【AI小説】異世界でスラムに転生したらカルトの教祖になっちゃった 作:けろかろ
広場に設けられた処刑台。
石畳の上に並ぶ兵士たちの鎧が鈍く光り、夏の陽を受けても冷たい輝きを放っていた。
群衆のざわめきは次第に低く重くなり、広場全体を圧するような空気へと変わっていく。
その中央に引き出されたのは、痩せた十四歳の少年――イノ。
縄で縛られた手足は細く頼りない。だがその瞳だけは、燃え立つ炎のように揺らめいていた。
市民の間から押し殺した声が漏れる。
「子どもだぞ……」
「なぜ殺すんだ……ただ祈っていただけなのに」
高壇に立つ強硬派の司祭が、威圧するように声を張り上げた。
「“イノの輪”は異端!
市の秩序を乱し、人々を惑わす者である!
神の名において、ここに断罪する!」
その声に応じるかのように、兵士が刃を抜いた。
金属音が乾いた空気を裂き、ざわめきが広がる。誰もが固唾を呑み、少年の最期を見届けようとした。
イノはふと顔を上げ、群衆を見渡した。
その瞳には恐怖はなく、ただ揺るぎない確信が宿っていた。
そして静かに口を開く。
「……忘れるな。
小さき者を――忘れるな」
一瞬の沈黙。だがすぐに、群衆の片隅からか細い声が返った。
「……忘れるな」
別の場所から、また別の場所から。
「忘れるな……」
「忘れるな……」
やがて広場全体が祈りの声で満ち、うねりのように石畳を震わせた。
司祭の顔が怒りに歪む。
「黙れ! これは異端の言葉だ!」
だが祈りは止まらない。
兵士すらも刃を震わせ、口の中でその言葉を繰り返していた。
――忘れるな。小さき者を。
イノはその光景を見届け、微かに笑みを浮かべた。
そして瞳を閉じる。
刃が振り下ろされ、少年の体が崩れ落ちたその瞬間――空が裂けた。
雲ひとつなかったはずの青空に、黒々とした塊が突如として湧き上がり、稲光が大広場を白く焼きつけた。
轟音と共に、豪雨が石畳を打ちつける。
乾いた広場はたちまち濁流と化し、処刑台の下に赤と雨とが混じって流れた。
群衆は悲鳴を上げたが、逃げ出す者は少なかった。
誰もが空を仰ぎ、雨に濡れながら震える声で囁いた。
「……神が怒っている」
「いや、天がイノのために泣いているのだ」
処刑台に立つ司祭は、ずぶ濡れになりながら必死に叫んだ。
「これは偶然だ! 神の意思ではない!」
だが、その声は轟く雷鳴にかき消され、誰の耳にも届かなかった。
兵士たちは剣を握る手を震わせ、雨に霞む視界の中で顔を強張らせた。
彼らの耳には、なおも群衆の祈りの声が響いていた。
「忘れるな……小さき者を……」
「忘れるな……」
雨粒と涙が入り混じり、老いも若きも顔を濡らした。
イノの血は雨に溶け、石畳を赤く染めながら流れ去った。
だが、その名は、誰の胸からも流れ落ちることはなかった。
――こうして人々の記憶には、処刑と雷雨が一つの出来事として刻まれた。
「その日、神は少年の死を見て空を裂いた」
その物語は瞬く間に街を駆け抜け、祈りを信じる声をさらに強めていった。
第一部完です。
普通の感覚を持っていた筈のイオが何年間も祈りを捧げているうちに祈りそのものになりましたね。