三高新入生上位陣では九校戦について、特に『今晴明』天海ルシルの出場する競技について話題になっていた。
四十九院沓子からは、「ルシル様の魔法が楽しみじゃな」と、将輝が「ルシルと対戦したら勝てる気がしない」と断言したことから、吉祥寺からは「被らないように出場競技を予め聴いておいたら?」と提案された。
「『今晴明』とはそれほどまでなのかしら?」
「…………俺達現代魔法師とはレベルが違う……」
…………話すことはできないが、佐渡事変で、新ソ連を蹂躙したのはルシルだ。
ついでに大亜も蹂躙するくらいだ。
「『今晴明』の二つ名は伊達ではないんじゃよ」
「それは……、」
村上市の、北陸日本海の、妹姫とのグルメ旅行を邪魔されたからっていうのが理由という……
「天海家は愛情深い家柄で皇室とも親密だ。一色、絶対に失礼な真似はするな」
「わかったわ……」
「愛情深い家柄……、憧れるわね……」
「栞? いえ、聞かないでおくわ」
天海家に憧憬の視線を向ける十七夜栞に一色愛梨は訝しげにするが、すぐに察して黙った。
「将輝、天海君に確認しておこうよ」
「ああ、ジョージ」
ルシルに一条将輝から連絡があった。
「スマッキー? どうしたの?」
『ルシル、その呼び方は勘弁してくれ……』
「何? 茜ちゃんのパンツ、頭にまだ被ってるの?」
『不名誉な事実を捏造するな!?』
「何? 瑠璃ちゃんのうさちゃんパンツに切り替えたのか?」
『被ったことないし、妹達のパンツが何かなんて知らないよ!?』
「西洋の偉大なる魔法使いは妹の幼女おパンツ様を被っていたよ?」
『それのどこが偉大なんだよ!? 話が進まない!? ルシルは九校戦、どの競技に出場するんだ?』
「出ないよ?」
「…………は?」
「私が出場したら弱いものいじめ、反則だろう」
『……それは否定できないが……』
「将輝、十七夜栞は近くにいるかな? 代わってくれ」
『知り合いだったのか? 十七夜、ルシルから話があるそうだ』
『『今晴明』天海ルシル様から?』
将輝から十七夜栞に通話を代わり、自己紹介してから、ルシルは栞に『数学的連鎖アリスマティック・チェイン』をスピードシューティングで使用するのか確認したところ肯定された。
「あの魔法はクレーを最初に振動で破壊する。獲物が無茶苦茶になり、狩猟成果がなくなる」
栞に司波達也達に指摘警告したようにその危険性を教えてクレーを撃ち抜く魔法に切り替えるように警告した。
『そんな……、確かに生命を馬鹿にする行為ですね……』
「批判が殺到して最悪炎上する。悪いことは言わないから、止めておきなさい」
『助言感謝いたします。クレーを撃ち抜く魔法に切り替えます』
「大変結構」
これで三高への釘刺しも終わった。
三高ではルシルからの警告に吉祥寺真紅郎が頭を抱えた。
「…………戦場と勘違いしていないかって警告されたわ。全魔法科高校生徒会にクレーを破壊する行為は禁止と通達されるそうよ」
「確かにスピードシューティングはクレー射撃の魔法版だから、クレーを撃ち抜くのが目的、狩猟訓練であって、破壊するのは競技も侮辱する行為ね」
「なんともできた御仁じゃの〜」
「一条君、ルシル様はよくわたしの魔法を知っていたわね?」
「天海家は金沢理研のスポンサーでもあるからな」
それどころか旧第一〜十、全てのスポンサーだ。魔法以外の分野にも多数出資しているパトロンでもある。
「そういうこと……」
「俺も佐渡事変の後でやらかしてルシルと親父から盛大に説教された。十七夜はやらかす前に警告されて助かったな」
「ええ、『数学的連鎖アリスマティック・チェイン』をスピードシューティングや狩猟で使用することは違法だとも言われたわ」
「は? それは何の法律に違反してるんだい?」
「それは自分で調べてみるといいって。とにかくスピードシューティングで振動魔法を使うのは止めて、クレーを撃ち抜く魔法に切り替えるのが先ね」
「そうね。時間を無駄にできないわ」
この警告は一周目はキチガイ・サイコパスにぶち切れていたため、気付かなかったが、よくよく見てみたところ判明したという……
あれも戦場で使う魔法だよねと。
三高三人娘は帰り道喫茶店に寄って話題は天海ルシルについて……
「ワシは天海家分家倉橋家の理奈……リーナに連絡したんじゃが、リーナも九校戦を辞退したそうじゃ」
「え、そうなの?」
「ルシル様を除いて一高新入生上位五本の指の内四人辞退したとか」
「何故天海ルシル様と倉橋理奈さんは辞退したのかしら?」
「天海家は平和主義じゃからの。軍事色が強い九校戦には興味がないのではないか? それに競争が苦手だと聞いたことがある」
「それではわたし達が勝利しても本当の勝利にはならないじゃない……」
「ルシル様が出場したら十師族ですら相手にもならんと思うぞ? 『今晴明』じゃからの」
「そういえば一条君との通話で『私が出場したら弱いものいじめ、反則だろう』って漏れ聞こえたわ。一条君もそれに頷いていたもの」
「流石は安倍晴明の先祖返り『今晴明』と噂されるだけはあるわね……」
…………何故に一条将輝の妹おパンツ様事件を話題にしないのだろうか? 現代魔法師は非常識に過ぎる。ユーモアに欠けると思います。
後日吉祥寺が改良した『数学的連鎖アリスマティック・チェイン』はクレーを撃ち抜いた破片が連鎖する魔法になったのだが、一応確認のために将輝はルシルにこれで問題ないかと連絡したところ、こめかみが引きつったルシルが急遽一条邸を訪問することになった。
将輝は吉祥寺真紅郎と十七夜栞に声をかけた。
「ジョージの改良した『数学的連鎖アリスマティック・チェイン』について話があるからうちに来てくれ」
気になった愛梨と沓子も同行することになり、三高校長も呼び出され、その面会日、一条邸には……
「……あれ、『時計塔』のエアカー?」
「ルシル様がお越しなのか!?」
「ああ、くれぐれも失礼のないようにな」
「恩人に失礼な真似できないよ」
ルシルは佐渡での蹂躙劇でリスペクトされているのだ。
その面会で、ルシルの両脇に一条剛毅と将輝が控え、相対するのは前田校長、吉祥寺と三高三人娘……
「前田校長と吉祥寺以外は面倒だから名前呼びする。で、先日どのような法律に違反しているのか調べたのか?」
「いえ、調べてみたのですが、どの法律に引っかかるのかまだ……」
吉祥寺以外もまだわからないようだ。
「御前様、一条の顧問弁護士も調べているところですが、未だに……」
「鳥獣保護管理法で禁止されている爆弾罠猟に該当する。100年以上前に熊を対象に爆弾が使われていた。もしも人間がそれに引っかかったらと問題視されたということだ」
「なるほど……」
「そもそも狩猟免許の罠猟免許は18歳以上でなければ取得できない。今回改良された魔法も罠猟に該当する。計算ずくの上破片に殺られるのだ。ブービートラップの類、罠猟そのものだろう。完全に違法だ」
「そんな……」
「お前等もふざけるのも大概にしろ」
「お前等も、ですか? ……まさか一高でも似たようなことが、……それが出場辞退に繋がったのですか?」
「私とリーナを除いてね。吉祥寺、栞、お前等人として見られなくなるぞ? 犯罪魔法師として檻の中、末路は実験体だ。」
二人はビクッとした。
「「もっ、申し訳ございませんでした……」」
「一高では問題の選手二人とエンジニア一人が出場辞退した訳だが、前田校長、三高はどうする?」
「…………一高では辞退する程のことだったのですか?」
「生命を馬鹿にする愚行を公にしろと? お頭馬鹿なのか?」
「も、申し訳ございません……」
「仏の顔も、というだろう? 特にエンジニアはやらかしが過ぎた。そこの二人は初回だが」
「…………お前達、どうする? あたしとしては汚名返上してもらいたいところだが……」
「『数学的連鎖アリスマティック・チェイン』は禁止して出場します」
「僕も反省して出場します」
ルシルは溜息を吐いた。
「吉祥寺は生い立ち上、同情の余地はある。栞も過去の家庭環境から必死なのは理解できなくもない」
「!? ご存知だったのですね……」
「吉祥寺はご両親を佐渡で失っているため、なんでも戦場と捉えてしまうのだろう。矯正しろ」
「はい……」
「栞、君のスーパーコンピューター並みの頭脳は評価するが、世の中数学だけで成り立っている訳ではない。生き物には感情がある。改良後のあの魔法を狩猟で使ってみたければ狩猟免許と罠猟免許を取得してからにしなさい」
「え、ですが法律に、」
「改良後であれば、免許取得後であれば合法だ。それに現状の法体系では魔法師の狩猟について、法整備が追いついていない」
ルシル君は法律など関係ないため、普通に趣味で狩猟している。流石に絶滅危惧種を狩ることはしないが。フリュートレーネとルングシュメールの癒やしは違うのだ。要はそれはそれ、これはこれ。
前世でも狩猟採集は趣味だったからね。大丈夫。生命を献上されるのだから、無問題。
釣り竿で魚を釣るのは合法で、未成年が免許なしに狩猟するのは違法とか、禁猟期や罠猟など以外は正直疑問でもある。私は前世シュタープから具現化した釣り竿で海賊を釣っていたことがある(物理)釣り竿も立派な武器だよ? あれにはフェルディナンドやハイスヒッツェ達も目をひん剥いていた(笑)釣れた海賊達は首の骨が折れて全員高みだったけど。軟弱な海賊達だった。
「魔法が公になってから100年程度、戦争の期間も長かった。まあ、もしも人が犠牲になったらと考えると難しいね。しかし害獣駆除には最適かもしれない」
「害獣駆除、ですか?」
「北海道のエゾシカ、というよりも、鹿は繁殖力旺盛でね。生態系が狂う。国防軍の軍事訓練の一環で毎年北海道でエゾシカを駆除しているくらいだ。鹿は狩って食べるに限る。国防軍の軍事訓練であれば例外扱いすることも可能だ。しかしその場合将来は国防軍、軍人になるぞ? 汚れ仕事役に最適だとね?」
「…………」
売国奴害虫駆除に最適だ。
「栞、人を殺したいと思うのか? 人殺しに悦びを覚える?」
「いえ……、人を殺したいなどと思いません……」
「それが正常な人間だ。最初の狩猟での獲物の解体も結構精神的にくるものがある。前田校長、吉祥寺と栞には狩猟からの解体を経験させなさい」
「はっ、しかし狩猟免許の問題は、」
「あくまでも偶発的遭遇による自衛だから合法だ。金沢ならツキノワグマや猪、鹿だな」
鹿の角は立派な凶器だ。もう現代魔法師には荒療治するしかない。それなら問題ありませんねと校長は頷いた。
「ルシル様、栞の友人として参加してもよろしいでしょうか? 違法行為を見抜けなかったわたし達も同罪です」
「ワシも参加しますぞ」
「俺も参加します。ジョージの親友として俺も同罪です」
「大変結構」
いい機会だからと前田校長は狩猟部やSSボード・バイアスロン部などにも参加させることにした。
狩猟訓練日当日、ルシルの【円】と『探知』により、効率良く狩っていった。そして三高校庭で解体作業をすることになったのだが、案の定、精神的に辛そうな者達が何人も見える。
「前田校長、毎年狩猟成果の解体作業を実技に取り入れることを勧める。現代魔法師は生命の大切さ尊さを知れ」
偶発的遭遇による自衛なら合法だ。
「はっ、かしこまりました」
「熊は剥製にして三高に飾るといい。命名『熊三郎』」
「ありがとうございます。『熊三郎』強そうですね」
解体作業後、BBQになったのだが、ルシルは三高の美少女に囲まれていた。
「一条、新入生三大美少女や他にも美少女に囲まれてるスーツにコートの絶世の美少年誰なんだよ?」
「『時計塔』のかなり上のお方で『今晴明』天海ルシル様だよ」
『はあ!?』
「天は二物を与えないんじゃなかったのか!?」
「おのれ! 俺の嫉妬の炎が俺を燃やし尽くす!」
「自分をかよ!」
「来世に期待する!」
「まあ、勝負にもならねえからな」
将輝が何故今回の解体作業とBBQになったのか説明したところ、ルシルがモテるのも当然だと誰もが頷いた。
「ルシル様、狩猟採集は初めてでしたが、楽しかったです」
夏みかんやキンカン、イチジク、カリン、ブドウ、ビワ、姫りんご、柚子、橘、クレソン、野草、きのこ、自然薯など、自然豊かだ。
きのこは毒に注意だけどね。
「一条家に遊びにいくと将輝と茜ちゃんと一緒に狩猟採集は恒例行事で慣れている」
「納得しました。……ですが、あのザリガニも食べるのですか?」
「泥抜きした後でね。陸の海老みたいなものだよ」
ザリガニ外来種の生きたままの輸送は違法なため注意しましょう。
「そう考えると抵抗はなくなりますね」
「欧米でも食べられている立派な食材だ。フレンチでは高級食材として立派な地位を確立している」
やはり誰もがフレンチ、高級食材という言葉に弱いようだ。女の子達のザリガニを見る目が完全に食材を見る目に変わった(笑)
「味はカニだけどね」
「見た目はエビなのにですか……」
「ははは、誰もが驚くところだね。ぷりぷりしているところはエビだけど」
マルセイユでスープのブイヤベースにも使われていること、クリームパスタやアラゴスタという炭火焼きがフレンチのザリガニ三大料理であること、プロヴァンスのリゾット、ノルマンディーのフリカッセ、ブルゴーニュのグリルも有名で、ザリガニのビスクはエビのビスクよりも美味いと説明したところ、女の子達は放課後や休日はザリガニ釣りに行こうと一致していた。
「自然薯を掘るのに魔法を使うのも見事でした」
「夏みかんやキンカン、橘のソース、柚子胡椒も美味しいです」
「ん? ルシル様何をされておるのですか?」
ルシルは沓子の質問にグラスを差し出した。
「これは……、まさか夏みかんの酒ですか?」
「他にもキンカン、イチジク、カリン、ブドウ、ビワ、姫りんご、柚子、橘もあるよ。『醸造』魔法」
ワイン、シードルなどの果実酒だね。
「凄いですね……それにどれも美味しい……」
「普段の晩酌にはこれくらいで十分かな?」
「何故疑問形なのですか? ルシル様以外は満足すると思います」
「そこで使うのは『蒸留』魔法。ブランデー、カルヴァドスにする」
このブランデー、カルヴァドスはアルコール度数50度。
「うっ、匂いがキツいですね……」
「これを飲めるようになると大人の女性になる」
流石はルシル君、超適当である。
未成年にブランデー、カルヴァドスは危険なため止めさせておいた。前田校長は大喜びして飲んでいる。駄目な大人の見本だな。
ルシルの魔法の使い方に三高生は憧れる者が続出した。魔法で酒を醸造蒸留できるなんて羨ましいと。
蒸留は現代魔法でも可能ですよ?
「三高には料理部や分子ガストロノミー研究会、日本酒愛好研究会などないのかな?」
「ルシル様、北陸は佐渡事変の影響もあって、そのような余裕はありません……」
一色愛梨の非常に悔やまれる表情に三高生は誰もが頷いているが……
「大亜も新ソ連も崩壊間近だから気にしない気にしない」
「はい?」
「日本が、時計塔が、敵国に何も対策しないとでも思ったのか? 共産主義復活とか頭可笑しいだろう。何故自分達は侵略されないと思い込んでいる? 侵略者は我の方よ」
冷たい笑顔のルシルとその在り方に愛梨と栞も恋をした。
「栞、君の頭脳で国に貢献したいなら時計塔に就職することだ」
「ありがとうございます……」
「えっ、それはまさか栞は時計塔就職内定ということですか?」
「時計塔金融部門で栞の頭脳は重宝するからね。秘書やコンシェルジュなども向いている」
「秘書やコンシェルジュ、ですか?」
「特にコンシェルジュは会社の顔だからね。コンシェルジュは栞のように美しい女性しか雇用していない」
「う、美しい……」
栞は顔を赤らめ、周囲からは黄色い声が上がった。
「やったじゃん、十七夜! 時計塔内定なんて勝ち組だし、会社の顔だって!」
三高生徒会長の水尾会長が栞を祝福した。
「あ、ありがとうございます……」
愛梨や沓子達も祝福している。
「栞、時計塔の秘書体験してみないかな? 私の秘書の後任で悩んでいたんだよね。これだけ出す」
栞に金額を提示したところ、栞は目を瞠り、次の瞬間即決した。
「2019〜2023年にOSO18という牛を専門に襲い喰うヒグマがいた。他にも人喰い熊もいた。そのような害獣であれば法律がああだこうだ騒いでいないでさっさと駆除してしまえという話になる。特に人喰い熊など食べる気にもならない。食べたら頭が可笑しくなるだろうし」
OSO18を検索した栞は牛32頭も殺されていたなんてと戦慄している。
「ルシル様のおっしゃる通りですね。法律の前に畜産農家や人命の方が大切です」
「愛梨、大変結構。畜産農家からしてみれば廃業の危機だ。警察もその辺は見て見ぬ振りをするなど柔軟になってほしいよね」
「牛肉が食べられなくなるのは辛いですな」
沓子の言う通り。
ルシル君は三高三人娘といい雰囲気になり、翌日三人娘は歩き辛そうにしていた。
ルシル君には鴨がねぎ鍋に調味料も持参してくる