─登場人物─
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結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、仮面ライダームジカの変身者。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
スクールアイドルに憧れて上海からやって来た。好きなものへの情熱は人一倍強い。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生。
かのんの幼馴染であり、丸いものが大好き。ダンスが得意で、結ヶ丘では音楽科に所属する。また、かのんたち結ヶ丘のスクールアイドルにダンスを教えている。
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警視庁 公安部に所属する刑事であり、階級は警部。
ヌッラ捜査のため、特別捜査官としてプロテクションにも所属している。
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プロテクション管轄の病院で勤務している医師。
外科医として診療に当たるほか、ヌッラの能力を受けた特殊な症例の患者も担当している。
季節は夏真っ只中。
高校生活初の夏休みに入って二週間が経過し、俺は悠々自適な生活を送っていた。
この二週間、ヌッラが現れることもなく平和な日々が続いている。夏の暑さで外に出る気力も湧かず、部活動にも所属していない俺は、家でのんびりと過ごしていた。と言えば聞こえはいいが、さすがに暇である。暇すぎて、夏休みの主な課題はほとんど終わってしまった。
「いや、よくない…よくないな…」
エアコンの効いた部屋で、ソファに寝っ転がりながらアイスを食べていた俺だったが、起き上がって真剣な表情で呟いた。何が悠々自適な生活だ。これじゃあただの自堕落な生活だ。一人暮らしで親の目もなく、ずっとゴロゴロしていたらどんどんと堕落していってしまう。
「よし」
せめて、今日は外に出よう。
時刻は18時を回っていて、直に日も落ちる頃だろう。暑さもだんだんと和らいでくることだし、買い物がてら外出しよう。そう思い立った俺は、身支度を済ませて玄関から外に出た。
「……暑い」
ぜんぜん暑かった。
茜色に染まった空の中しばらく歩いていると、見覚えのある人影が嬉しそうにスキップしている姿を見つけた。
「クゥクゥ?」
「カナトさん!」
俺の声に気づいたクゥクゥの様子は、やはりいつも以上にテンションが高い。しかも、こんな街中で何故か二人の女性が写るポスターが入った巨大額縁を持っている。
「練習終わり?」
「ハイ!!」
「お疲れさま。すごいご機嫌みたいだけど、なんかあったの?」
「ソレがですネ!ナント!!」
クゥクゥは興奮のあまり、俺との距離が数センチになるところまでぐいっと近づいて、額縁に入ったポスターをアピールしてくる。
「クク、ついにSunny Passion様に会ってしまいマシタ〜!」
「サニーパッション?」
どこかで聞いたことがある名前だ…それに様子から察して、サニーパッションというのはこの額縁に写る二人の女性ということだろう。
一人は紫色の瞳に、同じく紫色のロングヘアーで前髪を上げた大人っぽい女性。そしてもう一人は、緑みがかった瞳に黄色い髪をポニーテールに束ねた元気っ子そうな女性。
この人たち、どこかで見たような…あっ!
「もしかして、代々木スクールアイドルフェスで優勝した二人組の…」
「ソウです!はわわぁ…あのサニパ様に会っただけではナク、合同ライブをするコトになるとは…!」
まるで夢見心地、といった様子のクゥクゥ。
その発言から察するに、結ヶ丘のスクールアイドルであるクゥクゥ、澁谷さん、すみれは、そのSunny Passionと合同ライブをすることになったようだ。
「ハッ…!やはりコレは夢なのでは!カナトさん、ククのほっぺをツネてクダサイ!」
「大丈夫大丈夫、現実だよ」
流石に女の子のほっぺを抓るのは気が引けたので、苦笑しながら未だ興奮状態のクゥクゥを宥める。
Sunny Passionといえば、その洗練されたパフォーマンスでたくさんの人々を魅了しており、今最も勢いのあるスクールアイドルと言っても過言ではない。次のラブライブ!の優勝候補とも言われていると、前にクゥクゥが熱弁していたのを聞いたことがある。
確か、クゥクゥがスクールアイドルに憧れ、日本に来るきっかけとなったスクールアイドルも、彼女たちだったはずだ。
そんな憧れの人たちと出会い、合同ライブをすることになったとなれば、ここまで興奮してしまう気持ちもわかる。
「憧れのサニパ様と一緒にライブができるナンテ…こうなれば、もっともっと練習しなくては…!!」
「気持ちはわかるけど、ここ最近すっごく暑いから…」
──熱中症とかにならないよう、体調管理はしっかりとね。
そう注意しようとしたが、時すでに遅し。
「キュゥゥゥ…パタリ…」
「クゥクゥ!?!?」
この暑さと興奮、そして練習終わりということもあってか、突然クゥクゥの体から力が抜ける。そのまま倒れそうになった彼女の体を、俺は咄嗟に支えた。
「だ、大丈夫?」
「ハ、ハイ…ナントカ…」
意識はあるみたいだけど、汗もすごいし体も暑い。完全に暑さにやられてしまっている。
「クゥクゥ、ちょっと涼しい場所に移動するよ」
俺は彼女を背負って、この場から移動した。
「ヒュゥゥ…涼しいです…」
とりあえず近くにあったコンビニのイートインスペースを使わせてもらい、そこで買った冷えピタを貼り、クゥクゥを涼ませる。
「はい、これも飲んで」
冷えピタと一緒に買った経口補水液をクゥクゥに渡す。すると、喉が渇いていたであろうクゥクゥはすごい勢いで飲み始めた。
「んんー!甘くて美味しいです!元気、復活しまシタ!」
「でも、それが甘いって感じるのは脱水症状があった証拠だよ」
「そうナノですか?」
「うん。だから今日は水分をよく取って、ゆっくり休むこと」
それからしばらくすると、体にこもっていた熱も引いて、クゥクゥの体調もだいぶ良くなった。
とはいえ心配だったので、俺はクゥクゥが住むアパートの前まで送ってきた。
「カナトさん、ホントウにありがとうございました!」
「ううん。それより、今日は水分をとってしっかり休むんだよ」
「ハイ!」
俺の言葉にニコニコして答えたクゥクゥだが、どうも怪しい。
「まさかとは思うけど、これからまた自主練しようとか考えてないよね?」
「ギクッ…」
ご丁寧に図星だと口に出して認めてくれたクゥクゥに、呆れてため息が零れる。
「やっぱり…」
「カナトさんはなんでもお見通しですネ…ハッ!もしやエスパーなのですか!?」
「あはは…クゥクゥがわかりやすいだけだよ」
突拍子もない発言に苦笑する俺だったが、ふと思った。
いや待てよ。仮面ライダームジカだから、ある意味エスパーみたいなものなのか…?人間以上の能力が使えるという点では当てはまってるもんな…
なんて一人勝手に明後日の方向に進んでしまった思考を止め、再びクゥクゥに注意を促す。
「憧れのスクールアイドルに触発される気持ちはわかるけど、まずは健康第一。倒れて合同ライブに出られなくなったりでもしたら、元も子もないでしょ?」
「ハイ…ククは体力もないし、つい焦ってしまいまシタ…サニパ様と同じステージに立てるからと」
「クゥクゥのその頑張り屋さんなところは、すごくいいところだと思うよ」
少ししょんぼりとしてしまったクゥクゥを励ますように、俺は優しく声をかけた。
「……ククは、誰かに元気を届けて笑顔にできるようなスクールアイドルになりたいです。ククが、サニパ様に元気をもらったように…」
「うん、なれるよ。クゥクゥなら、絶対になれる」
「カナトさん…」
「だって、俺はクゥクゥたちのライブを見て、力をもらったから」
脳裏に浮かぶのは、代々木スクールアイドルフェスでのライブ。あの時、クゥクゥと澁谷さんの諦めない気持ちに力をもらったから、俺はスターライトという新たなムジカに変身することができたのだ。
「だから、焦らなくても大丈夫だよ」
俺の言葉を聞いていくうちにクゥクゥの表情は徐々に明るさを取り戻していき、最後にはとびっきりの無邪気な笑顔を見せて頷いた。
「ハイ!!」
クゥクゥと別れ帰路についた俺は、その道中の原宿駅の前で再び見知った顔を見つける。
「千砂都?」
クゥクゥの次は千砂都か。今日はよく知り合いに会う日だなぁ…なんて思いながら、俺は彼女に声をかけた。
「え…?あ、奏叶くん」
しかし、さっきのクゥクゥとは対照的に、千砂都にはいつものような元気がなく、どこか上の空のように感じる。俺が声をかけるまで、ずっと彼女が見つめていたパネルに視線を移すと、そこにはダンス大会の広告が載っていた。
「ねぇ、奏叶くん」
普段と違う千砂都の様子を疑問に思っていると、彼女が俺の名前を呼んだ。
「この後、ちょっと時間ある…?」
「んー…!まんまるぅ!」
食事がてら話をしようということになった俺たちは、千砂都の好物であるたこ焼きのお店にやってきた。今目の前では、千砂都が美味しそうにたこ焼きを頬張っている。
何を食べたいか聞くと、千砂都は真っ先にたこ焼きの名前を挙げた。バイト先もたこ焼きの屋台だし、よっぽどたこ焼きが好きなんだな。……いや、よっぽど丸が好きなんだな。
「あのね、奏叶くん」
たこ焼きを二個頬張ると、千砂都は食べる手を止めて真剣な眼差しで話を切り出した。
「夏休みの間、かのんちゃんたちとは別行動をとろうと思うの」
「えっと…それは、スクールアイドルの練習のこと?」
「うん」
「それじゃ、サニパとの合同ライブは…」
サニパとの合同ライブという一大イベント。千砂都が別行動を取るということは、澁谷さんたちは、そのライブに千砂都の助言なしで挑まなくてはならないということになる。
「えっ…知ってるの?」
「うん。さっき、たまたまクゥクゥと会って」
「そうだったんだ。実は私ね、さっきまでサニパの二人と話してたんだ」
千砂都は、サニーパッションの二人に、澁谷さんたちがスクールアイドルとしてどのレベルにいるのかを聞いてきたらしい。
二人曰く、澁谷さんたちは歌もいいしまとまってはいるが、ラブライブ!で勝つのは難しいチームと捉えているらしい。
その理由は、澁谷さんたちのダンスからは自分たちで動いているように感じられず、力強さがない。それは、ダンスに関してメンバーではない千砂都に頼り切っているから。
そう言われたため、千砂都はそのような決断をしたみたいだ。
「それで、澁谷さんたちと別行動を…」
「うん…それに、ちょうど今、ダンスの都大会の話をもらってて。学校を代表して出てみないかって」
千砂都はそう言いながら、スマホの画面を見せてくる。そこには、ダンスの都大会のポスターが表示されていた。
さっき駅で見てたポスターはこれのことだったのか…
「学校の代表に選ばれるなんて、すごいじゃん!」
なんて、ありきたりな褒め言葉しか出てこない俺だが、本当に驚いている。千砂都のダンスが凄いとは澁谷さんからよく聞いていたが、実際に見たことがない俺にとっては、どのぐらいのものなのかは詳しく知らなかった。
「だから、私はかのんちゃんたちと別行動をとって、このダンス大会に向けて練習に集中する」
そう言った千砂都の表情からは、並々ならぬ覚悟と決意が感じられた。
大会で勝つとか、澁谷さんたちのスクールアイドル活動のためとか、そういったものよりも、もっと大きな…
「ある意味、ちょうどいいタイミングだったのかもしれないな…」
千砂都のその言葉はきっと俺に言ったのではなく、自分自身に言い聞かせるような、そんな呟きなんだとと思う。
千砂都と出会ってまだ間もない頃、ダンスを始めた理由について聞いたことがある。
『"隣に立ちたい人がいる"からかな』
あの頃は、その人が誰なのか俺にはわからなかった。しかし、今ならわかる。それはきっと、澁谷さんのことなのだろう。
澁谷さんの隣に立つ。千砂都にとって、今回のダンス大会はそのためにも重要な舞台なのかもしれない。
「かのんちゃんたちには、明日話そうと思ってる」
「そっか。ダンス大会、頑張ってね」
いつもより少し強張った表情の千砂都に、俺は心からの応援の言葉を贈ることしかできなかった。
そして、たこ焼きを食べ終え店から出た俺たちは、異様な光景を目にする。
「あぁ…もう終わりだ…」
「どう生きていけばいいの…」
店の外の路上で何人もの人が蹲り、その全員が絶望したようにげっそりとした表情で震えている。
「あの人たち、どうしたんだろう…」
「俺、ちょっと見てくるよ」
俺は蹲っているうちの一人、仕事帰りであろうスーツ姿の男性に近づき声をかける。
「あの…大丈夫ですか?」
「ほっといてくれよ!明日も仕事で上司に怒鳴られ…明後日も、その次も…こんな人生もう終わりだぁ…」
いったい何があったんだ…?
この人ひとりなら、日々の仕事への不安やストレスが爆発し、限界がきたとも考えられる。でも、一気に何人もの人がこうなるのは明らかに異常だ。
こんな現象を引き起こせるのは…
俺がそう予感した時には既に遅かった。
「きゃあっ!?」
後ろから聞こえてきた悲鳴に気づき咄嗟に振り返ると、そこには錆びついた鉄のように禍々しい赤茶色の体を持つ怪物─ヌッラがいた。
細身で女性らしい体型だが、その体は分厚い装甲に覆われている。胸部、両肩、両足、腕と覆っている装甲だが、右手の肘から先の部分だけは剥き出しになっており、まるでピアノ線かの如く細く鋭利な右前腕。
腰より下の装甲はスカートのように放射状に広がり、まるでバレエ衣装のチュチュのようだ。しかもその装甲の形状は、まるで表彰状やメダルのようだ。
頭部はスポットライトのようになっており、表面のガラス面がひび割れている。その内部には無数の目が震えるように蠢いていて、より一層の不気味さを醸し出している。
更に、これまでのヌッラと異なる点が一つある。これまでなら胸部に見えるように埋め込まれていたレタルジアディスクだが、今回はその分厚い装甲の内側にあるのか、その存在すら確認できない。
そんなヌッラが、俺が目を離した隙に千砂都を背後から捕らえていた。
「…!?千砂都!!」
「うわぁぁぁ!?また怪物!?」
ヌッラが現れたことに気づき、周りで蹲っていた人々は悲鳴をあげ逃げ出していく。
「嵐千砂都…ようやく見つけたよ」
「「え…?」」
まるで千砂都のことを知っているかのようなヌッラの発言に、俺と千砂都は驚いて声を漏らす。
「ふふっ…」
すると、ヌッラは不敵に笑いながら、細く鋭利な右手で千砂都の頭を掴んだ。
「っ……」
頭を掴むヌッラの手から禍々しい煙が吐き出されると、千砂都は一瞬で意識を失ってしまった。
「千砂都!?」
「この子は返してあげる」
しまった…右手で掴まれたことによって、千砂都はヌッラのなんらかの能力にかかってしまった可能性が高い。
そして、能力にかけたからもう用はないというように、ヌッラは千砂都をこちらに投げ飛ばしてきた。俺は慌てて飛んできた千砂都を抱きかかえ、ゆっくりと地面に寝かせる。
「お前…千砂都に何をした!!」
「いいわ、教えてあげる。私の能力は、人の不安を増大させる能力」
「不安を増大…だから、さっきの人たちは絶望したように倒れ込んでいたのか…」
「そうよ。その子も目が覚めた時には…ふふっ、きっと大変なことになっているわよ」
「っ…!」
その時、俺は先程のたこ焼き屋での千砂都との会話が頭に浮かんだ。
くそっ…!
千砂都にとって大切なダンス大会を控えた状況で、こんなにも厄介な能力をかけられてしまうなんて…
たとえどんな理由があろうと、絶対に許さない!
一気に怒りが込み上げてきた俺は、拳を強く握り締め立ち上がった。
「だったら、千砂都が目を覚ます前に元に戻す」
「どうやって?」
「お前を倒して、だ!」
俺はステレオドライバーを装着し、スターライトエネルジアディスクを装填する。
「変身!」
『小さな輝きが 今 飛び跳ねる心を
解き放って どんな暗闇だって 照らしていく
この光が 温もりが 力をくれるんだ
逸る気持ちに身を任せて 始まりのスターライト』
俺は、煌めく星の戦士─仮面ライダームジカ スターライトに変身した。
「へぇ…やれるものなら、やってみなよ!」
あからさまな挑発をしながら構えるヌッラに、俺はスターライトの超スピードで一気に接近する。
「っ!?」
突然の接近に驚き無防備なヌッラに、右足で蹴りを放つ。
「はぁっ!…っ、なに!?」
しかし、腹部に力一杯の蹴りを入れたはずなのだが、ヌッラはビクともしない。
「速さには驚いたけど、その程度の力じゃ蚊に刺された程度だよっ!!」
「ぐっ!?」
そして、逆にヌッラの反撃を受けてしまい後ろへ吹っ飛ばされてしまう。
「くっ…」
スターライトはスピード力に特化した姿だ。その分、スピード以外のスペック値が低いため、攻撃力が弱いのが欠点でもある。しかし、攻撃に超スピードで動いた反動を加えることでその弱点も幾分かはマシになり、これまでのヌッラにはダメージを与えることができていた。
今の蹴りも超スピードの反動を加えていたはずなのだが、このヌッラにはそれも通用しないようだ。
「だったら…!」
「いくら早く動けても、あの程度の攻撃私には効かないよ」
余裕綽々といった態度のヌッラを前に、策を思いついた俺は再び地面を蹴り一瞬でヌッラに接近する。
そしてヌッラに辿り着くギリギリのところで、ステレオドライバーにブルースカイエネルジアディスクを装填する。
『未来はきっとブルースカイ』
空中で、俺は澄み渡る青空の戦士─仮面ライダームジカ ブルースカイに姿を変えた。
「っ!?姿が変わった…?」
ブルースカイは、バランス力に特化した姿。スターライトでいう速さのように一つの卓越した力は秘めていないが、その分、全てのスペックが均等な強さを持っている。そのため、スターライトよりも凡そ10倍と力で攻撃することができる。
「はぁぁぁぁぁっ!!!」
地面に着地すると同時に放つ、全力のパンチ。これなら、ヌッラにもダメージを与えることができる。そう思ったのだが…
「くっ……ふふっ」
「なに!?」
「さっきよりも少し効いたけど、こんなものか。はぁっ!」
「ぐぁっ!?」
ブルースカイでの攻撃も効かなかったようで、再びヌッラの反撃を受け呆気なく吹き飛ばされてしまう。
「パンチなら、このぐらい強いのじゃなきゃね」
「くっ…!」
「いいこと教えてあげる。私がこの力に目覚めた時に聞いたけど、私は他の怪物より防御力に優れているらしいわよ」
確かに、今までのヌッラだったらさっきの攻撃は効いていたはずだ。それが効かないとなると、このヌッラは分厚い装甲に覆われているその見た目通り、防御力が高いということなのだろう。
「口ぶりの割に大したことなかったわね、ヒーローさん?」
「っ…」
「ま、目的は果たしたし…ふふっ。これで私は勝ったも同然ね」
「待、て…!」
この場から立ち去ろうとするヌッラを追いかけようとしたが、先程の攻撃のダメージで思うように体が動かず、その隙にヌッラの姿は消えてしまっていた。
この場でヌッラを倒して、千砂都にかかった能力を解かなければいけなかったというのに…!
「くそぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
悔しさのあまり、地面を思い切り殴りつけながら叫び声をあげた。
「……何やってんだよ、俺は…!こんな大事な時に…肝心な時に限って、千砂都を守れやしない…」
ずっと手伝ってきたスクールアイドル活動から離れ、大事な大会に挑むという決断をした時に、千砂都を守りきれなかった。このままじゃ、千砂都は…
「……今はとにかく千砂都だ」
しかし、まずは未だ気を失っている千砂都を早く病院に運ばないといけない。そう思い、俺は変身を解き千砂都のそばに駆け寄る。
「千砂都…?千砂都…」
何度か呼びかけると、千砂都はゆっくりとその目を開いた。
「っ………奏叶、くん…?」
「千砂都!大丈夫か?」
「う、うん…なんとも、ないよ…」
「本当に…?」
「……うん、なんともないみたい」
千砂都は自分の体を確かめるように手を何度か握ってみたりしてから、なんともないと答えた。
あのヌッラの能力を受けた人は、抱えている不安が増大し精神が不安定になると言っていた。
ヌッラと遭遇する前にいた能力を受けた人たちの様子からも、その通りなのだろう。彼らは、こんな街中でまともに会話ができないほどに泣き叫び、蹲ってしまうほど恐怖を抱えていた。
それなのに、今の千砂都は俺と普通に会話ができている。
たまたま、ヌッラの能力が不発だったのか…?
しかし、それだけで大丈夫と決めつけるのはまだ早い。そう思った俺は、千砂都を連れて先日俺が入院していたプロテクション管轄の病院までやってきた。
千砂都は大丈夫だと言ったのだが、ヌッラの能力を受けた可能性があるためそうもいかない。
今、千砂都は診察中。俺は診察室の外で、連絡を受けてやってきた九重さんに、ことのあらましを説明している。
「そうか…それで、君は大丈夫なのか?」
「俺は特に何も…ただ、ヌッラには手も足も出ずにやられてしまいました…」
「不安を増大させる能力に、攻撃が効かない高い防御力…厄介だな」
「はい。どうやったら、攻撃が通るのか…」
「そうだな。それにしても、そのヌッラの目的が何か…ただ無差別に、人の不安を増大させるだけなのか…」
「それが…あのヌッラは、千砂都を狙っていたのかもしれません」
あのヌッラは、千砂都の名前を知っていた上に、ようやく見つけたと言っていた。まるで、最初から千砂都をターゲットにしていたかのような言い方だ。
「でも、どうして千砂都が…」
俺がそう頭を悩ませていると、診察室の扉が開いた。そこから出てきたのは、ヌッラの能力による症状などを担当する医師、春日井想太先生だ。
「春日井先生。千砂都は…?」
「はっきり言うと…彼女はヌッラの能力を受けている」
「えっ!?でも…」
千砂都は他の人とは違い、不安に駆られた様子はなかった。
「嵐さんから、ヌッラの能力の残留反応が検出されたから、間違いはないよ」
「そんな…」
「本来なら入院して経過を観察するところなのだが、彼女がそれを強く拒否してね。他の患者と違って生活するのに支障はないみたいだから、無理に入院させるわけにもいかなくって…」
さっきの様子からしても、千砂都なら普段通りの生活を送ることができるだろう。千砂都自身がそれを望んでいるなら、そうするしかない。
「頑なに入院したくない、やらないといけないことがあるって、力強い目で訴えてきた嵐さんからは、なんだか君と似たところを感じたよ」
やらないといけないこと…ダンス大会のことだ。
ヌッラの能力を受けても尚、自分のするべきことを見据えている彼女の芯の強さに、俺はある種の衝撃のようなものを感じていた。
「もし彼女があのヌッラのターゲットにされているとしたら、既に能力を受けたとはいえ再び狙われる可能性がある」
「奏叶くん。申し訳ないけど、嵐さんのこと頼んでもいいかな?」
「もちろんです。千砂都は、大切な友達ですから」
今度こそ…今度こそ絶対に。
「絶対に守ります」
もう夜も遅いからと、千砂都と共に九重さんが車で送ってくれることになり、俺たちは彼の車の後部座席に乗り込んだ。
「千砂都、本当によかったの?」
大事な大会を控えている上に、怪物に襲われて、ただでさえ精神的に不安定な状態だ。そこに畳み掛けるように不安を増大させるという能力を受けた千砂都は、やはり病院にいた方が安全だろう。
「うん。今度の大会は、私にとって大事な大会だから」
「そっか…」
「それに…」
すると、千砂都は隣に座る俺の顔を覗き込んでにっこりと笑うと、俺の瞳をじっと見つめて言う。
「守ってくれるんでしょ?」
その純粋かついたずらっ子のような笑みから、千砂都が俺を信頼してくれているのだと感じた。そのことに驚いた俺の心臓は、ドクンと大きく鼓動する。
どうやら、さっきの診察室の外での会話は、彼女にも聞こえていたようだ。
「あぁ…!」
なんだか気恥ずかしくなってしまった俺は、そう短く、けれども力強く頷いた。
そのことに、「えっへへ」と嬉しそうに笑う千砂都。
「でも、無茶はしちゃダメだよ?奏叶くんが無茶するのは、この間のかのんちゃんの時のことでよーくわかってるんだから」
この間は別空間に囚われ、仮面ライダームジカに変身することができなかった。とはいえ、俺が仮面ライダーであることを知らない千砂都や澁谷さんからしたら、無茶して最終的には入院する羽目になってしまったと思うのも無理はない。
「相手は怪物なんだし、奏叶くんだって立ち向かったらただじゃ済まないんだから…」
春日井先生の診察で、千砂都があのヌッラの能力を受けていたことが確定的となった。ということは、千砂都は内にあるその大きな不安を押し殺しているだけで、今だって不安が募って仕方がないはずだ。
それでも、ずっと明るく気丈に振る舞って、俺の心配までしてくれる。そんな彼女の心の強さと優しさを感じ、より強く決意を固める。
今度こそ、何があっても千砂都を守る。いや…
一刻も早くあのヌッラを倒して、千砂都が受けた能力を解いてやる!
しかし、そんな俺の決意も虚しく──あのヌッラが現れることはなかった。
──次回『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』
「さーて…私もダンスの練習、頑張らないとなーっ!」
ダンスの都大会に出場するため、Sunny Passionとの合同ライブがあるかのんたちとは別行動を取ることになった千砂都。しかし彼女は、ヌッラによって増大させられた大きな不安を抱えていた。
一刻も早くヌッラを倒し、千砂都にかけられた能力を解除しようと奔走する奏叶だったが、ヌッラの手がかりが何も掴めない状況が続いていた。
「葉月さん。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど…」
千砂都を心配する奏叶は、葉月恋にある協力を頼むのであった。
「千砂都には、何度も助けてもらった。だから今度は、俺が千砂都の力になりたいんだ」
『#18 キミのまなざし』
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『#17 憧れの先へ』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!
そして、#16の活動報告の方がまだ完成しておらず、大変申し訳ございません。#16、今回の#17と、完成次第投稿していく予定です…!本当にすみません!
お気に入り登録や感想、評価等いただけると大変励みになります。
もしよろしければ、よろしくお願いします!
次回『#18 キミのまなざし』は、8月8日20時に投稿予定です。
お楽しみに!