リビルドワールド もしもアキラに双子が居たら   作:バグキャラ

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建前

 ハンター向けの宿屋の一室でアキラとソラは部屋の床にウエス*1を引いて各々のAAHを分解していた。

 

「…………アキラ、そこのオイル取って」

 

「……ん」

 

「ありがと」

 

 互いの交わす言葉は少なく、黙々と目の前の仕事に取り組んでいた。

 

 2人の装備を買ったシズカの店でAAHと共に購入した銃器用の整備ツールで汚れたバレルや銃口を綺麗にしていく。

 

「……ん、こんなもんかな」

 

「俺の方も大丈夫だ」

 

 磨いた部品を天井の照明に照らして、その輝きを確認すると2人は満足そうに微笑んだ。

 

『なら、元の状態に戻してみましょうか。分解した時とは逆のことをすれば大丈夫よ』

 

「…………」

 

「…………ん?なんか詰まってるのか?」

 

「……あ、そこの後ろ。部品がつっかえてる」

 

「……お、ここか。ありがと」

 

「ん」

 

 アキラの方からは見えにくい部分を反対側で作業するソラが指摘し、組み立ての障害を取り除く。

 

「……よし、出来たか……あれ、部品が余ってる……」

 

「え、ヤバいじゃん」

 

 丁寧に組み立てていくソラとは反対にアキラが組み立てたAAHの前には一つの部品が余っていた。

 

「あー、最初からやり直しか……」

 

「……そもそもどこの部品だろ、これ」

 

『そこは引き金に取り付ける部品よ。アキラ、試しに引き金を引いてみて』

 

「……あれ、なんか軽いな……引いてる感じがしない」

 

「あー……弾が出ないんじゃなくて、そもそも引き金自体が引けなくなるんだ」

 

『また分解して最初からよ。それとソラもそのまま組み立てるのは推奨しないわ』

 

「……え、僕も?」

 

『ソラの場合は引き金を引くこと自体を控えたほうがいいわ』

 

「まじかー………どこでミスったんだろ」

 

 訓練後の使用したAAHを整備する2人は、アルファの指摘が多々入り、組み立てと分解を繰り返していた。

 

 朝から始めた作業は、慣れないこともあってか悪戦苦闘を続け、昼過ぎまで時間が掛かっていた。

 

「……よし、これで終わりか」

 

「長かったー」

 

『ソラの場合は拳銃もあるから早く慣れないとね』

 

「そうだよねー……」

 

「この調子だともう一丁の銃を買ったら整備だけで一日が終わるな」

 

『手早く整備する技術も今後の訓練で身に付けていく他ないわ』

 

「……だな」

 

「まずはコツコツと、だね」

 

『さて、それなら銃の準備も終わったことだし訓練に行きましょうか』

 

「よし……なら今日も整備仕立ての銃で小石とウェポンドックをシバきにいこっか」

 

「……今日は何回死ぬだろうな」

 

『今までの訓練からソラは平均三回、アキラは七回死んでいるわね』

 

「……訓練としてはどうなんだ?」

 

「実際に死ぬわけじゃないからいいけど、実践だと一回でアウトだからね」

 

『そうよ。だからこそ私のサポートで沢山死を経験して、実践で死なないようにするのよ』

 

「目標は死体の数を0にすることだな」

 

「いつまで経っても自分の死体は見慣れないからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 整備した銃と弾薬を持って荒野に来た2人はいつも通りのようにフチ取られた小石を狙う。動かない目標に当てることを前提として、正しい姿勢で連続で当てることを意識する。

 

「────」

 

「────」

 

 アキラが狙いを定めて引き金を引いて撃った銃弾に直撃し、跳ねた小石をソラが狙う。

 

 すでにソラは余程のことがない限りは静止した的に当たるようになっていたため、次は動く物体。特に不規則な動画を取るモンスターや跳ねた小石を狙う訓練へと移っていた。

 

 アキラによって銃弾を受けた小石がソラの銃弾によって砕かれる。アキラは静止した目標への確実な射撃を、ソラは動く的への的確な狙いをする訓練によって、2人の射撃場として使われている荒野は砂利が増えていった。

 

 ただ、2人の訓練はこれだけではない。

 

「「…………っ!」」

 

 突如として2人の耳に入るモンスターの鳴き声。聞こえた方へと瞬時に銃を構えると、こちらに向けて素早い速度で駆けてくるウェポンドッグの姿が視界へと入った。

 

 突然のモンスターの襲来に2人は慌てることはない。数秒しか余裕のない状況でも2人は落ち着いてAAHの銃口をモンスターへと合わせた。

 

「「────」」

 

 モンスターとの距離が縮まったその時、2人は引き金を引いた。

 

 こちらの身体を食い破ろうと口を開き、その唾液と差し込む光によって輝く白い牙を向けたウェポンドッグへと放った弾丸。アキラはその大きく開いた口の中へ、ソラはギラギラと光る瞳を備えた頭部へと狙いを定めていた。

 

 結果。アキラへと向かったウェポンドッグは狙い通り、口内へと銃弾が命中し、走ってきた勢いによって向かってきた方向とは逆の方向へと見事に縦回転した。

 

 ソラの方へと向かってきた個体は、着弾した弾丸がそのまま瞳を頭部ごと消失させて、そのまま体勢を崩しながらソラの横へと滑るように倒れ込んだ。

 

「……よし、上手く当てられたか」

 

「綺麗に口に入ったね」

 

 大きな息を吐きながら2人は顔を見合わせた。

 

『二人とも、動きが良くなってきているわね』

 

「まぁ、何度も殺された甲斐が───」  

 

『……アキラっ!後ろ!』

 

 アルファに褒められて声を返そうとした瞬間、自身の背後から迫ってくるウェポンドックの姿がソラの念話と通じてアキラの脳内に送り込まれてきた。

 

「……!?」

 

 ソラの言葉と共に脳内に浮かび上がるのは、荒い画像のような物によるアキラの背中に牙を向けるウェポンドックの姿。一体何が起こっているのかアキラには理解できなかったが、この瞬間に何をすればいいかだけは理解できていた。

 

「…………」

 

 瞬間、アキラの視界がゆっくりに動き始めた。慌てるソラとは対象に、アキラはどこか落ち着いた様子で銃を構えた。

 

「────」

 

 この状態からAAHを構えて背後に振り向くには時間が足りず、ウェポンドッグの攻撃を許してしまう。ならば、回避と同時に反撃も行わなければならない。

 

 選んだ選択肢は構えた銃を身体ごと前に転がること。前転の要領で頭から荒野の地面に飛び出し、そのまま銃を持った腕で受け身と共に転がり荒野の空を見上げた。

 

「────」

 

 転がりながら空を見上げるアキラの視界には、その頭上を通り過ぎていく隙だらけのウェポンドッグの腹部があった。

 

「────」

 

 そのまま荒野に身体を預けながらAAHの銃口をその腹部に目掛け、引き金を引いた。

 

 結果。アキラの背後からの奇襲にかかったウェポンドックは、銃弾が当たった部分を境にその上半身と下半身をアキラの目の前で分離させ、その体内に流れていたであろう血液をアキラの身体にぶちまけた。

 

「…………」

 

「あ、アキラ?大丈夫……」

 

 事が終わった後もアキラは先程の状況を理解できていない。世界が自分だけをおいて遅くなっていく状況は、アキラに衝撃を覚えていた。

 

「……今のは……う……」

 

「だ、大丈夫アキラ!?」

 

 荒野に背を預けたままのアキラを起こそうと手を伸ばしたところでアキラ自身から手で制された。

 

「す、すまんソラ。回復薬を貰えるか?なぜか頭痛がすごくひど────」

 

「分かった!」

 

 そうしてアキラが言い終える前に訓練用の弾薬を詰めたリュックに手を付けたソラは、そのまま取り出しやすい位置に置いていた旧世界製の回復薬を手にとると、そのまま中身を数錠取り出してアキラの口に突っ込んだ。

 

「あぁ、ありが──もがっ!?」

 

「早く飲んで!」

 

「ゴクッ……はぁ……回復薬くらい自分で飲めるぞソラ……」

 

 感謝の言葉がアキラの口から出る前に回復薬を入れられたアキラは、驚きの声が漏れつつもソラの手を受け入れて回復薬を飲み込んだ。

 

「……どう?頭痛は治った?」

 

「……あぁ、鎮痛成分だっけ?頭痛もだいぶ引いてきた。やっぱり旧世界製なだけあって効くのが早いな……」

 

「なら良かった……アキラ、さっきの動きはどうしたの?」

 

「……ん?あぁ、ソラから念話が飛んできたときになんか勝手に身体が動いてな」

 

 ソラから先程の出来事を聞かれたアキラは、上手く説明ができずに

 

「……というか、ソラからの念話も驚いたぞ。なんだあれ、写真?っていうのか。ウェポンドッグの姿が見れてな」

 

「え、アレ分かったの!?」

 

「?いや、ソラが送ったんだろ?」

 

「いや……僕も無我夢中で、とりあえずアキラの状況を伝えようとして……」

 

『それは念話の一種よ、ソラ』

 

 そんな言語化の難しい状況を話す2人にアルファが加わった。

 

「アルファさん……?」

 

「念話って……頭の中で話すことじゃないのか?」

 

『それは基本的な動作よ。前に言ったでしょ?長いやり取りを一瞬で出来るって』

 

「あー……それか」

 

「もはや会話じゃなくて画像のやり取りじゃん」

 

『でも、分かりやすかったでしょう?』

 

「ん?まぁ、そうだな。あの状況は口で説明されるよりは写真?のほうがすぐに理解できるな」

 

「……まぁ、それは今後の慣れってことで」

 

『そしてアキラ、さっきの動きはとてもよかったわ。ソラからの念話があったとはいえ、背後からの奇襲に上手く対応できていたから、あの動きを忘れないで』

 

「わかった。……あの……なんといえばいいんだ。こう……世界がゆっくりになる感覚が……」

 

『…………え?』

 

「……あ!アキラも分かる!?あの……なんて言えばいいんだろうね?すろーもーしょん?って言うんだっけ?こう自分も含めて周りの動きがおそくなる……みたいな?」

 

『────』

 

「やっぱりソラも分かるか。だからか?ソラの方が射撃訓練の成果がいいもんな』

 

「あー……だからなのかな?でもあの感覚は頭が痛くなるからあんまり好きじゃない……」

 

「それは俺もだな」

 

『二人とも』

 

「「 ん?」」

 

『その感覚を忘れないで』

 

 驚いたような困惑したかのようなアルファが突如として以前のような雰囲気を僅かに纏い、真剣な声で2人へと話しかけた。

 

「ど、どうしたのアルファさん?」

 

「なにかマズかったりしたか?」

 

『いいえ、逆よ。訓練の成果がこんなところに出ているなんて私も驚きよ。今後2人が強くなるために必要な事だから、さっきの感覚を覚えていてね?』

 

「わ、わかった……」

 

「……あの頭痛のたびに回復薬を使うことになるのかな……」

 

 そんな珍しく真剣な表情のアルファがそう話すと、2人はどこか思いながらも頷いた。

 

『さて二人とも、いつもより短いけど訓練は終了よ』

 

「あれ、もうか?」

 

「まだAAHのマガジンは一個分くらいしか使ってないよ?」

 

 普段の訓練ではそれぞれの持つAAHのマガジンを一度の訓練で平均三~四個ほど使用しているのだが、まだ一個しか使用していないことに驚いて声を返した。

 

『そうね。本当はさっきの感覚を忘れない内に訓練に取り組ませたいのだけれど、残念ながらね。ソラ、双眼鏡を取り出して』

 

「わ、わかった……」

 

「……もしかして、()()()?」

 

『えぇ、またよ。誰かがこっちに向かってきてるわ』

 

「どれどれ……あ、本当だ。今度は車じゃん。はい、アキラ」

 

以前に見かけたウェポンドッグと同様に双眼鏡で確認したソラはそのまま隣にいるアキラへと手渡した。

 

「……またハンターか?最近はよく狙われるな」

 

『女性二人組のハンターよ。まぁ、車の動きからしておそらくクズスハラ街遺跡に向かっているだけだと思うわ。私たちはその進路上にいるだけよ』

 

「……2人組かー」

 

「……いやな思い出だな」

 

『念のため私たちも遺跡に向かいましょう。あのハンターたちが2人に友好的な存在ではなかった場合はこの辺だと逃げきれないわ』

 

「まぁ車が相手だとね」

 

「轢き殺されるのはゴメンだ」

 

 そうして2人と1人は周りに散らばった映像の死体を片し、弾薬や回復薬を詰めたリュックサックを手に取って訓練場(荒野)からクズスハラ街遺跡へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アキラ、ソラ。また移動するわ』

 

「分かった」

 

「また移動?さっきからずっと動きっぱなしだね」

 

『えぇ、近くにハンターが来る可能性があるわ』

 

「なんか最近のここはやたら混んでいるな」

 

「遺跡からしたらこんな数のお客さん(ハンター)はたまったもんじゃないね」

 

『スラム街の子どもが高額な遺物を持ち帰ったという噂が広まっているみたいね』

 

「その噂に乗せられた人がこんなに沢山…………なんでさ」

 

「……そのスラム街の子どもって俺とソラのことだよな……」

 

「もしかして僕たち以外に同業者がいたり?」

 

『いえ、私が見た限りではいなかったわ』

 

「まぁこんな遺跡に子どもが来たところで……って感じか」

 

「アキラアキラ、僕たちも子どもだよ」

 

「いや、俺たちはハンターだろ」

 

「物は言いようってやつだね」

 

『この辺り一帯は他の遺跡に比べて危険度が低いから、その分遺物が取りつくされているのだけれど、子どもでも行ける場所に手つかずの遺物が残っているというのであれば、腕の立つハンターたちでも再調査の価値を考えると思うわ』

 

「なるほど……」

 

「ちなみに週1で遺跡探索兼遺物収集をしてるけど、アルファさん的にあの遺物って再調査を考えるくらいの価値ってあると思う?最初と二回目に集めた遺物に比べたら安物だけど」

 

『時と場合によるわねソラ。私がもしハンターだとして、一度目と二度目程度の質の遺物が定期的に遺物買取所に持ち込まれている場合は考えるけど、その後に2人が持ち込んでいる遺物の質しか持ち込まれないのであれば、再調査はしないわ』

 

「そうなんだ」

 

「……ん?じゃあなんでこんなにハンターが居るんだ?」

 

『だから時と場合って言ったでしょ?これの場合は遺物を持ち込んでいるのがスラム街の子ども。そこから遺物が見つかった場所は、子どもが持ち込んだことを考えるとおそらく都市から離れていない遺跡。そして定期的に遺物買取所に持ち込まれていることから、ある程度の量がそこに残っている────こんなところかしら?』

 

「……あー、納得した」

 

「……質の低い遺物でも沢山残っていればってやつ……なんだっけ?塵も積もれば…………ゴミになる?」

 

「集めた遺物がゴミになってどうするんだよ」

 

『ゴミじゃなくて山になるのよソラ。子どもが持ってこれる場所に大人が人数を揃えていけば、質が低くても十分な稼ぎになるわ』

 

「……人数を揃えて……その割にはさっきの人たちもそうだけど、なんか集まりがチグハグだね」

 

「確かに。さっきのハンターも回避したハンターも多くて2~3人程度だったもんな」

 

『だから、噂なのよ。誰からか情報を買っているのか、ハンターオフィスなどで偶々耳にした情報なのか。その情報の正確さが確かでない以上、最初は少人数で調査するのでしょうね。そこからもし遺物が残っていると判明したら、今度は大人数のハンターがここへと押し寄せるわ』

 

「そうなったらいよいよ僕たちの貴重な稼ぎな無くなりそうだね」

 

「週一の遺跡探索も違う場所に行かないといけないのか」

 

『もしくは時間帯をズラすかのどちらかね。さて、また移動よ。それと近くのハンターの持つ情報収集機器に2人の声が聞き取られるのはマズいから念話を使うようにして』

 

『『 了解 』』

 

 ビルからビルへと隠れるようにして移動する2人は、噂に期待したハンターたちの死角を利用していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『結構移動したねー……この辺りはまだ遺跡探索でも来たことがないんじゃない?』

 

『……確かにな。周りの建物も見覚えのないものばかりだ』

 

 双眼鏡で辺りを見渡すアキラとビルから身を乗り出して下を除くソラにアルファが声を掛けた。

 

『朗報よ2人とも。ハンターは少しずつ減ってきているわ』

 

『お、やっとかー』

 

『所詮は噂だっということで諦めて帰って行ってるわ』

 

『どうするアキラ?せっかくここまで来たし、少しだけでも遺物収集したほうがいいかな』

 

『そうだな……初めて来た場所だし、少しはマシな物は残ってるんじゃないか?』

 

『どうかなアルファさん。途中で訓練も終わっちゃったし、今後も兼ねて……そういえば、訓練をやめる理由になった2人組のハンターも帰った?』

 

『いえ、まだ残っているわ』

 

『えー……』

 

『あのハンターは車持ちなんだ。下手に見つかれば力ずくで遺物の場所に案内させられそうだ』

 

『いやだなー』

 

『ふふっ、案外アキラの言う通りかもしれないわね。彼女たちはなかなか優秀なハンターみたいね。特にフードを被った方の情報収集能力は侮れないわ。まだ距離はあるけれど2人に確実に近づいてきているわよ』

 

『えぇ……なんか気づかれるようなことでもしたかな』

 

『……さぁな。実際どうなんだ?アルファ』

 

『しているかどうかで言えばしているわ』

 

『……マジか』

 

『……え、なんか落とし物でもしたっけ?───うん、銃弾も回復薬もバッグにちゃんとある』

 

 アルファの言葉にソラは手持ちの荷物を確認するが、なんの異常がないことを見て、バッグを背中に戻した。

 

『荷物ではないわソラ。あのハンターたちは2人の足跡を追っているのよ』

 

『あ、足跡?』

 

『すでにこの辺りの遺物は取りつくされた後なんだろ?足跡ぐらい沢山ありそうだけど』

 

『そうね、足跡自体は沢山あるわ。でも、そのうちのほとんどは大人のハンター……つまり大きい足跡ばかりよ』

 

『あー……なるほどね。いくら遺物が取り尽くされた場所でも、子どもの足跡は目立つわけか』

 

『どうすればいい?なるべく足跡が付かない道を通ればいいのか?』

 

『いえ、それは無理ね。いくら足跡を付けないように努力しても肉眼では見えない足跡を情報収集機器は見つけ出すわ』

 

『こう……足跡をぐしゃぐしゃぁってするのは?』

 

『前にも言ったけどソラは本当に原始的ね。それも一つの手だけれどおススメしないわ。素人が偽装したところで見抜かれるだけよ』

 

『残念……というかなんかさっきから霧が出てきてる?』

 

『ソラもか?よかった、俺の目が濁っていたわけじゃないのか』

 

『あら、今日は2人ともすごいのね。あの辺りが濁っているのが分かるかしら?』

 

 そういってビルの上にいるアキラとソラに対し、アルファが遺跡の奥の方を(ゆび)さした。

 

『おぉ……確かに。初めて見たかも』

 

『なんかぼやけているな』

 

『あれは色無しの霧といって、クガマヤマ都市と含んだ東部全体に広がっている電波や通信を阻害する霧よ』

 

『へぇー……霧か』

 

『まだアレは濃度が低いから大丈夫だけれど、高濃度になると音や匂いまで阻害するようになるわ』

 

『えぇ……どんな霧だよ』

 

『匂いって』

 

『あの霧は生物機械問わずに影響するからね。周囲の情報把握に必要な情報が非常に難しくなるわ』

 

『え、モンスターも影響を受けるんだ』

 

『ヤバいな』

 

『人やモンスターだけではないわ。あの霧の中では銃火器の威力も下がったり、射程も縮まって命中率が落ちるの。それどころか霧の濃度次第では銃弾の弾道も目視で見えることがあるのよ』

 

『なんで銃まで影響を受けるんだよ……』

 

『まぁ……通信の電波が阻害されるなら、同じく銃弾も……なのかな』

 

『ここまでは前座よ。この色無しの霧で一番マズいのは私の索敵能力が大幅に落ちることよ。最悪の場合はこの前ソラが見つけたウェポンドックすらも見つけられなくなるわ』

 

『一番ヤバいじゃん』

 

『そうなったらアルファを生命線にしている俺とソラの生存は絶望的だな』

 

『その通りよ。東部における事象として常識だから覚えていてね』

 

『わかった』

 

『忘れた時が僕たちの最後か』

 

 そんな話をする中でふとソラが思い立った。

 

『……あれ?今そのヤバい霧がここに来てるんだよね?』

 

『そうよ?』

 

『なら他のハンターたちは帰っていくんじゃないの?』

 

『……確かに。アルファ、まだハンターは残っているのか?』

 

『そうね。さっきよりも早いペースで他のハンターは撤退を始めているわ。でもあの2人組のハンターはまだ探索を続けようとしているわね』

 

『えー……冷静な判断が出来てないんじゃない?』

 

『あぁ……さっさと帰ってくれ……』

 

『そうね………探索を続けないといけない理由があるのか、単に判断が出来ていないのかは分からないけれど、近々破滅する可能性は高いわ』

 

『ふーん……まぁ僕とアキラには関係ないしいっか。死んだとしても死体を剥ぐほど僕たちは困窮してるわけじゃないし』

 

『だな……絶対に出会いたくない。2人組のハンターと戦うのは…………というかハンターと戦うのはあの強盗だけで十分だ』

 

『そうだよ…………ん?なにあれ、アキラ。あっちの方を見てみて』

 

『ん?どうしたソラ……うおっ……すごい土煙だな』

 

 何かに気づいた様子のソラが指を指した先にアキラも双眼鏡を向けると、そこにはいくつかの建物が崩落していく様子が見えた。

 

『モンスターね、ソラ。結構大型よ』

 

『最悪だよもう……ハンターが沢山ここに来たから余計なやつまで刺激したんじゃないの?』

 

『巻き添えを喰らうのはゴメンだ。今のうちに離れようソラ。アルファも案内を頼む』

 

『わかったわ』

 

 そうして2人と1人はビルの屋上から移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モンスターの死骸と共に横たわる女性ハンター、エレナとサラは目の前の立つ8人のハンターに鋭い視線を向けていた。

 

 ハンター稼業の中で不幸が続き、資金源に陥った2人はわずなな希望に掛けてクズスハラ街遺跡へと足を運んだ。

 

 クガマヤマ都市の下位区画やハンターオフィス、ハンター徒党やスラム街で広がっている都市直近の遺跡の未探索領域発見の噂を耳にした2人は、子どもが高価な遺物を持ち込んだということで、他のハンターに比べて比較的小さい足跡を探していたが、引き際を誤ってしまい色無しの霧に包まれた遺跡の中へと取り残されてしまった。

 

 そこ突如としてやってきた大型モンスターと、それを煽るかのようにして銃弾をまき散らしながら走ってくるハンターに対し、サラが大型の銃を構え一撃でモンスターを仕留めたが、そんな彼女に対して向かってきたハンターが渡したのは感謝の言葉ではなく安全ピンを抜いた手榴弾であった。

 

 その後、爆発の騒ぎに乗じてエレナを人質に取られたサラは装備を外して降伏、隙を見てハンターたちをナノマシンによる身体拡張で持ちえた身体能力で皆殺しにしようと画策するが、それすらも見抜かれてしまい銃によってサラの両足を撃ち抜かれた。

 

 そんな様子のサラにエレナはハンターたちの拘束を振りほどいて近寄り、身体を抱きかかえた。サラの身体に残していた僅かな量のナノマシンが穴の開いたサラの両足を最低限の治療をしてその役目を終えていく様子にエレナが苦悩の表情を浮かべ、サラが言葉を話す。

 

「ゴメン……エレナ。しくじったわ……」

 

「……どうして逃げなかったのよ……」

 

「……ごめん」

 

 悔しそうな声で声を掛けるエレナに銃を構えたハンターたちが近づいてきた。

 

「この辺りの色無しの霧が濃くなってきてんだ。そいつらの遊ぶのはほどほどにしな」

 

 そういって話し、笑いを浮かべるブバハというハンターとその仲間たちは直後に飛来した銃弾によって腹部を貫かれた。

 

「……は」

 

 ブバハの身体に着弾した対モンスターの銃弾はその勢いで身体を貫いて吹き飛ばし、上半身を空中へと舞わせて弧を描くようにして落ちていく中、更なる銃弾がブバハの顔面へと飛来し、周りにいた仲間のハンターと横たわるサラと抱きかかえるエレナに鮮血と体液をまき散らした。

 

「襲撃!?」

 

「お前ら、まだ仲間が!?」

 

 唐突な出来事に理解できない様子のハンターたちはそう口にしたが、その直後に2人の顔面へと銃弾が着弾し、表情という表情が理解できないほどの穴を頭部に開けて絶命した。

 

「……っ!お前ら、どこから狙撃を───」

 

 そういって残った仲間が慌てて銃をエレナとサラに向けたが、その銃を向けた先には既にエレナの構える銃口がハンターの顔を捉えていた。

 

 そのまま頭部を撃ち抜かれるハンターと驚愕の表情を浮かべるハンターたちにエレナは目もくれず、自身の足元で横たわるサラを抱きかかえた。

 

「(一体なにが起こっているの!?)」

 

 片腕でサラを抱きかかえ、もう片方の手で拾った銃を薙ぎ払うように撃ち、周りのハンターたちへの牽制をする。

 

 この逼迫した状況で舞い降りた最後の賭け。エレナよりも体格が良かったはずのサラをそのまま引きずるようにして近くの遮蔽物へと隠れた2人は応急処置に入った。

 

「(……最初の狙撃からしてハンターたちを襲っているのはおそらく……2人?)」

 

 辺り一帯に広がる色無しの霧の影響で、エレナの持つ情報収集機器が役に立たず2人の周り数m程度しか状況が理解できない中、必死に思考を回しながらサラの両足に包帯を巻く。

 

 既に回復薬は尽きており、サラのナノマシンも最低限の出血と穴の開いた両足を塞いだことで残量が無くなった為、焼石に水程度の処置であるがしないよりは何倍もいい。

 

「(……迂闊に顔を出せないわね……。この状況から援護したとしても相手からすれば獲物の横取りと判断される可能性があるわ)」

 

 既に意識が消えかけているサラの気道が塞がらないように身体を回復体位へと体勢を横に寝かせると、遮蔽物に背をつけて状況を確認しようとする。

 

「(幸い色無しの霧はもうすぐで晴れる……本当に何が起こっているの?」

 

 銃を構えるエレナは大きく息を吐いてハンターたちの襲撃に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……当たったよ、アキラ」

 

「こっちもだ。ソラ」

 

『あの女性のハンターの内の1人が反撃で1人殺したわ。残り4人よ』

 

「「 了解 」」

 

 彼らへと向かった弾丸の弾道をたどった先、二丁のAAHがその銃口から硝煙が出していた。

 

 それぞれ銃を構えているのは2人の少年。

 

 2人の目には明確な殺意が宿っていた。

*1
機械の清掃用雑巾

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