前向きにいきたい僕のチェンソーマン (旧題:せっかく転生したんだし、前向きに行こう) 作:きりっと果実
2026/03/06
内容はほぼ変えず、読みやすいよう書き直しました。
次の構想が決まるまでしばらく過去の話を書き直しまくります。
幸せ家族
血の匂いが鼻腔を擽る。
「はあ……はあ………。野菜系はどいつもこいつも処理がめんどくさいから嫌いだ…!」
荒い呼吸が、細い路地裏に落ちた。
アスファルトの上には、叩き潰された悪魔の残骸が散らばっている。
砕けた殻のような肉片。
踏み潰された野菜のような青臭い臭い。
その中央に、女が立っていた。
悪魔の血がこれでもかと付着した棍棒を片手でぶら下げ、
死体を踏みつけながら、吐き捨てるように呟く。
こびり付いた血を払い落とすため、ブンブンと振り回すも粘ついた血は中々落ちない。
苛立ちを感じ始めた辺りで払い落とすことを諦めた。
「はあ〜あ……」
肩を軽く回す。
「ま、戦闘自体は慣れてきたか」
路地の向こうでは、誰かの生活の音がした。
遠くから車の走る音も聞こえる。
だが、この場所だけは妙に静かだった。
建物の隙間から見える空は、少しだけ緩んだ色をしている。
冬の冷たさは残っているが、どこか暖かい。
「……そろそろ次のステップに行ってもいいかもしれない」
そう呟いて一息つき、武器を肩に担ぐ。
べちゃっ
粘りつくような音が、やけに大きく響いた。
数秒固まる。
「……あ」
ゆっくり肩を見た見た。
赤黒い血が、べったりと付いている。
「……血で汚いの忘れてた」
肩に感じる嫌な
「クソッ……」
武器を肩から離し、軽く振る。
だがやはり血は落ちない。
小さく舌打ちした。
僕は転生者だ。
――もっとも。
前世の記憶と呼べるものは、ほとんど残っていない。
ぼんやりと思い出せるのは三つだけ。
この世界が「創作の世界」であること。
それが漫画だったこと。
そしてその作品の名前が――
『チェンソーマン』
だったこと。
はっきりとした自我を得たのは、二歳の頃だった。
父に抱かれながらテレビを見ていた時だ。
古いブラウン管テレビ。
少しざらついたニュース映像。
アナウンサーが、硬い声で何かを読み上げている。
(……ん?)
(これ、まさか……)
(俺、転生したのか……?)
カクヨムとか、なろうとか。
前世で読んだ覚えのある言葉が頭をよぎる。
(転生……!?)
生まれ変わったらどうするか。
そんな妄想をしていた記憶は、うっすら残っている。
けれど。
まさか本当に起きるとは思っていなかった。
テレビの中ではニュースが続いている。
(……言葉は日本語)
(家の感じも日本だよな)
畳。
木の柱。
壁に掛かった丸い時計。
昭和っぽい、少し古い家。
(中世ファンタジーじゃないのか……)
少しだけ残念に思う。
剣とか魔法とか、そういう世界を少し期待していたからだ。
だが同時に安堵もする。
言葉を一から覚え直す必要はなさそうだし、血なまぐさい生活もしなくて済むだろう。
――そう思った。
しかし。
ニュースの内容を聞いた瞬間。
その考えは吹き飛んだ。
『……悪魔による被害が──』
(……アクマ?)
(悪魔……?)
背中に、じっとりと汗が浮く。
ニュース映像には壊れた建物。
パトカー。
騒ぐ人々。
そして聞き慣れない単語。
デビルハンター。
(……嘘だろ)
(いや、まさか)
(そんな……冗談じゃない)
胸の奥がざわつく。
そして理解してしまう。
(この世界……)
(『チェンソーマン』の世界だ)
つまり。
血なまぐさい世界だった。
「また悪魔か……」
父がぼそりと呟いた。
窓の外では、近所の子供たちの声が聞こえる。
平和そうな住宅街。
けれど、この世界には――悪魔がいる。
(……いや、待て)
(そんなネガティブになるな)
むしろチャンスじゃないか。
ずっと思っていた。
転生したら…特別な力が欲しい、と。
悪魔がいる世界なら。
契約もある。
能力もある。
(国ガチャSSR引けたんだ)
(なら次は……悪魔ガチャだ)
(対価が軽くて強いやつと契約して)
(デビルハンターになって)
(今世は充実した人生を送ってやる)
この世界でそんな都合のいい話があるはずもないのだが。
小さな拳をぎゅっと握る。
(そうと決まれば)
(早いうちから体を作らないと)
(悪魔と戦える体を……!)
「……おや?」
父がくすっと笑う。
「やけに元気だね、ナツ」
優しい声だった。
「そんなに僕の抱っこが気に入ったのかな?」
そう言って、頬をすり寄せてくる。
(ヒゲ痛いんだよなこの人)
(俺のぷりちーべいびー柔肌が危険なんだけど)
自我を得る前の僕は、ほとんど泣かない子供だったらしい。
だからだろう。
父はやけに嬉しそうだった。
その日、僕のほっぺはたっぷりと揉みくちゃにされた。
(しかし、悪魔と戦う体づくりって何すればいいんだ……?)
草薙ナツは悩んだ。
それから四年。
ナツは六歳になった。
どうやら生まれたのは1976年の日本らしい。
つまり今は1982年。
原作より少し前、大体そんな気がする。
「ナツ〜……もっとパパとおままごととかしないかい……?」
「ふっ……ふっ……ふっ……」
腹筋をしながら答える。
「……ヤダ」
「女の子なんだし、せっかくならもっと可愛いことしないかい?」
「ふんっ……ふんっ……ふんっ……ヤダ」
父は少し困った顔をした。
「分かったよ……」
「でもなんで筋トレなのかな……?」
草薙ナツ。
六歳。
筋トレに夢中である。
その理由は単純明快
(なんで普通の転生じゃなくてTS転生なんだよ!!)
彼は。
彼女だった。
つまり通常の鍛錬では簡単に人間の男にすら負ける。
(まぁいい)
(性別変わってもやることは同じだ)
(だが女の体ならその分鍛えないといけない)
「ほら、足押さえるよ」
父がナツの足を押さえる。
「俺は強くならなきゃいけないから……!」
「そぉ……」
少ししょしょぼした父を尻目にナツは腹筋を途中で切りあげ、仰向けに寝転がる
「はぁ……はぁ……」
「ほら」
父が水筒を差し出す。
「たくさん汗かいたんだから、水飲みなさい」
水筒を手渡され、目の前の父に飲み込む音が聞こえるほど勢いよく飲みはじめる。
「くぅ〜!!」
「はは……おっさんみたいだよナツ」
「父さんの真似だよ」
「え…嘘…僕そんなオヤジ臭い…?」
(最初は)
(何のために強くなるかなんて考えてなかった)
でも。
今は少し違う。
(この人のために強くなりたい)
この家には二人しかいない。
父──草薙ナオヒロ。
娘──草薙ナツ。
母はいない。
どうやら離婚したらしい。
母の話をする時の父は、
とても辛そうで、悲しそうだった。
見ているこちらの胸が苦しくなるような顔をする。
だから、尋ねるのはやめた。
だが好奇心は抑えきれなかった。
父の部屋を漁れば、
何か母の痕跡が見つかるのではないか。
そう思った僕は、父のいない隙に部屋へ侵入した。
そして机を漁り――
手紙を見つけた。
そこに書かれていた内容から察するに。
母は、金の少ない父と、育てるのが面倒な僕を捨てて…
金持ちの男と駆け落ちしたらしい。
なんともまぁ、ありふれた話だった。
少しだけ胸が痛む。
自分が、その原因の一部でもあると思うと
なんとなく申し訳ない気持ちになる。
だからだろうか。
何をしてあげればいいのかは分からない。
けれど。
せめて。
俺が、この人の重荷になるようなことだけは
避けたいと思った。
この優しい父が、
僕のことで苦労しないように。
母がいないこと自体は
そこまで気にしていない。
だが。
父が辛そうにしていると、
娘である自分まで悲しくなる。
ほんの数年しか一緒にいないのに…
親子の絆というのか。
あるいは、魂の繋がりとでもいうのか。
それは、思っていた以上に強いものだった。
(…筋トレするより、せっかくならもっと父さんと遊んだ方がいいかな…おままごとは、ちょっとアレだけど)
汗を拭うナツが悩ましげな表情をする
(この分ならデビルハンターになって心配させるより、普通の仕事に就いて普通に働いた方がいいかもしれない)
(…うん、そうだな。わざわざ危険な世界に足を踏み入れるよりも、俺を育ててくれるこの人の幸せを叶えてやりたいかもしれない)
いかんせん中身が男なので子供の顔はさすがに見せてやれないかもしれないが、それでも父さんには幸せになって欲しい。
この人の幸せとはなんなのだろう。
数年一緒に暮らしているが、こちらから聞かないと自分のことを多く語らない人なのでよく分からない。
…まぁよく分からないなら聞けばいいだけの話だ。
「ねぇ、父さん」
「なんだい、ナツ」
「父さんは幸せって、なに?」
父は少し驚いた顔をした。
そして優しく頭を撫でる。
「ナツはまだ六歳なのにそんなことまで考えられるんだね」
「父さんの子だから」
ナツは言う。
「父さんの幸せ考えるのは当然だろ」
父は笑った。
「はは……ナツは本当にいい子だね。心配しなくていいよ、僕はもう十分幸せさ」
「そっか…」
「でもね」
父は少し考えてから言った。
「ナツが小学校で友達をいっぱい作って元気に笑顔を見せてくれたら僕はもっと幸せかな?」
小学校で友達……
(それはちょっと難しいかも…)
精神年齢的に。
でも。
「うん!友達いっぱい作るよ!」
そんな人生も。
悪くないかもしれない。
筋トレはやめないけど。
ナツは筋トレ中毒者になりつつあった
小学校に入学してしばらく。
ナツは七歳になり、女子であることにも少し慣れた。
まぁ若干筋肉質な女の子だけど…そこはまぁ、ご愛嬌だ。
筋肉質な女の子というのも魅力的だろう。
もう一人称で''俺''を使うことは無くなって、今は少し譲歩して''僕''を使っている。
ボクっ娘ってやつだ。中々可愛いものだと自負している。
大人しくはあるけど勝気で運動が好きなボクっ娘美少女だ。
そういえば、精神年齢の差は意外と問題にはならなかった。
というのも、感性というか…その辺の感覚がガワの年齢にも結構引っ張られるのだ。
男で、大人であった名残が完全に消えた訳ではない。
ただ子供たちの輪にはいっても大して違和感を感じないくらいには中身が外の年齢に馴染んできている。
最初は子供達の輪に入るのは何やら恥ずかしかったが今じゃもうすっかり慣れたものだ。
おままごとだってガチでやれるし、ヒーローごっこだって僕があまりに迫真の演技をするからあちこちの仲良しグループから引っ張りだこだ。
ただやられ役ばっかなのが気に食わない。僕もヒーローやりたいぞ。
性別の方はまだ少し違和感があるが…これも時間の問題かもしれない。
だから男子たちとサッカーだの鬼ごっこだのするのも楽しめた。
「ナツー!学校終わったしサッカーいこーぜ!」
「あ、うん!僕は家に帰ってから行くから先にやってて!」
「わかった!いつもの公園な!」
男子たちは廊下を走っていく。
(あ〜そんなに走ったら……)
すぐ後ろから生活指導の先生の怒鳴り声。
いつもの光景だった。
毎回怒られてるな、アイツら。
……さて、公園に遊びに行く前に家に帰らなくては。
「父さん、ただいま!」
「おかえり、ナツ」
父は少し眠そうだ。
最近仕事が忙しいらしい。
それにやたらと小さい傷が増えている。
少し心配だ。
「洗濯物取り込んだら遊びに行くね!」
「……ごめんね」
父は申し訳なさそうに言う。
「わざわざ帰ってこなくても、友達と遊んできてもいいんだよ」
「僕が父さんの手伝いしたいんだ」
ナツは笑う。
「謝らないでよ」
「……ありがとう」
父が微笑む。
「うん!」
ナツも笑う。
小さな家。
父と娘。
それだけの家庭。
それでも。
暖かい家だった。
「じゃあ父さん!」
「行ってくるね!」
「ありがとう……ナツ」
父が呼び止める。
「ん?」
「前にさ」
父は少しだけ気恥しそうに頬をかきながら言葉を続ける。
「僕が幸せかって聞いただろう?」
「うん」
「友達が増えて」
「笑顔も増えて」
「元気な娘がいて」
父は優しく笑った。
「僕は幸せだよ」
父がまた少し皺の増えた眠そうな顔で柔らかな笑顔を見せる。
ナツは少し恥ずかしくなった。
「……僕も幸せだよ!」
ちょっと、いや結構恥ずかしいがちゃんとここは僕も返してあげるのが道理だろう
父は嬉しそうに笑う。
「うん。…いってらっしゃい」
「いってきまーす!」
玄関を飛び出す。
住宅街の細い道。
電柱。
遠くで鳴る自転車のベル。
走る。
公園へ向かって。
「あでッ」
転んだ。
靴が脱げた。
「……あれ?」
靴を確認すると、マジックテープが弱くなっている。
「サッカーするし…別の靴履いた方がいいかな」
家へ戻ろうと振り返る。
その時。
風が吹いた。
1983年
11月18日
午前10時
『銃の悪魔』 日本に26秒上陸
5万7912人 死亡
幸せは、いとも容易く崩れ去った
ちょいちょい書き直しました。
楽しく読んでもらえたら幸いです。
主人公が活躍し始めるのは7話頃からになります。
途中は上手く原作介入できず流されるがままになっています。
レゼの心理描写入れたいんだけど、解釈違い?
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入れて欲しい
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入れたっていい
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入れなくたっていい
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入れないで欲しい