3000文字です
夏の日は長い。
だから、夜を待っていたらこんなにおそい時間になってしまった。
むかつく。
でも、それももう少しだ。
もうすこしで、あのアバズレの娘をぐちゃぐちゃにしてやれる。
私とママからパパをうばった女のむすめ、久世しずかからあいつが一番大切にしている愛犬のチャッピーをうばってやれる。
でも、これは悪いことじゃない。うばわれた私の持つ正当な権利だ。
パパが家に帰ってこないのも。
それであれたママが私をたたくのも。
私がこんなにみじめな思いをするのも。
ぜんぶぜんぶあいつのせいだ。
だから、これはあいつの自業自得。
因果応報なんだ。
あは~♡やっときた♡
おどろいた顔のしずかとくそ犬。
これから何がおきるのかも知らないで。のん気な顔だ。
「あはー。」
びくりと体ふるえてるよ。
怖いんだね。私が。
「こんな時間に外出とか卑しいね。」
「やっぱ尻軽も遺伝するのかな?」
しずかの口がかすかに動く。
「……あ」
小さい声。お前にはなにもできない。
「まりなちゃん。」
そう。
今から私達で一生の思い出を作ろうね♡
夢のなかまでこびりつくくらい、とびきりすごいやつ。
「あ、汚物犬だー。」
さあ、かみついてこい。
「前から思って思ってたんだけどさ。」
お前を終わらせてやる。
「チャッピー!!」
ふるえた声。みじめだね。
かみつけ。さあさあ。
「寄生虫とかアバズレにも犬飼う資格ってあるのかな。」
かみつけ!かみつけ!かみつけ!かみつけ!
殺してやるからはやくかみついてこいよ!!!!!!!このくそ雑巾犬が!!!
ああ、いらいらするなあ!!
もう!!
手を振りかぶる。
お腹なんて、ぬるいことは言わない。
顔面。顔面だ。
コイツを終わらせられればもうなんでも良かった。
「それはダメだよ。してはいけない。」
知らない大人の声。
冷や水を浴びせられたように、停止する頭。
冷たく凍る背中。
ハッとする意識と混乱。
ーーー見られた。
なんで。回りはちゃんと見たはず。
というか、コイツ、私の腕を掴んで。
しゅん間、沸とうする脳みそ。
同時に冷静に計算するもう一人の私。
『あいては大人だ。勝てないよ。』
『それに、今なら全部なかった事にできる。だって、私はまだ何もやってないんだから。』
私はこの場を切り抜けるために、直感を信じる。
「きゃーーーーーーー!!!」
大絶きょう。
私のこん身のかなきり声に、外野が集まってくる。
後は動ようしたすきに、逃げ出して全てをうやむやにしてやる。
今日はもう諦める。今日は無理でも必ず私はあいつに復讐する。
もう、あまり時間に余ゆうはないけど、私は絶対に諦めない。
そう、
もしかすると、学校側にいじめを知られたかも知れないからだ。
今日、急にいじめアンケートが取られた。
いつもは金曜日に取られるのに、今日は水曜日だ。不自然だ。
しかも、昨日は学校でいじめのうわさを聞かないかってママから聞かれた。普段は私の学校の話なんて聞いてこないのに。
それに最近は何かと
なんとなく、いやな予感がする。
だから、全てがばれてしまうその前に。
他のじゃまが入る前に。
全てやりきる。
私は私の復讐を全うする!!
そう決心したから、予定をくり上げて今日決行にした。
私の復讐がこんな形で終わるのだけは、絶対にいやだ!!
「はなせ!はなせこの不しん者が!!」
私はつかまれた腕を振りほどこうともがく。
見かねた外野が不審者に声をかける。
「あの~。妹さん嫌ってますが大丈夫ですか?」
そうだ。私の都合通りに動け!!
今なら!
「ええ。お気になさらないでください。うちの妹、今みたいに口が悪いので友達のしずかちゃんにもひどいこと言ってしまったみたいなんです。」
ああしっかりと握られて解けない!!
そう言って、この不審者が「お騒がせしました。」と軽く頭を下げると近寄ってきた大人達も何かを察した表情でいなくなっていく。
は!?おかしいだろ!かわいくていたいけな私が不審者に襲われてるんだぞ!!助けろよ!!
というか、私に姉妹はいない!!何勘違いして、納得してるんだうすのろどもが!!
そこで私は初めて不審者の顔をちゃんとみた。
「は?」
思わず声がでた。
きれいな金髪にママやパパを感じるたん正な目鼻顔立ち。
すらりと帯びた背筋に大人びたりんとしたふん囲気。
壮絶な過去を感じさせる顔の傷以外は『もし、私にお姉ちゃんがいたらこんな人だろうな。』というイメージそのものだった。
妙に冷静に、確かに姉妹に見えてしまうのも仕方ないと納得した。
まずます状況が悪くなり続ける中で、あいつの顔が安心したようにほころぶ。
「マリーさん!」
この不しん者はこいつの知り合いだ。
なら、パニックをいいわけに見方につけるも無理だ。
なんとか、拘束をほどいて突破するしかない。
無理だ。勝てない。
でも諦められない。
「くそ、もう、離せよ。」
私に取り合わず、金髪女はあいつと話を進める。
「怖い思いさせちゃってごめんね。」
「ううん。マリーさんが助けてくれたから、今は大丈夫。」
ああ、あんなに安心した顔をして。頭にへんなドクダミつけやがって。
なんで。こいつが。
なんで。こいつだけ。
なんで。こいつばっかり。
どうして私はすくわれないの?
気持ち悪い。気持ち悪い。
「今日みたいに暗い時は、一緒にいこうね。帰り道も気をつけて。」
「うん。ばいばい。」
そうして、夏の薄闇の中にあいつとくそ犬が消えていく。
残された、私と不審者。
「いいかげん離してよ。」
私がそういうと、彼女はしゃがんでまっすぐに私を見つめる。
「叩こうとしたの。悪かったって分ってる?」
「分ってる。」
「ちゃんと反省してる?」
「ちゃんと反省してる。」
「嫌な事があった時は、相手とどうやって解決する?」
「話し合う。」
「できる?」
「できる。」
とりあえず相手に合わせて反省してみせる。
「ならよし。」
この先、どうなるんだろう。考えを巡らせていると、私の手を掴んでいる手が離れる。
「ねえ、君はもしかして雲母坂まりなさん?」
「は?なんで知ってるわけ?マジきもい。」
「そう。じゃあ良かった。」
そう言って金髪不審者は携帯を取り出し、どこかへと電話をかける。
しばらく、話した内に彼女は私に通話中の電話を差し出してくる。
携帯の通話中の画面には雲母坂みどりの名前が。
え?ママ?
どうしよう。全部ばれちゃったの?
止めどない不安がばく発して、足下からくずれそうになる。
おそるおそる、電話を代わる。
「もしもし、ママ?」
「あら、まりちゃん。マリーさんから聞いたわ。」
ああ、もうだめだ。おしまいだ。
「聞いたよ。たまたま夜道でマリーさんに会ったのね。」
「今決まったことだけど、今日はマリーさんがお鍋をごちそうしてくれるらしいわ。私も準備ができたら、マリーさんの家に向かうからマリーさんと先に向かっていてほしいの。ちゃんとお行儀良くするのよ。」
予想と全く違って、頭が追いつかない。
お、お鍋?
なんとなく私が「うん」と呟くと、マリーと呼ばれている金髪不審者に通話を代わる。
程なく、通話が終わったのか、金髪不審者に笑いかけていう。
「というわけで、しよっか。鍋パ。」
わけが分らなかった。