〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜   作:一葉 彩人

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─登場人物─

音居奏叶(おといかなと)
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、仮面ライダームジカの変身者。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。

唐可可(たんくぅくぅ)
結ヶ丘高等学校に通う一年生であり、スクールアイドル同好会の一員。
スクールアイドルに憧れて上海からやって来た。好きなものへの情熱は人一倍強い。

葉月恋(はづきれん)
結ヶ丘高等学校 音楽科に通う一年生であり、生徒会長を務めている。
亡き母が遺した結ヶ丘高等学校を存続させるために奮闘している。また、母の学校アイドル時代の記録が残されていないことから、かのんたちに結ヶ丘ではスクールアイドル活動をしてほしくないと思っている。

鼓野志保(つづみのしほ)
プロテクションの長官補佐。
長官の補佐以外にも、奏叶の戦いのサポートも主な仕事である。

桜葉大翔(さくらばひろと)
神宮音楽学校の卒業生であり、現在は結ヶ丘高等学校の音楽科教師。
ラフかつ飄々とした性格で、よく屋上でいちごミルクを飲んで休息をとっている。親しみやすいと生徒からの人気は意外と高い。



#25 花の面影

 

「アイツは…葉月花は、お節介で優しいやつだった」

 

昔を懐かしむように目を細め、天を仰ぐ桜葉先生。

そんな彼の優しい声音からは、今でも葉月さんのお母さんを大切に想っていることが伝わってきた。

 

「当時ヤンチャだった俺は、この屋上でよく授業をサボってたんだ」

 

あれ、それって…

 

俺はふと頭に浮かんだことがあるが、言葉にはせず飲み込んだ。

 

「それって、今とあまり変わらないですね」

 

しかし、俺がぐっと飲み込んだその言葉を、隣に座る葉月さんがさらりと言ってのけた。

 

「ぐげっ…」

 

そして、自分でも図星をつかれたと思ったのか、桜葉先生はバツの悪そうな顔をする。

 

「いっ、言っとくが、今の俺は授業はサボってねぇぞ。自分が担当してる授業の時は、しっかりと教えてる」

 

「それは教師として当然です。それに、授業以外の仕事中によくここで油を売っていることは事実です」

 

「それは…その…」

 

葉月さんの至極真っ当なお叱りに、桜葉先生は返す言葉がなくなり目を泳がせている。

 

「こんなとこまで、アイツに似なくてもいいっつーの…」

 

ボソッとため息混じりに放たれたその一言は、葉月さんには聞こえていないようだが、俺の耳には確かに届いた。

"アイツ"というのは葉月さんのお母さん─葉月花さんのことだろう。

 

「で、話を戻すぞ」

 

そして話は、桜葉先生の高校時代に戻る。

 

「屋上でサボっていた俺を、葉月はいつも授業に連れ戻そうとしてきた」

 

当時の桜葉先生は、金髪で短ランにボンタンという、いかにもなヤンキー高校生だったらしい。

そのため、学校で彼と接しようとする人はほとんどいなかった。

 

しかし、葉月花さんだけは違った。毎日のようにサボっている桜葉先生を見つけては授業に連れ戻そうとしたり、一緒にお昼ごはんを食べたり、ただただ世間話をしたり…そんな普通の友人のように接していた。

 

「アイツは、真っ直ぐで、純粋で、強い人だった。心から、人のことを考えられる優しさを持っていた」

 

今までに見たことがないほど優しい表情の桜葉先生は、どこか寂しげな瞳で、手に持つ紙パックのいちごミルクに口をつけた。

 

「俺はだらしなくて頼りない教師かもしれねぇ。でも、葉月と出会ってなかったら、俺は教師になりたいっていう夢も見つからずに、腐っちまってたと思う…」

 

桜葉先生は、確かにしっかりとした先生ではないかもしれない。

でも、実は俺たち生徒のことをよく見ていて、親身になって考えてくれる素敵な先生だ。

 

「今の俺がいるのは、葉月がいてくれたからだ」

 

桜葉先生にとって、葉月花という人の存在はとても大きかった。彼の心の中には、亡くなってからもずっと、花さんが残り続けているのだろう。

 

「……(わたくし)は、母のようになりたいと思っていました」

 

桜葉先生からお母さんの話を聞き、葉月さんはポツリと自分の心情を語り出す。

 

「お母さまのように、優しく、誰かを導けるような人になりたい。お母さまが遺したこの学校を、良い学校にしていきたい。しかし…(わたくし)が、この学校を大変な状況にしてしまった。(わたくし)の発言で、生徒の皆さんに混乱を与えてしまいました…」

 

「葉月。お前ひとりのせいじゃない」

 

俯き、悔しさに震える葉月さんに、桜葉先生が声をかける。

 

「むしろ、俺たち周りの大人の責任だ。まだ高校生のお前には大きすぎるものを背負わせて、追い込んでしまった。本当に申し訳ない」

 

桜葉先生は、深々と頭を下げた。

 

「そんな…今回の件は、(わたくし)が不甲斐なかったからで…」

 

葉月さんが困ったように両手を振ると、桜葉先生は顔を上げる。

 

「それにな、葉月。お前は、お母さんとよく似てるよ」

 

「え?」

 

「葉月花だって、何も完璧だったわけじゃない。高校時代、もちろん失敗だってしてる。誰よりも学校のことを大切に想っていて、一生懸命で…だからこそ、ひとりで解決しようとして全て抱え込んじまう時だってあった」

 

それを聞いて、ずっと葉月さんと桜葉先生のやり取りを静観していた俺も、少しだけ口を挟む。

 

「確かに、葉月さんと似ていますね」

 

「だろ?」

 

俺と桜葉先生が顔を見合わせて頷き合うと、葉月さんは顔を赤くして恥ずかしそうに俯いた。

 

「今日の葉月を見て、少しだけ安心したよ」

 

「安心、ですか…?」

 

「あぁ。今回はたまたま会ったって言ってたが、音居が今の状況をなんとかしようと協力してくれているんだろ?」

 

葉月さんがそれに頷くと、桜葉先生は安心したように微笑んだ。

 

「葉月にも、頼れる相手ができたんだな」

 

「はい…!」

 

そんな二人のやり取りに照れ臭くなると同時に、昨日葉月さんにちゃんと自分の気持ちをぶつけてよかったと、改めて思った。

 

「とまぁ、話が逸れちまったが…葉月花の話は以上だ」

 

桜葉先生は両手を合わせてパンっと音を鳴らし、話を締め括った。

 

「あの…もうひとつだけ、よろしいでしょうか?」

 

「ん?」

 

「母は、学校アイドルの活動をしていたことを、後悔していたのでしょうか…?」

 

葉月さんがずっと抱いていた疑念。

それを確かめるべく、彼女はおずおずと尋ねた。

 

「……それについては、俺から答えることはできない」

 

逡巡の後、桜葉先生はそう答えた。

 

「っ…そうですか…」

 

答えることができないということは、やはり後悔していたのではないだろうか。そう考えてしまった葉月さんの瞳には、不安の色が映る。

そんな葉月さんの様子を見て、桜葉先生は俯く彼女と目線を合わせるようにしゃがんで伝える。

 

「俺から言えることはただひとつ。葉月は、"葉月自身の道"を生きなさい」

 

「わたくし、自身の道…」

 

「恋には、私を追いかけるだけじゃなくて…恋の好きなこと、やりたいことをしてほしい。そうすればきっと、想いは繋がる…」

 

その言葉は、きっと葉月さんの中では、お母さんの声に変換されて届いただろう。

 

「アイツなら、きっとこう思ってるさ」

 

「おかあ、さま…」

 

葉月さんは、目を閉じて考える。

 

そして、次に目を開くと、その瞳にはもう不安の色は残っていなかった。

 

「ありがとうございました!桜葉先生…」

 

「ちょっとは、楽になったか?」

 

「はい!」

 

和やかに笑って頷いた葉月さんにニカッと笑い返した桜葉先生は、未開封のいちごミルクを取り出した。

 

「じゃ、これでも飲んで力つけな」

 

差し出されたいちごミルクを見た葉月さんは、パァっと目を輝かせる。

 

「良いのですか!?」

 

「やっぱり、いちご好きなんだな」

 

「え?」

 

「いや、アイツも好きだったからな…」

 

その"アイツ"というのは、恐らく葉月花さんのことだ。

 

そういえば…前に葉月さん、お母さんとよく一緒に食べてたから、いちごが好きになったって言ってたな。つまり葉月さんにとって、いちごはお母さんとの思い出の味ってことか。

 

「ほんと、懐かしいな…」

 

そう呟いていちごミルクを飲む桜葉先生の表情は、どこか憂いを帯びていた。

 

もしかして、桜葉先生って…

 

「ん?なんだよ?」

 

俺の視線に気づいた彼は首を傾げる。

 

「いえ、なんでもありません」

 

ま、ソレを考えるのは野暮ってもんだな。

 

 

「音居さん、ありがとうございました」

 

普通科の教室に戻る俺と、音楽科の教室に戻る葉月さん。

その別れ道で、葉月さんが礼を言ってきた。

 

「お母さまが学校アイドルについてどう思っていたのかはわからないままですが…桜葉先生の話を聞いて、気持ちが少し楽になりました」

 

「それならよかった」

 

「家でもう一度、学校アイドルに関して何か情報がないか探してみようと思います。今日中に何も見つからなければ…明日の全校集会で、正直に話そうと思います」

 

つまりそれは、学校が置かれている状況…来年度の入学希望者が集まらなければ、予算が尽きて廃校になってしまうことを話すということだ。

 

「え、でも…」

 

「いいのです。生徒会長である(わたくし)が、いつまでも隠し事ばかりしていては状況は良くならないでしょうし…」

 

「……そっか」

 

彼女自身が覚悟を持ってそう決めたのなら、俺は応援するだけだ。

 

「今はちょっとピリピリしてるけど…この学校みんないい人ばっかりだから、きっとわかってくれるよ」

 

そう言っても、葉月さんの中には受け入れてもらえないだろうと不安な気持ちがあるようで、力のない笑顔を浮かべる。

俺はそんな彼女に、優しく微笑みかけて伝える。

 

「何があっても、俺は絶対に葉月さんの味方だからね」

 

 

それから学校を出た俺は、校門から少し離れた路肩に停車している黒のワンボックスカーに乗り込んだ。

 

「言われた5名について調査してみましたが、特に怪しい経歴はありませんでした」

 

車の中で待っていた鼓野さんから報告を受ける。

昨晩、ヌッラ候補だと判明した5人について、プロテクションに調査をお願いした。

 

渡された資料に目を通してみるが、彼女の言う通り、ヌッラの正体に繋がりそうな情報は特にない。

 

ただ、一晩考えてひとつだけ思いついたことがある。

 

「これはあくまで俺の推測に過ぎないんですが…」

 

そう前置きして、俺はそれについて話し出す。

 

俺は、桜葉先生と理事長先生はヌッラではない可能性が高いと考えている。

ヌッラは、わざわざターゲットではない葉月さんと接触してまで、結ヶ丘のスクールアイドルが誰なのかを聞き出そうとしている。桜葉先生と理事長先生に関してはそれについて知っているため、そんなことをする必要がないのだ。

 

それに、ヌッラが現れた日に、神宮音楽学校の卒業生が来校した。俺には、どうもこれが偶然だとは思えないのだ。

 

つまり、俺の推測だと、ヌッラの正体は蜂須賀悠仁、揚蝶紫苑、鳥巣心春の3人にまで絞られた。

 

「確かに、最有力候補としてはその3人になりそうですね…」

 

しかし、今わかっている情報だとこれ以上絞り込むことはできない。

 

「せめて、ヌッラの性別がわかればいいのですが…」

 

あのヌッラの声は加工されていて、口調や体型でも、性別を判別できそうな要素はなかった。

 

その時、俺と鼓野さんのプロテクフォンに同時に通知が入る。

 

「「っ!?」」

 

それは、ヌッラの出現を知らせる通知だった。

 

「恐らく、あのヌッラですね…現場に向かいましょう」

 

「すみません。左手がそんな状態の時に…」

 

「ヌッラと戦えるのは、俺しかいませんから」

 

泣き言を言ったってしょうがない。

仮面ライダームジカに変身できるのは俺しかいない。俺がやるしかないんだ。

 

「それに、どの道あのヌッラを倒さないと、この左手も治りませんから」

 

もう二回も逃げられたんだ。

今度こそ、決着をつけてやる…!

 

 

ちょうど車に乗っていたので、鼓野さんの運転で現場まで向かう。

プロテクションの社用車であるこの黒のワンボックスカーは、後部座席の窓が外から見えないようになっている。ここなら、誰にも見られることなく変身できる。

 

「もう間もなく到着します」

 

運転している鼓野さんから、そう声がかかる。

 

「よし…!」

 

俺は腰にステレオドライバーを装着し、変身ボタンを押す。

そして展開されたディスクトレイにブルースカイエネルジアディスクを装填し、再び変身ボタンを押す。

 

「変身!」

 

『翼を広げ歌うんだ

大好きを胸に ほら あの雲の向こうまで

俺だけの"(みち)"を進むのさ

未来はきっとブルースカイ』

 

仮面ライダームジカ ブルースカイに変身し、車から飛び出した。

すると、目の前には金木犀の木々が植えられている公園があり、そこで迫り来るヌッラからひとりの女の子が全力で逃げていた。

 

「ヒィィィッ!ドウシテまた怪物が来るのデスカァ!?」

 

クゥクゥ!?

 

今朝に続き、再びヌッラと邂逅してしまったのはクゥクゥだったようだ。

 

「はぁっ!」

 

俺は取り出したエフェクティングソードで、クゥクゥを追いかけ回しているヌッラを斬りつける。

 

「ぐっ…!?またお前かっ!!」

 

「アンタが人を苦しめる限り、俺は何度だって止めにくる」

 

「どうしてそこまで…私はただッ、あの学校でアイドルをする連中を消したいだけなのにッ!!」

 

「ドウシテそんなことするのデスカッ!!」

 

後ろにいるクゥクゥから、悲痛に満ちた叫び声が聞こえた。

 

「ククは、ただスクールアイドルがダイスキなだけデスッ!!!」

 

みんな、自分の憧れや願いを叶えるために毎日必死に練習して、スクールアイドルをやっている。

特に、スクールアイドルを始めるために来日したクゥクゥのその言葉には、とても熱い想いが込められていた。

 

「っ…」

 

そんなクゥクゥに気圧されたのか、ヌッラの動きが止まった。

 

「……めない…」

 

しかし、次の瞬間ヌッラは俯いていた顔を上げて怒号をあげる。

 

「スクールアイドルなんて認めない!!あの学校のアイドルは、彼女以外絶対に認めない!!!」

 

やっぱり、大人しく引き下がってはくれないか…

 

再び戦闘体制に入ったヌッラを迎え撃つべく、俺もエフェクティングソードを構える。

 

「この子たちの大好きなものを奪わせたりはしない」

 

すると、車を停めた鼓野さんがこちらに駆けつけてくる。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「その子をお願いします!」

 

鼓野さんは頷くと、クゥクゥを連れて避難していった。

クゥクゥが避難すれば、この周辺には俺とヌッラしかいなくなるため、思い切り戦うことができる。

 

「逃すかっ!!」

 

俺はクゥクゥに飛びかかろうとするヌッラに斬りかかり動きを止める。

ヌッラはその刃を調合タンクの部分で受け止め、押し返そうとしてくる。

 

「「っ…!」」

 

しばらくお互いの力が拮抗していたが、なんとか俺の力の方が上回り、ヌッラの体勢を崩すことに成功した。その隙に、俺は右足でヌッラの腹部に蹴りを入れる。

 

「今度こそ決着をつけさせてもらう」

 

俺はステレオドライバーに、サンシャインエネルジアディスクを装填する。

 

『熱く 雄叫びあげろ!

真っ赤に染まったハートは もう誰にも止められないんだ

君から溢れる パッショネイト

太陽みたいな笑顔を守るために今 情熱満タン!

ハジける・サンシャイン!!』

 

仮面ライダームジカ サンシャインに変身し、俺は体から一気に熱気を放つ。

 

「っ!?何、この暑さ…!?」

 

前回は至近距離に澁谷さんたちがいたためできなかったが、今は近くに誰もいないため遠慮なく強力な熱気を放つことができた。

 

「こんな熱気ぐらいっ…!」

 

熱気により動きが鈍くなりながらも、ヌッラは俺に飛びかかってきた。しかし、ヌッラが距離を縮めてきたのを利用して、俺はカウンターパンチを繰り出す。

 

「はぁっ!」

 

パワー特化であるムジカ サンシャインの強力な一撃を受け、ヌッラは一気に公園の端まで吹っ飛んでいった。

 

「ぐっ…うぅ…!」

 

先程までとは比べ物にならないほどのダメージを受け、ヌッラは立ち上がるのも精一杯だ。

なんとかといった様子で立ち上がったヌッラへと、俺は熱気を放ちながら近づいていく。そんな熱気に押され後退しようとするヌッラだが、背後の金木犀にぶつかりそれ以上は下がれない。

 

俺がそんなヌッラに再び攻撃を仕掛けようと右手の拳を構えると、ヌッラは左に避けようとする。

しかし、それに気づいた時には俺は拳を前に突き出す寸前であり、その軌道はもう変えられない。

 

「はぁっ!」

 

ヌッラには避けられてしまうと思いつつも、俺が拳を前に突き出すと、何故かヌッラは避けるのをやめてその拳を真正面から受けた。

 

今、ヌッラは確かに避けようとしてたのに、どうして…

 

突然な不可解な行動につい気を取られてしまい、足元で倒れているヌッラが右手の針を俺に向けていることに気が付かなかった。

 

「っ!?しまっ…ぐぁっ!!」

 

そして、ヌッラは先日の爆発する毒を放ち、俺の体に付着した瞬間に爆ぜた。

 

「よくも…」

 

形勢逆転してしまい、今度は倒れた俺にヌッラが迫り来る。

 

「ぐっ…」

 

しかし、先程俺のパンチを二発も受けたヌッラは、蓄積したそのダメージで思うように体が動かない様子だ。

 

「まあいい…回りくどいことはやめて、次は全員一気に潰してやる…!」

 

そう言って、ヌッラは再び爆発する毒を放ってくる。

俺は飛んできたその毒を右手のアーマーで弾き返し、毒は空中で爆ぜた。

しかし、その爆発によって発生した煙で視界が閉ざされ、その間にヌッラは姿を消してしまっていた。

 

「はぁ…」

 

また逃げられてしまった。

 

「ちょっ、待ってください!」

 

すると、鼓野さんの焦る声が聞こえた。

何事かと思い振り返ると、逃げたはずのクゥクゥが、鼓野さんの制止を振り切りこちらに駆け寄って来た。

 

クゥクゥは俺の前で立ち止まると、何やら怪訝な表情でこちらに視線を向けてくる。

 

「えっと…怪物は追っ払ったから、今日のところはもう大丈夫だよ」

 

本当なら、ちゃんとヌッラのレタルジアディスクを破壊して、不安を取り除いてあげたかったのだが…

 

何も言わずにしばらく俺を凝視していたクゥクゥが、ようやく口を開き、衝撃的な一言を発する。

 

「カナトさん、デスヨネ…?」

 

「「っ!?」」

 

その瞬間、俺と鼓野さんの体が硬直する。

 

えっ!?バレた!?なんで!?

 

「か、かなと…?誰だろうそれ…あはは…」

 

「その誤魔化し方…ヤッパリ、あなたカナトさんです!!」

 

ごっ、誤魔化し方!?

 

何故だかわからないが、クゥクゥは仮面ライダームジカが俺だと確信した様子だ。違う、知らないとシラを切ることもできるが、恐らくそれじゃクゥクゥは納得しないだろう。

 

「鼓野さん、いいですか?」

 

俺は確認を取るべく鼓野さんに視線を向ける。

つまりこれは、正体を明かしてもいいかという確認だ。

 

「で、ですが…」

 

「大丈夫です。クゥクゥは、友達思いで信頼できる人です」

 

そんな彼女なら、きっと俺の正体も黙っていてくれる。

 

「わかりました。音居さんが信頼されている方なら」

 

鼓野さんからの許可を得て、俺は変身解除して人間の─音居奏叶の姿に戻る。

 

「えっと…その…やぁ?」

 

しかし、いざ素顔で対面するとどう反応すればいいのかわからなくなり、俺はぎこちなく右手をあげて声をかける。

 

「どういうことナノですか!?カナトさん!」

 

「と、とりあえず場所移そうか」

 

 

そして、一旦ここに来るのにも使った黒のワンボックスカーの車内で話そうということになり、俺たち3人は後部座席に乗り込んだ。

 

「それで、仮面ライダームジカが俺だってどうしてわかったの?」

 

「キッカケは、朝カイブツに襲われた時デス…」

 

今朝、登校途中にもヌッラの襲撃を受けたクゥクゥ。

その時に助けに入った俺─仮面ライダームジカの発言を聞き、彼女は疑問に思ったそうだ。

 

『やっぱり左手が使えないってのは不便でね…』

 

その発言を聞き、俺が葉月さんの家で彼女の愛犬─チビに追いかけ回されている時、左手を使わない不自然な走り方をしていたことを思い出したそうだ。

 

「その後、学校で会った時、カナトさんはこう言ってイマシタ」

 

『ククは、朝からタイヘンでした』

 

『怪物に襲われるなんて怖かったよね』

 

「ククは、カイブツに襲われたなんて一言も言ってイマセン」

 

しまった…完全にやらかした。

ヌッラと戦ったことで大慌てで登校した上に、教室での騒動もあり、完全に気を抜いてしまっていた。

 

「ソレカラ、ククがペンを返す時も、カナトさんはポケットに入れていた右手を出してイマシタ」

 

クゥクゥから返された赤ペンを受け取る時も、外に出ていた左手はヌッラの毒で動かせないため、俺はわざわざポケットに入れていた右手を出して受け取ったのだ。それを見て、クゥクゥは俺が左手を使えない状況にあると改めて思ったそうだ。

 

「そして、ククは確信したのデス。カナトさんが、ククたちを何度も助けてクレタ人なんだって」

 

俺の正体に気づいた経緯を話し終えると、ククはその好奇心が抑えきれなくなったのか、俺にグイッと顔を近づける。

 

「それより、あの姿はナンナノですか!?」

 

「あぁ…あれは…」

 

「その前に、私からよろしいでしょうか?」

 

クゥクゥの問いに答えかけた時、鼓野さんが話に切り込んできた。

 

「鼓野志保と申します。先程の怪物…ヌッラから人々を守るために結成された組織─"プロテクション"に所属しています。我々は混乱を防ぐために、組織や怪物の情報を秘匿しています。ですので、これから音居さんがお話する内容は、くれぐれもご内密にお願いします」

 

「わ、わかりマシタ!」

 

クゥクゥが鼓野さんからの忠告を聞き入れたところで、俺は話し出す。

 

──俺には、仮面ライダームジカという戦士に変身する力があること。

 

──結ヶ丘に来てから、鼓野さんたちプロテクションに協力していること。

 

──そして、人々を守るために怪物と戦っていること。

 

流石にプロテクションや敵組織のピリオド、変身システムの詳細までは話さなかったが、それでも現実離れした壮大な話に、クゥクゥは呆然としていた。

 

 

俺が説明している間に、鼓野さんはクゥクゥの家付近まで車を走らせてくれていた。

ちょうど話し終えた頃に到着したので、俺もそこで車を降りることにした。

 

「まさか、カナトさんがずっと戦っていたナンテ…」

 

未だに話の全てを理解できていない様子のクゥクゥは、ひとりごとのように呟いた。

 

そりゃ友達が実は怪物と戦ってました、なんて言われても、急には飲み込めないよな…

俺だって、変身した最初の頃は全然実感湧かなかったし。

 

「変なことに巻き込んじゃってごめんね」

 

俺が謝ると、クゥクゥは首をブンブンと横に振る。

 

「クク、ちゃんとみんなには黙っておきマスネ!」

 

「うん、ありがとね」

 

クゥクゥなら、無闇矢鱈に人に言いふらしたりすることはないと確信している。俺だと言い当てられた時は驚いたが、その相手がクゥクゥでよかった。

 

「カナトさん、辛くないデスカ…?」

 

クゥクゥは、心配するようにじっと俺の瞳を見つめて聞いた。

 

「え?」

 

辛くないか、か…

 

「辛くないって言ったら、嘘になるかな…命懸けで、痛い、しんどいってのは日常茶飯事だし」

 

嘘をついたって仕方がないと思い、俺は正直な胸の内を伝える。

 

「でも、戦う力があるのに、誰かが襲われているのを見て見ぬふりする方が、もっと辛いと思うから」

 

ちょっとカッコつけすぎたかな…

なんて内心思っていると、クゥクゥはパァッと目を輝かせた。

 

「カナトさんっ!ククに手伝えることがあったら、ナンデモ言ってクダサイ!戦うことはできないけど…ククたちのために戦ってくれてるカナトさんの力になりたいデス!!」

 

真っ直ぐな瞳で伝えられた、純粋無垢な心からの言葉。

 

俺が仮面ライダームジカだと知るのは、プロテクションの人以外ではクゥクゥが初めてだ。プロテクションの人たちもサポートしてくれるけど、それはあくまで彼らの仕事や信念があってのこと。

 

こうして、ただただ純粋な友達として支えようとしてくれるクゥクゥの気持ちを受け、なんだか心がすーっと軽くなったような気がした。

 

「ありがとう、クゥクゥ」

 

「カナトさんも、いつもククたちのこと守ってクレテ…ありがとうございます!!」

 

「っ…!」

 

俺は別に、誰かに感謝されたいから戦っているわけではない。認めてもらいたいだとか、ヒーローと持て囃されたいとか、そんな気持ちで戦ってるわけでもない。

 

根底には、いつか俺の歌声を奪ったヌッラを見つけて、倒して、歌声を取り戻すっていう目的があって戦っているわけだし…

 

でも…それでも、こうして感謝されるっていうのは、なんだかたまらなく嬉しいものだ。

 

「それじゃあ、特に今は左手が使えないし、困った時は頼らせてもらおうかな」

 

「ハイっ!お任せクダサイ!!」

 

ニコッと笑って答えたクゥクゥに、俺も自然と笑みが溢れてくる。

 

思わぬハプニングではあったものの、そのお陰で俺は力をもらえた。

いつも真っ直ぐに大好きを貫いているクゥクゥの、純粋な優しさ。それに触れたことで、俺の中により熱い力が湧いてきた。

 

そして、より守らなければと強く誓った。

 

絶対に守ってみせる。

クゥクゥたちのことも…そして、クゥクゥが大好きなスクールアイドルのことも!!

 





──次回『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』

「全校集会で、正直に話してきます」

神宮音楽学校の学校アイドルに関する記録が発見できず、恋は全校集会で全てを正直に打ち明ける決断を下す。
そんな時、奏叶とかのんはある可能性に気づくのであった。

「きっと何か見つかるはずだよ」

今、神宮音楽学校…学校アイドルの真実が明かされる!

「スクールアイドルは、お母さんにとって…」

『#26 瞬きの先へ』















─────

『#25 花の面影』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!

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もしよろしければ、よろしくお願いします!

次回『#26 瞬きの先へ』は、9月12日20時に投稿予定です。
お楽しみに!

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