一条剛毅は帰宅したところ、目が笑っていない笑顔の妻、美登里に迎えられた。
そして夕食の席で将輝に証言された。
「お袋、天海君のあれは『爆裂』とは全く違う。天海君が独自に開発した『爆縮』だ」
サイオンからコインを物質化して放ち、解放する時に自然に漂うサイオンに起爆させる魔法だと説明された。
「国防陸軍が流したデマだ」
「あら、それは天海君も不愉快でしたでしょうね」
「ああ、実際天海君も国防陸軍に対して不愉快極まりない感情を抱いていた。全く、弟も疑われたのだぞ……」
将輝の証言に剛毅に謝罪する美登里。
「剛毅さん、謝罪のためにも天海君を金沢にご招待しておもてなしを、」
「いや、一条への貸しということにされた。全く、高く付きそうだ……」
「あら、それは、まあ……」
苦い顔をする剛毅にクスクス笑う美登里。
「だが、今回の情報源で最も怪しいところを教えてもらえたからな」
「あら、それは財界での権力ですか?」
美登里の質問に剛毅は頷いた。
「お母さん、ざいかいってなんなの?」
「政官財っていうのだけれど、政治家と官僚、財界人のことね」
「この場合の財界は企業経営者や資産家、お金持ちということだ。天海君は『幸運の女神の愛子』と呼ばれるくらいに有名な投資家だ。個人の財力なら十師族ですら足下にも及ばないレベルかもしれないな」
「え、それ、一代で?」
「ああ、彼が投資するところはどこも株価が上がると言われるくらいの……、」
(……幸運のクローバー、……まさか、四葉か……?)
「……剛毅さん?」
「いや、彼の出自で、幸運から連想してしまってな……」
「あはは、それはないだろって、……いや、イメージが違うだろ……」
「ああ、四葉はないな」
「剛毅さん、将輝、四葉は報復しただけです。もしも、天海君が四葉の係累だったとしても忌避しないでください」
「ああ、すまない……」
「すまない……」
女には勝てない。
「天海君は善人だと断言できる。実際面白いからな」
天海ルシル秘話に一条家女性陣はお腹が痛そうにしていた。
「…………天海君のご両親に親近感が湧くわね……」
「ああ、立派なご両親だ」
「ねえ、お父さん、その『爆縮』って『爆裂』と全く異なるのよね?」
「ああ、サイオンの物質化など前代未聞だな」
「天海君のBS魔法の可能性が高いな」
「そんな凄いBS魔法があるのに、魔法科高校史上初の推薦入学になるなんて、まだまだ秘密あるんじゃない?」
「!? …………普通に、いつの間にか魔法を使っていたな?」
「ああ……、CADを使っている様子もないし、いつ発動していたのかもわからなかった…………コインの具現化と消滅にしても速度も凄まじい……」
「その時点で規格外じゃない」
「古式みたい」
「…………茜と瑠璃の感想のように彼は隠れた古式の名門か、その先祖返りか……?」
「…………そうじゃなければ説明できないよな……」
今更疑心暗鬼になってきた一条父子……
「……それに彼には既に恋人婚約者がいる。彼の女性側仕えも一高に入学していた」
「えっ、兄さんには高校生になっても恋人いないのに?」
「うぐっ、お前言ってはならないことを……」
茜の指摘に将輝は俯きぷるぷる震えている。
「天海君は今まで見たこともないような絶世の美少年だからな」
「あら、側仕えはご両親の配慮かしら」
「そうだろうな。それに側仕えという言葉遣い、名家なのだろう」
いえ、あくまでも一般家庭です。
「だらしない兄さんとは大違い」
「うぐっ」
「…………それでだな、天海君から茜と瑠璃について心配された。北陸には大亜や新ソ連の工作員が多いのではないかとな」
「剛毅さん、それは……!?」
「誘拐や人質、……最悪のことも考えられる……。そこで、だ。茜と瑠璃には古式の指弾を習得してもらう。天海君が考案したコイン版だ」
「古式の指弾は鉛玉で毒性があるから危険だって指摘されたからな」
パチンコ玉にすればいいのでは?
「古式の指弾は鉛玉の筈だがと疑問の声を上げたところ、即座に眉を顰めて、鉛の毒性について指摘された。携帯するにもコインの方が便利だ」
「お父さんとルシルさんが保証するってことね? 瑠璃、やるわよ」
「うん、姉さん」
「おい……、そこでなんで兄さんと出てこないんだ?」
「兄さん、今までそんな心配してくれなかったじゃない」
「ルシルさんの方が頼もしい」
「うぐっ!?」と呻く将輝はお約束だ。
「将輝と一緒にゲームセンターでコインを稼いできなさい」
「ゲームセンターで遊ぶのは一般常識みたいだからな」
「やった!」
「楽しみ」
この時点で茜と瑠璃のルシルへの評価は爆上がりしていた。
将輝はこのことを吉祥寺真工郎にグチっていた。
「ふーん、そんなにお似合いのカップルだったんだ?」
「倉橋さんは金髪碧眼の絶世の美少女だったな。側仕えの女の子も大人しそうな雰囲気で可愛かったよ。くそっ、茜め、言いたい放題してくれやがって……」
「あはは……」
将輝のこの姿を親衛隊の女の子達に見せられないなと……
「それで、その『爆縮』って十師族の秘術クラスなんだよね。九校戦に出場するとしたらどの競技になると思う?」
「…………スピードシューティングなら優勝確実だな。本戦にエントリーされても不思議でもない。威力なら七草真由美さんの『魔弾の射手』を上回るし、精度もマルチスコープに劣らないレベルだと思う」
将輝は内心、ある意味マルチスコープを上回るレベルだなと呟いた。
「それは強敵だね……」
「ピラーズでも手強いだろうな。……モノリスは殺傷性ランク的に『爆縮』は使えないだろうから、ないと思う」
「魔法科高校史上初の推薦入学者なだけはあるね。僕としてはピラーズで『爆裂』と『爆縮』勝負を観てみたい」
「ああ、俺も天海君と対戦してみたいよ」
対戦できるといいね
…………そこにやってきた一色愛梨と十七夜栞、四十九院沓子はこの会話を耳聡く聞きつけ……
「『爆裂』と『爆縮』勝負ですか? 一条君、一体どういうことかしら?」
「噂の魔法科高校史上初の推薦入学者の天海ルシル君のことだ」
「天海ルシル君が開発した『爆縮』を九校戦で観てみたいんだよ」
『爆縮』について十師族の秘術クラスだと明言されたことにより、盛り上がった。
「一高を襲撃したテロリストのブランシュを天海君が『爆縮』で瞬殺したらしい」
「それは、凄まじいですね……」
「新星現るじゃな!」
「推薦入学するのも当然のことね」
「で、九校戦で天海君が出場する競技について、ジョージと予想していたんだ。スピードシューティングとピラーズブレイクだってな。スピードシューティングなら本戦でも余裕で優勝するんじゃないか」
「将輝の話を聞く限り、七草真由美さんの『魔弾の射手』の威力を上回るレベルで、マルチスコープのような遠隔視系の異能もあるみたいなんだ」
「天海ルシルさん、凄まじいですね……」
「彼は神懸かったレベルの絶世の美少年で、女性側仕えもいる。魔法をいつ使っていたのかもわからない。CADを使っている様子もなかった。多分古式の隠れた名門か、先祖返りだろうって親父と俺は結論付けた」
「側仕え……名家なのは確実ですね」
「古式は確実じゃろうな」
「興味深いわね」
それにしてもと、愛梨は周囲に目を向けた。
「一条君、あなたの親衛隊鬱陶しいのですが?」
「うっ、それについては、俺に言われても……」
「わたし達が一条君と話していると嫉妬の視線が鬱陶しいですし、天海ルシルさんも一条君同様なのかしら?」
「いや、彼は俺なんか比較にもならないレベルだと断言できる。それに彼には虫除けがいるからな」
「ああ、女性側仕えですか」
「彼は中性的だからな。ご両親が心配されたんじゃないか?」
「幼い頃は女の子にしか見えなかったのかもしれないわね」
「それなら納得じゃな」
将輝は首を横に振り否定した。
「いや、彼には恋人婚約者もいる。絶世の美少女のな」
愛梨は内心『なんて理不尽なのかしら!?』と悪態をついていた。
「今年の一高次席で、総代と実技は同等みたいだな」
「今年の一高の選手層は厚そうね……」
「もしかしたら一高三巨頭をも上回るかもしれないわね」
「いや、確実に上回る」
『!?』
将輝の断言に他は驚愕を隠せなかった。
「競技のルール、レギュレーションがなかったら? 天海君の『爆縮』はCADを必要としない。あくまでも競技で戦場じゃない。十文字の『ファランクス』であろうと四六時中発動できる訳がない。三巨頭ですら瞬殺されるだろうな」
「それは天海ルシル殿のモノリスを観られなくて残念じゃな」
「…………十師族はそのような逸材を取り込まないのかしら?」
将輝は腕を組み難しい顔をした。
「…………隠れた古式の名門や先祖返りなら、下手な横槍よりも……」
「なるほど、愛妾斡旋じゃな」
言葉を濁した将輝に沓子が相槌を打つ。
「ちょっと、沓子、」
「古式の伝統派が旧第九研と対立しておる」
『伝統派?』
「古式以外ではあまり知られておらんかったか。旧第九研に参加して成果を得られなかった連中じゃよ。古式の隠れた名門なら九島が天海ルシル殿に斡旋しない訳がないじゃろ」
「九島が……? 恋人婚約者の倉橋理奈さんは……」
「ん? ……倉橋か? …………」
「ちょっと、どうしたのよ、沓子?」
「ちょっとどこかで聞いた覚えがあったのじゃが……、九島と十中八九関係があるのではないか? 九島直系ではないのか?」
リーナは九島です。沓子の勘は鋭いですね。
「そういうことか……!?」
「流石は老師……、老獪ね……」
いえ、ルシル君がもらってきただけです。
「九が正妻の座を狙ってきたなら、老師のお墨付きということね」
「九島は伝統派の取り込みに動いたということね……」
「う〜ん、伝統派などと、ちっぽけな理由ではない気がするのう……」
「ちょっと、旧第九研の問題をちっぽけなって……、」
「伝統派など所詮その程度の認識じゃよ。古式の名門藤林や吉田などからも疎まれておる。四十九院の源流である白川も伝統派を好ましく思っておらん。伝統派は天海家に吸収されるのではないか?」
「は? それが許されるのか?」
「派閥というものはそう安々と解消されんよ。神輿ができればなびくものじゃ」
「そういうものなのか……」
「天海家の権力は絶大なのではないか?」
「!? …………」
「ほれ、何か心当たりがあるのじゃろう? 吐け吐け」
「一条君、吐きなさい」
女子の圧力に屈した将輝は吐いた。
「『幸運の女神の愛子』ですか……」
「それは、派閥が吸収されますね……」
「確実ね」
将輝は内心、女怖いと思っていた。
「…………しかし伝統派が東京にすんなりと移る訳にはいかんと思うが……」
「沓子、どういうことかしら?」
「…………古からの結界が、その守護があると思う…………京都は聖地じゃからな…………伝統派からしても譲れないものがあるとしても不思議でもない……」
「…………国とは重いわね……」
「…………国を支えるのが天海家……」
四十九院沓子は心の中でブツブツ呟いていた。
………………………………………倉橋、…………倉橋、…………安倍晴明か!? 安倍晴明庶流倉橋か!?
顔色が変わった沓子を愛梨や栞は目敏く見咎めた。
「沓子?」
「……………………すまぬが、これは憶測に過ぎぬから、誰にも言えん」
「沓子の勘ならそうなのでしょうね」
「沓子の勘なら仕方がないわね」
「四十九院の勘なら相当なレベルだな? 全く、何者なんだよ……」
「一条、詮索は止めておけ。わしの勘じゃが、天海家は古くて遠い……」
「…………四十九院のお墨付きかよ…………わかったよ……」
え……、沓子の直感? ルシル君は一般家庭ですよ?
一般家庭詐欺乙