二週目まりなちゃん   作:名取クス

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原作のネタバレがあります。


タイムリープ

気づけば知らない街にいた。

正確には、記憶の中にしか存在しないはず街。

 

日本銀行券のデザインが新しくなり、北里の顔にもすっかり慣れてしまった私が立っているのは北海道の生まれ故郷だった。

ただし、2016年。

いわゆる、時間遡行、タイムリープ、時間旅行。エトセトラ。

 

雲母坂まりな、22歳、戸籍なし、身元引受人なし、仕事なし、生きる気力、あり。

 

あまりにも突然に、私は家なき子になってしまった。

ああ、北海道の身元不明者リストの5番目になるのかな、などと益体のない妄想が脳裏をかすめるほど、私は現実逃避したくてたまらなくなった。

 

だけど、私はこの不思議な現象に少しだけ心当たりがあった。

ハッピー星からきたという、ピンクのタコのようなフォルムのハッピーな宇宙人。

あだ名はごみくそ。ちゃんとした名前をつけてあげなかったことは未だに心残りだ。

 

もしかしたら、また会えるかもしれない。もしくは、知り合いがいるかもしれない。

そんな期待を淡く抱いて、私はネカフェで日雇いの仕事を探し始めた。

生活保護も視野に入れなければならない。

 

私はあいつとはもっと話がしてみたかった。

でも、さよならも言えないままあいつは去ってしまった。

それがなんとなく心残りだった。

バイバイくらい、ちゃんと言わせてほしかった。

 

なんにせよ、生きて行くにはお金がいる。世間は往々にして世知辛いのだ。

せめてもの救いは、財布の中に数枚の諭吉がいたことかもしれない。

 

確か、私がごみくそに出会ったのは聖クリスティーナ学園に在籍していた頃だ。

この時代の私はまだ小学校4年のはずだ。ごみくそに合えるのは6年後。

それまで私は、この状況で健気に生きてゆかなければならないのだ。

長いなぁ。

 

 

________________________

 

 

一夜明け、私のこの時代の実家の様子を見に行ってみる事にした。

正直な気持ちを話せば、心は進まない。

 

なぜならあの頃の雲母坂家は、機能不全家族そのものだったから。

パパとママの仲は極めて険悪であり、喧嘩は毎晩の行事だった。

パパは家庭の外に癒やしを求め、ママのため込んだストレスは、私へと向かう。

あの頃の家の雰囲気、惨状を感じるだけできっとぞわぞわしてしまう。

今でも、私はガラスが苦手だ。

 

思い出してしまったせいか、なんとなくうずいた頬の傷に触れる。

 

この傷は小さい頃、激昂したママにコップでつけられた物だ。ただ、高校の頃に私とママの立場は逆転した。私に感情的になり、割れたガラス瓶の切先を向けながら詰め寄ってくるママを私は『返り討ち』にしてしまった。咄嗟のことだった。首から血を流すママを呆然とみていた。どう見ても助かる状態ではなかった。その後、何もかも嫌になった。私はママの行動や言動は嫌だった。でも、ママの事を憎んではいなかった。心のどこかで、私はママに愛されている事を信じていたのかも知れない。

そして、私は私自身を見限った。ガラス片を握り、首元へと。

でも、自殺は未遂に終わった。病院で目が覚める。なぜか、私は生きていた。

 

しばらくして裁判があった。尊属殺人だ。被告は日常的に心身共に及ぶ虐待を受けており、かつ殺害は意図的に行われた物ではなく身の危険を感じた過剰防衛による事故的な行為であり、情状酌量の余地ありとなった。その後、社会調査の結果で再犯の可能性も低いとされ当時15歳の私は保護観察処分となった。

 

あの時、私はどうすればよかったんだろう。

 

事件後、そんな思いがずっとあった。

その思いは心理や福祉を学ぶことに向いた。私は奨学金を借りつつ、専門学校に進学する事ができ臨床心理士の資格を得ることができた。この道を学ぶ中で、一つ感じた事があった。私が救いたかったのは、過去の私だ。だけど、それを学べば学ぶほどある種の無力感と言うべきもの感情が湧いてきたのだ。

 

カウンセラーができる事は、相手の話を聞くことだけなのかも知れない。

 

きっと、それで十分相談者にとっては十分なのかもしれない。

だけど、私にはそれがむず痒く感じられた。

 

カウンセラーができる事は、相手の話を聞くことだけかもしれない。

相談の結果を、解釈したり、受け止めたり、行動に移すのは相談者自身だ。

だから、私にできる事はそれだけだ。

 

だけど、私は行くことにした。この時代の私やママを知りたいと思った。

何もできないなりに、こんな今の自分にできる事があるかどうか、知りたかった。




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