「メアリー、もう一度だけ聴くわ。その杖は、一体誰から盗んだの?」
「いえ、私は本当に、魔法使いなんです……!ただ、マグル生まれというだけ──」
「嘘おっしゃい!」
裁判官の女、ドローレス・アンブリッジは身を乗り出し、机を何度も何度も叩いて糾弾する。
それに対して、法廷の中心部、被告人として椅子に腰掛けている女、メアリー・カターモールは体をビクつかせ、その瞳には涙を浮かべ、自らの潔白を主張する。
しかし、そんな光景を周囲の裁判員たちはどこか冷めた目で見ている。
そうなってしまうのも、無理はない。
このような裁判自体、ここ数週間で何十回と行われているのである。
同じような内容の裁判と、
この裁判はいわば出来レースであり、彼女が勝つ可能性など万一もないのだ。
今の魔法省にとって、マグル生まれは投獄されて然るべき存在だった。
「いい?メアリー。今ならまだ、間に合うわ。貴女が正直に話せば、私は貴女を助けられるの。」
「本当に、これは私が、オリバンダーの店で買ったんです……!」
「ねえ、お願いよ、メアリー。正直に言って。その杖は、貴女の物ではないのよ。」
既に数十分の裁判という名の尋問にかけられ、もはや精神的に限界を迎えつつあったメアリーであったが、そこにメアリーの夫レジナルドを連れた役人のアルバートが現れる。
「ああ!あなた!会いたかったわ……!ここにいる人たちは誰も私のことを信じてくれないの……!」
「え、あぁ、も、もう大丈夫だよ。」
メアリーに涙ながらに抱きつかれるレジナルドにはどこか違和感があったが、この場において夫を最もよく知るメアリーこそ気が最も動転している一人であったため、それに気が付く人は誰もいなかった。
「……?アルバート、貴方──ガッ……!」
場がざわつく。
突如として、裁判を進めていた中心人物であるアンブリッジがアルバートを見た途端苦しみだしたのだ。
「あが……!が……!『分霊箱は生半可な攻撃では破壊出来ない。ハグリッドを頼れ。検討を祈る。』」
まるでレコードが再生されたかのように、一瞬前まで苦しみ藻掻いていたアンブリッジは突然明瞭に話し出す。
が、話し終わった途端に胸元のロケット──最近になって着けるようになった──を千切るようにして前方、つまり被告人席へと放り投げ、そのまま真上を向いて動かなくなる。
両腕は完全に脱力し、目は虚ろで焦点が合わない。
体は小さく痙攣し、口の端からは泡が噴き出ていた。
「一体、これは……!?」
周囲の裁判員たちが狼狽えるなか、呪文の使い手であったアンブリッジが気絶したことで、天井付近に封印されていた、こういう事態への対策として用意されていたであろう十体ほどの吸魂鬼たちが解き放たれようとしていた。
「ッ逃げるぞ!」
そう言うと、アルバートら、そして裁判員席から颯爽と降りたマファルダは投げられたロケットを回収して出入り口のエレベーターへと走っていく。
「あ……あッ……!」
尚も苦しむアンブリッジだったが、その喉奥からジリジリと一本の杖が姿を現す。
その一方で天井からは吸魂鬼が解き放たれ、裁判員を襲うものとエレベーターへ向かうものとに別れていた。
「皆捕まれ!」
アルバートは三人をエレベーターの奥へと押し込めると、自分も出来る限り下がりつつ、三人の前に立つ形で吸魂鬼たちへ杖を構える。
しかし、吸魂鬼はエレベーターが閉まるよりも早く、その中へと入ろうとしていたが──
──背後から迫る白い吸魂鬼に抱きつかれ、眩い光と共にその場で消滅するのだった。
エレベーターは裁判が行われていたフロアから上階へと上がっていき、やがて一階のエレベーター乗り場まで辿り着く。
三人は真っ先に魔法省の出入り口である広場へと走り出し、メアリーもそれに追随する。
その三人が、ポリジュース薬を使った別人であるとは気づかずに。
「レジナルド!ありがとう。愛してるわ──」
窮地に陥っていたところを愛する夫に颯爽と助けられ、感極まったメアリーはついにレジナルドにキスをする。
しかし、当のレジナルドは既に化けの皮が剥がれかけていた。
「お、おい……その男は誰だ……?」
「えっ」
「あーっと、話せば長くなる。それじゃあ。」
ロンがそんなことをしている間に、同じタイミングで薬を使用したハリーとハーマイオニーも同様に元の姿へと完全に戻りきっていた。
人混みを走る最中、視界に日刊予言者新聞の売り場が入る。
一面にはハリーの写真が使われており、昨今の情勢を考えればそれが良い内容でないことは嫌でも分かる。
──既に指名手配されていたのか!
ハリーの直ぐ後ろを走るハーマイオニーは、ロンが遅れていることに気付き後ろを振り向く。
「二人とも!追手が来てるわ!」
ただの役人とは思えぬ雰囲気を纏った男が、こちらに杖を向けたまま走ってくるのが見える。
咄嗟に新聞を吹き飛ばして妨害するも、直ぐに振りきられてしまう。
戦闘が行われていることに人々が気付き始めたことで広場は次第にパニックとなり、広場の左右に設置されている出入り口の暖炉には次々と格子が降り、封じられていく。
走っても走っても、ゴールがどんどん離れていく。
三人の、特に最後尾で追手との距離が一番近いロンの焦りはピークに達しようとしていた──
〜
「三人とも、こっちだ。」
左手をちょいと動かしてやることで、魔法で格子を無理矢理持ち上げる。
甲高い悲鳴のような音を立てて格子が歪んでいく。
右手に持つ杖でその暖炉を指してやると、ポッターとグレンジャーはそのまま滑り込むようにして入っていく。
「ッありがとうございます、先生!」
こんな状況下でも礼を忘れないとは、やはりグレンジャーは優等生だな。
それはともかくとしてウィーズリーが追手に掴まれかけているではないか。
「アバダケダブラ。」
追手はウィーズリーの袖を掴むまではいったが、閃光に包まれたことで勢いそのままにウィーズリーと共に倒れ込む。
「出口はそこだよ、ウィーズリー。」
そう声をかけるも、ウィーズリーは尻もちをついたかまま動かない。
どうやら腰を抜かしてしまったようだ。
「せ、先生に、こっ、殺されるかと……」
「さっさと行かないとはぐれるぞ。グレイシアス。」
仕方がないので地面を凍らせ、回り込んでウィーズリーを直接押してやる。
するとどうだろう。
尻もちをついたウィーズリーがゆっくり回転しながら滑って暖炉へ入っていくではありませんか。
まあ、これなら後でちゃんとブラックとも合流できるだろう。
さて。
呪文の形跡をみるにアンブリッジはしっかり仕事を熟してくれたらしい。
『反吸魂鬼出現呪文』は、最後のテストが済んでなかったからな。
わざとアンブリッジを逃がしておいて正解だった。
魔法省なら吸魂鬼がいるかと予想していたのも大当たり。
ロケットまで手に入れていたのは誤算だったが。
「さあ行け、お前たち。」
見た目は吸魂鬼を白くしただけだが、なかなか優秀な奴らだ。
問題は吸魂鬼以外に一切の加害性を見せないので兵器としての運用は出来ないというくらいか。
しかし、吸魂鬼に対して追い払う以外のアプローチが出来るというのは大きな利点だろう。
それに、白い吸魂鬼が人間に無害であるとバレるまでは威嚇にも使えるしな。
それにしても、ポッターを指名手配してまで捕まえようとするとは。
出来ればそういう目は逸らしておいた方が分霊箱探しもしやすいと思うのだが……
仕方がない。
魔法省が子供三人なんてどうでも良くなるくらい暴れるか。
反吸魂鬼出現呪文……白い吸魂鬼を出現させる。
別名は『死の花嫁』『白銀の悪魔』『与魂鬼』。
吸魂鬼だけに反応し、見かけると驚くほどのスピードで迫り、キスをする。
キスをされた吸魂鬼は消滅し、一切の痕跡を残さない。
また、キスをした個体も共に消滅する。
人間には友好的で、言葉は話せないが多少のコミュニケーションなら取ってくれる。
→何故か?
もちろん、人間は吸魂鬼の位置を教えてくれるから。
また、これはただのウワサだが、吸魂鬼とは反対に、キスをされると言い表せないほどの幸福に包まれて死ねるとか。