そおれ!アバダケダブラ!   作:味噌カツ伝説

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最終回です。


62:死の秘宝

見渡す限り、敵。

 

下僕は仕えるべき主君を裏切り、逃げ出した。

忠臣はなす術なく死に絶えた。

長きに渡って仕えてきた男は、今は主君に杖を向ける。

愚かだが、使えると思い生かしてきた男でさえも、この僕に杖を向ける。

 

始めは怯えていただけの小僧どもも、既に勝った気でいる。

屈辱。

 

あの日、自らの肉体を喪った日以上の、圧倒的な屈辱。

 

何故、この僕がこんな目に遭わなければいけないのか。

いや、分かっている。

 

あの男だ。

エリエザー・フィグだ。

 

奴さえいなければ、僕はこの戦いに勝利していたはずだ。

魔法省を傀儡とし、様々な種族を味方につけ、ホグワーツを蹂躙し、そして。

 

生き残った男の子を、ハリー・ポッターを殺せていたはずだ。

 

「カハッゴボッ」

 

喉から温かな物質が迫り上がってくるのを感じ、床に吐き出す。

分霊箱が破壊された影響だろう。

力が溢れてしょうがないのに、自分の身体は弱りきっている。

 

もはや撤退するしかないだろう。

横にいるルシウス・マルフォイを殺し、この場で無理にでも新たな分霊箱を作る。

それから目眩ましの呪文でも使って逃げればいい。

 

あの小僧も言っていたが、戦いはまだ終わっていない。

生き残れば、また次がある。

 

「ルシウス、僕の──ゴハッ」

 

ふと。

これから殺す男──杖を持つ手は震え、その瞳は怯えている──の名を呼び、意識を一瞬会話に向けようとした時。

 

血が、自分が今吐き出した血が。

()()()()()ことに気付いた。

 

「ッ!」

 

ヌラヌラとした質感の何かがいくつも蠢いている。

そのうちのひとつが、血溜まりの中から外に移動したことで、血に塗れた全容が露わになった。

 

それは、一匹のナメクジだった。

自分の吐いた血の中に、数十匹の生きたナメクジが混ざっていたのだ。

 

間違いない。

コレは奴の仕業だ。

いつの間にか自分は、何らかの呪いをかけられていた。

 

「もう諦めろ、ヴォルデモート。分霊箱にしか頼れないお前は、既に負けているんだ。」

 

そう言ってハリーは胸の前で杖を持ち、更に続ける。

 

「立てよ、腰抜け!」

 

「ガッ……ゴボッゴホッ」

 

ふらふらとした足取りで何とか立ち上がる。

 

ハリーはそれを見て、警戒を緩めぬままに杖を構えた。

 

 

……もはやルシウスを殺すことは叶わない。

この競り合いに勝てなければ、自分は死ぬだろう。

 

「アバダケダブラ!」「エクペリアームス!」

 

赤い閃光と、緑の閃光が繋がった。

 

「ぐっ!」

 

僅かに、こちらが優勢。

火花をバチバチと散らしながら、緑の閃光が赤い閃光を押していく。

 

杖を徐々に持ち上げ、できる限り上から撃ち下ろすような形に調整すれば、次第に赤い閃光の割合は随分と少なくなった。

 

やはり弱い。

所詮は子供だ。

身体が弱りきった今でも、勝てる。

そう確信した時だった。

 

──あの男は何処だ?

先ほどまでハリーの近くにいたはず。

いや、一体いつからいなくなっていた?

 

待て、焦る必要はない。

奴は確実性を求めるとき、必ず相手に近寄ってから仕掛けてくる。

そうである以上、まだ勝機はある。

 

 

 

 

 

 

「ハリー!私も!」

 

そう言ってジニーは、赤い閃光を放つ。

呪文は僕のものと繋がって、赤い閃光の割合がほんの少し増える。

 

「ハリー!」

 

ロンが、赤い閃光を放つ。

 

「ハリー!諦めちゃダメ!」

 

ハーマイオニーが、放つ。

 

「ハリー!勝つぞ!」

 

ネビルが。

 

「ハリー!」「俺たちも!」

 

フレッドとジョージが。

 

「私も手を貸そう!」

 

シリウスが。

 

「「「ポッター!」」」

 

先生が。

騎士団の皆が。

 

「……」

 

スネイプが。

 

皆の呪文が繋がって、力になっていく。

少しずつ、少しずつ、コチラの呪文が押していく。

 

 

でも、それでも。

この均衡を決定的に覆す一手にはならなかった。

 

「ええい!」

 

そんな歯痒い思いをしているハリーとは裏腹に、ヴォルデモートは突然、自分を囲うように悪霊の炎を這わせ、片手から出した呪文でスネイプを吹き飛ばす。

 

規模で言えば今まで彼が使ってきた中で最も小さなものだろう。

膝ほどの高さしかない炎がヴォルデモートを囲う。

炎の一部は小さな蛇の頭を形づくり、周囲を、特に背後を警戒するように睨みつけていた。

 

何故か、なんて疑問に思う余裕はない。

こちらの方が数の上では多いはずなのに、そうであることを感じさせない程に、ヴォルデモートの呪文は強力だった。

一瞬でも気を抜いたら、死ぬ。

そんな確信があった。

 

 

──しかし、殺し合いとは時折、唐突な終わりを迎えるものだ。

 

僕たちの呪文は、奴の力が突然弱まったことで勝利を迎えた。

咆哮をあげ、身体が黒ずみ、ボロボロと崩れていくヴォルデモート。

 

手や足の先が崩れ、胴体が()()()

その衝撃は胴体を砕き、頭だけが宙を舞い。

ついには、頭も砕け散った。

 

 

その背後で、フィグ先生が石製の槍を掲げていた。

 

 

 

 

 

 

「……約束は果たしたぞ、アルバス。」

 

ようやくヴォルデモートを殺すことができた。

後ろで石像から借りた槍で肩をちょいと押してやれば奴は直ぐに態勢を崩した。

実際、奴はもう限界だったんだろう。

オレが何もしなくても、奴は既に負けていた。

 

念のため『呪い』も付与したし、背後から魔法と物理のダブルパンチが出来るように待機していたが、その必要はなかったかもしれない。

 

とにかく、ハリー・ポッターは自らの手でヴォルデモートを討ち破り、その因縁を断ち切ってみせた。

 

……決着を自分の手で付けることの重要性は、オレが一番よく分かっている。

だからこそ、これでようやく、ハリー・ポッターは『ただの子供』になれた。

 

先生方や生徒たちにも被害は無い、はずだ。

そのための『幸運の液体』な訳だし。

 

あとは、ホグワーツそのものだが……

 

「レパロ。」

 

塔と橋の修復はこれで良しと。

 

皆、自分が生きて戦争を終えられたことの喜びを噛み締めているようだ。

 

おや、すっ転んでいたセブルスがポッター手を借りて起き上がっている。

 

「校長、その、貴方の記憶を観ました。貴方のこと、えっと、誤解してたみたいです。これ、お返しします。」

 

「……」

 

ポッターがローブの中から取り出した杖をセブルスに渡す。

その様子を、ポッターの足元にいるドビーが見つめていた。

 

そうか、さっき使っていたのはマルフォイの杖だったか。

 

「セブルス、貴方にも聞きたいことは山程あります……ですが、同時に、感謝もしています。ありがとう、セブルス。貴方とまたこうして話せることを嬉しく思います。」

 

「……吾輩は、ダンブルドアと、そこのエリエザー・フィグの言う通りにしていただけです。」

 

照れてやんの。

 

「ご歓談中悪いが。ポッター、これ勝手に借りたよ。」

 

透明マントをポッターに手渡す。

今後死の秘宝が三つ揃うことは()()()()()からな。

もう満足だ。

 

「……あの、ひとつ聞いてもいいですか?」

 

「何かな?」

 

「ニワトコの杖って、一本じゃないんですか?」

 

オレの後ろに転がっている、ヴォルデモートの杖を見て言う。

 

「アイツが持ってたのも、セブルスが持ってるのも、ただの模造品だよ。」

 

「模造品!?模造品であんな……」

 

「本物はこれね。」

 

ニワトコの杖を見せびらかす。

ついでに蘇りの石も見せておく。

 

蘇りの石(こっち)については、オレが何とかするよ。正直、透明マントとニワトコの杖を同列に並べちゃいけないくらいヤバい代物だからね。」

 

「破壊するんですか?」

 

「そのつもりだ。これはこの世にあっちゃならない物だよ。」

 

そう話していると、マルフォイがこちらに近付いてくる。

父親はその背後でどこか心配そうに息子を見つめている。

 

「ポッター、その……」

 

マルフォイはどこか気まずそうに話し始める。

 

ああ、そうだ。

向こうで固まっているスリザリン生や、牢屋に入れられた連中のことも何とかしないと。

特に牢屋組はまだヴォルデモートが死んだことすら知らないんだ、知らせておかないと。

 

「先生!」

 

「ネビル、よく頑張ったな!」

 

こちらに駆け寄ってきたネビルの頭をわしわしと撫でてやる。

 

「ハグリッドも無事で良かった──」

 

 

 

──やるべきことはまだまだある。

死喰い人のことも、ホグワーツのことも。

 

城を照らす朝日は、これからの魔法界の行く末を暗示しているようだった。




これにて完結です。
皆様、ありがとうございました。
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