二週目まりなちゃん   作:名取クス

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しずかちゃんの担任の先生の設定はほとんどねつ造された物です。今回と次回は学校関係者の話です。


学校にて

 

「すみません、お忙しい所にお時間をつくっていただいて。」

 

「いえいえ、こちらとして事の重要性については理解しております。どうぞ座ってください。」

 

そう言って、スーツ姿の男性がソファへ腰掛けるよう勧めてくれる。

ここは私の母校の校長室だ。つまり、久世しずかと雲母坂まりなの通う学校である。

要件は当然久世しずかへのいじめの疑いの件だ。

タコピーと別れた後に、学校に電話してアポを入れたのだが、事が事だけに早急に時間を明けてくれた。

重要性を理解してくれてありがたい限りだ。

 

私が席に着くと、立って出迎えてくれた先生方も席に着く。

この場のメンバーは私含めて6人。

校長先生、教頭先生、生徒指導の先生、学年主任の先生、そして久世しずかと雲母坂まりなの担任、那由多先生だ。

 

「諸事情で、私どもにも匿名での相談になるそうですな。そちらの件については先のお電話で聞いているので、早速ですがお話をお伺いしてももいいですかな。」

 

正面に座った、校長先生が私を正面から見つめる。

担任の那由多先生と私の視線が合う。緊張感が伝わってくるような、硬質さを宿した瞳だ。

 

「はい、私もお伝えできる範囲で説明させていただきますので、改めて調査していただければと思います。」

「本題ですが、単刀直入に申し上げて4年の久世しずかさんがいじめを受けている可能性があります。」

 

そういって、私は一枚の写真を差し出す。

久世しずかのランドセルだ。小学四年生とは思えないほど豊富な語彙による罵詈雑言が書き連ねられているのをみて、覗きこんだ教員らは絶句する。

 

「これは……。早急な対応が必要なようですな。」

 

一同の驚愕を代表するように、校長先生が呟く。

 

「はい、事態は深刻です。そしてここからは私の推測になりますが、どのような形かはともかく久世しずかへのいじめには雲母坂まりなが関わっていると予想しています。那由多先生は学級の二人の様子などご存じでしょうか。」

 

那由多先生の確認の視線を受けて、校長先生が私をみる。

 

「事情を鑑みて共有しますが、そちらにも守秘義務がある事をご理解いただけますかな?」

 

「はい、この場で知り得た秘密は守ります。」

 

個人情報を扱う上では避けては通れない事だ。

私の承諾を経て那由多先生が話し始める。

 

「まず、久世しずかさんは物静かで他人を思いやれる優しい児童です。一方で、忘れ物が多く他人とのトラブルも多いことから、生活上の指導事項の多い生徒でもありす。どのような理由があれどいじめは決して許されませんが、周囲からいじめられるリスクを十分に持っている児童と言えます。」

 

「次に雲母坂まりなさんは活発で回りを引っ張ることができる児童です。いわゆるクラスでリーダーシップを発揮できる児童で、彼女の回りにはよく他の子がいます。一方で、意地っ張りな面もあり感情的になっている場面を見かけることもあります。」

 

「二人の学校での関わり方はどのようなのですか?」

 

「まりなさんからしずかさんによく話しかけにいく場面が見られます。しずかさんは内向的なのに対し、まりなさんは外交的なので自然とそうなるのだと思います。しずかさんは感情があまり表に出ないので、どう思っているのか分りづらいですが。」

 

なるほど。十分に特徴を捉えた評価だ。正しいかどうかはさておき、そうとれるような要素が彼女達にはある。

 

「それで、どうしてまりなさんがいじめに関与していると思われたのですか?」

 

「はい。下校中の事なのですが、しずかさんと私が話していた所、側をまりなさんが通った際に怖がり物陰に隠れる様子だったので、その疑いがあると考えます。」

 

「なるほど。なにか直接の証拠はありますか?」

 

「いいえ。ですから、先生方に実際に調べていただいてもし関係がなければ申し分けなく思います。」

 

「なるほど。その他になにかありますか?」

 

「はい、あります。ただ一度、那由多先生には席を外していただけませんか?」

 

「それは、どのような理由でですかな?」

 

「一度、他の先生方とお話して整理してからお伝えしたいからです。」

 

「ふむ、那由多先生。いいですかな?」

 

「分りました。では、失礼します。」

 

校長先生に促されて、那由多先生が退出する。

 

「それで、整理したい話とは。」

 

5人の先生方の視線が私に集まる。

ここまでは前座、ようやく本題だ。

 

「まず、落ち着いて聞いてください。那由多先生はいじめを黙認している可能性が高いです。」

 

5人の目つきが変わるが分る。学校は同僚性と独特の閉鎖的な雰囲気があることもある。これは驚愕と、なぜ仲間を疑うんだという私に対する疑い。もしかすると、攻撃されたと捉えられる場合もあるかもしれない。

 

「確かに。疑惑のままいきなり本人に告げると、失礼にあたるニュアンスが含まれるかも知れませんな。先に、私達だけに伝えるのは正しい判断だと言えますな。それで、どのような理由でそう思われたので?」

 

年季が違うという事だろうか。凪のように落ち着きを払った態度で校長先生が質問を返す。

この校長室が突如深海に墜ちて、水圧でぎゅっと圧縮されるような緊張感。

こころなしか、部屋も狭くなったようだ。

だけど関係無い、私は私のできる事、すべきことをするだけだ。

 

「久世しずかさんへのいじめについては、気付かないという事に明らかに無理があるからです。それを支える事例が多く有ります。」

「まず、一つ目。しずかさんの教室の机には『死ね』や『臭い』といった罵詈雑言が書いて有ります。」

「そして二つ目。しずかさんの教室に掲示してある書道の作品は、ビリビリに破かれ『ドブ』や『くさいよ』といった中傷するような言葉が書いて有ります。」

「さらに三つ目。彼女が普段使っているロッカーはゴミや雑巾が詰め込まれ汚れ捕り、ロッカーの縁には『脱税』や『アバズレ』といった彼女を貶めるような言葉が書き込まれています。」

「最後に4つ目。彼女の普段使っている文房具、例えばノートには大きな文字で『死ね』や『ドブ女』といった人格を否定するような言葉が書き込まれています。」

 

「なるほど。ランドセルの件も合わせれば、五つになりますな。それにどれも明らかに外から見て取れると。」

 

「はい。ですので、気付いていないとは考えにくいかと。」

 

聞いていた先生方も並べられた事実に、戸惑っているようだった。なぜなら、理解できたからだ。それで気づかない訳がないと。どうして隠していたのかと。

 

「この件について先に私から述べたいことがあります。」

 

「それは一体どのような?」

 

「まず、この件について彼女を強く叱ったり、怒りをぶつける事はしない方が良いと思います。」

 

学年主任の先生が一言挟む。

 

「それはおかしな話ではないですか?事実として彼女の行いによって傷ついた児童がいたのですよ?教職としてあるまじき行為です。」

 

「はい、おっしゃる通りだと思います。しかし、彼女が必要としているのはいじめの解決、そしてその協力者です。そして、一刻も早くいじめの解消を願っている児童がいるからそこ、そうすべきです。」

 

「一方で、職務上の責任を十全に果たせなかった事は確かです。よって、彼女への処分は必要だと思います。」

 

「仮に彼女を拒絶したり、強く叱ったりすれば今後似たような例が出た際にかえって隠蔽する事に繋がりかねません。」

 

「過去のいじめ調査では、いじめの発見が多い事を悪とみなす風潮がありました。しかし結果として、学校や教師がいじめをいじめと認知しなくなることでかの問題が解決されるようになりました。」

 

「それでは、いじめられている児童の苦しみは解決されません。」

 

「だからこそ、今の彼女には先生方からのあたたかい態度が必要だと思います。」

 

「今後、彼女が前向きに学級を改善していけるように、どうかあたたかいご指導の方、よろしくお願いします。」

 

「それが子供達のためになると、私は信じております。」

 

室内が静まる。

カチカチ、という掛け時計の秒針を刻む音がやけにうるさい。

そう、所詮私は外部の人間だ。 

彼ら先生達から見て私はなんの専門知識もない素人だ。

だからこそ、私には想いしかない。

 

想いがないと何も始まらない。

だけどやっぱり、思いだけでは何もできないのだ。

 

私は想いをぶつけるしかない。

素人に大きい口を叩かれて、先生たちはどんな気持ちだろうか。

1秒ごとに、教室の沈黙は重くなっていくようだった。

 

「なるほど。」

 

沈黙を破ったのは、やはり校長先生だった。

校長先生は着ているスーツの襟を正す。

 

「あなたの思いは十分伝わりました。発言の妥当性も感じられました。」

 

「考えてみれば、事態に気づけなかった我々にも十分に責任はあります。私も校長室での業務ばかりで、実際の子ども達の様子を見て回る事ができていなかった、という事でしょう。彼女だけが責められるのは不適当ですな。」

 

「なにより、那由多先生も子どもを育てる私達の仲間です。彼女の抱えてきた問題には、私たちも一丸となって対応すべきですな。」

 

「お気遣い、痛み入ります。」

 

そう言って、校長先生はソファから立ち上がって私に頭を下げる。

周りの先生方もそれに倣った。

決して安くない頭なはずだ。並々ならぬ想いがあるからこそ、私も安心する事ができた。きっと大丈夫だ、と。

 

「こちらこそ、先生方の不断の努力に助けられております。私はしずかさんのために、できる事をやったにすぎません。どうか、頭をお上げください。」

 

この後は校長先生方から、同僚としての話があるだろう。

外部の私がいてはやりづらいこともあるかもしれない。

まだまだ那由多先生に伝えたいことや他の先生方に紹介したい事例もあるけれど。

 

「長いことお邪魔して済みません。私がお伝えしたいことはお伝えできたと思います。」

「ええ、また何かありましたらぜひ私どもの所へ。」

 

任せよう。きっと、彼らは自分の仕事を全うする。

 




たくさんの評価、感想ありがとうございます。当作品を楽しく読んでいただけていたのなら幸いです。
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