二つの強力な盾呪文を破り、あまつさえその中にあるホグワーツに傷をつけるなんて。
とんでもない化け物がまだ残っていたようだ。
でも見えたぞ。
あの青い光の中心に、下手人はいる。
袖から適当な杖を取り出し、変身術をかけて飛ばす。
「デパルソ。」
更に加速。
当たってくれよ。
〜
ザシュ。
自分の頬から血が噴き出る。
あとほんの少し横にズレるのが遅れていたら、脳天にあの銀の剣が刺さっていただろう。
後ろで棒立ちしていた役立たずは脚を切断されたようだ。
エリエザー・フィグ。
待っていろ。
必ずやこのニワトコの杖をもってお前のことを殺してやる。
そうすれば、残るはハリー・ポッターただひとり。
戦争に勝つのは、この
〜
「「「「フィニート!」」」」
死喰い人十数名が地面に杖を突き刺し、呪文を唱えたことでようやく青い炎の一部を解除する。
そうしてかろうじて出来た道から、彼らは雪崩込んでいく。
始めに向かうのは、トロールや巨人族だ。
それからアクロマンチュラ、ゴブリンが後ろに控えている。
上空からは吸魂鬼が。
その間、死喰い人はまだ入らずに遠距離からの支援を行う。
青い炎は確かに勢いを失ったが、それでも伸びてくるのは確認されている。
無理に上から入ろうとすれば死喰い人は皆喰われるだろう。
だからこそ、斥候として木っ端を向かわせたのだ。
──ホグワーツに架かる石の大橋。
トロールによる侵攻が今にも始まろうとしているそこは、その殆どが自律式の石像に覆われていた。
そうしてその先頭に、男が現れる。
「よく考えたらさ、なんでトロール相手に手加減しなきゃいけなかったんだろうな。」
基礎呪文。
赤い閃光は先頭にいた特に大柄のトロールの頭に吸い込まれていき──
──頭がグチャグチャに弾け飛ぶ。
トロールは力無く倒れ、頭があった所から血が勢いよく流れこみ、石橋を赤く濡らしていく。
ニワトコの杖ありきとは言え、何だかこんなのに時間をかけて戦っていたのがバカらしい。
と、その時。
トロールや巨人族の足の間から、
「ッディフィンド!」
殆ど反射だった。
体勢を低くし、トロールの足首を狙うような高さを狙って切り裂く。
トロールの死体が更にスライスされ、またもや強い臭いが漂ってくる。
たぶん、胃を斬ったんだろう。
一部の巨人族はとっさにトロールの背中に組み付くやら湖に身を投げるやら──どのみち待つのは死だが──により難を逃れるも、視界が巨体まみれでまともに視認できない後方にいた彼らは。
何が起こっているのかも分からぬまま、その生涯を終えた。
……ついゴブリンが視界に入ったからこちらに来てしまったが、大丈夫だろうか。
ヴォルデモートやさっきの奴は、まあ、スネイプ校長が何とかしてくれるか。
ポッター周りの云々も、まあ、スネイプ校長が何とかしてくれるでしょう。
よし、万事解決。
「フィグ先生、アルバス……見ててくれ。ホグワーツは、オレが守るよ。」
〜
ホグワーツの船着き場。
その小屋の中で、かつての姿を取り戻したヴォルデモートことトム・リドルは、ホグワーツから脱出したセブルス・スネイプと合流していた。
「セブルス、ここまで来れたのは間違いなくお前のお陰だ。」
「……勿体なきお言葉であります。」
「ポッターを探せ。俺様の元へ連れてこい。」
「御意。」
「あの男には気を付けろ。あれはお前でも太刀打ちできる者では──」
「!……フッシャー!」
「どうした、ナギニ?」
「シャー!」
ヴォルデモートの側にいた蛇、ナギニは威嚇しながら近くにある扉に近付いていく。
『この扉の先に誰かいる』と、ナギニは蛇語で言っているのだろう、とスネイプは思った。
二人がナギニに連れられるようにして歩き始めれば、ナギニは蛇の体で器用に扉を開く。
すると──
「シャー!」
「食らえ!」
ネビル・ロングボトムが振り下ろしたグリフィンドールの剣が、あと一歩という所で避けられる。
「エクスペリ──」
後方に控えていたハリー・ポッターの杖がスネイプの呪文によって弾き飛ばされる。
「うっ!」
「これはこれは。ハリーに、ネビルか。会えて嬉しいぞ。」
既に攻撃のチャンスを逃したネビルと、杖を失ったハリーはジリジリと後退る。
ネビルは思う。
ヴォルデモート以外に、こんなにも恐ろしさを感じる相手がいるなんて。
30代かそこらに見えるけど、そんな若造じゃ出せない空気感がある。
ハリーは思う。
信じられない。
これがヴォルデモートだって?
感覚で分かっていても、かつてのアイツとは似ても似つかない。
この姿はまるで、成長したトム・リドルではないか。
「ようやく覚悟が決まったか。待ちくたびれたぞ?ハリー。」
「ッ僕は確かにお前の元に来たぞ!約束通り、ホグワーツの皆から手を引け!」
「ハリー!」
「……」
「そうかそうか。そういう約束だったな。では──」
その時、一匹の白い吸魂鬼が突如としてヴォルデモートの眼前に出現する。
「ッ!」
ヴォルデモートも、スネイプも、吸魂鬼の恐ろしさはよく知っている。
しかし、エリエザー・フィグが生み出したこの白い吸魂鬼の危険度は未知数だった。
だから、一手遅れた。
「この呪文はドビーには難しすぎます!お二人とも!」
「ええい!」
スネイプの守護呪文で白い吸魂鬼が追い払われたときには既に、ハリーも、ネビルもいなくなっていた。
/
「っはーッ!はーッ!」
「大丈夫ですか、お二人とも。」
「ふぅ、君のおかげでね、ドビー。」
「こんな所で友達を失う訳にはいきません。ハリー・ポッターはこの戦争を生き延びねばならないのです。」
「……そうだね、さっきは咄嗟だったけど。そうだ。」
そうして三人が一先ず窮地を脱することができた喜びを噛み締めていれば、再び。
『仲間は撤退させた。ハリー、一人で禁じられた森へ来るのだ……来なければ全員、殺す……殺す……』
ヴォルデモートの声だった。
誰かが息を呑む音がした。
それは隣にいるネビルの音か、はたまた他の生徒か。
「でも、こっちにはフィグ先生がいるじゃないか!」
誰かが言った。
それは希望の言葉であり、単なる願望でもあった。
このまま危険な目に遭わずに済んでほしい、という。
だが、ハリー自身もそれには内心同意していた。
ホグワーツを覆うほどの炎を操り、一人で正面の大橋を守ってみせたあの怪物がいれば、別に奴らの言う事なんて聞かなくても良いのではないか、と。
実際、彼は今も撤退するゴブリンを全力で追いかけ回し、過剰とも言える威力の魔法で消し炭にしている。
しかし、このまま守っているだけではこの戦いが終わらないことも分かっていた。
ハリーは何としても、あの蛇を破壊し、ヴォルデモートを倒さなければいけない。
そうでなければ、自分に、魔法界に安寧は永遠に訪れないから。
でも、それなら。
自分は一体どうすればいい?
もしもまた、アイツが逃亡を選んだら?
また皆の命が狙われたら?
ハリーが思考の渦に囚われていた、その時。
上空から一匹の白い吸魂鬼が近寄ってくる。
それは一本の杖を大切そうに抱えており、ゆっくりと彼らの前に降りてくる。
「ッこれは……?」
白い吸魂鬼は杖をハリーに渡すと、どこか満足そうに去っていく。
そうして、ホグワーツのすぐ近くまで来ていた吸魂鬼──そのすぐ後ろには、十数体の白い吸魂鬼が迫っている──に向かい、正面から挟み込む。
吸魂鬼は逃げ場を無くし、白い光を放ってその個体と共に消滅していった。
「何なんだよ、ホント……」
困惑するネビルを横に、ドビーがあることに気づく。
「ハリー・ポッター、その杖はスネイプ校長のものではありませんか?」
「え?」
そう言われてよくよく見れば、確かにそれはスネイプの杖だった。
フレッドとジョージが作った『スネイプなりきりセット』を使ったイタズラをくらっていなければ分からなかっただろう。
スネイプの杖をまじまじと見る機会があって助かったかもしれない。
「ハリー、これって……」
ネビルは更に、その杖の先に垂れる青い糸のような物体に気付く。
「
ハリーにはそれに見覚えがあった。
その正体を思い出した途端、ハリーは走り始める。
「記憶?ハリー、どこにいくんだ?」
「校長室!スネイプは僕に、何かを伝えようとしている!」
向かう先は校長室。
そこにある、憂いの篩へ。
ハリー・ポッターはそこで、真実を知った。
『スネイプなりきりセット』
……ハリーが3年生のとき、フレッドとジョージが作成。
魔法を使った全力コスプレキットである。
用途はもちろん、下級生をビビらせるため。
フレッドとジョージがこれで遊んでいた最中、うっかりスネイプ本人と出くわしてしまい、その場で破壊。
人気シリーズ『先生なりきりセット』は凍結された。