退魔の一族に転生した社畜、何が何でも定時退社したい   作:シャチテン

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三 強くなりたい

 俺は今日も今日とて、図書室に居座っていた。

 現状、俺が考えるべきは自分の能力を如何に伸ばすか。

 本格的な鍛錬はまだできないので、なんとかして鍛錬をせずに――もしくは鍛錬と思われない方法で強くなる必要がある。

 一番簡単なのは、霊力を増やすことだ。

 基本的に霊力は生まれた時に持っている霊力で、どれくらい鍛えられるかが決まるらしい。

 俺の凡庸な才能だと、伸ばせる霊力はそこまで大したことはないだろう。

 だが逆に言えば、ある一定まで霊力を伸ばすことは大前提なのだ。

 ソシャゲなんかで、キャラのレベルをカンストさせるのは前提で、そこからスキルレベルを上げるのがやりこみになることがあるだろう。

 あんな感じで、霊力を最大に伸ばすことはレベルをカンストさせるのと同じ。

 だったら、早めに済ませておきたいのが人情というもの。

 

「一番簡単な方法は、やっぱり瞑想か」

 

 最初に学んだ霊力を確かめる方法で、霊力を体に引き上げつつ、その集中状態を維持する。

 コレが多分、霊力を育てるうえでは一番簡単な方法だ。

 特に素晴らしいのは、こうやって読書をしながら集中状態を維持することで霊力を伸ばせること。

 とりあえず図書室の本をすべて読みきるまでは、こうやって霊力の鍛錬にこっそり励むべきだな。

 

「そして、退魔師が操るのは身体特性と退魔の術……後者はわかりやすいけど、前者はややこしいな。孤金谷さんみたいに妖魔の血を引いてる一族は、その妖魔の特性を引き出せるってことか」

 

 狐妖魔の力を引いている孤金谷さんは、狐火を生み出したり別の存在に変化したりできるそうだ。

 なんというか、純人間の宍戸家が下に見られるのは、まぁ当然と言えば当然なんだよな。

 才能はないし、身体特性も使えない。

 ただ、身体特性を使うにも霊力の消費が必要。

 どっちにしろ、霊力を鍛えることは必須。

 

「まぁでもそう考えると、身体特性を使えないのもある意味利点だよな。向こうは最後まで俺の身体特性を警戒しないといけないんだから」

 

 正直、退魔師の見た目は一見普通の人間である場合も多い。

 孤金谷さんはレアなタイプなのだ。

 

「何より、退魔の術を使えれば身体特性はあまり必要ない場合も多い。やっぱり、退魔の術を覚えるのが強くなる一番の近道ってことだ」

 

 とにもかくにも、退魔の術。

 退魔師になるなら術を使う必要があるし、習得する必要がある。

 だけど、そのためには鍛錬が必須。

 

「しかしそうなると、やっぱり退魔の術が使えないとなんにもならないなぁ」

 

 俺には身体特性がない。

 それ自体はそこまでハンデにならないけど、今の時点で霊力を鍛えることしか出来ないわけだ。

 外で遊んでる子どもたちは、きっと鬼ごっこやかくれんぼなどに、この身体特性を使っているだろう。

 身体特性を使えば使うほど、特性は体に馴染んでいくだろうし、子供の頃から遊びの中に特性を入れ込むのは非常に合理的だな。

 だとすると、俺はその面で彼等に置いていかれてしまうわけだ。

 

「かといって、退魔の術は使ったら霊力の動きですぐにバレる。特に俺が練習できる退魔寮や自宅には警報用に設置された探知の術があるんだよな」

 

 なんてこった、俺の敵は味方にいたわけだ。

 パワハラ上等のクソ上司のことかな?

 いや、アレは味方じゃないから敵じゃないな(錯乱)。

 

「それにしても、だいぶ色々読んだよなぁ。これでもう何冊目だ? 後何冊くらい残ってるんだろう」

 

 ふと、時計を見てそろそろ母上が迎えに来るだろうと思いつつ、図書室を見渡す。

 ここに来てもう数ヶ月、かなりの本を俺は読んだ。

 最初のうちはどこに何があるのか、一体何を読めば良いのかわからない手探りな状態から、なんとなくどこに何があって次に何を読めば良いのか解る所まで来た。

 長かったな、と正直思う。

 

「そう考えると……退魔の術も、本質は同じか」

 

 俺の前には、無数の退魔の術が横たわっている。

 攻撃的なものから、防御的なもの。

 探知に使うものや、それを阻害するもの。

 本当に様々な術があって、どこから習得すれば全く解っていないのだ。

 逆に考えれば――

 

「――なら、今俺が一番欲しい術がなにかってところから、習得する術を選べばいいのか」

 

 俺が今、一番必要としている術ははっきりしている。

 正確に言うと、今俺が一番どうにかしたい術は――探知の術だ。

 

「なら、習得するべきは探知をかいくぐる隠密だ」

 

 あるだろう、この支部や家の探知術を回避できる隠密系の術が。

 調べたから知っているぞ、常時発動するタイプの術には、結構な維持コストがかかるということを。

 小さな支部や、実力のない家の警報用に使われる術なんて、そこまでスペックは高くないだろう。

 だから、俺でも習得できるはずだ。

 いや、習得して見せる。

 

「考えてみれば、そうだよ。俺は強くなるために今からでも修行がしたいんだ。そのために隠密系の術を取得して、隠密系の戦い方を身につけるのは理にかなってる」

 

 コレの何が良いって、退魔の術は失敗しても()()()()()()()ことだ。

 だから失敗しても練習していることはバレないし、成功してもバレない。

 ならば、隠密系の術しかない。

 問題は――鍛錬法。

 そこまで考えたところで、時間が来た。

 

「――ユキトくん、お母さんの迎えが来ましたよ」

「あ、はい孤金谷さん。いつもありがとうございます」

 

 母の迎えが来た。

 時刻は十七時、帰るにはちょうどいい時間である。

 しかし行きは父上と一緒に来たのだから、父上と一緒に帰るのが筋なのだが、父上はこれからしばらく退魔寮に残るのだ。

 だから俺は、普段から母上が迎えに来ることになっていた。

 

 ――母上とともに退魔寮の入口を出て、考える。

 術の習得には、どうしたって目に見えた成果が必要だ。

 ぶっちゃけ、隠密系の術は効果が発揮されているかを確かめる方法がない。

 周りからは俺が透明になって見えているわけだけど、自分まで自分が透明に見えてしまったらいろいろなことに支障が出るからだ。

 かといって、人前で術を使うには俺の知識が足りてなさすぎる。

 施設に探知術が存在していることは知っているが、この世界の探知に関する術はそれだけではないかもしれない。

 人前で術を使っても問題ないと思えるくらいの知識がないと、試すことはできないのだ。

 なにか方法は――

 その時だった。

 

「おい、ししどの落ちこぼれ」

 

 不意に声をかけられる。

 声をかけてきたのは……ああ、普段は中庭で遊んでいる子どもたちの一人だ。

 普段は一人でいるときか、父上といるときに声をかけてくることが多いのだけど、今日はたまたま母上といるときに声をかけてきたのだろう。

 ただ、普段ならともかく、母上といる時に声をかけられるのは少し困る。

 

「お前、まだいみもないのに、たいまりょーにきていたのか?」

「……」

「落ちこぼれのいみをおしえてやろーか? 落ちてこぼれていったやつってことだ。そんなおまえがたいまりょーにくるんじゃねぇよ」

 

 宍戸の落ちこぼれ。

 宍戸の一族は常に、そう呼ばれて蔑まれてきた。

 宍戸のシシと鹿威しをかけて宍戸の落ちこぼれ、だそうだ。

 俺や父上がそう呼ばれているのを知ると、母上は悲しそうな顔をする。

 別に俺がどれだけ落ちこぼれと言われても構いやしないが、母上の前では言ってほしくないな。

 

「行きましょう、母上」

 

 そう言って、俺は急いでその場を離れる。

 

「あ、おい。にげるのか、おちこぼれ! だったらにどと、たいまりょーにかおだすな!」

 

 この子どもが言っていることは、別に気にならない。

 ただ、彼等が今後俺の同僚になるかもしれないと思うと、気が重いのだ。

 母上に迷惑をかけたくもない。

 いっそ、彼等から認識されなければ、楽だろうに――

 

 

「――認識されなければいい?」

 

 

 俺は思わず、はっと子どもの方を振り返った。

 

「な、なんだよ!?」

 

 ――いるじゃないか。

 隠密系の術が発動しているか、確かめるのにちょうどいい相手が。

 術が発動しているか察知できない子どもたちが――!

 

「いえ、何も」

「……っ、そ、そうかよ!」

 

 子どもは、振り返った俺に対して特に何も言ってくることはなかった。

 また文句の一つでも言ってくるかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 それにしても――

 ふふ、ふふふ。

 思わず笑みが零れてしまう。

 何とか周囲に気取られないよう、口元を押さえて、心配する母に大丈夫と伝えて俺は帰路につく。

 

 決めた、中庭で遊んでいる子どもたちの前で隠密の術を使う。

 そうと決まれば、ここからは霊力の鍛錬に合わせて、隠密術の鍛錬を始めていくぞぉ――!

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