今更だけど、時系列では風神録の前。
「ご主人〜」
「なんですか?」
「甘味だけの食事は昼飯とは呼べないよ」
「なっ」
腹パン。いつぞやぶりに吐くかとも思ったけど、流石に吐かない。まあ食べてないからか。私はそんなに好きじゃないからね、甘味。どちらかというと野菜かな。湿ってるやつ。あれを食べるだけであら不思議、太鼓の記憶、その奥底にあった落ち葉の味が…あれ、私食べたことないよな。…もしかして私、ミミズなのでは?…いや、ムカデだ。私は誰になんと言われようと、閻魔がちゃぶ台ひっくり返してお前はミミズだと言おうと、私はムカデだ。そこに違いはない。多分。人にならないときはムカデだし。
「しかし、足月は食べないのですね」
「ご主人と違って好きじゃないからね」
「…私の記憶だと、飼い始めた当初は私の団子を食べていたような」
「もう呆けましたか。私の方が長く生きてるのに、やはり妖怪は我々ムカデに劣りますね」
「貴女も妖怪でしょう」
というか飼い始めた当初は何も与えてくれなかったはずだ。そもそも、私のこと明日だとか勘違いしてたし。声の高さ、骨格、振る舞い。服は仕方ないとしても、この三つは雌のソレだろう。そこは譲れないし、譲るつもりもない。この人、本当にひどかったんです。だって私のこと飼い始めた時は顔見せに行ったらびっくりしたという理由で顔面蹴り上げられたし。まだその傷跡残ってるからね。仲間さえいれば、…今思い出したけど、その仲間も中々に変だったな。今何やってんだろ。
「はぁ〜、私ってば不運」
「大方疫病神でしょう」
「んー、神ではあるけど、さぁ?」
「神?え、そうなんですか!?」
「力の大部分は妖怪だけどね。1割神、9割妖怪」
「…じゃあ何故私のペットに?」
「私が自慢しまくってた外殻、全部壊し切ったのはだれでしたっけ」
「…そんなことしました?」
「あーくそ、すんごいムカつく。あの方と再会したらけちょんけちょんにしてやる」
みんな酷いんだ。なんでか知らないけど、私のことを背の高い女として見てくる。そのせいで寄りつくのが妖怪ばかり。人に支持されたいのに…先ほどの1割も、恐らくは妖怪多数であろう。妖怪からの信仰はあまり意味を為さないため、ほとんど力にならない。あいつら十年経てばもう覚えてないし。妖怪って本当に薄情な奴等。人は好きだよ。特定の人間は長く信仰してくれてるからね。まあその人間であるはずの博麗の巫女は無信仰らしいけど。あるとすれば幻想郷信仰らしい。何言ってんだかね。
「私だって、仲間がいれば…」
「いつもそう言いますけど、どんな妖怪なんですか?その仲間は」
「…今思えば、仲間よりも付き纏いの方が正しいかも」
「貴女が付き纏いを?」
「いえ、される側でした。でも、私の真の主人様に出会えたのはそいつのおかげでもあるんですよ」
「…どんな妖怪なんですか?」
「虎です」
タイガー。あいつとの出会いも中々に…いや、思い出したくない。伝え聞けば、主人様からスカウトで来たらしいんだけど…どうもそんなふうにすら見えなかった。私には、ストーカーとか、例えばついてまわる蛆虫とか。私のご飯は取らないし、自分のご飯は自分で摂るけどそれはそれとして付き纏ってくる奴だった。力関係で言えば私の方が上だったけど、地位で言えばあいつの方が高い。たまに顔を出す地中の空洞ではたまにあいつの噂らしきものが聞こえたりする。地底人にも同じ奴がいるのかな。
「なるほど…面白い仲間ですね」
「自分が関係ないからって良いやとか思いましたね?」
「いいえ、もし貴女がそっちに偏った場合はどうしようかと。私が今の飼い主なのに。」
「独占欲嫌いなので私は里から逃げ出させてもらいますね」
「この後は定食屋ですが」
「さ、早く甘味を食べて。私もお腹が空いて倒れそうです」
「…現金なやつ」
定食屋につき、頼むは野菜定食。えへへ、と笑いながら食べていると、ご主人が何やら楽しそうにコチラを見ている。なんだかわからないけど、私が何かやってるのかな。口に野菜がついてたり…は、しないか。なんだか良くわからないけど、とりあえず食べ進める。味を言わせて貰えば、かなり満足できる味だ。素材であるキャベツや白菜の味を殺すことなく調理、更には人参や大根。ピーマンは…毒があるけど、まあ良いか。そうして食べまくった後で気付く。ご主人、なんか、ご飯食べてなくない?
「私は先ほどのお店で満腹ですから」
「太りますよ」
「野菜だから太らないとでも思ってるんですか?」
「甘味よりはマシかと。」
「…仙界で話をつけましょうか」
「やだ」
「問答無用です。私も食後の運動がしたかったので」
「なんでぇ」
「なんでも何もありません。はやく行きますよ」
「別に妖怪の山でも良くないですか?」
「…いや、私の事情が」
妖怪の山に決定。百足姿になり、ご主人を乗せたまま妖怪の山へ直行。道中何かにぶつかった気がするけど、まあ良いでしょ。薄い私にぶつかる方が悪い。山にまで連れて行き、少し山から離れる。食後の運動となれば私はこれで終わりでいいんだけど、ご主人はどうやらそうはいかないらしい。どれだけ食べたのか知らないが、私の背中に乗っての移動は誰でも文句を言うはずだ。荒すぎる、まともに動けと。もれなくふり落としたが。
「…何やってんだろ、私」
尚巻き込まれたのは天狗と妖精である。