─登場人物─
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、仮面ライダームジカの変身者。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
人前では緊張して歌えないという悩みを抱えていたが、可可の想いに触発されて共にスクールアイドルを始めた。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
スクールアイドルに憧れて上海からやって来た。好きなものへの情熱は人一倍強い。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
かのんの幼馴染であり、丸いものが大好き。スクールアイドル活動では、得意なダンスを活かしてメンバーを引っ張っている。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
幼い頃からショウビジネスの世界で活動してきた。表には見せないが努力家であり、ショウビジネスの世界で培ってきた様々なことを器用にこなす。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、 スクールアイドル部の一員。
音楽科に所属し、生徒会長を務めている。
亡き母が遺した結ヶ丘高等学校を守るために奮闘しており、かのんたちと共にスクールアイドルとして学校を盛り上げようと活動している。
【グラヴィータ】
ピリオドの幹部。
"オディオ"クラスに分類される進化した銀色のヌッラであり、仮面ライダームジカを圧倒するほどの力を持つ。
【???】
謎の美女。
黒を基調としたシックなワンピースに身を包み、顔の右半分を覆うベールを纏っている。
【マエストロ】
ピリオドを率いる指導者。
常に悠然とした佇まいを崩さず、その立ち振る舞いには確かな威厳が感じられる。
【
由緒ある音楽一家・"八雲家"に生まれた元バイオリニスト。
幼少期から天才的なバイオリンの腕前を誇っていたが、不慮の事故で負った怪我が原因でバイオリンを弾けなくなってしまった。
現在は音楽プロデューサーや会社の経営などをしており、歌えなくなった奏叶を支えた恩人でもある。
結ヶ丘高等学校の学園祭が終わってからしばらくが経ち、だんだんと肌寒く感じる季節に移り変わり始めていた。
「ンー…」
紅葉に染まった木々が立ち並ぶ通学路をひとり歩く唐可可は、ムッと頭を悩ませていた。
彼女を悩ませるその理由は、数日前にまで遡る。
───
──
─
可可は友人の嵐千砂都と共に、丸いものを変形させる能力を持つ怪物─モルビド・ヌッラに遭遇した。まん丸大好き千砂都にとってはより一層許せない能力を持つヌッラとの遭遇に、可可は音居奏叶に連絡を取った。現在、奏叶が通う結ヶ丘高等学校の生徒の中で唯一、彼が仮面ライダームジカだと知っているのが可可だ。
そして、駆けつけた仮面ライダームジカによってモルビド・ヌッラは倒され、事態は一件落着した。
しかし、可可にとって気掛かりなのはそれからのことだった。
「チサト、どうしたのデスカ?顔が赤いデス」
仮面ライダームジカが去ったあと、顔を赤くして呆けた様子になった千砂都が気になり、可可は声をかけた。
「へっ!?えっと…そうかな?」
あはは、と照れたように笑いながら千砂都が返す。
「ハイ、とっても赤いデス」
そう言われて千砂都の頬はより赤く染まる。
そのまま会話が中断され、帰路を歩く二人の間に少しの沈黙が流れる。
しばらくして、千砂都がその沈黙を破りぽつりと言う。
「クゥクゥちゃんってさ…好きな人っている…?」
「イマスヨ!」
「え!?」
勇気を出して聞いてみた質問だったが、あまりにもあっけらかんと答えた可可に千砂都は驚く。
「ククはスクールアイドルの皆さんが大好きデス!中でも特にサニパ様ぁ…!!それにチサトやカノン、カナトさんに、レンレンに、あとついでにグソクムシも…結ヶ丘で出会った人はみんな大好きデス!!」
目をキラキラと輝かせながら言った可可に、千砂都は「ああ、そういう好きか…」と納得する。
「それは嬉しいし、もちろん私もクゥクゥちゃんのこと大好きなんだけど、そういうんじゃなくって…」
「ほぇ?」
「その…恋愛的な意味で、好きな人いるのかなって…」
千砂都が言う好きと自分が答えた好きという言葉の認識が違っていたと気づいた可可は、顎に手を当てて改めて考える。
「ンー…レンアイですかぁ…ククにはそういう人はイマセンね」
「そっかぁ…」
先程から何か含みがあるような千砂都の様子を不思議そうに見ていた可可だが、ビビッとその答えに辿り着いた。
「チサト…もしかして、好きな人いるのデスカ?」
「えぇっ!?」
ギクッとした千砂都だったが、それから逡巡して正直に答えることにした。
「……うん。と言っても、ついさっきその人のことが好きなんだって気づいたばかりなんだけど…」
「ついさっき…?ハッ…!というコトハもしかして!」
「うん…あの、仮面ライダームジカっていう、私がずっとまんまるのヒーローって言ってた人…」
あまりに突然なカミングアウトに可可は「ほぇ…」と目を丸くする。
しばらくの間、情報の整理が追いつかずに呆けていた可可だったが、あることに気づいてハッとした。
そう、千砂都の想い人である仮面ライダームジカは謎のヒーローということになっているが、可可は知っているのだ。その正体が、クラスメイトで友人である音居奏叶だということを…
「ハッ…!」
チサトが好きなのは仮面ライダームジカ…
そのムジカはカナトさんで…
カナトさんはいつもククたちを助けてくれるスバラシイ人…
つまりチサトの恋が叶うというコトハ、チサトとカナトさん、ククの友達二人が幸せにナルというコト!!
「変だよね…誰なのかもちゃんとわからない人を好きになっちゃうなんて…」
可可が名案を思いついたと隣で目を輝かせていることには気づかず、千砂都は俯いてため息混じりに呟いた。
「そんなことナイデス!」
「そ、そうかな…?」
「あのムジカという人はきっとスバラシイ人デス!!」
「っ!だっ、だよね!!」
「ハイ!ククはチサトの気持ちを応援シマス!!」
─
──
───
「応援すると言いマシタガ、一体何をスレバ…」
仮面ライダームジカの正体が音居奏叶であるということは可可しか知らないし、たとえ友人である千砂都だとしてもそれを言ってはならない。奏叶と結んだ大事な約束なのだ。
しかし、千砂都がムジカの正体が奏叶だと知らない限り、恋を成就させる明確な手立てがない。
それに何より、可可自身が恋愛の経験がないため、余計にどうすればいいのかわかっていないという点もある。
「でも、レンアイは何もしないと後悔シマス…」
ま、マンガで読んだだけデスガ…
自分で言ったことに心の中でセルフツッコミを入れる可可。
チサトが後悔シナイためにも、ククも協力しなケレバ…!
そう熱意ばかりが湧いてくるが、その具体的な手段は何も思いつかないまま。
「ハァ…」
こんな状況に可可は朝から頭を悩ませているのだ。
「おはよ」
そんな可可を見つけ声をかけたのは、クラスメイトであり同じスクールアイドルのメンバーである平安名すみれ。
「なーんだグソクムシですか……オハヨウゴザイマス…」
「悪かったわね私で。それで、朝っぱらから眉間に皺寄せてどうしたのよ?」
「別に、グソクムシには関係アリマセンッ!」
「あっそ。……」
そこで会話が止まると、すみれも何やら考え事を始める。
可可を見つけるまで、すみれもすみれで考え事に没頭していた。そのきっかけは、かのんと奏叶のカフェデートの翌日にまで遡る。
───
──
─
「それは大変だったわね」
学園祭も終わり、学校のカリキュラムもいつも通りのものとなった今日、すみれは奏叶がいないことに気づきその理由をかのんから聞く。
昨日カフェに行ったあと怪物と遭遇し、奏叶はかのんを守り負傷。その怪我の治療のため入院中で、今日は欠席しているとのこと。
「でもそこまで大きな傷じゃなかったみたいで、今日の夕方には退院して明日からはまた学校来れるみたい」
「そう、よかったわね」
明日からまた学校に来られると嬉しそうに話すかのんを、すみれは微笑ましく見つめていた。
「それにしても、また二人でいる時に怪物に襲われるなんてツイてないったらツイてないわね。……あ」
すみれはカバンから教科書などを出しながらため息混じりに言うと、大事なことを思い出す。
「それで、名前の件は聞けたの?」
「ふっふっふっ…ちゃんと聞けたよ!そしてっ、ついに奏叶くんから名前で呼ばれるようになったんだ!」
晴れやかな笑顔でそう言ったかのんに、すみれも優しい笑みを浮かべる。ずっとかのんが抱えていたモヤモヤの相談を聞いてきたすみれも、それが解消できたということに友人として心から喜びを感じていた。
「それでその…」
すると、かのんは何かを話そうと潜めた声を発したが、周りにいるクラスメイトたちを気にするように目線を動かす。
「場所、移す?」
かのんの様子を気遣ったすみれの提案により、二人は屋上までやってきた。
「それで、どうしたのったらどうしたのよ?」
「えっと…その…ずっと、奏叶くんに対してだけなんだか違う感じというか…奏叶くんにだけは何か特別な感情があるなって思ってたんだけど、それが何かわからなかったの…」
「えぇ」
「でも、わかったんだ…私、奏叶くんのことが好きなんだって。友達としてじゃなく、ひとりの男の子として…」
「全く…ようやく気づいたのね」
かのんの気持ちを聞いたすみれは決して驚くことなく、「とっくの前から知っていた」と呆れたように笑った。
「すみれちゃんはわかってたの!?」
「あんなにわかりやすい反応見せられたらバレバレよ」
「え!?それじゃあ…」
「安心しなさい。他のみんなは気づいてないみたいよ」
ま、私からすればどうして気づかないのか不思議なくらいだけど…と思ったすみれだが口にはしない。
「好きだとわかったのはいいけど、これからどうすればいいんだろう…」
「そんなに難しく考える必要なんてないわよ。かのん自身はどうしたいの?」
「私自身がどうしたいか…私は、奏叶くんのことをもっと知りたい。もっと話したい。もっと一緒にいたい」
自分の願いを口にしたかのんに、すみれはふふっと笑う。
「それが答えなんじゃない?」
「え?」
「かのんが奏叶ともっと一緒にいたいと思うのなら、そうすればいいのよ。それで奏叶もかのんに対してそう思うようになったら、それはもう恋人同士ってことじゃないの?」
「こっ、ここっ、ここここ恋人同士ぃ!?」
かのんは顔を真っ赤にして驚く。
「恋人かぁ…奏叶くんと、恋人…えへ、えへへ、えへへへへへ…」
「まさかかのんが、好きな人に対してはこんなにデレデレになるなんてね…」
脳内で奏叶と恋人になった時のことでも想像しているのか、ふにゃりとした笑みを浮かべるかのんにすみれは苦笑する。
「それから…あんまりのんびりしてると、奏叶が別の人と付き合う可能性もあるかもしれないわよ」
「えぇ!?そうなの!?」
「可能性ったら可能性よ。かのんが奏叶を好きになったように、他にも奏叶のことを好きな人がいるかもしれないでしょ?」
「た、確かに…」
かのんはすみれに言われた可能性の話に納得し考え込むと、ハッとしてすみれに詰め寄る。
「もっ、ももももももしかしてすみれちゃんも!?」
一度マイナスな方向に思考が進むとあらぬところまで話が飛躍してしまう癖があるかのんは、そんなふうに考えついてしまったらしい。
「なんでそうなるのよ…」
ジト目で詰め寄ってきたかのんのおでこを人差し指で押し返し、すみれはため息混じりに言った。
「大丈夫よ。私が奏叶を異性として好きになることはないわ。タイプじゃないもの」
「そ、そっか…」
すみれがハッキリと断言すると、かのんは少し落ち着きを取り戻した。
「ま、そこまで焦る必要はないわ。焦りすぎると、却って失敗しそうだし…」
「あはは…そうだね…」
「ただ、後悔はしないようにしなさい。恋愛において、何もしないっていうのは後悔しか生まないもの」
「へぇ…!なんか今のすごい名言っぽい!」
「ふふんっ、私を誰だと思っているの?」
ま、実際に漫画で言ってた名言そのまま言っただけなんだけど…
かのんからの称賛の言葉にドヤ顔で返したすみれだったが、内心ではそんなことを考えていた。
「とりあえずはこれまで通りに接しつつ、ちょっとずつ距離を縮めていけばいいんじゃないかしら?」
「今まで通りで、ちょっとずつ…」
「私もできることは協力するから。応援してるわよ」
「ありがとう、すみれちゃん!私、頑張るね…!!」
─
──
───
これまで通りに接しつつ距離を縮める。
そうアドバイスしたはいいものの、結局これは安牌な案でしかないことは、すみれ自身も理解している。
やはりより明確な案を出すには、相手である奏叶の情報が必要だろう。
考えてみると、かのんもすみれも奏叶の恋愛についての話は何も知らないのだ。
どういう子がタイプとか、理想の恋愛があるのかとか。……いや、こういうのはかのん自身が聞く方がいいわね。
「ふぅ…」
「ハァ…」
通学路を共に歩くすみれと可可はそれぞれ、友人の恋愛について頭を悩ませていた。
「ナニため息ツイテルデスカ…」
「アンタこそ…」
「ア、コレ返しマス」
そう言って、可可は三冊の漫画が入った紙袋を渡す。
数日前、もっといろんな日本語を勉強したいと話した可可に、漫画ならよりいろんなジャンルの日常会話を学べるかもとすみれが貸した漫画である。
「グソクムシにシテハいいセンスでした。面白かったです」
「相変わらず一言余計ね」
軽口を叩き合うのにも慣れたのか、自然とそんな会話を挟みながら漫画を受け渡す二人。
「あ、そうだ」
丁度返してもらった漫画が恋愛漫画だったこともあり、再びかのんの恋愛について頭に過ったすみれは、ひとつ可可に聞いておこうと思い立った。
「そういえば、スクールアイドルって恋愛してもいいの?」
「ハイ、別に問題アリマセン。アイドルではアリマスが、その前に学生デスカラね。もちろんセツドは大事にしないとイケマセンガ…」
スクールアイドルというのは、名前の通り"学生"ということが大前提である。そのためプロのアイドルとは違い、学生ならではの青春というのも一つの魅力である。もちろん恋愛というプライバシーに関わるセンシティブな部分を曝け出すことはしないが、日々の学生生活での青春は自然とパフォーマンスにも反映される。
そのためスクールアイドルは、一部の厄介なファンを除いて、常識の範疇で節度を持った恋愛なら何の問題もないと考えるファンが多いのだ。
「そう…」
可可の返答を聞き一安心するすみれ。その様子を見て可可はハッとする。
「もしやグソクムシ、好きな人が…!?」
「はぁ?違うわよ」
「誰デスカ誰ナノデスカ!?」
「だから違うったら違うわよ!」
「ムムム…怪しいです…」
すみれは違うと否定するが、可可の疑惑は余計に深まるばかり。そして可可はすみれの周りにいる異性の存在を勘ぐるが、すみれにしろ可可にしろ、女子生徒がほとんどの結ヶ丘に通う二人にとって、そんな人物は一人しかいない。
「グソクムシ、カナトさんのことを!?」
「どうしてそうなるのよ!」
「ハッキリしやがれデス!カナトさんのこと好きなのデスカ!?」
「だからさっきからハッキリ言ってるでしょ!」
すみれは可可にグイッと詰め寄り、「ち・が・う!!」と否定する。
「奏叶は友達としては好きだけど、異性として好きとかそういうのは全くないわ」
きっぱりとそう言い切ったすみれは、心の中で「私はね」と付け足していた。
「ソウデスカ…」
そして可可はようやく納得し、すみれが千砂都の恋のライバルになることはないとホッと一息ついていた。しかしそんな様子の可可に、今度はすみれが疑念を持つ。
「アンタこそ、あんな必死に疑ってくるなんて怪しいわね…まさかアンタ、奏叶のこと!?」
すみれもすみれで、かのんの想い人である奏叶に可可も想いを寄せているのではないかと疑い始めてしまった。
「ナッ!?チガイマスヨ!!」
「じゃあどうしてあんなに聞いてきたのよ!」
「そっ、それは…興味本位デス!」
「本当かしら…別に誰にも言うつもりはないから、私には正直に教えなさいったら教えなさい!」
「だ・か・ら!チガウと言ってイマス!」
今度は可可がすみれに顔をグイッと近づけて言った。
「ククもカナトさんは友達としては大好きデスガ、レンアイだとなんか違いマス!!」
そんなハッキリとした可可の発言が、丁度近くを通りかかったとある人物の耳に届いていた。
「えっと…なんで俺朝から振られてるの?」
二人を見つけた話の張本人でもある奏叶が、苦笑しながらそう声をかけたのであった。
─某所─
アンティークな本棚や机、そして奥には大きな玉座が置かれている部屋であり、室内の光源は天井のシャンデリアから放たれる控えめな光のみ、そんな薄暗いシックな一室。
ここは、ピリオドの幹部のみが集められる部屋─"幹部の間"。
この部屋に、現在二人の人物がいた。
ひとりは部屋の奥にある玉座に鎮座し、白いローブに身を包んでいるピリオドのボス─"マエストロ"。
そしてもう一人は、先日奏叶と戦ったピリオドの幹部─"グラヴィータ"。
「申し訳ございません。音居奏叶を取り逃してしまいました」
「彼が仮面ライダームジカになってから、もうしばらく経つからね。一筋縄ではいかないだろう。気に病むことはないよ」
「マエストロ。寛大なご配慮、感謝します」
「それで、仮面ライダームジカは前に戦った時と比べてどうだったかな?」
「かなり成長しているようです。情報通り、ブルースカイという基本形態に加え、スターライト、サンシャイン、ブロッサムと特筆した能力を持つ姿を手に入れていました。ブロッサムに関しては、事前情報の治癒やダメージを後回しにする能力に加え、植物を操る攻撃能力もあるようです」
「ほぅ。それは厄介だね」
「はい。素の戦闘能力も上がっているようで、今後ますます脅威となるでしょう」
「そうか…グラヴィータ。また頃合いを見て、君にムジカの捕獲をお願いすると思う。その時は頼んだよ」
「御意」
マエストロの指令をすぐに飲み込んだグラヴィータだったが、少し気になることがあるのか控えめに声を上げる。
「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何かな?」
「何故、ムジカを抹殺ではなく、"捕獲"なのでしょうか?」
ピリオドという組織は、これまで組織にとって不都合となる人物を排除してきたことは幾度もある。組織のボスであるマエストロも、グラヴィータたち幹部も、それはピリオドの崇高なる目的のためなら仕方のない犠牲だと考えている。
それなのに何故、今回の音居奏叶は捕獲という命令なのか。
グラヴィータはずっと疑問に思っていたのだ。
マエストロは玉座からゆっくりと立ち上がり、その質問に答える。
「私は、彼のことを組織に引き入れたいと思っているのだよ」
その発言に、グラヴィータは強い動揺を見せる。
「しかし、彼は我々組織の敵で…」
「今はね。でも、彼なら良き仲間になれると思わないかい?我々と同じものを抱えている、彼なら」
「歌声…大切なものを失ったということですか?」
その言葉にニヤリと不敵な笑みを浮かべて頷くマエストロ。
「
突然そんな声が響いたかと思えば、グラヴィータと同じ青いローブに身を包んだ女性が部屋に入ってくる。
「プリバレ…」
グラヴィータがその女性の呼び名であろう名前を口にする。
「音居奏叶。
「貴様がそんなことを言うだなんて、珍しいこともあるもんだな」
「プリバレ。君もそれに気づいてくれたようで嬉しいよ。そして、その可能性を生んでくれた君には感謝しないと、だね」
「マエストロ…もったいなきお言葉ですわ」
マエストロの言葉に頬を赤く染め、プリバレは恍惚とした笑みを浮かべる。
「だから、彼をひとまず捕獲してほしいんだよ、グラヴィータ。私だけではなく、プリバレもこう言っていることだし、ね?」
「音居奏叶の件については、
同等の立場であり、あまり好ましく思っていないプリバレの意見を素直に聞く必要は、本来ならばない。しかし、尊敬するボスであるマエストロからの言葉に加え、先程のプリバレの言葉に関してはその通りだと思う節もあり、グラヴィータは素直に引き下がってこれ以上は何も言わなかった。
そして、プリバレはローブのフードを外す。しかし、彼女の全顔が顕になることはなかった。なぜなら…
「なんせ音居奏叶の歌声を奪ったのは、
彼女の半顔を黒いベールが覆い隠していたからである。
〜〜〜〜〜
学園祭も終わって通常の学校生活に戻り、
これは、そんな
「……なかなかこの部分が納得いきませんね…」
放課後の練習が終わった後、一人部室に残り歌の練習をしていますが、サビの最後のワンフレーズが何度歌っても納得いかず頭を悩ませていました。
コンコンコン
「誰か忘れ物でもしたのでしょうか…?」
部室の扉をノックする音が聞こえ、
「遅くまで頑張ってるね」
すると、部室に入ってきたのは奏叶さんでした。
「奏叶さん?どうかされたのですか?」
「階段の下通ったら、恋の歌声が聞こえてきたから…はい、差し入れ」
そう奏叶さんが差し出してくれたのは、
「まぁ…!ありがとうございます!」
「ちょっと前にかのんたちが帰ってるとこ見かけたけど、恋はひとりで練習してたの?」
「はい。
「そっか。じゃあ邪魔しても悪いから俺はこれで…頑張ってね」
「あの…!」
奏叶さんが部室の扉に手をかけたところで、
「もしよろしければ、アドバイスをいただけませんか?」
「え?」
奏叶さんは元々歌手活動をしていた経験がある。今は歌えないと言っていましたが、そんな彼なら何か良いアドバイスをくれるのではないか…
「でも、俺は今歌えないんだよ…?」
奏叶さんは目を伏せる。もし奏叶さんが今は音楽に関わりたくないと思っているのならそんな頼み事はしたくないのですが、彼の寂寥感に溢れた表情からは、とてもそんなふうには感じられませんでした。
「それはわかっています。でも、
「……わかった」
奏叶さんは逡巡の後、
奏叶さんは近くにあった椅子に座り、全神経を耳に集中させるかのように目を閉じる。
「……いかがでしたか…?」
恐る恐る聞くと、奏叶さんはゆっくりと目を開いて答える。
「全体的にはすごくよかった。恋の優しくも芯のある歌声を活かしつつ、全員で歌った時にもバシッとハマると思うよ。……悩んでるのは、最後のワンフレーズだよね?」
「っ…!そうです」
「んー…ありきたりなことにはなっちゃうけど、まずはもっと力を抜いてみよっか。さっき聞いた時、ここを歌っている時だけ妙に固く聞こえちゃったから」
「固く、ですか…」
「うん。多分ここの部分が苦手だと意識しすぎて、それが逆に上手くはまらない要因になっちゃってるんじゃないかな」
確かに、意識すれば意識するほど肩に力が入っていたかもしれません…初歩的なことではありますが、すっかりと抜け落ちてしまっていました。
「それに、ここはそんなに難しく考えすぎない方がいいと思う。サビの最後で曲としても特に大事な部分だし、全員で歌う時も恋がソロで歌うところなんだよね?」
「はい…ってどうしてそれを?」
「この間、かのんと千砂都がこの曲のパート分けを話してるの聞いちゃって」
まだ人前で披露したことのない曲のパート分けをどうして知っているのかと気になりましたが、どうやらかのんさんたちが教室でこの曲について話していたようです。
「大事な部分でソロを任せられているから、考え込んだり身構えちゃうのはわかるよ。でも、この部分は歌詞の意味的にも、恋の思いのまま、もっと素直に歌った方がいいんじゃないかな?」
「
「学園祭のライブを見ても思ったけど、恋は歌もダンスも基礎がしっかりしてる。他の4人に比べて劣ってるなんてこともないし、もっと自信持っていいと思うよ」
「奏叶さん…」
優しさに満ち溢れた奏叶さんの言葉に胸が温かくなる。
「今言えるのは、こんなところかな。じゃ、俺はこれで」
奏叶さんが部室から出ようと扉に手をかけたところで、
「奏叶さん、ありがとうございました!!」
その後、再び一人になった部室でもう一度歌ってみると、苦手だった部分が明らかに歌いやすくなっていた。
「奏叶さんは、なぜ歌えなくなったのでしょう…」
個人練習を終えて帰路についた
先程、奏叶さんが歌手活動をしていた頃のことが気になり、スマートフォンの検索機能を使って調べてみました。
──''奏音"。顔出しは一切せず、その素性はわからない謎の中学生シンガー。最初は動画サイトに歌ってみた動画を投稿していたが、彼と同い年の中学生ギタリスト『
しかし、Melodreamの人気が鰻上りとなっていた絶好調の時期に、突然奏音が活動休止を発表。それによりボーカルがいなくなったMelodreamも実質的な活動休止状態となり、夢人は個人活動は続けると言ったものの、以前のような精力的な活動は見られなくなった。
奏叶さんは、歌おうとすると声が出なくなると言っていましたね…
そういえば、かのんさんも結ヶ丘に入学した当初は歌えなかった。それは過去のトラウマからだそうなので、奏叶さんも何かそのようなものを抱えているということなのでしょうか…
「おや?確か君は…葉月恋ちゃん、だったよね?」
奏叶さんに関しての考えに没頭していると、突然名前を呼ばれて顔を上げる。
「あなたは…!」
そこにいたのは、以前奏叶さんとカフェに行った時にお会いした元天才バイオリニストの八雲正道さんでした。
「お久しぶり。そういえば、スクールアイドルを始めたんだってね」
「どうしてそれを?」
「奏叶くんから学園祭のお誘いを受けて、その時にね。仕事で行けなかったのが残念だよ」
学園祭や
「奏叶くんは元気にしてるかい?」
「え?」
「ここ最近は文面だけのやり取りだったから、少し気になってね。それに彼、何かとひとりで抱え込みがちだし」
確かに…
言われてみて気づきましたが、奏叶さんは人のことは助けようとするのに、自分のことは自分だけで解決しようとすることが多いのかもしれません。
彼自身の悩み事などは、聞いたことがありませんし…
「
「それは良かった」
安心したように笑った八雲さんが「じゃ、僕はこれで」と踵を返そうとしたところで、
そうだ…今の
「あの!」
「どうしたんだい?」
「少し、お聞きしたいことがありまして…」
〜〜〜〜〜
─結ヶ丘高等学校─
音楽科校舎のとある教室にて…
現在この部屋には、理事長と音楽科の教師である桜葉大翔、他二名の音楽科教師、そしてひとりの少年がいた。
教師陣はズラッと並べられた長机に設置されている椅子に座り、その少年に真剣な眼差しを向けている。そして少年はそれに臆することなく、4人の教師陣の方を向いて堂々とした様子でギターを構える。
「よっしゃ行きまっせ!!」
彼はギターで華やか且つ、洗練された演奏を披露した。
その並々ならぬ腕前のギターパフォーマンスに、音楽に精通している教師陣も思わず息を飲んでいた。
演奏が終わると、少年はニカっと人懐っこく笑う。
「あっしの名前は"
──次回『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』
「俺も、もっと強くならないと…」
強敵であるグラヴィータ・ヌッラとの戦いを経て、奏叶はもっと強くならなければと決意する。
そして、そんな彼の前に、新たなプロテクションの仲間が現れる。
「彼女は"
その頃、結ヶ丘のスクールアイドル部の面々は、開催が決定したスクールアイドルの全国大会─"ラブライブ!"に向けて動き出していた。
そんな中、緊張した面持ちで恋がとある話を持ちかけるのであった。
「
『#33 新たな道筋』
─────
『#32 五線譜をかける想い』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!
お気に入り登録や感想、評価等いただけると大変励みになります。
もしよろしければ、よろしくお願いします!
次回『#33 新たな道筋』は、10月31日20時に投稿予定です。
お楽しみに!
仮面ライダー作品を見たことがあるか
-
10作品以上見たことがある
-
3〜9作品見たことがある
-
1、2作品見たことがある
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全く見たことがない