─登場人物─
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、仮面ライダームジカの変身者。
歌うことが大好きだが、ヌッラの能力により歌声を奪われてしまった。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
人前では緊張して歌えないという悩みを抱えていたが、可可の想いに触発されて共にスクールアイドルを始めた。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
スクールアイドルに憧れて上海からやって来た。好きなものへの情熱は人一倍強い。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
かのんの幼馴染であり、丸いものが大好き。スクールアイドル活動では、得意なダンスを活かしてメンバーを引っ張っている。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、スクールアイドル部の一員。
幼い頃からショウビジネスの世界で活動してきた。表には見せないが努力家であり、ショウビジネスの世界で培ってきた様々なことを器用にこなす。
【
結ヶ丘高等学校に通う一年生で、 スクールアイドル部の一員。
音楽科に所属し、生徒会長を務めている。
亡き母が遺した結ヶ丘高等学校を守るために奮闘しており、かのんたちと共にスクールアイドルとして学校を盛り上げようと活動している。
【
プロテクションの長官補佐。
長官の補佐以外にも、奏叶の戦いのサポートも主な仕事である。
【
警視庁 公安部に所属する刑事であり、階級は警部。
ヌッラ捜査のため、特別捜査官としてプロテクションにも所属している。
【
プロテクションに所属する新人隊員。
明るくハツラツとした性格だが、何かとおっちょこちょいなため仕事でのミスが多い。
【
プロテクションの長官。
世界を護る組織のトップとして責任感が強く、時には厳しい一面もあるが、誠実で部下思いな人間。
【
由緒ある音楽一家・"八雲家"に生まれた元バイオリニスト。
幼少期から天才的なバイオリンの腕前を誇っていたが、不慮の事故で負った怪我が原因でバイオリンを弾けなくなってしまった。
現在は音楽プロデューサーや会社の経営などをしており、歌えなくなった奏叶を支えた恩人でもある。
グラヴィータ・ヌッラとの戦いからしばらくが経ち、負った傷も完全に癒えた。その後に現れた丸い物を変形させる能力を持つモルビド・ヌッラを倒して以降は、ヌッラが現れることもなく、平和な日々が続いていた。
「奏叶さん、おはようございます」
そんなある日の朝、学校に登校してきた俺は校門の前で同級生の葉月恋と顔を合わせる。
「おはよう、恋。あれ?」
恋に挨拶を返した俺は、彼女に対して何か違和感を覚えた。
「どうかしましたか?」
その違和感の正体を探るため恋の全身をよく見てみると、俺はその正体に気づいた。
「あ、普通科の制服だ」
恋は音楽科の生徒であり、普段は白を基調とした音楽科の制服を着ている。しかし、今日はかのんたちと同じ青を基調とした普通科の制服に身を包んでいるのだ。
「え、もしかして恋も普通科に?」
普通科に転科するというのは、千砂都という前例がある。まさか恋まで普通科に転科することになったのではと驚いていたが、恋は微笑んで首を横に振る。
「いえ、そういうわけでは…科によって制服で区別するのではなく、自由に選べるようにした方がいいと理事長から提案がありまして…」
なるほど、そういうことか。
学園祭の一件を経て、この学校はいい意味で変わった。音楽に精通しているという強みは変えずに、音楽科と普通科、両生徒が満足できるような学校となるために。
その一環として、制服も自由に選べるようになったのだろう。
「ってことは、俺も音楽科の制服が着れるようになったってことだね」
「もちろんです。奏叶さんなら音楽科の制服もきっとお似合いになりますよ」
「あ、でも音楽科にはまだ男子生徒いないけど、制服ってあるの?」
結ヶ丘高等学校に在籍している男子生徒は、現状たったの三人。そのうちの一人が俺で、もう二人は隣のクラスで全員が普通科の生徒なのだ。
「ありますよ。音楽科の男子生徒を募集していなかったというわけではありませんし…」
どうやら男子で音楽科に合格した生徒がいなかっただけで、音楽科の男子生徒もちゃんと募集していたらしい。
「それから、これはまだ内密なのですが…」
恋はそう前置きすると、俺に近づき潜めた声で言う。
「来週、音楽科に男子生徒が転校してくるみたいですよ」
「そうなの!?」
これは朗報だ。学校全体でも少なかった上、音楽科では初めての男子生徒がやってくるなんて。
「なんでも、ギターの腕前がすごい方らしくて…」
「へー…そうなんだ」
ギターっていうと、アイツを思い出しちゃうな…
元気にしてんのかな…
なんて会話をしながら校舎に向かって歩いていた俺と恋だが、その道中で何やら人集りができている場所を見つける。
何事かと思っていると、恋たちがいつも練習している屋上に、大きくカラフルな文字で【Love Live!】と書かれた横断幕が掲げられていた。
「なんですかあれは!?」
そして、その屋上には人影が…
「始まりマス…!スクールアイドルの頂点を決める大会、"ラブライブ!"……"ラブライブ!"ですゥ!!」
屋上にひとり立つ
そして時は流れ、放課後。
先日遭遇したピリオドの幹部─"グラヴィータ"について諸々の話をするため、俺はプロテクションベースにやって来ていた。
「てな感じで、スクールアイドル好きなクゥクゥは一段と熱が入ってるみたいで」
「"ラブライブ!"といえば、スクールアイドルの全国大会だからな。スクールアイドル大好きな子なら、特に熱が入っても仕方ないだろう」
アンティークショップ・ソナーレの隠し扉の中にあるエレベーターの前で、プロテクション特別捜査官である刑事─九重誠さんと会い、共にエレベーターに乗り込みながら今朝の巨大横断幕騒動の話をしていた。
俺がプロテクションに協力するようになって半年以上が経ち、最初は固い印象があった九重さんや鼓野さんとも、このように些細な世間話もするような関係に変化していた。とはいえ、やはり俺に対しては一線引いているような感じがするのには、変わりはないが…
「そういえば、今は冬季大会の一回だけなんだったな」
「え、前は違ったんですか?」
「あぁ。"ラブライブ!"第一回大会の時からしばらくは、夏と冬の年二回開催だった」
「へぇ…意外と詳しいんですね」
なんか勝手なイメージだけど、九重さんはこういったことには疎いと思っていた俺は、そんな彼からの"ラブライブ!"についての説明に思わず感心してしまった。
到着したエレベーターを降り、通路の先にあるプロテクションベースのメインルームに入ると、そこには既に鼓野さん、狼谷さん、そして長官である政宗さんの姿があった。
「すみません。お待たせしました」
「いや、気にすることはない。まだ指定した時間よりも10分早いからね」
九重さんの言葉に政宗さんが答えた。
そして、俺と九重さんも席につき、会議が始まる。
「では、早速だが話を始めよう」
今回の主な議題は、俺がグラヴィータとの戦いで得た情報の共有だ。
俺はグラヴィータ・ヌッラとの戦闘を脳内で振り返りながら、要点を話し出した。
まずは、グラヴィータ・ヌッラの能力について。これまでのヌッラに比べて元の戦闘力が段違いで高いことに加え、攻撃から防御にまで汎用できる重力を操る能力。その強力すぎる能力に、俺はかつてないほどのピンチに陥った。
次に、それほどグラヴィータ・ヌッラが強力な理由。それが彼の階級にある。
俺が今まで戦ってきた禍々しい赤茶色のヌッラは、"ランコーレ"と呼ばれる階級だ。負の感情がレタルジアディスクに結びつくことで人間が変貌する特殊な能力を持つヌッラ。
そして、グラヴィータ・ヌッラの階級は"オディオ"。負の感情がより増幅することで、能力もより洗練され強力になる。戦闘力も上がり、総合してランコーレよりも一段階進化した力を持つヌッラ。それがオディオらしい。
そんなオディオの力に進化した者が、ピリオドの幹部になるそうだ。
「やはり、ヌッラには進化した姿があったか…」
俺の説明を聞いた政宗さんの言葉に、鼓野さん、九重さん、狼谷さんも顔を顰めていた。ヌッラに進化した姿があるというのは、既に仮説が立てられていたようだ。以前九重さんともそんな会話をしたことがある。
「グラヴィータの話では、そのオディオというヌッラは共通して銀色の体のようです」
「っ!それじゃあやはり…」
オディオクラスのヌッラは銀色の体を持つと聞き、九重さんは俺に視線を向けて反応を示した。
「はい。俺の歌声を奪ったヌッラも、オディオ…ピリオドの幹部ということになります」
以前アンシャ・ヌッラの事件を解決した時から、俺の歌声を奪ったヌッラは今までのヌッラよりも強いんじゃないか、そう九重さんと話していた。
『でも…俺の歌声を奪ったヌッラの体は、銀色に輝いていました。恐らく、あのヌッラは、今まで戦ってきたどのヌッラよりも強敵だと俺は考えています』
『君のその考えは正しいだろう。私も正確な情報は知らないが、ヌッラには更に進化した姿があると聞いたことがある』
つまり、歌声を取り戻すためには、幹部であるそのヌッラを倒さないといけない。完膚なきまでに叩きのめされたグラヴィータ・ヌッラと同格の相手を…
「俺も、もっと強くならないと…」
俺の呟きを耳にした政宗さんは、強く頷いて立ち上がった。
「丁度いいタイミングだ。君に紹介したい人がいる」
「え?」
〜〜〜〜〜
時を同じくして、放課後。
結ヶ丘高等学校スクールアイドル部の部室に、澁谷かのん、唐可可、平安名すみれ、嵐千砂都、葉月恋が集まっていた。
そこで話されている議題は、今朝の横断幕騒動にもあった"ラブライブ!"について。最初は部活動の全国大会ぐらいの認識だった可可以外の面々だったが、恋が言った大会で結果を残し廃校を阻止した学校があるという点や、可可がプロジェクターで映した大会の会場である神宮競技場の規模を見たことで、全員がどれだけ影響力のある大会なのかを実感していた。
「今年の"ラブライブ!"は難関デス!スクールアイドル人気は留まるトコロを知らず、毎年参加学校ハ史上最多を更新し続けてイルノデス。その中で夢のステージに辿り着ける学校はほんっの一握り…!」
スクールアイドルの大ファンであり、この中で最もそれについての知識を持つ可可は、"ラブライブ!"という大会の厳しさをよくわかっている。
「でも、私たちのレベルってそんなに低くはないと思うよ」
かのんの抜群の歌唱力、千砂都の都大会で優勝するレベルのダンス、恋がやってきたフィギュアスケートとピアノ、すみれの幼少の頃からの豊富なステージ経験、そして可可の熱い想い。
「優勝はわからないけど、予選ぐらいは…」
可可を宥めようと千砂都とかのんが声をかけるが、当の可可はワナワナと肩を震わせる。
「甘すぎデス!!!」
そう声を張り上げた可可は勢いよく立ち上がり、興奮のあまり母国語を発しながら地団駄を踏んだ。
「とりあえずエントリーはシマスが、突破スルニハ素晴らしい曲と圧倒的なパフォーマンスが必要デスカラそのつもりで!」
「新曲じゃなきゃいけないんだよね?じゃあかのんちゃんが詩を書いて…」
そこまで言って、千砂都の視線が恋を捕える。
「
「せっかく5人になったんだし、そっちの方が新しくていいと思う」
「まあ、できないことはないと思いますが」
「パァッと華やぐような曲でお願いよ」
かのんやすみれからも後押しされ、恋が作曲を担当することに。そこで恋はちょうど良きタイミングだと思い立ち、とある話を切り出す。
「あの…
「なになに?聞かせて」
5人の中で一番加入したての恋からの提案ということもあり、かのんは嬉しそうに反応を返す。
「先程も言っていたように、歌はかのんさん、ダンスは千砂都さんと引っ張ってくれる人はいますが…今後よりレベルアップを目指すなら、
「確かに、それは私も思ってた。ダンスは基本的に私が見てるけど、5人で合わせたところは映像でしか確認できないし…」
「うん。歌も撮影したのを後から確認してるけど、ライブで実際に聴いてもらうのは生の歌声だもんね」
他の面々から同意を得られた恋だが、これはあくまで提案に関しての前置きに過ぎない。彼女は加速している鼓動を落ち着けるように一呼吸置いてから、自身の考えを口にする。
「ですので…奏叶さんに、それをお願いしてみませんか?」
そう発言した恋の脳裏に浮かぶのは、この発想が浮かんだきっかけとなった出来事。先日部室で個人練習をしていた際、たまたま通りかかった奏叶にアドバイスをもらったこと。
そして、その後の帰路でたまたま出会った、奏叶が世話になっているという元プロバイオリニストの八雲正道との会話である。
───
──
─
「少し、お聞きしたいことがありまして…八雲さんは、奏叶さんが歌えなくなった理由を、ご存知でしょうか…?」
「……うん、知っているよ。でも、それは教えてあげられないかな」
恋からの問いに困ったように笑いながら正道が答えた。
「そっ、それはもちろんわかっています。
恋が知りたいことというのが自身の予想と反していたことに驚いた正道は、逡巡ののちに口を開く。
「…奏叶くんは、今だって本当は音楽に触れたいと思っているよ。今も、もう一度歌えるようになろうと必死だ」
「やっぱり…」
恋の脳裏に浮かぶのは、先程部室で話した奏叶の表情。諦めきれない、失ってしまったものへの寂寥感が溢れるようなその表情は、決して恋の勘違いではなかったのだ。
奏叶が歌手活動をしていたと知ってから、恋は改めて奏叶…もとい、"奏音"の歌を聴いた。そこで彼の歌声の素晴らしさ、歌に対する情熱を感じた上、先程の恋への的確なアドバイス。更には、奏叶自身がもう一度音楽に触れたいと願っていること。
そこまで知ってしまえば、恋の中で自身のやりたいことが明確に見えた。
「
その言葉が耳に届いた正道は目を見開いた。そんな彼の瞳に映るのは、真剣な眼差しの恋の姿。彼女のその気迫に正道が呆気に取られていたのも刹那、彼は満足げに口角を上げて頷いた。
「それはきっと、自分の歌を取り戻したいと願う彼にも、とても良い刺激となるはずだ。私からも、ぜひお願いしたい」
─
──
───
恋は奏叶が"奏音"だったと知っている。
しかし、他の4人はそれを知らない。
──さて、ここから皆さんをどう説得しましょう。説得の材料として、奥の手を入手してはきましたが…
恋がカバンの中にしまっているその奥の手に手を伸ばそうとした、その時だった。
「それいい!賛成!!」
無邪気な笑みを浮かべ、瞳を輝かせたかのんが二つ返事で賛同の意を示す。
「うん。私もいいと思う」
それに続いて千砂都からも賛成意見を受け、恋は自身の提案にも関わらず呆気に取られてしまう。
「
──奏叶さんの歌の実力を知らないのに。
そう続く言葉を発することはできない恋だが、他の面々はそれが二つ返事で賛同したことに対する疑問だと思ったようだ。
「奏叶くんには今まで何回も助けてもらってるし!」
「そんな奏叶くんなら、何も心配することはないよ!」
かのんと千砂都、幼馴染同士で顔を見合わせ頷き合う。
「私は加入する前、奏叶は既にアナタたちのマネージャーみたいなことしてるのかと思ってたしね」
自身がスクールアイドルに加入する直前、奏叶が何かとかのんたちに手を貸し、スクールアイドルに興味を示した自分のことも気にかけてくれたことから、すみれは奏叶がマネージャー的なことを務めているのだと思っていた。
「ククも異論はアリマセン。カナトさんナラ、きっと力になってクレマス」
"ラブライブ!"へのエントリーのためずっとスマホと睨めっこしていた可可も話はちゃんと聞いていたようで、異論なしと答える。
「って、私たちが全員賛成だったとしても、結局は奏叶くん本人が受けてくれるかなんだけどね…」
「ま、そこは今話しても仕方ないったら仕方ないわ。明日にでも、奏叶にお願いしてみましょ」
苦笑したかのんに、すみれは美しい金髪を靡かせながら優しく微笑む。
「みなさん…」
全員が賛同してくれたことにホッとした恋は、取り出そうとしていた一枚の書類をそっと鞄にしまい込んだ。
その書類は、恋が桜葉大翔に無理を言って借りた奏叶の音楽の授業の成績表。ヌッラの能力で歌声を奪われている奏叶は、授業だろうと例外なく歌うことはできない。
だが、音楽に関する知識までもが奪われたわけではない。奏叶の性質上、歌が好きで音楽活動をしていたとはいえ、プロとして活動するならと音楽に関する学びを怠ることはなかった。その時に培った知識は今も健在で、筆記ではかなりの好成績を収めていた。普通科とはいえ、"音楽に力を入れている結ヶ丘高等学校の音楽の授業"で、だ。
これはかのんたちへの良い説得の材料になると考えた恋は、音楽の担当教師である桜葉大翔に奏叶の音楽の成績表を貸してもらえないか打診した。しかし、他生徒の成績表を勝手に渡すことはできない。いくら母が花であるという理由から恋に弱い大翔であっても、それは流石に認められなかった。
ただ、これまで一人で抱え込みがちだった恋が自分を頼ってくれたということ。そして、恋が他人の成績を悪用するような人物ではないということ。更には理由が奏叶に歌を教えてもらうためと聞き、大翔は何かを懐かしむように目を細めた後、「仕方ねぇな…」と吐息と共に条件付きで奏叶の成績表を貸し出した。
その条件とは、かのんたちスクールアイドル部の面々以外には見せないこと、そして一時間以内に返すこと、ということらしい。
「桜葉先生に無理を言ってしまいましたが、その必要はありませんでしたね…」
しかし、成績表なんてなくても、奏叶がこれまで培ってきたかのんたちとの絆で、彼女たちはすぐに恋の提案を受け入れた。
自分が固く考えすぎていたと思い、恋は目を細めて微笑みを浮かべていた。
〜〜〜〜〜
政宗さんから紹介したい人がいると言われた俺は、鼓野さんの案内でプロテクションベースの地下三階までやってきた。
「ここって…研究室ですか?」
案内された部屋を見回すと、そこにはよくわからないデータが映し出されたパソコンやよくわからない機械などがあり、とにかくよくわからないが、何かの研究室だということだけはわかった。
「はい。ここはプロテクションベースの"ラボルーム"です。プロテクションの研究チームの所長さんが、先日からこちらでも研究しています」
プロテクションの研究チームでは、ステレオドライバーとエネルジアディスクをはじめとするライダーシステム、そしてヌッラについてなど、様々な研究を行っているらしい。ただ、このプロテクションベースのラボルームはあまり広くないため、ここで研究しているのは今から会う所長ひとりだけらしい。他の研究員の人たちは、別の場所にあるもっと大きな研究所で働いているそうだ。
「今まで音居さんに紹介できなかったのも、彼女がそっちの研究所にいることが多かったからですね」
彼女…ということは、その研究チームの所長は女性なのか。
「とある大きな開発がひと段落したため、これからはまた拠点をここに戻すそうです。戦いが本格化している今、ライダーシステムについてより専門的な知識を持つ人が、音居さんの近くにいた方がいいと思いまして」
確かに、と鼓野さんの説明に納得する。
仮面ライダームジカのこと、エネルジアディスクのこと、ヌッラのことと、今日までの戦いでなんとなくはわかってきたが、あくまでなんとなくだ。この前のグラヴィータ・ヌッラとの戦いのように、苦戦を強いられた時に知恵を借りられる人がいるのはとても心強い。
なんて思いながらラボルーム内を見回していると、ふとあることに気づく。
それにしても、綺麗に整頓された部屋だな…研究室ってもっとこう、資料とかが散乱してるイメージだったけど。
そう。この部屋の中に俺にはわからない複雑な機械や資料などがあることには変わりないが、そのどれもが綺麗に収納されている。掃除も行き届いており、整理整頓されている部屋だ。
なんてことを考えていると、研究室の奥、俺たちが入って来た扉と対角線上にある扉がガチャリと開いた。その瞬間、まるで花のような、ふんわりとした香りが鼻腔をくすぐる。
「あら、お待たせしてしまいましたわね」
入ってきた女性を目にして、俺は思わず驚いてしまった。その女性の姿が、あまりにも想像とかけ離れていたからだ。
唯一想像通りといえる点は、膝ぐらいまであるロング丈の白衣を身につけていることぐらいだろうか。
研究者と聞いて、つい勝手なイメージを持ってしまっていた。研究に没頭するあまり身なりに気を使わないタイプだとか、丸メガネをかけた偏屈そうな見た目だとか…
しかし、今目の前にいる女性は、俺のそんな想像とはかけ離れていた。
クルッと巻かれた美しく長いブロンドヘアーに、タレ目で可愛らしい瞳。髪型は大人っぽいのに可愛らしい童顔というギャップ、それでいてスラっと曲線美が感じられるスタイルに、身長は170cmほどの高身長。
「水浴びをしていましたら、遅くなってしまいましたわ」
そして上品な言葉遣い。
うん、やっぱり想像と違う。
研究者ってほら、「〜〜なのじゃ!」的な感じの喋り方だと思ってしまっていた。
てか…
「みっ、水浴び?」
「あぁ、シャワーのことです。彼女とても綺麗好きでして、自分のラボには絶対にシャワー室をつけてほしいって…」
困惑する俺に鼓野さんが説明を付け加える。
「紹介しますね。彼女は"
「はじめまして、音居奏叶です。高校一年生で、えっと…仮面ライダームジカです」
鼓野さんから紹介を受け、俺も簡単に自己紹介する。
すると、城ヶ崎さんはパァッと華やかな笑みで俺の手を両手で包み込み、ブンブンと上下に振った。
「ようやくお会いできましたわ!!」
「え?」
「あなたが、仮面ライダームジカの変身者ですのね!」
「えっと…」
「城ヶ崎さん、いきなりそんな勢いで言われると、音居さんが困っちゃいますよ」
目を輝かせて感極まっている城ヶ崎さんに、鼓野さんが苦笑して言う。
「おっと…失礼しましたわ」
その言葉で我に帰ったのか、城ヶ崎さんは「おほんっ」と喉の調子を整えるように咳払いをする。
「改めまして、城ヶ崎美羽と申します。ステレオドライバーやエネルジアディスクをはじめとするライダーシステム、それから、ヌッラなどピリオドに関する研究も行っておりますわ」
そう上品に自己紹介した城ヶ崎さん。そのひとつひとつの所作からも、彼女には優雅、典雅などといった言葉がぴったり当てはまるような気品のある人物だと感じた。
「いつまでも立ち話は失礼ですわね。どうぞ、かけてください」
城ヶ崎さんに促され、俺と鼓野さんは横並びに置かれた椅子にそれぞれ座る。そして、その対面にあるオフィスチェアに城ヶ崎さんも腰掛けた。
「今日来ていただいたのは、奏叶さまにご挨拶したかったというのも勿論あるのですが…」
奏叶"さま"!?
「ピリオドとの激しい戦いが続いていると聞いていますわ。そこで、奏叶さまが使っているステレオドライバーのメンテナンスチェックをさせていただけたらと思いまして」
「ぜひお願いします」
俺はステレオドライバーと持っているエネルジアディスク4枚を取り出し、城ヶ崎さんに渡す。
「まぁ…噂には聞いておりましたが、4枚もエネルジアディスクを覚醒させているなんて、流石ですわ」
ブルースカイ、スターライト、サンシャイン、ブロッサム、俺が覚醒させた4枚のエネルジアディスクを興味津々に凝視する城ヶ崎さん。
そんな彼女の様子を見て、俺はふとある疑問が浮かんだ。
「そういえば、この4枚のエネルジアディスクは俺の感情に共鳴して覚醒したんですよね?てことは、もし仮面ライダームジカに変身するのが俺じゃなかったら、全然違う力を使っていたかもしれないということですか?」
「その通りですわ。それどころか、奏叶さま以外が変身者だった場合は、"仮面ライダームジカではなかった"可能性が高いんですのよ?」
「え?」
「奏叶さまは仮面ライダーになれる条件は、既にお聞きになっておりますか?」
仮面ライダーになれる条件は、出会ったばかりの頃の鼓野さんから聞いた。確か…
「通常よりも強い音楽の力を秘めた人。それも、人々を護る、何かを叶えるといったような強い意志から引き出された音楽の力を…でしたよね?」
「その通りですわ。ただ、それはあくまで条件のひとつに過ぎませんの。他にも条件があるようなのですが、それはまだ私たちにも解析できていない部分も多いですわ」
「え…」
城ヶ崎さんの説明に疑問を持った俺だったが、それについて言及する前に再び彼女が話し出してしまう。
「仮面ライダーについては、
確かに、ヌッラ…ひいてはピリオドの活動が活発になっても、俺以外の仮面ライダーが現れないのはそれが理由なのだろう。この状況で、プロテクションが他の資格者を探していないとは考えられなかったが、その謎がようやく解けた気がした。
「だから
「じゃあ、たとえば…今後、仮面ライダーリコーダーとかが誕生するかもしれないってことですか?」
「ネーミングセンスはともかくとして、その可能性は十分にありますわね」
城ヶ崎さんは苦笑しながらもそう言った。
あれ…俺、今ちょっとバカにされた…?
「だから、奏叶さま以外の方が変身者だった場合はムジカではない別の仮面ライダーでしたし、エネルジアディスクが秘めた力も全く別のものだったはずですわよ」
俺が持つ4つのエネルジアディスクですら、それぞれ違う能力を宿している。だから、他の人が覚醒させたら全く別のエネルジアディスクが生まれること自体は容易に想像できていたが、まさか変身する仮面ライダーの力まで全く違うものになるんだな…
「ところで、ずっと気になっていたんですが…ひとつ、いいですか…?」
「もちろん。奏叶さまからの質問でしたら、なんだってお答えしますわ」
「今までの説明を聞いて、なんとなく思ったんですが…もしかして、仮面ライダーを創り出したのは、城ヶ崎さんではない人だったりするんですか?」
失礼に捉えられる質問でもあるため、俺は言葉に迷いながら恐る恐る聞いた。
しかし、どうしても気になってしまったのだ。仮面ライダーになるための条件でまだ解析できていない部分があったり、仮面ライダーについてわからないことだらけだと言っていたり、まるで彼女が開発する前から存在していたかのような発言に感じてしまった。
「……」
予想外の質問だったのか、城ヶ崎さんは何故か俺の隣に座る鼓野さんに視線を送った。俺は何かまずいことを聞いてしまったのかと不安になりつつ、隣の鼓野さんの様子を盗み見る。
「……」
視線を送られたことに気づいた鼓野さんは、優しく頷いた。しかし、そんな彼女の表情からは、どこか不安と儚さのようなものを感じた。
「……その通りですわ。奏叶さまが変身に使っているステレオドライバー…これを作ったのは、
「設計図、ですか?」
「はい。そして、ステレオドライバーの構造などを考案し、その設計図を制作したのは、我々が戦っているピリオドですの…」
「えっ…!?」
俺が今までピリオドのヌッラを倒すために使ってきたステレオドライバー。それを考案したのが、その敵であるピリオドだったなんて…
「続きは私から説明しますね」
すると、ここで鼓野さんが後の説明を引き受けて、城ヶ崎さんはステレオドライバーのメンテナンス作業を始めた。
「まだプロテクションが結成される前のことになりますが…今から6年ほど前のことです。ピリオドという謎の組織が暗躍し、ヌッラという怪物が存在するということが判明しました」
つまり、ピリオドという組織、そしてヌッラという怪物は、少なくとも6年以上前から存在していたということか…
「そんな危険な組織を野放しにはできませんが、そんな怪物と対抗するような力がない。そこで、とある刑事がピリオド内部に潜入捜査をすることになりました」
「じゃあ、その刑事さんは、今もピリオドに…?」
もしそうだとしたら、これからピリオドと戦っていく中で敵として現れた人が、実は味方だっていう可能性があるかもしれない。
そう思って俺が聞くと、鼓野さんは目を伏せて首を横に振った。
「潜入がバレてしまい、ピリオドに捕えられています」
「っ…」
「いえ…捕えられているというのは、あくまで私の希望的表現です。実際は潜入がバレて、捕まってからどうなったのかはわかりません…」
それはつまり、その人の生死が断言できないということ。その人が、既にこの世にいない可能性もあるということを意味していた。
「そして、その潜入捜査官が最後に我々に託したのが、ステレオドライバーの設計図とブランクエネルジアディスクだったんです」
ステレオドライバーが元々はピリオドによって設計された物なら、ヌッラと同じく人々を苦しめるために使用されるものだったのかもしれない。しかし、その力のおかげで今はピリオドと戦えているとは、なんとも皮肉な話だ。
それよりも…
「ということは、これからはヌッラ以外にも、ステレオドライバーを使って変身した別の仮面ライダーと戦う可能性もあるということですか?」
もしそうなれば事態はかなり深刻だ。強大な力、そして予測不能な特殊能力を持つ怪物であるヌッラだけでも相当厄介な相手だ。
そこに更に仮面ライダーまで敵として立ち塞がることになるのなら、今後も俺ひとりで戦い抜いて行くのはかなり厳しくなるだろう。
「その可能性がない、とは言い切れませんね…ただ、その潜入捜査官がステレオドライバーの設計図を持ち出す際に、組織に残っていたステレオドライバーに関する情報は全て消去したはずです。なので、ピリオドは現状ステレオドライバーを所持していない可能性は高いかと…」
「そうですか…」
不安が解消されたかと思い安堵した俺だったが、鼓野さんの次の発言により、それはすぐに打ち消されることになる。
「ですが、それはあくまでステレオドライバーの話…ピリオドがもし、他にもエネルジアディスクの力を使うための"何か"を開発していた場合は、もっと厄介なことになりかねませんが…」
「っ…」
そうか…あくまでステレオドライバーの情報を消去したというだけであって、その後ピリオドが他の強大な力を開発した可能性はあるということなのか…
これから巻き起こっていく戦いが、どれほど過酷なものになるのか…その未知なる現状に、俺は不安に駆られるのであった。
〜〜〜〜〜
─プロテクションベース・ラボルーム─
メンテナンスが終了したステレオドライバーを受け取った音居奏叶は、プロテクションベースを後にした。
そして、ラボルームに二人きりになると、城ヶ崎美羽はしゅんとした様子で鼓野志保に声をかけていた。
「奏叶さまにあの話をするような状況にしてしまい、申し訳ありませんでしたわ…」
「気にしないでください。むしろ、協力してくださっている音居さんにいろいろと隠している私が悪いですから…」
「そんな…志保さんは、奏叶さまが無茶をしないように言っていないだけなのでしょう?」
「……この半年、彼を近くでサポートしてきてわかりました。音居さんは責任感が強く、心根が優しすぎる。だからこそ、彼には伝えない方がいいと思いまして」
「そうですわね。
「これまで通り、音居さんには詳しい事情は伏せておくことにします。……」
自身の言葉にグッと頷いた美羽を見て、志保は再び重苦しい声音で言葉を発する。
「ピリオドに潜入していた刑事が、私の兄だということは…」
──次回『〜奏でるムジカは青空のソナタへ〜』
「奏叶くん、私たちに歌を教えてください!!」
恋の発案により、奏叶に歌を教えてほしいと頼み込むスクールアイドル部の面々。
「どうして、俺に…?」
突然持ちかけられた提案に、奏叶は歌えない今の自分に務まるのかと葛藤する。
そんな時、彼は一人の少年と出会う。その出会いによって、奏叶の心の奥底に眠っていた幼き日の想いが甦る。
「ボク、今はまだあんまりお歌上手じゃないけど…でも、大好きだから!!!」
『#34 青空を待ってる』
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『#33 新たな道筋』
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!!
お気に入り登録や感想、評価等いただけると大変励みになります。
もしよろしければ、よろしくお願いします!
次回『#34 青空を待ってる』は、11月7日20時に投稿予定です。
お楽しみに!
仮面ライダー作品を見たことがあるか
-
10作品以上見たことがある
-
3〜9作品見たことがある
-
1、2作品見たことがある
-
全く見たことがない