リビルドワールド もしもアキラに双子が居たら 作:バグキャラ
スラム街配給所。金のない者、身よりの無い者が腹を満たす為に列を成してその場所に集まっていた。
その配給所の中で住民に食事を配る者は薄笑いを浮かべながら同僚と話す。
「……まったく、金が無いとはいえこんな物がよく食えるもんだ」
「ヒヒヒ、正常に動作してるかも怪しい生産装置で作られた合成食料。しかも原材料はモンスターの肉っていう噂だ」
「アレを喰って死亡者や突然変異者が出なければ、そのまま売り物行きというわけだ。ぞっとするぜ」
「スラムの住人はタダで命を懸けた試食をしてくれてるんだ。この飯を作ってるやつからしたらこれほどうれしいことはないな」
そして、その食事を配る列にアキラとソラは並んでいた。
『だ、そうよ?一応私からも教えておくけど、色々危ない物が混ざってるわ』
「食べる前にそんなこと言わないでよ」
「同じく。ヤバい物が混ざってるのは知ってたけど、改めて聞かされると食欲がなくなるな」
「でもお金ないし、これくらいしか食べるものがないんだよねー」
『なら2人には是非とも稼いで貰って健康的な食事を取ってもらわないとね』
「アキラ、僕たちの番だよ。───はい、アキラの分」
「あ、あぁ……それで、稼ぐって、また遺跡にいくのか?」
「あむ……うん、いつも通り味のないナニカだね。美味しくも不味くもない味」
配給所から受け取った食事に口をつけ、モグモグと咀嚼をしながらアルファの声に2人は耳を傾けた。
『えぇ、そうよ。遺物収集にいきましょう』
「昨日とおんなじ場所?」
『いいえ、違うわ。あそこはスラム街と往復するには距離があるからね。違う場所よ』
「そこにも遺物が?」
『えぇ、残っているわ』
「本当か!?なら急がないとな!……はむっ」
「落ち着いて食べなよアキラ……ほら、ぼろぼろ溢してるし」
『ソラの言う通りよ。慌てなくても遺物はたまにしか逃げないわ』
「逃げるんかい」
「遺物に脚でも生えてるのか?」
『もしくは誰かに先を越されるかのどちらかね』
「どっちにしろダメじゃん」
「なら急いで食べないとな」
クズスハラ遺跡。その外縁部に位置する場所で2人と1人は歩いていた。
「…………」
「…………」
『………何かあったかしら?』
「……いや、その」
「なんで服を変えたの?」
『あら、この服装は嫌い?』
アルファの服装は先程とは違い、純白のドレスを身に纏っていた。
「……なんというか、違和感がすごい」
「遺跡に今の服装でいたら誰だって気になるよ」
『似合ってない?』
「いや、似合ってると思う……多分」
「比較対象がないからなんとも言えないね」
「そうだな。俺の好みの格好といえば……最初に出会った時のやつだな」
『最初のかっこう………ふふっ』
アキラの言葉にアルファが何か考えた素振りをしたかと思うと、直後姿を変えた。
『つまり全裸ね!』
「「……!?」」
一糸まとわぬ姿にアキラとソラは思ず吹き出し、大声を出した。
「「服を着ろ!」」
『あら、せっかく脱いだのに2人ともひどいのね』
「だれが脱げって言ったよ!その次の服装だよ!」
「アキラが変なこというからじゃん!てかアルファさんも早く戻してよ!」
「俺のせいか!?」
「そうだよ!」
そうしてちょっとした騒ぎもあり、アキラとソラの頬を染めたアルファは満足そうにドレス姿へと戻った。
「……話は戻るけど、なんでその格好?」
『アキラとソラに会った時と同じ理由よ?』
「……?」
「同じ理由って……なんだっけ?」
『そもそも私がこうして姿を現してるのは、旧世界の遺跡に拡張情報を発信し続けてる場所があるのよ。時代が進んでその施設が取り残されてもね』
「あー……そうだっけ?」
「……旧世界って一体なんなんだろうね?」
『ソラの質問に答えるのには時間が足りないから流すわね。私はその送受信システムに介入してこの姿を広い範囲に発信しているのだけど、その送受信が可能な装置を使えば私を見る程度はできるのよ』
「……つまり、どういうことだ?」
「……あー、アルファさんの姿を見るには本来そんな装置が必要ってこと?」
『そう。そしてアキラとソラはその装置が無くても私のことを認識できるわ。これって結構すごいのよ?』
「へー……そうなんだな」
「アキラは興味なさそうだね」
「実際あんまり興味ないな。どちらかと言うとソラの方が興味あるんじゃないか?」
「うーん、僕もあんまり興味ないかな」
『2人ともあんまり自覚していないのね。現代でこの能力が備わっている人はごく一握りよ。そしてその人からの反応が得られやすいのがこの格好ってこと』
「その能力をスラムのガキが持ってたところでな。宝の持ち腐れがいいところだ」
「いやいやアキラ。その能力のおかげでアルファさんと出会えたんだし、持ち腐れてはないよ。賞味期限がなくて良かった」
「ん?あぁ、確かにな」
「そうだよ……いや、ちょっと待って。つまりだよ?今アルファさんがその格好をしているってことは……もしかして、誰がに見られたりする?」
「……!」
『流石はソラ、勘がいいわね。絶対に振り返っちゃだめよ』
「……いつから付けられてた?」
「ごめんアキラ。僕も全く気付かなかった」
『アキラの質問にはスラム街から出て少しした時からよ』
「まじかよ……」
『そしてソラ、これは仕方ないという他ないわ。情報端末や索敵機器、武器から防具に至るまでの全部が相手との装備差があるからね』
「……でもなぁ」
「人数は?」
『2人よ。しっかりと武装したハンター相手に後悔しても意味はないわ。まずはあのビルへと入って。絶対に走らないように、自然を装って』
アルファからの忠告に全力で気を配りながら、ビルの中へと入った2人は深く息を吐いた。
「モンスターの次はハンターかよ……」
「……一応聞くけど、アルファさんの気のせいってことは無いよね」
「あ、あぁ……そうだ。ソラの言う通り考えすぎってことは」
『アキラとソラとの距離を約200mを保ったままスラム街からここまで後をつけてきたみたいだけど、2人がそう思うならきっと私の勘違いね』
「絶対つけてたじゃん、それ」
「……どうやって逃げればいい?」
『いいえ、逃げずに戦うのよ』
「……マジで?」
「冗談だろ!?」
『いいえ、本気よ。出ないと今後一生、アキラとソラが遺物を集めるたびに、ああいった人物が横取りしようとしてくるわ』
「……あー、そっか」
「遺物をほいほい集めるガキはハンターからすればちょうどいいカモってわけだ」
『2人とも、相手を敵として対処しなさい。でなければ死ぬわ』
「言い切るね」
「遺物を持ったガキと銃をもったハンター。どっちが強いかと言われると……」
「そりゃハンターだよねー」
『私がサポートすれば、あの程度のハンターは返り討ちに出来るわ』
「……お試し期間ってまだ続いてる?」
『もちろんよ。でもいつまでもこの状態が続くなら、私も考えるわ』
「…………」
「…………」
アルファからの提案に2人は沈黙する。いつハンターが乗り込んで来るかと思うと、考える時間は残されてはいない。
「…………アキラ」
「…………あぁ、ソラ。覚悟を決めよう」
『決めたわね?』
「……勿論、アキラが覚悟担当だからね」
「それと意志だ。ソラも命賭けろよ?」
「勿論だよ。いつだって僕はアキラに全額ベットしてる」
「なら安心だ。アルファ、サポートを頼む」
『いいわ、それ以外は私の担当だからね。彼らを倒せたら契約について考えてくれるかしら?』
「倒せたらな」
「アキラに同じく」
『契約するって言ってくれないのね。なら2人には、凄いサポートを見せて是非とも契約して貰わないと』
「2人で強いハンターに成りに来たんだ」
「そうだよ。強盗も倒せないんじゃハンターなんてまだまだだね」
そうして2人は銃を構えた。
「おいハッヒャ。本当にあのガキ2人以外にドレスの女が居るって本当か?」
「あぁカヒモ。拾い物の両目パーツが勝手に旧世界の拡張現実を受信するんだが、確かに居るぜ」
アキラとソラを尾けていたハンターの2人は、ビルへと入っていった様子を見届けて、近くの瓦礫に身を潜めていた。
「特定のやつにしか見えない女か。いわゆる旧世界の幽霊ってやつか?」
「クズスハラ遺跡の怪談だろ、それって……」
「旧世界の遺物を餌に、探索に来たハンターを奥に誘い込んで殺す幽霊の話だ」
「おいおい……マズいんじゃないか?」
「馬鹿言え、ただの拡張現実だろ。旧世界の施設がいまだに稼働してる場所はいくつかあるって話だ。この怪談もその1つだろ」
どこか怖気るような態度を取るハッヒャに対し、カヒモが声を掛ける。
「だが、わかったぞハッヒャ。このからくりが」
「ん?なにがだ?」
「スラム街のガキがリュックに背負えるだけの遺物を持って帰ってきたんだ。おそらくあの幽霊───あの拡張現実は案内人か何かだ」
「……そういうことか!つまり幽霊の噂は……」
「最初に気づいたハンターが流した噂だろう。遺物を独り占めするためにな」
「じゃあ早速そのガキどもと幽霊に案内して貰おうじゃないか。遺物の場所によ!」
そういって気分よく首を鳴らすハッヒャは瓦礫から身を乗り出した。
「まぁ待てハッヒャ。二手に分かれるぞ」
「ん、なんでだ?」
「俺らがビルに入る瞬間にガキどもと入れ違いになる可能性がある。おれは入り口を見張ろう、先にビルへと侵入してくれ。なによりお前はドレスの女が見えるんだ、そのほうがガキどもも探しやすいだろ」
「了解だ。ここは頼んだぜ」
「あぁ、幽霊が怖くなったらすぐに呼べよ?」
「冗談はよせ」
そう軽い冗談を掛けたカヒモはビルの中へと進むハッヒャを見送った。
「(ま、罠って可能性もあるが、杞憂になることを祈ってるよ)」
そう内心で思いながら。
「……!おいカヒモ、ドレスの女を見つけたぜ」
『ガキ2人はどうした?』
「いや、両方とも見当たらねぇな」
『どこかではぐれたか?それとも……』
「おいおい、随分とイイ女じゃねぇか。いい尻してやがる」
『はっ……それも含めての誘う亡霊って意味かもな。油断はするなよ?』
「おれはそこまで間抜けじゃねぇ。……にしてもどこに行くつもりだ?随分と早いな」
音を立てない、立つことのない動きでハッヒャを魅了するアルファは、後ろをついてくるハンターに振り向き、その顔を見せた。
「……お、おぉ!こいつはすげぇな。情報端末にも
そうアルファに近づき、身体に触れようと手を伸ばすが何かに当たるわけでもなく、その手は通り過ぎる。
「くそ……生殺しだぜ」
そのように恨み言を吐き捨てるハッヒャのすぐそばで、アキラは身を潜めていた。
「…………」
拳銃だけ所持した自身よりも遥かに上の装備を身に付けたハンターが敵意を持って横を通り過ぎる瞬間、呼吸が荒れながらも自分の存在がバレぬよう息を殺す。
「…………っ」
『(アキラ、まだよ……ダメ!)』
自分にだけ伝わる声の静止を振り切ったアキラは、アルファに夢中のハッヒャの背後から奇襲仕掛けた。
「……っ!?」
「…………っ!」
わずか数秒での出来事。建物の影へと身を潜めていたアキラが飛び出したと同時に銃を構え、ハッヒャの頭部目掛けて引き金を引いた。
しかしハッヒャもまたアキラの奇襲に気づき、すぐさま装甲を身に付けた片腕で頭部を守り、振り向きざまに銃を薙ぎ払うようにして撃ち返す。
結果、奇襲は失敗。アキラの撃った弾丸は一発とも当たることは無く、それでいてハッヒャからの反撃はアキラの脚部への攻撃を成功とした。
飛び出しざまに奇襲にかかったアキラは、その勢いのまま別の通路へと逃げだし、ハッヒャの追撃を回避する。
「あのガキィ!」
『どうしたハッヒャ!?』
「か、カヒモ。悪い……女に気を取られていたらガキの奇襲に……」
『間抜けか貴様は!?』
追撃へと移ろうとしたハッヒャは直後、騒ぎを聞いたカヒモから通信によって冷静さを取り戻した。
『(くそ、やはり罠だったか)』
「どうする?あのガキを追いか…………いや、もう1人のガキがまだ────」
カヒモへと指示を求めようと声を出した直後、ハッヒャのうなじ部分に謎の感触を感じ取った。
「……あ?」
「───っ!」
刹那。ハッヒャの喉元から鮮血が飛び出した。
「ガハッ!?ゴホゴボォ!」
『おいハッヒャ!一体何が起きた!?』
「(なんだ、撃たれた!?)」
一体なにが起きたのかハッヒャ自身は理解できなかった。だが、床に倒れると同時に後ろを振り向くと────
「(こいつ!もう一人のガキ!)」
銃を構えたまま冷たい視線でハッヒャを見下すソラの姿があった。
「(情報端末には何も反応が……いや、こいつ!天井に潜んでいやがったのか!?だから情報端末上で
ハッヒャの考えは正しく、ソラの胴体にはロープが巻いてあった。その繋がれた先は天井の梁であり、アキラとは別の場所に潜んでおり、ハッヒャの奇襲に備えていた。
「(くそが……たかがガキ2人に────)」
そうしてハッヒャの思考に終止符を打つかのように銃声が鳴る。そうして独断で動いたアキラとは反対に奇襲を成功させたソラの目の前には、頭部に穴の開いた死体だけがあった。
「……っアキラ!」
目の前のハンターに銃弾を撃ち込んだソラは、その生死を確かめることもなく走りだし、奇襲に失敗した者の下へと走りだした。
反撃によって辺りに散らばった弾痕には目もくれず、ビルの中を迷うことなく一直線に走り出す。ソラの進む道には赤いシミが見て取れた。
「……アキラっ!大丈夫!?怪我は!?」
「……っソラか。悪い、失敗した」
『ソラ、アキラの治療を手伝って。まずは回復薬よ』
ソラの辿りついた先には脚を強く押さえるアキラの姿があり、そのすぐ横で怪我の状況を確かめるアルファがいた。
そうしてソラは、アルファに言われた通り、奇襲に備えて隠していたリュックサックから回復薬を取り出し、中からナノマシンを含んだ錠剤を数個手に取るとそのままアキラの口へと突っ込む勢いで押し当てた。
「あの距離でも碌に当てられないなんて───モゴッ……!?」
「アルファさんの指示に従わなかったのはなんで?」
『そうよアキラ。どうして?』
「……ゴメン、行けると思ったんだ」
「突発的に動くのはアキラの悪い癖だよ」
『まずは落ち着くことがアキラの課題ね』
「……とりあえず回復薬は飲ませたよ。次は?」
『回復薬の中身を直接傷へと振りかけて。こぼさないようにね』
「この前言ってたやつね。……痛いのは我慢してねアキラ」
「……自業自得なんだ。一息にやってくれ」
「なら遠慮なく。はい、傷を見せて───舌を噛まないでね」
そうして錠剤の中身が零れないように慎重に開けたソラは、そのまま銃弾がめり込み、運よく貫通したアキラの脚部へと振りかけた。
直後、アキラの傷口がうねるかのような動きを見せた。
「…………っ!!!!」
声にならない声が2人と1人のいる空間を埋め尽くす。脚の痛みと、その傷を現在進行形で急速に直していく不快感がアキラの全身を覆っていく。
全身を暴れさせて、なんとかその痛みから逃れそうとするが、怪我を負った脚ごと身体を押さえつけるソラによって阻まれた。
アキラの脚を押さえるのと同時に強く抱きしめるソラ。そしてもアキラもまた痛みに耐えるべくソラへと強く腕を回した。
そうして約数十秒後。アキラにとっては数時間とも感じ取れた経験が、アキラに疲労と冷静さを与えることになった。
「……無様な姿を見せたな。悪い」
「いやいや、なんでアキラが謝るのさ。悪いのはアキラに反撃の隙があったあのハンターだよ」
『結果論で言えばそうなるわ。アキラの先駆けよりも前に、あのハンターたちが2人の後を付けていたことから始まってるわね』
「……悪かったって」
「ま、反省したならいいよ。僕たちが勝手に動くより何倍もアルファさんの指示の方が安全なんだから」
『あら、うれしいことを言ってくれるじゃない?なら、この調子であと1人もやりましょうか』
「だね。アキラ、立てる?無理そうなら僕1人で行ってくるけど……」
「バカを言うな。覚悟と意志は俺の担当なんだ。それすらもソラに取られたら俺は一体なんになるんだ」
「ぼくの家族」
「それは今もだろ」
「───ふふっ。そうだね」
そうしてソラから伸ばされた手を掴んだアキラは力を入れて立ち上がった。
「さて、アキラがまた先走る前にちゃちゃっとやろうか。アルファさん、次の指示は?」
『まずはさっきのハンターの死体の場所へと向かって。所持品を剥ぐわ』
「お、僕がハンター歴一日目で最初に身に付けた成果だね。活躍する機会が来るとは思わなかったよ」*1
「……すごいな、もう動ける」
「ほんとに大丈夫、アキラ?手を貸そうか?」
「いや、大丈夫だ。少し痛むが許容できる」
『回復薬の鎮痛成分が効いているのよ。効果が無くなる前に済ませましょう』
アルファの指示通り、2人の奇襲現場へと向かい頭部に穴の開いた死体の下へと戻ったアキラとソラはハッヒャの身に付けていた装備を剥いでいく。
「……くそ、俺はあの距離を一発も当てられなかったのにソラは一発で仕留めたのか……」
「いやいや、僕だってアキラと同じ状況だったら当てられる自信はないよ。拳銃の銃口を直接押し当てて撃っただけ」
「……かなり近づいたな。バレなかったのか?」
「うん、アルファさんが色々してくれたんだと思う」
『そうね、この情報端末を逆手に取ったわ。安物の端末だからソラの位置を把握できなかったのよ』
「このハンターの金欠に救われたわけだ。……とりあえず持ち物は増えたね、この……よくわからない銃と情報端末。あとポーチに少しの小銭と……ハンター証はいらないや」
「……この目のやつはどうするんだ?」
『いいえ、必要ないわ』
「あれば便利そうだけど?」
『実際手に入れたところで見えるのは私くらいよ?』
「あー……さっき言ってたやつか。これがあれば拡張現実を見えるようになるけど、アキラと僕は無くても見えるって」
「……なら要らないか」
「ダサいもんね」
『そもそも義体用の装備だから生身の2人には使えないわ』
アルファは、なんの躊躇もなくハッヒャの目に取り付けられた装置を抉り出そうとするソラを止めた。
『次はこの死体を窓から投げ捨てて』
「え、捨てるの?」
「……結構重そうだ」
『もう一人のハンターはこのビルに入るのに躊躇しているみたいだからね。これでご招待しましょう』
「物騒な招待状だ」
「世の中には紙じゃなくて人の場合があるんだね」
「……くそ、つながらない」
ハッヒャが入っていったビルの入り口でカヒモは躊躇していた。
「(さっきの銃声……ガキ2人と交戦したのは確実だ。だがなぜつながらない……もしかしてハッヒャのやつ────)」
通信中に起こった出来事をもとに推測するカヒモの背後を黒い影が通過した。
「……!?」
ドサッという重量を感じさせる音と砂埃を舞い上げた物体がカヒモの視界へと移りこんだ。
「……ハッヒャ!?」
そこに落ちてきたのはつい先程まで会話していた人物であった。頭部と喉元に穴をあけた死体の虚ろな目は、カヒモを捉えていた。
「……クソがっ、俺を挑発しているのか……舐めやがってっ!」
その頭部の髪が怒髪天を貫くがごとく逆立ち、額に血管が強く浮かび出るほど激昂したカヒモは、銃を握りしめて廃ビルの中へと駆けて行った。
『ソラ、リュックサックからこの前手に入れたナイフを取り出して』
「……ん?わかった」
「……ナイフか?一体なんに使うんだ?」
『もちろんハンターを殺す為に使うわ』
「え、これで?」
「流石に刃の長さが足りないだろ」
アルファに言われるがままにナイフを取り出したソラはアキラにも見えるように掌の上に乗せた。
『アキラの方が銃弾に余裕があるから、アキラの銃でナイフの柄の丸い部分を撃って壊して』
「そんなことしたら壊れない?」
「……いやいや、それより遺物なんだから金に換えたほうが」
『あら、2人が2~3回ほど命を賭ける代案もあるけれど、そっちにする?』
「アキラ、早く銃だして、銃」
「あぁ、このナイフを金に換える前に死んだら元も子もないな」
アルファの代案を聞いた2人はすぐさま行動に移した。ソラの掌にのせていたナイフを地面に置き、アキラが銃を取り出してナイフの柄の部分へと銃口を押し当てた。
その後、ビルの中に一発分の銃声が鳴り響いた。
姿勢を低くしたまま、ビル内を駆けるカヒモの姿がそこにはあった。
「(ハッヒャがやられたことを考えると、おそらく女を使ってこちら側の位置が把握されているか……)」
ビル内の死角を一つずつ丁寧に潰していき、ビルの奥へと追い込めていくカヒモは、突如として情報端末が反応していることに気が付いた。
「(……!ハッヒャの情報端末が動いている。さてはあのガキども、ハッヒャの装備だけでなく情報端末も奪いやがったな)」
手に持つ端末の位置情報には近くも遠くもない位置に、それを示していた。
「(───はっ。あのガキども、自分たちだけが位置を知っていると思っているな?なら、好都合だ。そう勘違いしている間に殺す)」
裏をかいてやる。そう考えたカヒモは情報端末の反応がある場所へと向かった。
そうして数分後。ビルの通路へと落ちている情報端末を見つけたカヒモは通路の曲がり角に身体を隠した。
「……あれは───ハッヒャの端末か!なぜあそこに……まさか追跡に気が付いて捨てたか?」
辺りを見回しながら警戒するカヒモは銃を構える。
「……死角はない。奇襲は無駄だガキども。罠のつもりかもしれないが俺はハッヒャほど甘くは────」
直後、カヒモが隠れる曲がり角を突如として白い光が通過した。
「……は?」
情報端末に反応は無かった。だが、その質量すら感じさせない光はカヒモの胴体部を通り抜けたことだけは理解できた。
「……が───か、あぁ……」
ズルりとカヒモの上半身が、光を通り抜けた場所を境に下半身から滑り落ちた。
それに合わせるようにして隠れていた曲がり角もまた瓦礫として崩れていく。
「…………あ……」
カヒモが最後に視界にとらえたのは、光が飛び出るナイフを手に、身を震わせるアキラと、その隣でアキラにぴったりとくっついたソラの姿であった。
『よし、もう大丈夫よ。彼は死んだわ』
「……な、なにこれ」
「ナイフが粉々になっていく……」
2人の視界の先はビルの外壁が崩れていく様子が確認でき、外の光を薄暗い廃ビルの中へと取り入れていた。
「アルファさん、このナイフって一体なんなの?」
「ソラの言う通りだ、本当にあの遺物と同じか?」
『何っていわれても旧世界製のナイフよ。この前言ったじゃない、下手に触ると指が飛ぶって』
「指どころか人の身体が飛んでるんだけど」
「旧世界製の物はイカれてるのか?」
『流石にこの出力が基本の医療用ナイフはないわ。アキラに撃ってもらった場所の安全装置を壊して出力を最大にしただけよ』
「……医療用ナイフはって……他のナイフはこれが基本みたいな言い方だね」
『実際にあるわよ?だから実際、2人がいきなりスパっと身体を真っ二つにされる日が来るかもしれないから気を付けてね?』
「どうやって気を付ければいいんだよ」
「日常から匍匐前進でもしとく?」
「その場合は下からスパっと行きそうだな」
「詰みじゃん」
『とりあえずこれでハンター……いえ、強盗は撃退できたわ。早速
「うーん、弱肉強食だから文句はないけど────撃退というより始末の方があってそう」
「殺したことには変わらないだろ。なによりコイツらが先に襲ってきたんだ。自業自得だ」
もはや手慣れた動きのように死体の所持品を剥いでいくソラを手伝うようにアキラも死体に手を付けた。
『もちろんこれは私のサポートのおかげよ?ほら、何かいうことは?』
満面な笑みでアキラとソラを見つめるアルファは耳に手を当てた。
「…………」
「…………」
所持品を剥いで持ち帰るものを厳選する2人はお互いに目を合わせて頷いた。
「うん、アルファさんのおかげだよ」
「俺とソラは死なずに済んだ。ありがとう」
その言葉にアルファは満足したかのように手を後ろに回し、満足そうに微笑んだ。
『さて、なら遺物収集に戻りましょうか』
「あ、そういえばそうだったね」
「スラムの配給所よりマシなものを喰うために来たんだったな」
『遺物の場所はここからすぐの場所だから、すぐにつくわ』
「楽しみだね」
「あぁ」
『今度は以前よりも安全だからリュックをいっぱいにして都市に戻りましょうか』
「ちなみにアルファさんのいう安全の基準は?」
『そうね……命を懸けるか懸けないかくらいかしら?』
「うーん、わからん」
「この前の光学迷彩持ちのモンスターじゃなければいいんじゃない?」
「……そうか。あれと遭遇するのは絶対に嫌だ」
「僕も」
『大丈夫よ。あの機械系モンスターはクズスハラ遺跡の奥のほうに行かないと遭遇しないわ』
そんな他愛ない会話をしながら廃ビルと所持品を剥がれた死体を残して2人と1人はその場を後にした。