腕力が。
「さて…天狗の皆は下がって。」
足月が生意気なことを言うから、私もムキになってしまった。反省しつつ、いやそれでもあれはダメだろうと。食後の運動として始めるこの喧嘩。足月と喧嘩するなんて、ペットにした時以来。そう考えるとかなり懐かしく感じ取れた。実際かなり昔のはず…実年齢は伏せるけど、かなり昔の話だ。私がペットに興味を持ったのも確かその時期だった。妖怪の山、その頂上。私も一度はこの頂を他の鬼と競い合った身。…訳あって鬼であることは伏せているけど。そう考えると、この喧嘩は私にとって悪手では?…仙人の力を全開に、足月に向かって飛ぶ。
「っ!」
「あぶなっ」
「捕らえた!」
右腕を変化させ、包帯で胴体を絡め取る。私としてもこう言うことはしたくない。でもまあ、足月相手にはこう言うことしないと勝てない。包帯を巻き寄せ、右ストレートで足月を殴る。ムカデ特有の感触から少し気持ちは悪いが、なんとか堪えて再び包帯を巻き寄せる。こうしてまた寄ってきた足月を蹴り飛ばす。…楽しい。足月が生意気なこと言ったからなのもあるけど、最近は紫も全然出て来ない。全くアレでどうして幻想郷の管理人など言えるのか。
「やっ、いだっ!?」
「まだまだ足りませんね」
「嘘!?」
ご主人にサンドバッグにされること3分。私の方からギブアップを申し上げる。多分、だんだん強くなってたよね。今止めなかったら、恐らくは私の体はあなぼこだらけの裏側の月面となっていただろう。人型に戻り、ご主人に文句をつける。だれだあんな豪快に殴っていいって言ったやつ。僕にそんな防御力はないんだし、最初の喧嘩よりも命を感じたとだけ言っておく。流石に痛すぎ。治すのに何ヶ月かかると思ってんの?また土で体癒す日々だよ。もうやだ…
「その傷、治してあげます」
「えっ」
「仙界に治す道具があるので、来ますか?」
「…それ、いつ手に入れたの?」
「足月をペットにする前から」
「私をペットにした時もそれで傷を治してよ」
「あの頃の貴女はすこし信用できなかったので」
「…私の態度って一貫してるよ?」
「初対面では見抜けません」
それもそうか。仙界に連れて来られて、なんだか訳のわからない内に家に招かれた。何、この、何、何?怪我したところは人型で言うところの背中と首と、あと脇腹。ホント痛い。さっきの喧嘩のせいで顔の傷もウズウズして来た。これ、もしかしたら仲間いても勝てないかな。もー嫌。えーんえーん。うわ、虎だ。まあなんだか知らん内に良くわからん液体を飲まされる。するとあら不思議、治った。説明を要求すると、飲めば治る薬らしい。…端折りすぎだ。詳しい説明を求めたい。
「鬼の道具です。あまり私も話したくはありません」
「うぇー…酒?」
「ちなみにこれを飲むと一時的に強くなります。私も先ほどこれを飲みました」
「ドーピング仙人?」
「…まあ、変な言い方をすれば。」
「ずるっ!そのせいでこんなに体痛めたの!?」
「…また、痛めたいですか?」
脅しだ。ここ数百年の付き合いでそれも慣れた。慣れちゃいけないのでは?…でも、慣れたしなぁ。しかし、こういうのって副作用とかありそうなものなんだけど。ないのかな。なかったらそれこそ万病に効く薬として使えそうなんだけど。私の名の下に売ってみない?それこそ利益でウハウハ…無理?ああ、そう。仙人って面倒なんだね。ま、それこそ私の仲間がいれば金なんて湯水の如く湧くものだけど。その仲間がいないのは別の問題ね。今どこにいるかも知らないんだからさ。
「貴女も長生きですからね。それなりに厳格な生き方をしてみてはどうですか?」
「年寄りらしく生きろってこと?嫌だよ、私はまだまだピチピチでいたいし」
「百足の中ではピチピチですか?」
「…私の知る限りだと、最高年齢…」
「何やってるんですか…」
「仕方ないじゃん!この歳になると、いやそれよりも前…そう、二百歳くらいになると、一年なんかあっという間じゃん!?私、体感はまだ300とか400なんだよ!?」
「その歳は百足の中では若者なんですか?」
「割と上の方」
「だめじゃないですか」
ご主人にいじめられてるよ、うぇーん。涙で前が見えねえ。そんなことをされた身だがまあ長年連れ添わされてるせいで嫌いではない。だから頻度を抑えてほしい。食後の運動後に酒を飲む生活は私も嫌だからね。やめてね。そうして私はご主人の家で山菜を食べることになった。人里で食べた後にもかかわらず、美味しい。その食事と抱き合わせでとある妖怪の話をされた。17歳を自称し、可愛いく生きてる(自認らしい)妖怪。どうやらご主人と並ぶ実力で、出来ることはご主人よりも多いらしい。式神に九尾が居るんだとか。…なんで話したの?抗争?やるよ?
「…問題は、その妖怪が九尾よりも年上だと言うことです」
「うげっ」
「ちなみに今目の前にいる私のペットに対する感情は、今の貴女が抱いた感情です」
「やめてよそんな奴と一緒なんて」
「全くです。その妖怪は式に仕事を押し付けたと思えば巫女を可愛がり、自分の仕事は一体どこへ。その上剽軽に生きてるような素振りを見せますが、その実何も考えていない、楽観過ぎる時点で異変を見ている。一番大変だった月の異変でしか出張ったことはない。さらに昔に遡れば云々」
「…あの、用事があるんダケド…」
「誰、お前」
「あら、紫。足月、先ほど話していた妖怪です」
「貴女の飼い主、毒舌じゃない?」
「そう?」
紫は華扇に嫌われているが、いざという時には動くだろうと思われている。
尚、そのいざという時の判定がガバガバなので嫌われている。