4000日以内にログアウトしないと死ぬ!? ニューゲーム+を開始したらデスゲーム? だった件について 作:匿名係
テレビゲームの歴史が変わったと言われたのは、今から10年前のこと。それまでテレビやモニターなどの外部機器に映像を映し、キーボード&マウスやコントローラーでプレイするのが当たり前だった。
それを覆したのが脳波干渉型ゲーム機『ドリームプレイ』の登場によるブレイクスルーだ。電磁信号で脳内に直接映像を映し出し、五感そのものを操作装置とするこのゲーム機は瞬く間に大ヒットした。
なにせ夢物語と思われていた、フルダイブゲームを現実としたのだから。
今では五感モニターシステムによる医療用途や体感時間の加速機能を利用した高速学習にも用いられるこれを使って、いつものように俺はゲームを遊ぼうとしていた。
プレイするタイトルはHuman-like monsters。人と怪物が暮らすファンタジー世界で、何をしても良い自由度を楽しむスローライフ型ゲームだ。農業をしても良し、冒険をしても良し。鍛冶・釣り・恋愛・畜産といった普通の要素から、詐欺・拉致・宗教・洗脳……ダークな要素まで全部詰まった怪作。後半の要素があまりにも人を選びすぎて、作り込みの割りに売れ行きは芳しくないらしいが、その分嵌る人はとことん嵌るタイプのゲーム性。
俺もドハマりしてしまったタイプで、暇を見つけてはこれで遊んでいる。今日は特に楽しみなことがあり、アップデートでニューゲーム+が追加されるのだ。
さっそく起動させるとアプデデータのダウンロードが始まり、30分ほどかけてダウンロードとインストールが完了する。
ええと、アプデ内容は……これか。
「事前の告知通り、主な追加内容はニューゲーム+みたいだな」
ニューゲーム+では能力値や習得魔法とスキルはそのままに、もう一度最初からゲームを開始することになる。他のゲームと比べて珍しい内容としては、装備やアイテムは二周目に持ち込めないこと。これは設定として、能力と意識だけが過去に遡るからみたいだ。
それだけだとニューゲーム+としては物足りなくないか? と一瞬思いそうになるが、当然この手の二周目には恩恵がある。それがレベル上限の解放要素。
一周目の初期レベルの上限は20。この上限を上げようとすると、デミゴッドイベントと呼ばれる特殊なイベントをこなすことで操作キャラは人間から半神と呼ばれる種族に変化し、レベル上限が20から30に上がる。このイベントは3段階あり、1段階毎に10上限が上昇し、全てこなすことで30上昇して上限が50になる。
つまり1周目の最大レベルは50だ。50まで上限を上げれば、その分多数のスキルや魔法を習得可能になるが、やりこみ勢からすれば微妙に足りない。痒い所に手が届かないと言うべきか。
だが二周目に入る前にこのイベントをこなしておくと、更なる上限解放がされるらしく、開発は明言はしていないが、100まで上がるような物言いを開発秘話で零している。
(100まで上がれば、相当スキルの幅が広がる。スキル次第で立ち回りがだいぶ変化するからな)
仮に農業だけをやりこむのであれば20レベル上限だけで十分足りるが、釣りに鍛冶にと多岐に渡って遊ぼうとすると、もっと高いレベルとスキルが必ず欲しくなる。本気でやりこむのであれば、レベル上限とは1周目の装備&アイテムを捨ててでも、喉から手が出るほどに欲しい要素に他ならない。
「それじゃ始めますか」
頭に『ドリームプレイ』を装着して、ソフトを設定モードから操作モードに切り替えて起動させる。私の五感が全て切り替わり、一時的に視界が真っ暗になる。暫くすると、五感全てに感覚が戻ってくる。先ほどまでは自室にいたのに、今は周りから喧噪なのか多種多様な音が聞こえてくる。
それと同時に、瞑った目に光が差し込んだ。眩しいと思いつつも目を開けると、そこは見知った風景だった。
「一周目のスタートと同じだな」
操作キャラの設定としてはこのような内容だ。
とある村に住んでいた若者。彼、ないし彼女は変わらない日々に退屈していた。そんなある日、若者は村を飛び出ることを決意する。今日までとは違う自分を目指して。そんな若者が近くの小都市『スターリア』に無事到着し、広場のベンチに座ったら旅の疲れから少し眠りに入ってしまう。微睡から目覚めた時、荷物は手元から失せていた。
ようするに、迂闊にもお外で寝てしまったら、財布とか全部すられました。どうやって生きていこうか……みたいなところから物語は始まる。
(まずは序盤の稼ぎからだ)
序盤の行動は大体決まっており、スターリアの広場に設置されている依頼掲示板から簡単なクエストを選んでクリアするだ。いわゆるチュートリアルクエストになっていて、これらをこなすことでどんな遊び方が出来るのかを学べるようになっている。
私はさっそく掲示板に行き、幾つかの張り紙を眺めてみる。ここには街中からこんなことで困っているので、手伝って欲しい仕事が張り出されている。ざっと内容に目を通すと、私は少しおや? と思った。1周目のチュートリアルではゴブリン退治などもあったのだが、ここにはその手の仕事は殆どない。というよりも、チュートリアルに使えそうなクエストが見当たらない。
(これは2周目要素か?)
1周目をクリアしているのだから、チュートリアルを省く。なるほど、納得がいく話ではなる。クリアしたところでそこまで旨味のあるクエストでもないので、周回するようなプレイヤーであれば無視する可能性の方が高い。ならばいっそのこと、無くしてしまえとデザインするのも当たり前か。
「そうなると、これとかになるな」
1周目と違い張り出されているような仕事は、どこに依頼したらいいのか不明などぶ攫いなどの雑事が圧倒的に多い。しかしそれらは報酬金がかなり少なく、まともな賃金の依頼は賞金首の討伐ぐらいしかない。
依頼主はスターリアの兵士詰所。詳しい話は詰所まで来てくれと書いてある。
「行くか」
なんにしろ、何かの依頼をこなして金を貰わないと何もできない。こんな序盤から装備品を盗むのはリスクが高く、また盗める武技防具類も旨味は全くと言っていいほどない。
それから少し歩いて、私は少し不思議なことに気がついた。妙にスターリアの都市自体が広いのだ。
「これもアプデの影響か?」
スターリアはゲーム内では首都を除く大中小の三種類の内、小にあたる都市でそこまで広くはない。端から端まで走ったとしても。1分もあれば十分だった。しかしアプデ以降は、まるで別の都市かのように広い。広場にいた時には建物で視界が遮られて分かりにくかったが、ちょうど都市を囲む城壁が見えるようになったことで良く分かる。明らかに別の都市モデルになったかのように広い。
「告知にはなかったが、ずいぶんと気合の入ったアプデだな」
序盤は1周目と変わらないだろうと思っていたが、これなら思った以上に最初から楽しめそうだ。
元の都市より広くなったことで配置もずいぶんと変化し、詰所の位置もだいぶ変わっていた。
途中衛兵がいたので場所を尋ねてみると、これまた驚く変化があった。聞いてもはいかいいえぐらいの回答だと考えていたのに、どこそこの路地を曲がり何歩歩いたらどうたらと詳しい返答があったのだ。
(新設計のAIを搭載したってアナウンスはあったが、まさかこれほど高性能なのを積んでくるとは)
昨今のAIの発展ぶりは顕著ではあるが、このゲームにここまで高度なAIはなかった。今回のアプデ内容の充実さに、私はこの時点で満足してしまう。
衛兵にお礼を言ってから、別れて道を進むことに。ふと後ろを振り返ったら、衛兵はなぜか顔をにやけさせていた。なんだろう、あれ?
気にしても仕方ないので、言われた通りに進めば詰所に到着した。
外には見張りの兵士が二人立っていたので、依頼について聞いてみることに。
「これは……お嬢さん、悪いことは言わない。こいつは凶悪な殺人犯で、現在までに6人も兵士を返り討ちにしている悪党だ」
「君のような若い女の子が挑んだとしても、捕まって死ぬより酷い目に合うのが関の山だ」
そういって、私の心配をしてくれる。そういわれて、本当にかなり高性能AIを積んで来たなと思わずワクワクしてしまう。なぜかと言えば、本物の人間のような反応をしてくれるからだ。
今の私はキャラクリで頑張って作成した美少女キャラの見た目をしている。細かい部分にも拘って製作した、かなり自慢の美少女キャラクリだ。現実の普通の成人男性な自分とは全く違う。
このAI達に、中身は男性だぞと話したらどんな返答を返してくれるのだろうか?
(それとも案外普通のことだからスルーされるかな?)
この手のキャラクリエイトが可能なゲームでは、美少女な見た目にするというのは割と普通だったりする。成れるなら美少女になりたい勢は結構多い。あと人気なのは2mを超すハゲマッチョとか。
しかしこうやってリアルに近い反応をされると、少しばかり嬉しくなる。リアリティの追求性というのは、ゲーマーとしては喜ばしい要素だからだ。
「大丈夫ですよ。これでも鍛えていますので」
それでもしかし……と渋られたが、隣にいた兵士が仕方ない、やらせてやろうと言ってくれて、詳しい情報をくれた。
私は礼を言ってから詰所をあとにする。まずは目撃情報があった場所に向かうことに。
都市を出てすぐにその場所に向かい、幾つかの手順を踏んで賞金首のアジトらしき場所を突き止める。
道中モンスターなどにも襲われかけたが、倒したところで旨味もないのでダッシュして逃走することに。
アジトらしき場所は狭い洞窟で、賞金首以外にも数名野盗のような連中がいたが、大した敵でもなく『魔弾』の魔法だけで殲滅できてしまった。
ただこの時困ったことが一つ出てきてしまった。
「う……ゴア要素がパワーアップしてる」
アプデ前は肉体の損壊や欠損などのグロテスク要素は無かったのに、魔弾を喰らった野盗と賞金首は体が弾けたり腕が千切れたりして死亡した。匂いも酷い。私はゾンビ物なども好んでいて、この手の肉体破壊なグロ要素には慣れているが、それでも不意打ちで来ると思わず怯んでしまうところがある。
「ただでさえ元々人を選ぶゲーム性なのに、ますます賛否両論なゲームになったな」
まぁこれが製作者のやりたいことだというなら仕方がない。嫌なら遊ぶのをやめればいいだけ。
それよりも、このイベントをこなしたことで多少は経験値が入ったのだろうか? デミゴッドイベントさえ終わらせていればレベル上限が解放されるそうなので、今は50以上に上がるようになっている筈だ。
確かめようとシステムウィンドウを開き、メニュー画面に移行しようと試みる。
「開かない?」
システムウィンドウが出ない……なんどやっても、ウィンドウが起動しない。メニュー画面が開かない。
「ちょ……は? ……」
意味が分からない。何だこのバグは? アップデートに伴うエラーか?
「仕方ない。緊急コード0721。強制ログアウトを実行」
正規手順だとメニュー画面を開き、システムからゲーム終了を選んで機械からログアウトする。しかしメニューが開かない以上は正規手段が使えないので、ゲーム機側を強制終了させることに。
これでしばらく待てばゲーム機が機能停止して、私は現実に戻ることができる。待つ。待つ……いつまで経っても終わらない。
私はこの結果に、本気で驚き心臓が跳ねた。正規手順でも強制終了でも駄目となると、あとは長時間プレイによる心身の影響を考慮した、時間設定による終了か体調の変化を脳の波形から観測したゲーム機が自動で停止してくれるのを待つしかない。
しかし考えても見てほしい。強制ログアウトが実行されないようなバグを引き起こした機械が、果たして標準通りに自動システムダウンを行ってくれるのだろうか。
もしもそちらも駄目になっていたら? 私はゾッとする。現状、こちら側からゲームを終了する方法が無くなってしまったことに。
「休み明けに出社していなければ、上司が家までたぶん見に来て……駄目だ……そうなるとゴールデンウィーク明けになる」
現在は長期休みの一日目で、次の出社日は七日後。七日間……無理だ! もたない!!
人間は食わなくても一週間は持つらしいが、それは水がある場合の話。水分を摂取しなければ、人間は4日から5日もあれば脱水症状を起こして死亡する。
「肉体が疲弊して5日目は動けなくなっていると考えたら、猶予は4日間しかない。現実世界では96時間。こちらでは向こうの一千倍で時間が進むから96000時間……残り4000日」
つまり……つまり
「あと4000日。あと4000日でログアウトの方法を見つけ出さなければ、私は餓死する?」
背筋に汗が噴き出る。賞金首との闘いでは何一つ感じなかった、絶対的な恐怖。死の足音がヒタリとすぐ傍で鳴り響いた。