─登場人物─
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結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、仮面ライダームジカの変身者。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
人前では緊張して歌えないという悩みを抱えていたが、可可の想いに触発されて共にスクールアイドルを始めた。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
スクールアイドルに憧れて上海からやって来た。好きなものへの情熱は人一倍強い。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
かのんの幼馴染であり、丸いものが大好き。スクールアイドル活動では、得意なダンスを活かしてメンバーを引っ張っている。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
幼い頃からショウビジネスの世界で活動してきた。表には見せないが努力家であり、ショウビジネスの世界で培ってきた様々なことを器用にこなす。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生、音楽科に所属する。
お淑やかで、とても真面目な人物。学校のことを誰よりも大切に思っているが、何故かかのんたちのスクールアイドル活動は認めていない。
「最初の学園祭は、音楽科をメインに行うことと決定しました」
生徒会長就任の挨拶にて、葉月さんの口から飛び出した衝撃的発言。
「えっ…」
それを聞いた俺は、驚きのあまり思わず声が漏れた。
しかし、そんな俺の声など目立つことがないほどに、戸惑う普通科の生徒たちの声で、体育館中が
教室に戻ると、クラスメイトたちの怒りは膨れ上がり、抗議のために普通科生徒での署名運動を行うという話にまでなっていた。
実際、葉月さんは「普通科と音楽科が手を取り合う学校」というのを公約に掲げ、共に学園祭を盛り上げると発言していたため、クラスメイトたちが憤慨するのも無理はない。
しかし、葉月さんなら、あの発言をすればこうなることぐらいわかっていたはずだ。それでもなお、ああ言ったということは余程切羽詰まった状況だということなのだろうか…
それなら、もしかすると本当に葉月さんがヌッラなのかも…昨日会った時に様子がおかしかったのだって…
「あああぁぁあ…!!」
葉月さんがヌッラなんてあり得ない、あり得るはずがない。
そう心では思っていても、ついついそんな考えに至ってしまう自分に嫌気が差し、つい大声を漏らして項垂れてしまった。
「かのんちゃん立候補するの!?」
「応援するよ!」
「私たち、かのんちゃんがいいんじゃないかって話してたんだ」
そんな中、クラス中では選挙のリコールをしようという話で持ちきりだった。すみれが持ち出したはずのリコールの話だが、クゥクゥの発言により澁谷さんが立候補するのかと教室中が盛り上がっている。
しかし、そんなつもりはない当人は困惑し、慌てて否定する。
「そんな話全っ然ない!ほっ、ほら、私なんて全然目立たないし…」
「アンタそれ嫌われるタイプよ」
本人は本当にそう思っているのだろうが、すみれからのツッコミを受け、澁谷さんは結構なショックを受けた様子だ。
そんな彼女たちの様子を微笑ましく感じ、俺の中の焦りが少し和らいだ。
とにかく今は、ヌッラについても、葉月さんの現状についても情報が少なすぎる。そんな中で考えたって答えなんて出やしない。
こうなったら…
〜〜〜〜〜
─放課後─
生徒会長になった葉月さんは、音楽科を主体とした学園祭をすると宣言した。そうなると、今後はスクールアイドル活動も完全に禁止されてしまう可能性もあると考えた私たちは、葉月さんの真意を掴むために動き出す。
「それで尾行…!?」
「仕方ないでしょ。音楽科の子たちも、葉月さんのことはほとんどわからないって言ってたし…」
校門の影に隠れ、葉月さんの後ろ姿を見つめる中、すみれちゃんの言葉にかのんちゃんがそう説明した。
「やるならテッテイテキにデス!」
そう言い切ったクゥクゥちゃんは、辺りで拾ってきた木の枝で顔を隠している。
自然と同化して隠れようと思っているんだろうけど、正直全然隠れられていないよクゥクゥちゃん…
それから、葉月さんの尾行を始めた私たちだけど、常に周りに注意を払う彼女に何度も見つかりそうになってしまう。
そこで、私たちはすみれちゃんに変装してもらうことにした。身に着けたのは、独特なハット帽に奇抜なサングラス。
なんていうか、その…とても奇天烈な姿になっちゃった。
そんな奇天烈モードすみれちゃんに、率先して葉月さんの尾行をしてもらう。すると、葉月さんの視線がバッチリとすみれちゃんを捉えた。
あ、しまった…
流石にあの距離で見られてしまうと、すみれちゃんだとバレてしまう。そう一瞬焦ったけど、葉月さんは視線の先にいるのがすみれちゃんだと気付かず、素通りして行った。
「流石すみれちゃん!」
「全然気づかれてなかったね!」
これなら思い切って尾行ができる。
そう思い、かのんちゃんと私で褒めてみたものの…
「褒めないで。傷つくから」
すみれちゃんには響かなかったみたい。
「カノン!」
葉月さんが渡った横断歩道の信号が点滅していることに気づいたクゥクゥちゃんが、慌ててかのんちゃんの名前を呼んだ。
「行こう!」
葉月さんを見失わないように急いで横断歩道を渡ろうとする私たちだったけど、
「え…?」
ある光景を目撃し、驚いて足を止めてしまった。
「奏叶くん…?」
慌てた様子の奏叶くんが現れ、足早に葉月さんの元へ駆け寄って行ったのだ。
それだけなら、たまたま出会ったから声をかけに行ったとも考えられるんだけど…
しかし、葉月さんを見つけた奏叶くんの表情からは、まるで待ち焦がれていた大切な人と出会ったかのような、切なさと焦燥を感じた。更には葉月さんを探して走り回っていたのか、息も絶え絶えの様子だ。
私たちが驚き呆けている間に信号が変わってしまい、横断歩道を渡り損ねてしまった。ただ、奏叶くんに声をかけられたことで葉月さんの歩みも止まったので、とりあえずは尾行に支障はなさそうだ。
「カナトさん…?」
「なんで奏叶がここに…」
「……あ!もしかして、さっきの学園祭についてのことを…」
クゥクゥちゃんとすみれちゃんも怪訝な視線で様子を窺っていると、かのんちゃんがそんな予測を立てた。
その時、葉月さんは奏叶くんの元から立ち去ろうと再び歩き出した。
「え!?」
しかし、奏叶くんはそんな葉月さんの腕を掴んで引き留めた。それは、まるで愛する人との永遠の別れを阻止しようとしているかのような、必死で情熱的な姿に見えてしまった。
「かっ、カナトさんとハヅキさんは、どういう関係なのデスカ!?」
「どういう関係って…っていうか、あの二人ってそんなに面識あったの?」
すみれちゃんの疑問に、私はひとつ思い当たる節があった。
そういえば…この間のダンス大会の時、奏叶くんは葉月さんに私の様子を探るようお願いしていたらしいから、元々仲はいいのかもしれない。
二人が仲良いなんて、それまで聞いたことなかったけど…
「……」
すると、ふと隣に立つかのんちゃんの様子がおかしいことに気がついた。
一言も喋らず、ただじっと二人の様子を見て呆然としている。しかも、その表情はとても悲しそうで、唇がぷるぷると震えている。
「かのんちゃん…?」
心配のあまりしばらくの間かのんちゃんに向いていた視線を、再び奏叶くんと葉月さんがいる方向に戻す。
すると、葉月さんの表情に変化が現れていた。最初は険しい表情で奏叶くんと話していたが、いつの間にか落ち着きを取り戻し、顔つきも少し和らいでいる。
「葉月さんのあんな顔、見たことないわね」
「う、うん…」
すみれちゃんが言ったように、葉月さんのあんな表情はこれまで一度も見たことがない。頬は赤く染まり、潤んだ瞳で微笑んでいる。
「っ!クク、あの感じ知ってマス!」
閃いたとハッとしたクゥクゥちゃんには、何か思い当たることがあるみたいだ。
「この前、ニッポンのドラマで見まシタ!ズバリ、告白デス!!」
「「「っ!?」」」
"告白"。その言葉に、私たちは三者三様に驚く。
相当強いショックを受けた様子のかのんちゃんはアワアワと慌てふためき、すみれちゃんも驚いているけど、それと同時にかのんちゃんを心配したような視線を送っている。
私も私で驚きつつも、まさかそんなわけないだろうと自分に言い聞かせていた。
しかし、二人の様子を見れば見るほど疑念は深まっていく。真剣な眼差しの奏叶くんに、頬を赤く染め瞳を潤ませる葉月さん。
もしかして、奏叶くんは本当に…
すると、話がまとまったのか、奏叶くんと葉月さんは共に歩き出した。
「あ!」
「かのん。気持ちはわかるけど、今は二人を追いかけましょう」
「っ…うん、そうだね…」
もしかして、すみれちゃんはかのんちゃんの様子がおかしい理由を知っているのかな…?
そして、私たちは二人の尾行を再開するのであった。
〜〜〜〜〜
いつまでも一人で勝手に考えていても埒があかない。
そう考えた俺は、葉月さんと話そうと放課後になってすぐ音楽科の校舎に向かった。しかし、その道中で会った葉月さんのクラスメイトに聞いたところ、彼女はもう帰路についたとのこと。
それなら外を探してみようと校門を出て彼女を探し始めたが、一向に見つからない。後から気づいたことなのだが、どうやら俺は葉月さんが進んだ方向とは逆方向へ行ってしまっていたらしい。
葉月さんの家の方角を知らなかった俺は、流石にここまで探してもいないということは道そのものが違ったのだと判断し、一度引き返して校門まで戻り、今度は逆方向を探し始めた。
「葉月さん!」
そんなこんなで数十分あちこち探した結果、ようやく葉月さんを見つけることができた。ただでさえ走り回った上に、今の俺は左手が動かない。右手だけを振って走り続けるというのは、想像以上に体力を消耗した。
「はぁ…はぁ…」
「お、音居さん?」
息を切らして疲れ果てた状態で現れた俺に、葉月さんは困惑した様子だ。
俺はなんとか息を整え、改めて葉月さんと対面する。
「葉月さん。ちょっと、話したいことがあるんだ」
今までとは違い、慎重に話さなければならないという複雑な感情を抱きながら話を切り出した。
「……話すことは何もありません」
しかし、彼女は俺から目を背けて冷たく言い放つ。
「では、
一方的にそう話を打ち切られそうになったので、俺は咄嗟に右手で葉月さんの腕を掴んで引き留める。
「待って!」
「っ…」
引き止められた葉月さんは、一瞬だけ素に戻ったように息を飲み、悲しそうに目を細める。しかし、すぐにキッとした鋭い目つきで俺を咎める。
「放してください!」
「ご、ごめん…」
流石に腕を掴むのはやりすぎたと思い、素直に謝罪して手を離した。
「でも、ちゃんと話がしたい」
「わかっています。あの発言が、正しくないことぐらい…でも、もう…」
葉月さんは消え入りそうなか細い声で、ようやく少しだけ本音らしいことを漏らした。
もしかして、葉月さんはあの発言を俺が責め立てにきたと思っているのか…?
「葉月さん。俺は何も、あの発言を責めにきたんじゃないよ」
「え…?」
「そりゃ、もっと他にやり方はあったかもしれないけど…葉月さんがただの我儘とか自己都合であんなことを言う人じゃないっていうのは、よくわかってるから」
「音居さん…」
「それに、一人で抱え込んで無理をしちゃう人だっていうのも、だんだんわかってきたからね」
「っ…」
苦笑して言うと、葉月さんは図星を突かれたと認めるように口を結ぶ。
「俺は、ずっと君が何かを抱えていると気づいていながら、ちゃんと聞いてあげることができなかった」
昨日だって、葉月さんの様子が変だと気づいた時にもっとちゃんと話を聞いておくべきだったと、今更ながらに後悔している。
「それはっ!言えないと言った
「もちろん、葉月さんが言いたくないことまで聞くつもりはないよ。でも、俺でも力になれることがあるなら頼ってほしい」
俺と葉月さんは、普通科と音楽科。同じ学校とはいえ、校舎も違えば受けている授業も違う。本来なら関わり合うことがなかったかもしれない俺たちだが、たまたま廊下で出会ったのをきっかけに、何度も話すようになったんだ。
「同じ学校の仲間で、せっかく友達になれたんだからさ。困ったことがあったら、いつでも頼ってよ」
「音居さん…」
ずっと不安で仕方がなかったのだろう。何か大きなものを抱えたまま誰にも相談できなかった彼女は、張り詰めていた緊張が解け、込み上げてくる涙をグッと堪える。
「……お話、聞いてもらえませんか?」
「もちろん」
「ありがとうございます…!」
それから、落ち着いた場所で話をしようということになり、俺は葉月さんの家に招待されることになった。
「っ…!?」
初めて訪れた葉月さんの家を前にして、驚嘆のあまり息を飲んだ。
でっか!?
葉月さんの家は、それはもう大豪邸と言っても差し支えがないほどに大きく立派だった。
お嬢様っぽい雰囲気だとは思っていたけど、まさかここまでとは…
「音居さん?」
ずっと隣にいたはずの俺が動いていないことに気づいて振り返った葉月さんは、不思議そうに首を傾げた。どうやら、俺がなぜ固まっているのかはわかっていないようだ。
「お、お邪魔します」
俺は緊張しつつも、彼女の後に続いて大豪邸へと足を踏み入れる。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
中でそう出迎えてくれたのは、左目下の涙ぼくろが特徴的なメイド服姿のお淑やかな女性だった。
めっ、メイドさんまでいるのか!?
「彼女は、
口をあんぐりと開けて驚く俺には気づかないまま、葉月さんはメイドのサヤさんを紹介する。
「こちらは結ヶ丘に通う
「はじめまして。お嬢様が、いつもお世話になっております」
あー所作が綺麗。もう全部綺麗。
サヤさんの丁寧な挨拶に、俺も慌てて挨拶を返す。
「こっ、こちらこそ!葉月さんには、いつもお世話になっていて…」
「音居さん、そう緊張なさらなくても大丈夫ですよ」
「あ…」
ふふっ、と困ったように笑った葉月さんに言われて、途端に恥ずかしくなる。
「音居さん、少しだけお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
葉月さんは少し所用があるらしく、彼女と一度別れてサヤさんに案内された部屋で待つことになった。
「どうぞごゆっくり」
サヤさんは俺をある部屋に案内すると、紅茶を出して退出していった。
ひとりになった俺は、なんだか落ち着かずソワソワとしてしまう。
豪邸の一室なだけあり、なんせこの部屋もかなり広いのだ。出された紅茶もオシャレなティーカップに入っており、部屋の中には高そうな絵画や白く大きな犬のぬいぐるみのようなものまで置いてある。
それにしても、おっきなワンコのぬいぐるみだなぁ…いや、もしかしたら剥製か…?
葉月さん、犬好きなのかなー。
「……」
「……」
んー…不思議だ。何故か、さっきからあのワンコと目が合っているような気がする。いやまあ、ぬいぐるみや剥製に目が合っていると感じることぐらいよくあることだろう。気のせい気のせい。
すると、この部屋の扉がノックされたので、返事をして中に入っても大丈夫だと意思表示する。
「音居様。他にも恋様のご学友の方々がいらっしゃいまして、こちらにご案内してもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。もちろん」
葉月さんの友達ってことは、音楽科の人かな?
千砂都が普通科に転科した今、音楽科の人とは葉月さん以外に面識がない。
知らない人たちの中にひとりポツンといるのは、なんだか緊張するなぁ…
なんて考えていた俺だったが、部屋に入ってきたのはよく知る人たちだった。
「ちっ、千砂都!?澁谷さんにクゥクゥ、すみれまで…どうしてここに…」
千砂都に澁谷さん、クゥクゥ、すみれとよく知るクラスメイトたちの登場に戸惑う俺だったが、クゥクゥがすごい剣幕で詰め寄ってくることに更に戸惑ってしまう。
「それはコチラのセリフです!カナトさん、ハヅキさんとどういう関係なのデスカ!?」
「え?どういう関係って…え?」
「さっき、すっごく情熱的なやり取りをしてたじゃない」
情熱的なやり取り…え、さっき葉月さんを見つけた時の会話のことか…?
「もしかして、ずっと見てたの!?」
「えぇ。まぁ、声は聞こえなかったけどね」
「それで!ドウナノデスカ!?やっぱり、告白してたのデスカ!?」
「こっ、こここ告白ぅ!?」
え、ちょっ、いや、え!?
告白って…なんでそんな話になってんの!?
「ドウナノデスカ!?」
「どうなのよったらどうなのよ!?」
クゥクゥとすみれが、すごい勢いで問い詰めてくる。その後ろでは、千砂都と澁谷さんも物凄い眼光で俺に視線を向けている。
「いやいやいや!」
俺は咄嗟にすみれとクゥクゥの肩に手を置くが…
「っ…ぅぁ…」
咄嗟すぎて忘れてしまっていた。俺から見て左側にいるクゥクゥの肩に置いた左手は、現在ヌッラの能力により麻痺して思うように動かせない上、何かに触れると激痛が走る。無理やり動かした上、クゥクゥの肩にしっかりと触れてしまったため、激痛が走り俺はつい顔を歪めてしまう。
「カナトさん…?」
「あ…いや、ごめんなんでもない」
そんな俺を心配するように顔を覗き込んできたクゥクゥに、なんでもないと誤魔化し、いつの間にかされていたとんでもない誤解を解くためにはっきりと言う。
「それよりもっ!告白とかしてないから!!」
「「「「え」」」」
みんなの気の抜けた声が重なった。
「本当に…?」
そして、ずっと後ろで何も言わずに、ただただ物凄い視線だけを向けてきていた澁谷さんから、弱々しい声が聞こえてくる。
「本当だよ。っていうか、なんでそんな話になってんのさ?」
呆れてため息混じりに聞くと、千砂都、澁谷さん、すみれの視線が一気にクゥクゥの方へ向く。
「……エヘッ♪」
恐らくこんなに話を飛躍させた張本人であろうクゥクゥは、舌を出してはにかんだ。
「あまりにも昨日見たドラマにそっくりデシタので…」
俺はそんなクゥクゥを見て苦笑し、すみれも「人騒がせね…」とため息を吐く。後ろの幼馴染コンビは、力が抜けたようにその場に座り込んでいる。
とまぁ、一悶着ありつつも落ち着きを取り戻した俺たちは、それぞれ椅子に座る。
そして、俺たちが勘違い騒動を繰り広げている間に、サヤさんが全員分の紅茶を用意してくれていたみたいだ。元々用意してあった俺の分も、新しく温かい紅茶を淹れ直してくれている。
流石メイドさん、気遣いに溢れている。
「どうぞ」
「ありがとうございますっ♪」
紅茶を出してくれたサヤさんに対して、キラリとした猫撫で声でお礼を言う澁谷さん。とてもお淑やかな風を装っており、普段の彼女を知っている俺から見ると、猫を被っているのが丸わかりだ。
そして、葉月さんを呼びにサヤさんが部屋から退室すると…
「どうしよう!?約束も何もしてないのにぃ!!」
一瞬で普段の澁谷さんに戻った。
そういえば、どうしてみんなはここに…と思って聞こうとしたが、答えはすぐにわかった。このタイミングでわざわざ葉月さんの家まで訪ねてきたということは、就任挨拶での発言とスクールアイドル活動についての話をしにきたのであろう。
「それにしても、立派なお
「ぬいぐるみ?剥製じゃないの?」
話は変わり、俺も気になっていた部屋の隅にある大きな白い犬の話を始めるクゥクゥとすみれ。
「こんな大きな犬、イルワケないじゃないデスカ。ふわぁ、あたたかぁい…」
「温かい…?ホントだぁ…それに、トクントクンって…」
「何言ってるのデスカァ…まーたテキトーなことバカリ言って…」
犬に抱きつき、その温かさに癒される二人。
しかし、嫌な予感しかしない。温かくてトクントクンって…
「わんっ!」
わん…?
「ほっ…」
どうやら、ずっとぬいぐるみか剥製だと思っていた巨大ワンコは…
「「「「「本物だぁー!?」」」」」
本物の巨大犬だったみたいだ。
それに気づいた俺たちは一斉に立ち上がり、逃げるように部屋から飛び出した。
「なんなのあの出鱈目な犬はぁ!?」
「知らないよぉ!!」
「イデンシ組み換えですか!?アルイハ巨大化カイゾウ…」
巨大ワンコから逃げ回りながら、すみれ、澁谷さん、クゥクゥが思い思いに叫ぶ。
クゥクゥは葉月さんをなんだと思っているのだろうか…
「あった!」
すると、千砂都がスマホで何かを検索して画面をこちらに見せてくる。
「本当にいる犬だって」
千砂都のスマホに写っているのは、今俺たちを追いかけ回している犬にそっくりな白い巨大ワンコ。
それにしても、俺たちとは違って顔色ひとつ変えず涼しい顔で走り続け、その間にそんな検索までしているなんて、やっぱ千砂都の体力パネェ…
すると、千砂都はなんだか訝しげな視線を向けてくる。
「ていうか奏叶くん、どうしてそんな走り方してるの…?」
あ…
言われて気づいた。今の俺は左手が動かせないため、右手だけを振るというなんとも奇天烈な走り方をしているのだ。しかも、これが想像以上に体力を持っていく。
さてさて、なんて誤魔化そうか…
「えっと…今日は、なんか右手だけで走りたい気分なんだっ!」
「「「「……」」」」
こんな状況じゃ、流石に上手い言い訳も出てこない。
訳のわからないことを言い出した俺に、みんなはまるで残念なものを見るかのような視線を向けてくる。
くぅっ…世知辛ぇ…
それからしばらく、助けを求めて屋敷中を走り回ったが、人影ひとつ見当たらない。
「ヒィヒィ…もう…ダメです…」
とうとう体力の限界が迫ってきたクゥクゥの走るスピードが段々と落ちてゆく。
まずい…このままじゃ…
その時、澁谷さんの右手に手のひらサイズの赤いボールが握られていることにふと気がついた。
「澁谷さん!それ!」
「あっ!」
俺が声をかけると、澁谷さんも自分が握っているボールの存在に気がついた。
「てぇいっ!!!」
澁谷さんはそれを勢いよく投げ、ワンコの気を引いた。標的が俺たちからボールへと切り替わったワンコは逆方向に走っていき、ようやくこの長い逃走劇が終わりを迎えた。
しかし、いつワンコが戻ってくるかわからないので、この隙に近くにあった扉の中に逃げ込むことにした。扉の中に入るとすぐに階段があり、クゥクゥとすみれはそこに座って息を整えている。
それにしても、この屋敷に入ってから葉月さんとサヤさん以外の人の姿を見ていないことが気になる。さっきなんて、屋敷中を走り回っていたのにも関わらずだ。
こんなに広い屋敷なら、サヤさん以外のメイドさんとか、執事さんや庭師さんとかもいたっておかしくなさそうなのに…
なんて考え込んでいると、澁谷さんが階段を降りていくので俺もなんとなく着いていく。
階段を降りると、澁谷さんが一冊のアルバムを見つけていた。
そのアルバムが気になって俺も後ろから覗き込んでみると、そこには、高校生たちの青春の1ページを切り取った思い出の写真の数々だった。
それもなんと、そこに写る生徒たちが着ている制服は、結ヶ丘高等学校の普通科のものにそっくりだ。
そして、その写真に写るひとり、大きなリボンをつけた黒髪ロングヘアーの女子生徒が目についた俺は、あることに気がつく。
この人、まるで…
「二人とも」
すると、俺たちとは別のところで何かを見つけたらしい千砂都に声をかけられ、俺と澁谷さんもそこに移動する。千砂都、クゥクゥ、すみれが見ていたのは、壁にかけられた一枚の写真だった。
「卒業写真、かな…?」
「結ヶ丘っぽいデスケド…」
「それにしては、随分古くない?」
結ヶ丘高等学校の普通科校舎にそっくりな建物の前で撮った、さっきと同じ制服を着た高校生たちの集合写真。
結ヶ丘は、今年開校したばかりの新設校。
つまりは俺たちが一期生であり、結ヶ丘で撮影された卒業写真など存在するはずがない。そんなあるはずがない写真を不思議そうに見つめる澁谷さんたちだったが、俺にはひとつ心当たりがあった。
「神宮音楽学校…」
「え?」
「昨日、桜葉先生から聞いたんだ。結ヶ丘があった場所には、元々違う高校があったって…」
「それって…」
俺の口から神宮音楽学校の存在を聞いたみんなは、再び写真に注目する。
結ヶ丘高等学校がある場所に、元々あった神宮音楽学校。
葉月さんの家に飾られている結ヶ丘とよく似た校舎の前で撮られた写真。
そして、アルバムの写真に写っている葉月さんと瓜二つの女性。
段々とピースが揃い、繋がってきた。
「いけません!」
すると、近くの扉の先からサヤさんと思われる女性の緊迫した声が聞こえてきたので、俺たちは扉をそっと開けて中の様子を窺う。
「本当に今までありがとう。このご恩は、一生忘れません」
扉の先には、困惑した様子のサヤさんと、そんな彼女に感謝の言葉と共に封筒を渡そうとしている葉月さんがいた。
「受け取れません」
「お願い。来月からは、あなたを雇っていくお金もないのです」
えっ…お金が、ない…?
「しかし、それではお嬢様は本当に一人きりに…」
「平気ですよ。
サヤさんを心配させまいと、隣にやってきた巨大ワンコ改めチビの頭を撫でて微笑む葉月さん。
「あなたがここに来たのは、まだチビが生まれたばかりの頃でしたよね。あの頃はまだお父様がいて、お母様も元気で、皆仲が良くて、家の中はいつも賑やかで…」
そういうことだったのか…
この家の違和感。こんなに広い豪邸なのに、この家にいるのは葉月さんとサヤさんのたった二人と、犬のチビのみ。
葉月さんのお母さんが既に亡くなっていることは聞いていたが、お父さんも何らかの事情で、少なくともこの家にはいない。更には、他の人を雇うお金もない。
葉月さんは学校の問題だけでなく、家の問題までずっと一人で抱え続けてきたということなのか…俺と同じ、まだ15歳の女の子だというのに。
「悲観しているのではありませんよ。
その言葉の裏を返せば、唯一残っているのが結ヶ丘だということだ。亡くなったお母さんが遺してくれた最後のもの。それを考えれば、彼女が誰よりも学校を愛し、何としてでも守ろうとしてきた理由がよくわかった。
そして、それと同時に、それがいかに厳しい状況なのかもわかってしまった。
お金がないということは、学校を運営していく資金もないということなのだろう。それを何とかするためには、来年度からの入学希望者数を増やさなければならない。
その時、チビの視線が俺たちを捉えた。
「ワンッ!」
扉の端にいた俺は飛びかかってきたチビをなんとか避けられたが、澁谷さんと、更にその下敷きになったすみれはチビの猛攻を受ける。
「あなたたち…」
葉月さんは、驚いたように呟いた。家の中に俺がいることはもちろん知っていたが、澁谷さんたちがいたことは知らなかったようだ。
「チビ、カム」
サヤさんがチビをお座りさせ事態が収まると、澁谷さんは立ち上がって葉月さんに声をかける。
「一人ってどういうこと?お金がないって…」
「そのままの意味です。この家に残っているのは
つまり、結ヶ丘高等学校を存続させるためには、入学希望者を集めるしかない。そのために、葉月さんはより良い学校を作るということに躍起になっていたのだろう。
「母が遺してくれた学校を続けるためには、
ようやく知った葉月さんが抱えていたもの…
それは、俺の想像よりも遥かに重いものだった。
──次回『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』
「葉月さん。もうひとつ、大事なことを聞きたいんだ」
葉月恋が抱え続けてきた事情を知った奏叶。
しかし、その目的のため、ヌッラになり人を襲っているならば止めなければならないと、奏叶は恋と対峙する。
「っ…大事な友達だと思ってるなら止めないでください!
しかし、決意を固めた恋の意志は変わらない。
今、二人の意思がぶつかり合う。
「葉月さんが、学校のために頑張ってるのはわかってるよ。だとしても、これだけは絶対に止める」
『#23 手を取り合って』
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『#22 遺された願い』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!
お気に入り登録や感想、評価等いただけると大変励みになります。
もしよろしければ、よろしくお願いします!
次回『#23 手を取り合って』は、8月26日20時に投稿予定です。
お楽しみに!