─登場人物─
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結ヶ丘高等学校に通う一年生で、仮面ライダームジカの変身者。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
人前では緊張して歌えないという悩みを抱えていたが、可可の想いに触発されて共にスクールアイドルを始めた。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
スクールアイドルに憧れて上海からやって来た。好きなものへの情熱は人一倍強い。
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結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
かのんの幼馴染であり、丸いものが大好き。スクールアイドル活動では、得意なダンスを活かしてメンバーを引っ張っている。
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プロテクション管轄の病院で勤務している医師。
外科医として診療に当たるほか、ヌッラの能力を受けた特殊な症例の患者も担当している。
「酷い傷だったけど、命には別状ありません。もう安心して大丈夫でしょう」
ある病院の待合室。
不安気に唇を結んで両手を握り締めている澁谷かのんに、医師である春日井想太が声をかける。
「よかった…」
音居奏叶が無事だとわかったかのんは、ほっとしたように深い息を吐き胸を撫で下ろした。
「君は、この前奏叶くんが入院していた時もお見舞いに来てくれた子だよね?」
想太が言ったこの前とは、奏叶とかのんを試練空間に閉じ込めたプローヴェ・ヌッラとの戦闘により傷を負った奏叶が入院していた時のことだ。
「奏叶くん、危なっかしくて無茶しがちな子だと思うけど…これからも、彼と仲良くしてあげて。それがきっと、彼の支えになるだろうから」
「……はい!」
想太からの頼みは、かのんにとっても願ってもないことだった。
奏叶くんと、もっと、ずっと一緒にいれたら…
かのんの中にいつしか芽生えたそんな心のうちの願いそのものなのだから。
「あの様子だと、比較的すぐに目を覚ますだろう。彼の様子、見ていくかい?」
かのんは嬉しそうに頷くと、想太とともに奏叶がいる病室に向かう。
「奏叶くん、入るよー」
コンコンコン、と病室の扉をノックした想太は声をかけると、スライド式の扉を開いて病室の中に入る。
すると、中の様子を目にした想太は、何かに驚愕したように目を見開いて動きを止めた。
「先生?」
その様子に不思議そうに首を傾げるかのんだったが、次の瞬間、かのんも驚愕することになる。
「奏叶くんが、いない…」
〜〜〜〜〜
知らない天井……でもないか。
俺が目を覚ますと、無機質な白い天井が視界に入ってきた。見慣れているわけではないが、見覚えがある天井。ここは、春日井先生が勤めている病院の病室だ。
俺は確か、グラヴィータ・ヌッラをなんとか追っ払って…それで、無効化したダメージが変身解除した瞬間に一気に襲ってきて、気を失って…
そのあとは、きっと倒れている俺を見つけた誰かが、救急車を呼んでくれたんだろうか。
「いっ…」
ゆっくりとベッドから起き上がると、傷がズキリと痛み顔を顰める。
「はぁ…」
あれからどれぐらい経ったのだろう…
ふと疑問に思い、病室にかかっている時計に視線を移すと、意外にもグラヴィータ・ヌッラとの戦闘から4時間ほどしか経過していなかった。
とりあえず目を覚ましたことを知らせるためにナースコールを押した方がいいかと考え、ボタンに手をかけたその瞬間、静かな病室内にポップな音楽が鳴り響いた。
「電話か…?」
音の発生源はベッドの隣の机に置いてある俺のスマホから、電話の着信の知らせだった。
スマホを取って画面を見ると、電話の相手には"唐可可"と表示されている。
「クゥクゥ…?」
なんの用だろうと疑問に思いつつ電話に出た瞬間、電話先から焦った様子のクゥクゥの声が聞こえてくる。
『タスケテクダサイ!』
電話越しのその声音から、切迫した状況に置かれていることはすぐにわかった。
『怪物が!』
怪物!?ヌッラが現れたってことか…
『ソレニ、一緒にイタ千砂都も変にナッテシマッテ…」
「え?」
千砂都が変に…?
まさか、何かしらのヌッラの能力を受けてしまったということか!?
「っ!急いで向かう!今どこにいる?」
クゥクゥに現在地を聞きながら、俺は慌ててベッドから降りる。
「っ…」
激しい痛みが襲ってくるが、今はそれどころじゃない。腰にステレオドライバーを巻き付け、スターライトエネルジアディスクを装填する。
「変身!」
『始まりのスターライト』
"仮面ライダームジカ スターライト"に変身し、俺は病室の窓から飛び出していった。
〜〜〜〜〜
じゅー、と熱された鉄板から鳴る音を耳にしながら、千枚通しでクルッとまんまるのたこ焼きをひっくり返す。
「よし、完璧な丸っ!」
私─嵐千砂都は、焼き上がったたこ焼きのまん丸具合に満足して頷いた。
学園祭も無事に終わり、今日は振替休日で学校は休み。スクールアイドルの練習もお休みなため、私はたこ焼き屋でのアルバイトに勤しんでいた。
大好きなまん丸が生まれていく様子を味わいながらお金も稼げる。うん、幸せぇ…
「クゥクゥちゃん、できたよ!」
お客さんとして来てくれたクゥクゥちゃんにそう声をかけると、彼女はにこっと可愛らしい笑みでキッチンカーの窓口までトテトテと駆け寄ってきた。
「はいっ、毎度あり!」
クゥクゥちゃんから代金を受け取り、私は焼き上がったたこ焼きを渡す。
「二個おまけしといたよっ!」
見たところ周りに他のお客さんはいないが、万が一聞こえたらまずいので、クゥクゥちゃんの耳元でコソッとそう伝える。
「わぁっ!アリガトウゴザイマス!!」
嬉しそうにお礼を言ったクゥクゥちゃんは、ウキウキとした様子でキッチンカーの前に設置してあるテーブル付きのベンチに座り、たこ焼きを一口頬張る。
「んーっ!!ヤッパリ、チサトのタコヤキはサイコーです!」
「それはよかった!」
美味しそうにたこ焼きを頬張るクゥクゥちゃんの様子に、私も自然と口角が上がる。
「ねぇ、クゥクゥちゃん」
今は他にお客さんもいないため、手持ち無沙汰になってしまった私は、世間話に付き合ってもらおうとクゥクゥちゃんに声をかける。
「どうしたのデスカ?」
「何回か私たちを助けてくれた、まんまるのヒーローいるでしょ?」
「まんまるのヒーロー?」
私の言葉に、クゥクゥちゃんは首を傾げた。しかしすぐにそれがなんのことなのか気づいたようで、ハッとする。
「あっ!あぁ、怪物から守ってクレタ人のことデスネ。ククからすると、マンマルじゃない姿の方が印象的ですが…」
まんまるのヒーローと認識しているのは丸いものに人一倍惹かれてしまう私だからなのか、クゥクゥちゃんの中では別の姿の印象の方が強いみたいだ。あのヒーローにはいろんな姿があるようで、まんまるの姿はその中の一つだけみたいだし。
確か前にかのんちゃんに話した時にも、「ちぃちゃんにとってはまんまるのヒーローなんだね」って言われたっけ…
「それで、彼がどうかしたのデスカ?」
「あの人、いったい誰なんだろう…」
「むぐっ!?ケホッケホッ…」
食べていたたこ焼きが喉に引っかかったのか、突然クゥクゥちゃんが咳き込んでしまった。私は慌ててお水を入れた紙コップを持って、キッチンカーから出てクゥクゥちゃんに駆け寄る。
「大丈夫!?コレ飲んで」
背中をさすりながらお水を差し出すと、クゥクゥちゃんは一気に飲み干していく。
「ぷはっ…ふぅ…アリガトウゴザイマス、チサト」
「大丈夫?」
「はい。少し、驚いてシマッタだけで…」
「驚いた?」
「ハッ!?イッ、イエ…」
苦笑したクゥクゥちゃんの言葉に私が首を傾げると、彼女は慌てた様子で視線を泳がせる。
「もしかして…クゥクゥちゃん、まんまるのヒーローの正体知ってるの…?」
「そっ、そんなわけないデス!全くモッテ知りマセン!!」
必死に首をブンブンと横に振るクゥクゥちゃんに、どうにも誤魔化しているんじゃないかと勘繰ってしまうけど、確かにクゥクゥちゃんが知っているはずもないか、と納得する。
「チサト、彼が誰なのか気になるのデスカ?」
気になる、かぁ…
言われてみれば、最近ふとした瞬間にあのまんまるのヒーローのことを考えていたりする。そう思うと、私はまんまるのヒーローが気になっているって言っても間違いじゃないのかもしれない。
「うん、気になってるのかも…」
「ソ、ソウデスカ…」
「なんだか最近、ふとあの人のことを考えちゃう時があるんだよね。誰なんだろうとか、完璧な丸だったなとか、かっこいいなとか、いつも怪物から助けてくれるなとか、完璧な丸だったなとか…」
「今、丸が二回出ませんデシタカ…?」
クゥクゥちゃんが怪訝な顔でツッコミを入れてきたが、それ以上に気になったことがあるのかすぐに話題を切り替える。
「それより、もしかして…チサトって…」
何かに気づいた様子のクゥクゥちゃんからの次の言葉を待っていたが、それは別の声によって遮られることになる。
「たこ焼き…ウザいねェ、丸々しててヨォ…」
ドスの効いたその声の主に、私は恐怖のあまり体が硬直した。
「かっ、怪物!?」
突如として私たちの前に現れた怪物。
錆びついたような禍々しい赤茶色の体に、人型ではあるものの不気味なほどに不自然なシルエット。
そして何よりも私が嫌悪感を覚えたのは、その怪物に付いている無数の崩れた球体だった。まず頭部全体から本来なら球体であったと思われる形がドロっと崩れたように変形しており、全身にもいくつも変形して歪な形となった球体が鎖とともに巻き付いている。
丸いもの好きな私にとっては、より一層不気味で恐ろしく、目にも入れたくないと思ってしまう怪物だ。
「チサト、とにかく逃げマショウ!」
「うっ、うん…!」
「丸いものなんてクソだ。この世から消してやるゥ!」
私とクゥクゥちゃんがこの場から逃げるため走り出そうとした瞬間、怪物のそんな言葉が耳に届き、私はつい立ち止まってしまう。
「え…?」
「チサト!ドウシタノデスカ!?」
突然動きが止まった私に、クゥクゥちゃんは焦った様子で声をかけてくる。
「んん?このたこ焼き…」
すると、怪物はテーブルの上にあるクゥクゥちゃんが食べていたたこ焼きの存在に気づき、じっと見つめている。
「今まで見たどのだこ焼きよりもまん丸じゃねぇかぁ!?」
ふふんっ、そんなの当然だよ!
日々研究に研究を重ね、私が愛情込めて作ったたこ焼きだもん。まんまるに決まってる!!
「許せねぇ…丸なんて消え失せろ!!」
私が心の中で威張っていると、怪物は残っていた二つのたこ焼きに右手を向けて、そこから何かビームのようなものを出した。
すると、あろうことかまん丸だったたこ焼きが変形して、グニャグニャと歪んだ形になってしまった。
「あぁー!?」
とんでもないことを仕出かした怪物に、私は愕然して叫び声を上げる。
「あァ…?なんか文句あんのか?」
神聖な丸を汚したというのにこんな態度、許せない…!
この時には既に、私の中にあった怪物への恐怖心は、強い怒りへと変化していた。
「文句大ありだよ!!」
「ちっ、チサト!?」
「よくも私が作り上げた完璧な丸を…!」
怒りが込み上げて顔を真っ赤にした私は、ずかずかと怪物へ詰め寄っていく。
「あわわわ…」
そんな私の様子に焦ったクゥクゥちゃんがキッチンカーの裏に隠れて誰かに連絡を取っていたが、今の私にはそれに気づく余裕なんてなかった。
「今すぐ元に戻しなさいっ!」
「誰がそんなことするか!俺はな、丸が大嫌いなんだよっ!!」
「だからって、私の大事なまん丸を汚すなんて絶対に許せないよ!!」
「うるせぇなァ…ん?」
お互いの好きと嫌いがぶつかり合い状況が膠着しかけていたその時、怪物は私の顔を見て再び怒りに震える。
「ケッ…テメェの頭にも、二つ丸があるなァ!イラつくぜぇ!!」
そして、怪物は詰め寄ってきて私の体を掴んだ。
「きゃっ…」
その瞬間、私は我に帰った。
そうだ…相手は私たち人間には到底敵いっこないような怪物なんだ、と。
でも…やっぱり私は許せない。私の大好きなものを、嫌いだからと言って理不尽に無茶苦茶に壊していくこの怪物を…
「っ…!」
「なんだァその目…?生意気な、二度とそんな丸い髪できねぇようにしてやるゥ!!」
怪物はさっきたこ焼きにやったように、私のお団子ヘアに向けて右手を構える。
そんな…このままじゃ、私の髪にもあのビームが…
私はグッと目を瞑った。
「くひひひっ…」
「はぁっ!!」
「っ、ぐはぁっ!?」
いよいよ、怪物が私に向けてビームを発射する…その寸前、誰かが怪物に攻撃して私は拘束を解かれた。そして、バランスを崩して倒れかけた私の体は、すぐにサッと受け止められた。
「もう大丈夫、安心して」
私を助け受け止めてくれた相手のそんな優しい声が聞こえ、ゆっくりと目を開いた。
すると、そこにいたのは、あの"まんまるのヒーロー"だった。
〜〜〜〜〜
「はぁっ!!」
ヌッラに捕まっている千砂都を助け出すため、接近しながら"仮面ライダームジカ サンシャイン"にファームチェンジした俺は、思いっきりヌッラを殴り飛ばした。
「ぐはぁっ!?」
ヌッラが吹き飛んでいったことにより拘束を解かれた千砂都だったが、突然のことに体が追いつかず体勢を崩しかけたところを俺はそっと支える。
「もう大丈夫、安心して」
千砂都にクゥクゥが隠れているキッチンカーの方へ隠れるよう手で促し、俺は再びヌッラと対峙する。
するとヌッラは、癇癪を起こしたように喚き出した。
「何だそのクソみたいに丸っこい姿はァッ!!!」
「へ?」
「俺は丸が大っ嫌いなんだよ!丸はこの世から消し去らねぇと気がすまねぇ!!!」
「まっ、丸…?」
丸が嫌いって…え、そんな理由でヌッラになったの?
てか、だから千砂都が狙われたのか…
「自分が嫌いだからって、丸が好きな人を傷つけていいと思ってるのか?」
「うるせぇ!!丸なんかを好きなソイツが悪いんだろ!!」
ヌッラが吐き散らしたその言葉を聞いて、後ろにいる千砂都の表情が曇るのを感じ取った俺は、沸々と怒りが湧いてきた。
「撤回しろよ、その発言」
俺は知っている。千砂都がどれだけ丸いものが大好きで、どれだけ情熱を注いでいるのかを。だからこそ、そんな彼女の気持ちを理不尽に否定するヌッラの発言は、決して許せない。
「っ!?なっ、なんだよ!?」
「丸でも四角でも、どんな形だって、好きなことが間違いなんて絶対にないんだ!」
「あァ…?」
「自分が好きなもののために、相手の好きを貶すなんて許されることじゃない!」
自分の感情を優先して、他の人の好きなものを壊そうとする。これ以上、そんな行動を見過ごすわけにはいかない。
このヌッラは、絶対にここで止める…!
「っ!…まんまるのヒーローさん!その姿はとっても素敵だけど、あの怪物はまん丸をぐちゃぐちゃにしちゃう力があるから気をつけて!」
すると、背後から千砂都の助言が聞こえた。
丸をぐちゃぐちゃにする能力…?
強いのかどうかはよくわからないが、確かにその能力相手じゃこの姿は不利になるな。
『未来はきっとブルースカイ』
俺は"仮面ライダームジカ ブルースカイ"にフォームチェンジした。
「アンタは丸が嫌いなのかもしれないが、この世界には、逆に丸を好きな人、丸のことを愛してやまない人だっている。人間の好きなものは十人十色、千差万別。アンタが嫌いなものは、誰かの好きなものでもあるんだ!!」
「っ!黙れ黙れ黙れェ!!!」
「自分の価値観を押し付けて、人の大切なものを壊そうとするなんて絶対に許さない!!」
俺は今も激痛が走る体に鞭を打って構える。
「テメェ…何者か知らねぇが、捻り潰してやる!!」
そう叫んだヌッラは、俺に殴りかかってくる。俺はそれを左手で防ぎ、空いている右手で反撃のパンチを繰り出す。
「はぁっ!!」
「ぐぁぁぁっ!?」
すると、怪物は思いっきり吹っ飛んだ。
「痛ぇ…!?痛ぇ!!」
「えっ…?えー…」
このヌッラ、あんなに威張ってたくせにめっちゃ弱いんですけど!?
まぁ、満身創痍の今の俺に取っては、とても助かるんだが…なんだか拍子抜けしてしまう。
「くっ、くそぉ…」
ヌッラはゆっくりと立ち上がり、俺の方を向いて再び構える。しかし、先程のように攻撃を受けるのが怖いのか、逃げ腰でプルプルと震えている。
「うっ…」
ヌッラの怯えている様子につい戸惑っていると、突然視界がぼやけてブレる。
まずいな…流石にグラヴィータとの戦いのダメージで、限界が近そうだ…
今のうちに決着つけないと…!
「えーと…なんかごめん。決着つけさせてもらう」
『ムジカ・ブルースカイ フィーネ』
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!!」
─ムジカ・ブルースカイ フィーネ《
「このライブに、アンコールはない」
必殺技を受けたことにより、ヌッラの胸部に埋め込まれているレタルジアディスクが半分に割れ、ヌッラは人間の姿に戻り倒れた。
「君たち、怪我はない?」
「助けていただき、ありがとうございました!」
「アリガトウゴザイマシタ!」
隠れていた千砂都とクゥクゥに声をかけると、二人ともホッとした様子でお礼を言ってきた。
それにしても、この様子だと千砂都に俺の正体は隠し通せてるみたいだ。怪物に襲われて大変な状況だったろうに誤魔化してくれたなんて、クゥクゥには感謝してもしきれないな。
「っ…」
俺は痛む体に仮面の中で顔を顰めるが、二人に悟られないようなんとか持ち堪える。
流石にそろそろ限界だな。
ヌッラになってた人を鼓野さんに届けて、さっさと病院戻らないと…抜け出したことバレたら、春日井先生に絶対怒られるぅ…
「よし、それじゃあ俺はこれで」
そう言いながら、俺は気を失って倒れている男性に近づく。金髪に鼻ピアスをつけた二十代前半らしき男性、この人がさっきのヌッラになっていたようだ。
「あっ、あの!」
俺が彼を担ぎ上げようとした寸前、千砂都から声がかかる。
「ん、どうかした?」
「えっと…その…」
すると、千砂都は頬を赤く染めて緊張した様子で、何か言い出すのを躊躇っている。
「名前…教えて、ほしいです…!」
え、名前…?
千砂都からの要望は、まさかの俺の名前が知りたいとのことだった。千砂都の隣にいるクゥクゥは、俺の正体を知っているため驚いて慌てふためいている。
とはいえ、千砂都が知りたい名前というのは中身の人間である音居奏叶のことではなく、この変身した姿についてだろう。それぐらいなら、別に隠すようなことでもない。
「俺は、仮面ライダームジカ」
そして、俺は倒れている男性を担ぎ上げる。
「それじゃあね」
それから、鼓野さんにヌッラになっていた男性を届けた。
想定はしていたが、彼女にも俺が病院に運ばれたことは伝わっていたようで、顔を見た瞬間に驚かれた。そんな彼女に俺と会ったことは春日井先生には内緒にしておくよう頼み、その場を後にした。
よし、ここまでは完璧…あとは、バレないうちに病室に戻れば…
「かーなーとーくんっ!!!」
物音を立てないようそーっと病室の扉を開けたところには、物凄い形相の春日井先生がいた。そしてその後ろには、涙で目を腫らしたかのんがいる。
しまった…もうバレていたのか…
「全く、君はいったいどれだけ無茶をするんだ」
「す、すみません…でも、ヌッラが…」
かのんには聞こえないよう、耳打ちでコソッとヌッラが出現したことを伝える。それに対し、春日井先生は呆れたようにため息を吐く。
「はぁ…確かにそれは仕方がないけど、まさか目覚めたことを伝えるよりも先に出ていくとは思ってなかったよ」
「あはは…でもほら、ちゃんと戻ってきましたよ」
「当然だよ」
そう言われてしまえば、俺はぐうの音も出ない。
「ま、事情が事情だし、僕からはこれ以上何も言わない。でも…」
春日井先生はベッドの横にある椅子に座っているかのんに目を向ける。
「彼女にあんなに心配をかけたことは、ちゃんと反省しなさい」
そう言い残して、春日井先生は病室から出ていった。
そして、俺はおずおずとかのんに近づく。
「えっと…ちょっと急用というか…その…」
怪物と戦っていたとは言えないが、心配をかけてしまった手前、何も言わないということも当然できず、上手い言い訳が見つからない俺は言葉を詰まらせてしまう。
「バカ…」
「……ごめん」
ただ一言、涙を浮かべた瞳で俺をじっと見つめるかのんが零した言葉に、俺は謝ることしかできなかった。
すると、かのんはゆっくりと立ち上がって俺に近づいてくる。
どうしたのかと不思議に思っていると、目の前まで来たかのんは何も言葉は発さないまま、俺の背中に手を回して抱きしめてきた。
「かっ、かのん!?」
あまりに唐突な行動に驚いていると、かのんは俺の無事を確かめるように胸元にぎゅっと顔を当て、背中に回した手に力を込める。
「よかった…無事で…ほんとうに、よかった…」
息混じりのか細い声で、噛み締めるように言ったかのん。
「あんなにボロボロだったのに…急にいなくなって、すっごく心配したんだよ…?」
そして、彼女は抱きしめた手は離さないまま顔を上げ、涙で潤んだアメジスト色の綺麗な瞳でじっと俺を見つめた。
「奏叶くんがいなくなったらって思うと、怖くてたまらなかったんだよ…?」
そう言ったかのんの体は、今もまだ少し震えている。
「……ごめん」
「…でも」
俺が小さく謝ると、かのんは首を横に振って、安堵と、喜びが混じったようなくしゃっとした笑顔を浮かべた。
「助けてくれて、ありがとう…!」
〜〜〜〜〜
「助けてくれて、ありがとう…!」
見上げた奏叶くんの顔には、私を守って怪物から受けたであろう傷がいくつもあった。
奏叶くんが怪物からどんなことをされたのかは見ていないけど、この傷を見れば相当な痛みを受けたことぐらいすぐにわかる。
少し前に怪物に変な世界へ連れて行かれた時も、奏叶くんは私を守るために人間よりも遥かに強い力を持つ怪物に立ち向かっていた。必死に、私を守ろうとしてくれた。そんな彼が、今まで見た誰よりもかっこいいと感じた。
つい奏叶くんに抱きついてしまったため、密着した状態でいる私に彼の温もりが伝わってくる。
なんだかとても安心する…
それは、奏叶くんが無事だったということに対する安堵もあるだろうけど、きっとそれだけじゃない…
ここ最近、私の中にずっとあったモヤモヤ。
友達や、家族ともまた違う、奏叶くんにだけ感じる謎の気持ち。
一緒にいるだけで楽しくて、嬉しくて、あったかくて、けれどとこか切なくて…
ずっと一緒にいたい。たくさんお話したい。もっと名前で呼んでほしい。奏叶くんのことなら、どんなに些細なことだって知りたい。
どうしてこんなふうに感じているのか、ずっと疑問だった。
けど、ようやくわかったんだ。
あぁ、そっか…
〜〜〜〜〜
「仮面ライダームジカ、かぁ…」
怪物から助けてくれたヒーローの名前を、思わず呟いてしまった。何度も私を助けてくれたまんまるのヒーロー。実際には、まんまるじゃない姿もあるんだけど…
最初に彼が助けてくれたのは、すみれちゃんがスクールアイドルをやると決めた日。私、かのんちゃん、クゥクゥちゃん、すみれちゃんの4人が竹下通りで怪物に襲われた時だった。
そして、私が彼に強く興味を抱いたのはダンスの都大会の日。
『この子には、二度と手は出させない!!』
そう私を守ってくれた彼は、まん丸の姿に変わった。
『あはは…ちょっと変な格好だよね』
彼自身は苦笑してそう言ったが、私はその素敵な姿に目を奪われていた。私が大好きなまん丸の姿にもなって、人を守るために戦っていて、どこか安心できる雰囲気のある不思議なヒーロー。私はそう感じていた。
それ以来、事あるごとにあのヒーローのことを考えるようになってしまった。どんな人なんだろう。何が好きで、普段はどういうことをしているんだろう。彼はどうして戦っているんだろう。
そして今日も、私がピンチになると彼はまた颯爽と現れたのだ。
『もう大丈夫、安心して』
彼が現れた時の胸の高鳴り。さっきまで命の危機だったというのに、彼と再び出会えたという喜びを感じて頬が熱くなった。
「チサト、どうしたのデスカ?顔が赤いデス」
一緒にいるクゥクゥちゃんに言われて、自分の顔が赤くなっていることに気づいた。どうやら、私は彼のことを思い出すだけで顔が赤くなってしまっているようだ。
『俺は、仮面ライダームジカ』
仮面ライダームジカ…きっとそれがあの変身した姿の名前なんだろう。本当は変身していない時がどんな人なのか知りたくて聞いたんだけど…
いや、そもそも人間じゃない可能性もあるのかな…?だったらどうしよう…いやどうしようってなに、私なに考えてるの。
なんて自問自答したが、自分でもわかっている。
私は彼のことをもっと知りたいと思っていて、彼のことがどうしようもなく気になっているのだ。名前も、顔も、人間なのかも怪しい相手に対して。
やっぱり、こんなの変かな…
その時、以前すみれちゃんが言っていた言葉がふと頭に過る。
『逆に私たちの年齢でピンチを救われるだとか、そんなドラマみたいな展開になってみなさい。それこそ、一生忘れられないような大恋愛になっちゃうわよ』
あの時のすみれちゃんはかのんちゃんに対して言っていたけど、まさかこんな形で私にも当てはまっちゃうことになるなんてなぁ…
いつも私のピンチに颯爽と現れ、怪物を倒すとすぐにいなくなる謎のヒーロー。私は、いつの間にか、そんな白馬の王子様のような存在に惹かれていたんだ。
あぁ、そっか…
〜〜〜〜〜
あぁ、そっか…
私、奏叶くんに、
私、あのヒーローに、
"恋"をしてるんだ。
──二人の幼馴染の想いが交差し、運命の歯車が動き出したのだった。
──次回『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』
「私、奏叶くんのことが好きなんだって。友達としてじゃなく、ひとりの男の子として…」
「ついさっきその人のことが好きなんだって気づいたばかりなんだけど…」
かのんは奏叶に対して、千砂都は仮面ライダームジカに対して、それぞれ抱いていた感情の正体に気づいた。
「私もできることは協力するから。応援してるわよ」
「ククはチサトの気持ちを応援シマス!!」
そんな二人の気持ちを応援するすみれと可可。
そして、同じくスクールアイドル部のメンバーである恋にも、なにか悩みがあるようで…
「
『#32 五線譜をかける想い』
─────
『#31 恋の調べが響く頃に』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!
お気に入り登録や感想、評価等いただけると大変励みになります。
もしよろしければ、よろしくお願いします!
次回『#32 五線譜をかける想い』は、10月17日20時に投稿予定です。
お楽しみに!
仮面ライダー作品を見たことがあるか
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10作品以上見たことがある
-
3〜9作品見たことがある
-
1、2作品見たことがある
-
全く見たことがない