─登場人物─
【
結ヶ丘高等学校に通う高校一年生。
歌うことが大好きだったが、とある事件をきっかけに歌えなくなってしまった。
【
結ヶ丘高等学校に通う高校一年生。
「うぃっす」という独特な挨拶を使い、活発で人当たりの良い性格。
【
謎の組織─プロテクション長官補佐。
歌手活動をしていた奏叶を執拗に探し回っている。
「んーっ…ふぅ」
新たな制服に身を包み家を出た俺は、一度伸びをして深呼吸する。
燦々と照る太陽に、心地のよい風。
引っ越し早々、謎の女性に追い回されるというハプニングはあったものの、俺は今日から無事に結ヶ丘高等学校の生徒となる。
高校生活を上手くやっていけるのかという不安も感じつつ、まだ見慣れない街並みを眺めながら歩く。
昨日の女性、鼓野志保さんは諦めてくれたのだろうか。まだ俺をスカウトするつもりならかなり厄介だな。それだけ俺の歌を評価してくれているという点は嬉しいのだが、俺はもう…
「きゃああああ!?」
突然、少し先の角から叫び声が聞こえてきた。
「なんだ!?」
慌てて駆け出した俺は、その角を曲がる。すると、そこには黒い体に茶色のマントを身に纏い、まるで西洋の兜のような頭部をした怪物の集団がいた。
その瞬間、苦い記憶がフラッシュバックしてくる。
「っ!?あの化け物、あの時にも…」
忘れたくとも忘れられないほど、俺の脳裏に刻まれた嫌な記憶。あの怪物の集団は、その記憶の中にいた。あの事件からしばらく経ち、なんとか日常では抑え込めるようになってきていたトラウマが蘇り、全身が硬直した。
そして、そんな俺の視界が見覚えのある少女の姿を捉えた。
「っ…!?嵐さん…!」
昨日カフェで出会った少女、嵐千砂都さんに今にも襲いかかる勢いで怪物が詰め寄っていく。しかし、彼女は恐怖で倒れ込んだまま動けない様子だ。
どうする…いや、どうするって言ったって、俺にはあの怪物どもをどうにかすることなんてできない。
アイツらの恐ろしさは、よく知っている。
だからって、ここで逃げていいのか…?
このままだと、嵐さんも俺みたいに大切なものを失ってしまうかもしれない。それどころか、下手すると命まで…
「っ!」
俺の拳に、自然と力が入る。
そんなの絶対にダメだ!!!
「動け…」
俺は握りしめた拳で、自分の足を叩く。
「動けっ、俺の体!!はぁぁぁぁぁっ!!!」
俺は意を決してその場から走り出し、嵐さんに襲いかかろうとしている怪物に体当たりした。予期せぬところからの急な衝撃により、怪物はこの場から吹っ飛んで倒れる。
「嵐さん!大丈夫!?」
俺は再び怪物が襲ってこないよう嵐さんの前に庇うように立ちながら、彼女に聞く。
「っ…!奏叶くん!?」
俺に気づいた嵐さんは驚きの声を上げつつ頷いた。
「とにかく逃げよう!」
俺がそう言い手を差し伸べると、嵐さんはその手を取って立ち上がった。そして、俺たちはこの場から走り出した。
とにかく無我夢中で走り続け、俺たちはなんとか怪物から逃げることができた。
「はぁ…はぁ…ここまで来れば、もう大丈夫でしょ…」
「そうだね…良かったぁ…」
全力で走ったことで息が上がっている中、俺は周囲に怪物がいないことを確認し、嵐さんと共に安堵する。だが、俺と違って嵐さんは息が上がった様子はない。
結構走ったと思うけど、嵐さん体力すごいな…
「奏叶くん、助けてくれてありがとう!」
すると、ニコッと笑って嵐さんが感謝の言葉を述べる。
この笑顔を見て、改めて彼女が無事で良かったと強く安堵した。
「ううん、嵐さんが無事でよかった」
その時、ふとあることに気づいた。嵐さんが着ている制服、それは俺が今日から通う結ヶ丘高等学校の女子用、それも音楽科という音楽の部門に特化した生徒が所属する学科の制服だった。
「もしかして、嵐さんが通う高校って結ヶ丘?」
「うん、そうだよ。ってその制服…もしかして奏叶くんも!?」
俺の制服に気づいた嵐さんも、驚いて目を丸くする。
昨日はもう会うことはないかもしれないなんて思っていたが、まさかこうして再び出会い、それも同じ高校に通うことになるなんて…人生どんな巡り合わせがあるかわからないな。
「俺も今日から結ヶ丘に入学するんだ」
「じゃあ、改めてよろしくね!」
嬉しそうに笑った彼女は、そう言って握手を促すように俺の方に手を差し出してきた。俺もそれを握り返して答える。
「よろしく、嵐さん」
しかし、何か納得がいかなかったのか嵐さんはムスッと頬を膨らませる。
あれ、なんかデジャヴ…
「もーっ!せっかく同じ学校に通う友達になれたんだから、そんな素っ気ない呼び方じゃなくて気軽に名前で呼んでよ!」
ニカッと笑って言われた言葉に驚いた俺だったが、すぐに思わずふっと笑みが溢れる。
嵐さんは、まだ二回しか会ったことのない俺を迷うことなく友達と言った。これまで人付き合いが得意だったわけでもなく、友達もそこまで多くなかった俺にとって、入学前に友達と言ってくれる存在に心がじんわりと温かくなった。
「うん。ありがとう、千砂都!」
そう答えると、千砂都は満足そうに笑って頷いた。
それから、一緒に学校まで行こうという話になり、俺たちは共に通学路を歩いていた。
歩いている最中にいろいろと話したが、その話題の一つにお互いの入学する学科についてがあった。
結ヶ丘には普通科と音楽科という二つの学科があり、俺が入学するのは普通科の方だ。
普通科の制服は、男女共通して上に羽織るものは青が基調となっている。
ちなみに結ヶ丘の男子用制服はブレザーで、白いシャツに赤いネクタイ、その上から青いジャケットを羽織るといった形の制服だ。
それに対し、音楽科の制服は白が基調となっている。千砂都が結ヶ丘の制服を着ていることに気づいた時からわかってはいたが、彼女の着ている制服はその白が基調となった音楽科の制服だ。
音楽科はその名の通り、歌や楽器、ダンス、バレエなどの音楽に関する分野で優秀な者が入る学科だ。千砂都はずっとダンスをやってきたらしく、その分野で音楽科に入学したらしい。
そんなこんなで話をしながら歩いていると、千砂都が前方を見てなにかに気づく。
「あっ!かのんちゃ…」
俺も千砂都が見ている方に視線を移すと、紫色の瞳に橙色の髪、特徴的なくるんとした前髪の女の子が、まるでこの世の終わりかのように焦った表情で走っていた。更にその後ろには、水色の瞳にグレージュ色のボブヘアーの女の子がいて、恐らく前方の彼女を追いかけているようだ。
そして、その二人とも結ヶ丘の普通科の制服を着ている。
こんな朝っぱらから追いかけっこをするという奇妙な光景、普段ならとても疑問に思い気になっていたのだろうが、俺は別の問題に気づきそんな余裕が消え去っていた。
その理由は、彼女たちの後ろに、昨日散々俺を追いかけ回した謎の組織の女性、鼓野志保さんがいることに気づいたからだ。しかも、キョロキョロと何かを探している様子。
恐らく、彼女が探しているのは俺だろう。
「ヒィッ!?」
あの人、まだ諦めてなかったの!?
彼女を視認した俺の表情は、目の前から走ってくる橙色の髪の女の子と同じように、この世の終わりかというような表情になっているのではないだろうか。
不幸中の幸いか、まだ鼓野さんは俺に気がついていないようだ。どこか逃げ場がないか辺りを見ると、丁度右隣に路地に続く道があった。
とりあえずここに逃げるしかない!!
「えっ!?ちょっ、奏叶くん!?」
俺は焦りのあまり千砂都と一緒にいることを忘れ、咄嗟に路地の中に走って入った。すると丁度コインパーキングに停めてある車があったので、とりあえずその影に隠れしゃがみこんだ。
「マジでなんなのあの人!?まだ諦めてなかったのかよ…」
「留学生!?もぅ…うっかり歌っちゃったばっかりにぃ…」
俺がつい不満を口に出したのと同時に、同じようにげんなりとした声が隣から聞こえてきた。
「「うひゃあ!?」」
そして互いに互いの存在に気づいた俺と彼女は、同時に叫び声をあげた。
「「だっ、誰!?」」
そしてまた、お互いに言葉が被った。
「あっはは!息が合うね、ふたりとも」
するとまた違う声が聞こえ、
「「うひゃあ!?」」
俺と彼女の叫び声が被り、
「ちぃちゃん!?」「千砂都!?」
呼び方は違えど、その声の主を呼ぶ言葉がまた被る。
「やっぱり、息ぴったり!」
そんな俺たちの様子を見た千砂都は楽しそうに笑っている。
そこでようやく、少し冷静になれた俺は隣に見知らぬ女の子がいることを思い出した。
「あっ、すみません…びっくりさせちゃって…」
「いえ、こちらこそ…」
俺が謝罪すると、彼女もそう頭をぺこりと下げた。そして、千砂都が彼女に話しかける。
「かのんちゃん、うぃーっす!」
「ちぃちゃん!音楽科の制服、かっこいいね」
褒めてもらった千砂都は嬉しそうに笑った。二人は元々顔見知りな上に仲が良いようで、かなり親しげに話している。
「せっかく合格したんだから頑張らないとね、ダンス」
「うん!かのんちゃんも歌、続けるんでしょ?」
「私!?私は…」
橙色の髪の彼女は千砂都の問いに言葉を詰まらせて目を逸らす。すると、丁度逸らした目線の先にいた俺と目が合った。
「あっ、それより彼は?ちぃちゃん知ってる人?」
「紹介するね、彼は音居奏叶くん。あ、ほら!昨日話した、かのんちゃん家に来た同い年のお客さんの…」
千砂都の説明を聞くと彼女はハッとしてこちらを見る。俺もその説明で気づいた。そういえば千砂都は、あのカフェの店主さんの娘さんと幼馴染だと言っていた。つまり、その幼馴染が目の前の彼女ということだろう。
「昨日ちぃちゃんが言ってたのキミだったんだね」
「てことは、あなたが千砂都の幼馴染の?」
「うん。私、
彼女、澁谷かのんさんがそう言うと千砂都は嬉しそうに「えへへ…」と笑っている。
それにしても、"かのん"か…
同じだ、俺が歌手活動をしていた時の名前と…それに…
「おーい、奏叶くん?」
少し考え込んでしまっていた俺だが、千砂都の声が聞こえて我に返る。
「あ…ごめん、ちょっとボーっとしてた。俺は音居奏叶。この辺に引っ越してきたばかりで、俺も今日から結ヶ丘に通うんだ」
「じゃあ、私とも同じ学校だね。よろしくね!」
ニコッと笑って澁谷さんが言った。
「うん、よろ…」
──よろしく
そう俺が言葉を返そうとした瞬間、突如響いてきた女性の声にかき消されてしまう。
「あー!やっと見つけました!!」
「げっ…」
まさか…そう思い声のした方に振り向くと、案の定その声の主は昨日散々俺を追いかけ回した鼓野志保さんだった。
「やべぇ…!?千砂都、澁谷さんごめん!先学校行ってて!」
「えっ、ちょっ…」
俺は吐き捨てるように言って、戸惑う二人を気に止める間もなくその場から走り出した。
「あのっ、いい加減止まってくださいよぉ!!」
しばらく逃げ回っていると、俺を追いかける鼓野さんがそう叫んでくる。
「あなたこそいい加減追い回すのやめてください!昨日も言ったように、移籍なんてできませんから!!」
「だから、勘違いなんです!移籍というわけでは…」
鼓野さんがそこまで言った時、聞き覚えのないスマホの着信音が鳴り響き彼女の言葉は遮られた。すると、彼女は足は止めないまま、見たことがない機種のスマホを取り出した。
「はい、鼓野です」
相変わらず息切れ一つしてない上に、走りながら淡々とした声で電話してるって…俺はいったいいつまで彼女と追いかけっこすればいいのだろうか…
終わりの見えない追いかけっこに恐怖を感じていると、
「っ!?わかりました、すぐ戻ります!」
鼓野さんは驚いた声でそう言って電話を切り、走っている足を止めた。
「すみません!急用ができたので、一度これで失礼させていただきます」
そう言って踵を返す鼓野さん。
「え…?あ、いや、できればもう追いかけないでほしいんですけどー!」
そんな主張も虚しく、既に鼓野さんはいなくなっていた。かなり焦っていたようだが、一体どうしたのだろうか…
突然いなくなった鼓野さんについて考えていたが、俺はそれよりも大事なことを思い出す。
「って、やば!入学式!」
やばい、入学式から遅刻なんて洒落にならない!
俺は慌てて、結ヶ丘高等学校に向けて走り出したのだった。
〜〜〜〜〜
─某所─
落ち着いていて上品な雰囲気を醸し出している西洋風な部屋。
この部屋の光源は、中央部の天井に設置されたシャンデリアから放たれる優しい光のみであり、部屋全体が薄暗い。
部屋の奥には華やかで仰々しい玉座が置かれ、それを取り囲むようにいくつかの椅子、そして壁際には本棚と机が配置されている。そのどれもがアンティーク調のものとなっており、とてもシックな内装だ。
そして、その華やかで仰々しい玉座には、白く神々しいローブを身に纏い、そのフードで顔を覆った一人の男が鎮座している。
「マエストロ」
綺麗に整えられた白髪、執事服を着た高齢の男が玉座の隣に立ち、そこに座る男を"マエストロ"と呼んだ。
「どうしたんだい、エントラージュ」
マエストロに"エントラージュ"と呼ばれた執事服の男は、草臥れたスーツ姿で、目元には酷い隈がありやつれた顔つきの男が写っている写真を見せる。
「この男にレタルジアディスクを渡したところ、見事覚醒させ新たなヌッラとなりました」
「ほぅ…そうかい。どのような動きを見せるのか、楽しみだね。より強力な負の感情を蓄えて欲しいものだ」
「左様でございますね」
マエストロの言葉に賛同したエントラージュは、不敵な笑みを浮かべて答えた。
「エントラージュ。我々の計画が本格的に動く日は近い。気を引き締めていくよ」
「かしこまりました。このエントラージュ、マエストロにお仕えするものとして、ご期待に添えるよう精進いたします」
「期待しているよ」
──不穏な黒い影が、動き出そうとしていた。
──次回、『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』
「難しい顔してたけど、なんかあった?」
いよいよ幕を開けた高校生活。
しかし、奏叶の心は、ずっと己を支配している"ある悩み"に囚われていた。
「あなたには、仮面ライダーとなって戦える可能性がある」
そんな中、奏叶に秘められた力が明かされる!
襲い来るヌッラの脅威を前に、彼は立ち上がることができるのか?
「俺は…」
『#3 踏み出す一歩』
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『#2 不穏な影』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!
今回もを活動報告の方で、#2についてちょこっとお話ししたいと思っています。投稿まで少し時間がかかるかもしれませんが、よかったら遊びに来てください!
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次回『#3 踏み出す一歩』も、明日 6月27日20時に投稿予定です。
次回もお楽しみに!