─登場人物─
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、仮面ライダームジカの変身者。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
人前では緊張して歌えないという悩みを抱えていたが、可可の想いに触発されて共にスクールアイドルを始めた。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
スクールアイドルに憧れて上海からやって来た。好きなものへの情熱は人一倍強い。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生、音楽科に所属する。
幼馴染であるかのんが所属するスクールアイドルにダンスを教えているが、学校代表としてダンスの都大会出場が決まり、夏休み中はかのんたちとは別行動を取ると決めた。
そんな中、ヌッラの不安を増大させるという能力を受けてしまった。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
幼い頃からショウビジネスの世界で活動してきた。表には見せないが努力家であり、ショウビジネスの世界で培ってきた様々なことを器用にこなす。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生、音楽科に所属する。
お淑やかで、とても真面目な人物。学校のことを誰よりも大切に思っているが、何故かかのんたちのスクールアイドル活動は認めていない。
【
プロテクションの長官補佐。
長官の補佐以外にも、奏叶の戦いのサポートも主な仕事である。
【
結ヶ丘高等学校の音楽科教師。
ラフかつ飄々とした性格で、よく屋上でいちごミルクを飲んで休息をとっている。親しみやすいと生徒からの人気は意外と高い。
「くそっ!!!」
自宅にて、俺は焦りと苛立ちの感情のまま大声を吐き出した。
不安を増大させる能力を持つヌッラ─アンシャ・ヌッラの能力を千砂都が受けてしまってから一週間。アンシャ・ヌッラは、一向に姿を現さなかった。
あの日以降、夏休みで時間が有り余っている俺は一日のほとんどをアンシャ・ヌッラ捜索に当てていた。今日も朝から街中を駆け巡り、先ほど帰ってきたばかりだ。
加えてプロテクションの人たちも必死に捜索しているが、アンシャ・ヌッラと遭遇するどころか、誰かに能力を使った痕跡も、目撃情報すら何一つ手がかりは掴めなかった。
千砂都のダンス大会は、もう明後日にまで迫っている。
一刻も早く、千砂都にかかっている能力を解かなければいけないのに…
「あ…もうこんな時間か」
ふと時計を確認した俺は、家を出なければいけない時間だと気がついた。
今日は澁谷さん、クゥクゥ、すみれがSunny Passionとの合宿、そして合同ライブのため神津島行きのフェリーに乗る日だ。俺と千砂都は、3人を見送りに行く約束をしている。
とにかく、行くか。それに、千砂都の様子も確認しておかないと…
この一週間、こまめに千砂都と連絡を取ったり、アルバイト先のたこ焼き屋さんに顔を出したりして彼女の様子を伺ってきた。しかし、千砂都は未だにヌッラの能力を受けた様子を見せず、気丈に振る舞っている。
3人の見送りと千砂都の様子を確認するため、俺は再び家を出てフェリーの発着所に向かった。
「練習メニューと振り付け作ってみたから、あとで見てみて」
「ちぃちゃんもダンス、頑張ってね!まさか代表に選ばれてたなんて」
「スケジュール重なっちゃってごめんね」
フェリー乗り場にて、千砂都が考案した合同ライブまでにやっておくべき練習メニュー、そして披露する楽曲の振り付けを記したデータを、澁谷さんのスマホに送って声をかけていた。
今回、千砂都が手助けするのはここまで。後は実際にライブを行う澁谷さん、クゥクゥ、すみれが、自分たちの力でそれをどれだけ形にできるのかというところに懸かっている。
「あとは任せなさいっ!」
すると、すみれの明るい声が響いた。
「私がみっちり、ショウビジネスの世界のダンスを叩き込んでおくわ!」
「グソクムシダンスはイラナイですよー?」
「グソクムシ言うなー!」
自信満々なすみれにちょっかいを出すクゥクゥ。それにムキになったすみれがクゥクゥを追いかけ回すという、すみれがスクールアイドルに加入してからは割と日常茶飯事な光景が繰り広げられている。
千砂都と澁谷さん、すみれとクゥクゥの和やかな様子を目にした俺は、ここのところずっと張り詰めていた緊張がほんの少しだけ解けて笑みを零した。
それにしても、クゥクゥの言うグソクムシダンスとは一体何のことなのだろうか。
そういえば、グソクムシっていうと…
「奏叶くんも、見送りに来てくれてありがとう」
思考がふと謎のグソクムシダンスに引っ張られていると、澁谷さんが今度は俺のところにやってきた。
「ううん、Sunny Passionとの合同ライブなんてすごいね」
「えへへ」
「当日は見に行けないけど、こっちから応援してるね!」
千砂都を襲ったヌッラを倒せていないどころか、居場所や正体など、なんの手がかりも掴めていない。ライブ当日までに状況がどうなっているかわからないため、神津島までライブを見に行くのは厳しいと、今回は泣く泣く断念した。
「その気持ちだけですっごく嬉しいよ!頑張ってくるね、奏叶くん」
澁谷さんの言葉に、俺は笑顔で頷く。
「よーしっ、じゃあクゥクゥちゃんもすみれちゃんも集まってー!!」
澁谷さんが未だ戯れあっている二人を呼ぶ。
何をするのかはわからないが、その様子から澁谷さんたちのライブ、そして千砂都のダンス大会に向けての気合い入れを行うのだろうと察しがついた。それならスクールアイドルにもダンス大会にも部外者である俺はいない方がいいだろうとこの場を離れようとする俺だったが、澁谷さんに腕を掴まれる。
「ほらほら、奏叶くんも!」
ニコッと笑い、ピースの形にした手をアピールする澁谷さん。
「う、うん…」
戸惑いつつ、俺も合わせてピースの形を作る。
「「うぃっす!」」
澁谷さんと千砂都がピースの形にした手を前に出しながら、千砂都がよく挨拶に使うフレーズを口にする。
「「「うぃっす!」」」
それに続き、俺、クゥクゥ、すみれもピースにした手を前に突き出す。
「「「「「うぃっすー!」」」」」
そして、最後は全員で掛け声と共に手を思いっきり上に掲げた。
その瞬間、ふと隣に立つ千砂都の顔を盗み見た。大切な幼馴染である澁谷さんや、大切な友人であるクゥクゥとすみれと顔を見合わせながら笑っている。その様子は一見いつも通りなのだが、きっと、ヌッラの能力で植え付けられたとてつもない不安を押し殺しているのだろう。誰にも、心配かけないようにと…
「さーて…私もダンスの練習、頑張らないとなーっ!」
その後、澁谷さんたちが乗り込んだフェリーの出発を見届けた俺と千砂都。
進んでいくフェリーの後ろ姿を見つめながら、千砂都はぐっと伸びをしながら明るい声音で言った。
しかし、彼女のその声には違和感があった。どこか無理して明るく作ったような声音…
更に、そんな彼女の両手が視界に入って気がついた。その両手が、僅かに震えていることに。
やっぱり、千砂都はずっととてつもない不安を抱えていたんだ。そんな中で、大会に向けてダンスの練習も必死に頑張って、俺たちの前では何事もなかったかのように気丈に振る舞っていた。
更には、ずっと一緒にいた幼馴染と離れることになり、より不安も大きくなっているのかもしれない。
ダンス大会は、明後日の午後。
それまでに、なんとしてでもアンシャ・ヌッラを倒して、千砂都にかかった能力を解かないと…!!
─翌日─
「はぁ…」
これまでずっと不安な様子を隠し続けてきた千砂都が、初めて見せたあの手の震え。昨日の一件でどうしても千砂都の様子が気になってしまった俺は、夏休みで特に用もないのに結ヶ丘高等学校に足を運んでいた。
この時間なら、おそらく千砂都は大会に向けて音楽科のレッスン室でダンスの練習をしているはずだ。とはいえ、俺は部活動に所属していない上に、普通科所属のため基本的には音楽科のレッスン室に入ることはできない。
「つい勢いのまま来ちゃったけど、どうしようか…」
俺は中庭のベンチに座り込み、頭を抱えていた。
すると、そんな俺に声がかかる。
「音居さん?」
「あ、葉月さん」
「こんにちは。それにしても、どうして学校に?確か、部活動には所属されていなかったですよね?」
「あ、あー…えっとぉ…」
千砂都がダンス練習してると思って、と正直に答えると、事情を知らない彼女にストーカーだと思われてもおかしくない。
なんて答えるべきか、俺は苦笑しながら頭を悩ませる。
いや、待てよ…これは逆にチャンスかもしれない。
音楽科所属の葉月さんなら…
「あのさ、葉月さん。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど…」
「はい?」
恐る恐るお願いがあると申し出る俺に、葉月さんはきょとんとした顔をする。
そんな彼女に、俺はあるお願いを口にする。
「嵐さんの様子を見てきてほしい、ですか?」
「うん、ここ最近ちょっといろいろあってね。それに明日のダンス大会は、千砂都にとって今まで以上に大切な大会みたいだから、心配というか…」
流石にヌッラのことを話すわけにもいかないので、どうしても曖昧な説明になってしまう。
「ごめん。葉月さんもいろいろ忙しいだろうに…」
「いえ…」
こんな意図がイマイチ読めない頼み、流石に引き受けてもらえないか…
「わかりました。では、嵐さんの様子を見てきますね」
「いいの!?」
まさかの二つ返事で承諾してもらえたことに、つい驚いてしまう。
「はい。確かに、音居さんが音楽科のレッスン室に行くのは少し難しいでしょうし…
「ありがとう!本当に、助かるよ」
「それでは、行ってきますね」
ふふっと微笑んで引き受けてくれた葉月さんは、早速千砂都の様子を見るため音楽科の校舎へと向かった。
「ふぅ…」
思わぬ展開だったが、結果オーライだ。
そう安堵し、再びどさっとベンチに腰を下ろす。
千砂都は、自分が怪物の能力を受けたと知っている俺の前では、心配かけないようにとより気丈に振る舞ってしまう可能性がある。逆に詳しい事情を知らない葉月さんになら、また違った様子を見せるかもしれない。
とりあえず、今は葉月さんに任せて待つしかないか…
「よぉ」
すると、今度はこの学校では珍しい男性の声が聞こえた。
「あ、桜葉先生。こんにちは」
紙パックのいちごミルクを片手に立っていたのは、緩い天然パーマと無精髭が特徴的な音楽科教師─桜葉大翔先生だ。
「おう。せっかくの夏休みだってのに、なーにしけたツラしてんだよ。青春しろ青春」
「はぁ…」
実際、今の俺は彼の言うようにしけた面をしているのだろう。なんせ大会を翌日に控えているのに、未だ千砂都を元に戻すための足掛かりが何も掴めていない状況なのだ。
そりゃそういう顔にもなりますよ…なんて言えるわけもなく、俺はただただため息を吐く。
すると、桜葉先生はそんな俺の肩をポンポンと軽く叩いた。
「何があったのかは知らねーが、もう少し肩の力を抜いてみろ」
「え?」
「ずっとガチガチしてたら、できるもんもできなくなるぞ」
桜葉先生に言われてハッとした。千砂都を元に戻すためにと一杯一杯だった俺は、ずっと肩に力が入っていた。
確かに、こんな状態じゃ考えもまとまらないよな…
「ありがとうございます…桜葉先生」
「別に、俺は何もしてねーだろ」
普段は屋上でだらけていたり、のらりくらりとしていて先生らしくない先生ではあるが、いざという時はこうして頼りになる良い先生だな…
「てか音居、夏休みだってのになんで学校いるんだ?」
「え?あー…」
さっき葉月さんとも似たような会話したなぁ…なんて思いながら、俺は再びどう答えるか頭を悩ませる。
「なんていうか…ちょっと、ダンスの練習してる千砂都が気になって…」
しかし、結局いい誤魔化し方が見つからず、素直かつ端的に白状することにした。
「千砂都?あぁ、嵐か。気になってって…お前、嵐のこと好きなのか?」
「っ!?ごほっごほっ…」
あまりにも飛躍した結論に、俺は驚きのあまり咽せて咳き込んでしまった。
「いいねいいねー、青春してんねー」
慌てふためく俺を他所に、桜葉先生はケタケタ笑いながらいちごミルクを飲んでいた。
全くこの人は…!まあ確かに、俺の言い方も悪かったかもしれないが…
「ちっ、違いますよ!気になるって、そういうことじゃなくって…」
「ん?」
「千砂都、ちょっといろいろあって落ち込んでるっていうか…それで、大切な大会の前日だから心配になったってだけです」
「ほーん……そういえば、嵐が代表に選ばれたっていうダンス大会は明日だったな。教師の間でも話題になってたぞ」
「そうなんですか?」
「あぁ。なんせ都大会だからな。それに、今回の出場者の中に嵐と関わりが深い出場者がいるらしい」
「え?」
なんとなく聞いていた桜葉先生の話から出た"千砂都と関わりが深い"出場者という情報。
「それって、誰のことなんですか?」
「あー、名前は忘れちまったけど…」
桜葉先生の話によると、その人物は千砂都と同級生で、千砂都よりも幼い頃からダンスを習っていたらしい。習い始めの頃から、ずっとダンス大会で賞を総なめにするほどの実力者だった彼女だが、ある時からそれが変わった。
「……あ。もしかして、千砂都がダンスを始めたから、ですか…?」
「そうだ」
俺の言葉に頷いた桜葉先生は、再び説明を続ける。
それまでは件の同級生の独壇場となっていたダンスのジュニア大会だが、そんな彼女に匹敵するほどのダンスの腕前を持つ千砂都が現れた。次第には千砂都が勝利する大会も増えていき、周囲は二人をライバル関係だと持て囃すようになったらしい。
「中学生になってからは、嵐は一度も負けたことはないんだとよ。とはいえ、二人が同じ大会に出るのは久しぶりで、明日の大会は二人の勝負にも注目が集まってるらしいぞ」
「……っ…!?」
そこまで聞いて、俺の中に一つの仮説が生まれた。
「…どうした?」
異様にその話に食いついた上に、何かに気づいて目の色を変えた俺を見て、桜葉先生は怪訝な表情を浮かべている。
「もしかして…」
これはあくまで俺の想像に過ぎない。なんの証拠もなければ、俺はその千砂都のライバルと言われている人の性格や顔、名前すらも知らない。
でも…
『ふふっ。これで私は勝ったも同然ね』
去り際のアンシャ・ヌッラの言葉が、もし千砂都が出場するダンス大会のことを指していたのだとしたら…
「おーい、音居ー?」
「桜葉先生!」
「うぉっ!?」
いきなり肩を掴みすごい勢いで名前を呼んできた俺に、桜葉先生はいつもは気怠そうな半開きの目をかっぴらいて驚く。
「きゅっ、急にどうしたんだよ…?」
「その千砂都のライバルって人の名前、どうにかしてわかりませんか?」
「え…あー、もう出場者は発表されてるから、大会の公式サイト見れば…」
そう言って、桜葉先生はスマホで大会の出場者一覧を調べ出した。
「お…ほら、こいつだな」
どうやら件の出場者を見つけてくれた桜葉先生が、スマホの画面のとある名前を指差して教えてくれた。
「この人が…桜葉先生、ありがとうございます!」
「お、おう。なんかよくわかんねぇけど…そんじゃ、俺はそろそろ行くわ」
桜葉先生はベンチからゆっくりと立ち上がると、ひらひらと手を振りながら去っていった。
そして、俺は取り出したプロテクフォンでダンス大会の出場者一覧のページを開き、忘れない内にさっき聞いた名前を記憶しておく。
「音居さん!!」
すると、千砂都の様子を見に行ってくれていた葉月さんが、慌てふためいた様子で戻ってきた。
「もしかして、千砂都になんかあった!?」
「それが…」
そこまで言って、葉月さんは近くに誰かいないか気にするように周りに目線を向ける。そして誰もいないことを確認すると、俺に近づき声を潜めて言う。
「嵐さんのカバンから、退学届が…」
「たっ!?」
退学届!?
えっ…いや退学届!?
アンシャ・ヌッラの能力は内にある不安が増大するというもの。そんな能力を受けてしまった中、幼馴染の澁谷さんと離れ、ダンス大会に挑もうとしている千砂都の心はかなり不安定になっているのかもしれない。それが心配で、葉月さんに彼女の様子を見てきてもらった。
しかし、なんで退学届…?
あまりにも唐突に出てきた"退学届"という存在に、俺は困惑を隠せずにいた。
「千砂都はそこまで心が不安定になっていたってこと…?え、でもなんで退学届…?実は新しいスイーツか何か…?」
「おっ、音居さん!とにかく落ち着いてください!」
葉月さんにガシッと肩を掴まれたことで、俺は遠のきかけていた意識を取り戻した。
「あ、あぁ…ごめん…」
「その…
「ううん。むしろ、無理なお願いしちゃったのにありがとう。あとのことは、なんとか考えてみるよ」
「どうして、嵐さんのためにそこまで…?」
葉月さんは、クラスも学科も違う千砂都のことで、俺がここまで取り乱す理由が気になったのだろう。しかし、それについて聞いてもいいものなのかと、控えめな様子で聞いてきた。
「……千砂都は、俺がこっちに来てから初めてできた友達なんだ」
この辺りに引っ越してくる前の俺は、かなり精神的に不安定な状態だった。
怪物に襲われ、大好きな歌が歌えなくなり、人生もうドン底だとさえ思っていた。もう一度歌えるようになる手がかりも見つからず、生きる意味さえわからなくなっていた。
そんな中で、環境を変えてみようと思い立ってやってきたこの街。自分で決断したことではあるが、それでも不安が大きかった。
そんな時に、千砂都と出会った。
『同い年だったんだ!よろしくね、奏叶くん!』
入学式の前日、たまたま立ち寄った澁谷さんの家の喫茶店での出来事。
今思い返せば、あれがなかったら、千砂都とも、澁谷さんとも、クゥクゥとも、すみれとも、友達になることはなかったのかもしれない。もしそうなっていたら、彼女たちの想いに触れることもなく、俺は仮面ライダームジカになれていなかったのかもしれない。
「俺にとって、そんな千砂都の存在はとても大きかったんだ」
『もーっ!せっかく同じ学校に通う友達になれたんだから、そんな素っ気ない呼び方じゃなくて気軽に名前で呼んでよ!』
まだ出会って間もない俺を、友達と言ってくれた。
それは、一人でこれからどうしていけばいいのかもわからなかった俺にとって、とても大きな助けとなった。
「それに、俺が悩んでる時はいつも背中を押してくれた」
仮面ライダーとして戦うかどうか悩んでいた時も、仮面ライダームジカになってからも、彼女の前向きな言葉と優しさに何度も力をもらった。
以前、千砂都にダンスを始めた理由を聞いた。
『"隣に立ちたい人がいる"からかな』
それは、きっと澁谷さんのことだろう。
高校生になってからの千砂都と澁谷さんの関係しか知らない俺は、過去にどんなことがあって、千砂都がそう思っているのかは知らない。
だけど、千砂都はずっとそう願い続けてきたのだろう。
そのために、ずっと努力を重ねてきたのだろう。
そして、その願いをかけた今回の大会…
『そのためなら、私はどんなことだって乗り越えてみせるよ!』
彼女がずっと抱いていた願い。それを語った時の千砂都の力強い眼差しが、俺の脳裏に浮かんだ。
一緒にいたにもかかわらず、アンシャ・ヌッラから守れなかったという負い目もある。
だけど…なによりも、自分の目標に向かって真っ直ぐに立ち向かう千砂都の強さを、俺は守りたいんだ…!
「千砂都には、何度も助けてもらった。だから今度は、俺が千砂都の力になりたいんだ」
葉月さんの質問に対して、俺は素直にそう答えた。
そんな俺を見た彼女は、納得したように笑っていた。
「嵐さんが聞いたら、きっと喜びますよ」
「そうかな?」
話し終えると途端に照れ臭くなり、俺は頬を掻きながら視線を泳がせてしまった。
さてと…千砂都の退学届のことはかなり気がかりだが、葉月さん曰く、それ以外は特に変わった様子はなかったそうだ。今も千砂都は音楽科のレッスン室で練習中なので、どの道、今は俺にはどうすることもできない。
退学届の件に関しては、葉月さんがまた探りを入れておいてくれるそうなので、俺は今自分にできることをするために動き出した。
その後すぐに学校を出た俺は、急いでプロテクションベースに向かった。
「鼓野さん!」
プロテクションベースのメインルームに入るのとほぼ同時に、俺は鼓野さんに声をかけた。
「アンシャ・ヌッラの正体がわかるかもしれないんです!」
「本当ですか!?」
突然の手がかりに驚く鼓野さんに、俺はプロテクフォンに表示した千砂都が出場する大会の出場者一覧を見せる。
「この人かもしれません」
その出場者一覧の中から、ひとつの名前を指差して言った。
「瀬川、渚…?」
桜葉先生から聞いた千砂都とライバル関係にある出場者。
それが、
彼女は幼い頃からダンス大会で優勝し続けてきた。
しかし、突如として現れた期待の新星である千砂都。それにより、彼女は徐々に優勝という結果を得ることができなくなってしまった。
そんな彼女の背景に加え、アンシャ・ヌッラが千砂都を狙っていたこと。
去り際のアンシャ・ヌッラが、「これで勝ったも同然」と発言していたこと。
これらを照らし合わせると、アンシャ・ヌッラの正体はその瀬川渚という人物の可能性が高いのではないか。
「まだ確定とは言えませんが、調べてみる価値はありそうですね…」
俺の推察を聞いた鼓野さんはそう呟いて、九重さんたちに瀬川渚という人物について調査するよう連絡を入れた。
「ですが…あれ以来、アンシャ・ヌッラは現れた形跡すらありません。ダンス大会で優勝することが目的なのだとしたら、ライバルである嵐千砂都さんを能力にかけた今、もうヌッラとしては行動を起こさない可能性が高いです。そうなってしまえば、明日の大会までに正体を暴くことは…難しいと思います」
「それでもっ!最後まで、諦めたくないんです…!」
千砂都は、今だって諦めるなんて微塵も考えちゃいない。
どんなに大きな不安を感じていようが、それを押し殺して必死に大会に向けて練習している。
そんな彼女のために、俺は絶対に諦めたくない。
できることは、なんだってしたいんだ。
「わかりました。もちろん、我々も最大限できることをするつもりです」
諦めたくないと必死に訴える俺に応えるように、鼓野さんは力強く頷いた。
それからしばらくして、瀬川渚について調査していた九重さんや狼谷さんから報告の連絡を受けた。しかし、やはりこれといってヌッラだと断定できるような情報はなかった。
そうなってしまえば、なんの証拠もないのに無理やり容疑者を取り押さえるなんてことはできず、どうすることもできない。
引き続き、捜査員の人たちが瀬川渚の周囲に張り込んで彼女を監視しているそうなのだが、それで正体を暴くことは難しいだろう。
ようやく正体が掴めそうだったってのに…どうすることも、できないのか…!
プロテクションベースからの帰路、すっかり日が沈みきった夜空の下、俺は何もできない悔しさに歯を食いしばっていた。
そんな中、ふと見上げた空には綺麗なまん丸の満月が光り輝いていた。
「満月、か…」
千砂都は、この満月を見てるのかな…
彼女の大好きなまん丸。これを見て、少しでも気晴らしになってくれてたらいいんだけど…
なんて考えていると、俺のプロテクフォンに一件のメッセージが届いた。
「澁谷さんから…?」
【ちょっと電話してもいい?】
澁谷さんからのメッセージに了承の旨を返信すると、すぐに彼女から電話がかかってきた。
『あ、奏叶くん。ごめんね、急に』
「ううん。どうかした?」
『……今日、ちぃちゃんと会った?』
「いや、会ってないよ」
葉月さんに様子を見に行ってもらったので、正確に言うと直接は会っていないになるのだが…澁谷さんもライブ前で忙しいだろうし、千砂都も退学届のことは知られたくないだろう。
そう思い、この件は伏せておくことにした。
『そっか。明日の大会、奏叶くんは見に行くの?』
「うん、そのつもり」
少しの沈黙の後、澁谷さんは俺にある"お願い"をする。
俺は、それに驚くことになる。
『それじゃあ、────────』
しかし、それ以上に、安堵して笑みを溢すのであった。
──次回『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』
「あははっ…嵐さん。今日こそ私が優勝するわ。せいぜい覚悟してなよ」
アンシャ・ヌッラの能力によって増大していく不安。その重圧を抱えたまま、千砂都はダンス大会を迎えることになる。これまで幾度となく千砂都に敗れてきた瀬川渚は、いつもと違う彼女の様子を見て余裕の笑みを浮かべていた。
「全力で、応援してるからっ!!」
「いってらっしゃい、ちぃちゃん」
押しつぶされそうになる千砂都の背中を押したのは、大切な人たちからの温かい想い。
それを胸に、彼女はステージに立つのであった。
「だから見てて!私の、全力のダンスを!!」
『#19 諦めない勇気』
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『#18 キミのまなざし』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!
今回も準備でき次第、活動報告の方で#18について少し話そうと思っています。そちらもよかったら遊びに来てください!
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もしよろしければ、よろしくお願いします!
次回『#19 諦めない勇気』は、8月12日20時に投稿予定です。
お楽しみに!