〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜   作:一葉 彩人

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─登場人物─

音居奏叶(おといかなと)
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、仮面ライダームジカの変身者。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。

澁谷(しぶや)かのん】
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
人前では緊張して歌えないという悩みを抱えていたが、可可の想いに触発されて共にスクールアイドルを始めた。

嵐千砂都(あらしちさと)
結ヶ丘高等学校に通う一年生。
かのんの幼馴染であり、丸いものが大好き。ダンスが得意で、結ヶ丘では音楽科に所属する。また、かのんたち結ヶ丘のスクールアイドルにダンスを教えている。

葉月恋(はづきれん)
結ヶ丘高等学校に通う一年生。
大きなポニーテールが特徴的。とても真面目で、お淑やかな人物。

鼓野志保(つづみのしほ)
プロテクションの長官補佐。
長官の補佐以外にも、奏叶の戦いのサポートも主な仕事である。

九重誠(ここのえまこと)
警視庁 公安部に所属する刑事であり、階級は警部。
ヌッラ捜査のため、特別捜査官としてプロテクションにも所属している。



#15 恋色プレリュード

 

ここは、街の喧騒を感じる大通りにある何の変哲もない飲食店。

 

現在、この店に二人の警察官が訪れていた。

 

一人は、人々の平穏を脅かすピリオド撲滅のために活動をしている組織─プロテクションに、特別捜査官として所属している警察官、九重誠。

 

そして、もう一人…爽やかさを感じる顔立ちに黒髪のセンターパート、白のワイシャツに黒いスラックスズボンという仕事用の格好をしているが、ワイシャツは第二ボタンまで開けて、裾はズボンから出すというラフな着こなし方をしている二十代中頃と思われる男性。

彼の名前は牧田透(まきたとおる)。誠の部下であり、彼と同じくプロテクションの正式な協力者である特別捜査官として活動する警視庁の刑事である。手続きの関係上、誠よりも遅れてにはなるが、今後捜査の拠点もプロテクションに移す予定である。

 

「私はプロテクションの方に報告の電話をいれてくる。牧田はその映像のデータ、もらっておいてくれ」

 

「わっかりました!」

 

誠の指示に、透は軽く弾んだ声でありながら、持ち前の爽やかさで嫌味の感じない返事をして、言われた通りに行動する。

 

二人がこのお店に訪れたのは、防犯カメラ映像の確認のためである。

 

近頃勃発しているヌッラによる行方不明事件。仮面ライダームジカとして戦う音居奏叶も、そのヌッラの影響と思われる形で行方がわからなくなった。そのため、彼が最後に確認された地点がこのお店の裏口がある路地であり、そこに設置されている防犯カメラの映像を確認しに来たというわけだ。

 

店の外に停めている車に戻った誠は、報告のためプロテクション長官補佐である鼓野志保に電話をかける。

 

「九重です。防犯カメラの確認、終わりました」

 

『どうでしたか?』

 

「やはり、映っていました。音居くんと、彼の友人であろう女性が、ヌッラの能力によって捕えられる瞬間が」

 

『やっぱり、ヌッラが原因でしたか…』

 

予想はしていたものの、現状ヌッラと唯一まともに戦える戦士─仮面ライダームジカの変身者である奏叶が別空間に飛ばされたという深刻な事態に、誠と電話先の志保は冷や汗を流す。

 

「防犯カメラに、ヌッラになる前の男の姿も映っていました。いま牧田が映像を受け取りに行っていますので、入手次第お送りします」

 

『お願いします』

 

「そのまま、私と牧田はその男の目撃情報を探ります。では…」

 

そう言って、誠は電話を切った。

 

そして、一人きりの車内で先程の防犯カメラの映像を思い返す。

 

犯人である男の尾行に気づいたであろう奏叶は、路地に入り男を取り押さえた。そこでヌッラとなった男の能力により、何か黒い球体のようなものに二人は閉じ込められてしまった。

 

しかし、誠は感心していた。

結果的にヌッラの能力は受けてしまったものの、尾行に気づき咄嗟に身を隠し、男を確実に取り押さえられるところまで引き寄せる。そして、取り押さえた際にも顔を確認するためフードを外す。

 

奏叶のその行動のお陰で、誠たちは男の正体に近づくことができたのだ。

 

以前、誠は奏叶に関しての資料を見せてもらったことがある。

そこには幼少の頃から空手を習い多少の武道の心得があること、そして覆面シンガーとして若くして名を馳せたこと以外に特に変わった記載はなく、一般的な生活を送ってきた普通の高校生であった。

 

「若者の成長速度というのは、凄まじいな…」

 

突然の事態にここまで対応できたのは、3ヶ月間仮面ライダーとして戦ってきた奏叶の成長といえるだろう。

 

誠は奏叶に感嘆すると同時に、怒りが沸々と込み上げてくる。ヌッラと戦う力がない、自分に対する怒りが…

 

「っ…!」

 

そんな込み上げた怒りをぶつけるように、誠は車のハンドル部分を一度だけ叩いた。

 

「俺に、戦う力があれば…!」

 

誠の中にずっとある歯痒い思い。

自分に仮面ライダーになる力があれば…そうすれば、まだ高校生の奏叶を戦いに巻き込むようなこと、なかったのに…

 

悔しさに押しつぶされ、誠は一人拳を強く握り締め、歯軋りしていた。

 

そんな彼を現実に引き戻したのは、車の助手席の扉が開く音だった。

 

「ココさん、映像もらってきましたよ!」

 

映像をもらった透の声を聞き、誠は感じていた怒りと悔しさを一度振り払い、彼の言葉に答える。

 

「じゃあ、その映像データを鼓野さんに送っておいてくれ」

 

「かしこまりっ!」

 

「なんとしてでも、その男の居所を掴むぞ」

 

──絶対に、彼を救出しなければならない。

 

そして、助手席に座る透も、真剣な顔つきに変わり鋭い視線で拳を握りしめる。

 

「……はい。絶対に、奏叶くんを助け出しましょう…!」

 

透の返答を聞き、誠はハンドルに手をかける。

 

自分の非力さを悔やむのは後回しだ。

今はまず、奏叶を救出することが第一優先である。

 

今自分がするべきことを改めて見据え、誠は車を走らせるのであった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「あと40分…」

 

ヌッラによって作り出された街を模した空間。そこの空に表示されている試練の残り時間を見た澁谷さんが呟いた。

試練が始まって20分が経過したが、俺たちは今のところニエンテ・ヌッラに見つかることなく隠れられている。

 

「このまま隠れて、なんとかやり過ごせたらいいんだけど…」

 

外の様子を伺っていると、頻繁に5体ほど集まったニエンテ・ヌッラが通っている。

恐らく、合計ではかなりの数のニエンテ・ヌッラがいるのだろう。そんな数の追っ手から、40分も隠れ続けるのはかなり厳しい。

 

「ひぃっ!?」

 

そんな俺の予想通り、残り時間が36分を切った頃、5体のニエンテ・ヌッラの集団に見つかってしまった。

 

「澁谷さん、逃げるよ!」

 

俺は咄嗟に澁谷さんの手を取った。

 

「うん!」

 

澁谷さんが俺の手を握り返すと、俺たちは隠れていた駐輪場を一気に飛び出し、ニエンテ・ヌッラからの逃走を始めるのであった。

 

《残り時間─35分》

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「かのんちゃん、奏叶くんと楽しんでるかなぁ…」

 

学校でダンス練習を終えた私─嵐千砂都は、友達と映画に行っている幼馴染を思い浮かべながら、校舎を出て校門までの道を歩いていた。

 

「あ…」

 

ちょうど校門から出たところで、見知った顔が目に入り思わず声を漏らす。その声で相手も私に気づいたようで、ふと視線があった。

 

「葉月さん、今帰り?」

 

「えぇ」

 

彼女─葉月さんは、かのんちゃんたちのスクールアイドル活動を認めていない。

かのんちゃんたちの活動を手伝っている私自身は、直接揉めたことはないけど、かのんちゃんたちと葉月さんが衝突している場面には何度か遭遇している。そんな彼女のことを少しでも知る機会になればと声をかけてみたものの、やはり今の関係上なかなか会話が続かない。

 

とはいえ、"初対面の子と仲良くなること"を特技に掲げている私だ。

 

ここは、大事な幼馴染のためにも、一肌脱ぎますかっ!

 

どうして葉月さんが頑なにスクールアイドルだけは認めないのか。その真意を探ろうと、私が意気込んだその時だった。

 

「君たち、ちょっといいかな?」

 

二人組の男性が、私たちに声をかけてきた。

 

「少し、聞きたいことがあるんだが…」

 

女子高生に近づく二人の成人男性、それも話しかけてきた方の男性は少し強面ということもあり、私は思わず警戒してしまう。

しかし、彼が懐から取り出した中央の桜が特徴的な金色の紋章が象られた手帳を見て、その警戒心は解かれた。そこには、"警部 九重誠"と書かれていた。

 

これって、警察手帳…?初めて見た…

 

警戒心は解かれた私たちであったが、初めて直に見る警察手帳と、刑事さんに話しかけられたということに、今度は緊張が走る。

 

「ちょっとちょっと、そんなぶっきらぼうに聞いたら怖がっちゃうでしょ。ココさん、たたでさえ顔怖いんっすから…」

 

「か、顔怖い…」

 

もう一人の爽やかさを感じる男性に呆れ顔で言われ、九重さんはショックを受けたように目を伏せた。

 

怖い人かと思ったけど、なんだかちょっと可愛い…

 

「ごめんねー…君たちに何かあるとかじゃなくて、ちょっと聞きたいことがあるだけだから」

 

そう言いながら、部下であろう男性も警察手帳を見せてきた。そこには"巡査部長 牧田透"と書かれていた。

 

「この写真の人、見たことない?」

 

牧田さんは警察手帳と入れ替わりで取り出した一枚の写真を見せてきた。そこはどこかの路地のような場所で、上下黒いパーカーを着た男の人が写っていた。

 

「……(わたくし)は、そのような男性知りませんね。少なくとも、うちの学校の生徒ではないはずです」

 

「ん?」

 

ハッキリと結ヶ丘の生徒じゃないと断言した葉月さんに、九重さんは疑問の声を漏らす。

 

「結ヶ丘の男子生徒は数名だけで、全員の顔はわかりますので」

 

「あぁ、なるほど」

 

葉月さんと九重さんが会話している中、私はじっと牧田さんが持つ写真を凝視していた。

 

「うーん…この人、どこかで見たことあるような気がするんだけど……」

 

「知ってるんっすか!?」

 

写真の男性を見たことがある気がすると頭を悩ます私に、牧田さんが驚きの声を上げる。

 

この人、どこかで見たことあるような気がするんだけど…いったいどこで…

 

「あぁ!思い出した!」

 

「「っ!?」」

 

突然閃いて大声を上げた私に、刑事さん二人はメモを構えて私の次の言葉を待つ。

 

「この人、クラスの友達とお付き合いしてた人です!」

 

「えぇ!?その話詳しく!」

 

この人に見覚えがあったのは、以前友達に見せてもらった写真に写っていたからだ。

 

その友達の名前は草野由香(くさのゆか)。結ヶ丘高等学校の音楽科、私と同じクラスに在籍している女の子だ。

一ヶ月ほど前、由香ちゃんから彼氏ができたと写真を見せられた。そこに写っていたのが、さっき牧田さんから見せられた写真の彼だった。

 

「なるほど…ちなみに、その草野由香さんと連絡は取れるかな?」

 

「由香ちゃんなら、今日はまだ学校にいると思います。呼んできましょうか?」

 

確か、彼女も今日は自主練習でレッスン室を使っているはずだ。時間的に、ちょうど帰り支度をしている頃だろう。

 

「ありがとう」

 

刑事さんからの頼みを引き受け、私は由香ちゃんを呼びに行くため再び学校に戻るのであった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

最初の5体の怪物から逃げ回っているうちに、他のところにいた怪物にも見つかり、その数は10体、15体、20体と増えていった。そんな数の怪物から、私たちはなんとか逃げ延びることができていた。

 

空に表示されている残り時間は、"25分42秒"。

 

結ヶ丘に入学する前の私だったら、絶対ここまで逃げ続けられてないよね…スクールアイドルの練習で体力ついてて良かった。

 

「はぁ…はぁ…」

 

しかし、自分の中の恐怖心と戦いながら15分も走り続けていると、流石に限界が見えてきた。

呼吸が苦しくなり、だんだんと手足の感覚がなくなってきている。

 

「きゃあっ…!?」

 

疲労の影響か、私は足がもつれてしまい転んでしまう。

 

「大丈夫!?」

 

「ぅ、うん…なんとか……っ…」

 

心配そうに私の様子を見る奏叶くんにそう答えたものの、足に痛みを感じてなかなか立てそうにない。

しかし、怪物はもうすぐ後ろにまで迫っている。

 

このままじゃ、奏叶くんまで…

 

「奏叶く…」

 

──奏叶くんだけでも逃げて。

 

そう伝えようとした私だったが、それは奏叶くんの言葉によって遮られる。

 

「澁谷さん、ちょっとおぶるよ」

 

そう聞こえたと認識すると同時に、私の体が持ち上げられる。

 

「うえっ!?」

 

私が驚いた時には、既に奏叶くんの背中の上にいた。

 

そして、奏叶くんは私をおぶったまま走り出した。

 

奏叶くんだって、もう限界に近いはずなのに…

 

「ごめんね、奏叶くん…」

 

「謝らないで。残り時間はもう半分を切ってる。絶対に、ふたりで元の世界に戻ろう!」

 

奏叶くんは、優しく、それでいて力強い声でそう言ってくれた。

 

不思議だ…

怪物たちは今も私たちを追ってきているのに、彼のとびきりの優しさを感じて、私の中の不安が和らいだ気がした。

 

「うん…!」

 

私は彼に回している手にギュッと力を込める。

ここまで密着していると、彼の息づかい、体温、鼓動の音まで鮮明に伝わってくる。こんな状況だというのに、私はそれにとてつもない安心感を覚えていた。

 

あったかいなぁ…

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「焦れったい…ああ焦れったいなあクソがっ!!!」

 

なんなんだあの男は…

あんな大量の怪物に追われて、女が足を挫いて立てないってのに、どうしてまだ諦めないんだ!?

 

クソ…これは想定外だ。試練が始まって、10分も経たずリタイアするものだと思っていた。現に他のカップルなんて、5組は試練に進む前に脱落。残りの2組も、試練が始まってすぐに男が惨めな姿を見せ、揉め事を起こして脱落したってのに…

 

「はぁぁ…」

 

でもまぁ、男も体力の限界だろう。そろそろ怪物に捕まり、みっともない姿を晒すことになるだろうさ。

 

「ふはっ…ふはははははは!!」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

万事休す。今の状況を一言で表すなら、この言葉に尽きるだろう。

 

澁谷さんをおぶって何とか逃げ続けていた俺だが、進んだ先にもヌッラがいて、進路変更を繰り返すこと数回。俺はとうとう、壁際まで追い詰められてしまった。目の前には壁、左右も塞がれ、後ろには大量のニエンテ・ヌッラ。

 

残り時間は20分、完全に退路が断たれた状況。

 

残る手段は、もう一つしかないか…

 

「え…?」

 

俺がおぶっている澁谷さんを壁際に降ろすと、彼女は困惑の表情を見せる。

 

「ここは俺がなんとかするから、ちょっとだけ待ってて」

 

「なんとかって…奏叶くん、絶対に無茶するつもりでしょ!」

 

必死に止めようと涙ながらに俺の腕を握る澁谷さんに、俺は落ち着かせるように笑って彼女の頭を撫でた。

 

「大丈夫。約束はちゃんと守るから」

 

ふたりで一緒に元の世界に帰る。

その約束を守るために、俺は戦う。

 

覚悟を決めた俺は立ち上がり、ニエンテ・ヌッラの大群の方へ振り返る。

 

改めて見るとすごい数だ。ざっと見ただけで30…いや、40はいる。

 

この空間では、仮面ライダーに変身することはできない。生身で、戦わないといけない。

 

「ふぅ……よし」

 

深呼吸して、拳を握りしめる。

 

この戦いは、いつもと違ってニエンテを全て倒すことが目的じゃない。残り時間中、澁谷さんを守り抜けばいいだけだ。

 

「澁谷さんには指一本触れさせない」

 

澁谷さんを庇うように立つ俺がそう宣言すると、ニエンテたちも臨戦態勢に入り構え始める。ニエンテは人の言葉を喋ることはないが、理解はできているということなのだろうか。切羽詰まった状況だというのに、こんな場違いな考えが浮かんできたことで、俺の中にまだ少し余裕が残っているんだと安堵する。

 

「かかってこい!」

 

俺がそう言ったのと同時に、ニエンテ・ヌッラが次々と襲いかかってくる。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

俺はまず最初に向かってきたニエンテを蹴り飛ばし、次のニエンテの腹部に肘打ちを入れる。そのまま次々に向かってくるニエンテ・ヌッラへ反撃していき、なんとか澁谷さんのところまで辿り着かせないよう撃退していく。

 

ニエンテ相手だからか、生身での攻撃もなんとか効いているようだ。これが通常のヌッラだったら、一体でも厳しかっただろう。

 

だが、攻撃が効くと言ってもあくまで足止めができる程度で、残り15分ほどの時間、ずっとこれが続くとなるとかなりきつい。それに足止めができると言っても、あくまで俺が攻撃を防ぎ続けることができればの話だ。

 

「うぐっ!?」

 

しかし、この数を相手にしているとなると、攻撃を受けずに対処するというのには無理がある。

背後から肘打ちを受けた俺に、激痛が走る。

 

この空間では死にはしないが痛みは受ける、というのは本当みたいだな…

 

仮面ライダームジカとして戦い始めてから約三ヶ月、確実に今までで一番のピンチだ。

 

でもっ…!

 

「っ…!!」

 

守るって決めたんだ!!

 

「引き下がるわけにはいかないんだよぉぉぉぉ!!!」

 

なんとか力を振り絞り、再び向かってくるニエンテたちに攻撃していく。

 

「はぁ…はぁ…まだまだぁ!!」

 

何度も何度もニエンテを追い返していくうちに、俺の気迫を感じたのか、段々とニエンテの追撃も緩やかになってきているように感じる。

 

少し余裕ができた俺は、ほんの一瞬、空に表示されている残り時間に目を向けた。

 

そこに表示されていたのは、"09:04"。

 

残り10分を切り、少し希望が見えてきた。このままいけば、何とか耐え切ることができるかもしれない。

 

しかし、そんな希望もすぐに打ち砕かれてしまう。

 

「なんなんだよお前はァァ!!」

 

突如聞こえた叫喚。

 

すると、目の前にゾロゾロといたニエンテ・ヌッラが左右に別れ道を開けていく。

 

「なんでお前は、こんな絶体絶命な状況に追い込まれても女を見捨てず立ち向かえるんだ!!」

 

意味不明な怒りを喚きながら、俺たちをこの世界に飛ばしたヌッラが現れた。

 

「オマエらもオマエらだ。コイツ一人の気迫に怖気付いてんじゃねぇ!もういい消えろ!」

 

すると、ニエンテ・ヌッラたちは粒子となって消滅した。

 

「こうなったら、俺が直々に痛めつけてやるよ」

 

「へぇ…さっきまであんなにいたのが、お前一人で済むなんて好都合だ」

 

ニヤッと笑って言い返した俺だが、正直ただの強がりだ。ニエンテ・ヌッラならともかく、通常のヌッラを相手に生身で戦うとなると、攻撃が通るかどうかも怪しい。

 

「減らず口を…その心、すぐにへし折ってやる!」

 

ヌッラは俺の胸ぐらを掴み、

 

「オラァ!」

 

「ぐはっ!?」

 

腹に膝蹴りをしてくる。

 

「奏叶くん!!」

 

後ろから、澁谷さんの悲鳴にも近い叫びが聞こえた。

 

「まだまだぁ!」

 

「うぐっ…!」

 

「ほらよぉ!!」

 

「ぶはぁっ!?」

 

膝蹴りを受け腹を押さえる俺に、ヌッラは容赦なく背中に肘打ちし、顔面を思いっきり殴ってきた。

 

「うっ…うぅ…」

 

地面に倒れ込んだ俺はなんとか立ち上がろうとするが、痛みで体に力が入らない。

 

「クハハハハ!惨めだ、なァっ!!」

 

「ぐぁっ!?」

 

ヌッラは倒れ込む俺の腹を再び蹴り込む。

 

「おいどうだ?ダサいだろ。惨めだろ。こんなやつ、もう愛想尽きちまったんじゃねぇか?」

 

ヌッラは俺を嘲笑いながら、澁谷さんに向かってそう聞いた。

 

「……」

 

「おいおいィ…この女、お前への怒りで震えて声も出ねぇみたいだぞォ!」

 

確かにヌッラの言う通り、ぼやける視界の中に俯いて震える澁谷さんが微かに見えた。

 

「ふはっ…ふはははははははっ!!!」

 

「違うっ!!!」

 

ヌッラの下卑た嘲笑だけが響き渡っていたところに、それを打ち消すほどの大きな怒号が鳴り響いた。

 

初めて聞いた…澁谷さんの心からの怒りの声。

 

「私が怒ってるのは、こんなにカッコイイ奏叶くんを笑うアナタにだよ!!!」

 

「あァ?カッコイイだと…?」

 

「こんなに必死で、何があっても私を守ろうとしてくれる奏叶くんが惨めなわけない!!」

 

澁谷さん…!

 

彼女の涙ながらの訴えを聞き、朦朧としていた俺の意識が戻っていく。

 

「大切な奏叶くんをこんな目に遭わせたアナタを…私は絶対に許さない!!!」

 

「っ!クソがクソがクソがクソがァァァァァ!!!!」

 

ヌッラは混乱したように頭を抱えてのたうち回る。

その隙に、ボロボロの体になんとか力を入れてゆっくりと立ち上がる。

 

「ありがとう、澁谷さん」

 

「え?」

 

「元気でたよ」

 

怪物を前にして恐怖でいっぱいだっただろうに、俺のために怒ってくれた。その気持ちを受け取った俺の中には、不思議と力が湧いてきた。

 

「こうなったら試練なんてどうでもいい!とにかくお前をぶちのめしてやる!!!」

 

そう喚いたヌッラは、そのまま俺の方へ走ってくる。

 

「っ…!」

 

再びヌッラの攻撃が来る、そう覚悟した俺はなんとかダメージを最小限にできるように構える。しかし、俺に攻撃が届くことはなかった。

 

「っ!?なに!?」

 

突如として、俺たちの周りが白く眩い光に包まれた。そのことにヌッラ自身も困惑したため、俺への攻撃が中止されたのだ。

 

これは、俺たちがこの街を模した空間に飛ばされた時と同じ…つまり、また空間が変わるということなのか…?

残り時間が10分を切ったというのに、また何か厄介なことが起こるのは流石に勘弁してほしいんだが…

 

「うわぁっ!?」

 

突然の変化に俺が困惑と警戒をしている内に、周りは完全に白い光に包まれてしまった。

そして、俺は意識を失ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

時は少し遡り、奏叶がニエンテ・ヌッラの大群と対峙している頃。

 

「このアパートだな…」

 

「みたいっすね」

 

九重誠と牧田透は、奏叶とかのんを捕らえたヌッラの正体─カップル連続行方不明事件の犯人が住むアパートを突き止めた。

 

聞き込みの結果、ヌッラの正体である男は千砂都の同級生である草野由香と関係があった。その後、草野由香本人に聞いたところ、その身元は松川深春(まつかわみはる)という男だと判明した。

 

彼女の話によると、草野由香と松川深春は一ヶ月前から二週間ほど交際していた。

交際は順調に続いていたのだが、ある日二人は不良グループに絡まれてしまった。その際、松川深春は恐怖のあまり草野由香を置き去りにして逃げ出し、それに失望した彼女は松川を糾弾し別れを告げた。

 

「それにしても、まさかカップル連続行方不明事件の真相が、自分が彼女に別れを告げられた逆恨みだったとはっすねぇ…」

 

「もちろん根本の原因はそこだろうが、レタルジアディスクは使用者の負の感情を増大させ、過剰に恨みなどといった感情を植え付ける。最初は本人にそんな意思はなかったが、気づけば事件を引き起こしていたというケースが多い」

 

「そっすね…ヌッラにされてしまった人も、ある意味被害者みたいなもんっすよね」

 

「……ただ、その被害に遭った人たちからすれば、ヌッラは紛れもない憎むべき悪だ。いち早く取り押さえて、正式な処罰を受ける必要がある」

 

そんな会話を交わしながら、誠と透は回転式拳銃を取り出す。

 

「行くぞ」

「はいっす」

 

二人は階段を登り、二階にある松川の部屋の前に到着した。

誠はそっとドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。すると、突っかかることなく最後まで回ったので、鍵はかかっていない様子だ。

 

「……」

 

誠はドアノブから手を離し、透に突入の合図を送る。それを受けると、今度は透がドアノブに手をかける。

 

「「……」」

 

顔を見合わせ頷き合うと、透が扉を一気に開く。

 

「動くなっ!」

 

そして、誠が拳銃を構えて突入する。それに続いて透も拳銃を構えて突入する。

 

「……誰もいないか」

 

このアパートはワンルームであり、中に入るとすぐに部屋全体が捉えられる。そこには誰もおらず、唯一扉で閉ざされているバストイレ一体型のユニットバスにも、誰の姿もなかった。

 

「逃げたんっすかね?」

 

「……」

 

透が声をかける中、誠は何か手がかりがないか部屋を見渡す。

物が少なく、整理整頓された部屋。そんな部屋の片隅に、黒い球体と白い球体が落ちている。

それを見つけた誠が、球体に近づき覗き込む。

 

「これは…音居くんたちが連れ去られた時にヌッラが取り出していた球体か」

 

防犯カメラに映っていた、奏叶とかのんを捕える際にヌッラが使っていた球体。それが、この黒い方の球体だ。

 

「てことは、これを調べれば助け出せるんじゃないっすか!」

 

「確かに、これは重要な手がかりになるな」

 

「ん?でも、この白い方は映像には映ってなかったっすよね」

 

透は指紋がつかないように白い布手袋をして、白い球体を拾い上げる。

 

「おいバカっ!勝手に触るな!」

 

ヌッラの能力を発動させる可能性がある得体の知れない球体。触ると何が起こるかわからないそれを手に取る透を、誠は慌てて止めようと声を上げる。

 

「え?いやいやっ、別に何も起こらないじゃないっすか。それよりも、いち早く奏叶くんを見つけないとっすよ…!」

 

透の言う通り、確かに特に何も起こらない。

彼は一刻も早く奏叶を見つけ出さないとと主張し、その表情はかなり焦っているように見える。

 

「それにしてもなんなんっすかねコレ」

 

そして、透が不思議そうに白い球体をグニッと指で摘んだ瞬間、

 

「っ!?」

 

その手にある白い球体が半分に割れて展開し、白い光が溢れ出てくる。

 

「ええ!?なになになになに!?」

 

「だから言っただろ触るなって!」

 

「いやでも俺なんもしてないっすよ!ちょっ、ちょっと、指で摘んだ時に力入っちゃったか…うぎゃあああああ!?」

 

透がアワアワと焦って言い訳を述べているうちに、辺りは完全に白い光に包まれてしまう。

 

「っ!?」

 

白い光によって視界が封じられてしまったが、誠は何かが起こっても咄嗟に動けるように構える。

 

「……っ!?」

 

しばらくして、光が止んだ。

元に戻った視界で二人が辺りを確認すると、そこには突如として男女が"7組"現れ、床に倒れ込んでいた。二人でも狭かったこのワンルームに、追加で14人もの人物が現れ部屋はぎゅうぎゅう詰めである。

 

「この人たちは、もしかして…」

 

「あぁ、連続行方不明事件の被害者たちだ」

 

「じゃあ、こっちの黒い球体の方に…!」

 

「音居くんたちが捕まっている可能性が高い」

 

透はいち早く奏叶たちを救出しようと、黒い球体を手に取ろうとする。しかし、それを誠が制する。

 

「待て。ここで同じように音居くんを救出して、一緒にヌッラまで出てきてしまっては対処ができない。まずは、被害者たちを安全な場所に連れていく必要がある」

 

「…そっすね…」

 

ただでさえ狭いこの部屋で、被害者たちもいる中ヌッラが出現してはまともに戦闘できない。誠のその発言に納得した透は、被害者たちの安否を確認すべく脈拍を確認する。

 

「……全員、気を失ってるだけみたいっすね」

 

「ただ、長期間捕らわれていた人もいる。すぐにでも病院で検査をしてもらうぞ」

 

「じゃあ俺、応援呼んでこの人たち病院連れてくっす!ココさん、奏叶くんの救出、任せてもいいっすか?」

 

「もちろんだ」

 

誠は黒い球体をそっと拾い上げると、この部屋から去っていった。

 

 

「ここなら大丈夫だろう」

 

誠は車を走らせ、人気のない草原にやってきた。

 

「さっきの部屋に現れたのは、行方不明事件の被害者14人のみ。音居くんとその友人、そして松川は、恐らくこの中に…」

 

そう呟いた誠の視線の先には、手のひらに乗せられた黒い球体があった。

 

誠は、先程の白い球体から出てこなかった奏叶とかのん、そして犯人である松川深春の3人は、この黒い球体の中にある可能性が高いと考えた。しかし、あの狭いワンルームの中にヌッラである松川まで放出してしまうのは危険を招く。

 

透の行動から見て、球体は力を加えることで展開すると予想が立てられたため、誠は慎重に人気のない場所まで黒い球体を運んだというわけだ。

 

「これで、音居くんたちが戻ってきてくれればいいのだが…」

 

万が一この中に奏叶がいなかった場合は、手がかりがなくなり、また一からの捜索となる。

そのことへの緊張感を覚えつつ、誠は黒い球体に力を加えた。

すると、透の時と同じく球体が展開する。

 

そして、誠の視界には白く眩い光が広がるのであった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「……!ぉ……くん…!」

 

俺を呼ぶ声が微かに聞こえた。

肩に誰かの手が乗せられている感覚もして、俺はゆっくりと目を開く。

薄ぼんやりと見えてくる景色の中に、スーツをきっちりと着こなしている男性の人影があるのを認識できた。

 

「っ……?こ、このえ、さん…?」

 

「音居くん!」

 

心配そうに俺を見る九重さんに困惑しつつ、俺は辺りを見渡す。

すると、そこは何もない草原だった。

 

そして、少し離れたところに澁谷さんが倒れている。

 

「っ…!澁谷さん!」

 

俺は痛む体に鞭を打ち立ち上がり、澁谷さんの方に駆け寄った。そして耳を彼女の口元の近くに寄せると、彼女の呼吸音がしっかりと聞こえた。

 

「よかった…」

 

気を失っているようだが、澁谷さんが無事に生きていることに安堵する。

 

「九重さん、ありがとうございます」

 

九重さんはきっとなんらかの方法で、俺たちをあの空間から現実に戻してくれたのだろう。正直に言うと、あのまま残り時間、ずっとヌッラの攻撃を耐え続けるのはかなりキツかっただろう。なんとか途中で脱出できて、とても助かった。

 

「ぅ…うぅ…」

 

後方から呻き声が聞こえたかと思い振り返ると、そこには俺たちを捕えていたヌッラがいた。

 

帰ってきたとはいえ、安心はできない。

しっかり、けりをつけないとな…

 

「九重さん、澁谷さんをお願いします」

 

「……しかし、体は大丈夫なのか?」

 

元の世界に戻ってきたからといって、あの空間でヌッラから受けた傷が治ったわけではない。今の俺の全身には無数の切り傷や打撲痕があり、もちろんズキズキとした痛みも感じている。

 

だが、だからってここであのヌッラを見過ごしたら、また男女を誘拐して苦しめるかもしれない。

そんなこと、絶対にあってはならない。

 

「大丈夫です。すぐに終わらせます」

 

俺はステレオドライバーを腰に装着し、ヌッラと対峙する。

 

「散々いたぶってくれたな。借りは返させてもらうよ」

 

「元の世界に戻れたからって、いい気になってんじゃねぇぞォ!」

 

「変身…!」

 

『未来はきっとブルースカイ』

 

ブルースカイエネルジアディスクをドライバーに装填し、俺は仮面ライダームジカ ブルースカイに変身した。

 

「っ!?なんだその姿は!?」

 

「お前とのライブは、これで終わりにする」

 

変身したことで少し痛みは軽減されたものの、流石にあれだけ攻撃を受け続けていたため、長時間の戦闘は俺の体が持たないだろう。となると、ヌッラが突然変身した俺に困惑している今のうちに、一気に畳み掛けるしかない。

 

俺はエフェクティングソードを取り出し、持ち手部分に付いているコードを伸ばし、その先の端子をステレオドライバーの側部に差し込んだ。

そして、エフェクティングソードの身体強化ボタンを押すと、ドライバーのスピーカー部からブルースカイの音楽が鳴り響き、俺の体にエネルギーが溜まっていく。

 

「はぁっ!」

 

俺は一気にヌッラへと近づき、エフェクティングソードで斬りつける。

 

「ぐぁっ!?」

 

ヌッラがそのダメージを受けた隙を狙い、俺は右足でヌッラを蹴り飛ばし少し距離を取る。

 

これで決める…!

 

エフェクティングソードのスキャナー部をステレオドライバーに翳し、効果付与必殺技ボタンを押す。

 

『ブルースカイ』

 

すると、再び音楽が流れ辺りは青空に包まれる。

 

「っ!?な、なんだ…力が…」

 

ブルースカイの浄化効果により、ヌッラの動きが鈍くなる。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『ブルースカイ クリティカルスラッシュ』

 

ヌッラの動きが鈍った隙に、大気を超圧縮することで生まれたエネルギーを利用し、強力な斬撃を繰り出した。

 

─ブルースカイ クリティカルスラッシュ《天圧斬撃(てんおうざんげき)》─

 

「ぐああァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

天圧斬撃によりヌッラの胸部のレタルジアディスクは分離破壊され、ヌッラの体は爆発を起こして人間の姿に戻った。

 

「このライブに、アンコールはない」

 

長かったあのヌッラとの戦いが、ようやく終わった。

 

「ふぅぅ…」

 

俺は安堵のあまり、深い深い息を吐いた。

今までの人生で、これほどまでに深いため息を吐いたのは初めてだろう。

 

「あぁ、あの男がヌッラの正体の松川だ。連行は頼んだ」

 

後ろからそんな声が聞こえたかと思うと、九重さんの部下であろう刑事さんがヌッラだった男を拘束し連行して行った。

 

それを見届けた俺は、変身を解き人間の姿に戻る。

 

「音居くん、お疲れ様」

 

「……ぉ…」

 

九重さんからの労いの言葉に答えようとした俺なのだが、上手く言葉が出てこない。

その上、なんだか頭がぼーっとして視界も安定しない。

 

「……ぅ…」

 

九重さんの顔が急にぼやけたかと思えば、今度は傾いて…

 

「音居くん!?!」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「ぅ……ん…?」

 

覚醒しきっていない薄ぼんやりとした意識の中、私の耳に聞こえてきたのは車の走行音だった。はっきりとしない視界を取り戻すべく、数回瞬きをして視界をクリアにすると、私は車の後部座席に座らされていた。

 

私─澁谷かのんは、知らない車の中にいるようだ。

 

私、何してたんだっけ…?

 

確か、奏叶くんと映画に行って…

そしたら怪物に変なところに飛ばされて…

奏叶くんが怪物と戦ってボロボロに…

 

「っ!」

 

「目が覚めたか」

 

自分が置かれていた状況を思い出した私が驚きのあまり息を飲むと、突然知らない男の人の声が聞こえた。それに反応して、私の体がビクッと震える。

さっきまで怪物に襲われていたかと思えば、今度は見知らぬ車内で知らない男の人がいる。そんな状況に、私は再び恐怖に震える。

 

「驚かせてしまい申し訳ない。私は警察官の九重誠だ」

 

「警察…?ということは、もう大丈夫なんだ…」

 

しかし、どうやら車を運転しているのは警察の人らしい。

 

私が気を失っている間に無事に元の世界に戻ってきて、こうして保護してもらえたということなのかな。

 

え、それじゃあ…

 

「奏叶くんは!?」

 

「音居くんなら、君の隣だ」

 

焦った私だったが、刑事さんに言われ視線を右に向ける。

 

「奏叶くん…!?」

 

すると、私の隣に奏叶くんが座っていた。

しかし、その体には無数の傷があり意識もない様子だ。

 

「命に別状はないと思うが、かなりの傷だ。あと5分ほどで病院に着く」

 

奏叶くん…

 

傷だらけの奏叶くんを見て、私を守ろうと必死だった彼の様子が脳裏に浮かぶ。

 

『ここは俺がなんとかするから、ちょっとだけ待ってて』

 

目の前に怪物の大群がいるというのに、私を安心させるために微笑み、優しく頭を撫でててくれた時。

 

『澁谷さんには指一本触れさせない』

 

私を守るため、大勢の怪物にも怯まず立ち向かうとても頼もしい後ろ姿。

 

『引き下がるわけにはいかないんだよぉぉぉぉ!!!』

 

奏叶くんはどれだけボロボロになろうと、私を守ろうと絶対に諦めなかった。何度も何度も、必死に立ち上がっていた。

 

そんな彼を思い出すと、私の胸の鼓動は苦しいほど早くなり、顔に熱が集中して真っ赤になるのを感じた。

 

なんだか、顔が熱い…

いろんなことがあって、疲れてるのかな…?

 

そういえば、結局呼び方については話せなかったなぁ…まぁ、それどころじゃなかったから仕方ないよね。

 

気づけば、私の頭の中は奏叶くんでいっぱいになっていた。今朝までよりも、ずっと…

 

もっと奏叶くんのことを知りたい。

 

もっと奏叶くんと一緒にいたい。

 

もっと奏叶くんと触れ合いたい。

 

やっぱり私のことも、ちゃんと名前で呼んで欲しい。

そんな想いも、より大きくなっていっている。

 

でも、今は何よりも奏叶くんにお礼を伝えたい。

目が覚めた奏叶くんに…

 

奏叶くんが、一秒でも早く目覚めますように…

 

そんな願いを込めながら、私は彼の手をそっと握った。

 

「守ってくれてありがとう、奏叶くん」

 

 

 

──この日、私は人生で初めての恋をしました。

 

でも、私自身がそのことに気がつくのは、まだほんの少し先のお話…

 





──次回『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』

「というわけで、今回こそはちゃんと入院してもらうからね」

音居奏叶は、澁谷かのんと共に現実世界に帰還し、無事にヌッラを撃破した。
しかし、数々の攻撃を受け無数の傷を負った彼は、束の間の入院生活を余儀なくされる。

「奏叶くん、大丈夫かなぁ…」

奏叶を心配してお見舞いに訪れたかのんだったが、その様子にはどこか違和感があり…

「任せなさいったら任せなさい!」

『#16 寄り添う心』





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【登場人物設定】

牧田透(まきたとおる)
年齢:25歳
誕生日:7月1日
血液型:B型
身長:170cm
趣味:ボウリング
特技:書道、体幹が強い
好きな食べ物:ラーメン、フランクフルト
好きな言葉:一期一会
好きな動物:キリン

警視庁 公安部に所属する刑事。階級は巡査部長。
ピリオドの捜査・対策のため、プロテクション 特別捜査官も兼任している。

軽い口調でおちゃらけた雰囲気もあるが、仕事となれば非常に優秀。直属の上司である九重のことを「ココさん」と呼ぶなど遠慮のない態度を見せるが、内心ではとても尊敬している。















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『#15 恋色プレリュード』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!

今回も準備でき次第、活動報告の方で#15について少し話そうと思っています。そちらもよかったら遊びに来てください!

お気に入り登録や感想、評価等いただけると大変励みになります。
もしよろしければ、よろしくお願いします!

次回『#16 寄り添う心』は、8月1日20時に投稿予定です。
お楽しみに!
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