買い物を終えた私たちは、あの空き地に戻ってきて一緒にアイスを食べた。
私の氷菓の実をタコピーに分けてあげると、ヒュゴッと掃除機のように吸い取られて面白かった。
『分けてくれて嬉しいッピ!』
アイスの味より優しさがタコピーには嬉しいようだった。
しずかちゃんはこの場で一本だけ食べて、もう一本は家に帰って食べるみたいだ。
アイスを食べながら、しずかちゃんから学校の話を聞いた。
「どう?学校は楽しい?」
「あんまり。」
「そっか。」
「うん」
いじめの実態を知る私からすれば、当然の反応だった。
「じゃあさ、しずかちゃんはどうして学校に行くの?」
「そんなのわかんない。でも子供は学校に行くものだから。」
「そっか。」
「うん。」
『ハッピー星のハッピー学校に通うのは、みんなとお友達になるためだッピ!』
「他の人にとってはそうなのかもね。でも私は違うみたい。」
「しずかちゃんはお友達つくるのあんまり得意じゃないの?」
「うん。」
「そっか。じゃあ、またお姉さんと遊んでよ。越してきたばかりで、あんまり友達いないんだ。」
「マリーさんも?一緒に話すくらいならいいよ。また、アイス食べたい。」
しずかちゃんの中でアイスのお姉さんになっちゃったか。まあ、でもいいか。
「うん、じゃあその時はまた一緒にアイス食べよっか。」
『分ったッピ。しずかちゃんはあの氷が好きだッピ』
「美味しい物はだいたい好きだよ。」
『そうなんだッピ?好き嫌いしないだッピね!』
しずかちゃんがふと思い出したように顔を上げる。
「マリーさん、私そろそろ帰らないと。」
「うん、じゃあ気をつけてね。」
『せっかくだから最後に一緒に写真を撮るッピ。楽しい思い出があればいつでもハッピーになれるッピ。』
タコピーが嬉しそうにカメラを取り出す。どこに持っていたんだろう、それは。
「まあ、写真ぐらいなら。」
「じゃあ、一番手足が長い私が撮るよ。」
『実はこの手は伸びるッピ。』
「タコピー、なんかもっと本物のタコっぽくなった。」
「しずかちゃん、実は海にいるタコは宇宙からきたって言う科学の先生もいるんだよ。」
「もしかして、たこ焼きにはいってるの、タコピーの親戚?」
『さすがに血は繋がってないッピ。』
奇妙なやりとりをしていると、パシャッとタコピーが写真を撮る。
インスタントカメラなのか、撮った写真が現像されて出てくる。
「次写真撮るときは、ハイチーズくらいいってほしいな。」
『マリーちゃんも写真好き好きなんだッピね。』
「まあね。そうだ、しずかちゃん時間は大丈夫?」
「うん、チャッピーが待ってるから。ばいばい。」
チャッピーのお散歩の時間なのだろう。
そう言って、しずかちゃんは帰って言った。
会話を振り返ると発見は色々あった。
例えば、なぜしずかちゃんが学校に行くのか。
学校に行くのなんて本来面倒臭いはずなのに。
彼女の場合、それは「学校に行くべきだ。」という規範意識から来る物だった。
だけど、義務感だけではきっと辛いものがあるはずだ。
教師や他の友達との関係、将来の夢や進路のため、係活動とか自分の役割。
たぶん、彼女にはそういった他の児童が持っている学校に行くそれぞれの動機が薄い。
いつ不登校に陥ってもおかしくない危ない状況だ。
犯罪心理学で言うところのソーシャルボンドが細い、という事だ。
もっと言えば、いじめられている状況ではそれどころではないはずだ。
だから、やるべき事はいじめの解消からだ。
そのために、学校側の対応や保護者の関わり方、加害児童について知る必要がある。
私が昔のように、身元も確かで資格もあればもっと直接的に関わる事ができたかもしれない。
でも、私はこの世界においては無資格で戸籍も持たない身だ。
やれることから、やっていこう。
でも、とりあえずは。
しずかちゃんが安心できるような時間を共有できた。それだけいいと思った。
まだ一歩目。関係と信頼は積み重ねだ。