─登場人物─
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、仮面ライダームジカの変身者。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
人前では緊張して歌えないという悩みを抱えていたが、可可の想いに触発されて共にスクールアイドルを始めた。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
スクールアイドルに憧れて上海からやって来た。好きなものへの情熱は人一倍強い。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
かのんの幼馴染であり、丸いものが大好き。スクールアイドル活動では、得意なダンスを活かしてメンバーを引っ張っている。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
幼い頃からショウビジネスの世界で活動してきた。表には見せないが努力家であり、ショウビジネスの世界で培ってきた様々なことを器用にこなす。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、 スクールアイドル部の一員。
音楽科に所属し、生徒会長を務めている。
亡き母が遺した結ヶ丘高等学校を守るために奮闘しており、かのんたちと共にスクールアイドルとして学校を盛り上げようと活動している。
【
プロテクションの長官補佐。
長官の補佐以外にも、奏叶の戦いのサポートも主な仕事である。
【
警視庁 公安部に所属する刑事であり、階級は警部。
ヌッラ捜査のため、特別捜査官としてプロテクションにも所属している。
【
プロテクションに所属する新人隊員。
明るくハツラツとした性格だが、何かとおっちょこちょいなため仕事でのミスが多い。
【
神宮音楽学校の卒業生。
現在は教育委員会で働いている。
【
神宮音楽学校の卒業生。
葉月花の幼馴染。現在は植物園で働いている。
【
神宮音楽学校の卒業式。
高校時代は学校アイドルとして活動していた。現在は専業主婦をしている。
【
結ヶ丘高等学校の理事長であり、神宮音楽学校の卒業生。
思ったことをはっきりと口にする性格。生徒たちからは、威厳のある人物だと思われている。
【
結ヶ丘高等学校の音楽科教師であり、神宮音楽学校の卒業生。
ラフかつ飄々とした性格で、よく屋上でいちごミルクを飲んで休息をとっている。親しみやすいと生徒からの人気は意外と高い。
「やっぱり、あなたがヌッラだったんですね。
神宮音楽学校の卒業生のひとり…揚蝶紫苑を前に、俺はそう断言した。
すると、彼女は観念したように息を漏らす。
「……てことは、あなたが私の邪魔をしてきた…」
「仮面ライダームジカだ」
俺も正体を明かし、その証拠だというように腰にステレオドライバーを装着する。
そして、覚悟を決めて拳を握りしめる。
俺の正体を明かしたからには、ここで絶対に決着をつけなければならない。
「どうしてわかったの?」
ヌッラの正体候補だった蜂須賀悠仁、鳥巣心春、そして揚蝶紫苑。
この3人の中から、ヌッラが揚蝶紫苑だと導き出せたのにはいくつかの理由がある。
まず一つ目は、ヌッラになった動機だ。
今回のヌッラの目的は、結ヶ丘のスクールアイドルだ。
『スクールアイドルなんて認めない!!あの学校のアイドルは、彼女以外絶対に認めない!!!』
先日の戦闘の際、激昂したヌッラの言葉。まずこの発言の、"彼女以外"という部分が引っかかった。
神宮音楽学校のスクールアイドルは、葉月花さんを含め3人いる。それなのに、ヌッラはその中の誰かひとりのみを指していた。
「先日、花さんが遺した学校アイドルの思い出が綴られたノートが見つかったんです」
そのノートには、記録や思い出の写真の他に、学校の人たちからの寄せ書きが載っているページがあった。恐らく、卒業式の日に応援していた人たちから寄せられたものだろう。
そこに、揚蝶紫苑からのメッセージもあった。
【花ちゃんは永遠に、この学校にとって唯一無二のアイドルだよ!!】
これが、彼女が書いたメッセージだ。
このメッセージが葉月花さんひとりを指していること、更には"永遠"、"唯一無二"という言葉が記されているということ。
「それで、あなたがヌッラである可能性が高いと考えました」
「まさか、高校時代に書いたメッセージが掘り返されるとはね。でも、それだけじゃあ、まだ根拠としては薄いんじゃない?」
もちろん、他にも理由はある。
それは、先日の戦闘でのヌッラの不可解な行動。ムジカ サンシャインに変身した俺のパンチを、避けられる状況にあったのに避けなかったことだ。
その理由を考えてみると、あの時、ヌッラの背後には美しい花を咲かせた金木犀の木があった。もしかすると、ヌッラはその金木犀を傷つけたくなかったのではないかと考えた。
『アイツはすげぇ花が好きでな。今も植物園で働いてるらしい』
そして、桜葉先生から聞いた揚蝶紫苑に関する情報。
「花が好きなあなたなら、その行動にも合点がいく」
「……そう。ま、そこまで気づいているのなら話が早い。これ以上、邪魔しないでよ」
「無理だ。あなたがその力を悪用しようとする限り、俺が止める」
「悪用…?」
次の瞬間、揚蝶紫苑は豹変する。
「私は悪いことなんて何にもしてないっ!!」
眼鏡の奥の瞳は大きく開き、感情のままに自分の胸の内を喚いた。
「私はただ、花ちゃんとの大切な思い出を守ろうとしているだけよ!私にとって大事なのは花ちゃんだけなの。学校もアイドルも、他は全部どうだっていい。花ちゃんがいる学校じゃなきゃ、花ちゃんがするアイドルじゃなきゃ認めない!この学校に他のアイドルなんていらないし、新しい学校だっていらないの!」
虚ろな目に、狂気に染まった表情で、ツラツラと呪文のように言葉を吐き出した。そんな彼女に、俺は愕然としていた。
彼女に抱いていた大人しい人という印象は、既に俺の中から消え失せていた。
揚蝶紫苑の葉月花さんに向ける感情は、完全に歪んでしまっている。
「でも、結ヶ丘は…アンタが大好きな葉月花さんの心からの願いがこもった学校だろ…?」
「ええ、そうね。でも、花ちゃんはもういない。だったら、他の人が汚してしまう前に消しちゃったほうがいいじゃない!!!」
何を言っているんだ、この人は…大切な人が、人生をかけて叶えようとした夢を、こうも簡単に消すだなんて…
本末転倒なその願いは、歪んだ愛が生んでしまったものなのだろうか…
「それに花ちゃん、結ヶ丘のこと、全然私に相談してくれなかったもの。あんなに近くで、ずっと一緒にいた私のことは頼りもせず…知らない間にあの子が理事長になって、更にはあの不良の桜葉くんが教師!?ふざけんじゃないわよっ!!だいたい昔っから嫌いだったのよ。不良の害悪なくせに気付けば花ちゃんと仲良くなってて…この学校のスクールアイドルを消したら、次は桜葉くんを消して、いっそこの学校そのものを消してやる!!それから海外にいる元旦那も消して…そしたら花ちゃんは、永遠に私の中だけで生き続けるの!!!」
俺は、彼女の言葉が理解できない。理解したくもない。
これまで戦ってきたヌッラの中で、これほどまでに負の感情に飲み込まれ、狂気に染まった人は初めてだ。
あのノートに書いてあった、葉月花さんの夢。
"結ぶ"と文字を冠した学校を、必ずここにもう一度作る。
音楽で結ばれる学校を、ここにもう一度作る。
それが私の夢…
どうしても叶えたい夢…!!
その夢を壊そうとしている目の前の人物に、とてつもない怒りが湧き上がってくる。
「アンタは、何もわかっていないよ」
「なんですって…?」
「葉月花さんが、結ヶ丘高等学校にどれだけの想いを注いだか。そして、アンタがバカにする桜葉先生も…理事長先生も…花さんの娘である恋も…みんながどれだけ必死に、その想いを結ぼうとしてきたかを!!」
「知らないわよそんなの!みんな邪魔なのよ!私と花ちゃんだけの思い出に介入してくる邪魔者でしかないのよ!!」
そこまで喚くと、揚蝶紫苑はため息と共に前傾姿勢となり、その右手にはレタルジアディスクが握られている。
「もう話しても無駄ね。邪魔者は消すまで!!」
揚蝶紫苑はヌッラへと姿を変える。
「変身」
『未来はきっとブルースカイ』
そして俺も、仮面ライダームジカ ブルースカイに変身した。
「今度こそ、お前には消えてもらうッ!!」
本性を現した。というように、ヌッラになった揚蝶紫苑は、これまで戦ってきた時とは違って非常に荒々しい。
「あぁぁっ!!」
ヌッラは飛び上がると一気に俺の方に前進し、右足で蹴りを放ってくる。
「ぐぅっ!?」
荒々しく力任せに放ってきたその蹴りは、以前までよりもパワーが数段増していた。
なるほど…負の感情が増幅して、攻撃力が上がってるのか…
「はぁぁ!!」
俺も負けじと必死に右手でパンチを繰り出すが、
「遅いっ!!」
いとも簡単に受け止められ、
「ぐっ…ぐぁ!?」
ヌッラの反撃を受けてしまう。
「ふふっ、捕まえた」
更に首元を掴まれてしまい、俺は身動きを取れなくなってしまう。
「ぐぁぁぁっ!?」
ヌッラが俺に強烈な膝蹴りを浴びせた。
真正面から腹部に強烈なダメージを受けてしまい、俺はその場に倒れてしまう。
「無様、ねっ!!」
更にヌッラは、地面に倒れ込んだ俺の背中を容赦なく踏みつけてくる。
「左手が使えないアンタに負けるわけがないでしょう?」
俺を見下し、嘲笑したヌッラの右腕の調合タンクが怪しく光る。
「散々私の邪魔をして…その罰よ。命をもって償いなさい」
まずい…このままじゃ、避けられない…!
受けたダメージのせいで体が動かせない俺は、迫り来るヌッラの針をただ見ていることしかできない。
「ぐっ…!?」
そしてとうとう、ヌッラの右手についている針が俺の左腕に刺さり、そこから何らかの毒が注入される。
「うぅぅ…ぐぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「どう?苦しいでしょ。この前の左手が動かなくなるみたいな、ぬるい毒じゃない。アナタはこのまま一時間、じっくりと苦しみながら死んでいくのよ」
俺の全身に、想像も絶するほどの痛みが走る。その痛みに全身が震え、気絶するほど暑いと感じたかと思えば、凍えるように寒いと感じる。
体に異常なほどの負荷がかかり、変身を維持できなくなった俺は強制的に変身解除されてしまった。
「私の邪魔をしようとするからこうなるのよ…!」
あぁ、意識が遠のいていく…
「音居さん…!」
鼓野さんの声だ…
「狼谷、私たちでなんとか食い止めるぞ!」
「はい!」
それに九重さんと狼谷さんも…
「やぁ!」
狼谷さんは警棒を取り出し、それでヌッラに立ち向かう。
「うざいわねぇ…」
「うわぁっ!?」
しかし、そんなものがヌッラに効くはずもなく、狼谷さんが振るった警棒はいとも簡単に掴まれ、彼はそのまま後ろに吹き飛ばされてしまう。
「はぁっ!!」
ヌッラの視線が狼谷さんに向いている隙に後ろに回り込んだ九重さんが、右足で思いきり蹴りを放つ。
「ちっ…周りをブンブンと…」
「くっ…」
ヌッラは九重さんの右足を掴むと、そのまま壁側へと放り投げる。
「ふんっ。害虫は、駆除するに限る」
やはり生身の人間がヌッラと戦うのは不可能に近い。九重さんも狼谷さんも、戦闘不能となってしまった。
「動かないでください!」
そして、鼓野さんが拳銃を構える。
「そんなのが私に効くわけ…」
油断しているヌッラに向けて、バンッ!という大きな発砲音とともに銃弾が浴びせられる。
ダメだ、鼓野さん…!拳銃なんかじゃ、ヌッラには…
「ぐぅっ!?」
朦朧とする意識の中、拳銃じゃヌッラには敵わないと思った俺だったが、銃弾を受けたヌッラは呻き声をあげてよろめいた。
「この銃は我々の組織の特別製で、対ヌッラのために開発されたもの。ちゃんと効くようで、安心しました」
対ヌッラ用の拳銃…そんなものが…
「あぁ、そう…だったら…!!」
人間にも自分と対抗する手段があるのだと少し焦った様子のヌッラは、一気に鼓野さんとの距離を詰める。
「そんなもの使わせなかったらいいだけのこと」
「うっ!?」
ヌッラの攻撃を受け、鼓野さんも戦闘不能となってしまった。
結局のところ、人間とヌッラじゃ根本的な身体能力が違う。
多少のダメージが与えられたとしても、その圧倒的なパワーとスピードには敵わない。
まずい…このままじゃ…
なんとか解決策を見つけようとするが、毒の影響による全身の痛みで頭が回らない。
痛い…辛い…
もう今にも死んでしまいそうだ。ヌッラの言葉通りなら、この痛みが一時間続いた後、俺は命を落とす。
あぁ、俺死ぬのか…
『奏叶さん。明日のライブ、しっかりと見ていてくださいね』
死を悟った俺の脳裏に浮かんだのは、昨日の恋の言葉。
「っ…!」
恋と約束したんだ…!
絶対にライブを、見に行くんだ!!
「じゃあね」
「死んで…たまるかっ…!」
なんとか力を振り絞り、去ろうとするヌッラの足を掴む。
「ちっ…往生際の悪い…」
しかし、まともに力が入らないこの状況では簡単に振り解かれてしまう。
更に、ヌッラは追い打ちをかけるように足を掴んでいた俺の右手を踏みつけてくる。
「ぐぁっ…!?!」
「ほんとにっ!なんどもっ!何度もっ!邪魔ばっかりしやがって!!!」
ヌッラは、倒れている俺をサンドバッグの如く何度も何度も踏みつけてくる。
「はぁ…はぁ…」
もうダメだ…体に、力が…入らない…
「おい!テメェ、ウチの生徒に何してくれてんだ!!」
遠のく意識の先で、桜葉先生の声が聞こえた。
桜葉先生…ダメだ…来ちゃダメだ…!
「ん?誰かと思えば…ちょうど良かった。アンタも殺したかったところよ」
すると、背中から踏みつけられていた足の感触がなくなったのがわかった。
まずい…ヌッラが標的を桜葉先生に変えた…!
なんとか、しないと…!
「っ…!」
その時、ボヤける視線の先に見覚えのないエネルジアディスクが落ちていることに気がついた。
これ、は…?倒れた拍子に、落ちたのか…?
でも、見たことがないディスク…俺が知らない間に、覚醒していた…?
一か八か…これに最後の望みをかけるしかない!
「なんなんだこの化け物!?ぐぁっ!?」
桜葉先生は吹き飛ばされ、近くの壁に激突して気を失ってしまった。
ヌッラは、そんな先生にトドメを刺そうとゆっくりと近づいていく。
「っ…!」
絶対に、止めてやる…!
震える体に鞭打って、俺は立ち上がる。
「っ!?どうして…もう立ち上がることもできないはずなのに…」
鼓野さん、九重さん、狼谷さん、桜葉先生…
そして、きっとこの後は澁谷さんたちを狙うつもりだ。
「はぁ…はぁ…これ以上、俺の大事な人たちを傷つけるなんて絶対にさせない…!」
ステレオドライバーの変身ボタンを押し、ディスクトレイを展開する。そして、そこに新たに生まれたエネルジアディスク─"ブロッサムエネルジアディスク"を装填する。
「変身…!!」
再び変身ボタンを押し、ディスクトレイがドライバーに格納されていく。
それにより、ブロッサムエネルジアディスクがステレオドライバーに読み込まれ、俺を囲むように五線譜と音符、更には美しい花々が現れ、俺の体は新たな姿へと変化していく。
『ひらひら舞う刹那の中 恋焦がれていた時
花芽吹いて結んだ 願い 想い
咲き誇れ ブロッサム』
全体的にスタイリッシュなスラっとしたシルエットで、エメラルドグリーンのラインが走る黒いスーツを見に纏っている。
腰のステレオドライバーより下部分には、蝶の羽のように美しいマントがヒラヒラと靡いている。
更に胸、両肩、両腕、両膝と両足首には、白い花びらと黄色の花芯の花を模ったアーマーが装着される。花に加えて、ところどころにはエメラルドグリーンの蝶の羽のような装飾が施されている。
胸アーマーの中心には、他の形態と同様に、仮面ライダームジカのエネルギーが蓄えられている丸いコア─"ムジカ・コア"が設置された。
頭部も全体が黒く染まり、黄色い複眼はマイクカバーを模したバイザーで覆われる。更に二本のエメラルドグリーンの触覚と、頭部を挟むように、両サイドにそれぞれ蝶の羽の装飾が付いている。
そして、額の中央には白いト音記号が印字されている。
その名も、"仮面ライダームジカ ブロッサム"。
花の力を宿したムジカの新たな姿である。
「新たな姿か…!」
「綺麗…!」
この姿を目にした九重さんと鼓野さんが呟いた。
「姿が変わったからってなんだっ!!どうせあなたは毒で動けない…」
「……いや、どうやらそうでもないみたいだ…」
俺は自分の体を確かめるように、手を握って、開いてを繰り返しながら言った。その言葉は、ヌッラに対して答えたというよりも、自分自身も動けることに驚いて気づけば口にしていた。
ムジカ ブロッサムに変身した途端、先程までほとんど動くこともできなかったほどに俺を苦しめていた毒の効果が、消え去ってしまったようなのだ。今は、問題なく体が動く。
「さぁ、ライブの開幕だ…!」
今度こそ、絶対に決着をつける。
「こうなったら、力づくで捻り潰してあげる!!」
ヌッラが俺に飛びかかってくるので、俺はその攻撃を左手で受け止め、右手で反撃のパンチを繰り出す。
左手も動いた…!
ムジカ ブロッサムに変身したことで消えたのは、先程受けた死に至る毒の効果だけではない。最初に受けた左手が動かなくなる毒の効果も消えたようだ。
「はぁ!」
更にヌッラを右足で蹴り上げるが、それは防がれてしまった。
なるほど…パワーはブルースカイより少し低いみたいだな。
「今度はこっちの番よ。はぁっ!」
ヌッラも俺の腹部に蹴りを放つ。しかし…
「ん?」
確かに蹴りを受けた俺だったが、なんの痛みも生じなかった。
「嘘…!?確実に入ったのに、効いていない…?」
「みたいだな」
ヌッラが驚いている隙にエフェクティングソードを取り出し、
「はぁっ!」
斬撃を放つ。
なんとなくわかってきた。
どうやら、仮面ライダームジカ ブロッサムは耐久力に優れているようで、先程のようにある程度のダメージであれば、"変身中"は無効化できる。
俺はエフェクティングソードの斬撃ボタンを二回押す。
『スラッシュ・フォルテッシモ』
すると、辺りに花びらが舞いヌッラの動きを錯乱させる。
「はぁぁっ!!」
大量の花びらで視界を塞がれたヌッラに接近し、強力な斬撃を浴びせた。
「これで決める」
俺がステレオドライバーの必殺技ボタンを押すと、ムジカ ブロッサムの変身時に流れたメロディーのインストゥルメンタルバージョンが鳴り響く。
すると、辺りは大量の花々や木々などの自然で溢れた空間に変化する。
『ムジカ・ブロッサム フィーネ』
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
そして、まるで蝶のように上空に飛び上がった俺は、エネルギーを充填した右足でヌッラに回し蹴りを繰り出した。
─ムジカ・ブロッサム フィーネ《
「……花、ちゃん…」
その必殺攻撃によりヌッラの胸部に埋め込まれたレタルジアディスクを分離破壊できたようで、ヌッラは揚蝶紫苑の姿に戻っていった。
「このライブに、アンコールはない」
ようやく、一件落着した。
「ふぅ…」
その場に落ちた割れたレタルジアディスクを拾い上げながら、俺は深い息を吐いた。
「音居くん、お疲れ様…」
立ち上がって俺に寄る九重さんだったが、ヌッラから受けた攻撃による全身の痛みに顔を歪めている。
「ちょっと失礼します」
「ん?」
俺がそんな彼に手を翳すと、花のエフェクトと共に彼の体に光が込み上げる。
「っ!?体が、軽く…」
光とともに、九重さんの体にあった傷が消えた。本人の言葉通り、彼自身が感じていた痛みや疲労もなくなったようだ。
「どうやら、この姿には人の傷を癒す力があるみたいです」
仮面ライダームジカ ブロッサムの能力は、癒しの力。他者の傷を治癒することができるのだ。
ただし、それは他人に対してのみで、自分が受けた傷を治癒することはできない。
「助かったよ、ありがとう」
俺に礼を言うと、九重さんは倒れている揚蝶さんの元に寄る。
「私は、彼女を連行する」
九重さんは意識を失った揚蝶さんを抱え、近くにある自身の車の方へ向かっていった。
俺はそれを見届けると、同じくヌッラの攻撃による傷を負った鼓野さん、狼谷さん、そして桜葉先生にも、ムジカ ブロッサムの能力で傷を治癒する。
「っ…ここは…?」
傷が癒え、意識を取り戻した桜葉先生は困惑したように辺りを見回す。
「さっきの怪物は退治しましたので、もう大丈夫ですよ」
「あ、あぁ…いや、アンタも何者なんだよ」
俺の言葉を飲み込もうとした先生だったが、今度は初めて見る仮面ライダームジカに戸惑い、俺の姿を下から上まで凝視しながらツッコミを入れた。
「あなたの生徒です」などとは、もちろん言えるわけもない。
「えっと…俺は仮面ライダームジカ、怪物からこの街を守るために戦ってます」
「ほ、ほぉ…それはまた、ご苦労さんです…」
何もわかっていないが無理やり自分を納得させました、といった様子で労いの言葉を口にした桜葉先生は、ハッとして何かを思い出す。
「そうだ!音居…!」
あっ…そうだった。先生は、ヌッラに襲われた俺を助けようとして…
「わりぃムジカさん、生徒が心配だから戻るわ!」
桜葉先生はキョロキョロと辺りを見渡し俺がいないことを確認すると、足早に学校の方へ戻っていった。
心配かけちゃったな…
学校戻ったら、すぐに無事だって伝えに行かないと。
周りに鼓野さんと狼谷さんしかいなくなったことを確認し、俺は変身解除する。
「うっ!?」
人間の姿に戻った瞬間、全身に激痛が走る。
「うがぁぁぁっ…!?」
「音居さん!?」
「奏叶くん!」
突然苦しみ出した俺に困惑しつつも、鼓野さんと狼谷さんは激痛のあまりふらついた俺を支えてくれる。
「変身解除した途端、急に激痛が…」
「そんな…どうして…」
「多分…ムジカ ブロッサムは受けたダメージを無効化できるわけじゃなくて、後回しにするってことなんだと…」
仮面ライダームジカ ブロッサムに変身中、ヌッラから受けた攻撃のダメージは一切感じなかった。しかし、それは無条件でダメージを無効化できるというわけではなく、その間のダメージが変身解除した瞬間に一気に襲いかかってくるということなのだろう。
俺が受けたヌッラの死に至るという毒。あれも、変身中は無効化されていただけ。なので、毒の効果の源であるヌッラを倒せたから解毒できたが、もしさっき倒し切れていなかったら、俺は変身解除した瞬間に命を落としていただろう。
「それじゃあ…もしかして、さっきの私たちへの治癒も、音居さんの負担になったということなんじゃ…」
驚愕して恐る恐るといった様子で口にした鼓野さんの言葉は、間違いではない。
ムジカ ブロッサムの治癒能力というのは、他の人が受けたダメージを、変身解除後の俺が肩代わりできるという能力だったのだろう。
「んー…まあ、多少…?」
流石に、無条件でダメージを軽減したり、人の怪我を治癒できるといった都合の良すぎる能力ではなかったようだ。
「そんな…申し訳ありません…」
「いやっ、俺が勝手にしたことなので…気にしないでください!」
「奏叶くん、ごめんね」
なんだか、空気が重くなってしまった…
俺はそんな重くなった空気を切り替えるように、両手を合わせてパンっと軽快な音を鳴らして2人に声をかける。
「これから、俺の友達のライブがあるんです!無事にヌッラも倒したことですし、一緒に見に行きましょう!」
5人になった結ヶ丘高等学校スクールアイドルの、初めてのライブ。そんな最高の瞬間、見逃すわけにはいかない。
俺は未だ体中を支配する痛みを押し殺し、2人の手を取って走り出す。
「ほらほらっ、行きますよー!!」
その後、傷だらけの俺を見た桜葉先生が大慌てで心配してくれたのだが、俺は大丈夫だと誤魔化すことしかできないのであった。
〜〜〜〜〜
「ったく、アイツ本当に大丈夫なのかよ…」
桜葉大翔は、頭をポリポリと掻きながらぼやいている。
つい先ほど、傷だらけの奏叶を見つけた大翔は慌てて病院に行くように言ったが、奏叶は大丈夫だと言って聞かなかった。
どうしても今日のライブは見たいんだ、と…
「はぁ…ん?」
ため息を吐きつつ、これから葉月恋たちのライブが行われるステージ前に到着すると、そこには彼の高校時代の同級生である蜂須賀悠仁、鳥巣心春の姿があった。
「よぉ、お前らも来てたのか」
「あぁ」
「花の娘の晴れ舞台でもあるのよ。そりゃ来るわよ」
蜂須賀と鳥巣の言葉に大翔が口角を上げると、そこにもう一人の同級生がやってくる。
「連絡いれといたのよ。あの子がスクールアイドルになったって」
もう一人の同級生とは、現結ヶ丘高等学校の理事長である彼女だ。
「そうか。てか、揚蝶は来てないのか?」
「もちろん彼女にも連絡したわよ。来るって返事もあったんだけどね…」
桜葉の問いに、顎に手を当てた理事長は不思議そうに首を傾げる。
「あの子のことだから、また花の研究に夢中になってんじゃない?」
「確かに。高校の時から、ほんとに花が好きだったもんな」
鳥巣と蜂須賀がそう言い、4人はきっとそうなのだろうと納得する。
「全く…せめて花の娘の初ライブぐらいは来なさいよね」
「揚蝶は特に、昔から変わらないからな」
「そこがあの子のいいところでもあるんだけどね」
鳥巣、蜂須賀、理事長が言い、4人は顔を見合わせて笑い合う。
ヌッラの情報が公になっていない現状では、4人が真実を知ることはない。ただ、4人にとって揚蝶紫苑が大切な友人だということは、きっとこれからも変わりはしないのだろう。
〜〜〜〜〜
ーSong for Me! Song for You!ー
ーーーSong for All !!!ーーー
澁谷かのん、唐可可、平安名すみれ、嵐千砂都、そして…葉月恋。5人となったスクールアイドルのライブが、ついに幕を開けた。
Wish Song/結ヶ丘高等学校スクールアイドル(澁谷かのん・唐可可・平安名すみれ・嵐千砂都・葉月恋)
今回のライブでセンターを務めるのは、恋だ。
恋を中心に、ずっとあった蟠りが解け晴れやかな笑顔で歌う5人の姿は、とても華やかで美しい。眩しく輝く彼女たちは、俺たち観客に元気をくれた。
ライブが終わると、5人への鳴り止まない拍手と歓声が送られる。澁谷さんがそんな観客たちへの感謝を述べると、5人は手を繋ぎ、堂々とした笑顔で言う。
「私たちは結ヶ丘高等学校の、スクールアイドルですっ!!!」
──キミにはもう涙は似合わないよ
このライブで披露された曲のサビに出てくる一節。
嬉しそうにみんなと手を繋ぎ、空高く飛び上がった恋の姿を目にして、俺はその歌詞に強く共感する。
やっぱり…恋には、とびっきりの笑顔が一番だ!
──次回『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』
「奏叶くん!ここのカフェオレ、すっごく美味しい!」
以前ヌッラが作り出した世界に囚われた際に交わした"一緒にカフェオレを飲みにいく"という約束を果たすため、休日に二人で出かけることになった奏叶とかのん。その時間を利用して、かのんはかねてより抱えていた悩みに決着をつけようとしていた。
「明日、奏叶と二人で出かけて、名前の件も話してきちゃいなさいよ」
"自分だけ名前で呼ばれない"。
そんな不安を抱くかのんに待ち受けている、新たな出会いとは…
「どうかしたの?お嬢さん」
『#29 ビタースイートな香り』
─────
【オリジナル仮面ライダー設定】
《仮面ライダームジカ ブロッサム》
"ステレオドライバー"に、花の力を秘めた"ブロッサムエネルジアディスク"を装填して変身する。
耐久力に特化した姿であり、変身中に受けたダメージを一時的に無効化する。また、他者が負った傷や疲労の治癒が可能。ただし、変身者自身を治癒することはできない。
変身解除時には、変身中に無効化していた自身のダメージに加え、治癒した他者の傷や疲労を一気に引き受ける。
─スペック─
身長:204cm
体重:87kg
パンチ力:2.4t
キック力:6.3t
ジャンプ力:11m(ひと跳び)
走力:7.3秒(100m)
─モチーフ─
楽器:マイク
自然:花(イチゴの花)
動物:蝶(オオルリアゲハ)
─デザイン─
白い花と蝶の翅を思わせる優雅で繊細なシルエットを持ち、深いピアノブラックの全身に、エメラルドグリーンの発光ラインが走っている。
頭部にはマイクカバーを模したバイザーで覆われたイチゴの花芯をイメージした明るい黄色の複眼を備え、額から伸びる蝶の触角や、花の蕾を思わせるト音記号のエンブレムが特徴。
胸部には白いイチゴの花びらを重ねた装甲と、黄金色の花粉が舞うように輝く「ムジカ・コア」を搭載。
背中にはオオルリアゲハの翅を模したエナジー・ウィングが広がり、細身の四肢や花びらを思わせる装甲と相まって、舞い踊るような優雅さを持つ。
─必殺技─
【ムジカ・ブロッサム フィーネ《
周囲を美しい花々が咲き誇る空間へと変化させ、暴走した相手の心を静める効果を持つ。
そして、舞い散る花びらの中を駆け抜け、相手へ強力な回し蹴りを放つ。
─────
『#28 慈愛の花』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!
お気に入り登録や感想、評価等いただけると大変励みになります。
もしよろしければ、よろしくお願いします!
次回『#29 ビタースイートな香り』は、9月26日20時に投稿予定です。
お楽しみに!
仮面ライダー作品を見たことがあるか
-
10作品以上見たことがある
-
3〜9作品見たことがある
-
1、2作品見たことがある
-
全く見たことがない