─登場人物─
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、仮面ライダームジカの変身者。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
人前では緊張して歌えないという悩みを抱えていたが、可可の想いに触発されて共にスクールアイドルを始めた。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
スクールアイドルに憧れて上海からやって来た。好きなものへの情熱は人一倍強い。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生。
かのんの幼馴染であり、丸いものが大好き。ダンスが得意で、結ヶ丘では音楽科に所属する。また、スクールアイドルを始めた二人にダンスを教えている。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
幼い頃からショウビジネスの世界で活動してきた。表には見せないが努力家であり、ショウビジネスの世界で培ってきた様々なことを器用にこなす。
【
プロテクションの長官補佐。
長官の補佐以外にも、奏叶の戦いのサポートも主な仕事である。
【
プロテクションに所属する新人隊員。
明るくハツラツとした性格だが、何かとおっちょこちょいなため仕事でのミスが多い。
季節はすっかり夏になり、教室の窓からは強い日差しが差し込んでくるようになった。
現在は金曜日の6時間目。外で鳴り響くセミの鳴き声をBGMに、今週最後の授業が行われている。その上夏休みも間近ということもあり、クラスメイトたちは皆浮き足立っている様子だ。
「はい、正解。流石は音居くんね」
今行われているのは英語の授業。黒板に板書された単語の穴埋め問題を解いた俺は、先生の言葉に軽い会釈を返し自分の席に戻っていく。
「奏叶くん、調子戻ったみたいでよかったね」
先生が問題について解説を始める中、隣の席の澁谷さんがコソッと声をかけてきた。
俺はつい先日、コノシェンザ・ヌッラの能力を受けたことにより勉学に関する知識を奪われた。その時の様子を知っている澁谷さんは、俺がいつも通りの調子に戻ったことに安心している様子だ。
「いやほんと、あの時はいろいろあって…」
俺が苦笑しながら答えると、澁谷さんはふと何かを思い出し再び小声で話し出す。
「あ、それってもしかして…」
しかし、その言葉の続きは遮られることになる。
「こら!澁谷さん音居くん。授業中ですよ?」
先生の口から飛んできたお叱りの言葉に、反射的に体をビクッと震わせた俺たちは、身を縮こまらせる。
「「す、すみませーん…」」
〜〜〜〜〜
─放課後─
「全く、なにやってるのよ」
練習のためスクールアイドル同好会の部室に向かっている私─澁谷かのんは、その道中すみれちゃんと談笑していた。ちなみに、同じくクラスメイトで同好会のメンバーであるクゥクゥちゃんは、今日は日直の仕事があり後から向かうそうだ。
さっきの授業での一件について、すみれちゃんは片手を腰に置き呆れた視線を向けてくる。
「あはは…なんだか奏叶くんとは、ついつい話し込んじゃうんだよね。隣の席だからかな?」
思い返してみれば、部の練習を一緒にしているちぃちゃんやクゥクゥちゃん、すみれちゃん以外では、奏叶くんと話すことが一番多いかもしれない。隣の席ということもあってか、授業のことやスクールアイドルのこと、それとは関係のないただの雑談まで、最近の私は気づけば奏叶くんに話しかけている。
入学式の日、ちぃちゃんと一緒にいた奏叶くんに偶然出会った。そして、たまたまクラスメイトになり、たまたま隣の席になった。そんな偶然の重なりから、最初からクラスの中でもよく話していたけど…より話すようになったのは、やっぱりあの時からかな…
『だから、大丈夫。頑張れ、かのん』
代々木スクールアイドルフェス前日。スクールアイドルとしての初めてのステージに緊張と不安でどうしようもなくなっていた私を、奏叶くんが励ましてくれた時…
あの奏叶くんの言葉からは、とても勇気をもらった。温かくて心強い、今でも私の胸の中に強く残り続けている。作曲や練習の際など、時折思い出しては力をもらっている大切な言葉なんだ。
「っと…ちょっと、かのん?」
考え事に没頭していて、すみれちゃんから声をかけられていることに気がついていなかったようだ。
「うぇっ!?」
「なに急に?ニヤニヤして」
「えっ!?」
うそ!?私、いつの間にかそんな顔してたのぉ…恥ずかしいなぁもう…
「にっ、ニヤニヤなんてしてないよー…」
焦った私は、恥ずかしさを誤魔化すようにそう苦笑するしかなかった。
「そっ、それで、なんて言ったの?」
「全く…別に隣の席だからって、特別話すとは限らないでしょって言ったのよ。私は隣の席の子とはほとんど話してないし」
「そうなのかなー…なんだか、奏叶くんと話してると落ち着くんだよね。波長が合うっていうのかな?」
私が奏叶くんとの会話を思い出して言うと、すみれちゃんがパチリと瞬きしてその瞳が私を映す。そして、ギリギリ聞こえるぐらいの声量で、意味ありげに呟く。
「波長が合う、ねぇ…」
「え?」
「別に。なんでもないわ」
「えー、何かあるでしょ?」
なんでもないと言われても、一度意味ありげに放たれた言葉はどうしても気になってしまう。私が言った"波長が合う"という言葉が、すみれちゃんの中ではどこか引っかかったみたいだ。私はその意味を、彼女との距離を少し詰めて聞き出そうする。
「なんでもないったらなんでもないわよ。ま、仲がいいみたいでよかったわ」
「すみれちゃんだって、最近奏叶くんと仲いいじゃん」
先日の一件を経て、私たち部のメンバー同士だけではなく、奏叶くんとすみれちゃんの仲もかなり深まった。私は今日の昼休み、教室での二人の様子を思い出していた。
───
──
─
「ちょっと奏叶、お昼またパンなの?」
昼休みになり、惣菜パンを持って教室を出ようと近くを通りかかった奏叶くんに、すみれちゃんが話しかけていた。奏叶くんのお昼ご飯はいつもコンビニで買ったもので、7割がパン、3割がおにぎりぐらいの頻度だ。
「うん。美味しいし、ちゃっと食べられるからつい買っちゃうんだよね」
「お昼そればっかりだと、体に悪いわよ?」
「わかってはいるんだけど、一人暮らしだとどうしてもね…」
頭をかきながら苦笑して答えた奏叶くんは、ふとすみれちゃんの机の上に置いてあるお弁当に目を向ける。
「すみれはいっつも美味しそうな弁当だね」
【そう?今日はあんまり時間なかったから、簡単な物ばかりだけど」
「え!?自分で作ってるの?」
サラッと言ったすみれちゃんに驚いて、奏叶くんは再びお弁当に視線を移す。ちなみに、自分の席でその話を聞いていた私も驚いていた。
「えぇ。うち神社だから、親は朝忙しいのよ。だから妹の分とまとめてお弁当は私が作ってるの」
「俺料理はからっきしだからなぁ…すごいね」
奏叶くんが感心していると、すみれちゃんはドヤ顔で笑う。
「ふふん!ショウビジネスの世界で生きてきた私にとって、このぐらい朝飯前よ!」
ショウビジネスすご。
─
──
───
あれ?そういえば…
奏叶くんとすみれちゃんの様子を回想していると、ふと疑問に思ったことがある。そんな私の頭の中に、今度は今朝の奏叶くんとクゥクゥちゃんの様子が思い浮かぶ。
『カナトさん、オハヨウゴザイマス!』
『おはよう、クゥクゥ』
そして次は昼休み、たまたま奏叶くんとちぃちゃんが廊下ですれ違った時。
『あ、奏叶くんうぃっすー!』
『千砂都、うぃっす!』
最後に、帰り際に私と奏叶くんが話した時。
『奏叶くん、また明日ね!』
『うん、澁谷さんまた明日』
あれ…?私だけ、澁谷さん…?
ちぃちゃんやクゥクゥちゃん、すみれちゃんが名前呼びになってるのに対して、私だけは今も苗字呼びのままだ。
『だから、大丈夫。頑張れ、かのん』
奏叶くんが私のことを名前で呼んでくれたのは、私を励ましてくれたこの時だけ。他の3人は気づけば名前呼びに変わっていたのに、どうして私だけ…
「かのん、どうしたのよ?またぼーっとして」
「えっ、あ、ごめん」
「さっきはニヤニヤしてたかと思えば、今度は難しい顔して…今日は随分と表情が忙しいわね」
一人考え込み表情をコロコロと変える私に対し、すみれちゃんは怪訝な視線を向けてくる。
「奏叶くんってさ…私だけ、"澁谷さん"呼びなんだよね」
「え?」
私の言葉に、すみれちゃんは目を丸くした。
「だって、すみれちゃんもちぃちゃんもクゥクゥちゃんも、みんな奏叶くんと名前で呼び合ってるでしょ?」
「そうね。私もこの間から、奏叶って呼ぶようになったわ」
「なのに私だけ、いつまでも澁谷さんなんだよ!?」
「神妙な面持ちで何を言い出すかと思えば、そんなこと気にしてたの?」
すみれちゃんは再び呆れたように息を吐いた。
「だってぇ…」
返す言葉もなくそう肩を落とすと、突如そんな私の肩に手が置かれた。
「何の話してるのー?」
「あ、ちぃちゃん!」
ひょっこりと現れたのは、私の幼馴染であり、今は私たちスクールアイドルのダンスコーチをしてくれているちぃちゃんこと嵐千砂都ちゃん。
「かのんがね、自分だけ奏叶に名前で呼ばれてないって拗ねてるのよ」
「ちょっ、すみれちゃん!?べっ、別に拗ねてるわけじゃないよ?ただ、ちょっと気になるかなってだけで…」
「うーん…そういえば奏叶くんって、かのんちゃんのことは今も澁谷さんって呼んでるのか」
そのことに私が思わず俯いてしまうと、ちぃちゃんが私の顔を覗き込み、優しく微笑んで言う。
「でも、それはかのんちゃんのことが嫌だとかそういうのじゃ絶対ないよ。かのんちゃんと話してる時の奏叶くん、すっごく楽しそうだもん!」
ちぃちゃんの言葉に励まされた私は、明るさを取り戻した表情で頷く。
「そんなに気になるなら、本人に直接聞いてみればいいんじゃない?」
すると、すみれちゃんがあっけらかんといった様子で思い切った提案をしてきた。
「えぇ!?直接!?」
「奏叶って話してみると人懐っこくてすぐ仲良くなれるタイプだけど、意外と自分から人と関わりに行くことは少ないでしょ?」
「確かに…」
すみれちゃんに言われて気づいた。
彼女が言うように、奏叶くんは優しくて柔らかい雰囲気があるから接しやすいけど、自分から人に接しにいくことは少ない。私とちぃちゃん、すみれちゃん、クゥクゥちゃんとは、休み時間に他愛もない会話をしたり、昼食を一緒に食べたりしているが、他の人とそんなふうに仲良くしているのは見たことがないぐらいだし…
「そんな相手には、直接聞いてみるのが一番よ」
「そう言われても、私だって同じようなタイプだし…」
「全くもう…この間私をスカウトした時の威勢はどこに行ったのよ」
すみれちゃんに呆れ顔で言われると、返す言葉もなく私は肩をすくめるしかなかった。
「すみれちゃんの提案、私はいいと思うよ?」
「うぇっ!?ちぃちゃんまで…」
「奏叶くんが私のことを名前で呼び始めたのも、私が名前で呼んでって言ってからだし」
「そうだったんだ…」
ちぃちゃんは私よりも先に奏叶くんと出会っている。私が奏叶くんと知り合った頃には既に二人は親しげに名前で呼び合っており、どんな経緯でそんな関係に至ったのか聞いたことはなかった。
「あ、そうだかのんちゃん。映画の件、すみれちゃんに話した?」
「聞いたわよ」
ちぃちゃんは唐突に別の話題を思い出したようで、それに対して私の代わりにすみれちゃんが答える。
「映画のチケットが余ってるって話でしょ?昼休みに聞いたけど、明日は
先日、妹のありあが抽選で映画のペアチケットを当てた。しかし、その映画は既に鑑賞済みだったらしくほったらかしにしていたところ、その映画の公開が明日までになっていたらしい。そこで、このまま使わないのももったいないからと、そのチケットを私にくれたのだ。丁度明日は土曜日で練習も休みなので、今朝からちぃちゃん、クゥクゥちゃん、すみれちゃんの3人に一緒に行かないか聞いてみたけど、それぞれ予定があり行けないとのこと。
全く、ありあも公開終わっちゃう直前に言ってこないでよぉ…
しょうがないから一人で行っても良いけど、せっかくのペアチケットだし、行けるなら誰かと行きたいところなんだけど…
「ならかのんちゃん、奏叶くん誘ってみれば?」
「そうね。それで帰りにでもさっきの話、してきたらいいじゃない」
「え!?いや、でもそんな急に誘うのは…」
ちぃちゃんとすみれちゃんの提案に、私は両手の人差し指を合わせてモジモジと戸惑う。
「なによ。別に私たちと同じように聞けばいいだけでしょ?友達なんだから」
「う、うん…」
「あーもうっ、焦れったいったら焦れったいわね」
ヤキモキとした様子のすみれちゃんは、自身のスマホを取り出し誰かに電話をかけ始める。
「あ、もしもし?……ちょっと、かのんが話したいことがあるって…」
数コールで電話が繋がると、すみれちゃんは電話先の人にそう言い、スマホを私の方に差し出してくる。あまりにも唐突な行動に、私はつい反射的にスマホを受け取ってしまった。
「奏叶よ」
「えっ、えぇ!?わっ!おっとと…」
電話の相手が奏叶くんだと言われ、驚きと焦りのあまりついスマホを落としそうになりながらもなんとか持ちこたえる。
「ふぅ…」
確かにすみれちゃんの言う通り、いつまでもうじうじ悩んでいてもしょうがない。私は深呼吸して意を決し、スマホを耳に当て話し出すのであった。
「奏叶くん…?」
〜〜〜〜〜
「恐らく、この一連の行方不明事件はヌッラの仕業だと思われます」
近頃、ヌッラが引き起こしたと思われる事件が勃発している。その詳細を聞くため、俺─音居奏叶はプロテクションベースにやって来ていた。
「なるほど…」
鼓野さんからの説明を聞いた俺は、もらった資料に目を通す。
ここ数日、この辺りで恋人同士の若い男女が行方不明になる事件が相次いでいる。いなくなった男女は計7組。
その7件とも、人間二人をなんの痕跡もなく連れ去っている上、行方不明となった人たちが最後に確認された場所でヌッラの残留反応が確認されたことから、この一連の事件はヌッラが起こしたと見て間違いないだろうとのこと。
「また事件が起こったとしても、既に被害者が連れ去られたあとだと探しようがないですね…」
「えぇ。ただ、どの事件現場も防犯カメラがない場所で起こっています。そのことから推測するに、ヌッラ自身も姿を現さないと連れ去ることができないのではないでしょうか」
ヌッラになった状態で何らかの形でその男女に接触しないといけない、ということか。それなら、まだ見つけられる可能性はありそうだな。
「何か新たな情報が入り次第、またご連絡しますね」
「わかりました」
ひとまず現段階でわかっている事件についての概要は確認し終えたため、また何かわかったら連絡をもらうことになり、今日のところの話は終わった。
「ん?すみれからか」
すると、俺のプロテクフォンにすみれからの着信が入った。
「すみません。ちょっと電話に出てもいいですか?」
「えぇ、どうぞ」
俺は隣にいる鼓野さんに一言断りを入れ、部屋の隅の壁際まで移動してから電話に出る。
『あ、もしもし?』
「すみれ、どうしたの?」
『ちょっと、かのんが話したいことがあるって…』
「澁谷さんが…?うん、わかった」
あれ?だったら、澁谷さんが直接かけてきたらよかったのに…
すみれだけでなく、澁谷さんともメッセージアプリの連絡先の交換はしている。そのため澁谷さん本人から直接電話もかけられるはずなのだが、何故すみれが代わりにかけてきたのだろうか。
なんて疑問に思っている内に、スマホを受け取った澁谷さんから声がかかる。
『奏叶くん…?』
「うん。どうしたの?」
電話越しに聞こえる澁谷さんの声からは、心なしか少し緊張感が伝わってきて、どこか強張った様子に感じる。
『あのね…』
いつもの雰囲気と違い、あまりに固い様子の澁谷さんに、俺も思わず固唾を飲む。
え、なになに…俺なんかしたっけ…?
なんか急に怖くなってきた…
『急なんだけど…』
きゅっ、急…?急なんだけど友達やめよ、とか言われるの俺!?
直接じゃなくてすみれから電話をかけてきたのも、俺の連絡先なんてもう消してしまったということなのか!?
えいやだ!そんな…せっかく澁谷さんと仲良くなれたのに…
『明日、時間あるかな…?』
「へ…?」
てっきりマイナスな事が待ち受けているのかと思ってしまった俺は、予想だにしない言葉に間抜けな声を出してしまう。
『実は妹から映画のペアチケットもらって、その映画が今度の土曜日までなんだけど…もしよかったら、一緒に行かな「行く!」え?』
友達解消ではなく、むしろ遊びの誘いだったことに安堵した俺は、喜びのあまり澁谷さんの言葉を聞き切る前に返事してしまった。
『よ、よかったぁ…』
「え?」
『あ…いや、その…もし嫌だったらどうしようって思ってたから、私と映画行くの』
「嫌なわけないよ。大事な友達からの誘いなんだから」
『だっ…!?そっか……ともだち、友達…えへへっ…』
すると、突然澁谷さんの声がスピーカーから遠くなり、ハッキリと聞き取れなくなる。
「澁谷さん?もしもーし」
『ハッ…!ごっ、ごめん奏叶くん!詳しい話はまたメッセージで送るね!』
「う、うん…」
『じゃあまた明日!』
「映画、楽しみにし…ってもう切れてるし…」
ウキウキとした様子の澁谷さんに俺も言葉を返そうとしたのだが、言い切る前に既に電話は切られていた。
不安そうだったり、照れたり、嬉しそうだったり…なんか今日の澁谷さん、嵐みたいだったな…
「ん?」
いつもと様子の違う澁谷さんに疑問を抱きつつ俺が顔を上げると、こちらをコソコソと見る人物二人と目が合った。そのうちの一人は目が合うと咄嗟に隠れ、もう一人は俺へと近づいてくる。
「ねえねえ奏叶くん!今のって、もしかして彼女!?」
俺の電話を盗み聞きしていた一人、狼谷さんが興味津々に興奮した様子で、まるで犬かの如くずいっと顔を寄せてきながらキャンキャンと聞いてくる。
「ちっ、違いますよ!学校の友達です」
「え、でも映画行こうって言ってたよね?」
「はっ、はい…」
「いつ行くの?」
「あっ、明日…」
「二人?」
段々と壁際に追い詰められながらあまりの勢いで飛んでくる質問攻めに、俺はコクコクと頷くことしかできない。
「デートじゃん!」
「ちっ、違いますよ!」
全くこの人は…この間までの落ち込みようはどこに行ったんだ。
先日ここに訪れた際の彼は、自分のデスクにちょこんと座り、
『ごめんなさい。ぼくは役立たずです、ごめんなさい』
などとひどく落ち込んだ様子でブツブツと言っていた。
その理由は、先日の知識を奪う能力を持つコノシェンザ・ヌッラとの戦いにて、事件の担当だったのにも関わらずなんの役にも立てなかったと気にしていたらしい。それどころか、自分のせいで奏叶くんがヌッラの能力を受けてしまった、とかなりの落ち込みようだった。
ま、おっちょこちょいでポンコツで、人との距離感バグってる人ではあるが、まっすぐで純粋ないい人なんだよな。
「うひゃあ!?」
すると、突然背後から首根っこを掴まれた狼谷さんは、そのまま宙に浮かび身動きが取れなくなる。
「こら狼谷くん!プライベートをそんなズカズカと…」
彼を持ち上げた張本人であり、俺を盗み見ていたもう一人の人物でもある鼓野さんが、彼に忠告の言葉をかける。
それにしても、成人男性を持ち上げる鼓野さんのパワーっていったい…
「えー!?そんなこと言いながら、鼓野さんだって奏叶くんの電話こっそり聞いていたじゃないですか!」
そう言い返された鼓野さんは、ギクッと固まり言葉を詰まらせる。
それにしても意外だな。鼓野さん、そういう色恋の話とか興味なさそうなイメージだった。まあ、俺はまだ仕事上での鼓野さんしか知らないもんな…
「とにかくっ!我々はあくまで、奏叶くんに協力してもらっているのですから、プライベートにまで介入するなんて以ての外!!」
なんて注意しつつもまだ顔が赤い鼓野さんは、狼谷さんの首根っこを掴んだまま、元いたデスクの方まで戻っていった。
それにしても、プロテクションの人たちは俺にかなり気を遣ってくれていると感じる。実際、俺はプロテクションに入隊しているわけでもなければ、ただの高校生だ。仮面ライダームジカに変身できるのが俺だけだから、まだ高校生でも危険を冒して戦ってもらっている。そんな認識なんだろうけど…
戦うって決めたのは俺自身だし、俺にも自分の歌を取り戻すっていう目的がある。だからそこまで気を遣わず、もっとフランクに接してほしいんだけどなぁ…
なんて、俺はほんの少しの寂しさを抱いていた。
〜〜〜〜〜
「ふふっ…」
私─嵐千砂都は、目の前で有頂天になっている幼なじみのかのんちゃんを見て、つい笑みをこぼしていた。
「良かったね!かのんちゃん」
「うん!」
私の言葉に、かのんちゃんは満面の笑みで返す。彼女がこんなに喜んでいるのは言うまでもなく、奏叶くんと映画に行けることになったからだ。
「よーしっ!そうと決まれば…今日も練習、頑張るぞー!」
そう気合いを入れ拳を突き上げたかのんちゃんは、一人部室へと駆けていった。
「全く、調子いいんだから……ねぇ、千砂都」
そんなかのんちゃんに苦笑したすみれちゃんだったが、少し何かを考える素振りを見せた後、隣にいる私に声をかけてきた。
「どうしたの?」
「かのんの奏叶に対するあの感じって、本当に友達への感情だと思う?」
「ん?どういう意味?」
すみれちゃんの発言の意図がイマイチ読み取れず、私はつい聞き返してしまう。
「だから、その…かのんが、奏叶に友達以上の感情を抱いているんじゃないかってことよ」
「友達以上って、親友ってこと?」
確かに、入学してから…もっと言えば代々木スクールフェスを終えた辺りから、かのんちゃんと奏叶くんの距離はより近くなったように感じる。そんな二人なら、もう親友と言ってもいいだろう。
私はそう思いすみれちゃんに聞いたのだが、彼女の意図は違ったようで首を横に振られた。
「違うわよ。親友とかじゃなくて、その…恋愛感情があるんじゃないか、ってこと」
「えぇ!?れんあっ…むぐっ…」
驚きのあまりつい大声を出してしまった私の口を、すみれちゃんは咄嗟に塞いだ。
「シーっ!かのんに聞こえちゃうでしょ」
それに対し私がコクコクと頷くと、すみれちゃんはゆっくり私の口から手を離す。
「ぷはぁっ…恋愛感情は、ないんじゃないかな…?それに二人って仲はいいけど、そんな特別な出来事ってまだないと思うよ」
二人で出かけるのだって、明日の映画が初めてなわけだし。
「別に特別な出来事なんて関係ないでしょ?」
「え?でも恋愛って…」
「別に特別なことなんて必要ないわよ。話してて楽しいとか、一緒にいて居心地がいいとか、高校生の好きになる基準なんてそんなものだと思うけど」
なるほど…
すみれちゃんの説明を聞き、私は納得した。それに、確かにその基準だと、普段よく話しているかのんちゃんと奏叶くんに当てはまっている。
それにしても、かのんちゃんやクゥクゥちゃんといると何かといじられキャラだけど、すみれちゃんは時折こうして達観した発言をすることがある。幼い頃から特別な経験を積んできたからこその発言なのだろう。
「逆に私たちの年齢でピンチを救われるだとか、そんなドラマみたいな展開になってみなさい。それこそ、一生忘れられないような大恋愛になっちゃうわよ」
「あはは…」
それにしても、かのんちゃんが誰かを好きになるなんてあんまり想像がつかない。出会ってから、かのんちゃんのことはずっと近くで見てきた。しかし、かのんちゃんが誰かのことを好きになったとか、気になっている人がいるなんて聞いたことがない。
そもそも、かのんちゃんは今まで男の子との関わりが少なかったからなぁ。ま、それは私もだけど…
そんなかのんちゃんにとって、奏叶くんはピッタリな相手なのかもしれない。奏叶くんは真っ直ぐで、人のことを考える優しさを持っている素敵な人だ。
「そっか…かのんちゃんが…」
私たちももう高校生。想像はつかないけど、かのんちゃんにもついに春が訪れるのかもしれないなぁ…なんて、一人しみじみ感じる私なのであった。
〜〜〜〜〜
─幹部の間─
某所にあるピリオドのアジトの一室、幹部の間。
その部屋の奥に位置する玉座に座る白いローブを見に纏った男、マエストロ。彼の隣に立つ白髪の執事服の男、エントラージュ。
「ジェッターレ、ソリッゾ、コノシェンザ…立て続けに3体ものヌッラが、仮面ライダームジカに倒されてしまったようだね」
「申し訳ございません。ですが、今暗躍しているヌッラは、もう既に自身の能力で14人もの人間を取り込んでおります。このままいけば、進化するのも時間の問題かと…」
「ふむ…それは喜ばしいことだね」
誕生したヌッラが次々に仮面ライダームジカに倒されている現状に苦言を呈したマエストロだったが、エントラージュの言葉を聞き、ほんの少しだけ笑みを浮かべる。
「それより、ヌッラを倒し回っているプロテクションの戦士、仮面ライダームジカの正体は掴めたのかい?」
「はい。それが、私も驚いたのですが……彼のようです」
エントラージュは懐から取り出した一枚の写真をマエストロに渡す。
そこに写るのは、結ヶ丘高等学校の制服を着た音居奏叶。
「っ…!」
写真の中の奏叶を見たマエストロは、フードに隠れた瞳を大きく見開くと同時に息を飲んだ。これまで飄々と余裕のある態度だった彼が、初めて大きな動揺を見せたのだ。
「まさか…彼が…」
しばらくの間驚きに浸っていたマエストロだったが、次第にその肩を震わせる。そして小さな笑い声を溢したかと思うと、フードに隠れた目を大きく開いて盛大に笑った。
「ハハッ…ハハハハッ…ハハハハハハハハハハハハァァァ!!!!!!!」
高揚、興奮、まるでクリスマスプレゼントをもらった子供のように無邪気で、それでいて獲物を定めた狩人かのように狂気染みた笑い。
そして、立ち上がったマエストロは、懐から取り出した漆黒の小箱を徐に撫でた。
「神は私に味方してくれているのか…それとも、私に試練を与えているのか…エントラージュ」
「はい」
「私は益々、彼を手に入れたくなったよ」
「あなた様の願いでしたら、このエントラージュ、精一杯尽力いたします」
丁寧なお辞儀を見せたエントラージュに、マエストロは満足げに頷く。
「しかし、その前に彼の力がどれほどのものなのか、試してみたくなったね…欲を言えば、仮面ライダームジカとしてではなく、彼自身の力を…」
「それでしたら、先ほど申し上げたヌッラが丁度いいかもしれません。情報によれば、音居奏叶は明日、友人の女性と出かけるそうです。その状況は、今動いているヌッラにとって絶好のタイミングです」
「そうかそうか。じゃあ、見せてもらうとしよう。彼自身の力が、どれほどのものかを…」
再び玉座にどっしりと腰を下ろしたマエストロは、不敵に笑い呟く。
「君を、必ず手に入れてみせるよ。音居奏叶くん」
──次回『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』
「ごめん!待った…?」
とある夏の日、映画を観に行くことになった奏叶とかのん。
デートとも言える休日を満喫していた二人に、魔の手が忍び寄っていた…
「お兄さんコソコソ着いてきてたよね?何の用?」
今、奏叶とかのんに、過酷な試練が襲いかかる。
「奏叶くんと一緒じゃなきゃ嫌だよ…!」
『#14 ふたりで一緒に』
─────
【オリジナルアイテム紹介】
《エフェクティングソード》
仮面ライダームジカが使用する西洋風ロングソードをベースとした剣型武装。
ステレオドライバーと連動することで真価を発揮する。鍔部に搭載された3連エフェクトボタンによって様々な能力を発動し、戦況に応じた戦闘方法を取ることができる。
グリップには音響ケーブルを模したコードが巻かれており、その先端の接続プラグをステレオドライバーへ接続することで、エネルジアディスクの力を刀身へ伝達。また、ドライバーから再生される音楽を受けることで、剣の性能だけでなく変身者自身の能力も強化する。
─機能─
【斬撃強化ボタン】
鍔左側に配置された剣のマークのボタン。
押すたびに出力が三段階まで上昇し、刀身へ音楽エネルギーを収束させた強力な斬撃を放つ。
一段階目では4ビートの軽快な待機音が流れ、《ムジカスラッシュ・フォルテ》を発動。
二段階目では待機音が8ビートへと変化し、《ムジカスラッシュ・フォルテッシモ》を放つ。
最大出力となる3段階目では16ビートの高速な待機音が鳴り響き、《ムジカスラッシュ・フォルテフォルティシモ》を繰り出す。
【身体強化ボタン】
鍔右側に配置された力こぶのマークのボタン。
接続プラグをステレオドライバーへ接続した状態で起動することで、ドライバーから流れる音楽を全身へ循環させ、身体能力を大幅に向上させる。さらに演奏されるメロディによって変身者の疲労を軽減し、体力を回復させる効果も持つ。
【効果付与必殺技ボタン】
中央に配置されたディスクマークのボタン。
起動後、刀身のスキャナー部分をステレオドライバーへ翳すことで、装填中のエネルジアディスクの能力を剣へ付与。各フォーム固有の必殺技や属性攻撃を発動する。
─デザイン─
"エフェクター"と"ロングソード"を融合させたデザインの武器。
シルバーを基調とした刀身は幾重にも重なる音の波形を思わせる造形となっており、中央には音楽エネルギーを増幅・解析するクリスタル状の"スキャナー"を搭載。刀身先端には青白い発光部を備え、エネルギアの収束点として機能する。
鍔部にはエフェクターをイメージした"3連エフェクトボタン"を配置。左から"斬撃強化ボタン"、"効果付与必殺技ボタン"、"身体強化ボタン"の順に並び、各種能力を切り替えられる。
グリップは漆黒のレザー調となっており、音響ケーブルを模したコードを巻き付けることで高い保持力を確保。コード先端にはステレオドライバーと接続する"接続プラグ"を備え、両者を連動させることでエネルジアディスクの力を最大限に引き出す。
─────
『#13 夏色プロローグ』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!
今回も準備でき次第、活動報告の方で#13について少し話そうと思っています。そちらもよかったら遊びに来てください!
お気に入り登録や感想、評価等いただけると大変励みになります。
もしよろしければ、よろしくお願いします!
次回『#14 ふたりで一緒に』は、7月25日20時に投稿予定です。
お楽しみに!