リビルドワールド もしもアキラに双子が居たら   作:バグキャラ

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善行

 路地裏でアキラはシェリルに銃を構えていた。

 

 その目は一方は殺意に、もう一方は恐怖に満ちており引き金が引かれるのはすぐであった。が、そこに突如として声が掛かった。

 

『あきらー、こっちは終わったよー』

 

『アキラ、弾の無駄よ。その弾は次の増援に使いなさい』

 

『わかった』

 

 ソラからの念話とアキラの後ろに現れたアルファに声によって銃口を下ろし、そのまま路地から別の路地へと移動を始めた。

 

「………………」

 

 殺意の目と銃口を向けれらたことによる恐怖がシェリルを襲い、その場にストンと腰を落とした。

 

 その後、スラム街のあちこちから銃声と共に悲鳴が上がり始めた。

 

 

 

 

 

「あ、お帰りー」

 

「ソラ。そいつがか?」

 

「うん、そうみたい」

 

 2人を襲ったハンター徒党の者たちをあらかた殺し終えたアキラは、コツコツと銃を構えながらコンクリートで舗装された道を歩いてきた。

 

 アキラの視界の先にはソラが壁を背に座り込む人物の頭部にARH自動拳銃の銃口を押し当てており、もう一方の空いた手でアキラへと手を振っていた。

 

「お、お前もコイツの仲間か!?待て、悪かった!俺の負けだ!」

 

 片腕を既に撃ち抜かれ、ソラから額に銃口を押し付けられる人物、シベアはアキラの姿を見るなりそう言葉を口にした。

 

「…………」

 

「…………」

 

 そんなシベアの様子を見る2人の視線は冷たく、一つのきっかけですぐに引き金を下ろせる状態だった。

 

「俺を見逃してくれたら代わりに徒党のボスにしてやる!だから、頼む!」

 

 素手に銃弾を喰らっているためか、シベアの周りの地面には赤い水たまりが出来ており、時間の経過と共に広がっていく様子に当人は焦りを覚えていた。

 

「……殺さないで―って言ってるけど、逆の立場なら普通に僕たちのことを殺してるよね?」

 

「徒党の奴らに武器を持たせて襲っておいて都合が良いとは思わないのか?」

 

 2人の中では既に決定事項の為、シベアの言葉に耳を傾ける必要はないのだが、なんの気まぐれかアキラとソラはシベアに声を返す。

 

「……このシベア様を殺したら、俺と繋がりのある徒党が報復でお前らを一斉に殺しに───」

 

「……は?」

 

 普通の懇願では駄目だと判断したシベアは次の命乞いの作戦として、徒党のボスという立場で報復を匂わせるように話し始めた直後、ソラの言葉と共に一発の銃弾がシベアの太腿を撃ち抜いた。

 

「ぎゃぁぁ! あ、脚がぁ…!?」

 

「───今、アキラを脅したの?」

 

 痛みを訴える声を上げるシベアに対し、冷酷な目で見下すソラの声は殺意がこもっていた。

 

「ソラ、弾が無駄だ」

 

『そうよ。喋らせるだけ無駄だわ』

 

「……そうだね」

 

 2人の声もあってか、ソラはシベアの脚に向けていた銃を胸部のホルスターに仕舞い、アキラが変わりにAAHの銃口を額に当てた。

 

「……お、お前たちだって死にたくないだろ!?金ならやろう!だから────」

 

「あぁ、俺たちは死にたくない。だからお前が死ね」

 

 シベアの命乞い、または遺言とも言える言葉に耳を傾けることもなく、アキラはAAHの引き金を引いた。

 

「よし、これで終わりだな」

 

「変に面倒ごとに巻き込まれたよ……銃弾も無駄にしちゃったし」

 

『そうね。残り弾数も少ないし、今日の遺物を売ったらまた買いに行きましょうか───彼らの装備はどうするの?一応襲ってきた側だし、装備を集めて金に換えるの?』

 

「…………」

 

「…………」

 

 アルファの提案に2人は顔を見合わせて少し考えた後、口を開いた。

 

「……いや、いいかな。スラム街とはいえちょっと騒ぎを起こしすぎたし……」

 

「……そうだな、俺たちはちゃんとしたハンターになったんだ。金を稼ぐのはモンスターか遺物でいい」

 

『そう、分かったわ。それなら少し急ぎましょうか、騒ぎが収まったことで人が集まってきているわ』

 

「わかった」

 

「スラム街の恒例だね」

 

 基本的にスラム街で銃撃戦が起こった場合は近くに居る者は無駄な巻き沿いを受けないためにも蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていく。だが、ひとたび事態が収まったとなればすぐさま人が集まってくるのだ。

 

 その理由は、騒ぎで死んだ者の所持品を奪うためであった。金属くず集めやスリで生計を立てるスラム街の住人にとって銃や防具は値千金の代物である。

 

 地面に落ちている物の所有権は基本的に早い物勝ちだ。死んだ者の銃に入った銃弾の一発分だけであろうと奪い合いが起こるのがスラム街の常識であった。

 

 2人と1人は銃撃戦の2次会ともいえる騒ぎには関わらないようにするためにも、その場を素早く去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、アキラとソラは安宿で身体を休めて銃の整備を終わらせた後に再度、銃撃戦の起こった場所の近くを通っていた。

 

『うわー……やっぱりすっからかんだね』

 

『死体以外は銃弾の一つすら落ちてないな』

 

『スラム街の住人は意外にも働き者なのね』

 

『ならついでに死体も片づければいいのにな』

 

『その死体は僕たちが作ったんだけどね』

 

 乾いた血とハエのたかる死体以外は何も残ってないスラム街は、2人にとってはいつも通りのような風景であった。

 

『まぁ、いずれはモンスターにでも食われるだろ』

 

『ちょくちょくモンスターがここに入ってきてるもんね』

 

 銃撃戦の後を眺めながら2人はいつもの荒野へと歩いていく。

 

『さて、アルファさん。今日の訓練は?』

 

『ウェポンドックの映像か?』

 

『そうね───今日はウェポンドッグの群れを用意しようかしら』

 

『ひぇー……お手柔らかにお願いしまーす……』

 

『2匹、3匹程度なら対処できるようになってきたが、今日は群れか……』

 

『ある程度の連携を前提とした動きをとるモンスターは、普通の強い一匹よりも強い場合があるわ。モンスター全体の動きの把握が重要となるわね』

 

『……映像での訓練は手ごたえがあるんだが、実際に遭遇した場合は動けるか不安だな……』

 

『今でも偶に殺されてるからね……ウェポンドッグの群れくらいはハンターとして倒せて当たり前なのかな?』

 

『大丈夫よアキラ、2人はちゃんと成長していってるわ。それにソラ、あのウェポンドッグの群れ程度は意外にも装備を整えれば倒せるものよ』

 

『へぇー』

 

『装備か……』

 

『ちなみに参考程度だけど、この前アキラとソラが助けた二人組の女性ハンターなら群れどころか、あの迷彩持ちの機械系モンスターも倒せると思うわ』

 

『え、マジで……?あのおっきい目が付いた奴だよね……?』

 

『クズスハラ街遺跡の奥で俺とソラが見たやつか』

 

『流石に複数が相手だと厳しいだろうけど、あれ一体程度は装備とある程度の実力があれば倒せるものよ』

 

『すごいなー』

 

『装備……やっぱりお金かー』

 

『東部は基本的にお金が物を言うからね。今は訓練で実力の方を鍛えていくのがいいわ』

 

 日々の訓練と遺物収集を繰り返す中で成長をあまり実感できない2人にアルファが声を掛ける中、突如としてアキラが脚を止めた。

 

『……アキラ?』

 

『……アルファ。また尾行されているのか?』

 

『そうね……装備はつけてないみたいだし、放っておこうと思ったけど気になるかしら?』

 

『……まぁな』

 

『あ、やっぱりつけられてたんだ』

 

『視界のサポ―トを頼む』

 

 アキラとソラが後ろを振り向いた時、サッと人影が曲がり角に隠れる様子が見え、アルファに視界を拡張してもらい、隠れた人物像を把握した。

 

『……だれ?』

 

『……どこかで見覚えがあるな』

 

『そうなの?』

 

 路地に身を隠す少女にソラは首を傾げ、アキラはどこか覚えがあるような表情を浮かべた。

 

『アキラの知り合い?』

 

『いや、違うな。……聞いた方が早い』

 

 そのまま歩いてきた道を戻り、少女が隠れた路地へと入った・

 

「……っ!?」

 

「おい、俺たちに何か用か?」

 

 隠れていた少女、シェリルはアキラがこちらに来ることを予想していなかったのか。アキラが自身の方へと来たことに身体をビクリと跳ね上げさせた。

 

「あ、あの……話が……」

 

「……話?なんのだ」

 

 瞳に雫を貯めて、声を震わせながら声を絞り出すシェリルにアキラが詰め寄った。

 

「……え、あ……いや……その───」

 

「どうしたのアキラー?やっぱり知り合いだった?」

 

「……ひっ」

 

 アキラの隣からのぞき込むようにしてソラが顔を出してシェリルを捉えた。

 

『アキラ、彼女は昨日2人を襲った連中の1人よ』

 

「……は?」

 

「……あぁ」

 

『アキラが銃撃戦の最中に見かけたのよ。装備を持ってないみたいだったから銃弾の節約で見逃したのだけど』

 

 アルファが補足するように2人に声を掛けると、アキラは思い出したように、ソラはアキラを襲った1人ということで声を出した。

 

「俺たちを殺そうとしたやつらの1人が、なんの用だあるんだ?」

 

「……ひ、え、いや……」

 

 昨日と同じように殺意を纏わせた瞳をぶつけられたシェリルはその恐怖とトラウマのあまりに、その場にペタンと座り込み、声をあげて泣き始めた。

 

「え、あ……え!?」

 

 まるで予想していなかった出来事にアキラは混乱した表情を浮かべた。

 

『あー大変ね』

 

『アキラが女の子を泣かせてるー』

 

『は、え?俺が悪いのか?』

 

 シェリルが大きな声をあげて泣き始めたことで昨日銃撃戦があった場所とは思えないほどにザワザワと人が集まり始めていた。

 

『傍から見たらアキラが女の子を脅して泣かせて言えるようにしか見えないわね』

 

『あーあ、アキラのせいだよ?』

 

「なんで俺のせいなんだよ!?あー……なんだ、そのとりあえず落ち着いてくれ。俺はそっちをどうこうするつもりは無いし、そっちだって話があったんだろ?ほら、深呼吸しよう。お互いに落ち着こうじゃないか」

 

 普段の様子からは想像もできないアキラの様子をソラとアルファは茶化すように見守っていた。

 

『アキラは女性の扱いを分かってないわね。早いうちに学んでおかないと将来苦労するわよ?』

 

『大丈夫アルファさん。アキラには僕が付いてるから』

 

「お前たちはちょっと黙っててくれ!ほら、とりあえず落ち着いてくれ!」

 

 慣れてきていたはずの念話と会話の区別すらできていないアキラの慌て様にソラとアルファは面白可笑しく見ていた。

 

「なんでこんなことに……」

 

『とりあえず今日は宿屋に戻る?』

 

『そうね。このままこの子を置いて訓練に行ったところで集中できないでしょ?』

 

「あー……くそ、こっちに来てくれ!」

 

 ソラとアルファの提案にアキラはそのまま泣き続けるシェリルの手を取り、一泊5000オーラムの宿屋へと走っていくと、その後をソラとアルファが追っていった。

 

 

 

 

 

「一体なんだったんだよ……」

 

「さぁ?アキラに用があったのは分かるけど」

 

『本人に聞いた方が早いわ』

 

 訓練へと向かったはずの2人はシェリルを連れたまま宿屋へとんぼ返りしており、ソファに倒れるアキラにソラとアルファが声を掛けていた。

 

 連れてきた少女は部屋に備え付けられたシャワー室へと押し込まれており、使っているであろう水の音が部屋の中に響いていた。

 

「どうする?」

 

「……とりあえず腹が減ったから何か食べたい」

 

「なら冷凍庫のやつをチンしとくね」

 

『ついでにあの子の分も用意しておいたらいいんじゃないかしら?』

 

「……まぁ、話があるみたいだし」

 

「分かったー……今日はどれにしようかな。アキラは?」

 

「とりあえず肉」

 

「なら僕は野菜系の……あの子は……まぁ適当でいいや」

 

『ソラも女性の扱いが中々雑ね』

 

「そう?タダでご飯を上げる人なんて配給所の人くらいだよ」

 

 そんなことを話しながら冷凍庫の扉を開け、リクエストされた内容の冷凍食品を電子機器で温めるソラ。

 

「それにしても何の用かな?武器は持ってないみたいだけど───」

 

「さぁな。あいつらの復讐に来たのなら相応の対応をするだけだ」

 

「おっけー」

 

 もしここに少女が居れば再度泣き出しそうな内容の話をしながらソラは温めた冷凍食品を取り出し、アキラへと手渡した。

 

「はい、アキラの分」

 

「ん」

 

「ほら、僕も座るから詰めて詰めて」

 

 そういってスプーンを手にとったアキラをソファの端に押し込みながらソラも座る。

 

 直後、シャワー室の扉が開いた。

 

「あ、あの……先程は────」

 

「あ、出た?君の分はそこの机に置いてるから」

 

「え……あ、その」

 

 モグモグと口を動かしながらご飯を食べるアキラとソラの様子に少女は、気づいたようにお腹を鳴らし、そのまま椅子へと座って食事に手を付けた。

 

『……普通に食べ始めたね』

 

『まぁ、腹が減ったんじゃないか?』

 

 シェリルに聞こえない会話でその様子を見ていた2人の口は既に食事が入っている。

 

『というか、ご飯を食べながら会話できるって便利だね』

 

『アルファのサポートの特権だな』

 

『意外とそうでもないわよ?』

 

『『ん?』』

 

 2人の会話にアルファが参加し、2人の座るソファの背もたれに寝転がるようにしてアキラとソラに話しかけた。

 

『世の中には脳の中にインプラントを入れて、2人みたいに念話が出来る技術があるのよ』

 

『の、脳の中に?』

 

『あー……インプラントって言うと、機械みたいなやつか』

 

『もしくは義体化。身体を機械化すること情報機器と接続するとかね*1

 

『へー』

 

『まぁ、僕たちには必要ないよね』

 

『そうね』

 

 そんな他愛ない会話を続けていき、お互いの食事は全てお腹のなかへと収まった。

 

「お風呂とお食事を用意してくれてありがとうございました……。それと先程の件もご迷惑を……」

 

「まぁいいよ。なんか話があるみたいだし……」

 

「本題に入ろう。俺はアキラだ」

 

「僕はソラ、よろしくー」

 

「私はシェリルといいます。シェリルと呼んで下さい、アキラさん、ソラさん」

 

 お互いに自己紹介を終えた者たちは真剣なまなざしで向き合う。

 

「僕はソラでいいよ」

 

「俺もアキラでいい。それで、俺たちに何の用だ?」

 

「……担当直入に言います……アキラとソラに私たちのボスをやってほしいんです」

 

 沈黙に包まれた部屋の中。ソファの隣には興味深そうに見つめるアルファの姿があった。

 

「え、ボスって徒党ってやつの?……というか僕も?アキラに用があると思ってたんだけど」

 

「あ、いえ。可能であればソラにも───」

 

「興味ないな」

 

 ソラの疑問にシェリルと名乗った少女が答えるなか、アキラが言い捨てた。

 

「だね」

 

「損はさせません!」

 

 アキラの言葉にソラもまた同意を示した直後、シェリルが食い下がった。

 

「ハンターであるお二人にも利益は大きいんです!実際に徒党のいくつかはハンターと関わっていまして……」

 

「悪いけど話は終わりだ」

 

「ごめんねー。他を当たってくれるかな?」

 

「そ、そんな……」

 

 シェリルの提案に乗り気ではないアキラとソラの様子に覚悟を決めたシェリルは部屋を出ようとする2人に詰め寄る。

 

「この話を受けてくれるのであれば……今からでも私のことを好きにしてもらって……」

 

「……いや、好きにしろって言われても……まぁ、そうだな。シェリルはそこまで強そうには思えないし、囮も捨て駒も俺たちには必要ないな」

 

「……え」

 

「そうだね」

 

『アキラ、ソラ。シェリルは性的な意味で行ったと思うわよ?』

 

『いや、アキラは僕で間に合ってるから』

 

『なに言ってるんだソラは』

 

『あら、本当にいいの?彼女は今でも結構可愛い、将来は美人になると思うわよ?』

 

『いやー、僕の枠はアキラで埋まってるから』

 

『さっきから何を言ってるんだよ本当に……』

 

 アキラの言葉に俯くシェリルをよそに、念話で会話を弾ませていると突如アルファが提案をした。

 

『まぁ、2人がシェリルに手を出すかは置いておいて、良い機会だし助けてあげたら?』

 

『……ん?そりゃまたなんで?』

 

『珍しいな、アルファから提案するなんて』

 

『この前2人が言っていたでしょう?徳を積んで置きたいって』

 

『───え、あー……そうだね』

 

『人助けで運を稼ぐことか……シェリルで俺たちの運を稼げるのか?』

 

『それは私にも分からないわ。けれど、2人とも遺跡と都市の両方で襲われているんだし、今もこんな状況だから幸運を使い言っているのよ』

 

 幸運を使い切った。その言葉にひどく面倒な表情を浮かべる。

 

『面倒くさくないか?』

 

『そうだよ。わざわざ僕たちがシェリルの面倒を見るなんて』

 

『そう深く考えなくてもいいんじゃないかしら?責任持って最後まで世話をするってわけじゃないわ』

 

 ソファの隣に立つアルファの言葉に2人は考える。親指と人差し指でわずかなジェスチャーをする様子に悩んだ後、ドカッとソファに座る。

 

『……なら、その幸運を分けるだけの幸運がシェリルにあるかどうか───』

 

『試してみる?』

 

 ズボンのポケットから一枚の100オーラム硬貨を取り出したソラはアキラへと(はじ)いた。

 

そのまま近くの椅子をソファの前へと置いて、シェリルに座るように促した。

 

「シェリル、座ってくれ」

 

「……はい」

 

 アキラに言われるがままにシェリルは椅子へ腰を下ろすと、そのまま覚悟を決めた表情を浮かべる。

 

「…………」

 

 シェリルが目の前に座ったことを確認したアキラは、ソラに渡された100オーラム硬貨を弾いた。

 

 部屋の天井へと浮かびあがった硬貨は、そのまま表と裏を目に見えない速度で回転しながらアキラの下へ帰ってくると、そのまま手の甲と掌によって挟まれ見えなくなる。

 

「選んでくれ。表か裏か」

 

 アキラはそう言って目の前のシェリルに話した。ソラはソファには座っておらず、アルファと共に部屋の壁に背を預けて見守って居た。

 

「…………表」

 

 数瞬考えたのち、シェリルは答えた。

 

「…………」

 

 アキラはシェリルに見えないようにコインを確認すると、そのままソラへと弾いて返した。

 

「……え、あの……表裏は……」

 

「さっきも言ったけど、俺とソラはお前たちのボス、徒党のボスになる気はない」

 

「……おぉー、なるほどね」

 

「…………!」

 

 アキラの話し始めた言葉にソラはどこか納得したかのような表情を浮かべる。

 

「だけど条件付きなら協力してやってもいい」

 

「条件つきですか……?」

 

 オウム返しをするシェリルにアキラは言葉を続けた。

 

「あぁ───まず、その徒党のボスとやらはシェリルがやってくれ。そして俺たちはシェリル個人に協力する」

 

「────アキラと僕は君の徒党の運営には関わらないってこと。どう?これなら手伝ってあげてもいいよ」

 

 シェリルは思考を巡らせる。シベアとその他徒党のメンバーを一方的に殺した2人の後ろ盾と今後シェリルに降りかかる問題の数々。両方を天秤に乗せた状態で量り始めた。

 

「……分かりました、お願いします」

 

 椅子から立ち上がり、目の前のアキラに深々と頭を下げたシェリルにアキラとソラは深くため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スラム街の露店が並ぶ道をアキラとソラ、シェリルの3人は歩いていた。

 

「ふーん、さっき見た場所が君たちの縄張りかー」

 

「元、ですけど。シベアが死んだ後は空白地になっています」

 

「……空白地?他所の徒党が奪いに来ないのか?」

 

「いきなり武力制圧をするような真似はしません。変に抗争を招いてお互いに消耗するだけですから。縄張りについては意外にも話し合いで決まることが多いんです」

 

「へー……」

 

 アキラの隣を歩くシェリルとその後ろをついていくようにして歩くソラの様子にアルファが声を掛けた。

 

『それにしてもアキラとシェリルが並んで歩いていると、まるでデートみたいね』

 

『は、はぁ!?』

 

 その言葉にアキラは吹き出し、ソラが不満そうな表情を浮かべる。

 

『シェリルにアキラはあげないよ』

 

『あら、シェリルを手伝う以上はそう思われる可能性もあるわよ?』

 

『いや、だってそれは……』

 

『デートなんだからプレゼントくらい買ってあげたら?アキラ』

 

『いやだからデートじゃなくて…………もういいや』

 

『あら、反論をやめるのかしら?』

 

『アルファさんに口論で勝てるほど己惚れてないよ……』

 

『ものわかりが良いのね』

 

『あきらー、シェリルになにかプレゼントでも買ってあげたら?』

 

『俺が話す前に勝手に決めるなよ……』

 

『文句ならアルファさんに言ってよ……ほら、アキラの隣ですごい笑顔を浮かべてるよ』

 

 ソラの言葉にアキラは自然な感じで横を振り向くと、満面の笑みのアルファと視線が合った。

 

「……あぁ……」

 

 反論してもプレゼントの利点を延々と話し始めそうなアルファにアキラもまた口から声が漏れた。

 

 そうしてキョロキョロと辺りを見回すアキラが目に付いたのは屋台の机の上に置かれた物だ。

 

『……アキラ。流石に銃はないと思うよ』

 

『まだ何も言ってないだろ……』

 

『シェリルがハンターなのであればそれもまた一つの選択よ?』

 

『いや……ハンターだとしても銃はないだろ……ソラ。何がいいと思うか?』

 

『んー……まぁ、手伝うって言った以上はそういう中に見られるだろうし、アクセサリーとかでいいんじゃない?』

 

『アクセサリーか……アルファはどう思う?』

 

『自分で考えるの勉強よ?』

 

『……面倒だな……』

 

『なんならシェリルに聞いたら?それが多分一番早いでしょ』

 

「そうだな……シェリル。ここで何か欲しいものはあるか?」

 

「……え?」

 

「いや……ほら。一応シェリルを手伝うわけなんだし……何か証拠のようなものが必要だろ」

 

「さっすがアキラ―。気が利くね」

 

 アキラの提案にソラもまた声を掛けて後を押した。

 

「でしたら、プレゼントはアキラが見立ててくれますか?その方がきっと効果が高いですから」

 

「おぉー……だってアキラ。アキラの審美眼が問われるね」

 

「……わかった。変な物を選んでも文句を言うなよ?というかソラは選ばないのか?」

 

「アキラが選べば十分でしょ。というかシェリルも悪く言わないから自分でどんな感じのものが欲しいか希望を言って置いたら?多分アキラのことだから銃とか選ぶかもよ?」

 

「プレセントに銃はないだろ……」

 

「ふーん……」

 

 ニヤニヤと何か意味深な表情を浮かべるソラとその隣で同じ表情を浮かべるアルファにアキラは顔をしかめた。

 

「それでしたらアクセサリー系を選んでくれますか?それらしい品のほうがきっと意味がありますから」

 

「アクセサリーか。わかった」

 

『ほら、やっぱり銃じゃないって』

 

『だから何も言ってないだろ……』

 

 そんなこともありながら半日。訓練へと赴く予定がシェリルに付き合わされた一日となって日が暮れ始めた。

 

「アキラ、今日はありがとうございました。ソラも付き合ってくれて本当に助かりました」

 

「いいよいいよ。アキラが手伝うって言ったんだし、僕も付き合うよ」

 

「あぁ、シェリルも気を付けて帰ってくれ」

 

「はい。これからもよろしくお願いします」

 

 そう話してシェリルを見送った2人はその場に立ち続けた。

 

『アキラ、ソラ?帰らないの?シェリルはもう言ったわよ?』

 

「んー……アキラ。どうする?」

 

「……まぁ、初日だけだ。あとはシェリルの運次第だろ」

 

「おっけー」

 

『?』

 

 疑問の表情を浮かべるアルファを連れてアキラとソラは宿ではなく、シェリルの向かった方へと歩ぎだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が暮れて辺りが夜に包まれた中、元シベア現シェリルの拠点に男たちは集まっていた。

 

「……おい、本当にやるのか?」

 

「あぁ、俺たちがこの拠点をシジマさんに渡せば地位は安泰だ。あんなガキ1人に拠点と縄張りを搔っ攫われて黙っていられるかよ」

 

 そういって銃を構える男は周りの者へと声を掛ける。

 

「よし、行くぞ!」

 

「でもガキが本当にシェリルと繋がっているのなら、ヤバいって……」

 

「そんな話はハッタリだ。金もねぇガキとの約束なんざ守るわけが────」

 

「───守るんだなぁ、それが」

 

 男たちがそう言って拠点の敷地に脚を踏み入れた直後、どこからともなく聞こえてきた声と共に銃弾が彼らを襲った。

 

「ひぃ……!」

 

 拠点襲撃に躊躇っていた男には運よく弾は当たらず、銃を手に持っていた者たちだけが穴だらけとなって地面に倒れ伏した。

 

「お、おまえは……」

 

 銃弾が飛んできた方向へ視線を向けた男がその顔を見た瞬間、顔をひきつらせた。

 

「シェリルに手をだすな」

 

「じゃ、そういうことだから。わかった?」

 

「わ、わかった……」

 

 銃弾を吐き出したAAHの銃口から煙が出る様子をしっかりと目に焼き付けた男は強く顔を振って頷いた。

 

 そのまま他の生き残った者を連れて2人の前から姿を消した。

 

「よし、これで大丈夫かな。アルファさん」

 

『えぇ、この周りに武装した人物はもういないわ』

 

「よし……なら帰るか」

 

「だね」

 

『あの者たちは殺さなくてよかったの?』

 

「別に皆殺しにしても良かったけど、そうするとまた襲いに来るだろうし」

 

「あれぐらい脅しておけば十分だろ。ずっとシェリルの護衛を続ける暇なんかないんだ」

 

「あとは僕たちが居なくても生き残れるかはシェリルの運と実力次第ってことで」

 

『2人がそれでいいなら私は構わないわ』

 

 そうして2人は拠点を後にした。穴だらけの死体を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。アキラとソラが宿を出ると、入り口にシェリルが待っていた。

 

「おはようございます、アキラ、ソラ」

 

「ん?おはよう。何か用か?」

 

「おはよーシェリル。今から遺跡にいく予定だから手短にお願いできる?」

 

「あ、はい。今後の相談などを詳しくしたいので今日の夜に顔を出してもらえないでしょうか?」

 

「んー、まぁ余裕があれば行くよ」

 

「そうだね。もしかしたら遺跡で1泊するかもしれないし、行けたらね」

 

「ありがとうございます……それと、私の拠点の前に沢山の死体があったのですが、何か───」

 

「死体?物騒だね」

 

「まぁスラム街なんだ。珍しいものじゃないだろ」

 

「そうですか?昨日の今日なので少し物騒だなと思いまして」

 

「そうか、じゃあな」

 

「またねー」

 

「はい。お気をつけて」

 

 そのまま2人はシェリルの前から去っていった。アキラとソラの背中を見送りながらシェリルもまた何かを思案するかのようなそぶりをすると、アキラたちとは逆の方向へと走り去っていった。

 

『遺跡に行く前にハンターオフィスとカートリッジフリークへ向かいましょうか』

 

「そうだね。遺物の代金を貰いにいかなきゃ」

 

「それと弾だな」

 

「あ、ついでに整備ツールの消耗品も買っておこうよ」

 

『そうね、シズカともすっかりと顔なじみになったわね』

 

「まぁ、向こう側は特に何も思ってないでしょ」

 

「ただの店長と客の関係だからな」

 

 ハンターとは死んだらそこで終わりの職業である。対してシズカはよろず屋を営む人物。ありふれた関係であることを2人は自覚していた。

*1
ヤジマも義体でケインとネリアに口を動かさず通信していた為

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