─登場人物─
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結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、仮面ライダームジカの変身者。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
人前では緊張して歌えないという悩みを抱えていたが、可可の想いに触発されて共にスクールアイドルを始めた。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
スクールアイドルに憧れて上海からやって来た。好きなものへの情熱は人一倍強い。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生。
かのんの幼馴染であり、丸いものが大好き。ダンスが得意で、結ヶ丘では音楽科に所属する。また、かのんたち結ヶ丘のスクールアイドルにダンスを教えている。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
幼い頃からショウビジネスの世界で活動してきた。表には見せないが努力家であり、ショウビジネスの世界で培ってきた様々なことを器用にこなす。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生。
音楽科に所属しており、お淑やかでとても真面目な人物。学校のことを誰よりも大切に思っているが、何故かかのんたちのスクールアイドル活動は認めていない。
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プロテクションの長官補佐。
長官の補佐以外にも、奏叶の戦いのサポートも主な仕事である。
【
警視庁 公安部に所属する刑事であり、階級は警部。
ヌッラ捜査のため、特別捜査官としてプロテクションにも所属している。
人々の平穏を脅かすピリオド撲滅のために活動する組織─プロテクション。その主要メンバーが拠点にしているプロテクションベースのメインルームにて、特別捜査官である九重誠は神妙な面持ちで考え込んでいた。
「どうかされたんですか?」
そんな彼の様子が気になったのか、プロテクションの長官補佐を務める鼓野志保が声をかける。
「よかったら、一息つきませんか?」
志保は用意してきた温かい煎茶を彼のデスクに置いた。
「ありがとうございます」
煎茶を受け取った誠が一口飲むと、志保も自分用に淹れてきた煎茶を飲む。ちなみに、コーヒーではなく煎茶なのは誠の好みである。志保は普段なら一息つく際はコーヒー派なのだが、お茶派の彼に合わせて今日は煎茶を入れたようだ。
「何か、お悩み事ですか?」
「音居くんのことについて、少し…」
九重誠は、ずっと葛藤していた。
現状、仮面ライダーに変身できる者は音居奏叶しかいない。
常人よりも遥かに高い数値の特別な"音楽の力"を秘めた人物、これが仮面ライダーになる条件のひとつだ。
しかし、九重誠には…彼だけではない、鼓野志保にも、牧田透にも、神窪政宗にも、仮面ライダーになれる程の音楽の力は宿っていなかった。それどころか、プロテクション全隊員にも、警察や自衛隊といった組織の人間にも、誰一人として仮面ライダーになれるほどの音楽の力を持った人物は見つからなかった。
だからといって、ピリオドの暗躍は止まらない。ヌッラを生み出し、人々の平穏を脅かす存在があるのなら、なんとしてでも止めなくてはならない。
そこで、資格者の捜索は一般人にまで広げられた。
こうして初めて見つかったのが奏叶だった。特別な音楽の力を宿しており、ヌッラと戦う力を持つ仮面ライダーに変身できる人物。
一般人…それも、まだ未成年である高校生が資格者だと判明し、プロテクション内部はもちろん、更にその上とも様々な議論が行われた。その結果、ひとまず奏叶に接触し事情を説明することになり、それを聞いた奏叶は戦う決断をした。
そして、"仮面ライダームジカ"が誕生したのだ。
現状、仮面ライダーの変身資格を持つ者が奏叶しかいないからといって、まだ高校生の彼を危険な戦いの中心に巻き込んでしまっていいわけがない。
しかし、人々を脅かすヌッラを止められるのは、彼しかいない。
そんなジレンマを抱え、九重誠は葛藤していた。誠だけではない、志保も、プロテクションを率いる政宗も、内では葛藤を抱え頭を悩ませているのだ。
「本来なら、彼は危険な戦いに身を投じることなどなく、ただ青春を謳歌していたはずです。それなのに、我々は彼に頼ることしかできない…」
「私も、同じです。音居さんを巻き込みたくないのに、彼の力に頼ることしかできない。日々、そんな歯痒さを感じてばかりです」
悔しさのあまり真っ赤になるほど拳を握り締める九誠に、志保も胸の内に抱える同じ葛藤を吐き出した。
そんな彼女の脳裏に浮かぶのは、先日の松川深春─プローヴェ・ヌッラとの戦いの後、病院で見た傷だらけの奏叶の姿だった。
「私たちはそんな葛藤を抱えて、彼の戦いを支えていく。矛盾しているようですが、それが私たちにできる最善の行動なんだと思います」
「最善の行動…」
「自分の歌声を取り戻すためという目的はあれど、人々を守るために戦ってくれている彼を、私たちがなんとしてでも真摯に支えていかなければならない。それが、私たちにできる最善であり、彼を戦いに巻き込んでしまった私たち大人の責任でもあるんじゃないでしょうか」
志保の言葉に、誠はハッと目を見開いた。
誠は、ヌッラという怪物の存在を初めて知った時から、ずっと自分の無力さを嘆いてきた。人々の笑顔を守るために警察官になったというのに、人智を超えた力を持つ怪物を前にしては、何の抵抗する術もない。
奏叶がプローヴェ・ヌッラが創り出した世界から戻ってきた時も、傷だらけでボロボロだった彼にプローヴェ・ヌッラとの決着を任せることしかできなかった。
自分は、戦いを見守ることしかできなかった。
奏叶が仮面ライダームジカになってからは特に、誠はそんな悔しさに押しつぶされそうな日々を送っていた。
そして、恐らくそれは志保だって同じだ。志保だって、自分に仮面ライダーになる資格があれば、と何度も考えてきたはずだ。
だが、彼女はそんな状況に囚われることなく、自分が今すべきことを冷静に見据えていた。
「俺も、見習わないとな…」
悔しさに囚われているだけではいけない。
仮面ライダーになる資格がなくても、自分には自分のできることがある。
果たさなければいけない使命がある。
一人の警察官として、市民の笑顔を護るために…
「やっぱり鼓野さんは、あの人の妹ですね…」
志保に視線を向けて、誠は感嘆としたように呟いた。
「お兄さんも、一刻も早く見つけ出さないといけませんね」
「……はい…!」
〜〜〜〜〜
カップル連続行方不明事件の犯人であり、俺と澁谷さんを謎の空間に捕え試練を仕掛けてきたプローヴェ・ヌッラ。
その正体は、松川深春という19歳の男子大学生だったそうだ。
彼には交際して間もない彼女がいたのだが、ある日不良グループに絡まれてしまった。その時、彼女を置いて逃げ出してしまったことで別れを告げられ、その失意によりヌッラになってしまったそうだ。
恋人同士の仲が険悪になったら失格という試練になんの意味があるのかと思ったが、そのような経緯があったからということらしい。
それにしても、今回はヌッラの動機がそれで、試練のためだったからなんとかなったけど…より凶悪な考えを持つ人がヌッラになっていたら、もっと甚大な被害が出ていたに違いない。
何せ、街一つを創り出してしまうほどの規模の能力だ。俺たちが気づかないうちに、悪の帝国なんてものを創り上げることだって可能だったかもしれない。
俺は一人きりの殺風景な病室のベッドに体を預け、これまで以上に危険かつ強大な能力のヌッラが現れたことに危機感を感じていた。
ところで、俺が病室にいる理由は言うまでもなく、昨日負った傷の治療のためだ。
プローヴェ・ヌッラとの決着後に意識を失った俺が、次に目を覚ましたのは一夜明けた午前10時。かなりの傷を負ってしまったが、奇跡的に後遺症が残るような傷はなかった。
とはいえ、このまま帰すわけにはいかないと、三日間の入院を宣告されてしまった。
「春日井先生、本当に入院するんですか…?」
「当然だよ」
何度目かの質問に呆れながら答えたのは、この病院の医師─
一言で表すと、なんというか…どこにでもいそうな男性。いい意味でね、いい意味で。
話を戻すと、ここはプロテクションと協力関係にある病院だ。ヌッラの能力を受けた被害者など、ピリオドの事件に巻き込まれた特殊なケースの患者のほとんどは、ここに運ばれる。
春日井先生は外科医であると同時に、そんなヌッラ事件の被害者たちを治療する医師だ。そのため、彼はプロテクションのこと、ヌッラのこと、そして俺が仮面ライダームジカであることを知る数少ない人物である。
「だいたい、この前の知識を奪われた時も、本当は他の患者さんみたいにちゃんと検査を受けてほしかったんだからね」
コノシェンザ・ヌッラの知識を奪うという能力を受けてしまった時も、春日井先生の診察を受けていた。俺も他の被害者たち同様に入院して検査するよう言われたのだが、これ以上被害者を出さないため、そして奪われた知識を取り戻すため、ヌッラと戦えるのは俺だけだからと断った。
「というわけで、今回こそはちゃんと入院してもらうからね」
変身していない状態でかなりの攻撃を受けたとはいえ、そこまで酷い怪我を負ったわけではない。運良く痕が残るような傷もなく、一週間もすればすっかり元通りらしい。
今だって傷が少々痛むぐらいだし、入院は必要ないと思うのだが…春日井先生は、高校生でありながらヌッラと戦っている俺が心配なようで、今回は検査も兼ねて入院することになってしまった。
「はーい…」
まるで拗ねた子供のように間延びした返事をした俺は、ため息と共に肩を落とす。
「はぁ…」
病院、苦手なんだよなぁ…
「あ、それより…」
すると、何かを思い出した春日井先生が話を切り替えたので、俺はそれに耳を傾けるのであった。
〜〜〜〜〜
「奏叶くん、大丈夫かなぁ…」
「大丈夫だよ。酷い怪我ではないけど念の為に入院するだけって、刑事さんも言ってたんでしょ?」
私─嵐千砂都は、入院した友達の身を案じて呟いた幼馴染を宥めているけど、内心では当然、私自身もその友達が心配でたまらなかった。
現在、怪物に襲われた奏叶くんが入院したと聞き、私、かのんちゃん、クゥクゥちゃん、すみれちゃんの4人は、彼のお見舞いのため病院を訪れている。
「あ…私、先にお手洗い行ってもいい?」
奏叶くんの病室がある階まで来たところで、かのんちゃんがそう言った。
「うん!奏叶くんの病室の前で待ってるね」
「……私もお手洗い行ってくるわ」
私、クゥクゥちゃん、すみれちゃんの3人で先に奏叶くんの病室に向かおうとしたところで、お手洗いに行ったかのんちゃんの背中を見つめていたすみれちゃんも、その後を追いかけて行った。
「じゃあ、私たちは先に向かおっか」
「ハイです!」
ということで、私とクゥクゥちゃんで先に奏叶くんの病室の前まで行き、廊下にある長椅子に座って待つことにした。
横並びで長椅子に座って世間話をして暇を潰していると、クゥクゥちゃんのスマホからバイブレーションの音が鳴り響いた。
「あっ…姐姐…姉からデス。少し、話シテきてもイイデスカ?」
「もちろん!」
クゥクゥちゃんがお姉さんと電話するため離れたことにより、一人になった私はボーッと廊下の角にある観葉植物を眺めていた。
あれ、なんていう植物なんだろ…
丸じゃないから、全然わかんないや…
すると、病室の中から微かに声が聞こえてくる。
「はーい…」
あ、奏叶くんの声だ。
「あ、それより、家族へは本当に連絡しないのかい?」
今度は別の人の声…お医者さんかな?
「はい。家族へは、伝えない方がいいので…」
え…奏叶くん、入院したこと家族には伝えないの…?
まだ未成年である私たちは、本来なら入院するような怪我を負った場合は保護者の人に連絡するはずだ。しかし、家族には入院したことを伝えない方がいいと言った奏叶くんに、私はつい驚いてしまった。
そういえば、奏叶くんから家族の話、まだ聞いたことないなぁ…
彼も私と同じ高校一年生なのに、親元から離れて一人暮らしをしている。
もしかすると、奏叶くんと家族の間には何か…
「そうか。……まっ、今回の入院の主な理由は、君の体に不調がないかの検査だ。怪我自体は、一週間もすれば綺麗にすっかり治るものだからね」
よかった…
奏叶くんの怪我、一週間もすれば綺麗に治るんだ。
だとしたら、どうして検査で三日も入院するんだろう…
「お待たせシマシタ!」
ついつい盗み聞きに没頭している私の意識を引き戻してくれたのは、電話を終えて戻ってきたクゥクゥちゃんの声だった。
「ムズカシイ顔してマシタけど、ドウカしましたカ?」
「あ、ううん。なんでもないよ!」
「待たせちゃったわね」
盗み聞きをしていた、とは言いづらく誤魔化していると、お手洗いに行っていた二人も戻ってきた。
あれ…かのんちゃん、雰囲気が違う…?
なんだかすごく可愛くなったような気が…いや、かのんちゃんは元々すっごく可愛いんだけど…
「ちっ、ちぃちゃん…?」
かのんちゃんのどこが変わったのかを確かめるためによく見ていると、その視線に気づいたかのんちゃんが首を傾げる。
そして私は、ようやくその変化の正体に気づいた。
あ!かのんちゃん、メイクしてる…
どうしてこのタイミングで突然メイクをしたのかはわからないけど、かのんちゃんのそばに立つすみれちゃんがいつも以上にドヤ顔になっている。恐らく、さっきお手洗いで何か話し、すみれちゃんがかのんちゃんにメイクをしたのだろう。
「かのんちゃん、すっごく可愛いよ!」
「ちっ、ちぃちゃん!?どうしたの急に?」
「ほら、かのん。まずはあなたから入りなさい」
驚くかのんちゃんをスルーして、すみれちゃんがかのんちゃんを病室の扉の方に押す。
「うぇっ!?私から!?」
「そうよ」
「でもぉ…」
「でもじゃない。別に、いつも通りにしていればいいのよ」
「う、うん…」
慌ててすみれちゃんに抗議しようとしたかのんちゃんだが、最終的には言いくるめられ渋々と頷く。
「「……?」」
そんないつもと違うかのんちゃんの様子に、私とクゥクゥちゃんは不思議に思って首を傾げる。
かのんちゃん、どうしたんだろ…?
あ、そうか。今回奏叶くんが入院したのは、かのんちゃんを守って怪我をしたから。責任感の強いかのんちゃんは、自分のせいで怪我をさせてしまったと気にして入りづらいのかもしれない。
「大丈夫だよ、かのんちゃん」
「え?あ、うん。ありがとう、ちぃちゃん」
私が背中に優しく手を添えて言うと、かのんちゃんは一度戸惑ったように私を見つめたが、すぐにいつものように笑った。
そして、意を決したかのんちゃんは病室の扉をノックする。
〜〜〜〜〜
ちょうど春日井先生と諸々の話が終わったタイミングで、病室の扉がノックされた。
「どうぞー」
春日井先生がそう声をかけると、スライド式の扉がゆっくりと開かれる。
「しっ、失礼しまーす…あ、奏叶くん!」
扉の先にいたのは、どこか緊張したような表情の澁谷さんだった。それに気づいた俺が笑って手を振ると、澁谷さんの表情がパァっと花咲いたように明るくなった。
「うぃっすー!」
「お見舞いに来たわよ」
「体調はどうデスカ?」
澁谷さんに続いて、千砂都、すみれ、クゥクゥも病室に入ってくる。
「みんな、来てくれたんだ。ありがとう。ちょっと傷は痛むけど、もうすっかり元気だよ」
「よかった…!」
安心したようにそう呟いた澁谷さんはベッドのそばまで来て、俺の手を取って瞳をじっと見つめてくる。
「奏叶くん、助けてくれて本当にありがとう!!」
「気にしないで。澁谷さんが無事で、本当によかった」
彼女はようやく人前でも歌えるようになり、スクールアイドル活動が軌道に乗り始めた。その矢先に、もし大きな怪我を負っていたら、また歌えなくなってしまっていたかもしれない。
そんな事態にならなかったことに、俺は心から安堵していた。
「それじゃ、僕はこの辺で」
友達がお見舞いに来てくれた俺を気遣ってくれたのか、春日井先生は一言そう言い残して病室から去っていった。
それにしても、間近で澁谷さんの顔を見て気になったことがある。
今日の澁谷さん、なんだかいつもとは違う可愛さがある…
元々美形でとても可愛らしい澁谷さんだが、今日の彼女からは一味違う大人の雰囲気を兼ね備えた可愛さを感じる。
「か、奏叶くん…どうかした…?」
しっ、しまった…
つい澁谷さんの顔をじっと見てしまい、怪訝な顔をされてしまった。
「うっ、ううん…なんでもないよ」
ま、いきなり可愛いとか言うのも変だしな。
これは俺の心の中に留めておこう。
っていうか、今はそれよりも、後ろで一人ドヤ顔のすみれの方が気になるんだけど…
〜〜〜〜〜
ふふっ。奏叶ったら、口には出さなかったものの、かのんがいつもと違うことに気づいて見惚れていたわね。
私─平安名すみれは、かのんを見て頬を赤らめている奏叶の様子に満足げに頷いていた。
いったい何があったのかというと、お手洗いでのかのんとの一件まで遡る。
───
──
─
「す、すみれちゃん…入らないの?」
女子トイレに入ったものの、いつまでも個室の中に入ろうとしない私に、どこか落ち着きのない様子のかのんがそう聞いてくる。
「私は手を洗いたかっただけよ。それより、かのんの方こそずっと突っ立ってどうしたのよ?」
彼女が個室に入らず、そわそわとした様子で洗面所の前で立ち止まっている理由は見当がついてるけど、あえて私はとぼけてみる。
「いやぁ…」
かのんは苦笑して言葉を濁すばかりで、その様子に思わずため息が溢れる。
「全く…じれったいったらじれったいわねぇ」
「すっ、すみれちゃん…?」
「お手洗いに来たのは、身だしなみを確認したかったからでしょう?」
「うぇっ!?」
図星だというのがわかりやすすぎるぐらいに、かのんはギクッと身体を震わせる。
「ふふんっ、私には全てお見通しなのよ」
「うぅ…自分でもどうしてかはわからないんだけど、奏叶くんと会う前にどうしても確認しておきたくって…」
恥ずかしそうにモジモジとしているかのんを見て、私の中にあった疑念が確信に変わった。
やっぱり、かのんは奏叶のことが好きなのね。
少し前から、なんとなくそうなんじゃないかと思っていた。
かのんは、自分自身も気づかないうちに、奏叶に惹かれていっているんじゃないか、と。
そんな中での昨日の一件。
入院するほどの傷を負ってまで、奏叶はかのんのことを守り抜いた。元々惹かれていたであろう相手に、そんなヒーローのようなことをされたら、好きにならない方が難しいわよね。
まあ今も、本人はその気持ちが"恋"だとは気づいていないようだけど。
それにしても…
『ピンチを救われるだとか、そんなドラマみたいな展開になってみなさい。それこそ、一生忘れられないような大恋愛になっちゃうわよ』
千砂都と話した時の自分自身の言葉を思い出し、私は思わず苦笑してしまった。
まさか本当に、そんなドラマみたいな展開になっちゃうなんてね…
「ほら、かのん。こっち向きなさい」
洗面台の前に立ち、鞄からメイク道具を取り出しながら声をかける。
かのんは、普段から軽いベースメイクぐらいしかしていない。そもそもが目鼻立ちがしっかりしていて整っているから、それでも十分可愛く見える。
だけど、そこに軽くアクセントを加えることで、いつもの可愛さに大人っぽさが足されてより彼女自身の良さが引き出されるはず。
メイク道具を取り出した私は、未だ戸惑った様子で私を見るかのんに自信満々に声をかける。
「任せなさいったら任せなさい!」
〜〜〜〜〜
「ナーニにやにやしてるのデスカ?キモチワルイですよ」
「うっさい!」
ずっとドヤ顔のすみれにクゥクゥが辛辣な言葉をかけ、彼女は勢いのいいツッコミを返す。
「奏叶くん。コレ、よかったら食べて」
そんな二人を他所に、澁谷さんが紙袋を渡してくれた。中を覗いてみるとプリンがいくつか入っていた。
「ちょうど甘いもの食べたいと思ってたところだよ。ありがとう!」
「えへへ」
「あ、奏叶くん!私はりんご持ってきたよ!」
すると、今度は千砂都がりんごが入っているであろうタッパーを取り出した。食べやすいようにちゃんと剥いて持ってきてくれたみたいだ。
「わーっ、ありがとう!」
千砂都からタッパーを受け取って蓋を開けてみると、そこには想像と違う形のりんごが入っていた。
「え…これ、りんご…?」
「うん、そうだよ!」
「この、まんまるのが…?」
色や質感はよく知る皮を剥いた状態のりんごだったのだが、驚いたのはその形。まるでビー玉のように、綺麗にまんまるの球体に切り分けられたりんごが入っていたのだ。
「すごっ!?これどうやって切ったの!?」
「えっへへ…このちぃちゃんにかかればちょちょいのちょいだよ!」
「そういえばちぃちゃん、私が風邪ひいた時もまんまるに切ったりんご持ってきてくれたよね」
4人がお見舞いに来てくれたおかげで、退屈だったはずの時間が楽しくなった。
たったひとりで来た新天地で、それも男子生徒がほぼいない学校と聞いた時はどうなることかと思ったが、こうしてお見舞いに来てくれる友達ができた。
俺は幸せ者だなぁ…
〜〜〜〜〜
─幹部の間─
「プローヴェ・ヌッラの試練を乗り越えたか…流石だ。僕の期待通りの男だよ、彼は」
某所。ピリオドの拠点にある幹部の間にて、マエストロは玉座に座り、近くに控えているエントラージュ、グラヴィータに声をかけた。
「マエストロがお喜びになられているようで、
マエストロに仕える執事服を着た男─エントラージュがそう答える。
「それにしても、ここのところ"進化"するヌッラが現れないことが気がかりですね…」
青いローブの男─グラヴィータがそんな懸念点を口にした。
「今回のプローヴェ・ヌッラは、能力としては申し分なかったんだけどねぇ…街を模した空間を創り出してしまうなんて、失うには惜しい能力だ。ただ…精神面が、"進化"を引き出せるほどではなかったということだね」
そして、マエストロはエントラージュとグラヴィータに視線を向ける。
「既にそこに至った君たちには、わかるだろう?」
「「はい」」
「しかし、我々の目的は"進化"した者たちを集めることじゃない…"覚醒"した者たちを揃えることだ。わかっているね?」
マエストロの重圧な問いに、二人は固唾を飲んで頷く。
「もちろん、心得ております」
「うん、頼んだよ」
〜〜〜〜〜
澁谷さんたちが帰ってから少しして、再び病室の扉がノックされた。
ん?誰か忘れ物でもしたのか…?
とは言っても、見たところ俺がもらったお見舞いの品以外何も見当たらないけど…
「どうぞー」
なんて考えていても仕方がないので、俺は扉の外の人物に声をかける。
「音居さん、こんにちは」
「葉月さん!?」
サラリとした綺麗なポニーテールを靡かせながら病室に入ってきたのは、千砂都と同じ結ヶ丘高等学校の音楽科に所属する葉月恋さんだった。
「入院されたとお聞きしたので。これ、よかったら食べてください」
葉月さんから渡されたのは、プラスチックの容器に詰められた美味しそうないちごだった。
「わぁ、ありがとう!」
「お体の具合はいかがですか?」
「ちょっと傷は痛むけど、もう全然平気。明後日には退院できるみたい」
「それは良かったです」
それからしばらくの間、お互いの近況などを話していた。
俺と葉月さんは、同じ学校とはいえ普通科と音楽科という違いがある。授業を受ける校舎も違うため、話す機会はあまり多くない。
最近の授業の話や、結ヶ丘での出来事を語り合っているうちに、気がつけば窓の外は茜色に染まっていた。
「もうこんな時間だったのですね。すみません、つい話し込んでしまって…」
「いやいや、俺も楽しかったし嬉しかったよ。一人でいても暇だったから」
俺の言葉を聞き嬉しそうに微笑んだ葉月さんは、椅子から立ち上がろうとしたところでやめて、もう一度腰かけた。
「そうだ。最後にひとつ、よろしいですか?」
「うん?もちろん」
「音居さんの歌、聴いてみたんです」
俺の歌、というのは"奏音"という名前で歌手活動をしていた時の歌のことだろう。葉月さんは、先日一緒にカフェに行った際の出来事で、俺が歌手活動をしていたということを既に知っている。
「え、そうなの。なんか恥ずかしいなぁ…」
「音居さんの歌、素晴らしかったです!心に響いてくるような歌声で、つい聴き入ってしまいました」
「そ、そう?ありがとう」
面と向かってこうも褒められると、なんだか照れ臭くなり俺は頬をかきながらはにかむ。
「そこで、ひとつお聞きしたいのですが…」
「うん」
「音居さん、音楽科に転科しませんか?」
「え?」
予想もしていなかった提案に、俺は驚いてつい聞き返してしまう。
「あんなに素晴らしい歌声で、実績もある音居さんでしたらきっと音楽科で…」
「ごめん、それはできない」
葉月さんが言い終えるのを遮り、俺はその提案を断った。
「どうして、ですか…?」
「……実は、今の俺は歌えないんだ」
「歌えない…?」
「うん。歌おうとすると、途端に声が出なくなる。そんな俺が音楽科に入ったって、迷惑かけちゃうだけだよ」
事情を知らなかった葉月さんは少し呆然としたが、すぐに慌てて頭を下げた。
「すっ、すみません!そうとは知らず…」
「ううん、言ってなかった俺が悪いよ。それに、葉月さんが俺の歌を良いと思ってくれたのはすごく嬉しい…」
「音居さん…」
歌の話をするとつい昔を思い出してしまい、目を伏せてしまった。そのことに気づいた葉月さんは、心配そうに、そして申し訳なさそうに俺の名前を呟いた。
「そんなに心配しないで。それに、俺もこのまま諦めるつもりはない。必ず、もう一度歌えるようになる。だから、その時は改めて俺の歌を聞いてほしいな」
「もちろんです!是非、聴かせてください」
ただ純粋に、その時が来るのを楽しみにしてくれている様子の葉月さんに、俺も嬉しくなり胸の中が温かくなった。
そんな時だった。少なくとも、今は思い出さなくてもいいことが、ふと俺の頭を過ってしまった。
「ぁ…」
「どうかされましたか?」
表情が変わった俺から小さく漏れた声が耳に届き、葉月さんは首を傾げる。
こうなったら、今聞くしかないか…これからずっと、このモヤモヤを抱えて葉月さんと接し続けるのも嫌だし…
「俺からも、ひとつ聞いていい?」
「はい」
「葉月さんは、澁谷さんたちのスクールアイドル活動、反対してるの…?」
「っ……」
その瞬間、表情が強張った葉月さんは唇を噤んだ。
俺がこんな疑問を思うようになったのは、数週間前のこと。
たまたま、廊下で葉月さんと澁谷さんの会話を聞いてしまったことがきっかけだ。
『残念ですが、今のラブライブ!であなたたちが勝てると、とても思えません』
俺が知っている葉月さんは、柔和で穏やかな人柄だ。そんな彼女からは想像もできないほど、あの時の言葉は冷たかった。
どうしてあんなことを言ったのか、なぜ澁谷さんたちのスクールアイドル活動を認めないのか…あれからずっと、気になっていた。
「知って、いたのですね…」
しばらくの沈黙の後、彼女はゆっくりと口を開いた。
「ごめん。澁谷さんたちに部室の鍵を渡してる時の会話、聞こえちゃって…」
「そう、なのですか…」
消え入るようなか細い声で呟き、葉月さんは俯いてしまった。
「俺は、澁谷さんたちのスクールアイドル活動を応援してる。代々木スクールアイドルフェスでのライブを見て…ううん、それだけじゃない。毎日一生懸命に練習している姿を見て、応援したいって思った。彼女たちのライブを、また見たいと思ったんだ」
「っ……」
葉月さんは、俯いたまま動かない。もしかしたら、この件について責められると思ったのかもしれない。よく見ると、彼女の手は少し震えていた。
「でもね、それと同じぐらい、葉月さんのことも信じてる。葉月さんが、なんの理由もなく澁谷さんたちの邪魔をするような人だとは、思えないんだ」
その言葉を聞いて、彼女は俯いていた顔を上げた。
葉月さんは、とても真面目で、誠実で、優しい人だ。
それは、これまで接してきてよく知っている。
「え…?」
「葉月さんが優しい人だって知ってる。心から学校のことを大切に思っていて、誰かのために動ける人なんだって知ってるから…だからこそ、知りたいんだ。どうして、スクールアイドル活動を止めようとしているのか」
「それは……」
そこまで言って、彼女は言葉を詰まらせた。
瞳を揺らして、逡巡すること数十秒。彼女は、ようやく口を開く。
「ごめんなさい。それは、言えません…」
そう答えた葉月さんの声は震えていて、とても悲しげで、寂しげな表情に見えた。
けど、その奥にある瞳の輝きからは、強い決意のようなものを感じた。
「葉月さん…」
「これは、
「……わかった。なら、無理に聞くつもりはないよ」
彼女自身がそう言うなら、これ以上無理に聞くのは野暮ってものだ。そう思い、これ以上追求するのはやめた。
きっと彼女は、何か大きなものを抱えているんだろう。俺はそれがどんなものなのかは知らないから、軽々しく聞き出すことはできない。
だけど、葉月さんがこの先ずっと一人で抱え込んで、心に傷を作ってしまうようなことにはなってほしくない。
「でも、ひとつだけ言わせて」
だから、そんなせめてもの願いを込めて伝える。
「もし、何か困ったことがあったら、いつでも頼ってね」
「音居さん…」
「俺にできることは、そんな大したことじゃないかもしれないけど…何か困ってる時とか、話を聞いてほしい時でもいい。いつでも、なんでも言ってね。"友達"、なんだからさ」
今の俺には、こんなことを伝えるぐらいしかできない。
葉月さんの背負っているものの大きさを知らないから…
でも、それでも…ほんの少しでも、彼女の心が軽くなればいいな。
そう願う、俺なのであった。
──次回『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』
「憧れのサニパ様と一緒にライブができるナンテ…」
次のラブライブ!優勝候補とも言われている人気スクールアイドル─Sunny Passionとの合同ライブが決まった、結ヶ丘のスクールアイドル。
そんな中、千砂都はひとり浮かない様子を見せていた。
「夏休みの間、かのんちゃんたちとは別行動をとろうと思うの」
そして、迷いを抱える千砂都を狙うヌッラが現れる。
「お前…千砂都に何をした!!」
『#17 憧れの先へ』
─────
『#16 寄り添う心』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!
今回も準備でき次第、活動報告の方で#16について少し話そうと思っています。そちらもよかったら遊びに来てください!
お気に入り登録や感想、評価等いただけると大変励みになります。
もしよろしければ、よろしくお願いします!
次回『#17 憧れの先へ』は、8月5日 20時に投稿予定です。
次回もお楽しみに!