─登場人物─
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、仮面ライダームジカの変身者。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
人前では緊張して歌えないという悩みを抱えていたが、可可の想いに触発されて共にスクールアイドルを始めた。
【グラヴィータ】
ピリオドの幹部。
人間の姿で、仮面ライダームジカに変身した奏叶を圧倒するほどの実力を持つ。
「奏叶くん…!」
突然、改まったように澁谷さんから名前を呼ばれた。
緊張と真剣さが入り混じった声音と表情から、何か大事な話があるのだと察して少し身構える。
「どうしたの?」
「あのね…ずっと、気になってたことがあって…」
澁谷さんは躊躇いつつも言葉を紡いでいくと、うるうるとした瞳で不安げに俺のことを見つめる。そんな彼女の様子にいったい何事かと、次の言葉を待つ俺の心臓の鼓動は加速する。
「どうして、私だけ名前で呼んでくれないの…?」
「えっ…名前?」
「ちぃちゃんも、クゥクゥちゃんも、すみれちゃんも、恋ちゃんも、みんな名前で呼んでるのに、私だけ今も苗字呼びだから…」
澁谷さんの言った通り、結ヶ丘で過ごしていくうちに、千砂都、クゥクゥ、すみれ、恋とみんな名前で呼ぶようになっていた。
しかし、澁谷さんのことだけは、今でも苗字のまま。
けれど、まさか澁谷さんがその呼び方についてずっと気にしていただなんて、俺は想像もしていなかった。
何やってんだ、俺…
そんなこと、少し考えればわかるだろう。千砂都やクゥクゥ、すみれ、恋と同じぐらい、澁谷さんとだって仲良くなっている。なのに、いつまでも彼女のことだけ苗字で呼んでいれば、そりゃ気にして不安になるのも当然だ。
そんな簡単なことにすら気づけず、自分の事情で呼び方を変えなかった自分の未熟さが不甲斐なくて仕方がない。
「ごめん。澁谷さんが気にしてるって、全然気づけてなかった…」
「うっ、ううん!私こそごめんね。名前なんて、呼ばれる側から言うんじゃなくて、奏叶くんがどう呼びたいかなのに…」
「違うんだ!澁谷さんとはまだ距離を置きたいとか、そんなこと思ってるわけじゃないんだ。むしろ、大切な友達だと思ってる」
俺が澁谷さんのことをいつまでも名前で呼べなかった理由は二つある。
一つは、俺が歌手活動をしていた時の名前、"
そして、もうひとつは…
「実は、澁谷さんと出会う前から、かのんっていう名前の知ってる人がいて…俺はその人に、いつも勇気づけてもらったり、元気をもらっていた。なのに、俺は結果的にその人を裏切ってしまった…」
もうひとつは、歌手活動をしていた頃の俺をずっと応援してくれていた人の名前が、"かのん"だったから。
まだ俺が動画配信しかしていなかった頃からずっとメッセージをくれて、本格的に活動を始めてからも、ファンレターを送ってずっと応援してくれていた。そのメッセージやファンレターの差出人に、"かのん"と記されていた。
俺が歌えなくなる前にも、音楽をやっていく中で困難なことはたくさんあった。それに折れそうになった俺の支えとなったのが、かのんさんからもらったメッセージだった。
その人も歌が好きみたいだが、なかなか思うように歌えなくて悩む日々が続いていたそうだ。そんな時に俺の歌を聴いて、勇気をもらったと言ってくれた。
"勇気をもらった"、その言葉が逆に俺に勇気をくれたのだ。
しかし、俺はヌッラに歌声を奪われて活動を休止。
ずっと応援してくれて、何度もメッセージをくれたのに、なんの説明もできないまま活動をやめてしまった。俺は結果的に、その人を裏切るような形を取ってしまったのだ。
歌手活動をしていた時の『奏音』という名前と、ずっと応援してくれた人の『かのん』という名前。この二つをふいに思い出してしまうのが怖くて、俺は彼女のことをずっと澁谷さんと呼び続けてしまったのだ。
「俺、バカだなぁ…」
「え?」
「こんな大事なことに、やっと気づくなんて…」
ようやく気づいた。もっと大事なことに。
「ずっと抱えてきた罪悪感から逃げ続けて、目の前の大切な人のことをちゃんと考えられていなかった」
歌手活動の頃の奏音という名前も、応援してくれたかのんという人の名前も、もちろん今でも大切だ。でも、それ以上に…
「俺の中では、もうとっくに澁谷さんは大切な存在になってたんだ。それなのに、過去ばっかりに囚われて…変に不安な思いさせて、本当にごめん!」
「奏叶くん…」
「高校生になったばかりの頃…新しい土地で、知り合いもいない新しい学校で、すっごく不安だった。でも…」
そんな俺の不安を打ち消すことができたのは、お互いを尊重し合える友達ができたからだ。千砂都と、クゥクゥと、すみれと、恋と、それから…
「"かのん"と友達になれたから、今はすっごく楽しいよ!」
「っ!」
俺はずっと失礼なことをしてしまっていた。"澁谷かのん"という人物は一人なのに、全く別の人を勝手に重ねて逃げ続けていたなんて。
「そっか…そうだったんだ…」
小さく呟いて、かのんは笑みをこぼした。
「奏叶くん、私のことも大切な友達だって思ってくれてたんだね」
「そりゃもちろん!」
「呼び方一つにいつまでも悩まず、もっと早く話してればよかった…」
「いや、それは俺の不甲斐なさが原因だから…本当にご…」
そう謝ろうとした俺だったが、かのんが俺の口に人差し指を当てたことにより遮られる。
「もう謝らないで。その代わり、これからは今までの分…いっぱい"かのん"って呼んでね…!」
少し照れくさそうに笑った彼女に、俺も微笑んで答える。
「もちろん、かのん!」
それからしばらく談笑していると、気づけばそれなりの時間が経っていたので会計を済ませて店を出た。
「美味しかったね!」
カフェを出たところで、かのんが感想を口にした。その時だった…
「よぉ」
俺たちの前に、一人の男が立ちはだかった。その瞬間、俺は咄嗟にかのんを庇うように前に立つ。
「アンタは…!?」
突如として俺たちの前に現れたこの男は、ピリオドの"幹部"─"グラヴィータ"。以前も一度俺の前に現れ、生身の人間の姿で変身状態の俺を圧倒した人物だ。
すると、グラヴィータは真っ黒なオカリナを取り出し、息を吹き込む。
──ギギュゥゥゥ
しかし、そこから流れる音はまさに不協和音といった耳障りな音で、俺とかのんは揃って顔を顰める。
そして、その音がトリガーとなって、地面から10体ほどのニエンテ・ヌッラが出現する。
「ひっ…また怪物…!」
「かのん、走れる?」
「う、うん…」
俺の言葉に、かのんは小さく頷く。それを聞いて、俺も覚悟を決める。
「かのんは先に逃げて」
「なっ、何言ってるの!?奏叶くんも一緒に…」
「多分あの人の狙いは俺だ。そんな俺と一緒に逃げたら、かのんまでずっと追い続けられることになる」
「でも嫌だよ!私は、奏叶くんを一人になんて…」
どうしても一緒に逃げると言って聞かないかのんの手を、俺は優しく握った。
「大丈夫。俺もかのんが逃げたら、すぐに逃げるから」
「そんな…」
「お願い」
真剣な眼差しで彼女を見つめ、懇願した。
そんな俺を見たかのんは苦い表情で唇をギュッと噛み締め、逡巡する。
そして、涙を溜めて潤んだ瞳で言う。
「っ…奏叶くんも、絶対に無事に逃げ切ってね…!」
「あぁ、約束する」
"約束"。かのんの瞳をじっと見つめて伝えると、彼女は不安そうにしながらもなんとかこの場から逃げていってくれた。
「大変だな、正体を隠すヒーローさんは」
一連のやり取りを見ていたグラヴィータが、嘲笑混じりに言ってきた。
「わざわざ待っていてくれたことには感謝する。それより、俺がムジカだって知っているのか…」
以前グラヴィータに会ったときは、俺はずっと仮面ライダームジカに変身していたため、人間の姿は見せていない。
まあ、半年ほどヌッラを倒し続けてきたのだから、俺がムジカだと突き止められていても無理はないか…
「さて…俺と共に来てもらうぞ、音居奏叶」
「なに?」
「我々のボス、"マエストロ"はお前をご所望らしいからな」
ピリオドのボスが、俺を連れてこいと言ったのか…?
仮面ライダームジカとしてヌッラを倒している俺を排除しようとするならわかるが、なぜ連れていく必要があるんだ…
いや、今はとにかく一刻も早くここを切り抜けないと。いつまでも、かのんにあんな不安な顔をさせているわけにはいかない。
「断る」
「だったら、力尽くで連れていくまでだ」
「そうか…」
俺はステレオドライバーを腰に装着し、変身ボタンを押してディスクトレイを展開する。そして、そこにスターライトエネルジアディスクを装填する。
「変身!」
俺が掛け声と共に再び変身ボタンを押すと、ディスクトレイが収納されドライバーにエネルジアディスクの情報が読み込まれる。
『小さな輝きが 今 飛び跳ねる心を
解き放って どんな暗闇だって 照らしていく
この光が 温もりが 力をくれるんだ
逸る気持ちに身を任せて 始まりのスターライト』
音楽と共に、俺を取り囲むように現れた五線譜と音符、星々に包まれて、俺の体は戦士の姿へと変化する。
そして、俺は"仮面ライダームジカ スターライト"に変身した。
「さぁ、ライブの開幕だ!」
その声と共に、俺はスターライトの超高速で瞬く間に蠢いているニエンテ・ヌッラに接近する。
「はぁっ!」
取り出したエフェクティングソードで、近い位置にいるニエンテ・ヌッラから次々と斬撃攻撃を放っていく。
そして、エフェクティングソードの斬撃強化ボタンを3回押し、
『スラッシュ・フォルテフォルティッシモ』
「はぁぁぁぁっ!!!」
一回転しながら剣を振るい、周りにいる5体のニエンテを一気に倒す。
これで決める…!
俺はエフェクティングソードの端子をステレオドライバーに差し込み、効果付与必殺技ボタンを押す。
『スターライト』
そして、剣の先端にあるスキャナー部分をドライバーに翳し、エネルギーが溜まっていくエフェクティングソードを残りのニエンテ・ヌッラに向けて構える。
『スターライト クリティカルスラッシュ』
再び超高速で移動し、俺はすれ違い様に残りのニエンテ・ヌッラを斬り裂いて撃破する。
「さ、ニエンテ・ヌッラは全て倒したぞ」
俺はずっと傍観していたグラヴィータにそう言い放つ。
正直な話、油断こそしないものの、ニエンテ・ヌッラにはそこまで警戒していない。問題なのは、このグラヴィータという男。幹部というだけあって、戦闘力が段違いだ。前回、生身の状態のこの男に俺は手も足も出なかった。
「前回より、幾分か強くなっているようだな」
そう言って、グラヴィータは俺との距離を少しだけ詰めて、この姿を観察するように視線を下から上へと動かす。
「ほぅ…それがスピード特化型のムジカ スターライトか」
「っ!?」
この姿の名前がスターライトで、スピードに特化しているということまで調べがついているのか…
「成長した力、試させてもらう」
グラヴィータはそう言うと、レタルジアディスクと思われるものを取り出して、自身の体に吸収する。
すると、彼の体はヌッラの姿へと変化していく。
しかし、それは今までのヌッラの姿とは異なっていた。
今までのようにゴツゴツとした筋肉質な体や禍々しい赤茶色のボディカラーではなく、生物感のなくなった機械的な体をしていてボディカラーは無機質な銀色をしている。
体全体はまるで甲冑のような繋ぎ目のないシルバーの装甲に覆われており、胸部に埋められたレタルジアディスクは淡い白の光を帯びている。
そして、頭部の中心は真っ暗な空洞になっており、まるでブラックホールのようだ。
「俺は、"グラヴィータ・ヌッラ"」
どうやら彼の幹部名と同じく、ヌッラとなった彼の名前は『グラヴィータ・ヌッラ』というらしい。
重々しく自身のヌッラ名を言ったグラヴィータ・ヌッラからは、かつてないほどの威圧感が放たれている。
「"銀色"の、ヌッラ…」
これまでとは違う銀色のヌッラだが、俺は過去に一度だけ、同じ特徴のヌッラを見たことがある。いや、むしろ初めて遭遇したヌッラがそれだった。
「お前の歌を奪ったヌッラと同じだろう?」
「っ!?」
そう…俺の歌声を奪ったあのヌッラも、銀色の体をしていた。
「お前が今まで戦ってきたヌッラは、"ランコーレ"と言う。負の感情がレタルジアディスクと結びつくことで、特殊な力に覚醒したヌッラだ」
ランコーレ。ニエンテを除く今まで戦ってきた禍々しい赤茶色のヌッラは、全てそう括られるらしい。
「そして、俺のような銀色のヌッラは"オディオ"。ランコーレよりも強大な力に進化したヌッラだ。俺たちオディオに覚醒した者が、ピリオドの幹部となる」
目の前のヌッラは今までよりも確実に強敵だ。そんな相手を前に、俺は仮面の下で冷や汗を流すが、それでも戦わなければならないと自分を奮い立たせる。
「アンタがどれだけ強くても関係ない。平穏に生きている人を傷つけようとするなら、倒すまでだ!」
「いいだろう。かかってこい」
グラヴィータ・ヌッラがそう言い終わるのと同時に、俺は加速して一気に接近する。
『スラッシュ・フォルテッシモ』
そして、斬撃強化したエフェクティングソードで斬りかかる。
「"
刃が届く直前、グラヴィータ・ヌッラは手を突き出し、まるで呪文を唱えるかのようにそう言った。
「っ!?」
すると、何もないはずのグラヴィータ・ヌッラが手を突き出した先の空間に分厚い壁ができたかのように、斬りかかったエフェクティングソードの動きが食い止められた。
「なんだっ、これ…」
精一杯の力でエフェクティングソードを振り下ろそうとしても、一切動かない。まるでグラヴィータ・ヌッラの周りの重力が、逆らって俺の方に押し返してきているような感覚だ。
「はぁっ!…くっ…」
一度エフェクティングソードを引いて再び振り下ろしてみるが、やはり刃は届かない。
「だったら…!」
『ハジける・サンシャイン!!』
サンシャインエネルジアディスクをドライバーに装填し、"仮面ライダームジカ サンシャイン"にフォームチェンジする。
「はぁぁぁぁっ!!」
ムジカ サンシャインはパワーに特化した姿。これなら、せめて攻撃を当てることぐらいは…
「っ…」
そう思ったのだが、サンシャインのパワーを持ってしても、俺の拳はグラヴィータ・ヌッラの手前でびくともしなくなる。
「今度はこちらの番だ」
そう言って、グラヴィータ・ヌッラは俺の体に向けて手のひらを翳した。
「"
「ぐっ、うわぁぁぁ!?」
すると、俺の体は突然とんでもない重い力に押されて吹き飛ばされてしまう。
どういうことだ!?今、グラヴィータ・ヌッラは俺に手を翳しただけで、一切触れていないはずなのに…
それに、このサンシャインの巨体を吹き飛ばす力なんて…
「っ!まだだっ!」
俺は、ステレオドライバーの必殺技ボタンを押す。
『ムジカ・サンシャイン フィーネ』
─ムジカ・サンシャイン フィーネ《
俺は拳に太陽の光と熱を収束させ、遠距離からグラヴィータ・ヌッラに向けて一直線に強力なエネルギー弾を放つ。
「はぁぁぁぁぁっ!!!」
「"
しかし、グラヴィータ・ヌッラが飛んでくるエネルギー弾に向かって手を向けて拳を握り締めると、エネルギー弾は押し潰されるかのように地面にめり込んでしまった。
「何が、起こった…!?」
「ふむ。それがパワー特化型のムジカ、サンシャインか」
「っ…!?」
サンシャインの能力まで把握済みなのか…
「さて…はっ!」
驚いている俺にグラヴィータ・ヌッラは再び手のひらを向け、その手を上から下に動かした。
「"
すると、上から重い何かがのしかかったような感覚に陥り、俺は倒れ込んだまま身動きが取れなくなる。
「ぐっ…なっ、なんだっ…これ…」
倒れ込んで身動きが取れない俺にグラヴィータ・ヌッラはゆっくりと近づいてくる。そして、倒れ込む俺の頭上までやって来て向けていた手を下ろすと、俺にのしかかっていた重みが消えた。
「っ…はぁ…はぁ…」
なんとか動けるようになった俺は、息を整えながら目の前にいるグラヴィータ・ヌッラを警戒する。
「驚いているようだな」
そんな俺の様子を見下ろしながら、グラヴィータ・ヌッラが言う。
「俺には、"重力を操る"能力がある。つまり、さっきお前にのしかかっていた重みは、重力そのものだ」
重力を操る能力…なるほど。それで攻撃が押し潰されたり、突然身動きが取れないほどの重みが襲いかかってきたのか。
「わざわざ能力を教えてくれるなんて、親切なヤツだな」
なんて虚勢を張ってみたが、本当は相手の規格外に強い能力に焦っていた。
重力を操る能力なんて、どう対処したら…
「こちらが一方的にお前の能力を知っているのは、フェアじゃないからな」
確かに、グラヴィータ・ヌッラはスターライト、サンシャインの能力も把握していた。ただでさえチート級の能力なのに、こちらの手の内がバレているのは厄介にも程がある。
グラヴィータ・ヌッラとの会話の間になんとか立ち上がった俺は、彼への攻撃を再開する。
「はぁっ!くっ…」
「"
しかし、グラヴィータ・ヌッラが俺のパンチに向かって手を突き出したことにより、目には見えない重力の壁が出現し攻撃は防がれる。そのまま俺の手を押し返すと、グラヴィータ・ヌッラはその重力壁を解除して俺の腹部に肘打ちを入れる。
「"
肘打ちのダメージによろけた隙をつかれ、グラヴィータ・ヌッラは声を発すると同時に俺に触れる。すると、まるで俺にかかっていた重力が全て消え去ったかのように、体が空中に浮遊していく。
「なっ、なんだこれ…」
ふわふわと浮くその状態に、俺は為す術がなく空中を彷徨うしかない。
「はぁっ!」
そんな無防備な俺に、グラヴィータ・ヌッラは容赦なく強力な蹴りを放つ。蹴り飛ばされた俺はそのまま近くの建物の壁に激突し、俺の体に重力が戻って地面に落下する。
「くっ、くはぁっ…」
このままじゃ、一方的にやられるばっかりだ。どうにかして、この状況を打開する方法は…
俺は数々の攻撃のダメージで考えがまとまらない頭を必死に回転させる。
っ…!もしかして…
こうなったら、一か八か…!
ある一つの可能性に賭けることにした俺は、ステレオドライバーからサンシャインエネルジアディスクを取り外し、代わりにブロッサムエネルジアディスクを装填する。
『ひらひら舞う刹那の中 恋焦がれていた時
花芽吹いて結んだ 願い 想い
咲き誇れ ブロッサム』
花の力を宿した"仮面ライダームジカ ブロッサム"にフォームチェンジした俺は、周囲に大量の花びらを出現させ、グラヴィータ・ヌッラに向けて勢いよく一気に飛ばしていく。
「っ!?」
突然、自身の周囲で舞い踊る大量の花びらに視界を奪われたグラヴィータ・ヌッラが怯んだ隙に、俺は一気に接近してエフェクティングソードで斬りかかる。
「はぁっ!」
「くっ…」
花びらに意識を向けていたグラヴィータ・ヌッラは、先ほどまでのように重力の防御壁を作ることができなかったようで、ようやくダメージを与えることができた。
「その程度…はぁっ!」
しかし、その一撃は大したダメージにもなっていないようで、グラヴィータ・ヌッラから反撃のパンチが繰り出されてくるが、そんなものは予想済みだ。そして、今の俺に攻撃したところでダメージは入らない。
「はぁ!やぁっ!!」
そのため、勢いを止めることなくグラヴィータ・ヌッラに二度の斬撃を繰り出した。
「くっ…それが花の力を宿したムジカか。攻撃しても、変身中はダメージを受けないというのは本当らしいな」
「ブロッサムの能力まで、知ってるのか…?」
仮面ライダームジカ ブロッサムは、昨日初めて変身したばかりの姿だ。そんな姿の情報まで掴んでいたのか…
「"
グラヴィータ・ヌッラが手を上下に動かすと、その動きに連動するように凄まじい重力が俺の体にのしかかる。
「ぐっ…!?」
俺はその場に倒れ込み、身動きが取れなくなった。
ブロッサムの能力によりダメージは受けないが、流石に重力そのものの影響は受けてしまうようだ。
「反撃といかせてもらう」
グラヴィータ・ヌッラは身動きが取れない俺を文字通り足蹴にする。
「はぁっ!!」
俺は重力に押さえつけられたまま何度も何度も攻撃を受ける。そして、音だけで今までのよりも強力な蹴りだとわかるものが一発、俺の腹部に入ると攻撃が止まった。
「さて…いい加減諦めて、俺と共に来い」
「断る…!」
「だったらこのままお前への攻撃を続けるだけだが、いいのか?その姿はダメージを無効化するのではなく、後回しにしているだけなのだろう?」
確かに、このままダメージを受け続けると、変身解除と同時に命を落としかねない。
でも…!!
「さっさと諦めた方が身のためだぞ」
「…諦めないし、俺は死なない!」
こんなところで、死んでたまるか…!!
俺は、まだ歌声を取り戻せていない。
まだ成し遂げられていない目標がある。
それに…
『っ…奏叶くんも、絶対に無事に逃げ切ってね…!』
『あぁ、約束する』
脳裏に浮かんだ光景を力に、俺はかかっているとてつもない力の重力を押し返し、グラヴィータ・ヌッラを睨みつける。
「何があっても、お前らピリオドには屈しない!!!」
「そうか…残念だ」
グラヴィータ・ヌッラがため息混じりにそう言った瞬間、俺にかかっていた重力が解除された。
やっぱり…!
「"
グラヴィータ・ヌッラはそう発声すると同時に、俺に向かって手を翳す。
今からもう一度、重力の能力による攻撃を受ける。その後がチャンスだ…!
想定通り、グラヴィータ・ヌッラの能力によって俺の体が宙に浮いたかと思うと、目にも止まらない速度で吹き飛ばされる。そして、そのまま近くの建物の壁に激突した瞬間、俺の体は元の状態に戻り、自然の重力のまま地面に倒れ込もうとする。
この瞬間を、ずっと待っていた…!
俺が賭けた可能性…それは、能力の途切れる瞬間だ。
グラヴィータ・ヌッラの能力は強力かつ、その攻撃方法のバリエーションも豊富なため、反撃する隙なんてないと思った。だが、彼の技と技の間には、必ず能力が途切れるタイミングがあったのだ。
変身時は痛みを感じないムジカ ブロッサムなら攻撃を受けても痛覚は機能しないため、一瞬で持ち直すことができる。それを利用し、俺はグラヴィータ・ヌッラの能力が途切れるタイミングで一気に反撃をしようと考えていたのだ。
俺は倒れ込もうとする体に力を込めて踏ん張り、エフェクティングソードを取り出した。そしてそれをステレオドライバーに翳し、必殺技を放つべくエフェクティングソードの"効果付与必殺技ボタン"を押す。
『ブロッサム クリティカルスラッシュ』
その瞬間、視界を覆い尽くすほど大量の美しい花びらが舞う。その中心にて、俺は力一杯にエフェクティングソードを振るった。
─ブロッサム クリティカルスラッシュ《
すると、大量の花びらは一斉にグラヴィータ・ヌッラの方へ飛んでいき、その体に付着する寸前に花びらは鋭い
「っ!?くっ…!」
俺の復帰がこんなに早いと思っていなかったグラヴィータ・ヌッラは、突然の無数の
そして、今度はステレオドライバーの必殺技ボタンを押す。
すると、突如伸びてきた蔦がグラヴィータ・ヌッラの両手に巻き付く。
「っ!?くっ…」
両手を拘束されたグラヴィータ・ヌッラは、能力を使うこともせずただただ力任せに振り解こうと必死に踠いている。
俺が戦闘の間で気づいたグラヴィータ・ヌッラの弱点は、もうひとつある。それは、攻撃するにしろ、防御するにしろ、能力を発動する際に手を動かす必要があるということだ。
そんな手を封じた今、もう重力のバリアでこちらの攻撃を防がれることはない。
『ムジカ・ブロッサム フィーネ』
─ムジカ・ブロッサム フィーネ《
助走を付けて飛び上がった俺は、拘束されて動けないグラヴィータ・ヌッラを強力なエネルギーを込めた右足で蹴り込んだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「ぐぅっ…!?くっ…!」
必殺技を真正面から受けたグラヴィータ・ヌッラだったが、それでもレタルジアディスクを破壊するほどのダメージには至らなかったようで、立ったまま持ち堪えている。
「はぁ…はぁ…ムジカ ブロッサムには、ダメージを後回しにするだけでなく、そんな力まであったとはな…」
しかし、ダメージそのものはちゃんと入っている様子で、グラヴィータ・ヌッラの息はかなり上がっている。
「今日のところは、ここまでにしておいてやる」
グラヴィータ・ヌッラはそう言い残すと、自身にかかっている重力を操作して宙に浮き、そのまま去っていった。
その瞬間、俺にも限界が訪れた。
ムジカ ブロッサムの能力で無効化できるダメージの限界量に達していたようで、強制的に変身解除される。
「ぐっ!?」
人間の姿に戻った瞬間、全身に想像を絶するほどの衝撃が走る。
ムジカ ブロッサム変身時に受けた打撃や蹴り、重力に押し潰された痛みが一斉に襲いかかってきたのだ。
「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!」
本来は同時に経験することのないような無数のダメージ。頭がおかしくなってしまいそうなほどの痛み、苦痛により、俺の意識は突然プツリと途切れてしまうのだった。
「うっ…」
〜〜〜〜〜
お願い…奏叶くん、無事でいて!
私─澁谷かのんは、ただただそう願い続けながら走っている。
奏叶くんに逃してもらった私だったけど、やはりどうしても彼が心配で仕方がなくなり、彼と別れた場所に戻ろうとしていた。
奏叶くんの無事を祈って無我夢中で走り続けた私は、ようやく元いた場所に戻ってきた。
そこには、怪物の姿はもうなかった。ただ…
「奏叶くん!?」
奏叶くんが、意識を失って倒れ込んでいた。
「かなっ、かなとくんっ…!っ…」
そんな彼に駆け寄りそっと抱きかかえると、そのあまりの傷の多さに息を飲む。全身に切り傷や打撲痕があり、出血している箇所も多い。
不安になった私は、奏叶くんの口元に耳を近づける。すると、微かに彼の呼吸する音が聞こえた。
「っ!」
よかった…!
生きてる…!
彼が生きていることへの安堵から大量の涙が溢れてきそうになったが、安心するにはまだ早いと、その涙を必死に飲み込んだ。
119番に電話して救急車を呼んだ私は、再び傷だらけの奏叶くんに目を向ける。
ダメだよ、奏叶くん…
私、奏叶くんとしたいこと、まだいっぱいあるよ…!
奏叶くんに話したいことだって、まだまだたくさんある…!
それに、やっと…やっと、かのんって呼んでもらえるようになったのに…なのに、もう会えなくなるなんて絶対に嫌だよっ!!
お願い、奏叶くん…死なないで…!!
──次回『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』
「奏叶くんがいなくなったらって思うと、怖くてたまらなかったんだよ…?」
自分を守るために重傷を負った奏叶。そんな彼の無事を願う中、かのんの中に芽生え始めていた感情はどんどんと膨れ上がっていた。
「仮面ライダームジカ、かぁ…」
時を同じくして、千砂都は怪物から自分たちを守る仮面ライダームジカの正体について、意識するようになっていた。
──あぁ、そっか…
そして、かのんと千砂都の心に芽生えた大きな変化…
今、二人の幼馴染の想いが交差して、物語は大きく動き出す。
『#31 恋の調べが響く頃に』
─────
『#30 銀色のヌッラ』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!
お気に入り登録や感想、評価等いただけると大変励みになります。
もしよろしければ、よろしくお願いします!
次回『#31 恋の調べが響く頃に』は、10月10日20時に投稿予定です。
お楽しみに!
仮面ライダー作品を見たことがあるか
-
10作品以上見たことがある
-
3〜9作品見たことがある
-
1、2作品見たことがある
-
全く見たことがない