─登場人物─
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、仮面ライダームジカの変身者。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
人前では緊張して歌えないという悩みを抱えていたが、可可の想いに触発されて共にスクールアイドルを始めた。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
スクールアイドルに憧れて上海からやって来た。好きなものへの情熱は人一倍強い。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生。
かのんの幼馴染であり、丸いものが大好き。ダンスが得意で、結ヶ丘では音楽科に所属する。また、スクールアイドルを始めた二人にダンスを教えている。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生。
幼い頃からショウビジネスの世界で努力してきたが、主役のような望む役を掴むことはできなかった。そこでスクールアイドルでセンターを目指してみようと加入したが、投票の結果センターには選ばれず…
【
プロテクションに所属する新人隊員。
明るくハツラツとした性格だが、何かとおっちょこちょいなため仕事でのミスが多い。
俺の名前は音居奏叶。結ヶ丘高等学校に通う一年生だ。
今日はいつも通りの学校がある日。今は一時間目の授業中であり、科目は英語。そんな中、俺は大ピンチに見舞われていた。
「お、音居くん。大丈夫…?」
俺は今、黒板の前でチョーク片手に固まっている。そんな俺を見た先生も、席についているクラスメイトたちも戸惑っている様子だ。板書された英文の空いた部分に入る単語は何か、という問題の回答者に指名されたのだが全くわからない。
別に俺は英語が特段苦手なわけではない。普段ならこのくらいの問題難なく答えられるはずだ。恐らく、先生もそれをわかっていて俺を指名してきたのだろう。
だが、今日の俺は全く、ビックリするぐらい、何もわからないのだ。そう、何もわからない。空欄の単語だけじゃない、そもそも書いてある英単語が一つもわからない。
あぁ、無理だこれは…
「ごめんなさい何もわからないです…」
「そ、そう…じゃあ戻って大丈夫よ」
観念した俺は困惑している先生から許しをもらい、とぼとぼと自分の席に戻っていく。
あぁ、恥ずかしいよぅ…
「奏叶くん、どうかしたの…?」
休み時間に入ると、隣の席の澁谷さんが俺の様子を心配そうに伺っている。
「いつもなら、あれくらいの問題パッと答えちゃうのに…」
「うん、ちょっといろいろあってね…」
こうなってしまった理由はわかっている。昨日のヌッラの能力が原因だ。
昨日の戦いで、俺はヌッラの能力を受けて気を失った。
俺が目を覚ました後、狼谷さんからその後どうなったのかを聞いた。どうやら、ヌッラは俺が意識を失うとその場から逃げていったそうだ。俺以外のヌッラに襲われた被害者たちは、念の為プロテクション管轄の病院に入院しているらしい。俺も昨日検査自体は受けたものの、仮面ライダーであるため入院は免れた。
ただ、まさかこんな弊害があるなんて…
「奏叶くん。体調悪いなら、保健室で休んだ方がいいんじゃ…?」
どうやら、澁谷さんには体調が悪いのではないかと心配させてしまったようだ。
「ありがとう。でも、体調が悪いわけじゃないんだ。ただ、何もわからないんだ…」
「え…?」
俺の発言の意味がわからなかった澁谷さんは、目を丸くして固まった。
そりゃそうだよな。突然何もわからないなんて言われても、意味わかんないよな。とはいえ、ヌッラと戦ったことを話すわけにもいかないし…
なんて考えていると、平安名さんが教室から出ていくのがふと目に付いた。
「あ、ごめん俺ちょっと行かないと…」
「えっ、ちょっと奏叶くん!?」
「とにかく元気は元気だから大丈夫!」
俺はそう言い残して、教室から出ていった。
そして俺は平安名さんの跡を付けていく。いや、別に跡を付ける必要はなく話しかければいいのだが…
「ふぅ…よし、へいあ…いややっぱもうちょい待って…」
なんて一人で勝手に言い訳をしながら、平安名さんに声をかけられずにいた。
昨日俺は、平安名さんに対して軽はずみな発言をしてしまい、彼女を傷つけた。今日、絶対に彼女に謝ると決めたのだが、いざとなるとどうしても緊張してしまう。
「いや…」
そんな俺の脳裏に浮かんだのは、昨日の病院での検査からの帰り道の出来事。
───
──
─
「はぁ…」
平安名さんを怒らせてしまったことやヌッラの能力を受けてしまったことなど、自分の不甲斐なさを感じ、帰路に着いてから何度目かのため息を吐いた時のことだった。
「おや、奏叶くん」
「え?正道さん!」
名前を呼ばれ振り返ると、そこには「やぁ」と手を上げながら柔和な笑みを浮かべる元天才バイオリニスト、そして俺の恩人である八雲正道さんが立っていた。
彼と会うのは、先日の葉月さんとカフェに行った時以来だ。
「どうかしたのかい?なんだか、浮かない顔をしているようだけど…」
「ちょっと、悩んでるというか…自分の不甲斐なさを悔やんでいるというか…」
「不甲斐なさを悔やむ?」
「はい。実は…」
ヌッラと戦っていること…というか、そもそもヌッラのこと自体は話せないが、平安名さんとの間に起こったことなら彼に話しても問題ない。相談も兼ねて、俺は自身の無責任な発言で彼女を傷つけてしまったことを話した。
「ああいう時に変に慰められると余計に傷つくだけだって、俺はよくわかってたのに…」
悔しさのあまり俯いていると、ふと頭の上にぽんっと温かい重みを感じた。
「そうやってすぐに反省点を見つけられるところは、キミの良いところだよ」
顔を上げると、正道さんは俺の頭をポンポンと撫でながら優しく微笑んでいた。
「こういう時にどうするべきかは、意外と単純で、それでいて難しいんだよね。でも結局、確かな道はひとつだけさ。そして、キミにはその答えはわかっているだろう?」
「……ちゃんと、謝ることですよね」
「せいかいっ!」
右手の親指と人差し指を合わせて丸を作り、正道さんはにっと笑った。
「大丈夫さ。キミは他の人以上に、人のことを思いやれる人だ。ちゃんと伝えれば、キミの誠意は伝わるはずだよ」
─
──
───
「よし…」
ちゃんと、謝ろう。
こうして、ようやく決心した俺だったが、気づけば平安名さんはトイレに入ってしまっていたようだった。いくらなんでも、流石に女子トイレに入るわけには行かないので、その場は一度諦め俺は教室に戻るのであった。
そして、次の休み時間。今度こそ平安名さんに謝ろうとしたのだが、先に澁谷さんに話があると言われ、クゥクゥ、千砂都も含めた4人で廊下に集まって話すことになった。
「スクールアイドルなら、なんとかなるかも…」
そこで俺たちは、平安名さんがどうしてあそこまでセンターにこだわっていたのかを聞いた。
幼い頃からショウビジネスの世界にいた彼女だったが、何度オーディションを受けても、どれだけ努力しても、主役の座を射止めることはできなかったそうだ。そして、スクールアイドルならセンターとして輝けるかもしれない。そう考えたが、結果それも叶わなかった。
平安名さんは、自分はどれだけ努力しても真ん中で輝くことができない、そういう星の元に生まれたのだと言っていたそうだ。
「それはスクールアイドルへの侮辱デス!冒涜デス!」
スクールアイドルに対して人一倍熱意を持っているクゥクゥは、平安名さんのスクールアイドルに対する発言に憤りを感じている。
「まぁ、すみれちゃんも悪かったって言ってるし…」
澁谷さんがクゥクゥを宥める中、俺は一人考え込んでいた。
平安名さんがショウビジネスの世界で上手くいっていなかったのはなんとなく予想していたが、本人が自分はそういう運命なんだと諦めてしまっているとは気づかなかった。そんな中、俺が無責任に、わかったような気になって軽はずみな心配をしてしまった。
そりゃ怒って当然だよな…
「奏叶くん、どうかした?」
「あ、ううん。なんでもない…」
首を傾げる千砂都に答えていると、ちょうど平安名さんが廊下を通りかかった。
彼女も俺たちに気づいたようで立ち止まったが、特に何も言うことなく再び歩き出した。そこを、クゥクゥが彼女の真正面に立って止める。
「お昼休みに屋上にキヤガレ!デス!!」
キッと睨みつけてきたクゥクゥの言葉に不思議そうにしている平安名さんは、澁谷さんを一瞥してから問いかける。
「聞いてないの?私はもうスクールアイドルは…」
「イイからキヤガレデス!!」
平安名さんの言葉を遮って一方的にそう言い放ったクゥクゥは、そのまま教室に戻っていった。
「どうするの?」
不安げな様子の千砂都が澁谷さんに声をかけているのを横目に、平安名さんも教室に戻っていこうとした。
今しかない!
「平安名さん!」
教室に戻ろうとしていたところを呼び止めると、彼女はその足を止めて振り返る。
「ちょっとだけ、いい…?」
恐る恐る聞くと、平安名さんはゆっくりと頷く。
「じゃあ奏叶くん、私先に戻ってるね」
「それじゃあ、私も音楽科の方に戻るね」
何も事情は話していないのに、俺と平安名さんの様子から何かあったと察してくれたようで、澁谷さんと千砂都はそれぞれ教室に戻っていった。
気を遣わせちゃったな…
平安名さんと二人になったところで、俺は平安名さんと顔を合わせる。そして、一度彼女の目を見てから、誠心誠意を込めて頭を下げる。
「昨日は本当にごめん!!」
少ししてから顔を上げると、平安名さんは真剣な表情で俺から放たれる言葉を待っている。
「俺、平安名さんのこと何も知らないのに、無神経にわかったようなこと言ってしまった。本当にごめん」
そして、俺は再び頭を下げた。
「……顔を上げて」
少しの沈黙の後、平安名さんから声がかけられた。
「私も、怒鳴ったりしてごめんなさい」
「いや、平安名さんが怒るのは当然で…」
「違うの」
「え?」
「あなたに言われたこと、間違ってなかった。私は、自分で思ってた以上にあの結果を深く受け止めてたみたい…だから、ついカッとなって怒鳴ってしまったの」
「平安名さん…」
「それにしてもあなた、私に謝るためにコソコソと着いてきてたの?」
"コソコソと着いてきてた"、というのは恐らく、一つ前の休み時間からのことだろう。
「えっ…気づいてたの?」
まさか気づかれていたとは思わず、途端に恥ずかしくなり顔が熱い。そんな俺の様子を見て、平安名さんはクスッと笑って頷いた。
「ごっ、ごめん!跡をつけるつもりはなかったんだけど…つい話しかけるタイミングを逃してしまって…」
「別に気にしてないわよ。さっ、もう授業が始まるわ。戻りましょ?」
ちゃんと謝罪することができ、彼女も自分が抱えていた思いを話してくれた。ただのクラスメイトだった俺たちだが、仲違いを経てお互い腹を割って話したことにより、少しだけ、距離が縮まった気がした。
仲直りできて、よかった…
そう安堵した俺は、平安名さんの背中を追いかけるのであった。
キーンコーンカーンコーン
午前中の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、クラスメイトたちは各々昼食を食べる準備を始める。
今日は教室以外で昼食を食べる場所を探そうと廊下を歩いていると、ふとクゥクゥが平安名さんに言っていたことが脳裏に浮かんだ。
『お昼休みに屋上にキヤガレ!デス!!』
「……ちょっと気になるし、見に行ってみるか」
ということで、先日解放されたばかりの屋上までやってきた。
クゥクゥたちはまだ来ていないようだったが、屋上にあるベンチに座っている別の先客がいた。
「って、またここにいたんですか。桜葉先生」
相変わらず、いちごミルクを飲みながらそこに座っていたのは、厳しい音楽科で唯一(生徒含む)頻繁にサボっている教師、桜葉大翔先生だ。
「サボり教師とは失礼な。俺はもう午前中の仕事終わったから、ここで昼飯食べようとしてたんだよ」
「なに心読んじゃってるんですか…」
「ばーか心なんて読めるか。ただお前が明らかにそう思ってそうな顔で俺を見てきてたんだろ」
ジト目の桜葉先生からの視線に、俺の体はギクッと震える。
「なんだ、音居も昼飯か?」
そう聞きながら、桜葉先生は自分が座っているベンチの半分を空けるように横にズレてくれたので、俺はそこに座りながら答える。
「はい。それと、ちょっとクラスメイトの様子を見に」
「クラスメイトの様子?」
「部活動のことで、ちょっと話すそうなんです。俺は部員というわけではないんですけど、少し関わることがあったので気になって…」
「なんの部活だ?」
「スクールアイドル部です」
「……」
そんな会話を交わしながら、俺は昼食用に買ってきたコロッケパンの封を開ける。
「……あー…この間のフェスで新人賞を取って、設立を認められたんだったな」
「俺フェス観に行ったんですけど、ホントもう最高で…!二人ともすごい輝いてて、俺も力がもらえたんです!」
フェスでのクーカーの初ステージを思い出し、つい話に熱がこもってしまう。
「そうか…」
俺の話を聞いた桜葉先生は微笑んで、再びいちごミルクに口をつけた。そんな彼の表情が、どこか哀愁を帯びているように感じたのだが、気のせいだろうか。
「じゃ、俺はそろそろ…」
昼食を終えると、桜葉先生は「よっこらせ」と腰を上げて屋上から去っていった。
そのすぐ後、入れ替わるようにクゥクゥがやってきた。
「アレ?カナトさんだけデスカ?」
屋上にやって来たクゥクゥは、肝心の平安名さんがいないことに疑問符を浮かべている。
「うん、平安名さんはまだ来てないみたい。俺はちょっと様子が気になってきたんだけど…いない方がいい?」
「大丈夫デスヨ!ククはただ、スクールアイドルの厳しさについてガツンとイッテやりたいだけデスノデ!」
エッヘン、と拳を握りしめるクゥクゥを横目に、俺は再びベンチに腰掛ける。
屋上の中心で仁王立ち腕組みして待つクゥクゥの上空には暗雲が垂れ込んでおり、なんだか不穏な空気を感じてしまう。
そんな空模様の中、屋上の扉が開き平安名さんがやってきた。
「オッソイデス!」
「話ってなに?」
「アナタはスクールアイドルを侮辱シマシタ!全スクールアイドルに変わって、ククが罰を与えます!」
「はぁ?だから悪かったって言ってるでしょ」
怒りを訴えるクゥクゥに対し、平安名さんは冷静に答える。
「スクールアイドルがどれだけ真剣にステージに挑んでいると思っているのデスカ!それをスクールアイドルならナントカナルなどと…」
ここまで冷静に聞いていた平安名さんだが、クゥクゥのその一言に顔を顰めた。すると、彼女はとある振り付けを踊り始まる。
「すみれちゃん!」
澁谷さんと千砂都も屋上にやって来て声をかけるが、平安名さんは気にせず踊りを続ける。
それは、クゥクゥが必死に覚え練習したTiny Starsの振り付けだ。
「ショウビジネスの世界を甘く見ないで。これぐらいはできるの…」
すごい…平安名さんは、澁谷さんとクゥクゥが必死に覚えたダンスをサラッと完コピしてみせた。そのことにクゥクゥもショックを受け、悔しそうに拳を握る。
いったいここまでになるのに、どれだけの努力をしたのだろうか。クゥクゥのスクールアイドルに対する想いが強いように、平安名さんのショウビジネスに対する想いもまた、並大抵のものではないと改めて感じた。
「ただそれでもスポットは当たらない…こんなアマチュアな世界でもね」
平安名さんのダンスを見て冷静さを取り戻したクゥクゥではあったが、それでも''アマチュア''という言葉だけには納得できず首を振る。
「アマチュアではないデス!」
その時、上空を覆っていた暗雲からポツポツと雨が降り出した。それにより二人の会話は中断され、平安名さんは屋上から去っていってしまった。
俺も雨を凌ぐために校舎の中に入ると、澁谷さんに声をかけられる。
「奏叶くんも来てたんだね」
「うん。ちょっと気になって…ごめんね、部とは関係ない俺が勝手に見ちゃって…」
「ううん。むしろ、いつも気にかけてくれてありがとう」
俺の謝罪の言葉に、澁谷さんは微笑んでそう答えた。
「どうするの?すみれちゃん」
「気持ちはわかるんだよね…私も歌えなかった時思ってたもん」
─そういう運命なんだって。続けても無駄だって。
続けた澁谷さんのその言葉は、俺の心にも深く突き刺さるものだった。俺も少し前までそうだったから。全てが無駄だと思って、何もかもに無気力になっていた。
「でも、そうじゃなかったんてしょ?」
千砂都の問いに、澁谷さんは小さく頷く。
「じゃあ、伝えないといけないんじゃない?」
千砂都のその言葉に、澁谷さんはハッとする。そして、そんな彼女と視線が交差した俺は、優しく笑って頷いた。
俺が仮面ライダーとして戦えているのは、澁谷さんの歌声に力をもらったからだ。
澁谷さんは知らないかもしれないけど、君は既に同じ境遇の人を一人、前に進ませてくれたんだよ。そんな君の言葉なら、きっと平安名さんにも響く。
「今、一番すみれちゃんを理解してあげられるのは…」
千砂都がそう言葉を綴ると、決意が固まった澁谷さんの瞳は強く輝いた。
─
──
───
「すみれさん、あなたをスカウトに来ました!」
竹下通りの一角にて、澁谷さんは''スカウト''として、平安名さんに手作りの名刺を渡した。それを断ろうとする平安名さんの言葉を遮り、澁谷さんは堂々と言う。
「センターが欲しかったら、奪いに来てよ!!」
普段の澁谷さんからは想像もできない強気な発言。しかし、それが彼女が考えた平安名さんとの向き合い方。ただ優しくしたり、気を遣い合うだけじゃない。ライバルとして競い合いながらも支え合う、そんな仲間の形が、きっと平安名さんには合っているのだろう。
言葉を交わす二人の姿を見て、俺はようやくそう気づいた。
「……いくら出すのよ…?」
しばらくの問答の後、平安名さんがボソッと聞いた。
「いくら出すったら出すのよ!スカウトって言うなら、当然契約金は必要よ」
その言葉にクゥクゥは再びムッと怒りを表すが、澁谷さんはポケットを探りながらサラッと言い切る。
「あるよ」
そう言って彼女が取り出したのは、平安名さんの家の神社のお守り。
「これ、全然効かないわよ?」
お守りを受け取った平安名さんは、自分の背負っているリュックに視線を移す。
そこには、澁谷さんが渡したものと同じお守りが付いていた。
「ワ!おんなじデスネ!」
するとその時、屋上で降り始めてからずっと続いていた雨が、ようやく止んだ。
「でも、まだわからないよ」
澁谷さんの言葉に続いて、4人が空を見上げた。雨が止んだその空では、雲の隙間からキラキラと強い光が差し込んでいた。
「諦めない限り、夢が待っているのは、まだずっと先かもしれないんだから」
もう、大丈夫そうだ。
その様子を少し離れたところの物陰に身を潜めて見ていた俺は、ひとり笑みをこぼしていた。
「っ!?あれは…」
すると、彼女たちの奥の方から異様な気配が近づいてきていることに気がついた。だんだんと鮮明になるその姿は、昨日のヌッラ─知識を奪う能力を持つ、コノシェンザ・ヌッラのものだった。
やっぱり現れたか…
俺が澁谷さんたちの様子を見ていたのは、彼女たちのその後が気になったというのもあるが、それだけじゃない。再び人の知識を奪いに来るであろうコノシェンザ・ヌッラが、普段学生も多いこの竹下通りに現れ、雨で人が少ないために彼女たちが狙われるんじゃないかと予想したのだ。
「よし…今なら誰も見ていないな」
周りの様子を見て誰も自分を見ていないことを確認した俺は、ステレオドライバーを腰に装着し、スターライトエネルジアディスクを装填する。
「変身…!」
『小さな輝きが 今 飛び跳ねる心を
解き放って どんな暗闇だって 照らしていく
この光が 温もりが 力をくれるんだ
逸る気持ちに身を任せて 始まりのスターライト』
俺は星の力を宿した戦士─仮面ライダームジカ スターライトに変身した。
「お前らの知識ィ、いただくぞ…」
「ひっ!?」
「かっ、怪物…」
「ソンナ…」
「何なのったら何なのよ一体…!?」
突如現れたコノシェンザ・ヌッラに驚いた4人は、恐怖のあまり立ち竦んでいる。動けず今にも襲われそうな4人を守るため、俺はスターライトの能力で高速で移動して彼女たちを庇うように立つ。
「あ、あなたは…?」
よく考えれば、ムジカに変身した状態で澁谷さんたちに会うのは初めてであった。初めて見る異形の人物の登場に、全員困惑している。
「またお前かァ!」
「せっかく話がまとまったんだ。み………み…み…」
あれ、なんだっけ。俺、なんて言おうとしたんだ?いつもならすんなり出てくるはずなのに…言葉が、出てこない。
「「「「み?」」」」
「みィ?」
俺が言葉を詰まらせると、澁谷さんたちも、コノシェンザ・ヌッラも不思議そうに首を傾げる。
「み……みぃぃ……ああもうっ!とにかくっ、せっかく話がまとまったんだ邪魔するな!!」
言葉が出てこない自分自身に苛立ち、俺は誤魔化すように早口で捲したてる。
「もしかして、水を差すなって言いたかった…?」
この状況に適している"み"から続く言葉を導き出した千砂都が後ろでボソッと呟いた。
「そうそれ!多分それだ!」
くっそぉ…コノシェンザ・ヌッラに知識さえ奪われなければ、こんな恥かかなかったのに…
仮面の中で顔を赤くして羞恥心に襲われていると、その元凶でもある目の前のヌッラが高笑いする。
「くっははははは!そうだそうだったなァ!お前は俺に知識を奪われ、そんな簡単なことも分からなくなってたんだったよなァ!!」
「その知識を返してもらうためにも、お前を倒しに来たんだよ!」
「やれるもんならやってみろォォ!」
コノシェンザ・ヌッラはそう叫びながら俺の方に迫ってくる。
「さぁ、ライブの開幕だ!」
飛び込んできたヌッラの攻撃を避け、その流れで右足で蹴りを放つ。それを受けたヌッラは体制を崩しかけるが、持ち直して俺に掴みかかってくる。俺はその手を掴み返し、ヌッラへと訴えかける。
「これ以上、誰からも知識を奪わせない!人から奪った知識で得た成功なんて、まやかしにしか過ぎないんだ!」
「お前に何がわかる!高校生の分際で!」
「ああわからないね。俺はアンタが誰なのか知らないし、アンタの気持ちはわからない」
「だったら邪魔するなァァ!!」
喚いて拘束から逃れようとするヌッラだったが、それを制すため俺は突き刺すような鋭い声を発する。
「でもっ!!!!」
「っ!?」
「たとえアンタのことを知っていたとしても、どんな理由があったとしても、関係のない人を苦しめる気持ちだけは絶対にわからない!!!」
「っ…もう俺には後がないんだ…!次の大学受験で合格しなければ、俺は…」
震えた声のその言葉は、強い苦しみと後悔を含んだ悲痛な叫びに聞こえた。
この人にも何か抱えているものがある。恐らく、今の発言やヌッラの能力から、それが大学受験に合格することなのはわかった。まだ大学受験を経験していない俺にとって、それがどれほどの難易度で、どれほどプレッシャーがかかっていることなのかはわからない。
だからといって、自分の成功のために他の人を苦しめるなんて、見過ごすわけにはいかない…!
「他の人から奪った知識で得た成功なんて意味がない!自分で努力して掴むからこそ、意味があるんだ!!」
平安名さんが、ショウビジネスの世界で生き残るために、幼い頃から必死に重ねてきた努力。歌にもダンスにも、他にもいろいろなことに挑戦し続けてきたのだろう。
必死に努力して、何度も何度も挑戦して、それでも目標に手が届かず燻っていた彼女だったが、決して折れず、努力を怠ることはなかった。そんな彼女なら、きっとこの先その努力が実を結ぶ未来が待っているはずだ。
でも、失敗に折れて人に危害を加える彼には、今のままでは本当の意味での成功は訪れない。
「このままじゃ、アンタはいつか絶対に後悔する…!」
「くゥっ…黙れ黙れ黙れェェェ!!!」
叫んだヌッラが再び暴れ出そうとした時、俺はムジカ スターライトの能力の一つである眩い光を放った。すると、それにより視界を奪われたことに怯んだヌッラの動きが止まる。
『スラッシュ・フォルテッシモ』
「はぁっ!」
その隙をつき、取り出したエフェクティングソードでコノシェンザ・ヌッラに斬撃を放つ。
『セット・エフェクティングソード』
更に、俺はエフェクティングソードをステレオドライバーに繋げて身体強化ボタンを押す。
すると、ハープとウィンドチャイムで奏でられた幻想的な音色が流れ出し、スターライトの持ち味であるスピード力がより増していくのを感じる。
「これで決める」
ステレオドライバーの必殺技ボタンを押して、俺は上空へと飛び上がる。
『ムジカ・スターライト フィーネ』
俺は、コノシェンザ・ヌッラに向かって一気に下降していく。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
─ムジカ・スターライト フィーネ《
眩い光を全身から発しながら、まるで流れ星が降るかの如く高速で下降した俺は、エネルギーを充填した右足で強力なキックを放った。
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
それにより、コノシェンザ・ヌッラの胸部に埋め込まれたレタルジアディスクを分離破壊することに成功した。
「ふぅ…」
無事に決着がつき安堵した俺は、息を吐いて澁谷さんたちがいた方に振り返る。
そこには、安心したように微笑んでいる澁谷さんと平安名さん、「ワァ…!」とパチパチ拍手をしているクゥクゥ、そしてまだ驚いているのか少し放心状態の千砂都がいた。
「もう大丈夫、安心して」
「助けていただき、ありがとうございました!」
俺が声をかけると、澁谷さんから、そしてそれに続くように他の3人からも感謝の言葉を受けた。
本当によかった…みんな無事で。
安堵した俺は、仮面の下でそっと微笑んでいた。
「さ、とはいえもう暗くなる頃だよ。そろそろ帰った方がいい」
俺が促すと、4人は改めて俺に一言感謝を述べてから帰路に着いていった。
「うっ…」
すると、レタルジアディスクを破壊されたことにより人間に戻り、倒れていた青年が意識を取り戻したようで、息が漏れる音が聞こえた。
彼にはもう変身前の姿を見られている上、この後はプロテクションの人たちに連行されるため姿を見られても問題はないだろう。そう考え、変身解除した俺は彼の前でしゃがんで声をかける。
「人々を襲い危険に晒す。あなたがやったことは、決して許されることではありません」
「……」
「けど、あなたのあの勉強への熱意は本物だと思います。罪を償ったら、きっとまた新しい道に進むことができるはずですよ」
俺はそう言って、彼にそっと手を差し伸べる。後悔したように目を伏せていた彼だったが、しばらくして顔を上げると、俺の手を取って立ち上がった。
「あぁ。ありがとう、止めてくれて」
その彼の表情は、憑き物が落ちたように瞳に輝きが芽生えていた。
きっと、彼はもう大丈夫だろう…
そう思い、俺はそっと微笑んだ。
「奏叶くんごめん!遅くなった!」
すると、息を荒らげた狼谷さんが大慌てで走ってきた。
「いえ。それじゃあ、彼のことお願いします」
「はい!任されました!」
俺は彼と割れたレタルジアディスクを狼谷さんに託し、コノシェンザ・ヌッラが引き起こした一連の事件は、無事に解決したのであった。
梅雨が明け、この間までの雨続きの日々が嘘かのように、空は青く晴れ渡っていた。廊下の窓から差し込む強い日差しと、外から聞こえてくるセミの声を耳にして、夏の到来を予感していた。
そんな時、屋上へ続く階段に向かう平安名さんを目にしたので、俺は近づいて声をかける。
「平安名さん、今から練習?」
俺の声に気づいた彼女は、振り返って答える。
「えぇ、そうよ」
「そっか、頑張ってね」
平安名さんは俺の言葉に頷くと、俺との距離が一メートルほどになるところまで近づいて顔を覗き込んでくる。
「っていうか、アナタは練習行かないの?」
「えっ?」
話の流れから、それがスクールアイドルの練習のことだとはすぐに気づいた。でも、彼女はどうしてそう思ったのだろうかと、俺はこれまでの彼女との関わりを思い返してみる。
そういえば、平安名さんが澁谷さんたちと話している時はだいたい一緒にいたから、俺も一員だと思われているのか…
「あ、俺は別に部活に参加しているっていうわけじゃないんだ。今回はたまたま、関わることが多かったってだけで…」
「そうだったの?私はてっきり、マネージャーか何かをしてるんだと思ってたわ」
「いやいや、俺にできることなんてそんなにないから務まんないよ」
「そう?加入したばっかりの私にはよくわからないけど、個人的にはアナタがいたら心強いと思うけど」
その言葉に、俺は目を丸くする。
まさか彼女が、そんなふうに言ってくれるなんて…
「じゃ、私はそろそろ行くわ」
そう言って屋上へと続く階段を上がろうとした平安名さんだったが、何かを思い立ったのか再び俺の方に振り返る。
「また明日ね、奏叶」
「……練習頑張って、すみれ」
「えぇ!」
ニコッと華麗な笑みを浮かべると、すみれは屋上へ続く階段を駆け上がっていった。
それからしばらく、俺は窓の外を眺めながらなんとなくこの場に佇んでいた。すると、屋上から楽しそうに練習を始める彼女たちの声が聞こえてくる。
「さぁ、始めるわよ!」
「すみれちゃん!」
「今日から私が教えてあげる。本物の、ショウビジネスの世界を!」
練習を先導するように声をかける新加入したすみれと、そんな彼女に和やかな声をかける澁谷さん、クゥクゥ、千砂都。
「ギャラクシー!!!」
紆余曲折を経て、心強いメンバーが加入した彼女たちはまた一段とレベルアップするだろう。屋上から漏れ聞こえる彼女たちの溌剌な声を聞き、俺はひとりそう感じていた。
「雨降って地固まる、だな…」
──次回『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』
「ふふん!ショウビジネスの世界で生きてきた私にとって、このぐらい朝飯前よ!」
新たに結ヶ丘スクールアイドルに加わった平安名すみれ。彼女とかのん、可可、千砂都、恋、そして奏叶…それぞれが日常を送り仲を深めていく中、かのんの中にはとある悩みが生まれていた。
「奏叶くんってさ…私だけ、"澁谷さん"呼びなんだよね」
そんな悩みの種は、二人を新たな道へと導くことになる。
「君を、必ず手に入れてみせるよ。音居奏叶くん」
『#13 夏色プロローグ』
─────
【オリジナルアイテム紹介】
《ステレオドライバー》
音居奏叶が仮面ライダームジカへ変身するために使用する変身ベルト。
ベルト天面の"変身ボタン"を押し、展開したディスクトレイに各種エネルジアディスクを装填。変身ボタンを再び押してディスクを格納することで、使用者の内に秘められた音楽の力を引き出し、"仮面ライダー"に変身させる。
装填したエネルジアディスクに記録された音楽を左右のスピーカーから再生し、その旋律によって使用者の力を増幅させる。
スピーカー側面には左右それぞれ二基の接続用ジャックを備え、接続した武器へエネルジアディスクの力を供給できるほか、武器側のエネルギーをステレオドライバーを介して変身者へ還元し、更なる能力強化を可能としている。
─デザイン─
"コンポーネントステレオ"をモチーフとした変身ベルト。マットブラックを基調としたベースプレートを、シャープなシルバーの金属フレームが包み込む近未来的なデザインとなっている。
バックル中央部の"ディスク・コアデッキ"には、エネルジアディスクを装填する"ディスクトレイ"を配置し、その左右には音響機器を思わせる"レベルインジケーター"を備える。
左右のユニットには、高級ヘッドホンを彷彿とさせる円形スピーカーを内蔵し、メタリックなリングがスタイリッシュな印象を演出。スピーカー側面には武器等の接続用ジャックを備え、ベルト帯には武器を装着するための薄型ホルダーを左右一基ずつ配置している。
─────
『#12 雨降って地固まる』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!
そして、しばらく更新が途絶えてしまい本当に申し訳ございません。
とりあえず消えてしまったデータの復旧も終わったので、本日からまた投稿を再開したいと思います。ただ、実生活のスケジュール上、以前よりは少し投稿ペースが落ちてしまうと思います。重ねて、申し訳ございません。
それでは、今回も準備でき次第、活動報告の方で#12について少し話そうと思っています。そちらもよかったら遊びに来てください!
お気に入り登録や感想、評価等いただけると大変励みになります。
もしよろしければ、よろしくお願いします!
次回『#13 夏色プロローグ』は、7月21日20時に投稿予定です。
次回もお楽しみに!