【AI小説】異世界でスラムに転生したらカルトの教祖になっちゃった 作:けろかろ
プロローグ
腹の虫の鳴き声で目が覚めた。
石畳に直に敷かれた濡れたぼろ布が背中に貼りつき、冷たさが骨の髄まで染み込んでいる。夜半に降った雨はもう止んでいるはずなのに、路地裏にはまだ湿った空気が淀み、隙間風とともに冷気を運び込んでくる。吐き出した息は白く、布切れほどの衣服では防ぎようもなく、体は小刻みに震えていた。自分の体が七歳の子供のものだと、こういう瞬間に嫌でも思い知らされる。指先は細く痩せ、握り拳に力が入らない。だが、頭の奥底では、まだ前世の記憶がうずまいていた。
――また、生きている。だが、ここはどこなのだろう。
目を横にやると、同じ孤児の小さな女の子が丸くなり、か細い寝息を立てている。彼女の髪は泥にまみれ、痩せた肩はぼろ布の下で震えている。その寝息に混じって、湿った咳が漏れた。胸の奥を削るような音に、思わず顔をしかめる。この街の底辺で病を得ることは、そのまま死を意味していた。薬も医者も遠い。せいぜい、誰かが温めてやるくらいしかできない。死が常に隣にあるこの場所では、咳ひとつで命の重さが測られてしまう。
思わず、口が勝手に動いた。
「……今日も無事でありますように」
自分でも意外な言葉だった。けれど、それは祈りだった。かつて宗教学を研究していたころ、数え切れぬほど異国の祈りを唱え、比較し、響きを確かめていた。その習慣は、子供の体になってもなお消えず、思考よりも先に舌を動かしたのだ。祈りとは何か、信仰とは何か――書物の中で繰り返し論じてきた問いが、今は自分の生き延びる術のように自然に溢れている。
ふと、隣の少女が薄目を開けた。眠たげな瞳でこちらを見ながら、掠れた声でつぶやく。
「ねえ、今の……もう一回言って」
驚いた。慰めるつもりなどなかった。ただ、癖のように口からこぼれただけの言葉。だが彼女は、その響きを求めている。飢えと寒さの中で、言葉だけが灯のように心を温めることがある。人はどんな境遇にあっても、必ず救いを欲する――学者として知識で理解していたはずの真理を、今は自分の身をもって実感していた。
ゆっくりと息を吸い、もう一度祈りを囁く。
「……今日も無事でありますように」
力のない、ただの言葉。神の名も、儀式も、ここにはない。ただ七歳の子供の口から漏れた小さな響き。けれど少女の表情は、わずかに安らぎを帯びた。かじかんでいた手が布の中で少しだけ緩む。冷たい路地裏に、かすかに温もりが生まれるのを感じた。
壁に染みついた湿気の匂い、遠くの通りからかすかに聞こえる荷車の音、頭上の細く切り取られた空の帯。そのすべてが凍りついたような朝の中で、祈りだけがかろうじて息をしているようだった。
……ここから、また始まるのだろうか。神の名とともに。
この体がどれほど弱くとも、希望を与える言葉が、ほんのひとときでも他者を支えるのなら――それは生きる意味となるのかもしれない。かつて書物に書き付けた無数の祈りは、今この瞬間、最も小さな場所で最も切実な形をとっていた。