アルバスは静かに小瓶の中身を飲み干す。
「どうやら古くからの友人であるオレとの『約束』よりも、ぽっと出の小僧を殺すことの方がお前にとっては重要だったらしいな。」
「別に『約束』を反故にする気はない。そもそも明確な時期は決めていなかったはずじゃ。」
「だがお前は現に死のうとしたじゃないか。それもこれも全部お前の計画の一部だってか?」
「否定はせぬ。じゃが『約束』は守るつもりじゃ。」
「はぁ……嘘つけ。つまりお前の計画じゃここにいるマルフォイ、の代理としてスネイプ先生に殺してもらうことでメンツを守って、ヴォルデモートへの時間稼ぎをしようって魂胆だろう。で、その稼いだ時間はポッターに丸投げ、と。」
「……」
「お前、あと何日残ってるんだ。」
「殆ど残っておらぬ。」
「あの指輪の呪いだろう。お前がオレに解呪をさせなかったのもそういう理由か……覚悟を決めただけだと思っていたが。」
全くしてやられた。
だが、オレは今ここにいる。
「そういうことなら、仕方ない。『約束』を、今ここで果たそう。」
「ッ!」
左手の袖から、杖を滑らせる。
いつもの杖じゃなく、特別な杖を。
「見せてやろう、ランロクを魅了した力を。多くの魔法使いを破滅に導いた、失われし力を。」
古代魔術の遺物によって作られた、守護者の杖。
ゆらりとそれを振り上げる。
「これは──!」
天文台の塔が、眩い光に包まれる。
〜
一体何が起こっているのか、ハリー・ポッターには分からなかった。
先ほどまで床下の空間でダンブルドアとエリエザー・フィグが話すのを見ていたハズが、突如として眩い光に包まれたかと思えば、どこからともなく彼らの立つ床、つまり自分からすれば天井に当たる位置へと青白いレンガ調の壁が出現したのである。
それにより天井は完全に塞がれ、自分が降りてくるのに使った階段も使えなくなり、ただでさえ暗かった物置空間がやけに低い天井の物置空間へと様変わりしたのだ。
今日はもう分霊箱の一件で疲れ切っているというのに、どうしてこんな目に遭わなければいけないのか。
この壁の先で何が起こっているのか。
スネイプはともかく、エリエザー・フィグは何故呼ばれて居ない筈なのにここに来たのか。
もう、彼には何も分からなかった。
ただ一つ、分かるのは──
──猛烈に嫌な予感がするということだけだった。
〜
直ぐ側で気絶していたドラコと共に、後方、入口の階段の手すり部分へと力強く吹き飛ばされる。
彼が杖を構えるのを見て咄嗟にドラコを抱えたが、自分が背中からぶつかった手すり部分は衝撃で歪み、ちぎれ落ちる半歩前という様相となった。
それに加え、光と共に出現した壁はダンブルドアとエリエザー・フィグが立っていた空間を中心としたドーム状に展開し、天文台の塔入口部分を塞いだことで何者をも通さぬという意思をひしひしと伝えていた。
全くもって知らない魔法だった。
壁をペタペタと触って見ても、何も、読み取れない。
どんな系統で、原理で、目的で創られたのか。
このエネルギーの源は、一体何なのか。
こんなにも手がかりが掴めない魔法は、初めてだった。
セブルス・スネイプは困惑していた。
この壁についてもそうだが、それ以上に気になることもあった。
ドラコの代わりに、自分がダンブルドアを殺す。
エリエザー・フィグが見抜いていた通りの、そういう計画だった。
しかし、彼がこの場にいる以上、計画は失敗であると言っても良い。
何故ならダンブルドアを殺そうとする自分を、彼が許すはずは無かったから。
だが彼はどういう訳か、その怒りの矛先を全てダンブルドアへと向けている。
スネイプにはその理由が、分からなかった。
計画において、エリエザー・フィグは余りにもイレギュラーである。
そんな話はダンブルドアに耳にタコが出来るほど言われていた。
実際、彼は自分とダンブルドアが仕掛けた数々の罠と策略を躱し、平然とした顔でこの場に辿り着いて見せた。
しかし、だからこそ彼が自分を歯牙にもかけないことが、気がかりで仕方がなかった。
ダンブルドアはこの計画において、自分にまだ何らかの隠し事をしていると確信している。
しかし、どうせ──彼は秘密主義だから──自分に話してはくれないだろう、と特に探るようなことはしてこなかった。
だが恐らく、そこに何かがあるのだ。
彼らの言う『約束』とやら。
それが関わっているであろうことは、既に明白であった。
『約束』……第一次魔法戦争時、アルバス・ダンブルドアがエリエザー・フィグと交わしたもの。
ダンブルドアはある条件と引き換えに、エリエザー・フィグに協力を取り付けた。
なお、ダンブルドアは始めからこの約束を守るつもりは無かった。
エリエザー・フィグもそのことを何となく察してはいたが、それでもダンブルドアを、友人を信じていた。