は、唐突にアルファが口にした言葉に急いで近くの瓦礫へと身を隠した。
「…………」
「…………?」
『その行動力は素晴らしいわ。そのまま30秒、じっとしていてね』
「…………」
「…………」
『走って、目の前のビルに背をつけて』
「……!」
「…………」
『そのまま、ビルの側面を移動して、途中の亀裂をよじ登って』
『そのまま中を進んで、出口から出て』
『今きた道をそのまま戻って』
「…………」
「…………」
アルファの指示に顔を見合わせた2人は、そのまま指示に従って走ってきた道を戻る。
『亀裂を降りた後は、そのままビルの側面を移動して』
『壁に背をつけて、さっきの場所へと移動するように』
まるで行ったり来たりを繰り返すアルファの指示にソラが口を開いた。
「…………質問いいかなアルファさん」
『なにかしらソラ、そのまま移動を続けてビルの中へと隠れて』
「さっきから同じ場所を移動してる気がするんだけど」
『危険なルートを避けた結果がそうなっているだけよ』
「…………」
「…………」
『聞きたいことがあるなら、聞いてくれると助かるわ』
「……なら質問。さっき通ったビルの隙間から見た大通りだけど、僕とアキラの目には何もいなかった」
「……あぁ」
「────あの大通りに何かいる?」
『居るか居ないかで言えば、
「……!」
「……マジか」
『人の目に見えるものが全てと言うわけではないわ。私を含めてね』
「哲学者?」
『いいえ、拡張現実よ』
「なら良かった。……というか、アキラも分かってよかったね。さっきアルファさんの指示を無視して大通りに出ようとしてたでしょ」
「……わかるか」
「そりゃ分かるよ。どれだけ一緒に居ると思ってるのさ」
『そうね。ソラの懸命な判断に助けられたわねアキラ。でなければ大通りに顔を出した瞬間に即死よ』
「なんでそんなのが居る道を通るんだよ」
「……たしかに。アルファさんなら回避できる道も知ってるんじゃない?」
『そうね───なら、直接目で見たほうが早いわ。このビルの中に入ったら階段を上ってそのまま屋上へと向かって』
「おっけー。何するつもりか分からないけど、とりあえず了解ってことで」
「……助かる」
アキラの疑問を解消すべく、何度も迂回に使ったビルの屋上へと向かう2人は、そのまま階段を駆け上がっていく。
既にボロボロとなった鍵ドアを2人で蹴破り、アルファに誘われるようにビルの端へと移動した。
『ここなら分かりやすいと思うわ。ソラ、アキラ。足元にある石を拾ったらそのまま私に投げてみて』
「……?まぁ言われたからにはやるけど───」
「……怒らないでね?」
「いや、そもそも当たらないだろ」
「それもそっか」
一体どのような意図があるのか理解できないソラとアキラは、そのまま指示通りに石を拾い、目の前を浮遊するアルファへと石を投げた。
投げられた石はそのままアルファの身体を通り抜け、荒野と化した遺跡の大通りへと落ちていき、そのまま地面へと衝突────することは無く、突如として空中に静止した。
「……あれ、僕の目がおかしいのかな」
「いや、大丈夫だソラ。俺にも浮いているように見える」
自分たちの投げた石が宙に浮く様子をビルの手すりから興味深く観察する2人だが、その直後。突如として石が浮遊する場所に電気が漏れ出すような様子が現れた。
「「……!?」」
その場所は石が浮遊していること以外特に何もなったはずが、その稲妻のような現象と同時に2足歩行の輪郭が現れていき、そうして数秒後。大きな目を一つ備えた2足歩行の何かが姿を現した。
「……なにあれ」
「……デカいな」
大きな目の横には複数のミサイルが装填されたポッドが備えられており、身体から出るレーザーのような光を辺りへと射出している。
『ね?わかったでしょ。この辺りには光学迷彩持ちの無人兵器が徘徊しているの』
「……あれが迷彩。服に付ける葉っぱとかじゃないんだ」
「……本当に何もない場所から現れたぞ」
『ソラのいう迷彩は本当に原始的ね』
「悪かったね、スラム育ちが原始的で」
『光学迷彩というのは視覚的に対象を透明化する技術よ。現代でも使われているけど、技術の高さは旧世界の方が上ね』
「…………あんなのが沢山いるのか」
『そうね。この辺りはアレ一体だけが徘徊しているだけよ。他の場所だとアレと同じものが四体、五体と居たりするわ』
「やっば」
「……ちなみに今目の前に居るアレとウェポンドッグ。どっちが強い?」
『アキラが何を考えているのかは分からないけど、単純な戦闘だけで言えば、ウェポンドッグ100匹の群れとアレ一体でようやく勝負になるってところかしら』
「100匹て」
「……すごいな」
『まぁそれについては、状況によるわね。環境によって姿や生態を変えて適応する生物的モンスターと綿密な設計の元に作られてた旧世界の警備機械────ここでは機械系モンスターと呼ぶけれど、その両者を単純に比較するのは難しいわ』
「……とりあえず、ヤバいのがこの辺りを徘徊していて、それを避けるために行ったり来たりしてることについては分かったよ」
「あぁ、ごめんアルファ」
『気にしないでアキラ。指示に不満があるのを解消するのもサポートの範疇よ』
「サポートすご」
「無かったらあっという間にお陀仏だな」
『危険な地域だからね。出会ってばかりの私を信用できないのは分かるけど、アキラとソラが死ぬのは私にとっても凄くマズいの。だから2人が死なない為に私は全力を尽くすわ』
「…………」
「…………わかった。俺とソラは強いハンターになりたいんだ。こんなところで死ぬわけにはいかない」
「だね。僕たちは成り上がるんだ」
『成れるわ、2人ともね。私と契約すればすぐよ』
「うーん……」
「どうだか」
『まだ信用を得られないみたいね。でも、私はアキラとソラの2人と契約する為にも、意志と覚悟以外は私がなんとかするわ』
「意志と……覚悟」
「すごい自信だね。なら、その自信のほどを体験できるようこっちも期待してるよ」
ビルの屋上で双子はそう話し、アルファと目を合わせる。
「なら、その意志と覚悟は俺がなんとかする。いつもはソラに任せっぱなしなんだ。これくらい出来なくて何がハンターだよ」
「ふふっ、そうだね。そこは僕よりもアキラの方が向いてるかも。なら僕はアキラについていくよ。そして支える───ずっと一緒にね」
『アキラが意志と覚悟。ソラはアキラを支えて、私がそれ以外を支えるわ』
「決まりだな」
「今更ながらすごい役割分担。アルファさんに偏りがすごい寄ってる」
『気にしないでソラ。この程度はお安い御用よ』
「それで?とりあえずヤバいヤツが徘徊してるヤバい遺跡でヤバい探索してるってことが分かった」
「ヤバいって言い過ぎだろ」
「間違ってはないでしょ。ここからどうすればいい?僕たちはスラム暮らしだしある程度の夜目は聞くけど、それでも夜の遺跡は動きたくない。アルファさんのサポートがあってもね」
「確かに。もうすぐ日が暮れそうだ」
『フフッ、安心して2人とも。私に考えがあるわ、ひとまずは遺物を集めることには変わりないわ』
「そりゃ良かった。チャチな銃をそれぞれ一丁に無一文とかやばいからね」
『私についてきて。なるべく早くね』
その言葉にアキラとソラは頷いて動くアルファを追って、ビルを後にした。
光学迷彩持ちの機械系モンスターが徘徊していた大通りの瓦礫の隙間に生じた亀裂。その中を這うようにして進む2人の少年は苦悩の声を吐く。
「さ、流石に狭すぎる……」
「銃以外に持ってないことが功を奏したね……アルファさん。今はどこに向かってるのかな?」
『遺物の場所よ』
「もうちょっと詳しく」
『あら、ソラは欲張りね。でもいいわ。今2人が進んでいるのはクズスハラ遺跡の地下街、その通路よ」
「……地下街?」
「ずいぶんと狭い街だな」
『今はもう入り口が塞がっているからね。こうして戦闘の衝撃で生まれた瓦礫の隙間を通ることでしか行けないのよ』
「なるほど、納得。……お、ようやく出口か」
「やっとかー。帰り道もここを通るの?」
『いいえ、違う道よ。この先に遺物があるけど、遺物を持ってはさっきの道を通れないからね』
「ようやく遺物か!」
「待ってまし……た……?……え」
瓦礫の隙間から身をねじるようにして移動していた2人はようやくその圧迫感から解放されたかと思ったが、その直後に目を見開いた。
「ちょ、ちょっとコレって!?」
「さっきの迷彩のやつか!逃げるぞソラ!」
地下街の通路に並ぶようにして配置されていたのは、つい先程アルファの指示によって姿を現した光学迷彩持ちの機会系モンスターであった。
『安心して2人とも』
「……う、動いてない?」
「……本当か?」
『えぇ。でも触らないでね?今は動いてないだけで、変に干渉すると動きだす可能性があるわ』
「分かった。絶対に触らない」
「アキラに同じく。ようやく遺物にお目に掛かれるところで死ぬなんて、それこそ死んでも死にきれないよ」
『いい子で何よりね。さ、進みましょう。遺物はもうすぐよ』
一切の光が無い暗闇をアルファの指示の下、2人は横一列に並ぶ機械群を尻目に先を進んだ。
「……ここが遺物のある場所?」
「真っ暗だな」
『えぇ、二人には見えないでしょうけれどここに遺物があるわ』
アルファによって導かれた場所にたどり着いたアキラとソラは、その現状に不満を口にする。
「……なんとかならないアルファさん?遺物が目の前にあったとしても、見えないとテンションが上がらないんだけど」
「なにかこう……懐中電灯とかがあれば」
『そうね……あぁ、いいものがあったわ。ソラ、私の指す場所に手を伸ばしてくれる?』
「……ん?まぁいいけど───何これ。棒状の……なにか」
『そのまま折りなさい』
「え、折るの?」
『壊すわけではないわ』
「なら遠慮なく……よっ……と。おお!明るくなった!」
「明るいどころか少し眩しすぎるな」
アルファに指示された物を手に取ったソラは、そのまま太腿をつかって棒状のナニカを真ん中で折った。
直後、折れた棒状の物が眩しいと感じるほどにまで発光を始め、2人のいる室内をまぶしく照らし始める。
『サイリウムと呼ばれる持ち運び可能な光源の一種よ。その真ん中のつまみを動かしなさい、それで光量の調節が出来るわ』
「なるほど……これか。───お、これならちょうど見やすいね」
「…………おぉ。見ろソラ!遺物がいっぱいだ!」
適度な明るさに調節された室内は、複数の棚が置かれており、複数の箱が置かれているのが見て取れる。
「……すごい。これが、旧世界の遺物か────」
「関心してる場合じゃないぞソラ!早くかき集めて……」
『その前にアキラ。そこの手前にある容器を取ってもらえるかしら?』
「……ん?これか」
『そう、それよ。その中に錠剤が入っているから、まずは5錠ほど飲んでもらえる?ソラもね』
「ちなみにこれの中身は?」
『旧世界仕様の回復薬よ。ナノマシンが含まれていて、身体の傷を治すことが出来るわ』
「……いや、僕たちはそんなに怪我してるわけじゃないし、売ったほうが金に……」
『いえ、コレは売らずに使った方がいいわ。現代でも回復薬は売られているけど、旧世界の物に比べると効果の差は断然ね』
「まぁ、アルファさんがそう言うなら……アキラ。僕にも5錠頂戴」
「あぁ……これって飲み込むだけでいいのか?水とかは……」
『いらないわ。怪我した場所に錠剤の中身を直接振りかけて早く治す方法もあるけど、その場合は激痛が走るから気を付けてね』
「まぁ、その時が来ないことを願っとくよ……あーん……うん、味はしないかな」
「旧世界製って聞いたから期待したけど、そうでもないな」
『あら、そんなことはないわよ。すぐに効果がでるわ』
「……そうかな?………あれ、なんか眠くなってきたような……」
「ソラもか?なんというか、脚が上手く動かな……い……」
『二人とも、下手に転んで頭を打つ前に横になりなさい』
指示通りに回復薬を口にした2人は直後、覚束ない足取りでお互いの手を取った。
「……一体……なにが……」
「アルファさん……ちょっと、ね……むい」
『大丈夫よ。まずはゆっくりと休みなさい』
そのアルファの言葉を最後に、アキラとソラは倒れるように地面へと伏せ、目を閉じた。
適度な明るさが保たれた部屋の中で、2人は目を覚ました。
「…………ん……アキラ?」
「……ソラ?あ、れ。ここは一体……」
『おはようアキラ、ソラ。よく眠れたかしら』
「「……!?」」
抱き合うようにして地べたに眠っていた2人は直後、そばに座るようにして見守っていたアルファの存在を確認すると素早く銃を取り出した。
『あら、驚かせてしまったかしら?』
「……あ、アルファさん……?」
『何かしら?』
「…………そっか。あの後僕たちは……」
「……悪い。起きた時にソラ以外が居ると大抵は強盗だったから……」
『気にしなくていいわ。それよりも、どうかしら。身体の具合は』
「……うん、なんともないかな。と言うよりはむしろ良くなってるような?」
「確かに。ソラの言う通り、身体が軽い。それどころか軽い頭痛も収まってる気がする」
『効果はバッチリなようね』
「……これも全部さっき飲んだ回復薬の効果?」
「……回復薬って傷を治すものじゃなかったのか」
『傷の治療は勿論として、怪我の痛みを抑える鎮痛成分や身体の疲労を取る成分も含まれているのよ。2人は見た目以上に疲労が溜まってたみたいだから、ここで簡単な休息をとるべきだと判断したわ』
「回復薬すげぇ」
「……確かに、これだけ性能が良いのなら、売らずにとっておきたいな」
「買うと高く付きそうだしね」
『さて、二人とも動けるようであれば遺物を集めておきましょうか』
「おぉ、待ってました!」
「……なにか遺物を入れる袋かバックとかはないのか」
『帰りも危険地帯を通るのだからそんなに数は持って帰れないわよ。でもそうね、あそこの壁に掛けられてるバックを拝借しましょうか』
「ちょうど二つあるね……リュックサックっていうんだっけ?こういうのは。……はい、アキラの分」
「あぁ……それで、その遺物を持って帰ればいいんだ?」
「まぁとりあえず片っ端から集めてみる?」
『さっきも言った通り帰りも危険地帯を通るのだから、そんなに数を持って帰れないわよ?そのためにも持って帰る遺物は厳選しないよね』
「ならアルファさんのお眼鏡にかかる遺物を教えてもらいたな」
「……そうだな。今日がハンター歴1日目なんだ。金になるものを選ぼう」
倉庫に備えられたか鞄の口を開いたアキラとソラがアルファへと問いかけた。
『まずは回復薬。2人が使う分もそうだけど、ソラが言った通り旧世界の回復薬は高い価値があるわ。ある分だけ持っていきましょう』
「おっけー」
「俺たちの生命線だな」
『次にこのナイフよ。近くの箱に入れてから持ち帰りましょう』
「おぉ……なんというか、鋭利なものを見ると惹かれる気がする」
「武器ってほどではないけど……こいつで刺されると痛そうだ」
『刺されるだけで済めばいいほうよ。触れるだけでも指が飛ぶから気を付けて』
「え、怖」
「それを聞いただけで俺のバックに入れたくないな。ソラのバッグに入れといてくれ」
「いやでーす、覚悟はアキラ担当だからアキラが持って帰ってね」
『次に行くわよ……これは旧世界の機械ね。これは現代でも技術的価値が────────』
そうして十数分後、適度にバックの中身を埋めた2人はバッグの口を仕舞って背負った。
「……結構集めたつもりだけど、まだまだ残ってるな」
『装備を整えたらまた来ることにしましょう』
「くぅー……苦渋の決断だけど、
「あぁ、次来た時は根こそぎ持ち帰って金に換えてやろう」
『ふふっ、言っていることは強盗と変わらないわよ』
「いいよ。ハンターなんて旧世界の人からしたら強盗と変わりないし、スラム街育ちの倫理観なんて猶更でしょ」
「違いないな」
そうしてほどほどの量の遺物を背負ったアキラとソラは、まだ遺物の残った倉庫を惜しみながらも後にした。
「と、遠かった……」
日が沈みだした時間帯に遺物を背負ったアキラとソラはスラム街へと足を踏み入れ、そう呟いた。
「こんなにスラム街と遺跡は離れていたか……?」
『いえ、直線距離で言えばそうでもないわ』
「ん?じゃあなんでこんなに時間が経っているんだ?遺跡を出たのは早朝だっただろう?なのに今はもう夕方じゃないか」
『かなりの数の迂回をしたからよ』
「迂回?もしかして……あの迷彩持ちの機械モンスターをよけるためか」
『それもあるし、ウェポンドックの群れを回避したり、他の遺物収集中のハンターを避ける為よ』
「え、もしかしてバレた?」
『いいえ、それはないわ。なによりアキラとソラがそれに気づかなかったでしょ?一方が気づいてもう一方が気づかないという状況は意外にも少ないのよ』
「へー……」
「そういうものなのか」
『それよりもアキラ、ソラ』
「ん?」
「どうしたアルファ」
『さっきから私と会話しているけれど、私は2人以外には見えないからただの独り言のように聞こえるわよ』
「……あ、確かに」
「……本当に周りのやつらはアルファのことが見えないんだな」
「ね。こんなに美人な人がいるのに見向きもしないや」
『あら、うれしいことを言ってくれるのねソラ。私を褒めてもサポートしかできないわよ?』
「そのサポートのおかげで遺物が手に入ったんだから、褒めろって言われたらいくらでも褒めるよ」
「たしかに。アルファは壁の内側の住人よりも綺麗なんじゃないか?その内側の住人を見たことがないけどな」
「うーん悲しい────いや悲しくないな。なんで壁の内側の住人見て喜べるんだ。なにか恵んでくれるわけでもないし」
『過去の卑下で会話が弾むことはいいけれど、流石に周りに怪しまれるわよ?』
「おっと、そうだった。アキラ、急ご?」
「あぁ、ソラ」
「ここね。さて、遺物を鑑定してもらいましょうか」
そうして2人と1人がたどり着いた先はスラム街と下位区画の境目に位置するハンターオフィスの遺物買取所であった。場所の名前を指し示す金属製のプレートが入り口の上へと吊るされており、2人はその扉を開いた。
「…………」
「…………」
中に入った途端、様々な目線がアキラとソラへと向けられた。
興味・関心・疑惑・警戒など様々だ。2人が子どもだという理由もあるが、当人らは特に気にすることもなく、遺物の入ったバッグを背負ってカウンターへと向かった。
「…………ハンター証があるならだせ」
「分かった」
「こんな紙切れも役に立つ時があるんだね」
カウンターに付くなり、スラム街では珍しいほどに服装を整えた人物が顔を出して、そういった。
彼の名前はノジマ、ハンターオフィス運営の遺物買取所の窓口の対応をする職員だ。*1最初アキラとソラを見た時はスラムの子どもの冷やかしかと思っていたが、その背中に背負うバッグを見て対応を変えた。
ノジマに言われるがままアキラは背中に背負ったバッグをカウンターへと置いた。
「……ん?そっちの遺物は出さないのか、ソバ」
「ソバじゃくてソラでーす。間違った名前に登録されてるみたいだから修正しといてよ」
「悪いがここは遺物買取所だ。ハンター証に関する対応はやってねぇ」
「あら残念。ま、出来る時でいいや。───それで僕が持ってるのは普通に私物。換えの服とか布団だから気にしないで。それとも高値で買い取ってくれるっていうのなら話は別だけど」
「そうか。それで、アジラ。この遺物だが鞄自体も鑑定に出すのか」
『ソラのバッグがあるから大丈夫よ。そのバッグ自体も一応は旧世界の遺物だからお金になると思うわ』
「……アキラだ。鞄も一緒に頼む」
「なんだ、お前も名前が違うのか。2人そろって災難だな」
「アキラの不運は昔から付き物だよ。今度お祓いでも言ってみる?お金ないけど。それで?今の遺物はいくらくらいになりそう?」
「……1万、いや5万オーラムくらいか?あれだけ苦労して手に入れたんだ。もしかして10万オーラムまでなったりして───」
「残念だが、これだけだ」
「「……え」」
鑑定に出した遺物の価値に期待を膨らめる2人は、ノジマの言葉と共に硬貨3枚ずつを2人の前に出した。
「……たった300オーラム」
「……あ、あれだけの遺物がたったこれっぽっちだと……!」
まさかの事実に2人は口を開き、驚愕の目を目の前の硬貨に向けると、周りから嘲るような声が届いてくる。
────ひっひっひ、ただのガキが大金を得られると思ったのか?
────運よく遺物を見つけたかって自惚れてんだよ
────文句があるなら俺たちが買い取ってやってもいいぜ?500オーラムだしてやるよ
「……っ!」
「───ストップ、アキラ」
『アキラ、だめよ』
「……っソラ、アルファ……」
アキラの耳に届いた声に思わず腰の銃を手に取ろうとした瞬間、ソラに手を掴まれ、隣のアルファから静止の合図が目に入った。
「回りのやつらに言われたい放題でムカつくのは分かるけど、まずは落ち着こ?」
『そうね、深呼吸でもしましょうか。息の吸い方は分かる?口を大きく開いて───』
「そんぐらい分かるわ」
『反論できるくらいには落ち着けたわね。ここはソラに合わせてみて?』
「……えっと、職員さんに聞きたいんだけどあの300オーラムってどんな意味があるの?驕ってるわけじゃないけど、結構自信はあったんだ。それが食事一食分あるかないかの金額はちょっと納得がいかないというか……」
「……随分と賢明な坊主だな。だが聞かれたからには教えてやる。ハンターランク1の信用無し、実績0のハンターが持ち込んだ遺物の買い取りは全員決まって買い取り金額は300オーラム固定だ」
「……それって僕たちが子どもだからって理由じゃないんだ?」
「子どもだろうと大人だろうとそこは関係ねぇ。いかに装備を整えていようと、得体も知れないものに調べもせずに300オーラム払うってだけでも感謝しておけ」
「……なるほど、お金よりまずは信用か。それで、その鑑定ってどれくらい掛かるの?明日とかになったら終わる?」
「早くて明日だ。次回買い取り時に終了していれば、その時に払おう」
「また遺物を持ってこないと今の遺物のお金はもらえないわけね、了解」
「そういうことだ。また何か持ってこい、二回目の買い取りにくるやつは少数だがな」
「……俺たちは這い上がる」
「……アキラ?」
「絶対にだ」
「……そうだね。職員さん、また来るよ」
「自身にありふれてるようで何よりだ、アジラ。本人確認はハンター証で行う。それを無くしたら信用も実績も一からだと思え」
そうして2人はカウンターを後にし、遺物買い取り所から出ていった。
「…………」
その後ろ姿を、ノジマは微笑みながら口にした。
「……ま、気をつけな」