【AI小説】異世界でスラムに転生したらカルトの教祖になっちゃった 作:けろかろ
次の週も、その次の週も、焚き火の輪には新しい死者が運び込まれた。
病で倒れた老人、寒さに耐えきれなかった子ども、過酷な労働に力尽きた男。
誰も葬儀をしてくれる者はいない。
だが、輪だけはその死者の名を呼び、祈りを捧げた。
「……この輪に集った皆が、明日を迎えられますように。
そして、今日を迎えられなかった者に、どうか安らぎを」
子どもも大人も声を合わせ、焚き火の炎に照らされながら、死者は静かに見送られる。
やがてスラムの人々の間で、こう囁かれるようになった。
「死んだら、あの輪に連れて行け。あそこなら、誰もが祈ってくれる」
死体を抱えた親が、友が、恋人が――ひとり、またひとりと輪を訪れるようになった。
祈りは日々重なり、焚き火は小さな祭壇のように輝き始めた。
春のある日、見知らぬ人々が亡骸を抱えてやって来た。
古びた毛布に包まれた小さな体を胸に、必死の声で訴える。
「……この子は、別の区画で死んだ。
でも、あそこでは誰も祈ってくれない。
頼む……ここで弔ってやってほしい」
焚き火の周りは沈黙に包まれた。
やがてイノが立ち上がり、静かに頷く。
「……この輪に集った皆が、明日を迎えられますように。
そして、この者に、安らぎを」
その声に重なって、輪の人々が同じ言葉を繰り返す。
炎は揺れ、亡骸は光に包まれるようにして見送られた。
それからというもの、他の区画からも人が訪れるようになった。
病に倒れた者、飢えに屈した者、寒さに凍えた者。
その誰もが焚き火の前で祈られ、弔われた。
「死んだら、あの輪に連れて行け。
あそこなら、忘れられずに祈られる」
その囁きは、やがてスラム全体に広がっていった。
焚き火の周りには、もはや顔見知りばかりではない。
見知らぬ人々が夜ごと集い、死者を見送る声が重なり合った。
それは――貧民街全体を覆う、大きな祈りのうねりとなっていた。
焚き火は小さくなり、夜風は骨にしみるほど冷たかった。
人々は薄い毛布を重ね、死体を近くの空き地に静かに横たえた。そこは家屋の裏手、誰も通らぬ堀割の端――忘れ去られた土の場所だった。
「ここに穴を掘るんだ」
低く響いたウラの声に、皆が重い足を動かす。子どもは歯を鳴らし、老人は杖で硬い地面を叩いた。
ツルハシは無い。大きな棒を石で削り、どこからか鍬をかき集めた。
土は冷たく、粘り気を帯びて重い音を立てる。小さな手が何度も滑り、爪が割れ、皮膚が剥けても止まらない。
背後では、シンが黙って路地を睨んでいた。影が近寄らぬよう、ただ静かに立ち続ける。
そして焚き火の方では、イノがゆっくりと祈りの言葉を繰り返していた。掘る音に混ざるその声は、不思議に人々の手を止めさせなかった。
ようやく穴ができると、皆で毛布ごと死者を抱え、そっと運び入れた。
冷たい土をかぶせる手は震えていたが、交互に交わりながら動いた。割れた手のひらが土で黒く染まり、涙と汗で頬が濡れた。
最後にイノが小さな石を墓標のように置き、輪の者たちが声を重ねる。
「……この輪に集った皆が、明日を迎えられますように。
そして、この者に、どうか安らぎを」
焚き火の火の粉が夜空に舞い上がり、闇を淡く照らした。
その灯りはただ見守るだけで、何も語らない。
「……忘れないでやれよ」
老婆の掠れた声が、ひときわ静かな夜に残った。
ある晩、焚き火の輪にひとつの影がよろめいて現れた。
その姿を見て、人々は一斉に息を呑む。かつてスラムを牛耳っていた古株の一人だった。
だが、そこに恐怖はなかった。
頬はこけ、髪は乱れ、体は震え、血の混じった咳を繰り返す。あの豪胆さは影もなく、ただ病に蝕まれた一人の人間が残っているだけだった。
「……へっ、まだ……やってやがったのか……祈りだの……」
掠れた声は風に消え入りそうで、足元は覚束ない。子どもたちは怯えて互いに身を寄せ合ったが、もはやその威圧には力がなかった。
イノは焚き火の前に立ち、冷ややかにその男を見据えた。
「ここに何をしに来た」
九歳の少年の声は、不思議なほど落ち着き払っていた。
古株は笑いとも泣きともつかない声を漏らし、ついに地に崩れ落ちた。
「……祈れよ……俺に……」
輪に沈黙が広がった。
子どもも大人も、どうすればいいのか決めかねていた。かつて恐怖を振りまき、仲間を傷つけた男である。それでも――死を前にした哀れな声を無視できるほど、彼らの祈りは狭くなかった。
イノは静かに両手を組み、目を閉じる。
「この輪に集った皆が、明日を迎えられますように。
そして、この者に、どうか安らぎを」
その声に導かれるように、子どもたちも、老人も、口を開いた。
「……安らぎを」
焚き火の炎が揺れ、倒れた影を優しく包み込む。
古株の目から、ひとすじの涙が流れた。
やがて、その体は二度と動かなかった。
夜風が吹き抜け、祈りの輪はしばらく沈黙を守った。
――かつての恐怖も、祈りの中で等しく弔われたのだった。