原作のニワトコの杖(言うこと聞かず)よりほんのちょっと強い。
「ハリー・ポッターは、
ホグワーツ城前で、ヴォルデモートは高らかに宣言する。
死喰い人に連れられるハグリッドの手にはハリーの亡骸が抱えられており、その悲痛な面持ちが、それが真実であるということを物語っていた。
ロンも、ハーマイオニーも、ジニーも。
その場にいた誰もが、その事実を信じられなかった。
死喰い人の嘲笑う声も、どこか遠くに聞こえる。
「──投降しろ。さもなくば死ぬがいい。」
場を静寂が包む。
死ぬ。
その言葉を、みな無意識のうちに脳内で繰り返していた。
「ッ……!」
ある男子生徒が、一歩前へと歩を進めた。
「おや、ネビル。降伏するのか?」
ヴォルデモートは笑みを浮かべ、煽るように言う。
お前達には既に選択肢はないのだぞ、と言外にそう伝えていた。
「……ハリーは、僕たちの中で生きてる!お前なんかに、ハリーは殺せない!戦いはまだ終わってない!」
そう言って杖を構えるも、スネイプから直ぐ様呪文が飛んでくる。
二回、三回と攻撃を防いでいくが、その差は歴然で防戦一方だった。
一瞬、隙が出来たと感じて攻勢に転じようと試みるも、ネビルの焦りは、それがスネイプによる罠だということを感じさせない。
スネイプの呪文を喰らい、ネビルは派手に後ろへ吹き飛んでいく。
しかし、後ろにいた上級生たちに突っ込んでいく前に、ネビルの身体は不自然に止まった。
「──よく言った、ネビル!」
ネビルを受け止めたのは、透明マントを被ったエリエザー・フィグだった。
〜
頭から被っていたマントを外せば、途端に死喰い人がどよめく。
結局の所、彼らはオレへの対策は終ぞ思い付かなかったようである。
なんせ彼ら自身が、同じく魂を裂いたヴォルデモートを無敵だと信じているからだ。
無敵と思っている相手に対して、わざわざ頭を悩ませるようなことはしない。
だってそれは、何より無駄なことだから。
「ふん、ようやく来たか。エリエザー・フィグ。」
ヴォルデモートは余裕綽々といった風で、笑みを浮かべる。
たぶん、さっきまでほど近くにオレが居たことも気づけていないのだろう。
どういう仕組みか知らないが、というか禁じられた森で至近距離で見るま信ではじられなかったが、あの青い光の中でアイツは力を取り戻した。
きっと、呪いで蝕まれ続けていた期間を思えばこそ、いま全能感に満ち溢れている。
だからこそ、あんな粗悪なレプリカ品にも気が付かず、オレが居たことにも気が付かなかった、否、気付こうともしなかったのだろう。
だが、今この時。
嫌でも気付かせてやろう。
「……」
首に巻き直したマントを翻し、両手を見せてやる。
左手には、蘇りの石を。
そして右手には、ニワトコの杖を。
きっとこの意味が分かるのは、ヴォルデモートだけなのではないかと思う。
死の秘宝を心から追い求めたのは、オレたち二人だけだから。
……これ、後ろからは首だけ浮いてるように見えるのかな。
だとすれば滑稽だな?
「!?」
ヴォルデモートは唖然として、自分の手元の杖を見る。
はい、今。
「ッ舐めた真似を──!」
オレが放った呪文はヴォルデモートが放ったそれと繋がる。
すると直ぐ様、ナギニが全速力でこちらへと向かってきた。
それとほぼ同時に、ポッターはハグリッドの手を抜け出す。
咄嗟にマルフォイが投げ渡した杖を受け取り、駆けながらナギニへと攻撃を仕掛ける。
〜
化け物同士の争いに、生き残った男の子の復活。
たまたま生き残っただけで、ヴォルデモートへの忠誠心なぞ欠片もなかった、或いは、そうであったから生き延びられただけの死喰い人にとって、これはチャンスだった。
「おいッお前達!何処へ行くッ!戻って来い!」
今しかない。
そう言わんばかりに飛行呪文で逃げ出していく死喰い人たち。
後から合流させられた十数名のスリザリン生はどうしようか迷っているまま、取り残された。
恐怖によって支配され、主力として戦うはずだった大人たちはみな逃げ出し。
結局はその恐怖を強いる怪物と一緒に戦うしかなくなったのだ。
今からでも逃げ出すか、もう遅い。
殺される。
ヴォルデモートと共に戦うか、この戦力で勝てるものか。
殺される。
降伏するか、ヴォルデモートに狙われる。
殺される。
──唯一、スネイプの他にその場に残った死喰い人、ルシウス・マルフォイの差し出した手は、息子には届かなかった。
息子は、ドラコ・マルフォイは生き残った男の子の元へ行ってしまったから。
〜
ちょうど、オレとヴォルデモートの呪文と交差するように呪文が飛んでいく。
マルフォイとハグリッドがポッターに追随するように走り出す。
「くそっ!」
取り残されたスリザリン生の内の何人かが、ヤケクソで攻撃を始める直前。
補助に回していた左手で呪文を使い、地面の石畳を持ち上げることでハグリッドとスリザリン生の間に壁を作る。
しかし、結果としてそれはナギニに隙を与えた。
呪文による余波も、ポッターの攻撃も殆ど回避してみせたナギニは、こちらの脚を噛み砕かんとして襲いかかる。
もちろん、それを周囲がただ見ているわけではない。
ヴォルデモートにちょっかいをかける気にはなれなくとも、ただ向かってくるだけの蛇になら多少は強気になれるものだ。
「私に任せろ!」
ナギニは黒い塊と共に横に吹き飛んでいく。
それは、狼だった。
狼が、ブラックがナギニに喰らいついたのだ。
スネイプ校長は当然これを許さない。
先ほどと同じようにヴォルデモートの視界にギリギリ入らない角度で、かつ腕で隠すようにしながら
「もう逃がしませんよ!」
それに対するはマクゴナガル先生、そして大して活躍も出来ず、死体掃除だけやらされて城内で待機していた石像たち。
スネイプ校長は杖を構えるだけで、何もしない。
周囲にはそれはマクゴナガル先生に一度負けたことで恐怖しているからだと感じられたが、実際の所は、闇の帝王を裏切るタイミングを失い、攻撃を躊躇していただけだった。
そうして、そのような一番の障害が何もしてこないなら。
「そこ抑えて!」
「よし、頭抑えたぞ!」
何人もの大人と一匹の狼が連携し、全力で一匹の蛇を抑える。
「やるぞ、せーの!」
何本ものバジリスクの牙が、ナギニの身体に突き立てられる。
魔法使いにあるまじき、圧倒的物理攻撃。
そこにあるのは、特別な蛇と魔法使いによる優美な戦いではなく、一匹の蛇と複数の大人による泥臭い殺し合いだった。
「シャー!」
ナギニの身体はあっという間に消滅していく。
そうなれば必然、ヴォルデモートの身体にも変化が訪れる。
「おっと!」
繋がっていた呪文が力任せに切られる。
そうしなければマズイと判断したのだろう。
「ああ、あああ!!」
苦しむヴォルデモート。
それをその場にいる誰もが見ていた。
分霊箱を持つものが、その全てを失う瞬間を。
……今なら、コイツを殺すことができるだろう。
でも、トドメを刺すのはオレじゃあない。
「セ、セブルス……僕を助けろ……」
よろよろとした足取りで、数歩後ずさったヴォルデモートはそう言った。
「……!貴様!」
そうして見つけてしまった。
スネイプ校長が持つニワトコの杖を。
反対側を見れば、自分を見て後ずさるルシウスと、ただ恐怖するだけの生徒。
そうして悟ってしまった。
今やこの場に、自分の味方はいないことを。
「もう、終わらせよう。トム・リドル。」
ハリー・ポッターは、杖を構えた。
という訳で最終決戦は、死人ゼロ、被害ほぼゼロ、敵全滅のヌルゲーでした。
次回最終回です。