4000日以内にログアウトしないと死ぬ!? ニューゲーム+を開始したらデスゲーム? だった件について   作:匿名係

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ここはゲーム? それとも異世界?

「どうする……考えろ……」

 

 ゲーム機側の自動停止機能に期待したいが、もしかしたら駄目な可能性もある。そうなると、どうにかしてゲームを終了させる方法を考えないと駄目だ。

 

「まずシステムウィンドウが開かない。これは確かだ」

 

 なのでメニュー画面から正規手段での終了は出来なくなった。私は頭を捻って考える。なぜこんなことになったのか。AIの強化といい、街の作り込み度の向上といい、今回のアプデには良い要素がたくさんあった。

 しかしメニュー画面が使えないは致命的なバグだ。それにゴア要素の突如追加も唐突過ぎる。まさかとは思うが、クリエイターがリアリティーショックにでもかかったか?

 リアリティーショックとは勝手に私が呼称している要素で、リアルならこうじゃないといけないとクリエイターが陥ってしまう精神病のことだ。洞窟で火を燃やしたら酸欠になるから、敵だけじゃなく味方も動けなくなってしまうと考えてしまったりするようになること。

 このゲームの製作陣も、突如としてそれに患ってしまったのではないだろうか。メニュー画面なんてゲーム過ぎるとか、攻撃を喰らったら普通肉体欠損ぐらいするだろとか。

 しかしそれにしては、今までの要素はリアルを追求し過ぎな気もする。まるで本当にリアルにでもなったかのような──

 

「リアルになった? ……まさかな」

 

 いくら何でもそれは荒唐無稽すぎる。私が異世界転移でもしたのではないのだろうかなんて。だがそれなら、人の反応がごく自然なことにも、都市が広くなったのにも説明がつく。メニュー画面が開けないのも、ゲームでは無くなったから。

 私は首を振って否定する。『ドリームプレイ』は五感を利用するせいで、現実と混同する例は何件か報告されている。そのせいで規制するべきだなんて意見も上がるぐらいには。

 ここはあくまでもゲーム内だ。あまりにも現実味がありすぎて、脳がリアルだと錯覚しているだけ。それにそうでないと、あの惨状をどうやって直視すればいいのだろうか。

 私はちらりと後ろを振り返る。バラバラになった、賞金首と野盗数人の死体がそこにはある。もしもここが現実なのであれば、私がこの手であいつらを殺したことになってしまう。

 ……そうだ。ここはゲームだ。ゲームに違いない。

 何度か自分に言い聞かせてから、賞金首を倒した証拠を持ち帰ることにする。なんであれ、まずは資金を手に入れないと。どうやってログアウトするかを考えるにしても、宿などを取って落ち着ける場所を手に入れないといけない。

 賞金首は肉片になっているから、とてもじゃないが持ち帰ったところで判別は出来ない。なので漁るのはやつらの荷物だ。木箱が置いてあったので開けて中身を探ると、街の衛兵が使っていたのに似た鎧などが見つかる。

 それらと一緒に、名前が彫られた金属プレートがぶら下がる鎖も見つかる。

 

「ドックタグか」

 

 確か兵士が6人返り討ちにあっていると言っていたな。ならこれを持ち帰れば、討伐の証にはなるか。

 その他にも持ち帰りたい物品は幾つかあったが、序盤なのでまだ容量の大きい魔法鞄などを持ち合わせていない。嵩張る鎧などは諦めて、持ち帰って換金すれば利益の出そうな宝石や、旅人から奪い取ったと思わしき貨幣だけを袋に入れて持ち帰ることにする。

 

「ファスト・トラベル」

 

 一度立ち寄った街や、重要拠点に一瞬で帰還できる魔法を使う。スターリア以外にも行けないか試してみたが、引継ぎ要素にはないのか不発に終わった。

 街に戻った俺は兵士詰所に立ち寄り、ドックタグを渡す。

 最初はすぐに戻ってきた私を見て怪訝そうにしていた兵士だが、タグの名前を見て豹変した。

 

「これは! まさかあの糞野郎に殺されたあいつらの!? これをどこで!?」

「手配書にあった賞金首のアジトを見つけたので、そこを襲撃しました。数人の手下を連れていたので、手加減できずに全員……そこにあった木箱を調べたら、あなたが身に着けているのと似たデザインの鎧と一緒に、それが入っていました」

「そう、か……糞野郎の拠点を……どのあたりにあったんだ?」

「地図はありますか?」

 

 大体この辺りですと印をつける。すぐに数人斥候を送り、状況を確かめに行くと伝えられた。一周目の時とは違うな……なんて、頭のどこかが冷静に状況を見つめていた。

 

「現場の見分を済ませるまでは、悪いが賞金はすぐに払えない。すまないが、これは規定なんでな」

「分かりました。何日ぐらいかかりそうですか?」

「2,3日はかかるな」

「ではそれまでの間、近くの宿をとって休みます。見分が終わりましたら、そこを尋ねて頂いてもよろしいですか?」

「了解した。ではお嬢さんが賞金稼ぎだと分かるよう、これを持っておいてくれ」

 

 と言って、証文を書いて渡してくれた。これが賞金との引換券になるようだ。

 かなり一周目とは違う。一周目であれば討伐の証がドロップし、それを渡せばすぐに賞金と引き換えだった。しかし倒した賞金首からはそれがドロップしなかったので、代わりにドックタグを持ち帰る羽目になった。

 いろんな疑念が首をもたげてくるが、今は心の中で封殺する。まずすべきは、活動拠点の構築だ。

 兵士に頭を下げて別れてから、換金したいものがあるならここに行くと良いと告げられた質屋に行く。これも一周目との違いだ。一周目であればその辺の道具屋で適当に売れたのに、2周目では買い取りは無く専用の質屋に行く必要があるようだ。

 私はそこで宝石などを買い取ってもらった。ただし安い。出所不明な宝石は、どうしても買い取り額が安くなってしまうようだ。私は甘んじてこの結果を受け入れる。何よりも今は、落ち着ける場所が欲しい。どうせただで手に入れた宝石なのだから、少しでも金になるのであれば良しとする。

 そうして手に入れた資金と、賞金首のアジトから手に入れた貨幣を使って、詰所近くの宿に入った。

 宿はあまり綺麗とは言えないが、背に腹は変えられない。途中一階部分にある酒場でねっとりとした視線を向けられたりしたが、これも無視する。今はともかく、ゆっくりと休みたい。

 

「……どうなってるんだ」

 

 狭い部屋内の大部分を占める、ちょっと色の変わったシーツがかけられたベッドに座りながら途方に暮れてしまう。一体なぜこんなことに……

 

「メニュー画面よ出ろ……ステータスオープン! システムウィンドウ起動! 強制ログアウト実行! ……駄目か」

 

 何をしても駄目。端的に言えば、ゲーム内に閉じ込められてしまった。その状況は何も変わらない。つまりどうにかログアウトしないと、餓死か衰弱死することも変わらない。

 

「システムが変わりすぎている。これは制作会社が、やはりリアルの追求に目覚めたせいか?」

 

 1周目の時には、宿はもっと綺麗だった。こんな見ただけで使いこんでいると分かるようなシーツなどは、一切使用されていない。賞金首の件といい、変わった要素がいくら何でも多すぎる。

 多すぎるからこそ、荒唐無稽だと切り捨てたい考えがまた頭を過る。ここはもしかしたら、ゲーム内などではなく、似たような異世界なのではないか。そこに操作キャラとして、自分は紛れ込んでしまったのかもしれない。そんな狂人の考えを、どうしてもしてしまう。

 

「……正直なところ、それが一番マシかもしれない」

 

 なぜそうなったのかはともかく、異世界転移であれば死は免れる。この世界がゲームに近いとしても、今の私の体はデミゴッドだ。直訳すれば半神であり、賞金首に全く苦戦もしなかったことからかなり強い部類に入る。

 部屋には備え付けの鏡があったので、改めて今の自分を目視で確認。身長は女性キャラとしては普通ぐらいに設定し、顔は北欧美少女風にクリエイト。腰までありそうな絹のようにさらさらとした金髪は紐で後ろに括ってある。

 服は中世ヨーロッパで村人の服と言えばこんなんだよなー、としか言えない地味な色をした服装で、ところどころ糸が解れていたり、変なシミがついていたりする。

 外見だけでいえば服装を除きどこかの貴族令嬢か? と思うような華奢な見た目だが、実際には違う。50レベルの強さは走れば100mを1秒で走り抜ける敏捷に、人間ぐらいのサイズの岩を片手で持ち上げる筋力。数十メートルから落下しても着地してすぐに動ける耐久に、魔法を使えば賞金首にやったように、簡単にハチの巣にできる。

 世界観としては、そこいらを歩いている人が大体1から3レベル。凄く鍛えた人が10レベル。そこそこ才能がある人が全力で鍛えて20レベル。これは上限解放イベントをしない操作キャラの最大値だ。

 30や40とは歴史書に名を遺す大英雄のレベルで、50とはそんな大英雄たちが戦った二つ名を持つネームドモンスター達の強さだ。

 もしもここが異世界で、そのあたりの常識も同じなのであれば、50あればまず死なない。これより上は設定にしか存在しない、シヴァやゼウス、ベルゼブブやアスタロトと言った神や悪魔の名を関する超常存在だけ。生きていく上では、この肉体であれば困ることはない。

 

「だがそれは、異世界転移の場合だ。これがゲームのバグで閉じ込められたのであれば、のんびり生きていくなんてしたら取り返しがつかなくなる」

 

 それかバグではなく、これが仕様だったとしたら? リアルに目覚めた製作陣が、何かをしてクリアしないとゲームから出られなくしたとか。

 

「そのパターンだと、何かをしたらログアウトできるのか?」

 

 Human-like monstersに明確なゲームクリアはある。主人公が自分の両親が本当の両親で無いことを知り、世界を旅して巡ることで自分が半分人間で半分神であることを自覚するというストーリーが。その本編をクリアした後、行われるレベル上限解放イベントがデミゴッドイベントだ。そんなイベントも終われば、ようやく何をしてもいいスローライフ生活が幕を開ける。

 普通に考えればもう一度ストーリーを進めればいいのか? と考えたくなるが、そもそも今は2周目だ。仮に現在の状況が製作陣の思惑通りとして、クリア条件は別の何かを設けるような気がする。

 私は頭の中で状況を纏める。まずは異世界転移であるパターンも念頭に置いておく。その場合この世界で生きていくのだから、ゲーム時代のように拉致や窃盗などは極力厳禁。あくまでも真っ当に生きていく。

 次にこれが製作陣が頭がおかしくなり、とんでもない状況でゲームをやらせようとしているパターン。何かしらのクリア条件があり、それをこなすことでゲームクリアとなって解放されることを期待する。

 あとはドリームプレイの安全装置が働き、何をせずとも解放される。ただこれを待つにしても、数時間は必要になる。最短が2時間だとしても、それはゲーム外の時間だ。こちらでは2000時間は必要になる。2000時間とは83日。私の体感時間で約3か月。

 

「この3か月の間に、できることはしておく。もしも3か月経っても解放されなかったら……」

 

 嫌な想像だ。ログアウトされないという事は、ゲーム機の安全装置まで故障したということ。つまり製作陣の悪趣味も、原理不明な異世界転移なんてものもなく、ただただドリームプレイが不具合を起こしていることになる。

 こうなるともうお手上げだ。私の体感時間で4000日過ぎた後、体がもはや自分で動かせなくなるまで衰弱して死亡する。

 この予想が一番当たって欲しくはない。なにせ何をしたところで、死ぬという未来だけしか待っていないのだから。

 

「頼むぞ……一番の当たりは異世界転移なんだ」

 

 私はこれでもかと神頼みをする。製作陣がクリア条件を設けていて、それを達成したら解放も、機械の故障に比べたら一応当たりと言えば当たりだ。

 しかし攻略wikiもSNSも、システムによるヒントも無しでクリア条件を探せとなれば4000日……約11年で足りるかは運だ。1周目の知識を活かそうにも、今回の売り買いなどで前提条件が変わりすぎているところもあるし。

 

「……なんだかお腹が空いてきた気がする」

 

 まさか空腹を覚えるようになっているのか? ドリームプレイは五感を支配する夢のゲーム機。使い方次第では、現実の肉体と変わらないような感覚も生み出せる。そのせいでここがゲームなのか、それとも異世界の現実なのか私にも判断がつかないほどだ。

 

「下の酒場で何か食べるか」

 

 部屋を出て一階まで降りる。すると何人かの男から、こちらに視線が向けられたのが分かった。私はカウンターに座り、彼らを観察してみる。男たちの視線を追うと、こちらの胸や腰に行きつく。

 

「……お嬢ちゃん。気にするな。ここは俺の店だからな。あいつらには何もさせねえよ」

 

 そういって、酒場の店主が水の入ったグラスを目の前に置いてきた。あ、やっぱりあの人たちの視線はそういうことか。

 

「私のような人は珍しいですか?」

「珍しいな。お嬢ちゃんは、どこかの没落した貴族令嬢か何かか? 俺の店なんでこんなことを言うのも変だが、普通はもっと安全な宿を使う」

「仕方ないんですよ。私、あまりお金を持っていないので」

「それで襲われるような場所に泊まるかねぇ? ま、お嬢ちゃんの判断だから、俺がとやかく言うことじゃねえけどな」

 

 安宿に美少女が一人でいる。ここは都市内なので大丈夫だろうが、普通なら力づくで襲われてもおかしくはないってところか。

 一周目の時に、町一番の美少女を捕えては牧場送りにしていたから、私もとやかく言える立場じゃ……あ、でもそれはゲームだしな。ここは異世界の現実の可能性もあるんだから、そこで人間牧場なんてしたら完全に頭のおかしい人物だ。

 そんなことをつらつらと考えていたら、隣に無精ひげの男性が座ってきた。なんだ?

 

「へへ、こんな別嬪さんがこんな場所にいるなんてな。新しいコンパニオンでも雇ったか?」

「このお嬢ちゃんは店員じゃねえ、お客さんだ」

「へぇーそうなのか」

 

 なんて言いながら、なぜかそいつの手は私の肩に向かってくる。思わず椅子から飛び降りて避けてしまった。

 一瞬でこちらが動いたことに驚いたのか、髭男性は目を丸くしている。

 

「……何するんですか」

「いや、なにって……お近づきの印に、少しボディータッチをしようと思ってな」

「あいにく、私の文化に初対面でそんなことをするなんてありませんから」

 

 いきなり触ろうとしてくるんじゃねえよ。お前仮にこちらが男だとしても、初対面で肩を触るとか気持ち悪いぞ。ましてや今は、体が女の子なんだぞ。不躾にもほどがあるだろ。

 

「いいじゃねえかよ、別に」

「おい、やめろダズ。うちの宿に泊まってる客に、無礼な真似すんな」

 

 と店主は言ってくれるが、ダズとやらは止まらない。椅子から立ち上がり、こちらに手を伸ばしてくる。私はその腕を掴んで止める。

 

「お、抵抗するつもりか?」

「おい……いい加減にしろよ。ツケにしている分、今日全部払わせるぞ」

 

 店主が脅すも無視。腕に体重と力を籠めて、こちらに来ようとするが……なんて軽い。こちらは全然力を入れてないのに、ダズの腕は少しも動かない。

 向こうはここから本気でやるぜと顔を真っ赤にして力を籠めているのだろうが、それでも私には本気を出す前と出した後の違いがまるで分からない。

 掴んだ手に少しだけ力を籠めて握ったら、ダズは悲鳴を上げ始めた。

 

「あ、ごめん」

「俺の、俺の腕が! ぐぅうううう!!!」

 

 私が掴んでいた形に、手首が真っ赤になっている。どうやら今ので罅でも入ったのか、ダズは蹲って震えだしてしまった。

 酒場中からえ? みたいな視線が飛んでくる。店主もえ? みたいに疑わしい目を向けてくる。

 私はその視線を無理やり無視して、店主に一言。

 

「お勧めをください」

 

 とりあえず、生きていく上では本当に支障はそんなになさそうだ。

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