〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜   作:一葉 彩人

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─登場人物─

音居奏叶(おといかなと)
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、仮面ライダームジカの変身者。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。

澁谷(しぶや)かのん】
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
人前では緊張して歌えないという悩みを抱えていたが、可可の想いに触発されて共にスクールアイドルを始めた。

唐可可(たんくぅくぅ)
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
スクールアイドルに憧れて上海からやって来た。好きなものへの情熱は人一倍強い。

嵐千砂都(あらしちさと)
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
かのんの幼馴染であり、丸いものが大好き。スクールアイドル活動では、得意なダンスを活かしてメンバーを引っ張っている。

平安名(へあんな)すみれ】
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
幼い頃からショウビジネスの世界で活動してきた。表には見せないが努力家であり、ショウビジネスの世界で培ってきた様々なことを器用にこなす。

葉月恋(はづきれん)
結ヶ丘高等学校に通う一年生、音楽科に所属する。
お淑やかで、とても真面目な人物。学校のことを誰よりも大切に思っているが、何故かかのんたちのスクールアイドル活動は認めていない。

桜葉大翔(さくらばひろと)
結ヶ丘高等学校の音楽科教師。
ラフかつ飄々とした性格で、よく屋上でいちごミルクを飲んで休息をとっている。親しみやすいと生徒からの人気は意外と高い。



#21 疑念の波紋

 

結ヶ丘高等学校の屋上。

ここ数ヶ月、澁谷かのんたちスクールアイドルの練習場所として定着しつつあるこの場所だが、授業中である今ここに生徒の姿はない。

 

しかし、代わりに一人の教師の姿があった。

ヒューっと音を立てながら吹き抜ける風を受け、天然パーマの緩やかな髪を靡かせて立っているこの男は、桜葉大翔。結ヶ丘高等学校 音楽科の教師だ。

 

彼の左手には好物のいちごミルクがあり、右手には風を受けヒラヒラと揺れる一枚の紙が握られていた。

 

「……ふぃ」

 

いちごミルクを一口飲み、一息ついた彼は、右手に待つ紙に視線を向ける。

 

その紙の表題には【生徒会発足のお知らせ】と書かれている。

新設校のためずっと正式な生徒会がなかったこの学校であるが、二学期に入るこのタイミングで、ついに正式に生徒会が発足されることになった。

そして、近々その生徒会長を任命するための選挙が行われるのだ。

 

「生徒会長選挙か…てことは、"あの子"は間違いなく立候補してくるだろうな」

 

彼が脳裏に浮かべる"あの子"というのは、この学校の創立者の娘であり、音楽科の生徒である葉月恋のことだ。

 

『あの子が無理しすぎちゃった時は、お願いね』 

 

その時、桜葉大翔はある人からの言葉を思い出す。

 

「弱ったなぁ…」

 

ため息混じりな言葉と共に、頭をポリポリとかく。

 

「そりゃ無理しすぎちゃうだろーよ」

 

そして、天を仰いだ彼は、誰かを懐かしむように目を細めた。

 

「お前と同じで、この学校のことを誰よりも大切に思ってんだから…」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

神津島でのライブが終わって二週間、長かったようで短い夏休みも終わりを迎えた。

 

新学期初日、まだまだ続く夏の暑さにウンザリしつつも、俺は久々に校門を通る。

すると、ちょうどその先に澁谷さん、クゥクゥ、千砂都の姿を見つけたので、駆け寄って声をかける。

 

「みんな、おはよ」

 

「あ、奏叶くん!おはよう!」

 

「おはようございマス!」

 

「うぃっすー!」

 

それぞれが挨拶を返してくれたところで、ふと千砂都の姿にどこか違和感を覚える。

 

いつも通りの挨拶に、トレードマークである両サイドのお団子ヘア、澁谷さんたちと同じ制服と、特に変わったところは…って、澁谷さんたちと同じ制服…?

 

「あれ、千砂都の制服…」

 

同じ学校で制服も同じというのは普通のことなのだが、結ヶ丘は二つの科で制服が異なっている。千砂都が所属しているのは音楽科。普通科である澁谷さん、クゥクゥとは違う制服を着ているはずなのだ。

 

「あれ、千砂都の制服…」

 

「私たちもさっき気づいたんだけどね」

 

「なんと千砂都サン!」

 

「二学期から普通科に入ることになったんだ!」

 

俺の疑問に、澁谷さん、クゥクゥ、そして本人である千砂都が順番に答えてくれた。

 

「えぇ!?」

 

二学期早々、驚きの展開である。

 

澁谷さんとクゥクゥもまだ詳しい話は聞いていないということなので、教室に向かう道中で千砂都が普通科に来ることになった経緯を聞くことにした。

 

「本当は退学して、普通科を受け直そうと思ったんだけど…理事長先生が、転科を許可してくれるって」

 

たっ、退学して!?

ダンス大会で優勝できなかったら退学するつもりだったとは知っていたが、まさか優勝しても退学して普通科を受け直すつもりだったとは…

 

「でも、どうして?」

 

千砂都がサラッと口にした新事実に驚愕していると、澁谷さんが普通科に転科する理由を聞いていた。

 

「これからは、かのんちゃんたちと同じ目標に向かって頑張りたいって思って」

 

「それで…」

 

サラッと言って、澁谷さんもサラッと納得しているが、それで一時は退学してまで普通科を受け直そうとしていたなんて、相当な覚悟である。

 

「内緒にしててごめんね」

 

愛だなぁ…

 

「愛デス…」

 

どうやらクゥクゥも、俺と全く同じことを思ったようだ。

 

「真爱!这是真爱啊!」

 

感極まったクゥクゥの口からは、興奮のあまり母国語である中国語が飛び出す。

 

「クゥクゥ、感動シマシタ!!」

 

「そんな大したことじゃないけどぉ…」

 

いやいや千砂都さん。幼馴染と同じ目標に進むからって、退学して普通科を受け直そうとするのは大したことすぎますよ。

 

「じゃあ、授業始まる前に、クラスのみんなに紹介しないとね!……あれ?」

 

すると、校内に入ったところの掲示板に人集りができていた。

気になって俺たちも掲示板を見てみると、そこには【生徒会発足のお知らせ】と表記されていた。

 

「生徒会?」

 

「延期にナッテイタ本校の初年度の生徒会をホッソク!?」

 

そういえば、まだ正式な生徒会って決まってなかったのか。一学期の間、葉月さんが学校のための仕事をしてくれていたため、つい彼女が生徒会だというふうに勘違いしがちだったが…

 

掲示板を見ていた一人に、クラスメイトのココノさんがいた。彼女が生徒会について説明をしてくれていたが、その途中で千砂都が普通科の制服を着ていることに気づき驚いたので、澁谷さんが千砂都の紹介をしようとする。

 

「今日からちぃちゃんが…」

 

「カノン!生徒会デス!」

 

しかし、生徒会のことで頭がいっぱいのクゥクゥがそれを遮る。

 

「そ、そうだね〜」

「千砂都ちゃん普通科に!?」

「そうだよ。えっと…」

「生徒会選挙デス!」

「なんでなんで!?」

「選挙デスーッ!!」

「いろいろ渋滞してるー!?」

 

クゥクゥとココノさんからの質問攻めに困惑した澁谷さんの叫びを耳にしながら、俺は掲示板の案内を改めて見ていた。

 

多分、葉月さんは立候補するんだよな…

 

葉月さんとは普通科と音楽科という違いがあるため、クラスメイトの澁谷さんたちほど頻繁に話すわけではないが、それでもこれまで関わってきて、彼女が真面目で優しい人だということはわかっている。

それに、学校のことを大切に思っている人だということも…

 

しかし、葉月さんは何故かスクールアイドルに関しては頑なに認めない。そのため、今回の選挙に関しても、澁谷さんたちスクールアイドルを応援している普通科の人たちとは何か一悶着ありそうな気がする。現にクゥクゥが焦っているのは、それが理由だろうし…

 

 

それから、俺の予想した通り、クゥクゥは葉月さんが生徒会長になると今以上にスクールアイドル活動の邪魔をされるだろうと考え、澁谷さんを選挙に立候補させようとした。しかし、澁谷さんは立候補したくないと主張し、なんやかんやあってすみれが立候補することになった。

 

普通科の生徒数は音楽科の3倍。その票をなんとか勝ち取ろうとするすみれだったが、葉月さんが『普通科と音楽科が手を取り合う学校を目指し、学園を共に盛り上げていく』という公約を掲げたことにより、すみれにとってはなかなか厳しい状況となった中で迎えた生徒会長選挙。

 

その結果は…

 

葉月恋:101票

平安名すみれ:-20票

 

葉月さんの圧勝であった。

 

「それにしてもすごい票差ですね…」

 

「あ、こら!これは教師と立候補者しか見れねぇ結果なんだから、勝手に見てんじゃねぇよ」

 

昼休み。昼食を食べようとやってきた屋上にて、桜葉先生が見ていた選挙の結果を覗き見たところ、そんな注意を受けてしまった。

 

「ていうか、なんでマイナスなんですか?」

 

「ほら。平安名が嵐が作ったたこ焼き配ってたろ?そのペナルティらしい」

 

そういえば、選挙活動の際にすみれは千砂都とたこ焼きを配っていた。

校門のところにわざわざ千砂都のバイト先のキッチンカー引っ張り出してきてたけど、あれ費用とかどうなってたんだろうか…

 

「理由はわかりましたけど、なんか気の毒ですね…」

 

ペナルティがあろうがなかろうが、この票差ならどの道葉月さんが勝っていただろう。とはいえ、あそこまでしてそれがペナルティとなるのは流石に可哀想だ。

 

「そういえば、りじちょーあのたこ焼き食ってたらしいぞ。全く、教師が何やってんだか」

 

けしからん、と腕を組んで理事長先生への苦言を呈す桜葉先生。

 

「あはは…まぁ、千砂都のたこ焼きは美味しいですからね〜」

 

「確かに、アレは美味かった」

 

「いや先生も食べてるんじゃないですか」

 

全くこの人は…

なんて俺が呆れていると、屋上の扉が開く音と同時に女性の声が聞こえる。

 

「あー!やっぱりここにいた!!」

 

振り返ると、そこには明らかに学生ではない、見たところ40代ぐらいであろう女性が二人と男性が一人立っていた。

 

「ん?あ、お前ら!」

 

桜葉先生はその三人を知っているのか、驚いた様子で目を見開いていた。

そして三人は、屋上に入り桜葉先生に駆け寄る。

 

「久しぶりだね、桜葉くん」

 

そのうちの一人、落ち着いた色味の茶髪のロングヘアーの女性が、朗らかな笑みを浮かべて声をかける。

 

「あぁ、鳥巣。それに蜂須賀に揚蝶も。なんでここに?」

 

「俺は仕事でな」

 

短髪でスーツ姿、少しふくよかな体型の男性がそう答えた。

 

「そういえば、教育委員会で働いてるんだったな」

 

「それを聞いて、私と紫苑もこの学校のこと見に行きたいねって話になって、許可もらったんだ!」

 

「許可ぁ?あぁ…りじちょーにか」

 

「そうそう!ねーっ、紫苑」

 

「うん。私たちにとっては、母校みたいなものだし」

 

なんとなく話を聞いていた俺だが、黒髪ロングヘアーで銀縁のメガネをかけた女性の言葉が引っかかり、つい口を挟んでしまう。

 

「母校?」

 

結ヶ丘高等学校は、今年開校した新設校だ。そのため、卒業生はいないはずなんだが…

 

「悪いな音居、置いてけぼりにして。紹介する。こいつは蜂須賀悠仁」

 

"蜂須賀悠仁(はちすかゆうじ)"と紹介されたのは、黒の短髪でふくよかな体型のスーツ姿の男性だ。さっきの話からすると、今日は教育委員会の仕事でここに来たみたいだ。

 

「そんで、揚蝶紫苑」

 

"揚蝶紫苑(あげはしおん)"と紹介されたのは、黒髪ロングヘアーで銀縁メガネをかけた大人しそうな女性。

 

「で、最後が鳥巣心春」

 

"鳥巣心春(とりすこはる)"と紹介されたのは、落ち着いた色味の茶髪でロングヘアーの女性だ。

 

「この三人は高校時代の同級生でな。俺たちはここにあった学校、神宮音楽学校の卒業生なんだ」

 

「神宮音楽学校?」

 

初めて聞く名前の学校に首を傾げていると、桜葉先生が軽く説明してくれた。

 

神宮音楽学校(じんぐうおんがくがっこう)とは、25年ほど前に廃校になった高校。その高校があったのは結ヶ丘高等学校が建っているこの場所で、それも今俺たちが授業を受けている普通科の校舎は、当時の神宮音楽学校の校舎だったそうだ。

 

「で、俺たちはその高校で同級生だった。なんならりじちょーもだぞ」

 

「え!?そうだったんですか…」

 

まさか桜葉先生と理事長先生が同じ高校の同級生だったとは…

 

「それに…」

 

桜葉先生は更に何かを言おうとしたが、

 

「あー…いや、なんでもない」

 

少し考えてから、それをやめた。

 

「それにしても、桜葉が先生になるなんてなぁ…」

 

蜂須賀さんが感嘆したように言った。

学生時代の桜葉先生がどんな人だったのか気になるところだが、流石に久々の再会にこれ以上水を差すわけにはいかない。

 

「じゃあ、俺はそろそろ」

 

そう一言断りを入れて、俺は屋上から出て行った。

 

しかし、廊下を歩いている時に気がついた。

俺は、昼食を食べるために屋上に行ったのに、結局買ったパンの袋を開けることなく戻ってきてしまったのだ。

 

仕方ない。今日は別の場所で食べるか…

 

教室で食べてもいいのだが、一人で食べる時はいつも屋上に行っていたため、せっかくなら別の場所で食べたい。

 

そう思った俺は中庭へ向かうことにした。

 

「あ、葉月さん!」

 

すると、その道中、葉月さんの姿を見かけたので駆け寄って声をかけた。

 

「……音居さん」

 

「生徒会長就任、おめでとう。これからも頑張ってね」

 

生徒会長に選ばれた葉月さんに、俺は祝福と鼓舞の言葉を送った。

 

「はい…ありがとうございます」

 

しかし、そう答えた葉月さんはいつもと様子が違った。

まるで何か後ろめたさを隠すかのように目を伏せて、どこか浮かない顔をしている。

 

「葉月さん、何かあった?」

 

「……いえ、なんでもありません。では」

 

葉月さんは何かを誤魔化すように、足早に去っていった。

 

なんでもないって言ってたけど、あれは明らかに何かある表情だよなぁ…

生徒会長になった責任感とか緊張で、表情が強張っていただけとかならいいんだけど…

 

俺が感じた一抹の不安。これが正しかったのだと、すぐに知ることになる。

 

 

─放課後─

 

日直だった俺は、諸々の仕事を終わらせて帰路に着いた。

 

「うん…学校のためにはスクールアイドルは必要ないって、それだけしか言わなくって…」

 

すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

どうやら前を歩いていたのは澁谷さん、千砂都、クゥクゥ、すみれの4人だったようだ。

 

大事な話してるっぽいな…

 

邪魔しちゃ悪いし声はかけずに帰ろう、そう俺が思った時だった。

 

「きゃあああああ!?」

 

澁谷さんたちから悲鳴が上がった。

突然、何の前触れもなく彼女たちの前にヌッラが現れたのだ。

 

俺は慌てて澁谷さんたちの方に駆け出し、ステレオドライバーを装着してサンシャインエネルジアディスクを装填する。

 

「変身!」

 

『熱く 雄叫びあげろ!

真っ赤に染まったハートは もう誰にも止められないんだ

君から溢れる パッショネイト

太陽みたいな笑顔を守るために今 情熱満タン!

ハジける・サンシャイン!!』

 

仮面ライダームジカ サンシャインに変身すると同時に、澁谷さんたちの前に出て庇うように立つ。

 

「あ!まんまるのヒーロー…!」

 

まっ、まんまるのヒーロー!?

 

先日のアンシャ・ヌッラとの戦闘の際にこの姿を見ている千砂都は、突然現れた俺をそんなふうに呼んだ。

 

確かにムジカ サンシャインは丸い体してるけど、そんなふうに捉えていたとは…千砂都らしいな。

 

「何者か知らないけど、邪魔しないでもらえるかな」

 

ヌッラからドスの効いた潜もった声が聞こえてくる。まるで加工された声のようで、これじゃ性別すら判別がつかない。

 

そのシルエットも、細身ではあるが長身なため男女どちらなのかわからない。

腰にはヒラヒラとした装飾がついており、それがスカートのようにも、マントのようにも見える。

 

全身がヌッラ特有の禍々しい赤茶色のボディで、胸や肩周りには分厚い装甲を纏っている。頭部には二本の触覚があり、全身から細く鋭利なものが飛び出していてトゲトゲとしている。その棘の先からは黒い液体がポタポタと垂れ、右手はまるで注射器のようになっており、前腕部には調合タンクのようなものが、そしてその先にはまるで蜂が持つような針が付いていた。

 

まるで虫みたいなヌッラだな…

 

「それは無理だ。そっちこそ、人を襲うなんて今すぐやめろ」

 

「それこそ無理だね。その人たちが、あの学校でアイドルを続ける限り」

 

「なに…?」

 

まさか、このヌッラはたまたま澁谷さんたちの前に現れたんじゃなくて、最初から彼女たちを狙って現れたのか…!?でも、どうして…

 

「邪魔者には消えてもらう」

 

ヌッラのその言葉に、俺は警戒を強めて構える。

 

澁谷さんたちは、怪物への恐怖のせいでまだこの場から逃げられていない。本当ならサンシャインの能力である熱気で相手の動きを封じたいところだが、この状況ではそれはできない。

 

「はぁっ!」

 

飛びかかってくるヌッラの拳を左手で受け止め、一気に右手の拳で反撃する。それを受けたヌッラは、後ろに大きく吹っ飛んでいく。

 

やっぱり、サンシャインのパワーすごい…!

 

「その力は危険なんだ。今すぐ手放したほうがいい」 

 

「……」

 

なんとか説得できないか試みるが、ヌッラは何も答えることなくゆっくりと立ち上がり再び戦闘体制に入った。

 

やっぱり説得は無理か…

 

ヌッラがこちらに走り出すと、右手の調合タンクのようなものが紫色に禍々しく光る。そしてその右手の先に付いている蜂のような針を振り翳してきたので、俺は何か攻撃を受けると思い強く踏ん張る。

 

しかし、俺の考えは外れた。

ヌッラが俺に攻撃を仕掛けると思った瞬間、横をすり抜けて行った。その先にいるのは、澁谷さんたちだ。

 

「っ!?しまった…!」

 

慌てて振り返ると、ヌッラは澁谷さんたちのすぐそばまで迫っていた。

 

まずい!!

 

『始まりのスターライト』

 

スピード力特化の仮面ライダームジカ スターライトにフォームチェンジし、一気に加速して駆け出す。

ヌッラは再び右手の針を振り翳しており、今度こそ何か仕掛けるつもりだろう。

 

やばい…間に合ええええっ!!!

 

ヌッラの針が澁谷さんに届くすんでのところで咄嗟に左手を出したことで、なんとか彼女たちに攻撃が降りかかることは防いだ。

しかし、庇うために出した俺の左手にはヌッラの針が刺さってしまう。

 

「ぐっ!?」

 

ヌッラの調合タンクから針を通して俺の左腕に謎の液体が注入される。

その瞬間、俺の左腕が尋常じゃないほどに痺れて動かなくなった。

 

「なんだ、これ…!左手が…くっ…」

 

「ちっ…余計な真似を…」

 

目的ではない俺に攻撃が当たってしまったことにヌッラは苛立った様子だ。

 

「左手が動かない…毒か…」

 

「御名答。だけど、それはあくまで注入された体の部位のみが痺れる毒…残念ながら、君を死に至らしめることはできない」

 

つまり、今回の場合は左腕の前腕部分のみが痺れる毒というわけか…

確かに、左腕は全く動かないが、それ以外の部分は問題なく動くみたいだ。

 

「だから、もう二度と邪魔できないよう、今度は全身が麻痺して死に至る毒を調合してやろう」

 

調合…?ということは、次の毒が放たれるまでにまだ少し時間がかかるということか。

 

このヌッラは、左手が麻痺したことで俺が動けないと思い込んでいる。

なら、今のうちに右手だけでなんとか強力な一撃を繰り出せれば…

 

《エフェクティングソード》

 

俺はエフェクティングソードを出現させ、右手で掴み取る。

そして、効果付与必殺技ボタンを右膝で蹴り押し、スキャナー部分をステレオドライバーに翳す。

 

『スターライト クリティカルスラッシュ』

 

そして、右足で思いっきり地面を蹴り、流れ星かの如くヌッラに向かって一直線に高速で駆け抜けた。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

そのすれ違いざま、目にも止まらぬ速度でヌッラに強力な斬撃を放つ。

 

─スターライト クリティカルスラッシュ 《星光疾斬(せいこうしっざん)》─

 

しかし、右手しか動かせないためコントロールが上手く効かず、ヌッラの胸にあるレタルジアディスクを破壊するには至らなかった。

 

「くっ…まあいい。私の邪魔をしたことを後悔しながら、せいぜい苦しめ。その毒を消す方法は、私を倒すしかないんだからな」

 

レタルジアディスクを破壊することはできなかったが、それなりのダメージは与えられたのか、ヌッラはそう言い残すと右手の針から煙を出して退散して行った。

 

「くっ…」

 

ヌッラを追いかけようとした俺だったが、煙のせいで視界が封じられて見失ってしまった。

 

「君たち、大丈夫?」

 

振り返った俺は、平静を装い澁谷さんたちに声をかける。

 

「むしろ、私たちのせいであなたが…」

 

「俺は大丈夫。君たちが無事で良かったよ」

 

そう答えたものの、あのヌッラの毒はかなり強力だった。

 

その後、澁谷さんたちとは別れて病院で春日井先生に診てもらったが、解毒はできなかった。やはり、あのヌッラが言った通り、解毒するには倒す以外に方法はないようだ。

 

 

─翌日─

 

結ヶ丘高等学校の体育館にて、新生徒会長就任についての全校集会が行われていた。

今は、生徒会長就任の挨拶のため葉月さんが壇上に上がろうとしているところだが、俺はヌッラのことで頭がいっぱいだった。

 

結局、今も左手の麻痺は治っていない。

この毒はかなり特殊だ。基本的に生じるのは痺れのみで、普通にしている分には痛みはない。ただ、無理やり動かそうとしたり、何かに触れたりすると激痛が走ってしまう。

 

半日経過したが、やはり左手が全く動かせないというのは不便極まりない状況だ。利き手じゃなかったというのが不幸中の幸いではあるが、それでも日常生活に相当の支障が出る。

 

今のところ、澁谷さんたちには俺がこんな状態だと隠し通せてはいるが、このままだとバレるのは時間の問題だろう。そうなれば、昨日の現場を目撃している4人には俺が仮面ライダームジカだと気づかれてしまう可能性が高い。

 

一刻も早く、ヌッラを見つけて倒すしかない。

 

でも、この状態じゃヌッラを倒すのは相当厳しいよな…

 

とはいえ、ヌッラと戦えるのは俺ひとりだし、自分でなんとかするしかない。

 

まずは、ヌッラの正体を掴む手がかりがないか頭を必死に働かせる。

 

最初に気になる点は、あのヌッラのスクールアイドルを標的にしているかのような発言だ。それも、結ヶ丘のスクールアイドルを。

 

『その人たちが、あの学校でアイドルを続ける限り』

 

ヌッラが言っていた"あの学校"というのは、この結ヶ丘高等学校のことだろう。

そして結ヶ丘のスクールアイドルは、澁谷さん、クゥクゥ、すみれ、千砂都の4人。昨日もその4人でいるところを襲撃していたため、それは間違いないだろう。

 

しかし、その4人全員が共通して何か恨みを買うようなことがあるのかとなると、何も思いつかない。そもそも、4人になってからの活動といえば、先日の神津島での合同ライブぐらいしかない。

 

あまりにも謎だらけで、ヌッラの正体に関する糸口は何も見えてこない。

 

「はぁ…」

 

前途多難といった状況に思わずため息を吐いてしまう。

 

「カナトさん」

 

そんな俺の様子が気になったのか、隣に座るクゥクゥが様子を伺うように顔を覗き込んでくる。

 

「どうかしましたカ?」

 

「あ、ううん。なんでもないよ」

 

そう答えたが、クゥクゥは納得できなかったようで訝しげな視線を向けてくる。

 

そこで、俺はちょうどいいタイミングだと考え、念の為あのヌッラの手がかりがないか探ってみることにした。

 

「逆に、ひとつ聞いてもいい?」

 

「なんデスカ?」

 

「クゥクゥたちがスクールアイドルを始めてから、誰かとトラブルになったりしたことってある…?」

 

そんな質問に不思議そうに首を傾げたクゥクゥだったが、何か思いついたのかハッとする。

 

「アリマスよ!」

 

「え!?」

 

てっきりないだろうと思い込んでいた俺は、意外にもあっさり手がかりが見つかりそうで驚いてしまう。

 

「それって誰!?」

 

すると、クゥクゥはまっすぐ前、体育館の壇上を指差した。

 

「生徒会長デス!」

 

あ…葉月さんか。まあ確かに、スクールアイドルを許めてくれないというトラブルがあると言えばあるが、流石に彼女がヌッラだなんて有り得ないだろう。

 

「そういえば…今朝、ハヅキさん変でした…」

 

「え、変?」

 

「わざわざ普通科の教室まで来て、ククたちを見つけて、何も言わずに帰って行きマシタ」

 

「見つけるだけ見つけて、話しかけずに帰っていったの?」

 

「ハイ」

 

クゥクゥたちということは、澁谷さん、千砂都、すみれを含めた4人のことだろう。音楽科の葉月さんがわざわざ普通科の教室まで来て、その4人を見つけるだけ見つけて何も言わずに帰っていく。

 

そんな謎な行動を取るなんて、一体どうしたのだろうか。

 

まさか…

 

その時、俺の脳裏に最悪な想像が浮かぶ。

 

もし、葉月さんが昨日のヌッラだったとしたら…?

標的のクゥクゥたちを、再び襲撃するチャンスを伺いにきた可能性が…

 

いやいや、葉月さんがヌッラになるなんて考えられない。

葉月さんは真面目で、優しくて、人を傷つけるようなことをする人じゃ…

 

そう自分の最低な考えを振り払おうとした時、以前聞いたヌッラについての情報が頭をよぎった。

 

レタルジアディスクに負の感情が結びついた時、その負の感情の持ち主はヌッラになる。ヌッラになった者は、力に飲み込まれ凶暴化し、抱えていた負の感情を解消しようと自分本位になってしまう。その結果、人を襲うなどといった普段ならしない行動を取ってしまう。

 

そして、それは今まで何かに本気で打ち込んできたり、真面目に生きてきた人ほど、負の感情に飲み込まれやすくより凶暴化するケースが多い。

 

この間の瀬川渚は、その顕著な例だ。

千砂都の不安を増大させ、明らかに自分が有利な状況になったのにも関わらず、ダンス大会で敗北した。

ずっと本気で打ち込んできたダンスで完全敗北したことが受け入れられず、最後には暴走して千砂都の命まで奪おうとしてしまった。

 

葉月さんは、これまで真剣に学校のために頑張ってきていた。

もし俺が知らないだけで、今何か大変なことが起こっていて、彼女が精神的に追い詰められているような状況だとしたら…

 

そして、そんな時に、もしレタルジアディスクを手にしてしまっていたとしたら…

 

振り払おうとすればするほど、次々と嫌な想像が浮かんでくる。

 

その時、ふと壇上で話す葉月さんに視線を向けた。

すると、彼女は不安と恐怖に押し潰されそうな表情で、何かを発言するのを躊躇っていた。

 

「そのために…」

 

少しして、決心がついたのか葉月さんは口を開く。

 

そして、彼女の口から衝撃的な言葉が飛び出すのであった。

 

「最初の学園祭は、音楽科をメインに行うことと決定しました」  

 

「えっ…」

 

その瞬間、彼女の発言に困惑した普通科の生徒たちの声で、体育館中が一気にざわめき出す。

 

 

──これをきっかけに、結ヶ丘高等学校は開校以来初の混乱に陥るのであった。

 





──次回『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』

「やるならテッテイテキにデス!」

恋の発言により、蔑ろにされていると不満を募らせる普通科の生徒たち。
そんな状況を解決するべく、かのん、可可、千砂都、すみれが動き出す。

「葉月さん。ちょっと、話したいことがあるんだ」

それと時を同じくして、恋の発言の真意を探るべく奏叶も動き出していた。
別行動をとっていた奏叶とかのんたちだったが、それが大きな勘違いを生むことになるのであった。

「ハヅキさんとどういう関係なのデスカ!?」

『#22 遺された願い』















─────


『#21 疑念の波紋』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!

今回も準備でき次第、活動報告の方で#21について少し話そうと思っているのですが、都合によりもしかすると次回の#22と合併して活動報告の方を投稿するかもしれません。

お気に入り登録や感想、評価等いただけると大変励みになります。
もしよろしければ、よろしくお願いします!

次回『#22 遺された願い』は、8月22日20時に投稿予定です。
お楽しみに!
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