「ありがとうございますっ! また来てくださいね!!」
そう言って1組の家族を見送るのは五十嵐一輝。
「一輝兄! ごめん幸四郎の悪魔がまたどっか行った!!」
すると、裏から一輝を呼ぶ声が聞こえた。彼女はさくら、五十嵐家の三女だ。赤ちゃんをあやしながら助けを求めた。
「え!? まじかよ!!」
彼は椅子の裏や番台の下、タンスの中などを探しようやく見つけられた。
「ちぇー、見つかっちまった。へーへー戻りまーす」
「もうまったく……てかそろそろ名前付けないと探す時困るな……」
そんないつもの日常を経て、日をまたいだ直後のことである。
ピーンポーン
「……」
ピーンポーン
「……」
ピーンポーン
「……」
ドンドンドン!!
「!? え!? ……こんな夜中になんだ……?」
あまりにもしつこいチャイム、そしてそれに反応がないと勢いよくノックする異常さ。しかし当の一輝はチャイムの間寝ていたため、玄関にて応対することにした。
「父ちゃんと母ちゃんは……寝てるか」
両親の寝室も確認し、彼は玄関前に立つ。
「こんにちは! 私、株式会社スノウ製菓の者ですが」
「はい……? あのうち押し売りお断りなんですけど……」
そんな返答を無視し、セールスレディは続ける。
「この度ですね、弊社にて試験販売させていただくことになりました、シュガーラットクッキーについてご紹介させたいただきたく、この辺りの皆様にご挨拶を兼ねて回らせて貰っていまして」
「えっと……今何時だと思ってるんですか? この辺りは勝島さん家とか宮下さん家とか、ご老人の方も多いんですよ、迷惑になるのでまた日中出直して……っていうか、こんな時間まで働かせる会社なんてありえないですよ、やめた方が」
「とても美味しいと法人様でも好評でして、ぜひとも個人宅にも伺わせて欲しいと私が上司に直談判したところ快く承諾していただいた次第です」
「……話聞いてるんですか? これ以上いるなら警察呼びますよ?」
「お忙しいところ申し訳ございません。私事なのですが、最近かぞくが増えまして、子どものために頑張っております。お時間は取らせませんから、名刺でも手渡しさせていただけないでしょうか?」
「……」
一輝は少し迷った後、ガラガラとドアを開ける。
「……?!」
貼り付けたような笑顔で名刺を差し出すセールスレディ。
「……は、はい、次は日中にしてくださいね」
そういうと女はスタスタと別の家へと歩みを進める。
(スノウ製菓……? また明日電話しよう)
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「はぁ〜、今日もいい天気だ! おう、おはようさくら! 今日も早いな!」
陽の当たる縁側で牛乳を飲んで背伸びをする一輝。そこにさくらもやってきた。
「なんたって、勉強もしないといけないしね!」
「医大だろ? そりゃあ半端ない量勉強しなきゃだからな! 兄ちゃん応援してるぞ!」
「出た、一輝兄のおせっかい。あ、てか! 昨日の夜なんか騒がしかったけど、何かあったの?」
「あぁ、それがな……」
ピーンポーン
「はーい! すみませーんまだ営業してませーん!! 営業時間15時からなんですよー!」
「あの! お風呂じゃなくて! 別の要件で……」
その瞬間、悲鳴が聞こえる。
「きゃあああ!!!」
「母ちゃん!? 悪いさくらはお客さんの対応を! 俺は母ちゃんの方行ってくるから!」
「う、うん!」
一輝は急いで母親の幸美のところに向かう。
「どうしたの!?」
「こ、これ……」
震えながら指さした先にあったのは、手書きのチラシと……。
「うっ……」
気が動転して気づかなかったが、徐々になにか臭い匂いが鼻をつく。
「なんだ……? この袋」
その小袋にはサンプル品と書かれており、中から赤黒い液体が生臭い匂いとともに滲み出ている。
「まさか……!」
一輝はチラシを手に取る。
『弊社の新作菓子 シュガーラットクッキーのご紹介!
メーカー小売価格 128円(税込)
・栄養満点のお菓子!
・サクッと、心まで浮くような軽い食感!
・ごかぞくも一緒に食べられる安心感!
この地域には、田崎がお伺いしました!』
そして……。
「……!」
思わず一輝も投げてしまった小袋の中にはネズミの頭
生首が入れられていた。
「アイツ……!」
一輝は持っていたチラシごと拳を握りしめた。