私、悪い入間じゃないんです! 信じてください!! 作:かりん2022
私が向かうと、悟が起き上がっている所だった。
凄い血だ。心配になる。
「大丈夫かい、悟」
「傑」
「復活おめでとう。理子ちゃんは今、天元様とお話し中だよ。同化は無しの方向で進めるけど、ちゃんと筋を通せってさ」
「奴は」
「私が倒した事になるらしいよ?」
「なるらしいって?」
「ちょっとね。私も混乱しているんだ。スッキリしたいから、喧嘩してくれないかな。呪霊全部消し飛ばしていいよ。君、今、すごく伸びるチャンスなんだろ?」
「いいのかよ。俺だけ最強になっちゃうかもよ?」
「私は私でこの後、地獄の特訓があるらしいからね。気にしなくていいよ」
「じゃあ遠慮なく」
悟の全力の殴打を防ぐ。
私も全力で蹴りを放つ。
「赤いのと紫なのを撃たせるのが私のノルマらしいんだ。そこまでは付き合ってもらうよ!」
「いいけどさ。死ぬなよ、傑!!」
まさか本当に9割処理されるとは思わなかった。
等級下がるかもしれない。戦力がなくなったのだから、下がらないと困る。
悟はスッキリした顔で爆睡している。
「お疲れ様。頑張ったね、夏油くん。じゃあ、すり合わせをしようか」
「夏油、ありがとうなのじゃ。夏油と五条のことは忘れないのじゃ」
「ありがとうございました」
高跳びの手引きなんて鳥が表紙に描かれた本を持って、理子ちゃんは笑う。
黒井さんが深々と頭を下げて、すぐに冥冥さんが迎えに来た。
「彼女の事は任せてくれ」
「冥冥さん。あなたも協力者だったんですか?」
「彼は金払いが良いからね。大船に乗ったつもりでいてくれて構わないよ」
3人を見送り、口裏合わせの指示をもらう。
もしもの時に悟に迷惑が掛からないようにと、悟は何も知らない体を取ってくれるのは助かった。発案者は私だからね。
報告が終わった。
表向きには、私のやらかし……理子ちゃんと共に天元様に直訴した事を高峯さんが庇ってくれる代わりに、高峯さんの仕事を手伝うという形になった。
実際、天元様に直訴した事も、高峯さんの手助けを得た事も事実なのでそれはいい。
そして、私は高峯さんに早速呼ばれる事になった。
玄関には、悟や硝子もいた。
「俺も行く」
「私も行ってやるよ」
「悟。硝子」
「俺も行く!! 俺だって依頼を受けてただろ。なんで傑だけ罰ゲームなんだよ」
「罰ゲームではないよ。高峯さんは心配ないよ。それに、減らした呪霊の補充もあるし、地獄の特訓があるって言ったよね?」
「心配ないなら、俺が行ったって良いだろ! ほら俺、強くなったし、今なら茈で」
「倒してどうするんだよ、倒して」
「でもなんか怪しいじゃん。一人ぼっちになんのやだし、治療ぐらいしてやるよ」
そこに、本間さんが現れた。
「行くぞ、3人とも」
「先輩、すみません」
「むしろ、五条くんが来ないって言ったらどうしてくれようと思ってたよ」
本間さんは、とっくに悟が無理やりついてこようとするのを察していたのだろう。
そして、私たちは大きなビルの地下に来ていた。
そこには、何人かの呪術師、非術師がいた。庵先輩もいる。
印象としては、賢そうな人達。
「さて、お集まりの皆さん。忙しい中、時間を割いてくれたことに感謝を。私から皆さんにお願いがあります。ここにいる皆さんには、第一次グレムリン災害、別名2024年問題の対策チームに加入していただきたい」
「2024年問題? それはこの場で話していい事なのか?」
呪術師が聞いた。その質問は、非術師を指してのものだろう。
「もちろん、あなた達には守秘義務を結んでもらおう。最も、誰に言っても信じられるとは思えないがね。実は、私……高峯 邦光と本間玖郎には、生まれる前の記憶がある。この世界が巻き戻った世界なのか、ただ単に並行世界に転生したのか、それはわからない。だが、私達は2024年のグレムリン災害に巻き込まれ、そして死んで再度生まれ変わった。私達は、2024年に再度グレムリン災害が起こる事を危惧している」
深刻な顔で高峯さんが言う。
「正直に言うが、グレムリン災害がこの世界でも起こるかは全くの不明だ。道具も何もない状況では、そう遠くの未来までは見通せない。未来視に関しては、対策されるのを防ぐため、仲間内でも詳細は伏せる。だが、グレムリン災害に関しての判断は直前での通達になると思う」
未来視が後に続いた。
「グレムリン災害?」
「そう。話は長くなるのだが、聞いてくれ。それは2024年4月4日、シャンタク座流星群と呼ばれる美しい流星雨が地球に降り注いだ事から始まった。流星雨……降ってきた魔石は、電気を食らって成長する鉱物、グレムリンを産んだ。その流星群の影響で、地球から電気が消えた。つまり、文明が一夜にして滅んだ」
「は?」
最初からクライマックスだ。電気が消えるって、滅びるってどう言うことだ。
「今、君達が想像しているよりもずっと悪い状況だと断言できるよ。想像できるかな? 雷が消えて、代わりに水晶の雨が降るんだ。発電所からラジオの電池。生物に流れる微弱な電気まで、全て、グレムリンに食われた。静電気体質の者は多くのものが昏睡し、グレムリン結晶が体から突き出て死んだ。わずかな数が適応して大きく体を変異させて生き残った。私は年若い女性の血を好むようになったし、目玉が一つになったもの、ひどいものは電気鰻と一つになって人語をほとんど喋れなくなった者すらいた。冷暖房器具が使えなくなった事で、弱いものから容赦無く死んでいった。未来では、地球温暖化現象と言ってね。今よりも地球全体が暖かいんだ。特に夏は30度をたやすく超える。これではお年寄りはひとたまりもない。まあ、魔物問題やら食料問題やらで、それ以前の問題だったけど」
ちょっと想像がし難い。その状況で、人が生き残る事は可能なのか?
「特に、「枠」と言われる者は、体質、性格、IQ、寿命、時には性別も変化した。莫大な魔力と呼ばれる力を得た。彼らは女なら魔女、男なら魔法使い、性別を指さないなら超越者と呼ばれるようになった。私達も枠を与えられていてね。吸血の魔法使い、本間くんは未来視と呼ばれた。枠である私達は、呪文の知識を手に入れた。私は血液魔法、未来視は未来視魔法の知識をね」
「それ原型ねーじゃん……。乗っ取られてない?」
悟が恐る恐る口を出す。実際、それだけ変わっちゃうとね……。
「そうとも言えるかもしれない。俺達は、最初から呪文を知っていた。それは、全く未知の言語でのセリフと、その母国語訳だ。それは、無名叙事詩という異星の物語だという説があった。要は、俺達は登場人物に選ばれ、その登場人物のセリフだけ知っていて、それを唱えると不思議な事が起こる。それが呪文だ。ちなみに、俺達が死ぬと、死んだ枠の人間が新たに生まれる。登場人物の写しみに選ばれし者は常に1人だ。呪文についてだが」
そして、高峯さんは秘書の男性に視線をやった。
「ジン・ガ(焔よ)」
秘書がピッと指を指すと、炎が指先に灯った。
「ありがとう。何故かはわからないが、魔力なき、この世界でも魔法は発動した。ここにいる者の大半はすでに経験しているだろう。話に戻ろう」
そういって、吸血は黒板をひっくり返した。
黒板の裏側には、大きく無名叙事詩と書かれていて、その下に発音不可音の数とか、安全音(絶対に呪文につかわれない、呪文を不発にさせる音)とか、主な登場人物とセリフ訳なんかが書かれている。火柱呪文、なんか可愛いな。「大発見! 炎って燃えてるらしいよ」後は、要注意として傀儡魔法なんてのが赤丸で囲われている。「ウェウェンタクワフケ」と聞こえたら即殺すること! なんて書かれている。最も恐ろしい魔法らしい。訳は「慈悲深いだろう? 命尽きれば解放されるのだから」なるほど、確かに恐ろしい。
呪文は魔力のかわりに、呪力で代用できるということかな。
「そして、今彼が見せてくれたように、枠以外の人間も魔力などの条件が達成されれば呪文を使える。ただ、登場人物、つまり変異した人間にしかできない発音があって、枠以外の魔力は極端に低かった。地球向けの文明ではないのだから、当然だろうね。でも、電気が使えなくなった以上、私達は、魔法を使いこなすしかなかった」
そして、試しに発音不可音を一音ずつ発音してくれた。
確かにこれは人間では無理だ。
「エイリアンの言葉を、僅かな手がかりをもとに研究する。ちょっとでも間違えば意味が通らなかったり、違う意味になったりする。それは呪文の効果に直結した。多くの言語学者が呪文を研究して次々に命を落とした。効果がないのはまだいい。全身の血が沸騰したり、まあ凄惨な死に方をしていった。最初の東京全土から集めたエリートのチームは、言語学者の娘である12歳の天才少女以外全滅した」
「大日向くんか。私が死んだ後、どうなったのか不安だったんだ。彼女は教授になったのだったね」
「ああ。彼女は見事に豊穣魔法を完成させ、東京を救ってくれた。その豊穣魔法は、全世界に広まり、多くの人を救った」
なるほど。確かに都会で文明が消えたら、まず心配なのは食糧だ。
12歳の少女がそんな重荷を……。私は胸が痛くなった。
事が起こるのが2024年だから、まだ生まれてもいない少女なのだ。
「私達を追い詰めたのは、気候や食料問題だけではない。変異の対象は動物も例外ではなかった。多くの動物が変貌し、魔法を使った。彼らは魔法や魔獣と呼ばれた。大量に、そこかしこで発生した魔物は、人類も動物も等しく駆逐していった。混乱の最中、そして最大の武器である電力が封じられた中、私達、超越者だけが反抗できた。そして私達はなし崩しに周囲の人々を守り、私達を中心としてコミュニティができていった。というより、超越者がいない、手の届かない、守らなかった場所の人々はほぼ全滅した。大変だったのは超越者だけじゃない。言語学者もそうだし、老若男女、向き不向き全部押し切って、食糧生産させたりもしたな。ほぼ全て全部の人材をすり潰して、ようやく今日を生きる有様だった。超越者の身内ですら、魔力がなければ口減ししたりね」
絶句した。つまり、大量に呪霊が現れる場所を、1人で防衛するみたいなものだろうか。睡眠時間は? そんなの絶対過労死する。
「超越者も人間だし、私達は慣れていなかった。4月10日には、魔法使いか魔女が力を暴走させ、葛飾区が壊滅した」
絶望しかないな。
「いいお知らせとかねーの? それとも、このまま地球滅んだの?」
「私は、早い段階で怪獣とした言いようがない大型の魔物に殺されてしまってね。未来視、生き延びられそうだったかな?」
「結論から言うと、人類は存続した。4月14日、目玉の魔女が東京魔女集会を発足した。互助会だったそれは、吸血がのちに加入して、政治的な要素も得ていった。イルマのクズ……傀儡魔法の使い手がクーデターを起こしたが、なんとか氷を操る青の魔女が討伐。大怪獣が現れて吸血が死んだが、それも青の魔女が討伐。この時、魔石やグレムリンを加工する事が可能な者が現れ、青の魔女に協力してくれたんだ。それから、魔法の杖が出来て、安全に魔法を試せるようになり、魔法文明が花開いていくことになるんだが……。頭にキノコが生える流行病だとか、他の地区からの襲撃だとか、魔王討伐とか、色々あったがなんとか俺は寿命で死ねたし、その頃には国交も回復してて人類の存続は可能そうだったよ」
「今なんか変なのなかった?」
「魔王いるのか……」
「地獄じゃん。勇者いるの?」
なんかすごく大変そうだってレベルではない。地獄じゃないか。
「当然だが、私達はあれをもう一度はやりたくない。できる限り楽をしたい。被害者数とか生存者数を具体的にあげないのは、それすらできないからなんだ。魔物が溢れてて分断されてて毎日のように死者が出る状況で、人数把握すら不可能に近かった。街は死体に溢れ、ゾンビの魔女が死者に仮初の命を与えたり、花の魔女が土に引き摺り込んで養分にしなければ伝染病で大変な事になったろう。人口は1000分の1……いや、もっと減っていたろうね。誰であろうと、人間である以上、微弱な電気を体内に流している。ここにいるメンバーだって、最初のグレムリン災害を何人が乗り越えられるかわからない」
確かに、私は特級術師だが、体に流れる微弱な電気が結晶化しても耐えられる人種かと聞かれると反応に困る。悟や硝子も同じだろう。
「そこで、このグレムリン対策チームだ。とにかく金を稼いで、グレムリン災害の対策をする。何、グレムリン災害が起こらない可能性もある。その時は、大宴会を開いて、未来情報や未来予知で稼いだ資金を分配しよう。俺達は未来から来てるから、この後の発展の流れも知ってる。俺は早期引退とスローライフ出来るだけの金があればいい。三時間睡眠が取れたと有り難がるような生活はうんざりだ」
具体的に大変さを言われて、現実味を帯びる。
例えば、私が1人で呪霊が暴れるようになった新宿を守らないといけないとか……いや無理だろ。物理的に不可能だろ。どうやってやってたんだ……。
「情報レベルに関しては、人事に違うのは許して欲しい。色々しがらみもあってね。グレムリン災害が確定したら即座に全部の情報を共有するから、それがないのはまだ文明もしがらみも続くのだとポジティブに考えてほしい」
「ご清聴ありがとう。協力してくれる人は、守秘義務の契約書にサインをして、各々向けに情報をまとめた資料と指示書をテーブルの上に置いたから、取って行ってくれ。傑くんたち3人は残るように」
テーブルの上には、私と悟と硝子の契約書と冊子もあった。
ゾロゾロと人々が冊子を持って契約書にサインをして部屋を出ていく。
そして俺たちが残った。
「じゃあ、傑くんはこれからすぐに呪文の練習だよ。目玉の使い魔を出す練習だ。それに、それがあれば連絡を取り合えて、五条くんも硝子くんも安心だろう? その後、君達は君達の任務があるのだから、それをこなしなさい。夏油くんは私達が責任守って預かるから」
「傑も2024年問題でなんかすんの?」
悟が私の冊子を覗き込みながら言う。
なんか、やって欲しいこととして、災害救助、鳴子、農作業、発電事業、とにかく山ほどリストアップされている。発電事業はグレムリンの人口作成実験をして欲しいかららしい。
どさくさに紛れて、呪力や呪術の実験もかなり入ってる……。
「一番初めの目標は三級呪霊10000体に農作業させることかな。他にもして欲しいことが山積みでね。傑くんの活躍の為には、どうしたって呪術規定が邪魔になるから、グレムリン災害の有無に関わらず、改定するよ。五条くんにはいずれ時が来たらその為に力を貸して欲しい」
「農作業だってよ、傑」
「東京中の人間が共食いしあう地獄を防ぐための政策に茶々入れたらぶっ殺すぞ」
「こっわ。空気読めよ五条」
「何も言ってねぇじゃん……。農作業って言っただけじゃん……」
本間先輩が、ドスの効いた声。
有能な人材をすり潰して生き残ろうと頑張っていた人の声である。
ものすごく重みがあった。
戦闘面でないのは若干不服だけれど、なるほど、こういった面では悟よりも私の方が向いている。当然。何せ、ブラックホールに畑は耕せないので。
どっちが強いかといったらそれは悟だが、とにかく沢山の手が必要な場面なら私。
当たり前のことだ。
それにしても、災害救助か。
私は冊子を見ながら思う。私って、こんなになんでも出来たんだ。
戦闘にしか使ってきてないのって、勿体無いのかな。でも、秘密の規定に引っ掛かっちゃうし……あ、それで改定か。
私は、未来を想像してみた。なんだか予想外すぎて、うまく想像できなかった。
ふわふわした気持ちのまま、私は猛スピードで走るグレムリン対策チームに乗せられた。
17年後なんて未来すぎるし急がなくても、って思ったけど、地球全体が大ピンチに陥る文明が消え去るって考えたら、17年の準備期間なんてないも同然なのか。
うーん大変そう。
マシュマロ
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